説明

高分子電解質膜の製造方法

【課題】水酸化ラジカルによる高分子電解質の劣化を抑制すると共に、燃料電池に使用した場合に、発電効率の低下を抑制することができる高分子電解質膜を容易かつ安価に製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】スルホン酸基を有する高分子電解質と、過酸化水素からヒドロキシラジカルを抑制するための遷移金属の酸化物と、を含む高分子電解質膜30の製造方法であって、高分子樹脂からなる多孔質のシート状の補強材11を、前記遷移金属のイオンを含む溶液に浸漬させ、該溶液を加熱して、該補強材11の少なくとも内部に前記遷移金属酸化物の粒子20を析出させる析出工程と、前記遷移金属酸化物の粒子が析出した補強材11に、前記高分子電解質を含浸させる含浸工程と、を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用の高分子電解質膜の製造方法に係り、特にスルホン酸基を有する高分子電解質を有した膜として好適な高分子電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池は、低温における作動が可能であり、かつ、小型軽量化が可能であるため、自動車などの移動体への適用が検討されている。特に、固体高分子型燃料電池を搭載した燃料電池自動車はエコロジーカーとして社会的な関心が高まっている。
【0003】
このような固体高分子型燃料電池は、図7に示すように、膜電極接合体(MEA)を主要な構成要素とし、それを燃料(水素)ガス流路および空気ガス流路を備えたセパレータ96,96で挟持して、単セルと呼ばれる1つの燃料電池90を形成している。膜電極接合体は、イオン交換膜である高分子電解質膜91の一方側にアノード側の電極(アノード触媒層)93aを積層し、他方の側にカソード側の電極(カソード触媒層)93bを積層した構造であり、アノード触媒層93aとカソード触媒層93bには、それぞれガス拡散層94a,94bが配置されている。
【0004】
このような固体高分子型燃料電池90は、発電時に、特に低加湿下で燃料である水素と酸化剤である酸素が膜を介してクロスリークして、電極(触媒層)において、水と酸素から過酸化水素(H)が生成されたり、過酸化水素から水酸化ラジカル(・OH)が生成されたりすることがある。この過酸化水素及び水酸化ラジカルは、膜内を拡散移動する際に、高分子電解質膜の劣化を進行させる要因となっていた(非特許文献1参照)。
【0005】
このような点を鑑みて、例えば、スルホン酸基を有する含フッ素重合体からなる高分子電解質膜中に、難溶性セリウム化合物を含有させた燃料電池用の高分子電解質膜の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このような高分子電解質膜は、図5に示すように、スルホン酸基を有する含フッ素重合体からなる高分子電解質膜70を準備し、この高分子電解質膜70をセリウムイオンを含む溶液L中に浸漬して、スルホン酸基の一部をセリウムイオンによりイオン交換する。このイオン交換された高分子電解質膜を、さらに所定の溶液に浸漬させ(図示せず)、高分子電解質膜70中において、セリウムイオンから難溶性セリウム化合物を生成する。このようにして、得られたセリウム化合物は、セリウムイオンとなって水酸化ラジカルと反応し、水酸化ラジカル(ヒドロキシラジカル)を水酸化イオンに変えることができる。
【0007】
また、図6に示すように、高分子電解質溶液Ldに遷移金属化合物Cを分散させた溶液を、シート73の上でバーコータ74を用いてキャスト成形して、高分子電解質膜を成膜する方法や、補強層であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔体に導電性粉末などを添加する方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2006−107914号公報
【特許文献2】特開昭63−199979号公報
【非特許文献1】燃料電池と高分子(2005)、P44、高分子学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の製造方法で高分子電解質膜を製造した場合には、高分子電解質膜を溶液に浸漬する間に、膜そのものが膨潤し、皺、膨れ、凹凸などが発生することがあった。さらに、浸漬後に、高分子電解質膜の水分を乾燥除去する際に、膜が著しく収縮するため、これにより皺や凹凸によるひずみが発生することがあった。
【0010】
このような高分子電解質膜を燃料電池に適用した場合には、発電効率が低下したり、その信頼性の低下を招いたりするなどの懸念があった。また、同様にキャスト成形した場合であっても、高分子電解質膜の水分を乾燥させなければならないので上記問題を充分に回避することができない場合もあった。
【0011】
また、水溶性セリウム化合物を高分子電解質膜に含有させる場合には、多量のスルホン酸基がセリウムイオンと交換される。このため、この高分子電解質膜を用いて製造された燃料電池は、水素イオンの伝導性(プロトン伝導性)を確保することができず、膜抵抗が増大して発電特性が低下する。さらに、転写法により高分子電解質膜に触媒層を形成する場合には、前述したようにスルホン基がセリウムイオンに交換されているため、表面層の親水部が減少するなど、高分子電解質膜の表面の形態が変化しているので、膜と触媒層との接合温度が高くなる。
【0012】
また、特許文献2に記載の製造方法の場合には、電解質膜の特性を確保するためには、補強層の気孔率を大きくすることが望ましい。そこで、添加される粉末は、できるだけ小さい粒子径(好ましくは1μm以下)の粉末であることが望ましい。しかしながら、タングステン(W)などの遷移金属の化合物は、他の金属に比べて、比較的に硬度が高いものが多く、微細化することは難しい。
【0013】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、水酸化ラジカルによる高分子電解質の劣化を確実に抑制することを前提として、簡単かつ安定して遷移金属化合物を電解質膜に担持することができ、燃料電池に使用した場合に、発電効率の低下を抑制することができる高分子電解質膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決すべく、本発明に係る高分子電解質膜の製造方法は、スルホン酸基を有する高分子電解質と、過酸化水素から生成するヒドロキシラジカルを抑制するための遷移金属の酸化物と、を含む高分子電解質膜の製造方法であって、高分子樹脂からなる多孔質のシート状の補強材を、前記遷移金属のイオンを含む溶液に浸漬させ、該溶液を加熱して、該補強材の少なくとも内部に前記遷移金属酸化物の粒子を析出させる析出工程と、前記遷移金属酸化物の粒子が析出した補強材に、前記高分子電解質を含浸させる含浸工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る高分子電解質膜の製造方法よれば、いわゆるコロイド分散液法により、析出工程において遷移金属イオンを含む溶液に多孔質の補強材を浸透させて、加熱により遷移金属化合物のコロイド粒子を分散して析出させることができる(コロイド分散液となる)ので、補強材の内部に遷移金属化合物の1μm未満(ナノオーダ)の微細粒子(コロイド粒子)を分散して固定配置(担持)することができる。また、一旦、補強材に遷移金属化合物のコロイド粒子を析出させてから、この析出した補強材に高分子電解質を含浸させるので、高分子電解質膜そのものが、膨潤及び収縮することもない。
【0016】
さらに、このような製造方法により製造された高分子電解質膜によれば、補強材の内部に分散して析出した遷移金属酸化物の粒子は微粒子であるので、この粒子の遷移金属酸化物が、スルホン酸基を有する高分子電解質膜の超強酸水に溶け、遷移金属イオンとなる。この遷移金属イオンは濃度勾配により、高分子電解質膜中の高分子電解質だけではなく、高分子電解質膜に積層された触媒層中の高分子電解質にも拡散する。これにより、高分子電解質膜の耐酸化性及び持続性は向上し、電極(触媒層)において発生した過酸化水素は、膜内を拡散移動する際に、膜中の金属イオンコンタミ(M)等により、H+M→・OH+OH+Mや、H+M→・OOH+H+Mの反応式でラジカル生成すると考えられている。水酸化ラジカルの生成を抑制する。この結果、高分子電解質膜の劣化を抑制することができ、固体高分子型燃料電池の発電効率の低下を抑制することなく、耐久性の向上を図ることができる。
【0017】
ここで、本発明にいう遷移金属イオンを含む溶液とは、水などの溶媒に、遷移金属の塩が電離して、遷移金属イオンの状態で含むものである。そして、この溶液は、加熱することにより、コロイド分散液として溶液に遷移金属酸化物のコロイド粒子が析出するものである。
【0018】
また、本発明に係る高分子電解質膜の製造方法は、前記溶液の液性(例えば、遷移金属イオンの濃度、Ph等)を調整することにより、析出させる遷移金属酸化物の粒子の形態を、例えば球状やロッド状、これらの混合した形態等に調整することができる。そして、より好ましくは、本発明に係る高分子電解質膜の製造方法は、析出工程において、前記析出させる遷移金属酸化物の粒子は、球状粒子である。
【0019】
本発明によれば、遷移金属酸化物の粒子を、球状粒子にすることにより、粒子はより微細化されたものとなり、見かけ上の粒子の表面積の割合も向上する。この結果として、さらに効率的に高分子電解質の劣化を抑制することができる。
【0020】
また、本発明に係る過酸化水素を水及び酸素に分解してヒドロキシラジカルの発生を抑制するための遷移金属のイオンとしては、セリウム、タングステン、ルテニウム、パラジウム、銀、ロジウム、セリウム、ジルコニウム、イットリウム、マンガン、モリブデン、鉛、バナジウム、チタンなどイオンを挙げることができ、これらは、加熱することにより酸化物になるのであれば、塩の電離の形態ばかりでなく、他の形態で含んでいてもよい。より好ましくは、前記遷移金属イオンはセリウムイオンであり、前記遷移金属酸化物は酸化セリウム(CeO)である。
【0021】
本発明によれば、酸化セリウム(CeO)は、スルホン酸基を有する高分子電解質膜中の超強酸に溶け込み、高分子電解質膜や触媒層の高分子電解質中で過酸化水素から生成する水酸化ラジカルを下の式の如く、水酸化イオンに容易にすることができ、効率的に高分子電解質の劣化を抑制することができる。
【0022】
Ce3++・OH(水酸化ラジカル)→Ce4++OH(水酸化イオン)
また、本発明に係る高分子電解質膜の製造方法において、前記高分子電解質の含浸は、シート状の高分子電解質によって前記補強材を挟み込んだ状態で行う。本発明によれば、補強材の両面にシート状の高分子電解質を挟み込むことにより、高分子樹脂からなる多孔質のシート状の補強材に高分子電解質膜を含浸させた第一の高分子電解質層と、前記第一の高分子電解質層を挟むように、該第一の高分子電解質層の表面に形成された高分子電解質からなる第二の高分子電解質層と、を少なくとも含む高分子電解質膜を容易に得ることができる。
【0023】
本発明に係る高分子電解質はスルホン酸基を有した高分子電解質であり、例えば、フルオロアルキルエーテル側鎖とパーフルオロアルキル主鎖を有するフルオロアルキル共重合体のパーフルオロ系プロトン交換樹脂が好ましく用いられる。例えば、デュポン社製ナフィオン(商標名)、旭化成社製アシプレックス(商標名)、旭硝子社製フレミオン(商標名)、ジャパンゴアテックス社製ゴア−セレクト(商標名)等が例示され、部分フッ素樹脂では、トリフルオロスチレンスルホン酸の重合体やポリフッ化ビニリデンにスルホン酸基を導入したものなどがある。また、炭化水素系プロトン交換樹脂である、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ポリイミド系樹脂などにスルホン酸基を導入したものなどがある。これらは燃料電池が用いられる用途や環境に応じて適宜選択されるべきものであるが、パーフルオロ系が燃料電池寿命の点から好ましい。
【0024】
また、本発明に係る高分子電解質膜に用いる補強材とは、電解質膜を補強することを目的とした高分子樹脂材料からなる多孔質のシートである。このような、補強材の材質としては、遷移金属の加熱時の熱が付与されても、変形等することなく孔を確保することができる材料であることが好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、熱可塑性フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフロライド三元共重合体(THV)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフロロアルキルビニルエーテルの三元共重合共体(EPA)、又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを用いることができ、より好ましくは、本発明に係る高分子電解質膜の製造方法に用いる補強材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、水酸化ラジカルによる高分子電解質の劣化を確実に抑制することを前提として、簡単かつ安定して遷移金属化合物を電解質膜の内部に担持することができ、燃料電池に適用した場合に、燃料電池の発電効率の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、図面を参照して、本発明に係る高分子電解質膜を製造するに好適な製造方法の実施形態について説明する。
【0027】
図1は、本実施形態に係る高分子電解質膜の製造方法を示した模式図である。まず、図1(a)に示すように、高分子樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)からなる多孔質のシート状の補強材11を準備する。補強シート11は、電解質膜を機械的に補強することを目的とした部材であり、本実施形態では、図2(a)に示すように、高分子樹脂の繊維状の多孔質の材料である。
【0028】
次に、図1(b)に示すように、コロイド分散液法により、高分子樹脂の多孔質のシート状の補強材11の表面11a及び内部11bに、酸化セリウム(CeO)を析出させ、酸化セリウムの微粒子を担持する。この酸化セリウム(CeO)は、ヒドロキシラジカルを抑制するための遷移金属酸化物である。
【0029】
具体的には、まず、セリウムを例えば硫酸溶液などの強酸溶液に溶解した液、すなわちセリウムイオンを含む溶液を準備する。この溶液には、加熱することにより酸化セリウム(遷移金属酸化物)の微粒子(コロイド粒子)が分散して析出する溶液である。
【0030】
たとえば、硫酸溶液にセリウムを溶かした場合には、遷移金属はセリウムイオン(Ce4+,Ce(SO・4HO)などの形態で含まれており、この場合試薬特級グレード(>99%)をそのまま希釈したものが好ましい。このセリウムイオン(Ce4+)は、希硫酸存在下、加熱処理を行うことで、加水分解による脱プロトン反応が起こり、酸化物である酸化セリウム(CeO)粒子を生成するものである。このように、加熱することにより、遷移金属イオンの状態から遷移金属酸化物のコロイド粒子が析出するものであれば、特に限定されるものではない。
【0031】
本実施形態では、補強材11を、セリウムイオンを含む溶液に浸漬させ、溶液を加熱して、該補強材の少なくとも内部に前記遷移金属酸化物を析出させるので、遷移金属酸化物の析出物は、コロイド粒子(微粒子)となって、補強材11の内部及び表面に均一に分散して、固定配置する(担持する)ことができる。
【0032】
さらに、溶液を加熱して酸化セリウムのコロイド粒子を析出させる場合には、コロイド分散液の硫酸濃度比率やNaSO,NaCl,NaClO等の塩添加をすることにより、図3に示す微粒子を球状、ロッド状、または球状/ロッド状混合物のいずれかの形態として溶液内に分散して析出させることができる。このように析出させることにより、補強材11である多孔体の内部において、酸化セリウムの球状微粒子(球状粒子)20を分散して担持したり(図2(b)参照)、酸化セリウムのロッド状微粒子(ロッド状粒子)20’を分散して担持したり(図2(c)参照)、これらの粒子が混合した粒子を分散して担持したり(図示せず)、することができる。このような析出するコロイド粒子の形態は、本発明で示す他の遷移金属においても同様である。
【0033】
また、析出させる酸化セリウムの粒子は、球状粒子であることがより好ましい。酸化セリウムの析出する粒子を、球状粒子にすることにより、粒子はより微細化されたものとなり、見かけ上の粒子の表面積の割合も向上する。この結果として、さらに効率的に高分子電解質の劣化を抑制することができる。
【0034】
次に、図1(c)に示すように、補強材11に、スルホン酸基を有する高分子電解質を含浸させる。具体的には、シート状の高分子電解質40によって、補強材11の両面から補強材11を挟み込んだ状態で、補強材11の多孔質に、スルホン酸基を有する高分子電解質を含浸させる。
【0035】
このようにして、図1(d)に示すように、酸化セリウムを球状の微粒子の形態で内部に含む補強材に、高分子電解質を含浸させた高分子電解質膜30を製造することができる。具体的には、高分子電解質膜30は、補強材11を有した第一の高分子電解質層31と、該第一の高分子電解質層31の両面に形成された第二の高分子電解質層33と、を備えることになる。補強材11は、高分子樹脂からなる多孔質のシート状の補強材であり、その内部に酸化セリウムの球状粒子(ナノオーダの微粒子)20が担持されており、さらに補強材11には、高分子電解質が含浸されている。また、第二の高分子電解質層33は、高分子電解質からなる層となる。
【0036】
そして、このような製造方法により製造された高分子電解質膜30によれば、均一に補強材に分散配置された微粒子の酸化セリウムが、スルホン酸基を有する高分子電解質膜30の超強酸水に溶け、セリウムイオンとなる。このセリウムイオンは濃度勾配により、高分子電解質膜30中の高分子電解質だけではなく、後工程で、高分子電解質膜30に積層された触媒層(図示せず)中の高分子電解質にも拡散する。これにより、高分子電解質膜30の耐酸化性及び持続性は向上し、電極(触媒層)において発生した過酸化水素は、膜内を移動する際に、膜中の金属イオンコンタミ(M)等により、H+M→・OH+OH+Mや、H+M→・OOH+H+Mの反応式でラジカル生成すると考えられている。このラジカルをセリウムイオンにより分解することで、高分子電解質膜30の劣化を抑制することができ、固体高分子型燃料電池の発電効率の低下を抑制することなく、耐久性の向上を図ることができる。
【0037】
本実施形態では、ヒドロキシラジカルを抑制する遷移金属酸化物として酸化セリウムを用いたが、タングステン、ルテニウム、パラジウム、銀、ロジウム、ジルコニウム、イットリウム、マンガン、モリブデン、鉛、バナジウム、チタンなどの酸化物などであってもよい。
【0038】
特に、本実施形態の酸化セリウム(CeO)は、スルホン酸基を有する高分子電解質膜中の超強酸水に溶け込み、高分子電解質膜や触媒層の高分子電解質中で過酸化水素から生成する水酸化ラジカルを、水酸化イオンに容易にすることができ、効率的に高分子電解質の劣化を抑制することができるので好適である。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を実施例に基づいて、説明する。尚、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0040】
[実施例1]
本実施形態に係る高分子電解質膜を製造した。具体的には、補強材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる、厚さ25μm、細孔径0.1μm(バルブポイント法により測定)の多孔質のシート状の補強材(例えば、ポアフロンHPWシリーズ 住友電工ファインポリマー社製)を準備した。
【0041】
次に、Ce(SOの濃度を0.25mol dm−3、硫酸濃度4.0×10−3mol dm−3を含む水溶液に、前記補強材を含浸させた。そして、この溶液を90℃に加熱しながら12時間静置し、この多孔質の補強材の表面および内部に酸化セリウムの球状の微粒子(コロイド粒子)を析出させた。そして、この補強材から硫酸イオンを除去するために、2.0×10−3mol dm−3の水酸化ナトリウムで中和させ、純水で洗浄した。その後、この補強材を120℃、2時間の条件で加熱し、補強材を乾燥させた。
【0042】
走査型電子顕微鏡により観察を行い、直径約30〜40nmの微粒子を確認し、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)分析により、PTEFの多孔質の補強材に、セリウム元素の存在を確認した。なお、図4(a)は、コロイド分散液のみから球状微粒子を析出させたときの球状粒子の写真図であり、このような形態の微粒子が、補強材の内部に分散して担持されていることが確認できた。
【0043】
そして、酸化セリウムの球状粒子が担持された補強材を、NafionDE2020(Dupont社製)のシート状の電解質に挟み込むようにして、キャスト法により電解質を補強材に含浸させ、膜厚45μmの補強材を第一の電解質層として有した高分子電解質膜を製造した。
【0044】
[評価方法]
製作した高分子電解質膜を4×5cmの試料に切り出し、フェントン試験液(H:1%、Fe2+:100ppm)に浸漬し、80℃、8時間保持させた後、試験液のフッ素イオン(Fイオン量(フッ素イオンの溶出量))をイオン電極により測定した。この結果を表1に示す。
【0045】
なお、表1に示すフッ素イオンの溶出量は、後述する比較例1の結果を100としたときの割合である。
【0046】
【表1】

【0047】
[実施例2]
実施例1と同じようにして、高分子電解質膜を製造した。実施例1と相違する点は、コロイド分散液として、Ce(SOの濃度を20mol dm−3、硫酸濃度0.1mol dm−3を含む水溶液を用いた点であり、その結果として、図4(b)に示すような酸化セリウムのロッド状の微粒子を、補強材の表面及び内部に分散させて、担持した。走査型電子顕微鏡により観察を行い、直径約30〜40nmの微粒子を確認し、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)分析により、PTEFの多孔質の補強材に、セリウム元素の存在を確認した。そして、実施例1と同じ評価方法で、フッ素イオンの溶出量を測定した。この結果を表1に示す。
【0048】
[実施例3]
実施例1と同じようにして、高分子電解質膜を製造した。実施例1と相違する点は、コロイド分散液として、Ce(SOの濃度を1mol dm−3、硫酸濃度0.05mol dm−3を含む水溶液を用いた点であり、その結果として、図4(c)に示すような酸化セリウムの球状/ロッド状の混合微粒子を、補強材の表面及び内部に分散させて、担持した。走査型電子顕微鏡により観察を行い、直径約30〜40nmの微粒子を確認し、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)分析により、PTEFの多孔質の補強材に、セリウム元素の存在を確認した。そして、実施例1と同じ評価方法で、フッ素イオンの溶出量を測定した。この結果を表1に示す。
【0049】
[比較例1]
実施例1と同じようにして、高分子電解質膜を製造した。実施例1と相違する点は、酸化セリウムの微粒子を補強材に析出させていない点である。そして、実施例1と同じ評価方法で、フッ素イオンの溶出量を測定した。この結果を表1に示す。
【0050】
[結果及び考察]
実施例1〜3は比較例1に比べて、フッ素イオンの溶出量は少なかった。これは、酸化セリウム(CeO)が、スルホン酸基を有する高分子電解質膜中の超強酸水に溶け込み、高分子電解質膜や触媒層の高分子電解質中で過酸化水素から生成する水酸化ラジカルを下の式の如く、水酸化イオンに容易にすること(高分子を分解するヒドロキシラジカルを抑制すること)ができ、効率的に高分子電解質の劣化を抑制することができたことによると考えられる。
Ce3++・OH(水酸化ラジカル)→Ce4++OH(水酸化イオン)
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態に係る高分子電解質膜の製造方法を説明するための図であり(a)は、補強材を準備する工程、(b)は、補強材の内部に遷移金属酸化物を析出させる析出工程、(c)は、補強材を挟むようにシート状の電解質を含浸させる工程、(d)は、製造後の本実施形態に係る高分子電解質膜を示した図。
【図2】は補強材の表面を示した図であり、(a)は、析出工程前の補強材の内部を模式化した図であり、(b)は、析出工程において、遷移金属酸化物の球状の粒子を固定して配置した図であり、(c)は、析出工程において、遷移金属酸化物からなるロッド状の粒子を固定して配置した図である。
【図3】コロイド分散液の硫酸濃度と硫酸セリウム濃度との関係から、析出する酸化セリウムの粒子形状を説明するための図。
【図4】実施例1〜3において析出する粒子の形態を説明するための参考となる写真図であり、(a)は、実施例1において析出する酸化セリウムの球状微粒子の形態を示した写真図であり、(b)は、実施例2において析出する酸化セリウムのロッド状微粒子の形態を示した写真図であり、(c)は、実施例2において析出する酸化セリウムの球状/ロッド状の混合微粒子の形態を示した写真図である。
【図5】従来の高分子電解質膜の製造方法を説明するための図。
【図6】従来の高分子電解質膜の別の製造方法を説明するための図。
【図7】固体高分子型燃料電池(単セル)の一例を説明する模式図。
【符号の説明】
【0052】
11:補強材、20:球状微粒子(球状粒子)、20’:ロッド状微粒子(ロッド状粒子)、30:高分子電解質膜、31:第一の高分子電解質層、33:第二の高分子電解質層、40:シート状の電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する高分子電解質と、過酸化水素から生成するヒドロキシラジカルを抑制するための遷移金属の酸化物と、を含む高分子電解質膜の製造方法であって、
高分子樹脂からなる多孔質のシート状の補強材を、前記遷移金属のイオンを含む溶液に浸漬させ、該溶液を加熱して、前記補強材の少なくとも内部に前記遷移金属酸化物の粒子を析出させる析出工程と、
前記遷移金属酸化物の粒子が析出した補強材に、前記高分子電解質を含浸させる含浸工程と、を少なくとも含むことを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
析出工程において、前記析出させる遷移金属酸化物の粒子は、球状粒子であることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記遷移金属イオンはセリウムイオンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記含浸工程において、高分子電解質の含浸を、シート状の高分子電解質によって前記補強材を挟み込んだ状態で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子電解質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−33762(P2010−33762A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192428(P2008−192428)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】