説明

高吸水率再生骨材使用コンクリートの乾燥収縮低減方法

【課題】再生骨材を使用したコンクリートで問題となる乾燥収縮を低減化する方法であって、一般添加法よりも少量の収縮低減剤で、乾燥収縮低減ができ、かつ、コンクリートの品質を安定化できる乾燥収縮低減化方法を提供すること。
【解決手段】吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングし、これをコンクリートに使用することを特徴とするコンクリートの乾燥収縮低減方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水率の高い再生骨材を使用したコンクリートの乾燥収縮低減方法、コンクリート用骨材及びそれを用いてなるコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の砂、砂利等のコンクリート骨材資源環境は、骨材採取の禁止や輸入の制限等、様々な制約を受け枯渇化しており、骨材のリサイクル化や代替骨材の使用が喫緊の課題となっている。その流れの中で骨材の種類は多様化しており、再生骨材、軽量骨材、高炉スラグ骨材等の吸水率の高い骨材も使用されている。
【0003】
しかしながら、再生骨材を使用すると、一般的に使用されている普通骨材に比べ、コンクリートの乾燥時の収縮が大きくなる傾向にある。
この乾燥収縮を低減する法としては、例えば、再生骨材に対する水性シラン系吸水防止剤による表面撥水性の付与(特許文献1)のように骨材表面を改質する提案もあるが、コストや手間がかかり、一般的なコンクリートへの適用は難しい。
従って、吸水率の高い再生骨材を使用する場合でも、普通骨材使用時に行われている収縮低減剤や膨張材の使用等で乾燥収縮を軽減する方法が実際的である。
【0004】
収縮低減剤は、水に対する表面張力低下能があり、コンクリートに使用すると毛細管張力を低下させ、乾燥収縮を低減すると言われている。収縮低減剤の一般的な使用方法は、セメント質量に対して一定割合の量を、練混ぜ水に溶かしてコンクリート製造時に混入する(以下、「一般添加法」ということがある。)。そして、収縮低減剤の標準的添加量は、収縮低減剤の種類によって異なるが、セメント質量に対して概ね1〜6質量%程度である。
【0005】
収縮低減剤は、添加量が多いほど収縮低減効果を得られるので、吸水率の高い再生骨材の場合、収縮低減剤を高添加量にすることが考えられるが、収縮低減剤の種類によっては空気連行性や消泡性を有するものがあり、強度低下や凍結融解抵抗性の低下に繋がる場合がある。その場合、コンクリートの空気量調整のため消泡剤やAE剤が必要になり、フレッシュ時のコンクリートの品質管理が複雑になる。
また、収縮低減剤の添加量が過大になると、凝結遅延、強度低下等コンクリートの物性に悪影響を及ぼすことがある。
一方、配(調)合の変更による単位水量の減少には、限界があり、コンクリートの大幅な乾燥収縮低減が望めないのが実状である。
なお、膨張材と収縮低減剤を併用して収縮低減を図る方法は、効果的ではあるがコスト増につながるため、あまり実用的ではない。
【0006】
【特許文献1】特開2005−1895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、吸水率の高い再生骨材を使用したコンクリートで問題となる大きい乾燥収縮を低減化する方法であって、従来の収縮低減剤添加法における使用量よりも少量の収縮低減剤で、乾燥収縮の低減ができ、かつ、コンクリートの品質を安定化できる乾燥収縮低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングし、これをコンクリートに使用することにより乾燥収縮を低減できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングし、これをコンクリートに使用することを特徴とするコンクリートの乾燥収縮低減方法、
(2)収縮低減剤が、低級アルコールのアルキレンオキシド付加物である前記(1)記載のコンクリートの乾燥収縮低減方法、
(3)吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングしてなるコンクリート用骨材、及び
(4)前記(3)記載のコンクリート用骨材を含有してなるコンクリート、
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリートの乾燥収縮低減方法は、吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングし、これをコンクリートに使用する方法であり、収縮低減剤はフレッシュコンクリートにおいて主に再生骨材の細孔の内部に水溶液として保持され、一般添加法のように収縮低減剤を練混ぜ水に直接添加混合する方法のような、収縮低減剤が空気連行性や消泡性を有することによる強度低下や凍結融解抵抗性の低下の危惧がなく、また、少量の収縮低減剤で高い効果が得られる、極めて効率的かつ経済的な方法である。
本発明のコンクリート用骨材は、吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングしているので、乾燥収縮低減が要求されるコンクリートに利用できる。
本発明のコンクリートは、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングした再生骨材を含有しているので、収縮低減剤による空気連行性や消泡性を有する場合の強度低下や凍結融解抵抗性の低下の危惧のない極めて効率的、経済的なコンクリートとして利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のコンクリートの乾燥収縮低減方法は、吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングし、これをコンクリートに使用することを特徴とするコンクリートの乾燥収縮低減方法である。
【0011】
再生骨材は、解体したコンクリート塊を破砕、粒度調整をして製造されるもので、原骨材とそれに付着したセメントペースト・モルタル分(以下、原モルタル)とからなる。
再生骨材の表面に付着している原モルタルの品質が低下していたり、付着量が多い場合には、再生骨材自体の品質が低下する。再生骨材は、粒度5mmを境に細骨材と粗骨材に分類される。
また、再生骨材は、再生コンクリートの利用拡大と高品質化を図るために、特開2003−2724号公報に開示されているような加熱すりもみ法やスクリュー磨砕法などの処理によって原モルタルを可能な限り除去したものであってもよいが、本発明方法による収縮低減効果を得るためには、吸水率が3%以上であることを要する。
本発明において吸水率は、粗骨材の場合、JIS A 1110(粗骨材の密度及び吸水率試験方法)に準拠し、細骨材の場合は、JIS A 1109(細骨材の密度及び吸水率試験方法)に準拠して求められる。
【0012】
本発明のコンクリートの乾燥収縮低減方法、骨材及びコンクリートに用いられる収縮低減剤としては、特に限定されず、1価の低級アルコールのアルキレンオキシド付加物、2〜8価のアルコールのアルキレンオキシド付加物、低級アルキルアミンのアルキレンオキシド付加物、アルコール系化合物、グリコールエーテル・アミノアルコール誘導体、ポリエーテル系化合物、低分子量アルキレンオキシド共重合体など、公知の収縮低減剤をいずれも使用することができる。
これらの中でもポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノブチルエーテル、ポリオキシエチレンモノメチルエーテルなどの低級アルコールのアルキレンオキシド付加物が好適に用いられる。
【0013】
本発明のコンクリートの乾燥収縮低減方法、骨材及びコンクリートにおいて、高吸水率再生骨材の収縮低減剤水溶液によるプレウェッチングは、予め再生骨材の吸水率Q(%)を前記JISの方法に準拠して測定し、再生骨材の表乾質量(kg)に、吸水率Q(%)と収縮低減剤の希釈濃度(%)を乗じた量を対象骨材に散布する。配合コンクリートにおける収縮低減剤の添加量は、
収縮低減剤添加量=再生骨材質量×再生骨材の吸水率×収縮低減剤希釈濃度
で表される。
一般添加法における収縮低減剤の使用量は、水セメント比(W/C)によって異なるが、通常、2〜9kg/m3(対セメントの1〜2質量%)であるが、本発明の高吸水率再生骨材への収縮低減剤水溶液のプレウェッチング(以下、「溶液散布法」ということがある。)によれば、W/C、骨材の吸水率によって異なるが0.5〜8kg/m3で一般添加法よりも少量の使用量で同等以上の乾燥収縮低減効果を得ることが可能である。その際、上記収縮低減剤希釈濃度としては、通常0.5〜8質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
一般に生コン工場では、骨材を湿潤状態でサイロやストックヤードに貯蔵しており、吸水率の大きい骨材は、コンクリートを製造する前に水でプレウェッチングが施され、湿潤状態を保つようにしている。本発明では、それらの設備を利用して一般的な水のみによるプレウェッチングに替えて、高吸水率再生骨材に予め収縮低減剤水溶液をプレウェッチングすればよい。
【0014】
再生骨材に収縮低減剤水溶液をプレウェッチングした本発明のコンクリート用骨材は、コンクリートの製造に際して、骨材として他の細骨材、粗骨材と混合使用できる。混合比率は、要求されるコンクリートの性能によって決定される。
【0015】
本発明において、セメントとしては、普通・早強・中庸熱・低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等の各種混合セメント等が使用できる。
【0016】
なお、本発明においては、必要に応じて、コンクリート製造時にAE剤、消泡剤、膨張材など、一般的に使用されているコンクリート混和剤を併用添加することができる。
【実施例】
【0017】
細骨材および粗骨材として、解体したコンクリート塊を破砕、粒度調整して製造された再生細骨材及び再生粗骨材、普通細骨材として山砂、砕砂、普通粗骨材として砕石(大)、砕石(小)を準備した。これらの密度、吸水率、粒度を表1に示す。
また、セメントとして、普通ポルトランドセメント〔住友大阪セメント(株)製、密度3.15g/cm3〕、主成分がリグニンスルフォン酸化合物とポリオールの複合体であるAE減水剤〔(株)エヌエムビー製、商品名:ポゾリスNo.70〕、低級アルコールアルキレンオキシド付加物である収縮低減剤〔住友大阪セメント(株)製、商品名:テスタF〕を準備した。
【0018】
【表1】

【0019】
各種試験は、以下に記載の方法で行った。
・空気量試験:JIS A 1128「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法」に準拠した。
・圧縮強度試験:JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠した。
・乾燥収縮試験の長さ変化試験:JIS A 1129−2「モルタル及びコンクリートの長さ変化試験方法」に準拠した。
【0020】
実施例1、2及び比較例1、2
表2、表3で示すように実施例1、2では、粒度5mm以下で吸水率が15.2%の再生細骨材に、それぞれ1質量%濃度、3質量%濃度の収縮低減剤水溶液を溶液散布(プレウェッチング)することで得た、表面乾燥飽水状態の再生細骨材を660kg用いた。
一方、収縮低減剤無添加で、水をプレウェッチングして得た表面乾燥飽水状態の再生細骨材を660kg用いた場合を比較例1とし、水をプレウェッチングして得た表面乾燥飽水状態の再生細骨材を660kg用い、コンクリート製造時にセメントの質量を基準にその1質量%の収縮低減剤を練混ぜ水に加えて使用した場合(一般添加法)を比較例2とした。
【0021】
【表2】

【0022】
上記のようにプレウェッチングした再生細骨材及びその他の骨材及びセメント、収縮低減剤、AE剤を用い、水セメント比を50%、骨材の細骨材率(s/a:%)〔細骨材/(細骨材+粗骨材);容積比〕を45%として、表3に示すような配合でコンクリートミキサによりコンクリートを製造し、供試体を作製した。
【0023】
【表3】

【0024】
実施例3〜5及び比較例3、4
表4、表5に示すように、実施例3〜5では、粒度5〜20mmで吸水率が6.2%の再生粗骨材にそれぞれ1質量%濃度、3質量%濃度及び5質量%濃度の収縮低減剤水溶液を溶液散布(プレウェッチング)して得た、表面乾燥飽水状態の再生粗骨材を886kg用いた。
一方、収縮低減剤無添加で、水をプレウェッチングして得た表面乾燥飽水状態の再生粗骨材を886kg用いた場合を比較例3とし、水をプレウェッチングして得た表面乾燥飽水状態の再生粗骨材を886kg用い、コンクリート製造時にセメントの質量を基準にその1質量%の収縮低減剤を練混ぜ水に加えて使用した場合(一般添加法)を比較例4とした。
【0025】
【表4】

【0026】
上記のようにプレウェッチングした再生粗骨材を用い、表5に示すような配合でコンクリートミキサによりコンクリートを製造し、供試体を作製した。
【0027】
【表5】

【0028】
比較例5〜12
表6、表7に示すように、普通骨材を用い、収縮低減剤無添加の場合を比較例5とし、コンクリート製造時にセメントの質量を基準にその1質量%の収縮低減剤を練混ぜ水に加えて使用する場合(一般添加法)を比較例6とした。また、比較例7〜9では、普通細骨材としての山砂及び砕砂に3質量%濃度、5質量%濃度及び10質量%濃度の収縮低減剤水溶液で表面乾燥飽水状態にした骨材を使用し、同様に、比較例10〜12では、普通粗骨材(大)及び普通粗骨材(小)にそれぞれ3質量%濃度、5質量%濃度及び10質量%濃度の収縮低減剤水溶液で表面乾燥飽水状態にした骨材を使用した。
【0029】
【表6】

【0030】
【表7】

【0031】
上記の実施例1〜5及び比較例1〜12について、収縮低減剤使用量(kg/m3)、得られたコンクリート供試体の材齢91日後の乾燥収縮ひずみ及び収縮低減率を表8〜11に示す。
【0032】
【表8】

【0033】
【表9】

【0034】
【表10】

【0035】
【表11】

【0036】
表8より、実施例1及び2の再生細骨材に収縮低減剤水溶液を散布する本発明の方法では、材齢91日での乾燥収縮ひずみが、無添加で991×10-6、セメントの質量を基準に練混ぜ水に配合する一般添加法である比較例2では828×10-6であるのと比較して、実施例1では841×10-6、実施例2では777×10-6であり、少ない収縮低減剤の使用量で、同等に近い又は同等以上の収縮低減率を得ることができる。
同様に、表9に示す再生粗骨材に溶液散布した実施例3〜5は一般添加法である比較例4との比較においても、同様に少ない収縮低減剤の使用量で、同等に近い又は同等以上の収縮低減率を得ることができる。
一方、表10に示すように、吸水率が1.37%の普通細骨材に溶液散布した場合は、濃度を10%(比較例9)まで上げても、十分な収縮低減効果は得られず、同等の収縮低減剤の使用量である実施例1との収縮低減率の比較からもわかるように、再生骨材に使用した場合のような効果は得られなかった。
また、表11に示すように、吸水率が0.54の普通粗骨材に溶液散布した場合は、濃度を10%(比較例12)まで上げても、十分な収縮低減効果は得られず、同等の収縮低減剤の使用量である比較例8と同等の低い収縮低減率の値であり、再生骨材に使用した場合のような効果は得られなかった。
以上より、本発明の溶液散布による方法は、高吸水率再生骨材に限り一般添加法よりも少ない収縮低減剤使用量で同等又は同等以上の乾燥収縮低減効果が得られるのでコストの削減ができる。
【0037】
次に、再生粗骨材を使用した実施例3〜5、比較例3、4について、フレッシュコンクリートにおける空気量及び、材齢28日の圧縮強度試験を行った。これらの結果を表12に示す。
【0038】
【表12】

【0039】
表12より一般添加法(比較例4)では、空気量が7.3%と増大しているが、溶液散布法の実施例3〜5では空気量が4.5±1.5%のJIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の規格内に収まっており、コンクリートの空気量に対する悪影響が解消された。
さらに、一般添加法(比較例4)では、収縮低減剤無添加のものと比較して圧縮強度が低下するが、溶液散布法の実施例3〜5では収縮低減剤無添加と比べても強度に差が生じておらず、一般添加法において問題であった強度低下に対する悪影響も解消された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のコンクリートの乾燥収縮低減方法は、吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングし、これをコンクリートに使用する方法であり、一般添加法のように、練混ぜ水に直接収縮低減剤を添加混合しないので、収縮低減剤が空気連行性や消泡性を有する場合の強度低下や凍結融解抵抗性の低下の危惧がなく、少量の収縮低減剤で高い効果が得られる極めて効率的かつ経済的な方法であり、解体したコンクリートによる再生骨材を骨材として再利用できる極めて有用な方法である。
本発明のコンクリート用骨材は、吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングしているので、乾燥収縮低減が要求されるコンクリートに利用できる。
本発明のコンクリートは、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングした再生骨材を含有しているので、収縮低減剤による空気連行性や消泡性を有する場合の強度低下や凍結融解抵抗性の低下の危惧のない極めて効率的、経済的なコンクリートとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングし、これをコンクリートに使用することを特徴とするコンクリートの乾燥収縮低減方法。
【請求項2】
収縮低減剤が、低級アルコールのアルキレンオキシド付加物である請求項1記載のコンクリートの乾燥収縮低減方法。
【請求項3】
吸水率3%以上の再生骨材に、収縮低減剤水溶液をプレウェッチングしてなるコンクリート用骨材。
【請求項4】
請求項3記載のコンクリート用骨材を含有してなるコンクリート。

【公開番号】特開2008−184350(P2008−184350A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17854(P2007−17854)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】