説明

高分子電解質膜の製造方法

【課題】有機溶媒を必要としない、または、使用有機溶媒量を削減可能な高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【解決手段】Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する高分子電解質を、含水率が70重量%以上の溶媒に溶解させて高分子電解質溶液を得る工程と、該高分子電解質溶液を基板上に流延して、流延した高分子電解質溶液を乾燥させるキャスト工程とを有することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質膜は固体高分子形燃料電池に用いられている。固体高分子形燃料電池(以下、「燃料電池」と略記することがある。)は、水素と酸素との化学的反応により発電させる発電装置であり、次世代エネルギーの一つとして電気機器産業や自動車産業等の分野において大きく期待されている。
【0003】
高分子電解質膜の製造方法としては、例えば、炭化水素系高分子電解質を、有機溶媒に溶解した後、基板に流延し乾燥させ、水などで洗浄して膜中に残存する有機溶媒を除去する方法が知られていた(例えば、特許文献1参照。)。また、スルホン酸基を有するフッ素系高分子電解質を、アルコールに均一分散させた後、基板に流延し乾燥させ、溶媒を除去する方法が知られていた(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−213903号公報
【特許文献2】特開平6−44982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の高分子電解質膜の製造方法においては、有機溶媒蒸気および有機溶媒を含む排水が多量に発生し、その処理に膨大なコストと手間がかかった。
【0006】
このような状況下、本発明の目的は有機溶媒を必要としない、または、使用する有機溶媒量を削減可能な高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の事情に鑑み、高分子電解質膜の製造方法について鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は[1]を提供するものである。
【0008】
[1]下記Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、下記Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する高分子電解質を、含水率が70重量%以上の溶媒に溶解させて高分子電解質溶液を得る工程と、該高分子電解質溶液を基板上に流延して、流延した高分子電解質溶液を乾燥させるキャスト工程とを有することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。

Sa群:



Wa群:


(式中、Mは、水素イオンを除く対カチオンを表す。Mが複数存在する場合、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。*は高分子電解質中の炭素原子に結合する。Aは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【0009】
本発明は、前記[1]に係る好適な実施態様として、下記の[2]〜[11]を提供するものである。
【0010】
[2]前記高分子電解質が、炭化水素系高分子電解質であることを特徴とする[1]に記載の高分子電解質膜の製造方法。
[3]上記キャスト工程の後に得られる高分子電解質膜に、酸を反応させる酸処理工程を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の高分子電解質膜の製造方法。
[4]下記式(1)および(2)の関係を満たす高分子電解質を用いることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
40≦[2×(Sa)−Wa]≦80 式(1)
4<Sa≦8 式(2)
(式中、Sa値は、高分子電解質1g中の上記Sa群から選ばれる基の合計のミリモル数を表し、Wa値は、高分子電解質1g中の上記Wa群から選ばれる基の合計のミリモル数を表す。)
[5]下記式(3)および(4)の関係を満たす高分子電解質を用いることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
50≦[2×(Sa)−Wa]≦78 式(3)
5<Sa≦7 式(4)
(式中、Sa値、Wa値は上記と同義である。)
[6](Sa1)と(Sa5)とからなる群より選ばれる1種以上のイオン交換基と、(Wa1)と(Wa5a)とからなる群より選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する高分子電解質を用いることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
[7]上記酸処理工程が、上記キャスト工程の後に得られる高分子電解質膜に、酸を反応させることにより、上記Sa群と上記Wa群とから選ばれるイオン交換基が有するMの1モル%以上100モル%以下を、水素イオンに変換する工程であることを特徴とする[3]〜[6]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
[8]上記Mが有機カチオンであることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
[9]上記Mが水素イオンを除く無機カチオンであることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
[10]上記無機カチオンがアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンから選ばれる1種以上であることを特徴とする[9]に記載の高分子電解質膜の製造方法。
[11]上記酸が、塩酸、硫酸および硝酸から選ばれる1種以上の酸であることを特徴とする[3]〜[10]のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高分子電解質膜の製造方法によれば、有機溶媒を必要としない、または、使用有機溶媒量を削減可能なため、高分子電解質膜の低コスト化や、環境負荷の軽減などが図れ、産業的価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の高分子電解質膜の製造方法は、上記Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、上記Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する高分子電解質を、含水率が70重量%以上の溶媒に溶解させて高分子電解質溶液を得る工程と、該高分子電解質溶液を基板上に流延して、流延した高分子電解質溶液を乾燥させるキャスト工程とを有することを特徴とする。Sa5、Sa6およびSa7は、それぞれ、Wa5a、Wa6aおよびWa7aと同一であるので、Sa5、Sa6およびSa7からなる群から選ばれる1種以上のイオン交換基を有する高分子電解質は、上記Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、上記Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する高分子電解質である。
【0014】
上記高分子電解質は、易廃棄性の点と製造コストの抑制の点から、炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。炭化水素系高分子電解質としては含有するハロゲン原子の含有率が15重量%以下のものが好ましく、10重量%以下のものがより好ましく、5重量%以下のものがさらに好ましい。
【0015】
上記炭化水素系高分子電解質の構造は特に限定されないが、芳香族系高分子電解質が例としてあげられる。芳香族系高分子電解質とは、芳香環を有する化合物から水素原子を2個取り去って得られる2価の芳香族残基を構造単位として直接または連結員を介して連結された高分子化合物のことを意味する。
【0016】
上記高分子電解質の数平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値で、十分な成膜性を得るためには、10000以上のものが好ましく、20000以上のものがより好ましい。また、溶媒溶解性を確保し、膜加工時の操作性を容易にするためには、150000以下のものが好ましく、100000以下のものが好ましい。
【0017】
上記高分子電解質としては、高分子電解質溶液を得る工程において水に溶けやすくし、酸化工程において不溶な高分子電解質膜を得るために、下記式(1)および(2)を満たすことが好ましい。
40≦[2×(Sa)−Wa]≦80 式(1)
4<Sa≦8 式(2)
より好ましくは、下記式(3)および(4)を満たす。
50≦[2×(Sa)−Wa]≦78 式(3)
5<Sa≦7 式(4)
(式中、Sa値は、高分子電解質1g中の下記Sa群から選ばれる基の合計のミリモル数を表し、Wa値は、高分子電解質1g中の下記Wa群から選ばれる基の合計のミリモル数を表す。なお、上記Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、上記Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とは、同一のものである場合、Sa値とWa値のそれぞれにカウントする。)
Sa群に記載のイオン交換基は、イオン解離性の強いものであり、Wa群に記載のイオン交換基は、イオン解離性の弱いものである。高分子電解質溶液を得る工程において水に溶けやすくし、酸処理工程において不溶な高分子電解質膜を得るために、Sa群に記載のイオン交換基と、Wa群に記載のイオン交換基とが高分子電解質中にバランスよく存在することが好ましい。
これらの式を満たすためには、合成時の仕込み量によって、イオン交換基の量を調整すればよい。
Sa値およびWa値は、後述の合成時の仕込み比により、決定することができる。モノマーの仕込み比が不明な場合、1H−NMRにより、高分子電解質中のイオン交換基の種類と量とを決定することにより求めることができる。
【0018】
上記Sa群のイオン交換基としては、耐久性を向上させるために、(Sa1)、(Sa5)が好ましく、上記Wa群のイオン交換基としては、耐久性を向上させるために、(Wa1)、(Wa5a)が好ましい。
【0019】
上記Mで表される水素イオンを除く対カチオンとしては、有機カチオン、水素イオンを除く無機カチオンがあげられる。複数のMは同一であっても、異なっていてもよい。但し、Mが2価以上の対カチオンである場合、さらにアニオンと結合していてもよい。膜洗浄後の排水中の有機物濃度を下げるためには、無機カチオンを用いることが好ましい。
【0020】
水素イオンを除く無機カチオンの代表例としては、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン等のアルカリ金属カチオン、マグネシウムカチオン、カルシウムカチオン等のアルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオン等があげられるがこれらに限定されるものではない。これらの中でも、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオンであることが好ましく、アルカリ金属カチオンであることがより好ましい。
【0021】
有機カチオンの代表例としては、第1級アンモニウムカチオン、第2級アンモニウムカチオン、第3級アンモニウムカチオン、第4級アンモニウムカチオンなどがあげられるがこれらに限定されるものではない。第1級アンモニウムカチオンとしては、メチルアミン、エチルアミン、1−プロピルアミン、2−プロピルアミン、n−ブチルアミン、2−ブチルアミン、1−ペンチルアミン、2−ペンチルアミン、3−ペンチルアミン、ネオペンチルアミン、シクロペンチルアミン、1−ヘキシルアミン、2−ヘキシルアミン、3−ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミンがプロトン化されたカチオンなどがあげられる。第2級アンモニウムカチオンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−1−プロピルアミン、ジ−2−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−2−ブチルアミン、ジ−1−ペンチルアミン、ジ−2−ペンチルアミン、ジ−3−ペンチルアミン、ジネオペンチルアミン、ジシクロペンチルアミン、ジ−1−ヘキシルアミン、ジ−2−ヘキシルアミン、ジ−3−ヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンがプロトン化されたカチオンなどがあげられる。第3級アンモニウムカチオンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−1−プロピルアミン、トリ−2−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−2−ブチルアミン、トリ−1−ペンチルアミン、トリ−2−ペンチルアミン、トリ−3−ペンチルアミン、トリネオペンチルアミン、トリシクロペンチルアミン、トリ−1−ヘキシルアミン、トリ−2−ヘキシルアミン、トリ−3−ヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミンがプロトン化されたカチオンなどがあげられる。第4級アンモニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラ(1−プロピル)アンモニウムカチオン、テトラ(2−プロピル)アンモニウムカチオン、テトラ(1−ブチル)アンモニウムカチオン、テトラ(2−ブチル)アンモニウムカチオン、テトラ(1−ペンチル)アンモニウムカチオン、テトラ(2−ペンチルアミン)アンモニウムカチオン、テトラ(3−ペンチル)アンモニウムカチオン、テトラ(ネオペンチル)アンモニウムカチオン、テトラ(1−シクロペンチル)アンモニウムカチオン、テトラ(1−ヘキシル)アンモニウムカチオン、テトラ(2−ヘキシル)アンモニウムカチオン、テトラ(3−ヘキシルアミン)アンモニウムカチオン、テトラ(シクロヘキシル)アンモニウムカチオンなどがあげられる。これらの中でも、好ましくは第1級アンモニウムカチオンであり、第1級アンモニウムカチオンの中でも、メチルアミン、エチルアミンがプロトン化されたカチオンが好ましい。
【0022】
高分子電解質としては、Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基を有する繰り返し単位と、Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基を有する繰り返し単位とを有することを含む高分子電解質、または、Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する繰り返し単位を含む高分子電解質が好ましい。
【0023】
Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基を有する繰り返し単位としては、下記式で表される構造単位であることが好ましい。即ち下記一般式(5a)〜(8a)

(式中、Ar1〜Ar9は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、直接および/または側鎖としての置換基中の芳香族炭素環にイオン交換性基を有する。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2の何れかを表し、X、X’、X''は互いに独立にO、Sの何れかを表す。Yは単なる結合若しくは置換基を有していても良いメチレン基を表す。pは0、1または2を表し、q、rは互いに独立に1、2または3を表す。Ar1およびAr2のうち少なくとも1種と、Ar3〜Ar6のうち少なくとも1種と、Ar7とAr8のうち少なくとも1種と、Ar9とは、それぞれSa群から選ばれる1種以上(但し、Sa5、Sa6およびSa7から選ばれる1種以上を除く)のイオン交換基を有する。)
【0024】
Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基を有する繰り返し単位としては、下記式で表される構造単位であることが好ましい。即ち下記一般式(5b)〜(8b)

(式中、Ar1〜Ar9は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、直接および/または側鎖としての置換基中の芳香族炭素環にイオン交換性基を有する。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2の何れかを表し、X、X’、X''は互いに独立にO、Sの何れかを表す。Yは単なる結合若しくは置換基を有していても良いメチレン基を表す。pは0、1または2を表し、q、rは互いに独立に1、2または3を表す。Ar1およびAr2のうち少なくとも1種と、Ar3〜Ar6のうち少なくとも1種と、Ar7とAr8のうち少なくとも1種と、Ar9とは、それぞれWa群から選ばれる1種以上(但し、Wa5a、Wa6aおよびWa7aから選ばれる1種以上を除く)のイオン交換基を有する。)
【0025】
Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する繰り返し単位としては、下記式で表される構造単位であることが好ましい。即ち下記一般式(5c)〜(8c)

(式中、Ar1〜Ar9は、互いに独立に側鎖としての置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、直接および/または側鎖としての置換基中の芳香族炭素環にイオン交換性基を有する。Z、Z’は互いに独立にCO、SO2の何れかを表し、X、X’、X''は互いに独立にO、Sの何れかを表す。Yは単なる結合若しくは置換基を有していても良いメチレン基を表す。pは0、1または2を表し、q、rは互いに独立に1、2または3を表す。Ar1およびAr2のうち少なくとも1種と、Ar3〜Ar6のうち少なくとも1種と、Ar7とAr8のうち少なくとも1種と、Ar9とは、それぞれSa群から選ばれる1種以上のイオン交換基を有する。また、Ar1およびAr2のうち少なくとも1種と、Ar3〜Ar6のうち少なくとも1種と、Ar7とAr8のうち少なくとも1種と、Ar9とは、それぞれWa群から選ばれる1種以上のイオン交換基を有する。Sa5、Sa6およびSa7は、それぞれ、Wa5a、Wa6aおよびWa7aと同一であるので、この場合、上記Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、上記Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とが同一であってもよい。)
【0026】
本発明におけるAr〜Ar9が有していてもよい置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数2〜20のアシル基、シアノ基、ニトロ基、ベンゾイル基があげられる。
【0027】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数1〜20のアルキル基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアルキル基があげられる。
【0028】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、イコシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアルコキシ基があげられる。
【0029】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアリール基があげられる。
【0030】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えばフェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアリールオキシ基があげられる。
【0031】
置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基としては、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の炭素数2〜20のアシル基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアシル基があげられる。
【0032】
ここで、本発明におけるAr〜Ar9としては、例えば、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、ナフタレン−1,4−ジイル基、ナフタレン−1,5−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基、ナフタレン−2,7−ジイル基、ナフタレン−2,3−ジイル基、ビフェニル−4,4’−ジイル基、ビフェニル−3,3'−ジイル基、p−テルフェニル−4,4''−ジイル基、2,2−ジフェニルプロパン−4',4''−ジイル基、フルオレン−2,7−ジイル基、フルオレン−3,6−ジイル基等の、炭化水素系の2価の芳香族基、カルバゾール−2,7−ジイル基、カルバゾール−3,6−ジイル基、チオフェン−2,5−ジイル基、ジベンゾチオフェン−2,7−ジイル基、フラン−2,5−ジイル基、ジベンゾフラン−2,7−ジイル基、ジベンゾフラン−3,6−ジイル基、ジフェニルアミン−4,4'−ジイル基、ジフェニルエーテル−4,4'−ジイル基のようなヘテロ原子を含むアリーレン基等を挙げることができる。
【0033】
中でも、Ar〜Ar9としては、置換されていてもよいフェニレン基又は置換されていてもよいビフェニルジイル基であることが好ましく、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、ビフェニル−4,4'−ジイル基、ビフェニル−3,3'−ジイル基等が特に好ましい。
【0034】
上記の一般式(5a)〜(8a)、(5b)〜(8b)、および、(5c)〜(8c)で示される繰り返し単位の全繰り返し単位に占める割合としては、得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性を確保する目的から、繰り返し単位の合計を100モル%としたとき、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。
【0035】
次に、本発明に用いることのできる高分子電解質を得る方法について説明する。
Sa群およびWa群にて示されるイオン交換基の導入方法は、予めSa群および/またはWa群にて示される基を有するモノマーを重合する方法であっても、Sa群および/またはWa群にて示される基を導入可能な部位を有するモノマーからプレポリマーを製造した後に、該プレポリマーにある、該導入可能な部位にSa群および/またはWa群にて示される基を導入する方法であってもよい。中でも、前者の方法であると、Sa群および/またはWa群にて示される基の導入量や、置換位置を的確に制御することができるので、より好ましい。
Sa群、Wa群にて示される基の導入率を調整する方法としては、上記Sa群および/またはWa群にて示される基を有するモノマーの仕込量を調整することで、Sa群および/またはWa群にて示される基をそれぞれ所望の導入率で得ることができる。
またSa群および/またはWa群にて示される基を導入可能な部位を有するモノマーの仕込量を調整してプレポリマーを製造した後に、該プレポリマーにある、該導入可能な部位にSa群およびWa群にて示される基を導入する方法によってもSa群および/またはWa群にて示される基をそれぞれ所望の導入率で得ることができる。
モノマーの重合方法としては、脱ハロゲン化重合、Suzuki重合、重縮合など、公知の方法を用いることができる。
【0036】
本発明における高分子電解質としては、単独重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体があげられる。単独重合体としては、例えば下記式(ea)〜(ek)いずれかの構造を有する。


【0037】
ランダム共重合体としては、例えば下記式(fa)〜(ff)の構造を有する。(式中「random」の表記は、複数の構造単位の共重合様式がランダム共重合体であることを意味するものであり、各構造単位の共重合比は省略して表記する。)

【0038】
ブロック共重合体としては、例えば下記式(ga)〜(gj)の構造を有する。(式中「block」の表記は、複数の構造単位の共重合様式がブロック共重合体であることを意味するものであり、各構造単位の共重合比は省略して表記する。)





【0039】
上記にあげた高分子電解質の中でも、(ea)、(ee)いずれかの構造を有することが好ましい。
【0040】
本発明で用いる溶媒は、含水率が70重量%以上であり、水または、水と補溶媒との混合溶媒である。使用する補溶媒の量を削減するためには、含水率が80重量%以上であることが好ましく、水を単独で用いる場合が最も好ましい。
該溶媒には、上記高分子電解質の溶解挙動に応じて、補溶媒を添加することが可能である。
補溶媒としては、水と十分混和し、上記高分子電解質を溶解可能であり、その後に除去し得る有機溶媒が用いられ、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテル類が好適に用いられる。
これら補溶媒は水と単独で混合して用いることもできるが、必要に応じて水と2種以上の補溶媒を混合して用いることもできる。中でも、ジメチルスルホキシドや、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N―メチルピロリドンがポリマーの溶解性が高く好ましい。
【0041】
本発明で用いる高分子電解質溶液は、上記高分子電解質の粉末を直接上記溶媒に溶解して得ることが好ましい。また、下記Pre−Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、下記Pre−Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する高分子電解質の粉末を、含水率70重量%以上のアルカリの水溶液に添加し、Pre−Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基を、Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基に、Pre−Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基を、Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基に変換し、そのまま該アルカリの水溶液に溶解させて、高分子電解質溶液を得てもよい。また、下記Pre−Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、下記Pre−Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する高分子電解質の粉末を、水中に懸濁させておき、アルカリを徐々に添加してもよい。但し、(Pre−Sa5)〜(Pre−Sa7)は、それぞれ(Pre−Wa5a)〜(Pre−Wa7a)と同じであるため、(Pre−Sa5)〜(Pre−Sa7)から選ばれる1種以上のイオン交換基を有する高分子電解質は、下記Pre−Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、下記Pre−Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する高分子電解質である。
上記アルカリとしては特に制限はないが、無機カチオンを有するアルカリ、有機カチオンを有するアルカリがあげられる。無機カチオンを有するアルカリとしては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等があげられ、有機カチオンを有するアルカリとしては、例えば、テトラ(n-ブチル)アンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等があげられる。これらは、1種で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0042】
Pre−Sa群:




Pre−Wa群:



(式中、*は高分子電解質中の炭素原子に結合する。Aは前記と同義である。Rは水素原子、アルキル基またはアリール基を表し、Rはアルキル基またはアリール基を表す。)
【0043】
上記アルキル基、アリール基の具体例としては、例えば、前述の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基があげられる。
【0044】
高分子電解質の溶解温度は溶媒の凝固点以上、沸点以下であれば特に制限はないが、溶媒の主成分である水の凝固点である0℃から、沸点である100℃以下であることが好ましい。溶解性を確保する観点から、10℃以上95℃以下であることがより好ましく、20℃以上90℃以下であることがさらに好ましい。
【0045】
高分子電解質溶液の濃度としては、キャスト工程での操作性を確保するために、1.0重量%以上40重量%以下であることが好ましく、1.5重量%以上30重量%以下であることがより好ましく、3.0重量%以上20重量%以下であることがさらに好ましい。なお、不溶分の混入があれば濾過などの操作を適宜行なってもよい。
【0046】
高分子電解質水溶液のpHとしては、該高分子電解質の水溶性を確保する点から、5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。
【0047】
次に、キャスト工程について説明する。キャスト工程とは、前記高分子電解質溶液を基板上に流延して、流延した高分子電解質溶液を乾燥させる工程である。
基板の種類としては耐水性、耐熱性、耐溶剤性のあるものなら特に制限はなく、ガラス板、PET、OPP(ポリプロピレン)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、カプトンなど公知のものを用いることができる。本発明で、乾燥とは、高分子電解質溶液中に含まれる溶媒量を低減することを意味する。乾燥させる際の温度としては、20℃以上200℃以下であることが好ましく、40℃以上180℃以下であることがより好ましく、60℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明にて製造される高分子電解質膜の厚みは、特に制限はないが3〜200μmが好ましく、5〜100μmが特に好ましい。3μmより薄いフィルムでは実用的な強度が十分でない場合があり、200μmより厚いフィルムでは膜抵抗が大きくなり電気化学デバイスの特性が低下する傾向にある。膜の厚みは高分子電解質溶液の濃度および基板上への塗布厚により制御できる。
【0049】
酸処理工程において、キャスト工程の後に得られる高分子電解質膜を、酸と反応させることにより、上記Sa群と上記Wa群とから選ばれるイオン交換基が有するMの1モル%以上100モル%以下を、水素イオンに変換することが好ましい。Mの30モル%以上100モル%以下を、水素イオンに変換することがより好ましく、Mの50モル%以上100モル%以下を、水素イオンに変換することがさらに好ましい。
【0050】
本発明で用いる上記の酸については特に制限はないが、強酸であることと安価であることから、塩酸、硫酸、硝酸から選ばれる1種以上の酸が好ましく用いられる。酸の濃度としては上記Mを十分に水素イオンに変換し、環境負荷を軽減するために、1モル/L以上12モル/L以下であることが好ましく、2モル/L以上10モル/L以下であることがより好ましい。高分子電解質膜を、酸に反応させる方法としては膜を酸に接触させる公知の方法を用いることができるが、なかでも酸に浸漬させる方法が好ましく用いられる。酸処理時の温度としては、水の融点から沸点の範囲内であることが好ましく、0℃以上100℃以下であることが好ましい。なかでも5℃以上90℃以下であることがより好ましく、10℃以上60℃以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0051】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明する。
【0052】
まず、試料の諸物性の測定方法、各合成例を以下に説明する。
【0053】
[LC面百純度(%)]
液体クロマトグラフィー (LC) により下記条件で測定し求めた。
・LC測定装置 島津製作所製 C−10A
・カラム L−Column ODS (5μm, 4.6mmφ×15cm)
・カラム温度 40℃
・移動相溶媒 A液:0.1重量%テトラブチルアンモニウムブロミド/水
B液:0.1重量%テトラブチルアンモニウムブロミド/(水/アセトニ トリル=1/9(重量比))
・移動相勾配 0→20min (A液: 70重量%→10重量%、B液: 30重量%→9 0重量%), 20→35min (A液: 10重量%、B液: 90重量%)
・溶媒流量 1.0mL/min
・検出法 UV (254nm)
【0054】
[分子量]
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の分析条件でポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0055】
GPC装置 TOSOH製 HLC8220型
カラム TOSOH製 TSK−gel GMHHR−M
カラム温度 40℃
移動相溶媒 ジメチルアセトアミド
(臭化リチウムを10mmol/dm3になるように添加)
移動相流量 0.5mL/min
【0056】
[プロトン伝導度測定(膜面方向)]
高分子電解質膜を1cm×5cmの長方形に切り出した。このプロトン伝導膜の長手方向と垂直になるように、白金平板電極を、膜の一方の面に接触させた。また、もう一つの白金平板電極を、前記の白金平板電極から膜の長手方向に1cm離れた位置で、前記プロトン伝導膜の長手方向と垂直になるように、膜のもう一方の面に接触させた。この膜と白金平板電極を、中央部に1cm角の開口部を持つテフロン(登録商標)板2枚で挟み込んで固定し、伝導度測定セルを作製した。このとき、テフロン(登録商標)板の開口部が白金平板電極間の膜の部分と重なるように固定した。この白金平板電極とインピーダンスアナライザーと接続し、伝導度測定セルを恒温恒湿槽に入れ、温度80℃、相対湿度90%、70%、又は50%の条件下で交流法にてプロトン伝導度を測定した。
【0057】
[プロトン伝導度測定(膜厚方向)]
交流法で測定した。1cm2の開口部を有するシリコンゴム(厚さ200μm)の片面にカーボン電極を貼った測定用セルを2つ準備し、これらをカーボン電極同士が対向するように配置し、前記2つのセルに直接インピーダンス測定装置の端子を接続した。
次いで、この2つの測定用セルの間に、上記方法で得られたイオン交換基をプロトン型に変換した高分子電解質膜をセットして、測定温度23℃で、2つの測定用セル間の抵抗値を測定した。
その後、高分子電解質膜を除いて再度抵抗値を測定した。そして、高分子電解質膜を有する状態と有しない状態とで得られた2つの抵抗値の差に基づいて、高分子電解質膜の膜厚方向の膜抵抗を算出した。得られた膜抵抗の値と膜厚から、高分子電解質膜の膜厚方向のプロトン伝導度を算出した。なお、高分子電解質膜の両側に接触させる溶液としては、1mol/Lの硫酸を用いた。
【0058】
[Sa値、Wa値の計算方法]
原料モノマー仕込みからの計算値で求めた。
【0059】
製造例1[2,5−ジクロロベンゼンホスホン酸ジエチルの合成]
アルゴン置換したフラスコに2,5−ジクロロ−1−ブロモベンゼン17.58g(77.8mmol)、亜リン酸ジエチル11.77g(85.3mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム4.58g(3.96mmol)、トリエチルアミン16.01g(158.2mmol)を入れ90℃に昇温した。90℃で12時間撹拌後、25℃まで放冷した。ジエチルエーテル250mLで希釈し、100mLの水を用い分液ロートにて洗浄した。得られたジエチルエーテル溶液を硫酸マグネシウムで乾燥し、硫酸マグネシウムを濾別した。ジエチルエーテルを減圧留去し、粗生成物を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて、粗生成物の精製を行い、2,5−ジクロロベンゼンホスホン酸ジエチルを 10.44g(収率:47.4%、LC面百純度:96.4%)得た。
1H−NMR(DMSO,270MHz):δ1.25(t,6H), 4.07(dq,4H), 7.66(d,2H), 7.94(d,1H).
【0060】
実施例1[ホスホン酸ポリアリーレン膜の製造]
アルゴン置換したフラスコに無水塩化ニッケル(8.10g、 62.5mmol)、ジメチルスルホキシド 73.6gを入れ、70℃まで昇温した。溶解確認後、50℃まで冷却し2,2’−ビピリジル(10.74g、68.8mmol)を入れ、30分間保温した。これをニッケル錯体溶液とする。また別にアルゴン置換したフラスコに2,5−ジクロロベンゼンホスホン酸ジエチル(7.07g、25.0mmol),ジメチルスルホキシド110.4gを入れ50℃まで昇温した。溶解確認後、メタンスルホン酸0.4430gをジメチルスルホキシド25mLに溶かした溶液1mL、亜鉛(6.13g、 93.8mmol)を加え30分間保温した。これを重合マス溶液とする。その後ニッケル錯体溶液を重合マス溶液に移送し70℃まで昇温し3時間保温した。溶液を室温まで放冷した後、イオン交換水407gに注ぐことでポリマーを析出させた。さらにポリマーをイオン交換水にて洗浄した。フラスコに得られたポリマー、イオン交換水230g、35重量%亜硝酸ナトリウム水溶液3.16gを加え、その中に70重量%硝酸54.7gを30分間かけて滴下した。1時間攪拌後、固体を濾別回収し、濾液が中性になるまで水洗を繰り返し得られたポリマーを80℃で乾燥し、下記構造式のポリマー4.20gを得た。



1H−NMR(DMSO,270MHz):δ1.17(m,6H), 3.95(m,4H), 7.00〜8.40(m,3H).

GPCにて算出された分子量
Mn=2.2×10
Mw=6.6×10

アルゴン置換したフラスコに、上記で得られたポリマー4.00g(5.0mmol)、濃塩酸150gを加え、110℃で24時間加熱撹拌した。室温まで冷却し、固体を濾別回収し、濾液が中性になるまで水洗を行い、減圧乾燥することで、下記構造式のポリマー3.16g得た。


上記で得られたポリマー 0.8g(5.1mmol)を5重量%水酸化ナトリウム水溶液 7.2gに溶解した後、大過剰のメタノールに滴下し、ポリマーを析出させた。ポリマーをろ別してメタノールで洗浄して、余剰の水酸化ナトリウムを除去し、真空乾燥することで−(P(=O)(OH)(OH))で示される基を−(P(=O)(ONa)(ONa))で示される基へと変換した。

[2(Sa)−Wa]=75.5
Sa=6.4

得られた−(P(=O)(ONa)(ONa))で示される基を有するポリマーをイオン交換水に溶解して10重量%の水溶液を調製し、ガラス基板上に流延した。大気圧下、80℃で20時間乾燥して水分を除去した後、大過剰の2N塩酸に浸漬して−(P(=O)(ONa)(ONa))で示される基を−(P(=O)(OH)(OH))で示される基に変換し、水洗後、風乾して、均質な膜を得た。
【0061】
実施例1で得られた膜のプロトン伝導度を測定したところ、以下の通りであり、実用的に十分なプロトン伝導性を示すことが判明した。

膜面方向プロトン伝導度[80℃]
相対湿度90% 5.2×10−2 S/cm
相対湿度70% 1.4×10−2 S/cm
相対湿度50% 4.8×10−3 S/cm
膜厚方向プロトン伝導度 1.2×10-1 S/cm
膜厚 29 μm
【0062】
比較例1[スルホン酸ポリアリーレン膜の製造]
実施例1の手法に準拠して、モノマーとして2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ネオペンチルを用いる。溶液を室温まで放冷した後、イオン交換水に注いで析出させることにより、ポリマーを得る。これを公知の方法で脱アルキル化することにより、スルホン酸ポリアリーレンが得られる。
上記で得られたポリマーを水酸化ナトリウム水溶液に溶解して、−SO3Hで示される基を、−SONaで示される基に変換する。その後、大過剰のメタノールに滴下し、ポリマーを析出させる。ポリマーをろ別してメタノールで洗浄して、余剰の水酸化ナトリウムを除去し、真空乾燥する。

[2(Sa)−Wa]=81.9
Sa=6.4

上記で得られたポリマーをイオン交換水に溶解して水溶液を調製し、ガラス基板上に流延し、大気圧下、80℃で12時間以上乾燥して水分を除去し、大過剰の希塩酸に浸漬しても、ポリマーは、希塩酸に溶解し、膜は得られない。
【0063】
実施例2[スルホン酸・カルボン酸ポリアリーレン膜の製造]
アルゴン雰囲気下、フラスコに、テトラヒドロフラン273mL、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)2.50g(8.4mmol)、2,5−ジクロロ安息香酸イソプロピル10.29g(44.2mmol)、2,2’−ビピリジル22.57g(144.5mmol)を入れて攪拌した。その後バス温を60℃まで昇温した。次いで、これにビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)36.14g(131.4mmol)を加え、加熱還流させた。放冷後、反応液を大量のメタノールに注ぐことによりポリマーを析出させ濾取した。更に、大量のメタノールに分散させてから濾取した。同様の処理を数回繰り返した後、得られた粗ポリマーを6mol/L塩酸に分散させてから、濾取した。同様の処理を繰り返した後、濾液が中性(pH4以上)になるまで水洗を行い、乾燥させることで、下記構造を有するポリマー8.32gを得た。原料の仕込比から算出されるモル組成比は、m:n=0.84:0.16であった。確認の為、NMRからモル組成比を算出したところ、m=0.84、n=0.16であり、ほぼ仕込みどおりであった。重量組成比に換算すると、m:n=0.87:0.13である。


アルゴン雰囲気下、得られたポリマー8.18gとN−メチルピロリドン219mL、臭化リチウム・1水和物1.76g(16.82mmol)をフラスコに入れ、120℃に昇温して、同温度で20時間保温撹拌した。
得られた反応溶液を6N塩酸に滴下し、析出したポリマーを濾過で集め、水洗を行った。下記構造のポリマーを得た。
ついで、得られたポリマーと8N塩酸600mLを冷却管つきのフラスコに入れ、加熱還流した。74時間後、ポリマーを集め、洗液が中性(pH4以上)になるまで水洗を繰返し、乾燥させることで、下記構造を有するポリマー5.68gを得た。


上記で得られたポリマーを0.40重量%水酸化ナトリウム水溶液に分散し、−SOHで示される基を−SO3Naで示される基に、及び−CO2Hで示される基を−CO2Naで示される基に変換し、そのまま溶解させ、下記構造からなる高分子電解質の1.3重量%水溶液を調製した。



[2(Sa)−Wa]=60.9
Sa=5.6

得られた高分子電解質溶液をガラス基板上に流延し、常圧下、80℃で2時間乾燥させる事により溶媒を除去した。得られた高分子電解質膜を2mol/Lの塩酸に2時間浸漬し、−SO3Naで示される基を−SO3Hで示される基に変換し、−CO2Naで示される基を−CO2Hで示される基に変換し、水洗後、風乾して、均質な膜を得た。

膜面方向プロトン伝導度[80℃]
90%RH 6.7×10−2 S/cm
70%RH 1.1×10−2 S/cm
50%RH 1.2×10−3 S/cm
膜厚方向プロトン伝導度 5.1×10-2 S/cm
膜厚 17μm
【0064】
比較例2
国際公開番号WO2007/043274実施例7、実施例21記載の方法を参考にして、スミカエクセルPES 5200P(住友化学株式会社製)を使用して合成した、下記

で示される繰り返し単位からなる、スルホン酸基を有するセグメントと、下記



で示される、イオン交換基を有さないセグメントとを有するポリマー(Mw=340,000、Mn=160,000)を、水酸化ナトリウム10重量%水溶液に約8.5重量%の濃度(ブロック共重合体1/縮合物1の重量比=95重量%/5重量%)になるように浸漬して、−SO3Hで示される基を、−SONaで示される基に変換した。

[2(Sa)−Wa]=12.5
Sa=2.5

上記で得られたポリマーは、イオン交換水に溶解せず、膜は得られなかった。
【0065】
以上の結果から、本発明の高分子電解質膜の製造方法は、本発明の目的は有機溶媒を必要としない、または、使用する有機溶媒量を削減可能であることが明らかになった。
本発明により提供される高分子電解質膜の製造方法は、有機溶媒蒸気、有機溶媒を環境中に放出しない為の処理設備が不要となるため、燃料電池製造をはじめとする産業において、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記Sa群から選ばれる1種以上のイオン交換基と、下記Wa群から選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する高分子電解質を、含水率が70重量%以上の溶媒に溶解させて高分子電解質溶液を得る工程と、該高分子電解質溶液を基板上に流延して、流延した高分子電解質溶液を乾燥させるキャスト工程とを有することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。

Sa群:



Wa群:



(式中、Mは、水素イオンを除く対カチオンを表す。Mが複数存在する場合、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。*は高分子電解質中の炭素原子に結合する。Aは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を表す。)
【請求項2】
前記高分子電解質が、炭化水素系高分子電解質であることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
上記キャスト工程の後に得られる高分子電解質膜に、酸を反応させる酸処理工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
下記式(1)および(2)の関係を満たす高分子電解質を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
40≦[2×(Sa)−Wa]≦80 式(1)
4<Sa≦8 式(2)
(式中、Sa値は、高分子電解質1g中の上記Sa群から選ばれる基の合計のミリモル数を表し、Wa値は、高分子電解質1g中の上記Wa群から選ばれる基の合計のミリモル数を表す。)
【請求項5】
下記式(3)および(4)の関係を満たす高分子電解質を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
50≦[2×(Sa)−Wa]≦78 式(3)
5<Sa≦7 式(4)
(式中、Sa値、Wa値は上記と同義である。)
【請求項6】
(Sa1)と(Sa5)とからなる群より選ばれる1種以上のイオン交換基と、(Wa1)と(Wa5a)とからなる群より選ばれる1種以上のイオン交換基とを有する高分子電解質を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項7】
上記酸処理工程が、上記キャスト工程の後に得られる高分子電解質膜に、酸を反応させることにより、上記Sa群と上記Wa群とから選ばれるイオン交換基が有するMの1モル%以上100モル%以下を、水素イオンに変換する工程であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項8】
上記Mが有機カチオンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項9】
上記Mが水素イオンを除く無機カチオンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項10】
上記無機カチオンがアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項9に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項11】
上記酸が、塩酸、硫酸および硝酸から選ばれる1種以上の酸であることを特徴とする請求項3〜10のいずれかに記載の高分子電解質膜の製造方法。

【公開番号】特開2010−251295(P2010−251295A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268525(P2009−268525)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】