説明

高分子電解質膜の製造方法

【課題】 溶液キャスト法における塗膜の欠陥の発生が十分に低減され、外観が良好な高分子電解質膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】
高分子電解質と有機溶媒とを含む高分子電解質溶液を有機溶媒の蒸気圧+1.0kPaを越える圧力で減圧脱泡する脱泡工程と、脱泡工程後、高分子電解質溶液を支持基材に塗布する塗布工程とを備える高分子電解質膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、場合により「燃料電池」という)は、プロトン伝導膜と、一対の触媒層とからなる膜−電極接合体を基本単位として構成されている。燃料電池は、近年では、住宅用や自動車用等の用途における発電機としての実用化が期待されている。かかる燃料電池に対しては、長時間での運転が可能であること、すなわち、耐久性の向上が求められている。
【0003】
上記プロトン伝導膜は、プロトン伝導性の高分子電解質を含む高分子電解質溶液を用いて製膜する方法、いわゆる溶液キャスト法により、通常作製される。この溶液キャスト法とは、上記高分子電解質と溶媒とを含む高分子電解質溶液を支持基材上に塗布することで塗膜を形成せしめ、特定のキャスト温度で加熱処理して、溶媒を除去し、支持基材上にプロトン伝導膜を形成させた後、この支持基材を剥離等して除去する手法である。このような溶液キャスト法によるプロトン伝導膜(高分子電解質膜)の作製として、例えば、特許文献1には、上記塗膜の乾燥を特定条件で行うことにより、イオン伝導性及び吸水寸法安定性といった特性に優れた高分子電解質膜が得られることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−156622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この溶液キャスト法において、高分子電解質溶液を塗布して形成される塗膜には、使用する高分子電解質溶液を濾過等により異物を十分除去したとしても、塗布ムラ等の欠陥が生じることがある。このような塗膜から形成された外観異常を有する高分子電解質膜を用いて作製した燃料電池では、稼動時にリークが発生し、十分に高い耐久性が得られない傾向がある。そこで、燃料電池の耐久性をより一層向上するために、塗膜における欠陥の発生を低減し塗膜外観が良好である高分子電解質膜を作製することが求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶液キャスト法における塗膜の欠陥の発生が十分に低減され、外観が良好な高分子電解質膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、高分子電解質を有機溶媒に溶解して高分子電解質溶液を調製し、該高分子電解質溶液を所定の範囲の絶対圧で保持した後に塗膜を形成することで、塗膜における欠陥の発生(以下、場合により「塗膜の欠陥」という)を十分に低減し外観が良好な高分子電解質膜を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、高分子電解質と有機溶媒とを含む高分子電解質溶液を有機溶媒の蒸気圧+1.0kPaを越える圧力で減圧脱泡する脱泡工程と、脱泡工程後、高分子電解質溶液を支持基材に塗布する塗布工程とを備える高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【0009】
高分子電解質溶液を調製する際に気泡が混入することがある。この状態で高分子電解質溶液を支持基材に塗布すると、気泡部分が塗膜中に残存してしまい、その部分に塗膜形成されないことや膜厚が薄くなる等の塗布ムラが生じ易くなる。そこで、本発明者らは、高分子電解質溶液を調製後、減圧脱泡を行うことで気泡を除去し塗布ムラを低減することを試みた。しかし、気泡を効率よく除去するために減圧しすぎると有機溶媒も同時に除去されてしまい、高分子電解質が析出して凝集物を形成し易くなることが判明した。そこで、本発明者らは有機溶媒の蒸気圧に着目し、有機溶媒の蒸気圧+1.0kPaを越える圧力で減圧することで気泡を効率よく除去でき、かつ、有機溶媒の揮発を抑制できることを見出した。
【0010】
上記脱泡工程における圧力が絶対圧で80.0kPa以下であると、塗膜の欠陥を低減することができるという本発明の効果をより一層有効かつ確実に発現することができる。
【0011】
本発明の高分子電解質膜の製造方法において、脱泡を効率よく進める観点から、上記脱泡工程を15〜80℃で行うことが好ましい。
【0012】
また、本発明において、有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶液キャスト法における塗膜の欠陥が十分に低減され、外観が良好な高分子電解質膜の製造方法を提供することができる。また、上記高分子電解質膜を備えることで、耐久性に優れる燃料電池が作製可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の燃料電池の断面構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明の高分子電解質膜の製造方法は、高分子電解質と有機溶媒とを含む高分子電解質溶液を、有機溶媒の蒸気圧+1.0kPaを越える圧力で減圧脱泡する脱泡工程と、脱泡工程後、高分子電解質溶液を支持基材に塗布する塗布工程とを備えるものである。
【0017】
[高分子電解質]
まず、本実施形態の高分子電解質膜を構成する好適な高分子電解質について説明する。
【0018】
本実施形態に係る高分子電解質としては、イオン交換基を有するイオン性セグメントと、イオン交換基を実質的に有しない非イオン性セグメントとを有するブロック共重合体を含有することが好ましい。
【0019】
ここで、「イオン交換基を有するイオン性セグメント」とは、該セグメントを構成する構造単位1個当たりで、イオン交換基が平均0.5個以上含まれているセグメントであることを意味し、構造単位1個あたりで平均1.0個以上含まれているとより好ましい。
【0020】
一方、「イオン交換基を実質的に有しない非イオン性セグメント」とは、該セグメントを構成する構造単位1個当たりで、イオン交換基が平均0.1個以下であるセグメントであることを意味し、構造単位1個あたりで平均0.05個以下であるとより好ましく、当該セグメントにイオン交換基が皆無であるとさらに好ましい。上記ブロック共重合体は、典型的には、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとが、共有結合で結ばれた形態を備えるものであるが、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとが、適当な2価の原子又は2価の原子団で結ばれた形態でもよい。
【0021】
高分子電解質としては、主鎖構造にフッ素を含むナフィオンのようなフッ素系高分子電解質や、主鎖構造にフッ素を含まない炭化水素系高分子電解質の両方を適用できる。また、高分子電解質は、フッ素系のものと炭化水素系のものを組み合わせて含有してもよい。高分子電解質膜の耐熱性を向上する観点から、高分子電解質は、炭化水素系高分子電解質であることが好ましく、炭化水素系高分子電解質の中でも芳香族系高分子電解質であることがより好ましい。また、炭化水素系高分子電解質は従来のフッ素系高分子電解質に比較して安価であるという利点もある。好適な芳香族系高分子電解質としては、イオン性セグメントの主鎖に芳香環を有し、さらに芳香環を有する側鎖を有してもよく、主鎖の芳香環又は側鎖の芳香環の少なくとも1つにイオン交換基が直接結合しているものである。中でも、主鎖の芳香環に直接結合したイオン交換基を有する芳香族炭化水素系高分子電解質が、優れたイオン伝導性を発現することから好ましい。
【0022】
なお、上記炭化水素系高分子電解質とは、元素重量含有比で表してハロゲン原子が15質量%以下である高分子電解質をいう。炭化水素系高分子電解質は、従来一般的に使用されていたフッ素系高分子電解質と比較して安価であり、耐熱性に優れるという利点を有する。より好ましい炭化水素系高分子電解質とは、実質的にハロゲン原子を含有していないものであり、このような炭化水素系高分子電解質は燃料電池の作動時に、ハロゲン化水素を発生して、他の部材を腐食させたりするおそれが少ないという利点がある。
【0023】
炭化水素系高分子電解質としては、例えば、ポリイミド系、ポリアリーレン系、ポリエーテルスルホン系、ポリフェニレン系の高分子電解質が挙げられる。これらは、1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が組み合わせて含まれていてもよい。
【0024】
高分子電解質として、より具体的には、上記ブロック共重合体において、イオン性セグメントは、下記一般式(1a)で表されるセグメントを有することが好ましい。
【化1】

【0025】
式(1a)中、Arは、芳香環に直接結合したイオン交換基又は適当な炭化水素基を介して間接的に結合したイオン交換基を有する2価の芳香族基を示し、mは5以上の整数を示す。
【0026】
2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基が挙げられる。2価の芳香族基は、好ましくは2価の単環性芳香族基である。Arは、フッ素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基で置換されていてもよい。
【0027】
イオン交換基としては、カチオン交換基又はアニオン交換基のいずれでもよいが、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基(−OP(=O)(OH))、ホスホン酸基(−P(=O)(OH))、スルホニルイミド基(−SO−NH−SO−)等のカチオン交換基が好ましく、スルホン酸基がより好ましい。上記カチオン交換基は、部分的に、又はその全てが金属イオンなどで交換されて塩を形成していてもよいが、高分子電解質膜として使用する際には、実質的に全てのカチオン交換基が遊離酸の状態であることが好ましい。
【0028】
上記ブロック共重合体において、非イオン性セグメントは、下記一般式(1b)、(2b)又は(3b)(以下、場合により「(1b)〜(3b)」と略記する)でそれぞれ表されるセグメントを有することが好ましい。
【化2】

【0029】
式(1b)〜(3b)中、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar及びAr(以下、場合により「Ar〜Ar」と略記する)はそれぞれ独立に、イオン性官能基を有しない2価の芳香族基を示す。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル等のヘテロ芳香族基が挙げられる。2価の芳香族基は、好ましくは2価の単環性芳香族基である。これらの2価の芳香族基は置換基を有していてもよく、置換基としては、Arで例示した基と同様の基が挙げられる。
【0030】
また、Z及びZはそれぞれ独立に、カルボニル基又はスルホニル基を示し、X、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を示し、Yは単結合又は下記一般式(100)で表される基を示し、pは0〜2の整数を示し、q及びrはそれぞれ独立に1〜3の整数を示し、n1、n2及びn3はそれぞれ独立に5以上の整数を示す。
【化3】

【0031】
さらに、式(100)中、Ra及びRbはそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基を示し、RaとRbとは互いに結合して環を形成していてもよい。
【0032】
また、イオン性セグメントの繰り返し数m並びに非イオン性セグメントの繰り返し数n1、n2及びn3は、それぞれ独立に、5以上の整数を示し、5〜1000が好ましく、10〜500がより好ましく、10〜100が特に好ましい。繰り返し数がこの範囲である高分子電解質は、イオン伝導性と、機械強度及び/又は耐水性とのバランスに優れるため好ましく、各々のセグメントの製造自体も容易であるという利点もある。
【0033】
高分子電解質において、イオン伝導性を担うイオン交換基の導入量は、イオン交換容量で表して、2.0〜6.0meq/gであると好ましく、3.0〜5.0meq/gであるとより好ましい。高分子電解質のイオン交換容量が2.0meq/g以上であることにより、含水性が高く十分なイオン(プロトン)伝導性が得られるようになる。また、イオン交換容量が6.0meq/g以下であることにより、高分子電解質膜とした場合の耐水性が良好となる傾向にある。
【0034】
具体的に、好適なブロック共重合体としては、以下に示すイオン交換基を有する構造単位から選ばれる1種以上の構造単位を含むセグメント(イオン性セグメント)と、以下に示すイオン交換基を有しない構造単位から選ばれる1種以上の構造単位を含むセグメント(非イオン性セグメント)とからなるブロック共重合体が挙げられる。なお、両セグメント同士は直接結合している形態でもよく、適当な原子又は原子団で連結している形態でもよい。なお、ここでいうセグメント同士を結合する原子又は原子団の典型的なものとしては、2価の芳香族基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらを組み合わせてなる2価の基を挙げることができる。
【0035】
(イオン交換基を有する構造単位)
【化4】

【0036】
(イオン交換基を有しない構造単位)
【化5】

【0037】
上述した中でも、イオン性セグメントを構成する構造単位としては、上記一般式(1a)で表されるイオン性セグメントを構成し得る(4a−1)及び/又は(4a−2)を有するものであると特に好ましい。このような構造単位を有するイオン性セグメントを備える高分子電解質は優れたイオン伝導性を発現できるものであり、イオン性セグメントがポリアリーレン構造となるために化学的安定性も良好となる傾向にある。
【0038】
また、高分子電解質の分子量は、GPC分析によるポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000〜1000000であることが好ましく、15000〜600000であることが特に好ましい。こうすれば、十分なイオン伝導性が得られるようになる。
【0039】
上述のような高分子電解質としては、例えば、特開2005−126684号公報、特開2005−139432号公報、特開2007−177197号公報及び国際公開第2008/066188号パンフレットに準拠して得られるブロック共重合体が挙げられる。
【0040】
[高分子電解質膜]
次に、本実施形態に係る高分子電解質膜を作製する方法について説明する。高分子電解質膜は、上記高分子電解質を含む溶液を用いて製膜する方法(いわゆる溶液キャスト法)により作製することができる。この溶液キャスト法とは、上記高分子電解質と溶媒とを含む高分子電解質溶液を支持基材上に塗布し、特定のキャスト温度で加熱処理して、溶媒を除去する工程を備える方法である。溶液キャスト法は、高分子電解質膜製造として当業分野で、これまで広範に使用されている方法であり、工業的に特に有用である。
【0041】
具体的には、まず、上述の高分子電解質を、有機溶媒に溶解して高分子電解質溶液を調製する。この際、必要に応じて、その他の高分子、添加剤等の他の成分を添加してもよい。また、高分子電解質溶液中に高分子電解質の溶け残りや凝集物が存在する場合、撹拌したり、加圧又は減圧下で高分子電解質溶液を濾過したりする工程を必要に応じて加えることもできる。また、該高分子電解質溶液に不溶物等の異物が含有されている場合は、例えば、平均孔径0.1〜50μmのフィルターを用いたろ過手段により、異物を除去することもできる。
【0042】
次に、高分子電解質溶液を、有機溶媒の蒸気圧+1.0kPaを越える圧力で減圧脱泡する。なお、脱泡工程における圧力の上限は、大気圧(101.3kPa)未満である。より塗膜の欠陥を低減できることから、脱泡時の圧力は絶対圧で80kPa以下であることが好ましく、50kPa以下であることがより好ましい。減圧脱泡時の絶対圧が有機溶媒の蒸気圧+1.0kPa以下では脱泡時に有機溶媒が除去され、高分子電解質の一部が析出して欠陥の原因となる凝集物を形成し易くなり、101.3kPa以上では脱泡が効率よく進行し難くなる。また、高分子電解質溶液からの脱泡を効率よく進めるために、脱泡工程は15〜80℃の温度範囲で行うことが好ましく、15〜60℃で行うことより好ましい。また、このような減圧脱泡を行った後に、上述したような濾過手段による異物除去を行ってもよい。
【0043】
脱泡後、常圧に戻した高分子電解質溶液を、ガラス基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の支持基材上に流延塗布(キャスト製膜)し、高分子電解質膜中間体を形成する。そして、50〜90℃で加熱処理して、該高分子電解質膜中間体から溶媒を除去し、水系溶媒で洗浄して高分子電解質膜に転化させて支持基材上に高分子電解質膜を形成する。また、場合によって、得られた高分子電解質膜を適当な酸性水溶液に接触させるという酸処理を行ってもよい。酸処理には、塩酸や硫酸といった強酸の水溶液(濃度0.5〜10規定程度)が使用される。酸処理後は、高分子電解質膜を十分水洗することが好ましい。このようにして高分子電解質膜を支持基材上に形成させた後、支持機材を剥離等によって除去することで、高分子電解質膜が得られる。
【0044】
上記有機溶媒は、高分子電解質が溶解可能であり、その後に除去し得るものであれば、特に制限されない。溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)及びγーブチロラクトン等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。溶媒は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることもできる。中でも、DMSO、NMP、DMF、DMAc、γーブチロラクトン又はこれらから選ばれる2種以上からなる混合溶媒は、高分子電解質の溶解性が高く、上記脱泡工程における圧力及び温度条件で著しく揮発蒸散しないので、好ましく使用される。
【0045】
高分子電解質膜の厚みは、特に制限されないが、燃料電池用プロトン伝導膜(隔膜)としての実用的な範囲で1〜300μmが好ましく、5〜100μmがより好ましく、5〜50μmがさらに好ましい。膜厚が1μm以上の膜では実用的な強度が優れるため好ましく、300μm以下の膜では膜抵抗自体が小さくなる傾向があるので好ましい。膜厚は、高分子電解質溶液の濃度及び支持基材上の塗膜の塗布厚により制御できる。
【0046】
また、膜の各種物性改良を目的として、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等の添加剤を添加して、高分子電解質溶液を調製してもよい。このような添加剤を使用する場合は、該添加剤も高分子電解質溶液に十分溶解するものであることが好ましい。さらに、燃料電池用途においては水管理を容易にするために、無機又は有機の微粒子を保水剤として添加することも知られている。ただし、このような保水剤の使用は、塗膜の欠陥を助長させないようにして、その種類及び使用量を調整する必要がある。また、このようにして得られた高分子電解質膜に関し、その機械的強度向上等を目的として、電子線・放射線等を照射するといった処理を施してもよい。
【0047】
[燃料電池]
次に、好適な実施形態の燃料電池について説明する。この燃料電池は、上述した実施形態の高分子電解質膜を備えるものである。このような燃料電池は、耐久性に十分に優れるものであり、長時間稼動することが可能となる。
【0048】
図1は、本実施形態の燃料電池の断面構成を模式的に示す図である。図1に示すように、燃料電池10は、上述した好適な実施形態の高分子電解質膜からなる高分子電解質膜12(プロトン伝導膜)の両側に、これを挟むように触媒層14a,14b、ガス拡散層16a,16b及びセパレータ18a,18bが順に形成されている。高分子電解質膜12と、これを挟む一対の触媒層14a,14bとから、膜−電極接合体(以下、「MEA」と略す)20が構成されている。
【0049】
高分子電解質膜12に隣接する触媒層14a,14bは、燃料電池における電極層として機能する層であり、これらのいずれか一方がアノード電極層となり、他方がカソード電極層となる。かかる触媒層14a,14bは、触媒を含む触媒組成物から構成されるものであり、上述した高分子電解質を含むものであると更に好適である。
【0050】
触媒としては、水素又は酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、例えば、貴金属、貴金属合金、金属錯体が挙げられる。なかでも、触媒としては、白金の微粒子が好ましく、触媒層14a,14bは、活性炭や黒鉛等の粒子状又は繊維状のカーボンに白金の微粒子が担持されてなるものであってもよい。
【0051】
ガス拡散層16a,16bは、MEA20の両側を挟むように設けられており、触媒層14a,14bへの原料ガスの拡散を促進するものである。このガス拡散層16a,16bは、電子伝導性を有する多孔質材料により構成されるものが好ましい。例えば、多孔質性のカーボン不織布やカーボンペーパーが、原料ガスを触媒層14a,14bへ効率的に輸送することができるため、好ましい。
【0052】
これらの高分子電解質膜12、触媒層14a,14b及びガス拡散層16a,16bから膜−電極−ガス拡散層接合体(MEGA)が構成されている。このようなMEGAは、例えば、以下に示す方法により製造することができる。すなわち、まず、高分子電解質を含む溶液と触媒とを混合して触媒組成物のスラリーを形成する。これを、ガス拡散層16a,16bを形成するためのカーボン不織布やカーボンペーパー等の上にスプレーやスクリーン印刷方法により塗布し、溶媒等を蒸発させることで、ガス拡散層上に触媒層が形成された積層体を得る。そして、得られた一対の積層体をそれぞれの触媒層同士が対向するように配置し、これらの間に高分子電解質膜12を配置して、これらを圧着する。こうして、上述した構造のMEGAが得られる。なお、ガス拡散層上への触媒層の形成は、例えば、所定の基材(ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等)の上に触媒組成物を塗布・乾燥して触媒層を形成した後、これをガス拡散層に熱プレスで転写することにより行うこともできる。
【0053】
セパレータ18a,18bは、電子伝導性を有する材料で形成されており、かかる材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。かかるセパレータ18a,18bは、図示しないが、触媒層14a,14b側に、燃料ガス等の流路となる溝が形成されていると好ましい。
【0054】
そして、燃料電池10は、上述したようなMEGAを、一対のセパレータ18a,18bで挟み込み、これらを接合することによって得ることができる。
【0055】
なお、本発明の燃料電池は、必ずしも上述した構成を有するものに限られず、その要旨を逸脱しない範囲で適宜異なる構成を有していてもよい。例えば、上記燃料電池10は、上述した構造を有するものを、ガスシール体等で封止したものであってもよい。さらに、上記構造の燃料電池10は、直列に複数個接続して、燃料電池スタックとして実用に供することもできる。そして、このような構成を有する燃料電池は、燃料が水素である場合は固体高分子形燃料電池として、また燃料がメタノール水溶液である場合は直接メタノール型燃料電池として動作することができる。
【0056】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
[高分子電解質の合成]
国際公開第2008/066188号パンフレットに記載の方法に従い、下記化学式(11)で表される繰り返し単位を有するブロック共重合体の高分子電解質(BCP−1)を合成した。なお、式(11)中、n及びmはそれぞれのブロックを構成する繰り返し構造のブロック共重合体中の重合度を示す。
【0059】
(合成例1)
アルゴン雰囲気下、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、ジメチルスルホキシド(DMSO)142.5質量部、トルエン55.6質量部、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム5.7質量部、末端クロロ型である下記化学式(10)で表されるポリエーテルスルホン(住友化学製、商品名:スミカエクセルPES5200P)2.1質量部、2,2’−ビピリジル9.3質量部を入れて攪拌した。その後バス温を100℃まで昇温し、減圧下でトルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水した後、65℃に冷却した。次いで、これにビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)15.4質量部を加え、70℃で5時間攪拌した。
【化6】

【0060】
放冷後、反応液を大量のメタノールに注ぐことによりポリマーを析出させ濾別した。その後、6mol/L塩酸水溶液による洗浄・濾過操作を数回繰り返した後、濾液が中性になるまで水洗を行い、減圧乾燥することにより目的とする下記化学式(11)で表される構造を有する高分子電解質を得た。得られた高分子電解質の分子量は、Mn109000、Mw204000であった。
【化7】

【0061】
[高分子電解質膜の作製]
(実施例1)
合成例1で得られた高分子電解質BCP−1をガラス容器に入れ、濃度が8.5質量%となるようにDMSOに溶解して高分子電解質溶液を調製した。これを高分子電解質溶液(A)とする。
【0062】
上記高分子電解質溶液(A)が入ったガラス容器を23℃に保ち、圧力調整器を備えた減圧容器内に入れ、絶対圧20kPaで脱泡を行った。目視で気泡が無くなるまで十分に脱泡した後、減圧容器内に窒素を注入し常圧まで戻した。
【0063】
次いで、脱泡後の高分子電解質溶液を支持基材である巾300mmのPETフィルム(東洋紡績社製、E5000グレード)にスロットダイを用い連続的に流延塗布した。その後、熱風ヒーター乾燥炉(設定温度90℃、乾燥炉全体の温度分布は88〜90℃)へと搬送し溶媒を除去して、高分子電解質膜中間体(膜厚10μm)を形成させた。次に、上記高分子電解質膜中間体が形成された支持基材を2N硫酸に2時間浸漬した後、水で2時間洗浄し、更に常温乾燥した後、支持基材から剥離することで高分子電解質膜を得た。
【0064】
(実施例2)
絶対圧5.0kPaに変更して脱泡を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い高分子電解質膜を得た。
【0065】
(実施例3)
絶対圧3.6kPaに変更して脱泡を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い高分子電解質膜を得た。
【0066】
(実施例4)
絶対圧1.3kPaに変更して脱泡を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い高分子電解質膜を得た。
【0067】
(比較例1)
絶対圧0.4kPaに変更して脱泡工程を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い高分子電解質膜を得た。
【0068】
(比較例2)
上記高分子電解質溶液(A)が入ったガラス容器を64℃に保ち、圧力調整器を備えた減圧容器内に入れ、絶対圧0.2kPaで脱泡を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、高分子電解質膜を得た。
【0069】
<高分子電解質膜の外観評価>
実施例及び比較例で得られた高分子電解質膜について、クレーター状の未塗工部(塗布ムラ)等の欠陥の有無を目視により検査した。高分子電解質膜に、欠陥が無い場合を「A」、1個存在していれば「B」、2〜5個存在していれば「C」、6個以上存在していれば「D」とした。評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から、本発明の製造方法により、塗膜の欠陥の発生を十分に低減し、外観が良好な高分子電解質膜を作製できることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
10…燃料電池、12…高分子電解質膜、14a,14b…触媒層、16a,16b…ガス拡散層、18a,18b…セパレータ、20…膜−電極接合体(MEA)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質と、有機溶媒とを含む高分子電解質溶液を、前記有機溶媒の蒸気圧+1.0kPaを越える圧力で減圧脱泡する脱泡工程と、
前記脱泡工程後、高分子電解質溶液を支持基材に塗布する塗布工程と、
を備える、高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記圧力が絶対圧で80.0kPa以下である、請求項1記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記脱泡工程を15〜80℃で行う、請求項1又は2記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高分子電解質膜の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−192332(P2010−192332A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37043(P2009−37043)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】