説明

高周波モジュール及び送受信装置

【課題】
MMICを実装する為のキャビティを有する誘電体基板を用いた高周波モジュールにおいて、部品コストを抑えて気密封止できる構造とすることにより、安価な高周波モジュールを提供する。
【解決手段】
当該高周波モジュールは、高周波信号を伝送するための高周波伝送線路と高周波ICを駆動するための配線パターンを有し、セラミック基板を積層してなる回路基板と、回路基板と電気的に接続した高周波ICと、回路基板を保持するための金属プレートと、高周波ICをパッケージするためのカバーを有し、回路基板は第1のキャビティと第1のキャビティの外周を囲む第2のキャビティを有し、第1のキャビティ内に高周波ICが実装され、第2のキャビティの外周でカバーが接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波モジュール及びそれを用いた送受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の安全への関心が高まる中、安全運転システムのセンサの一つとして、ミリ波レーダが製品化され、その搭載率は年々増加傾向にあり、近年では、低価格設定の車種にまで普及しつつある。ミリ波レーダを更に一般化するためには、低コスト化が課題である。
【0003】
ここで、多層誘電体基板の高周波回路面側、即ち高周波信号の生成及び送受信回路をなす高周波部品の実装面側と導波路を有する金属プレートを接続した車載用ミリ波レーダの高周波モジュールが開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、導波管アダプタ26が高周波デバイス24の上面に設けられ、この導波管アダプタ26によって、誘電体基板に設けられたキャビティ内のMICや高周波ICであるモノリシックマイクロ波集積回路(Monolithic Microwave Integrated Circuit:以下、MMICと称する)等の複数の高周波チップと各チップを接続するマイクロストリップ線路,トリプレート線路やコプレーナ線路等の高周波伝送線路が、高周波デバイス24(高周波モジュールと同意)内で気密パッケージ化された高周波モジュールが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−84208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、MMICはベアチップであり、高周波特性を確保するためにチップ表面に保護膜を有していないものが殆どであるため、MMICを実装した高周波モジュールは、通常、湿度の浸入を許さない気密封止パッケージを採用せざるを得ず、パッケージに用いる部品,工数がコストアップの要因となってしまう、という課題がある。
【0007】
又、特許文献1の図5によれば、高周波モジュールは発振器,増幅器,逓倍器など複数のMMICを実装することにより構成され、それぞれのMMIC間は誘電体基板の表面に形成された伝送線路により高周波信号の入出力を行っている(伝送線路とMMICの電気的な接続には通常、金線ボンディングを用いる)ため、MMICと誘電体基板間の接続部においては、両者の形状的な不連続によって、高周波信号の放射又は反射による伝送損失が発生してしまう、という課題がある。
【0008】
そこで、本発明の第1の目的は、MMICを実装する為のキャビティを有する誘電体基板を用いた高周波モジュールにおいて、部品コストを抑えて気密封止できる構造とすることにより、安価な高周波モジュールを提供することにある。
【0009】
又、本発明の第2の目的は、MMIC実装ばらつきによる特性ばらつきを低減しつつMMICの放熱性の良い実装構造とすることにより、精度の良い高周波モジュール並びに送受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の目的を達成するための高周波モジュールは、高周波信号を伝送するための高周波伝送線路と高周波ICを駆動するための配線パターンを有し、セラミック基板を積層してなる回路基板と、回路基板と電気的に接続した高周波ICと、回路基板を保持するための金属プレートと、高周波ICをパッケージするためのカバーを有し、回路基板は第1のキャビティと第1のキャビティの外周を囲む第2のキャビティを有し、第1のキャビティ内に高周波ICが実装され、第2のキャビティの外周でカバーが接合される。
【0011】
第2の目的を達成するための高周波モジュールは、高周波信号を伝送するための高周波伝送線路と高周波ICを駆動するための配線パターンを有し、セラミック基板を積層してなる回路基板と、回路基板と電気的に接続した高周波ICと、回路基板を保持するための金属プレートと、高周波ICをパッケージするためのカバーを有し、カバーにパッケージ内の電波を遮断するための周期的な突起が設けられ、回路基板は表裏を貫通する第1のキャビティと第1のキャビティの外周を囲む第2のキャビティを有し、回路基板は金属プレートと接合され、第1のキャビティ内に高周波ICを実装し、第2のキャビティには高周波伝送線路が形成され、回路基板の表層面でカバーが接続される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、MMICを実装する為のキャビティを有する誘電体基板を用いた高周波モジュールにおいて、部品コストを抑えて気密封止できる構造とすることにより、安価な高周波モジュールを提供することができる。又、MMIC実装ばらつきによる特性ばらつきを低減しつつMMICの放熱性の良い実装構造とすることにより、精度の良い高周波モジュール並びに送受信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本実施例の高周波モジュールについて、図を用いて説明する。
【実施例1】
【0014】
実施例1の高周波モジュールを図1から図3により説明する。
【0015】
図1は、高周波モジュールの展開図であり、その構成は、セラミックを積層し高周波回路を構成するための配線パターンを形成した高周波回路基板1,発信器,電力増幅器,信号混合器等からなるMMIC2,高周波回路基板1を保持し、高周波信号を伝播するための導波路50を有する金属ベースプレート8,MMICをパッケージするためのカバー7からなる。
【0016】
図2は、高周波モジュールの構成図である。高周波回路基板1にはMMIC2を実装する為の第1のキャビティ6と高周波伝送線路3を形成した第2のキャビティ5の2段階のキャビティを有している。これらのキャビティ6,5は高周波回路基板1を製造する過程で形成される。即ち、高周波回路基板1の素材であるセラミックを積層する前の段階で各層のセラミックを所望のキャビティ形状に加工し、積層,焼成することで容易に形成できるものである。
【0017】
第1のキャビティ6に実装したMMIC2は第2のキャビティ5に形成した高周波伝送線路3やMMIC2を駆動する為のバイアス配線端子21とボンディングワイヤ10により接続される。バイアス配線端子21は入出力端子4と基板内層を介して配線されており、入出力端子4は高周波モジュールの駆動電源,出力信号の接続端子を構成する。
【0018】
更に、高周波伝送線路3を形成した第2のキャビティ5の外枠を構成している高周波回路基板1の表層面に、金属製のカバー7を窒素雰囲気中で金属ロー材A 40を加熱接合することにより、第1のキャビティ6及び第2のキャビティ5内を気密封止する。一方、高周波回路基板1のカバー7を接合する面に対向する表層面には、高周波モジュールの保持と高周波信号の伝播を目的とした金属ベースプレート8をAgペーストなどの接着剤41により接合している。
【0019】
上記のように構成した高周波モジュールの構造的な特徴は、高周波回路基板1に第1のキャビティ6と第2のキャビティ5を形成した点にあり、即ち、高周波回路基板1が2段のキャビティを有している点にある。
【0020】
このように構成することにより、通常、セラミック基板などを気密封止する為に用いられる、金属製外周枠の部材が予め高周波回路基板1に形成されているため不要となる。この外周枠の材料としてはセラミック基板の線膨張係数に合わせた、コバールや鉄ニッケル合金など、材料を用いて枠状に加工するのが一般的である。しかしながら、コバールや鉄ニッケル合金は高価であることがよく知られている上、枠状の加工は削り代が多いため、素材費用が嵩み、部品費用を低減することが困難である。即ち、本実施例の高周波モジュールの構造とすることで、このような部品費用が不要となる。
【0021】
又、上記の外周枠を金属で形成した場合、パッケージ内を電磁的にシールドする効果も期待できるが、本実施例の場合、同様の効果をもたらす為には外周枠に相当する部分の全周に電源グランドと接続したスルービア30を、電波が遮断できる間隔で配置すればよい。本構造は、一般的なスルービア成形工程で容易に実現できる。
【0022】
図3は、実施例1の高周波モジュールの応用例を示す図である。
【0023】
例えば、送信用MMICと受信用MMICがパッケージ内部で干渉しないように、それぞれのパッケージ空間を遮断する場合、積層基板により第1のキャビティ6,第2のキャビティ5を形成し、このうち、第2のキャビティ5は送信側と受信側の間で遮断するように2つの第2のキャビティ5を形成する。更に、両者の第2のキャビティ5を電磁的にアイソレートするためにパッケージの外壁部の全周に電源グランドと接続したスルービア30を形成する。
【0024】
ここにおいて、両キャビティ間の高周波信号の伝送はポートA 61,ポートB 60間を接続した基板内層線路62により伝送する。アンテナへの高周波信号の送受も同様の給電ポート51,給電用基板内層線路52により伝送され、金属ベースプレート8に形成した導波路50によりアンテナに給電する。
【0025】
図3に示す構造の外周枠部の形状を金属で加工しようとすると、メタルインジェクションモールドなど特殊かつコストの掛る加工方法を採用せざるを得なく、更に、この外枠を精度良く基板上に実装しなければならないため組立て時の加工コストも加わることになる。
【0026】
又、上記実施例で説明したように、当該高周波モジュールのパッケージは、いずれの場合もカバー7が金属の平板で形成できるため、カバーの加工費用も抑えることが出来る。
【0027】
以上から、本実施例の高周波モジュールとすることにより、パッケージのための部材が平板の金属プレートで形成したカバー7のみとなるため、部品加工費,組立て加工費を低減でき、安価な高周波モジュールを提供することが可能となる。
【実施例2】
【0028】
実施例2の高周波モジュールを図4により説明する。
【0029】
実施例2は実施例1に対し、高周波回路基板1に形成した第1のキャビティ6が貫通穴とし、MMIC2を金属ベースプレート8に直接実装する構造としている点が相違点である。
【0030】
その組立て方法の概略は、まず、高周波回路基板1と金属ベースプレート8をはんだなどの金属ロー材B 42により加熱接合する。上記の如く、高周波回路基板1はMMIC2を実装する部位に、貫通した第1のキャビティ6が形成されているので、この段階で第1のキャビティ6の底面は金属ベースプレート8の表面となる。
【0031】
次に、第1のキャビティ6の底面、即ち、MMIC金属ベースプレート8の表面にMMIC2を実装し、ボンディングワイヤ10の接続,カバー7の接合を行うことになる。
【0032】
ここで、高周波モジュールの高精度化を図る場合、MMICと誘電体基板間の接続部においては、両者の形状的な不連続によって、高周波信号の放射又は反射による伝送損失が発生しやすいため、MMIC2の位置的な実装ばらつきを極力抑えることが望まれる。よって、MMIC2を実装する被実装面側の平坦度も特性ばらつきを抑える上で精度を要求される。
【0033】
一方、自動車などの環境温度の厳しい雰囲気においてもMMIC2を駆動させる目的でMMIC2の放熱を考慮した実装構造とする必要がある。その放熱手段として、セラミック基板のMMIC2実装部に放熱用のスルービアを多数形成するのが最も一般的であるが、スルービアを形成した部位は平坦度を確保するのが非常に困難である。
【0034】
上記の課題に対し、本実施例の高周波モジュールはキャビティの底面が金属ベースプレート8となる構造の為、MMIC2を実装する面の平坦度を確保しつつ、更に、セラミック基板に比べて、熱伝導性の良い金属上に実装されるので、MMIC2の放熱性が向上する。
【0035】
従って、本実施例の高周波モジュールとすることで、MMIC2の実装ばらつきによる特性ばらつきを低減しつつMMIC2の放熱性の良い実装構造とすることが可能となるので、精度の良い高周波モジュールを提供できる。
【実施例3】
【0036】
実施例3の高周波モジュールを図5により説明する。
【0037】
実施例3は実施例2に対し、カバー7に周期的な突起を付加したカバーを適用した点が相違点である。
【0038】
複数のMMIC2を同じ空間のパッケージ内に実装した場合、図5の矢印の如く、それぞれのチップが放射する電波がその空間内を伝播し、干渉することが懸念される。特に、受信用MMICが不要な電波を受信してしまうと、ノイズとなって出力されるため、高周波モジュールの精度に直接影響を及ぼすことになる。これを対策する手段の一つとして、使用する高周波の波長により決定される周期にて周期的な突起70を形成することで、パッケージ空間内の電波の伝播を遮断するフィルター効果があることが公知である。
【0039】
しかし、使用する周波数が高いほど波長が短くなるため、上記の突起70の周期も短くなり、精度も要求される。更に、MMIC2から突起70までの距離hも前述のフィルター効果に影響するため、カバー7を精度良く製作することと、それを精度良く実装することが望まれる。
【0040】
実施例2の高周波モジュールでは、カバー7を金属の平板を用いたが、このカバー7に単純なプレス加工で周期的な突起70を設けたものが本実施例の高周波モジュールに適用しているカバー7である。カバー7の加工工程が単純なゆえ、突起70の寸法精度も安定して製作できる。又、カバー7を実装した際の、MMIC2から突起70までの距離hについては、前述のようにパッケージの外周枠を高周波回路基板1により形成しているので、金属の別部材で形成した外周枠を製作して実装する場合と比べて実装ばらつきが少ないため距離hのばらつきも抑えられ、安定したフィルター効果を発揮できる。
【0041】
従って、実施例2の効果に加え、精度の良い高周波モジュールを提供できる。
【実施例4】
【0042】
実施例4の送受信装置を図6により説明する。
【0043】
本実施例の送受信装置は、高周波信号を送受信するためのアンテナ80と高周波信号を発生,処理するための高周波モジュール100と高周波モジュール100の駆動,制御並びに信号処理を行うための制御回路基板110と、これらをパッケージするための筐体ケース120、及び、外部との高周波信号の送受信を妨げずに高周波モジュール100をパッケージするためのレドーム130とから構成される。
【0044】
この送受信装置は例えば、アンテナ80から送信された電波がターゲットから反射され、その反射波を受信し、受信した信号を制御回路基板110で処理,出力することで、周囲の状況をセンシングする機能を有した、自動車の安全制御に用いられるレーダ装置などに適用されるものである。
【0045】
ここにおいて、本実施例の送受信装置は、実施例1から実施例3に記載の高周波モジュール100を搭載したものである。従って、実施例1から実施例3で記載した効果により、安価で高精度の送受信装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1の高周波モジュールを示す展開図。
【図2】実施例1の高周波モジュールを示す構造図。
【図3】実施例1の高周波モジュール。
【図4】実施例2の高周波モジュール。
【図5】実施例3の高周波モジュール。
【図6】実施例4の送受信装置。
【符号の説明】
【0047】
1 高周波回路基板
2 MMIC
3 高周波伝送線路
4 入出力端子
5 第2のキャビティ
6 第1のキャビティ
7 カバー
8 金属ベースプレート
10 ボンディングワイヤ
21 バイアス配線端子
40 金属ロー材A
41 接着剤
42 金属ロー材B
50 導波路
51 給電ポート
60 ポートB
61 ポートA
62 基板内層線路
70 突起
80 アンテナ
100 高周波モジュール
110 制御回路基板
120 筐体ケース
130 レドーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を伝送するための高周波伝送線路と高周波ICを駆動するための配線パターンを有し、セラミック基板を積層してなる回路基板と、前記回路基板と電気的に接続した前記高周波ICと、前記回路基板を保持するための金属プレートと、前記高周波ICをパッケージするためのカバーを有する高周波モジュールにおいて、
前記回路基板は、第1のキャビティと前記第1のキャビティの外周を囲む第2のキャビティを有し、前記第1のキャビティ内に前記高周波ICが実装され、前記第2のキャビティの外周でカバーが接合される、高周波モジュール。
【請求項2】
高周波信号を伝送するための高周波伝送線路と高周波ICを駆動するための配線パターンを有し、セラミック基板を積層してなる回路基板と、前記回路基板と電気的に接続した前記高周波ICと、前記回路基板を保持するための金属プレートと、前記高周波ICをパッケージするためのカバーを有する高周波モジュールにおいて、
前記回路基板は、表裏を貫通する第1のキャビティと前記第1のキャビティの外周を囲みかつ表裏が貫通しない第2のキャビティを有し、前記金属プレートと接合され、前記第1のキャビティ内でかつ前記金属プレート上に前記高周波ICが実装される、高周波モジュール。
【請求項3】
高周波信号を伝送するための高周波伝送線路と高周波ICを駆動するための配線パターンを有し、セラミック基板を積層してなる回路基板と、前記回路基板と電気的に接続した前記高周波ICと、前記回路基板を保持するための金属プレートと、前記高周波ICをパッケージするためのカバーを有する高周波モジュールにおいて、
前記カバーにパッケージ内の電波を遮断するための周期的な突起が設けられ、
前記回路基板は、表裏を貫通する第1のキャビティと前記第1のキャビティの外周を囲む第2のキャビティを有し、前記金属プレートと接合され、前記第1のキャビティ内に前記高周波ICを実装し、前記第2のキャビティには高周波伝送線路が形成され、前記回路基板の表層面でカバーが接続される、高周波モジュール。
【請求項4】
請求項1乃至3何れか一に記載の高周波モジュールと、
高周波信号を送受信するためのアンテナと、
高周波モジュールを制御するための制御回路を備える、送受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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