説明

高含水比の泥土の流動性抑制方法とこれに用いる流動性抑制剤

【課題】 高含水比の泥水又は泥土の流動性を簡単、安全且つ安価に、しかも短時間内に適宜の流動性にまで低減させ、運搬等における取り扱いが容易になるようにする。
【解決手段】 高含水比の泥土内へ、所定量のポリグルタミン酸とポリグルタミン酸架橋物の何れか一方又は両方を流動性抑制剤として混入し、高含水比の泥土の流動性を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として河川浚渫、造成工事、トンネル工事、地盤改良工事等の土木工事に関連して排出される高含水比の汚水又は泥土や汚水処理施設の沈殿池等から排出される土を含んだ高含水汚泥(以下、泥土と総称する)の流動性を簡単な操作でもって短時間内に抑制若しくは安全に、しかも喪失させ、運搬等に於ける取扱いを極めて容易なものに変えるようにした高含水土の流動性抑制方法と、これに用いる流動性抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川浚渫や地盤改良工事等の現場から大量に排出される泥土は、一般的には車輌や船舶を用いて作業現場から投棄場若しくは処理場へ搬出され、ここで必要な場合には固化処理等を行ったあと、投棄したり、或いは再利用される。
【0003】
ところで、上記排出された泥土には、単に水を多量に含んだ土のみから成る泥土だけでなく、多種類の有機腐敗物を含んだ泥土や、工事中に投入された土壌改良剤等の化学物質を含んだ泥土等の多種多様なものが存在する。しかし、何れの泥土も、高含水比のために流動性が高く、運搬等における取扱性の極めて悪いものである。
【0004】
そのため、この種泥土の排出現場等に於いては、一般に、排出されて来た泥土に減水剤(吸水剤)や固化剤等を混入し、その性状をゲル状若しくは軟硬化状に変えたあと、パワーショベル等によって掬い取り、運搬車等へ積載するようにしている。
【0005】
しかし、従前のセメント材を主成分とする安定化剤を用いて泥土の流動性を抑える方法にあっては、セメント中のカルシウム分により処理後の泥土がアルカリ性となるため、動植物等に悪影響を与えることになり、所謂二次公害を生ずると云う難点がある。
【0006】
その為、高分子吸水剤や凝集剤、半水石膏や酸化マグネシウム等の水和物形成剤、水ガラス系グラウト剤等のゲル化(固化)剤等を用い、可能な限り二次公害の発生を防止しつつ泥土の流動性を抑制するようにした処理方法が開発されている。
しかし、何れの方法も、相当に大量の処理剤を投入する必要があるうえ、泥土内への処理剤の混入に手数がかかり、加えて、その流動性が低下するまでに相当の時間を必要としたり、経済性に欠けると云う問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2003−82348号
【特許文献2】特開平10−102059号
【特許文献3】特開平5−320643号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従前の高含水比の泥土の流動性抑制方法及び流動性抑制剤における上述の如き問題、即ち、イ.セメント材を主成分とする安定化剤を使用する方法は、処理後の土がアルカリ性となり、二次公害を生ずること及びロ.吸水剤や凝集剤、水和物形成剤、ゲル化剤等の処理剤を使用する方法は、大量の処理剤を必要とするうえ、流動性の抑制までに長時間を必要とし、経済性に欠けること等の問題を解決し、特別な攪拌又は混合操作を必要とすることなしに泥土内へ良好に浸透し、しかも、相対的に少ない量の流動性抑制剤の混合でもって、あらゆる種類の泥土の流動性を極く短時間内に低下させることが出来るようにした、高含水比の泥土の流動性抑制方法及びこれに用いる流動性抑制剤を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、人畜に無害な生分解性及び吸水性のポリマーを泥土内へ混入することにより、泥土内の水分をポリマーに吸収固定させ、これによって泥土の流動性を所望の流動性にまで低下させるようにしたものであり、請求項1の発明は、高含水比の泥土内へ、所定量のポリグルタミン酸とポリグルタミン酸架橋物の何れか一方又は両方を流動性抑制剤として混入し、高含水比の泥土の流動性を低下させることを発明の基本構成とするものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、流動性抑制剤として、泥土総重量Woの1/1000〜5/1000の重量のポリグルタミン酸を前記泥土内へ混入するようにしたものである。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、流動性抑制剤として、泥土総重量Woの1/10000〜5/10000の重量のポリグルタミン酸架橋物を前記泥土内へ混入するようにしたものである。
【0012】
請求項4の発明は、粉体又は液体状のポリグルタミン酸と、粉体又は液体状のポリグルタミン酸架橋物の何れか一方又は両方から成る高含水比の泥土用の流動性抑制剤としたことを発明の基本構成とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に於いては、人畜に無害な生分解性のポリグルタミン酸及び又はポリグルタミン酸架橋物を流動性抑制剤として泥土内へ混入する構成としているため、流動性を低下せしめた後の泥土が公害の発生や環境汚損の原因となることが一切なく、安全に泥土の流動性抑制を行える。
【0014】
また、極く少量の流動性抑制剤の混入でもって短時間内に、しかも特別な混合操作を必要とすることなしに泥土内の水分を吸着固定することができ、流動性抑制を高能率で、しかも安価に行うことができる。
【0015】
更に、混入する流動性抑制剤の量を増加することにより、泥土をより高度にゲル化若しくは固化することができ、流動性抑制剤の混入量の調整により泥土の流動性を任意に調整することができる。
【0016】
本発明は上述の通り、建設現場や河川浚渫の現場等から排出される泥土の流動性を簡単且つ迅速に調整することができ、泥土の取扱いを大幅に容易化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を説明する。
(基礎試験1)
先ず、本願発明者等は、含水比80〜95wt%の泥土(大阪府下の稲作農業用の圃場から採取した泥土)100gをシャーレに入れ、これに水30mlを加えたものを4個準備した。この時のシャーレ内の泥土の状態は、その外表面がちょうど冠水した状態であった
次に流動性抑制剤として0.1g、0.2g、0.3g及び0.4gのポリグルタミン酸を夫々単独で、前記のシャーレ内へ約60秒かけて徐々に混ぜ合せ、シャーレ内の泥土の流動性の変化状態を観察、調査した。
【0018】
その結果、当該試験用泥土の場合、即ち、農業用圃場から採取した水分80〜95%の泥土100gに水30mlを加えた泥土の場合には、約0.1gのポリグルタミン酸を単独で添加混合することにより、約40〜60分後には湿潤状態(ちょうど冠水した状態)下の泥土の表面の水滴が検出されなくり、その流動性が低下して、スプーンで掬った場合に、所謂山盛状態で掬える程度の流動性の状態になることが判った。
【0019】
(基礎試験2)
同様に、流動性抑制剤としてポリグルタミン酸架橋物を単独で使用し、0.005g、0.01g、0.02g及び0.03gのポリグルタミン酸架橋物を、前記基礎試験1で使用したものと同一の試験用試料を入れた各シャーレに約60秒かけて徐々に混ぜ合せ、シャーレ内の泥土の流動性の変化状態を観察、調査した。
【0020】
その結果、約0.01gのポリグルタミン酸架橋物を混合することにより、湿潤状態(ちょうど冠水した状態)下の泥土の表面の水滴が、吸水剤の全量を混合したあと約1〜2分間で検出されなくなり、その流動性が大幅に低下して、スプーンで掬ったときに山盛り状態で容易に掬える程度の流動性状態になることが判った。
【0021】
尚、本発明で使用するポリグルタミン酸は、図2に示すように、グルタミン酸分子の2つのカルボキシル基のうちのγ位のカルボキシル基とアミノ基とが、アミド結合によってつながってできたポリマーであり、グルタミン酸を原料として枯草菌(Bacillus subtilis)を初めとするBacillus属の微生物によって合成されるものである。本発明においては、日本ポリグル株式会社製(商品名PGA-HM)のポリグルタミン酸を使用している。
【0022】
前記ポリグルタミン酸架橋物は、図2の如き構造を有するγ−ポリグルタミン酸と呼ばれるグルタミン酸が直鎖状に重合してできた分子量が数千から数百万の天然の高分子化合物の水溶液にγ線等を照射するこにより、ポリグルタミン酸PGA−HMの分子間で架橋反応を起こし、より大きな分子量の高分子としたものであって、分子量が数千万の網目構造を持つ分子であると想定されている。本発明においては、日本ポリグル株式会社製(商品名PGA−CL)のポリグルタミン酸架橋物を使用している。
【0023】
尚、ポリグルタミン酸架橋物PGA−CLそのものは、図3の如き構造を有している。また、ポリグルタミン酸PGA−HMの全てが架橋物に変換されているとは限らないので、この中には、出発原料であるポリグルタミン酸PGA−HMが若干含まれている場合がある。
このポリグルタミン酸架橋物PGA−CLは、ポリグルタミン酸PGA−HMに比べて非常に高い保水性を持っていて、後者が自身の重さの約10〜20倍の水を保持することができるのに対して、架橋反応の条件にもよるが、ポリグルタミン酸架橋物PGA−CLは自身の重さの2000倍前後の水を保持する能力をもつものである。
【0024】
また、前記基礎実験では、ポリグルタミン酸とポリグルタミン酸架橋物の両方を混合した場合の流動性の変化状況の観察を行っていないが、両流動性抑制剤の混合比と混合総量とから、流動性がどの程度抑制されるかは容易に推測することができる。
【0025】
表1は、前記基礎実験における流動性抑制剤の混合後の経過時間と、泥土重量との関係を調査した結果を示すものであり、No1欄は流動性抑制剤を添加しないもの、No2欄はポリグルタミン酸0.25gを添加したもの、及びNo3欄はポリグルタミン酸架橋物を0.015g添加したものの各重量を示している。
【0026】
【表1】

【0027】
上記基礎試験から、流動性を抑制する処理を施しても施さなくても、重量変化には大きな差の無いことが判った。しかし、流動性抑制剤を混ぜ合わせたあとの状況には大きな差があり、ポリグルタミン酸の場合は、かなり多量の投与が必要であったのに対し、ポリグルタミン酸架橋物の場合には0.01〜0.02gの混入で効果があり、ゲル状の塊が見られた故に、それ以下の投入量でも効果があると推測できる。また、ポリグルタミン酸架橋物は即効性があり、混ぜ合わせて1〜2分で水分がほぼ見られなくなった。
強度に関しては、ポリグルタミン酸の場合が最も固化の進んだ状態であると考えられ、ポリグルタミン酸架橋物の場合より固化程度が高いことが判った。
【0028】
尚、当該基礎試験の結果から、後述するように、ポリグルタミン酸架橋物を用いた場合には、対象物によっても異なるが、重量比で約100〜200ppm程度の混合でもって、湿潤状態の泥土から水分を吸収し、流動性を抑制することが可能なことがわかった。また、ポリグルタミン酸を用いた場合には、約1000〜2000ppmの投入が必要であるが、より均一に泥土内へ拡散されることにより、より硬く固化されることがわかった。
【0029】
即ち、前記各基礎実験1、2を通して、本願発明者等は、水分含有量が80〜95%(wt%)以上の泥土であっても、流動性抑制剤としてポリグルタミン酸を使用する場合には重量比で泥土100gに対してポリグルタミン酸0.1〜0.2g(約1000〜2000ppm)を混合することにより、また、流動性抑制剤としてポリグルタミン酸架橋物を使用する場合には、重量比で泥土100gにポリグルタミン酸架橋物0.01〜0.02g(100〜200ppm)を混合することにより、ポリグルタミン酸の場合には約0.5〜1時間以内及びポリグルタミン酸架橋物の場合には2〜10分以内に、夫々表面に水滴が見られず且つスプーンでもって山盛り状態に掬い取れる状態にまで、その流動性を低下させ得ることを見出した。
【0030】
本発明は、上述の如き基礎試験をベースとして開発されたものであり、次に本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、基礎杭の構築作業時に排出される汚水(泥土)に本発明を適用して、その流動性を抑制する場合を示す説明図であり、図1に於いて、1は杭打機、2はアースオーガ、3は掘削孔、4はケーシング、5は注入管、6はスイベルジョイント、7は排出パイプ、8は泥水(泥土)、9は汚水受槽、10は流動性抑制剤タンク、11は流動性抑制剤、12は攪拌器、13は処理済み排土である。
【0031】
図1を参照して、杭打機1に保持せしめたアースオーガ2を用いて土中に掘削孔3を形成しつつケーシング4を圧入し、その後、ケーシング4内に鉄筋及びセメントモルタルを注入して基礎杭を形成するような場合には、掘削孔3の穿設時に多量の水がアースオーガ2の先端から掘削孔3内へ噴出されると共に、掘削孔3内から排出パイプ7を通して泥水(泥土)8が地上へ排出される。
【0032】
本発明に於いては、排出されて来た泥水(泥土)8を汚水受槽9内へ貯留し、一定量の泥水8が受槽9内に貯まると、泥水8を受け入れする受槽9を他の受槽9へ切替える。
そして、一定量の泥水8が貯まった受槽9内へ、流動性抑制剤タンク10から所定量の流動性抑制剤11を混入し、これを攪拌器12により軽く攪拌する。
【0033】
前記流動性抑制剤11は、通常はタンク10内へ予め水溶液状の状態にして貯留されているが、粉体の形態で貯留しておいてもよい。
【0034】
また、攪拌器12による攪拌操作は必ずしも必要でなく、流動性抑制剤11を汚水受槽9内へ均等に散布するだけでも、流動性抑制剤11は汚水8内へ、比較的迅速に攪拌若しくは分散混合して行く。
【0035】
流動性抑制剤11の混入量は予め制御弁14により設定されており、通常の水分含有比が80〜95wt%程度の泥土(泥水)8を処理する場合には、泥水8の重量Wo=100gに対して、流動性抑制剤11がポリグルタミン酸のときは、Wp=0.1〜0.5gのポリグルタミン酸(即ち、重量比Wp/Wo=1〜5/1000)を、また、流動性抑制剤11がポリグルタミン酸架橋物のときは、Wp′=0.01〜0.05g(即ち、重量比Wp′/Wo=1〜5/10000)を投入する。
【0036】
前記ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸架橋物から成る流動性抑制剤11の投入混合により、ポリグルタミン酸投入の場合には、約30〜40分後に、またポリグルタミン酸架橋物投入の場合には約2〜5分後に、泥土8内の水分が流動性抑制剤11に吸着(吸水)固定されて、受槽9内の泥土の上部外表面に水分が見えなくなり、泥土8そのものは、ショベルで掬った場合に、泥土が滴下することなしに山盛りの状態で掬える程度に、その流動性が低下する。
【0037】
その結果、運搬等に際して、パワーショベル等で汚水受槽9内の流動性抑制処理を終えた泥土13を掬っても、泥水が逸散されることが皆無となり、泥土13の取扱が極めて容易なものとなる。
また、運搬車の荷台へ積載した場合でも、湿分の比較的多い川砂を運搬するときと略同等の積載状態となり、泥水8の取扱いが極めて容易なものとなる。
【0038】
尚、本実施例においては、所謂現場打ちによる基礎杭の形成時に排出される泥土(汚水)8の流動性抑制処理について述べたが、処理対象である泥土8の性状や種類或いはその発生箇所等は、本発明の適用と全く関係のないことであり、本発明は、泥土8内へ流動性抑制剤11を混入若しくは投入混合することが可能でさえあれば、如何なる場所でも発明の実施が可能であって、泥土の流動性抑制が行えるものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、汚水(泥土)が土壌成分と水との混合物であれば、その出所を問うことなしに適用することができ、土木・建築関係の分野のみならず、畜産、農業、林業等の分野に於いても利用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例を示す説明図である。
【図2】本発明で吸水剤として使用するポリグルタミン酸(PGA−HM)の構造図である。
【図3】本発明で吸水剤として使用するポリグルタミン酸架橋物(PGA−LC)の構造図である。
【符号の説明】
【0041】
1は杭打機
2はアースオーガ
3は掘削孔
4はケーシング
5は注入管
6はスイベルジョイント
7は排出パイプ
8は泥水(泥土)
9は泥水受槽
10は流動性抑制剤タンク
11は流動性抑制剤
12は攪拌器
13は処理済み廃土
14は制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高含水比の泥土内へ、所定量のポリグルタミン酸とポリグルタミン酸架橋物の何れか一方又は両方を流動性抑制剤として混入し、高含水比の泥土の流動性を低下させることを特徴とする高含水比の泥土の流動性抑制方法。
【請求項2】
流動性抑制剤として、泥土総重量Woの1/1000〜5/1000の重量のポリグルタミン酸を前記泥土内へ混入するようにした請求項1に記載の高含水比の泥土の流動性抑制方法。
【請求項3】
流動性抑制剤として、泥土総重量Woの1/10000〜5/10000の重量のポリグルタミン酸架橋物を前記泥土内へ混入するようにした請求項1に記載の高含水比の泥土の流動性抑制方法。
【請求項4】
粉体又は液体状のポリグルタミン酸と、粉体又は液体状のポリグルタミン酸架橋物の何れか一方又は両方から成る高含水比の泥土用の流動性抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−88304(P2008−88304A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271192(P2006−271192)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(502426452)日本ポリグル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】