説明

高分散性セルロース複合体と少なくとも1種の多糖類を含有するゲル化剤

【課題】 分散性の改良された高分散性セルロース複合体と、特定の多糖類を含有させることにより、工業的に実用性のあるゲル化剤を提供し、このゲル化剤を含有する特徴のある組成物を提供する。
【解決手段】 微細繊維状セルロース50〜90質量%と、水溶性高分子3〜47質量%と、親水性物質3〜47質量%からなり、水中で安定に懸濁する成分を30質量%以上含有し、損失正接が1未満であり、崩壊・分散性指標が150%以上である高分散性セルロース複合体と、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類、タマリンドシードガムから選択される少なくとも1種の多糖類を、1:9〜9:1の質量比で含有するゲル化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工業的に実用的な分散条件下で、耐熱性のあるゲルを形成させることのできるゲル化剤、そのゲル化剤を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチン、寒天、カラギーナンなどの一般的なゲル化剤を使用したゲルは、熱可逆性であるため、加熱によりゾル化あるいは溶解し、内容物の均一性を維持することができず、耐熱性が無い。つまり加熱処理により、ゲル中の固形物の浮上あるいは沈降、タンパク質の凝集等が発生する。
【0003】
そこで微小繊維状セルロースを配合する技術として、非特許文献1には微小繊維状セルロースをプリン、ゼリー類に配合して、生地に均一性を持たせる等の記載があり、特許文献1にも同様の記載がある。
【0004】
また特許文献2には微小繊維状セルロースと多糖類からなる組成物についての記載があり、特許文献3には、微小繊維状セルロースと多糖類を含有する皮膚手入れ用化粧料の記載がある。
【0005】
しかしながら、これら微小繊維状セルロースを利用した技術は、微細繊維状セルロース/水溶性高分子/親水性物質からなるセルロース複合体が、単独ではゲル化しない特定の多糖類が架橋を形成し、ゲル化するという機能を持ち、かつ耐熱性に優れることについて、何ら言及するものではない。
【0006】
特許文献4には、微小繊維状セルロースをコンニャク芋またはコンニャク粉と混合してスラリー状とした後、乾燥あるいは凍結することによって耐熱性のゲル状物が得られることが開示されている。しかしながら、このゲルは乾燥した場合にはゴムのような非常に硬いものとなり、凍結した場合には離水が著しく、不均一な組織を呈する。
【0007】
さらに特許文献2〜4で使用されている微小繊維状セルロースは、後述する「微細化」の程度が低いために繊維が粗く、本発明の高分散性セルロース複合体の構成成分である微細繊維状セルロースとは、微細化の程度において性質を異にする。
【0008】
特許文献5には、微細繊維状セルロース(水分散性セルロース)を使用した微細繊維状セルロース複合体と、単独ではゲル化しない特定の多糖類からなるゲル化剤、特許文献6にはそれを利用した耐熱性ゲル、特許文献7にはそれを利用した可食性スポンジ状ゲルの記載がある。しかしながら、特許文献5〜7に記載の微細繊維状セルロース複合体とは、実質的に微細繊維状セルロースと水溶性高分子だけからなる乾燥組成物を示しており、微細繊維状セルロースと水溶性高分子と親水性物質の3成分を必須構成成分とする、本発明の高分散性セルロース複合体とは、組成や機能を異にする。つまり、特許文献5〜7記載の微細繊維状セルロース複合体は、親水性物質を含有していないために分散性が悪く、その結果、工業的には通常使用できないような強力な分散装置を使用する、あるいは80℃といったような高温で分散する等、工業的には実用的でない製造方法を選択する必要があった。さらに、微細繊維状セルロース複合体と多糖類を配合して高温で分散すると、架橋反応速度(ゲル化反応速度)が飛躍的に増大するため、ゲル化剤が完全に分散しないうちに、一部の分散した部分に急激なゲル形成が起こり、分散のせん断力によって、形成されたゲルは即座に破壊されるという現象を引き起こす。このゲルは不可逆性であり、この現象により破壊された部分は復元されないので、得られたゲル状組成物の機能は大幅に低下する。つまり特許文献5〜7に記載の、ゲル化剤およびゲル状組成物は、構成成分である微細繊維状セルロース複合体の分散性不良という致命的な欠陥を有するがゆえに、このような問題のあるゲル製造方法をとらざるを得ず、結果的にゲル状組成物の機能を十分に発現させることができなかった。
【特許文献1】特開2004−344042号公報
【特許文献2】特開昭60−260517号公報
【特許文献3】特許第1849998号公報
【特許文献4】特開昭63−196238号公報
【特許文献5】特開2004−41119号公報
【特許文献6】特開2004−248536号公報
【特許文献7】特開2004−313058号広報
【非特許文献1】福井克任、「増粘安定剤としてのMFCの利用」、ニューフードインダストリー、株式会社食品資材研究会、昭和60年6月1日、第27巻、第6号、p.1〜5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特開2004−41119号公報に開示の物質の、分散性を改善することにより、工業的に実用的な分散条件で使用できる、高分散性セルロース複合体と特定の多糖類からなるゲル化剤、そのゲル化剤を使用した組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、微細繊維状セルロースに対して、水溶性高分子だけではなく、親水性物質をさらに配合することによって得られる、高分散性セルロース複合体を使用することで課題を解決し、本発明をなすに至った。すなわち本発明は、以下の通りである。
【0011】
(1)微細繊維状セルロース50〜90質量%と、水溶性高分子3〜47質量%と、親水性物質3〜47質量%からなり、水中で安定に懸濁する成分を30質量%以上含有し、損失正接が1未満であり、崩壊・分散性指標が150%以上である高分散性セルロース複合体と、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類、タマリンドシードガムから選択される少なくとも1種の多糖類を、1:9〜9:1の質量比で含有するゲル化剤。
【0012】
(2)植物細胞壁を原料とする、結晶性の、微細繊維状セルロースを50〜70質量%と、水溶性高分子10〜30質量%と、親水性物質5〜40質量%からなる請求項1記載の高分散性セルロース複合体と、多糖類がグルコマンナン、ガラクトマンナンであることを特徴とする、(1)記載のゲル化剤。
【0013】
(3)(1)または(2)のゲル化剤が配合された耐熱性組成物。
【0014】
(4)多糖類がグルコマンナンである、(1)または(2)記載のゲル化剤が配合された可食性スポンジ状組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高分散性セルロース複合体は、従来技術に比べて著しく水中での崩壊・分散性に優れる。そのため、これまで困難であった工業的に実用的な分散条件で使用できる、高分散性セルロース複合体と特定の多糖類からなるゲル化剤、そのゲル化剤を配合した組成物を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0017】
本発明で使用される微細繊維状セルロースは、β-1,4グルカン構造を有するいわゆるセルロースを原料とする。安価な製品を安定的に供給するためには、植物細胞壁を起源としたセルロース性物質を、原料として使用するのが好ましい。この中でも特に、バガス、稲わら、麦わら、竹などを使用したイネ科植物由来のパルプが好ましい。綿花、パピルス草、こうぞ、みつまた、ガンピなども使用が可能だが、原料の安定的な確保が困難であること、セルロース以外の成分の含有量が多いこと、ハンドリングが難しいことなどの理由で好ましくない場合がある。ビートパルプや果実繊維パルプなどの柔細胞由来の原料も同様である。その他レーヨンなどの再生セルロースや、微生物が産出するセルロースを原料として使用しても良い。
【0018】
本発明で使用される微細繊維状セルロースは、結晶性であることが好ましい。具体的には、X線回折法(シーゲル法)で測定されるところの結晶化度が50%を越え、好ましくは55%以上のものである。本発明物質はセルロース以外の成分を含有するが、それらの成分は非晶性であり、非晶性としてカウントされる。例えば測定の結果、結晶化度が50%であれば、セルロースの結晶化度としては50%以上であるといえる。例えば49%などの場合は、微細繊維状セルロースを他の成分から分離し、測定しなければならない。
【0019】
本発明の微細繊維状セルロースは、セルロース繊維の大部分、つまり90%以上が「微細な繊維状」である。本明細書中で「微細な繊維状」とは、光学顕微鏡および電子顕微鏡で、観察・測定されるところの、長さ(長径)が5nm〜5mm、幅(短径)が1nm〜200μm、長さと幅の比(長径/短径)が5〜10000であることを意味する。中でも好ましい「微細繊維状のセルロース」の形態は、長さ(長径)が0.5μm〜1mm、幅(短径)が2nm〜60μm、長さと幅の比(長径/短径)が5〜400のものである。
【0020】
本発明の高分散性セルロース複合体は、微細繊維状セルロース:水溶性高分子:親水性物質=50〜90:3〜47:3〜47質量%、好ましくは微細繊維状セルロース:水溶性高分子:親水性物質=50〜70:10〜30:5〜40質量%、より好ましくは微細繊維状セルロース:水溶性高分子:親水性物質=60〜70:10〜20:15〜30質量%の比率からなる乾燥組成物である。この乾燥組成物の形態は、顆粒状、粒状、粉末状、鱗片状、小片状、シート状を呈するが、乾燥方法については何ら限定するものではなく、必要に応じてカッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕して使用しても良い。この乾燥組成物は水性媒体中に投入し、機械的なせん断力を与えた時、粒子が崩壊し、微細繊維状セルロースが水相への分散することを特徴とする。
【0021】
本発明の高分散性セルロース組成物は、常温で比較的弱い条件で攪拌しても、容易に粒子が崩壊・分散し、高い粘度を発現する。この粘度は粒子の崩壊・分散の程度の指標であり、粘度が高いほど、粒子の崩壊・分散性に優れていることを表している。特開2004−41119号公報には、その課題の認識がなく、そのために本発明のごとき特定の物質を配合し、特定の配合比率にした時にはじめて、水中において容易に粒子が崩壊・分散することについてはなんら開示がない。そのため、同公報に具体的に開示されている水分散性乾燥組成物(微細繊維状セルロース複合体)は、微細繊維状セルロースとカルボキシメチルセルロース・ナトリウムだけから構成されている。
【0022】
つまり、本発明の高分散性セルロース複合体の崩壊・分散性指標とは、後述の0.5%粘度より求められ、「崩壊・分散性指標(%)=A/B×100」の式で表される。また、その値は150%以上である。
【0023】
A:高分散性セルロース複合体の0.5%粘度(高分散性セルロース複合体の構成成分:微細繊維状セルロース、水溶性高分子、親水性物質)
B:微細繊維状セルロース複合体の0.5%粘度(微細繊維状セルロース複合体の構成成分:上述の高分散性セルロース複合体の構成成分である微細繊維状セルロース、および水溶性高分子)
本発明の高分散性セルロース複合体の構成成分として使用される、水溶性高分子とは、乾燥時におけるセルロース同士の角質化を防止する作用を有するものであり、具体的にはアラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸およびその塩、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、グアーガム、酵素分解グアーガム、クインスシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンドシードガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ローカントビーンガム、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどから選ばれた1種または2種以上の物質が使用される。中でも、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムが好ましい。このカルボキシメチルセルロース・ナトリウムとしては、カルボキシメチル基の置換度が0.5〜1.5、好ましくは0.5〜1.0、さらに好ましくは0.6〜0.8である。また1質量%水溶液の粘度は5〜9000mPa・s程度、好ましくは1000〜8000mPa・s程度、さらに好ましくは2000〜6000mPa・s程度のものである。
【0024】
本発明の高分散性セルロース複合体の構成成分として使用される、親水性物質とは冷水への溶解性が高く、粘性を殆どもたらさず、常温で固体の物質であり、デキストリン類、水溶性糖類(ブドウ糖、果糖、庶糖、乳糖、オリゴ糖、異性化糖、キシロース、トレハロース、カップリングシュガー、パラチノース、ソルボース、還元澱粉糖化飴、マルトース、ラクツロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等)、糖アルコール類(キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール等)、より選ばれる1種または2種以上の物質である。低分子量物質の方が水道水中での粒子の崩壊・分散性が良くなる傾向にあり、ブドウ糖、蔗糖、トレハロースなどは良好な性質を示すが、製造時の乾燥性や、製品の吸湿性、経時安定性に劣る傾向がある。バランスが最も良い物質は、DE(dextrose equivalent)が20以上のデキストリンである。
【0025】
本発明の高分散性セルロース複合体には、微細繊維状セルロースと、水溶性高分子と、親水性物質以外に、デンプン類、油脂類、蛋白質類、ペプチド、アミノ酸、界面活性剤、保存料、日持向上剤、pH調整剤、食塩、各種リン酸塩等の塩類、乳化剤、酸味料、甘味料、香料、色素、消泡剤、発泡剤、抗菌剤、崩壊剤などの成分が適宜配合されていても良い。
【0026】
本発明の高分散性セルロース複合体は、「水中で安定に懸濁する成分」を、全セルロース中に30〜100質量%以上含有する。この成分の含有量が30質量%未満であると、ゲル形成機能が劣る。含有量は多いほど好ましいが、50質量%以上であればより好ましい。本明細書中で、「水中で安定に懸濁する成分」とは、具体的には、0.1質量%濃度の水分散液として、これを1000Gで5分間遠心分離した時においても、沈降することなく水中に安定に懸濁しているという性質を有する成分であり、全セルロース量に対する割合で示される。(「水中で安定に懸濁する成分」の測定方法は後述する。)
該成分は高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察および測定される長さ(長径)が0.5〜30μm、幅(短径)が2〜600nm、長さと幅の比(長径/短径比)が20〜400、好ましくは、幅(短径)が100nm以下、より好ましくは50nm以下である繊維状のセルロースからなる。
【0027】
本発明の高分散性セルロース複合体は、0.5質量%濃度の水分散液において、歪み10%、周波数10rad/sの条件で測定される損失正接(tanδ)が1未満であり、好ましくは0.6未満である。0.6未満であるとそれらの性能はさらに秀でたものとなる。損失正接が1以上であると、ゲル形成機能が劣る。
【0028】
本発明の高分散性セルロース複合体の損失正接を1未満にするためには、高分散性セルロース複合体の構成成分である、微細繊維状セルロース、つまりセルロースのミクロフィブリルを短く切断することなく取り出す必要がある。しかしながら現在の技術では全く「短繊維化」させることなく、「微細化」だけを行うことはできない。(ここで言う「短繊維化」とは繊維を短く切断すること、あるいは短くなった繊維の状態を意味する。また「微細化」とは引き裂くなどの作用を与えて繊維を細くすること、または細くなった繊維の状態を意味する。)つまり損失正接を1未満にするためには、セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させることが重要である。そのための好ましい方法を以下に示すが、これらの方法に何ら限定するものではない。
【0029】
原料として植物細胞壁を起源とするセルロース性物質を選択する場合、セルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ「微細化」を進行させるためには、好ましくは、平均重合度400〜12000で、かつ、α−セルロース含量(%)が60〜100質量%のもの、より好ましくはα−セルロース含量(%)が60〜85質量%のものを選択すると良い。
【0030】
またセルロース繊維の「短繊維化」を最低限に抑えつつ、「微細化」を進行させるために使用する装置としては高圧ホモジナイザーが好ましい。高圧ホモジナイザーの具体例としては、エマルジフレックス(AVESTIN,Inc.)、アルティマイザーシステム(株式会社スギノマシン)、ナノマイザーシステム(ナノマイザー株式会社)、マイクロフルイダイザー(MFIC Corp.)、バルブ式ホモジナイザー(三和機械株式会社、Invensys APV社、Niro Soavi社、株式会社イズミフードマシナリー)などがある。高圧ホモジナイザーの処理圧力としては、60〜414MPa程度が好ましい。
【0031】
この高分散性セルロース複合体は、通常は乾燥物のまま使用するが、水性媒体に分散して液状にしてから使用しても差し支えない。また多糖類も同様である。ただし液状で使用する場合は、ゲル化剤を調合する前に、おのおのの液状物の液温を60℃以下、好ましくは2〜40℃、さらに好ましくは5〜20℃に調節しておくことが望ましい。
【0032】
本発明の多糖類はグルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類、タマリンドシードガムからなる群、好ましくはグルコマンナンとガラクトマンナンからなる群から少なくとも1種が選択され、特に好ましいのはグルコマンナンである。これらの多糖類は、単独で水に溶解させただけではゲル化しない。
【0033】
本発明で使用されるグルコマンナンは、D−グルコースとD−マンノースがβ−1,4結合した構造を有し、グルコースとマンノースの比率が約2:3の多糖類である。精製度が低いと独特の刺激臭があるので、精製度の高いものを使用することが望ましいが、用途に応じてコンニャク粉やコンニャクマンナンを使用しても差し支えない。
【0034】
本発明で使用されるガラクトマンナンとは、β−D−マンノースがβ−1,4結合した主鎖と、α−D−ガラクトースがα−1,6結合した側鎖からなる構造を有する多糖類である。ガラクトマンナンの例としては、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム等があり、マンノースとグルコースの比率は、グアーガムで約2:1、ローカストビーンガムで約4:1、タラガムで約3:1である。これらガラクトマンナンの中で、特に好ましいのはローカストビーンガムである。
【0035】
本発明で使用されるアルギン酸類とは、アルギン酸およびその塩、およびアルギン酸プロピレングリコールエステルを意味する。いずれも水に溶解した状態で使用する必要があり、場合によってはpHや塩濃度を制御する必要がある。アルギン酸はβ-D-マンヌロン酸(Mと略する)とα-L-グルロン酸(Gと略する)からなる1,4結合のブロック共重合体である。Mからなるブロック(M−M−M−M)と、Gからなるブロック(G−G−G−G)と、両残基が交互に入り交じっているブロック(M−G−M−G)、という3つのセグメントから成り立っている。アルギン酸類の中でも、アルギン酸がナトリウムで中和された水溶性の多糖類である、アルギン酸ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0036】
本発明で使用されるタマリンドシードガムとは、主鎖がグルコースで、キシロースを側鎖に持つキシログルカンである。
【0037】
本発明のゲル化剤とは、工業的に実用的な分散条件で調製しても、後述の「温食温度における安定性」や「組織固定化作用」などを発現させることができるゲル化剤である。具体的には、60℃以下、好ましくは2〜40℃、さらに好ましくは5〜20℃の低い温度の水性媒体中で、カッターミキサー、ホモジナイザーなど、工業的に一般に使用される分散装置で分散しても、上述の機能を発現させることのできるゲル化剤である。ここで言うカッターミキサーとは、食品の製造工程で使用されるカッタータイプのミキサーや、家庭用ミキサーなどを指す。ホモジナイザーの例としては、均質化の目的で使用される高圧ホモジナイザー(例:マントンゴーリン型ホモジナイザー)、攪拌型ホモジナイザーなどがある。カッターミキサーおよび攪拌型ホモジナイザーを使用する場合、その回転速度は、通常5000〜12000rpm、好ましくは7000〜10000rpmである。
【0038】
本発明のゲル化剤を構成する、高分散性セルロース複合体と多糖類との質量比は、高分散性セルロース複合体:多糖類=1:9〜9:1であり、好ましくは2:8〜8:2、より好ましくは3:7〜7:3である。
【0039】
本発明のゲル化剤、耐熱性組成物、可食性スポンジ状組成物は、食品だけでなく、医薬医療品、化粧品、工業製品用途へも応用できる。
【0040】
本発明で言う食品の例としては、「プリン、ゼリー、ヨーグルトなどのデザート類」、「アイスクリーム、ソフトクリーム、シャーベットなどの冷菓」、「飲料、みつまめ、ヨーグルトなどにアクセント付けとして添加される具材」、「嚥下障害者用食品、介護食、きざみ食、とろみ食などのユニバーサルデザインフード」、「ゼリー状飲料」、「ソース、タレ、ドレッシング、マヨネーズなどの調味料」、「練りがらしに代表される各種練り調味料」、「麺類」、「フルーツソース、フルーツプレパレーション、ジャムに代表される果肉加工品」、「食品に区分される流動食類」、「健康食品や栄養強化食品」、「茶碗蒸しや豆腐などのゲル状食品」、「かまぼこなどの練り製品」、「ソーセージなどの畜肉食品」、「ホイップクリームなどの乳製品」、「惣菜・弁当類」、「通常飲料(コーヒー、茶類、アイソトニック飲料、牛乳、乳飲料、豆乳類、抹茶、ココア、しるこ、ジュースなど)として摂取されるもののゲル化物」、「ペットフード類」などがあげられ、レトルト食品、冷凍食品、電子レンジ用食品等のように、形態または用時調製の加工手法が異なっていても本発明に含まれる。上述の例以外にも、本発明のゲル化剤を使用することによって、現在一般的に市場に流通していない新規な食品形態をも提供することが可能となる。新規な食品形態の例としては、卵の代わりに本発明のゲル化剤を使用した茶碗蒸し、プリン、マヨネーズなどの「新規なアレルゲン除去食品」、米の代わりに本ゲル化剤を使用したかゆ状食品などの「新規な低カロリー食品」、スープやみそしるなどをゲル化させ温めて摂取できる「食事代替チュアパック飲料」などがある。また一般的な食品は、pH3〜8、食塩濃度0.01〜20%程度で提供されることが多いので、食品用ゲル組成物としては、これらの条件下でも機能を発現することが求められている。
【0041】
本発明で言う医薬医療品の例としては、「経口医薬品、ホルモン剤などの経鼻医薬品、経腸医薬品、外皮用薬、経皮医薬品などの医薬品類」、造影剤、「医薬品に区分される流動食類」、「薬用化粧品、ビタミン含有保健剤、毛髪用剤、薬用歯磨き剤、浴用剤、殺虫剤・防虫剤、腋臭防止剤、口内清涼剤などの医薬部外品」、「人工軟骨、薬物担体、DNA担体、生体用接着剤、創傷被覆材、人工臓器などの生体材料」、貼布剤、コーティング剤などがあげられる。
【0042】
本発明で言う化粧品の例としては、「美容成分含有ゲル状化粧料、パック、モイスチャークリーム、マッサージクリーム、コールドクリーム、クレンジングクリーム、洗顔料、バニシングクリーム、エモリエントクリーム、ハンドクリーム、日焼け止め用化粧料などの皮膚用化粧品」、「ファンデーション、口紅、リップクリーム、ほほ紅、サンスクリーン化粧料、まゆ墨、マスカラ等まつげ用化粧料、マニキュアや除光液等のつめ化粧料などの仕上用化粧品」、「シャンプー、ヘアリンス、ヘアトリートメント、ポマード、チック、ヘアクリーム、香油、整髪料、ヘアスタイリング剤、ヘアスプレー、染毛料、育毛剤や養毛剤などの頭髪用化粧品」、さらにはハンドクリーナーのような洗浄剤、浴用化粧品、ひげそり用化粧品、芳香剤、歯磨き剤、軟膏、貼布剤などがあげられる。
【0043】
本発明で言う工業製品の例としては、顔料、塗料、インク類、消臭・芳香剤、抗菌・防カビ剤、接着剤、コーティング剤、界面活性剤、「紙おむつなどの衛生材料」、「細胞、細菌、ウイルスなどの培養材料」、「電気泳動用ゲル、クロマトカラムあるいはその充填剤などの実験材料」、「土壌改良剤、植物栽培用保水材などの農業・園芸用品」、人工雪、ろ過材、洗剤、液体石けん、火薬・爆薬類、燃料などがあげられる。
【0044】
本発明の耐熱性組成物や可食性スポンジ状組成物には、ゲル化剤と水の他に、食品素材(畜肉、魚肉、豆・穀類およびその粉砕物、牛乳・乳製品、はっ酵乳、野菜、果物、果汁、食用油脂等)、嗜好飲料(コーヒー、茶類、ジュース、乳飲料、豆乳等)、調味料(みそ、しょうゆ、砂糖、塩、グルタミン酸ナトリウム等)、甘味料、糖類、糖アルコール類、香料、色素、香辛料、酸味料、乳化剤、界面活性剤、保存料、日持向上剤、抗菌剤、崩壊剤、消泡剤、発泡剤、pH調整剤、増粘安定剤、食物繊維、栄養強化剤(ビタミン、ミネラル、アミノ酸類等)、エキス類、タンパク質、でんぷん類、ペプチド、アルコール類、有機溶剤、可塑剤、油脂、緩衝液、燃料、火薬・爆薬類、酸、アルカリ、イオン性物質、マイクロカプセル、美容成分(美白成分、保湿成分等)、生理活性物質、薬効成分、医薬品添加物、農薬、肥料、消臭剤、殺虫剤、金属類、触媒、セラミック、塗料、インク、顔料、研磨剤、合成高分子(プラスチック、ゴム、合成繊維等)、天然由来高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸、天然繊維等)、紙などが配合されていても良い。
【0045】
本発明の耐熱性組成物、および可食性スポンジ状組成物を調製するときの、ゲル化剤やその他材料を加える順番は特に限定しないが、その他材料の中にはゲル形成を阻害するものがあるので、まずゲル化剤分散液を調製してから、その他材料を添加して混合し、ゲル化剤を含む液状組成物を調製するのが望ましい。その他材料の温度、その他材料を混合する際の温度も、60℃以下、好ましくは2〜40℃、さらに好ましくは5〜20℃に保っておくことが望ましい。
【0046】
本発明の耐熱性組成物は、本発明のゲル化剤を配合することにより、形成されるゲル状組成物であり、後述の耐熱性を持つ。耐熱性組成物に対するゲル化剤の配合量は、特に定めるものではないが、0.1〜5質量%程度が好ましく、さらに好ましくは0.3〜2質量%程度である。ここで言う耐熱性とは、具体的には、熱に対する「組織固定化作用」と、「温食温度おける安定性」のことである。
【0047】
本発明の組織固定化作用とは、加熱処理(殺菌処理)を施しても、ゲルが溶解せず均一な組織を保ち、投入した粒子の沈降・浮上を抑制する作用のことであり、これらの機能ゆえに、強い加熱処理(殺菌処理)が必要な常温流通ゲル食品、熱に安定な多層ゲル、熱に安定な固形物含有ゲルなどの供給が可能となる。この組織固定化作用は、固定化指標をもとに表される。本発明のゲル化剤の、1質量%水分散液をゲル化させて製造されたゲル状組成物の固定化指標が、80%以上である場合に、組織固定化作用を有すると判定する。ここで言う固定化指標とは、全粒子における固定化粒子の割合(%)であり、「固定化指標(%)=〔α−(β+γ)〕/α×100」で表される。(α:全粒子数、β:液面に浮いている粒子数、γ:底面に沈降している粒子数)
本発明の粒子とは、比重が0.1〜3.5で、かつ、1つ1つの粒子が、目視で判別できる大きさの粒子である。目視で判別できる大きさの粒子とは、具体的には、後述する粒子の長径および短径が50μm以上の粒子を指す。50μm未満の場合、人間の視力では目視で粒子を確認することは困難である。長径および短径が50μm以上であれば、粒子の形状は、特に制限されるものではない。
【0048】
温食温度における安定性とは、製造・保存後に、温食温度つまり50℃まで温めた場合に、溶解することなく、形状を保ち、後述の方法で測定するゲル破断強度が0.01N以上のものを指す。このゲル破断強度は通常0.03〜1N程度である。
【0049】
この耐熱性組成物は再度加熱しても、溶解したり離水したりすることがない。食感としては弾性が少なく、かつ、きわめて糊状感が少ないという特徴を有する。添加量を低くすると、非常に柔らかいゲルとなるが、やはり耐熱性に優れ、離水が少ない。そのため、一般的なデザート等に使用される場合はもちろん、近年注目されている嚥下障害者用介護食やダイエット食品のようなレトルト食品、栄養補給などの目的で使用されるチュアパック飲料などに好適である。すなわち食の多様化の観点から温かい食事を提供できること、柔らかいゲルであっても離水が少ないこと、チュアパック飲料として吸いだせること、レトルト殺菌した場合でもゲル構造が維持されるので、固形物が配合されていても沈降・浮上することなく、殺菌前の均一な組織を維持できることなどがその理由である。
【0050】
次に、本発明の耐熱性組成物の製造方法について説明する。
本発明の耐熱性組成物の製造方法は、簡単に表現すれば、工業的に実用的な分散装置を使用して、ゲル化剤を60℃以下の比較的低い温度で分散する「分散工程」、ゲル化剤分散液またはゲル化剤を含む液状組成物を容器に充填する「充填工程」、その充填物をゲル化させる「ゲル化反応工程」からなる。ここで最も重要なのは、分散工程である。以下(1)〜(4)に、その製造方法の好ましい例を示すが、何らこの方法に限定されるものではない。
(1)準備
本発明の高分散性セルロース複合体と、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類、タマリンドシードガムからなる群より選択される少なくとも1種の多糖類を配合したゲル化剤を調合する。
【0051】
この高分散性セルロース複合体は、通常は乾燥物のまま使用するが、水性媒体に分散して液状にしてから使用しても差し支えない。また多糖類も同様である。ただし液状で使用する場合は、ゲル化剤を調合する前に、おのおのの液状物の液温を60℃以下、好ましくは2〜40℃、さらに好ましくは5〜20℃に調節しておくことが望ましい。
【0052】
使用する多糖類は、溶解や膨潤が速いタイプのものを選択するのが好ましい。
(2)分散工程
次に(1)で調合したゲル化剤を、水に投入し、カッターミキサー、ホモジナイザーなど、工業的に一般に使用される分散装置で分散する。ここで言うカッターミキサーとは、食品の製造工程で使用されるカッタータイプのミキサーや、家庭用ミキサーなどを指し、回転速度は7000〜12000rpm程度で使用されるものが一般的である。ホモジナイザーの例としては、均質化の目的で使用される高圧ホモジナイザー(例:マントンゴーリン型ホモジナイザー)、攪拌型ホモジナイザーなどがある。
【0053】
予め60℃以下、好ましくは2〜40℃、さらに好ましくは5〜20℃に温度調節した水に、(1)で調合したゲル化剤を投入し、60℃以下、好ましくは2〜40℃、さらに好ましくは5〜20℃に温度を保ちながら分散する。ゲル化剤の分散条件は、カッターミキサーおよび攪拌型ホモジナイザーを使用する場合、5000〜12000rpm、好ましくは7000〜10000rpmで、5〜15分、好ましくは5〜8分程度分散する。カッタータイプのミキサーは刃が鋭く、高速で回転させることによって、ゲル化剤の構成成分である微細繊維状セルロースが切断されて短繊維化するので、15000rpm以上でゲル化剤を分散するのは好ましくない。
【0054】
高圧ホモジナイザーを使用する場合も、60℃以下、好ましくは2〜40℃、さらに好ましくは5〜20℃に温度を保ちながら、5〜55MPa、好ましくは10〜20MPaで処理するのが好ましい。
【0055】
ゲル化剤やその他材料を加える順番は特に限定しないが、その他材料の中にはゲル形成を阻害するものがあるので、まずゲル化剤分散液を調製してから、その他材料を添加して混合し、ゲル化剤を含む液状組成物を調製するのが望ましい。その他材料の温度、その他材料を混合する際の温度も、60℃以下、好ましくは2〜40℃、さらに好ましくは5〜20℃に保つことが望ましい。
(3)充填工程
(2)で調製したゲル化剤分散液、あるいはゲル化剤を含む液状組成物を、60℃以下、好ましくは2〜40℃、さらに好ましくは5〜20℃に保った状態で、容器に充填する。充填する容器としては特に限定するものではないが、容器の例としては、プリンカップ、レトルトパウチ、チュアパック容器、ガラス容器、食器などがあり、後述の「ゲル化反応工程」で加熱処理を加えるものについては、加熱条件に対応する耐熱性素材の容器を使用する。
(4)ゲル化反応工程
(3)の充填物をゲル化させるには、充填後に内容物の攪拌・振とう・突沸を伴わず、内容物が振動しない状態でゲル化反応を進行させることが重要である。ただし外側の容器が動いても、充填された内容物が振動しない状態であれば問題ない。
【0056】
この耐熱性組成物は80℃未満の温度でも、時間が経過(例えば5℃で24時間等)すればゲル化するが、架橋反応速度(ゲル化反応速度)を増大させるためには80℃以上、好ましくは105〜150℃、特に105〜121℃で加熱処理を行うのが好ましい。本発明のゲル化剤の構成成分である、高分散性セルロース複合体と特定の多糖類は、加熱により架橋反応速度(ゲル化反応速度)が急激に大きくなる。加熱条件の目安としては、80℃で1〜3時間程度、105℃以上であれば30分程度である。この加熱によるゲル化反応工程は、レトルト殺菌などの殺菌処理工程でも代用可能である。
【0057】
本発明のスポンジ状組成物とは、海綿状組織を有するゲル状組成物を意味する。その孔は、短径(D)および長径(L)が1〜1000μm程度であり、L/Dが1〜10程度の、三角、四角、台形、菱形、五角形、六角形などの多角形状の形を有している。なお、孔の形状は、ゲル状組成物を鋭利なナイフで薄片状に切り出し、充分水を加えた状態で、光学顕微鏡で透過光あるいは偏光を用いることで観察することができる。また、凍結乾燥後にSEMで観察することも可能である。孔を形成する隔壁部は、高分散性セルロース複合体の分散物とグルコマンナンがゲルを形成しており、その水分は5〜50%程度である。そして孔に保持される水分は90〜95%程度である。
【0058】
本発明のスポンジ状組成物は、上述の耐熱性組成物と同様の方法で処理した、ゲル化剤分散液またはゲル化剤を含む液状組成物を凍結し、次いで解凍することによって製造される。この凍結は、ゲル化剤分散液またはゲル化剤を含む液状組成物を容器に入れて、冷却し、凍結すればよい。ブライン等の冷媒に浸漬する方法、冷凍庫のような低温雰囲気に静置する方法、加圧下で氷点以下に冷却した後、常圧まで減圧して凍結させる方法などで適宜選択して使用する。凍結温度は、海綿状組織の形成に大きな影響を及ぼす。例えば、マイナス20℃以上の比較的高い温度で凍結した場合、孔が大きくなり、そして隔壁部が厚くなり、ザクザク感の強い食感になる傾向がある。また、例えばマイナス45℃以下の比較的低い温度で凍結した場合、孔が小さくなり、やわらかく滑らかな食感になる傾向がある。解凍は、0℃を超える温度に静置すればよい。それは室温でも、それより高い温度でも良い。
【0059】
このようにして得られる、スポンジ状組成物は、可食性であり、食品に用いることができて、かつ通常一般人が咀嚼してかみ切ることができる硬さのものであり、後述の方法で測定する時の破断強度は、98mN〜5000mN程度である。また、本発明のスポンジ状組成物は、食器洗い等に使用されるスポンジのように、スプーンなどで押すと水を放出して体積が収縮するが、これに充分な水を与えると、水を吸収して膨らみ、元の形状に復帰する。これは繰り返し行うことができ、すなわち可逆的に水を吸収・放出することができる。但し、これは咀嚼するとかみ切れる程度の硬さであり、海綿状組織に由来するザクザク、あるいはシャリシャリとした食感を有する。食する時に、ゲル全体からしみ出す水分のジューシー感と、かみ切る時のザクザクとした食感は、既存のゲル(例えば、寒天、カラギーナン/ローカストビーンガム・ゲル、ナタデココ、コンニャクなど)とは異なる新規なものである。またこの可食性スポンジ状組成物を解凍せず、凍ったまま切削すれば、人工雪としても使用できる。
【0060】
本発明の可食性スポンジ状組成物は、フルーツポンチ、みつまめ、ゼリーの具材等のデザート用食材に好適である。この場合例えば、可食性スポンジ状組成物を形成した後、それをシロップ漬けにしてデザートに配合すればよい。また、飲料、スープ、フィリング、などのアクセント付けとしても使用できる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、何らこれに限定されるものではない。なお、測定は以下の通り行った。
<セルロース性物質の平均重合度>
ASTM Designation: D 1795−90「Standerd Test Method for Intrinsic Viscosity of Cellulose」に準じて行う。
<セルロース性物質のα−セルロース含有量>
JIS P8101−1976(「溶解パルプ試験方法」5.5 αセルロース)に準じて行う。
<セルロース性物質の結晶化度>
JIS K 0131−1996(「X線回折分析通則」)に規定されるX線回析装置で得られたX線回折図の回折強度値から、Segal法により算出したもので次式によって定義される。
結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100
ここで、Ic:X線回析図の回折角2θ=22.5度での回折強度、Ia:同じく回析角2θ=18.5度付近のベースライン強度(極小値強度)である。
<セルロース繊維(粒子)の形状(長径、短径、長径/短径比)>
セルロース繊維(粒子)のサイズの範囲が広いので、一種類の顕微鏡で全てを観察することは不可能である。そこで、繊維(粒子)の大きさに応じて光学顕微鏡、走査型顕微鏡(中分解能SEM、高分解能SEM)を適宜選択し、観察・測定する。
【0062】
光学顕微鏡を使用する場合は、固形分濃度が0.25質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、「エクセルオートホモジナイザー」(日本精機株式会社製)で、15000rpmで15分間分散したものを、適当な濃度に調整し、それをスライドガラスにのせ、さらにカバーグラスをのせて観察する。
【0063】
また、中分解能SEM(JSM−5510LV、日本電子株式会社製)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約3nm蒸着して観察する。
【0064】
高分解能SEM(S−5000、株式会社日立サイエンスシステムズ製)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約1.5nm蒸着して観察する。
【0065】
セルロース繊維(粒子)の長径、短径、長径/短径比は撮影した写真から15本(個)以上を選択し、測定した。繊維はほぼまっすぐから、髪の毛のようにカーブしているものがあったが、糸くずのように丸まっていることはなかった。短径(太さ)は、繊維1本の中でもバラツキがあったが、平均的な値を採用した。高分解能SEMは、短径が数nm〜200nm程度の繊維の観察時に使用したのだが、一本の繊維が長すぎて、一つの視野に収まらなかった。そのため、視野を移動しつつ写真撮影を繰り返し、その後写真を合成して解析した。
<損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)>
(1)固形分濃度が0.5質量%の水分散液となるようにサンプルと水を量り取り、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(3)動的粘弾性測定装置にサンプル液を入れてから5分間静置後、下記の条件で測定し、周波数10rad/sにおける損失正接(tanδ)を求める。
【0066】
装置 :ARES(100FRTN1型)
(Rheometric Scientific,Inc.製)
ジオメトリー:Double Wall Couette
温度 :25℃
歪み :10%(固定)
周波数 :1→100rad/s(約170秒かけて上昇させる)
<「水中で安定に懸濁する成分」の含有量>
以下の(1)〜(5)および(3’)〜(5’)より求める。
【0067】
(1)セルロース濃度が0.1質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散する。
【0068】
(2)サンプル液20gを遠沈管に入れ、遠心分離機にて1000Gで5分間遠心分離する。
【0069】
(3)上層の液体部分を取り除き、沈降成分の質量(a)を測定する。
【0070】
(4)次いで、沈降成分を絶乾し、固形分の質量(b)を測定する。
【0071】
(5)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出する。
【0072】
c=5000×(k1+k2) [質量%]
但し、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。(ここで、k1:上層の液体部分に含まれる「微細繊維状のセルロース」の量、k2:沈殿成分に含まれる「微細繊維状のセルロース」の量、w1:上層の液体部分に含まれる水の量、w2:沈殿成分に含まれる水の量、s2:沈殿成分に含まれる「水溶性高分子+親水性物質」の量とする。)
k1=0.02−b+s2
k2=k1×w2/w1
(水溶性高分子+親水性物質)/セルロース
=d/f [配合比率]
w1=19.98−a+b−0.02×d/f
w2=a−b
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
「水中で安定に懸濁する成分」の含有量が非常に多い場合は、沈降成分の重量が小さな値となるので、上記の方法では測定精度が低くなってしまう。その場合は(3)以降の手順を以下のようにして行う。
【0073】
(3’)上層の液体部分を取得し、質量(a’)を測定する。
【0074】
(4’)次いで、上層成分を絶乾し、固形分の質量(b’)を測定する。
【0075】
(5’)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出する。
【0076】
c=5000×(k1+k2) [質量%]
但し、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。(ここで、k1:上層の液体部分に含まれる「微細繊維状のセルロース」の量、k2:沈殿成分に含まれる「微細繊維状のセルロース」の量、w1:上層の液体部分に含まれる水の量、w2:沈殿成分に含まれる水の量、s2:沈殿成分に含まれる「水溶性高分子+親水性物質」の量とする。)
k1=b’−s2×w1/w2
k2=k1×w2/w1
(水溶性高分子+親水性物質)/セルロース
=d/f [配合比率]
w1=a’−b’
w2=19.98−a’+b’−0.02×d/f
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
もし、(3)の操作で上層の液体部分と沈降成分の境界が明瞭ではなく分離が難しい場合は適宜セルロース濃度を下げて操作を行う。
<0.5%粘度>
(1)高分散性セルロース複合体または微細繊維状セルロース複合体と水を、0.5質量%となるように量り取った。
(2)「T.K.ホモミクサー」(特殊機化工業株式会社製)を使用して、25℃、8000rpmで10分間分散した。
(3)ビーカーに充填し、25℃の雰囲気中に3時間静置後、静置状態で回転粘度計(B形粘度計、東機産業株式会社製、「TV-10形」)をセットし、60秒後の粘度を読みとった。なお、ローター回転数は3rpmとし、ローターおよびアダプターは粘度によって適宜変更した。
<耐熱性組成物の破断強度、温食温度における耐熱性>
(1)ゲルの原料となる1質量%ゲル化剤分散液、またはゲル化剤を含有する液状組成物を、内径約45mmの円筒状ガラス容器に、高さ約45mmになるまで注入・充填する。
(2)所定の条件でゲルを製造し、保存、加温(温調)する。
(3)ゲルを容器から取り出すことなくそのまま、以下の条件で測定する。
装置:RHEO METER(NRM-2002J型)(不動工業株式会社製)
押し込み治具:10mmφ球状治具
押し込み速度:20mm/min
測定温度:25℃および50℃
(4)温食温度における安定性の判定:50℃で温調したゲル状組成物の入った容器を傾けても流動化せず、かつその破断強度が0.01N以上である場合に、温食温度における安定性があると判断する。
<耐熱性組成物の組織固定化作用>
(1)ゲルの原料となる1質量%ゲル化剤分散液、またはゲル化剤を含有する液状組成物に以下に示す粒子を添加して、均一に混合し、内径約45mmの円筒状ガラス容器に、高さ約45mmになるまで注入・充填する。
【0077】
1質量%ゲル化剤分散液の場合:充填容器あたり、20個の紙製板状粒子(長径5mm、短径5mmの正方形、厚さ0.3mm)を添加する。
【0078】
液状組成物の場合:充填容器あたり、10個の粒子(具材等)を添加する。
(2)所定の条件で加熱処理(殺菌処理)する。ただし1質量%ゲル化剤分散液の場合は、105℃で30分間、あるいは80℃で1時間加熱する。
(3)加熱処理終了後、80℃で耐熱性組成物の出来上がりを目視で確認し、添加した粒子を数える。
(4)組織固定化作用の判定:(3)で数えた粒子数をもとに、以下の式を用いて、固定化指標を求める。この固定化指標が80%以上であるときに、組織固定化作用があると判断する。
【0079】
固定化指標(%)=〔α−(β+γ)〕/α×100(α:全粒子数、β:液面に浮いている粒子数、γ:底面に沈降している粒子数)
<可食性スポンジ状組成物の切断強度>
調製したゲルを高さ10mm、巾20mm、長さ30mmの立方体にカットしたものを試料として、以下の条件で測定する。
装置:RHEO METER(NRM-2002J型)(不動工業株式会社製)
押し込み治具:0.3mmピアノ線治具
押し込み速度:60mm/min
<pH>
ゲル化する前の、ゲル化剤を含有する液状組成物を使用して、pH計(東亜ディーケーケー株式会社製、「HM−50G形」)で測定した。
【0080】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
(a)高分散性セルロース複合体αの製造:市販麦わらパルプ(平均重合度=930、α-セルロース含有量=68%)を、6×16mm角の矩形に裁断し、固形分濃度が77質量%になるように水を加えた。これを、水とパルプチップができるだけ分離しないよう注意して、カッターミル(インペラー回転数:3600rpm)に1回通し、セルロース濃度が2質量%、そしてカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(以下CMC−Naと言う)の濃度が0.118質量%になるようにカッターミル処理品とCMC−Naと水を量り取り、繊維の絡みがなくなるまで撹拌した。
【0081】
得られた水分散液をそのまま、高圧ホモジナイザー(処理圧力100MPa)で10パスし、セルローススラリーαを得た。このセルローススラリーαを、固形分濃度が0.25質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、「エクセルオートホモジナイザー」(日本精機株式会社製)で、15000rpmで15分間分散したものを、適当な濃度に調整した。光学顕微鏡および中分解能SEMで観察したところ、長径が10〜500μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜200の微細繊維状セルロースが観察された。また結晶化度は、73%以上だった。
【0082】
次いで、セルロース:CMC−Na:デキストリン:ナタネ油=64:17:18.7:0.3の質量比となるように、セルローススラリーαに、CMC−Na(1質量%水溶液粘度:約3400mPa・s)、デキストリン(DE:約28)、ナタネ油を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、T.K.AUTO HOMO MIXER)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、前述の高圧ホモジナイザーで20MPaで1パス処理し、これを「セルローススラリーα2」とした。これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、高分散性セルロース複合体αを得た。高分散性セルロース複合体αの結晶化度は55%以上、損失正接は0.48、「水中で安定に懸濁する成分」は100質量%だった。光学顕微鏡にて観察したところ、長径が10〜800μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜200の繊維状のセルロースが観察された。また、「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が0.5〜10μm、短径が20〜100nm、長径/短径比が15〜200のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0083】
また高分散性セルロース複合体αの0.5%粘度は、3500mPa・sであり、後述する比較例1の微細繊維状セルロース複合体βの0.5%粘度は、1350mPa・sであった。つまりこの高分散性セルロース複合体αの「崩壊・分散性指標(%)」は、259%であった。
(1)上述の(a)記載の高分散性セルロース複合体αとグルコマンナン(清水化学株式会社製、微粒子タイプ)を、7:3の質量比で混合し、ゲル化剤aとした。
(2)ゲル化剤aの濃度が1質量%となるように、25℃の水に添加し、約11000rpmの家庭用ミキサー(サンヨー株式会社製)で5分間分散した。分散により温度が10℃上昇した。
(3)このゲル化剤分散液を、内径約45mmの耐熱性の円筒状ガラス容器に、高さ約45mmになるまで注入・充填した。
(4)これをレトルト殺菌機(株式会社平山製作所製)で、105℃で30分間加熱処理し、加熱処理後に25℃で24時間保存したものを耐熱性ゲルA(25℃)とし、加熱処理後に5℃で23時間保存し、さらに50℃で1時間温調したものを耐熱性ゲルA(50℃)とした。
(5)耐熱性ゲルA(25℃)と耐熱性ゲルA(50℃)のゲル破断強度を、以下の条件で測定した結果を表1に示す。
【0084】
装置:RHEO METER(NRM-2002J型)(不動工業株式会社製)
押し込み治具:10mmφ球状治具
押し込み速度:20mm/min
測定温度:25℃および50℃
(6)次に組織固定化作用について評価した。上記(1)〜(2)と同様の方法で1質量%ゲル化剤分散液を調整し、さらに紙製板状粒子(長径5mm、短径5mmの正方形、厚さ0.3mm、比重0.94)を添加して、スパチュラで混合した。
(7)さらに紙製板状粒子が充填容器あたり20個入るように、上記(3)と同様の方法で充填・密封し、上記(4)と同様の条件で加熱処理した。
(8)加熱処理終了後、80℃になった時点で、紙製板状粒子を数え、固定化指標を求めた。結果を表1に示す。
[実施例2]
ゲル化剤aの濃度が1質量%となるように、5℃の水に添加し、約11000rpmの家庭用ミキサー(三洋電機株式会社製)で5分間分散した。分散により温度が10℃上昇した。このゲル化剤分散液を使用して、実施例1と同様の方法で充填・加熱処理を行った。さらに実施例1と同様の条件で保存して、耐熱性ゲルB(25℃)と耐熱性ゲルB(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で測定した評価結果を表2に示す。
[実施例3]
実施例1で用いた、ゲル化剤aの濃度が1質量%となるように、25℃の水に添加し、攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、「T.K.ホモミクサー」)を使用して、25℃で、7000rpmで5分間分散した。このゲル化剤分散液を使用して、実施例1と同様の容器に充填し、80℃で1時間加熱処理した。さらに実施例1と同様の条件で保存して、耐熱性ゲルC(25℃)と耐熱性ゲルC(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で測定した評価結果を、表3に示す。
[実施例4]
実施例1に記載の高分散性セルロース複合体αとローカストビーンガム(ユニテックフーズ株式会社製)を、5:5の質量比で混合し、ゲル化剤bとした。
【0085】
ゲル化剤bの濃度が1質量%となるように、40℃の水に添加し、約11000rpmの家庭用ミキサー(サンヨー株式会社製)で5分間分散した。分散により温度が15℃上昇した。実施例1と同様の容器に充填し、実施例3と同様の方法で、加熱処理した。さらに実施例1と同様の条件で保存して、耐熱性ゲルD(25℃)と耐熱性ゲルD(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で測定した評価結果を、表4に示す。
[実施例5]
実施例1に記載の高分散性セルロース複合体αとアルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ製)を、9:1の質量比で混合し、ゲル化剤cとした。
ゲル化剤cの濃度が1質量%となるように、実施例1と同様の方法で分散したところ、分散により温度が15℃上昇した。実施例1と同様の容器に充填し、実施例3と同様の方法で、加熱処理した。さらに実施例1と同様の条件で保存して、耐熱性ゲルE(25℃)と耐熱性ゲルE(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で測定した評価結果を表5に示す。
[実施例6]
実施例1で使用したゲル化剤aを配合して、以下の手順でコーンスープゲルFを製造し、評価した。
(1)50℃の水88.5質量%に、ゲル化剤aを0.5質量%添加し、実施例1で使用した家庭用ミキサーで3分間分散した。さらに固形分換算で11質量%の多糖類を含有しない市販乾燥スープ(株式会社ポッカコーポレーション製、浮き身を取り除いたもの)を添加して、プロペラ攪拌翼で、さらに2分間分散したところ、温度が8℃上昇した。さらにとうもろこし粒子(長径10mm、短径8mm、厚み5mm、冷凍品を解凍したもの)を添加して、スパチュラで混合した。この液状組成物のpHは6.8、食塩濃度は0.73質量%であった。
(2)充填容器あたりとうもろこし粒子が10粒入るように、実施例1と同じ容器に同じ高さまで充填し、実施例1と同じレトルト殺菌機で、121℃で30分間、加熱処理(殺菌処理)した。
(3)殺菌処理後、80℃になった時点で粒子の数を数えた。
(4)実施例1と同様の方法で保存し、コーンスープゲルF(25℃)とコーンスープゲルF(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で、ゲル破断強度と温食温度における安定性を評価した結果を、表6に示す。コーンスープゲルF(50℃)を食したところ、糊状感がなく、フレーバーリリースも良好であった。
(5)また(1)の液状組成物をレトルトパウチに充填し、(2)と同様の条件で加熱処理して、チュアパック飲料様のものを製造した。25℃で23時間保存後、50℃で1時間温調し、パウチにストローを差し込んで吸ったところ、スムーズに吸引可能であり、糊状感もなく、フレーバーリリースも良好であった。
[実施例7]
実施例1で使用したゲル化剤aを配合して、以下の手順で二層プリンGを製造し、評価した。
(1)以下の手順で「緑色液状組成物」と「橙色液状組成物」を調製した。
(1.1)緑色液状組成物:20℃の50質量%の水に、ゲル化剤aを0.7質量%添加し、実施例1で使用した家庭用ミキサーで5分間分散した。さらに20質量%の枝豆(冷凍品を解凍したもの)、牛乳24質量%、グラニュー糖5.4質量%、食塩0.1質量%、無塩バター0.5質量%を添加して、さらに2分間分散したところ、液温は38℃であった。さらにグリーンピース粒子(長径7mm、短径8mm、冷凍品を解凍したもの)を添加して、スパチュラで混合した。この液状組成物のpHは6.9、食塩濃度は0.1%であった。
(1.2)橙色液状組成物:(1.1)記載の緑色液状組成物の枝豆の代わりに、かぼちゃ(冷凍品を解凍し、皮を除去したもの)を使用して、(1.1)と同様の方法で調製した。液温は38℃であった。pHは6.9、食塩濃度は0.1%であった。
(2)実施例1と同じ容器に、充填容器あたりグリーンピース粒子が10粒となるように充填した。充填方法は、緑色液状組成物を約23mmまで、さらにその上に橙色液状組成物を約45mmの高さまで、2層となるように充填した。さらに実施例1と同じレトルト殺菌機で、121℃で30分間加熱処理した。
(3)殺菌処理後、80℃になった時点で粒子の数を数えた。この時、ゲル状組成物は充填前と同様、きれいな2層を維持していた。
(4)実施例1と同様の方法で保存し、二層プリンG(25℃)とコーンスープゲル(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で、ゲル破断強度と温食温度における安定性を評価した結果を、表7に示す。二層プリンG(25℃)を5℃に冷却したものと、二層プリンG(50℃)を食したところ、糊状感がなく、フレーバーリリースも良好であった。
[実施例8]
実施例1で使用したゲル化剤aを配合して、以下の手順でアイソトニックゼリーHを製造し、評価した。
(1)10℃の水91.5質量%に、ゲル化剤aを1.1質量%添加し、実施例1で使用した家庭用ミキサーで5分間分散した。さらに7.4質量%の粉末清涼飲料(大塚製薬株式会社製)を添加して、さらにプロペラ攪拌翼で、2分間分散したところ、温度が10℃上昇した。この液状組成物は、pH3.5であり、ナトリウム520ppm、カリウム227ppm、カルシウム23ppm、マグネシウム6ppmを含有していた。さらに黄桃(5mm角、缶詰をカットしたもの)を添加して、スパチュラで混合した。
(2)充填容器あたり黄桃粒子が10粒入るように、実施例1と同じ容器に同じ高さまで充填し、90℃で1時間、加熱処理した。
(3)殺菌処理後80℃になった時点で、粒子の数を数えた。
(4)実施例1と同様の方法で保存し、アイソトニックゼリーH(25℃)とアイソトニックゼリーH(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で、ゲル破断強度と温食温度における安定性を評価した結果を、表8に示す。アイソトニックゼリーH(25℃)を5℃に冷やしたものを食したところ、糊状感がなく、フレーバーリリースも良好であった。
(5)また(1)の液状組成物をレトルトパウチに充填し、(2)と同様の条件で加熱処理して、チュアパック飲料様のものを製造した。25℃で23時間保存後、5℃で1時間温調し、パウチにストローを差し込んで吸ったところ、スムーズに吸引可能であり、糊状感もなく、フレーバーリリースも良好であった。
[実施例9]
実施例4で使用したゲル化剤bを配合して、以下の手順で吸い物ゲルIを製造し、評価した。
(1)20℃の水96.5質量%に、ゲル化剤bを1質量%添加し、実施例1で使用した家庭用ミキサーで5分間分散した。さらに2質量%の風味調味料(味の素株式会社製)と0.5質量%のしょうゆ(キッコーマン株式会社製)を添加して、さらにプロペラ攪拌翼で、2分間分散したところ、温度が10℃上昇した。この液状組成物は、pH6.8であり、食塩濃度0.9%であった。さらに豆腐(7mm角にカットしたもの)を添加して、スパチュラで混合した。
(2)充填容器あたり豆腐粒子が10粒入るように、実施例1と同じ容器に同じ高さまで充填し、実施例1と同様の方法で加熱処理した。
(3)殺菌処理後80℃になった時点で、粒子の数を数えた。
(4)実施例1と同様の方法で保存し、吸い物ゲルI(25℃)と吸い物ゲルI(50℃)を得た。実施例1と同様の方法で、ゲル破断強度と温食温度における安定性を評価した結果を、表9に示す。吸い物ゲルI(50℃)を食したところ、糊状感がなく、フレーバーリリースも良好であった。
[実施例10]
実施例1の耐熱性ゲルA(25℃)を使用して、家庭用冷凍冷蔵庫の冷凍庫(マイナス20℃)に24時間置き凍結させた。その後40℃の雰囲気下に放置して解凍してスポンジ状ゲルJを得た。
【0086】
このスポンジ状ゲルJは、スパチュラで押すと水を放出して体積が縮み、続いてこれに十分な水を注ぐと、水を吸収して膨らみ再び元の形状に復帰するスポンジ状組成物であった。このゲルが十分に水を吸収した時は、固形分重量の120倍の水を保持していた。また、スパチュラで押して水を放出させた時は、固形分重量の20倍の水を保持していた。
【0087】
このスポンジ状ゲルJを食した時、ザクザクとした食感であった。また、このゲルの薄片をスライドグラスにとり、光学顕微鏡で観察すると、網目構造によって形成される孔は、50μm×60μm〜500μm×550μmの範囲であった。ゲル切断強度は2150mNであった。
[比較例1]
(b)微細繊維状セルロース複合体βの製造:実施例1の高分散性セルロース複合体αを製造する際に使用した、セルローススラリーαとCMC−Naを使用して、セルロース:CMC−Na=80:20の質量比となるように、セルローススラリーαにCMC−Naを添加し、その後は実施例1の(a)と同様の方法で、微細繊維状セルロース複合体βを製造した。
【0088】
得られた微細繊維状セルロース複合体βの結晶化度は70%以上、損失正接は0.53であり、「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は74質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が10〜300nm、長径/短径比が30〜350のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0089】
またこの微細繊維状セルロース複合体βの0.5%粘度は、1350mPa・sであり、実施例1の高分散性セルロース複合体αと比較して、粒子の崩壊・分散性が非常に劣っていた。
【0090】
上述の方法で得られた微細繊維状セルロース複合体βと、実施例1で使用したグルコマンナンを、7:3の質量比で混合したものをゲル化剤dとした。実施例1のゲル化剤aの代わりに、このゲル化剤dを使用して、実施例1と同様の方法で、耐熱性ゲルK(25℃)と、耐熱性ゲルK(50℃)を製造・保存し、評価した結果を表1に示す。また分散によるゲル化剤分散液の温度上昇は10℃であった。
[比較例2]
実施例2のゲル化剤aの代わりに、比較例1で使用したゲル化剤dを、80℃の水に添加し、約11000rpmの家庭用ミキサー(サンヨー株式会社製)で5分間分散した。分散により温度が1℃上昇した。このゲル化剤分散液を使用して、実施例2と同様の方法で充填・加熱処理を行った。さらに実施例2と同様の条件で保存して、耐熱性ゲルL(25℃)と耐熱性ゲルL(50℃)を得た。実施例2と同様の方法で評価した結果を表2に示す。
[比較例3]
実施例3のゲル化剤aの代わりに、比較例1で使用したゲル化剤dを使用して、実施例3と同様の方法で製造・保存・温調し、耐熱性ゲルM(25℃)と耐熱性ゲルM(50℃)を得たが、容器を傾けると内容物が流動化し、ゲル化していなかった。実施例3と同様の方法で評価した結果を表3に示す。
[比較例4]
比較例1で使用した微細繊維状セルロース複合体βと実施例4で使用したローカストビーンガムを、5:5の質量比で混合したものをゲル化剤eとした。
【0091】
実施例4のゲル化剤bの代わりに、ゲル化剤eを使用して、実施例4と同様の方法で製造・保存・温調して、耐熱性ゲルN(25℃)と耐熱性ゲルN(50℃)を得た。実施例4と同様の方法で評価した結果を表4に示す。なお分散による温度上昇は18℃であった。
[比較例5]
比較例1で使用した微細繊維状セルロース複合体βと実施例5で使用したアルギン酸ナトリウムを、9:1の質量比で混合したものをゲル化剤fとした。
【0092】
実施例5のゲル化剤cの代わりに、ゲル化剤fを使用して、実施例5と同様の方法で製造・保存・温調して耐熱性ゲルO(25℃)と耐熱性ゲルO(50℃)を得たが、内容物が流動化し、ゲル化していなかった。実施例5と同様の方法で評価した結果を表5に示す。
[比較例6]
実施例6で使用したゲル化剤aの代わりに、比較例1で使用したゲル化剤dを使用して、製造・保存・温調し、コーンスープゲルP(25℃)とコーンスープゲルP(50℃)を得た。なお、分散によるゲル化剤dを含む液状組成物の温度上昇は8℃であり、pH6.8、食塩濃度0.73%であった。加熱処理終了後80℃になった時点で、コーンスープゲルPの状態を確認したが、ゲルが破壊されており、測定不能であった。実施例6と同様の方法で評価した結果を表6に示す。
[比較例7]
実施例7のゲル化剤aの代わりに、比較例1で使用したゲル化剤dを使用して、製造・保存・温調し、野菜二層プリンQ(25℃)と野菜二層プリンQ(50℃)を得た。実施例7と同様の方法で評価した結果を表7に示す。なお、ゲル化剤aを含有する「緑色液状組成物」の分散後の温度は、37℃、pH6.9、食塩濃度0.1%であった。同様に「橙色液状組成物」の分散後の温度は、39℃、pH6.9、食塩濃度0.1%であった。
[比較例8]
実施例8のゲル化剤aの代わりに、比較例1で使用したゲル化剤dを使用して、製造・保存・温調し、アイソトニックゼリーR(25℃)とアイソトニックゼリーR(50℃)を得た。実施例8と同様の方法で評価した結果を表8に示す。なお、ゲル化剤dを含む液状組成物の分散による温度上昇は、9℃、pH3.5であり、ナトリウム520ppm、カリウム227ppm、カルシウム23ppm、マグネシウム6ppmを含有していた。
[比較例9]
実施例9のゲル化剤bの代わりに、比較例4で使用したゲル化剤eを使用して、吸い物ゲルS(25℃)と吸い物ゲルS(50℃)を製造・保存・温調したが、内容物が流動化し、ゲル化していなかった。実施例9と同様の方法で評価した結果を表9に示す。なお、ゲル化剤eを含有する液状組成物の分散による温度上昇は10℃であり、pH6.8、食塩濃度0.9%であった。
[比較例10]
実施例10の耐熱性ゲルA(25℃)の代わりに、比較例1の耐熱性ゲルK(25℃)を使用して、実施例10と同様の方法で製造し、スポンジ状ゲルTを得た。
【0093】
このスポンジ状ゲルTは、スパチュラで押すと水を放出して体積が縮み、続いてこれに十分な水を注ぐと、水を吸収して膨らみ再び元の形状に復帰するスポンジ状組成物であったが、このゲルを食すると、明らかに不均一で、硬い塊状の部分があった。このスポンジ状ゲルTの薄片をスライドグラスにとり、光学顕微鏡で観察すると、網目構造によって形成される孔は、50μm×60μm〜2500μm×2800μmの範囲であり、非常に不均一であった。また未分散の微小繊維状セルロース複合体βと思われる塊が存在していた。ゲル破断強度の測定を試みたが、サンプリング箇所によりデータが大きくばらついており、信頼性のある評価結果が得られなかった。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
【表7】

【0101】
【表8】

【0102】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、工業的に実用的な分散条件で使用できる、高分散性セルロース複合体と特定の多糖類からなるゲル化剤を提供することにより、それを配合した特徴のあるゲル状組成物を、工業的に製造することができるようになる。加えて分散性の改善により、従来技術よりも少量の添加量で、機能が発現することから経済的である。本発明のゲル化剤を含有する組成物は、耐熱性を持ち食感が良いことから、常温流通・温食ができる新しい食品形態をも提案することができる。
【0104】
これらの性質は食品分野のみならず、医薬医療品、化粧品、工業製品等の分野においても、使用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細繊維状セルロース50〜90質量%と、水溶性高分子3〜47質量%と、親水性物質3〜47質量%からなり、水中で安定に懸濁する成分を30質量%以上含有し、損失正接が1未満であり、崩壊・分散性指標が150%以上である高分散性セルロース複合体と、グルコマンナン、ガラクトマンナン、アルギン酸類、タマリンドシードガムから選択される少なくとも1種の多糖類を、1:9〜9:1の質量比で含有するゲル化剤。
【請求項2】
植物細胞壁を原料とする、結晶性の、微細繊維状セルロースを50〜70質量%と、水溶性高分子10〜30質量%と、親水性物質5〜40質量%からなる請求項1記載の高分散性セルロース複合体と、多糖類がグルコマンナン、ガラクトマンナンであることを特徴とする、請求項1記載のゲル化剤。
【請求項3】
請求項1または2記載のゲル化剤が配合された耐熱性組成物。
【請求項4】
多糖類がグルコマンナンである、請求項1または2記載のゲル化剤が配合された可食性スポンジ状組成物。

【公開番号】特開2006−290972(P2006−290972A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111569(P2005−111569)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】