説明

高周波伝送線路およびその製造方法

【目的】 製造の手間を要さず、コンパクトかつ低損失の高周波伝送線路を提供する。
【構成】 マイクロストリップ伝送線路を構成するストリップ導体層1を、絶縁膜11とこれを挟んで上下に位置する上側導電膜12および下側導電膜13とで構成する。下側導電膜13により、渦巻き状に成形されたスパイラルインダクタ素子14と、これの中心部に位置してインダクタ素子14の内周端141に接続された板状電極15を形成する。また、上側導電膜12により、絶縁膜11を介して板状電極15に対向しキャパシタ素子を構成する板状電極16を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は高周波伝送線路に関し、特にインダクタ素子とキャパシタ素子からなるフィルタを設けた積層型平面伝送線路の構造改良に関する。
【0002】
【従来の技術】図6には集中定数型のフィルタを設けた積層型平面伝送線路の代表例として、マイクロストリップ伝送線路の分解斜視図を示す。図において、高周波が伝送される誘電体基板3には下面全面に導体膜2が形成されてアース導体層となっており、一方、上記誘電体基板3の上面には、高周波伝播方向(図の左右方向)へ互いに間隔をおいて、渦巻き状に成形されたスパイラルインダクタ素子14、矩形の板状電極15´、およびリード線18が導体膜により形成されている(図8)。
【0003】前記インダクタ素子14の外周端142は線路の長手方向へ屈曲してリード部となっており、また、板状電極15´の角部からは線状のリード部151が突出している。これらインダクタ素子14、板状電極15´、リード線18は、前記導体膜2と同一材を誘電体基板3の上面全面に形成した後、所定形状にエッチングして形成される。
【0004】前記インダクタ素子14等を覆って絶縁膜11が形成され、この絶縁膜11上に間隔をおいて、リード線17と、前記板状電極15´よりも大きい板状電極16´が形成されている(図9)。そして、上記リード線17の両端は、図7に示すように、上記絶縁膜11に貫通形成されたスルーホール111を経て、誘電体基板3上の前記インダクタ素子14の内周端141と板状電極15´のリード部151にそれぞれ接続されて、両者を結んでいる。
【0005】また、前記板状電極16´はその一端部が、絶縁膜11の端縁に沿って下方へ屈曲して、前記誘電体基板3上面のリード線18に至り、これに接続されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来の伝送線路では、絶縁膜へのスルーホールの形成等が製造の手間を増大させる原因になるとともに、インダクタ素子とキャパシタ素子を多段で設けようとすると設置面積の増大が避けられず、コンパクト化が困難であった。
【0007】また、近年、通信回路の低損失化等の観点から、伝送線路の導体膜を超伝導材で構成することが試みられているが、前記スルーホールや絶縁膜端縁での段付きに応じた導体膜の屈曲成形は超伝導材では困難であり、リード線や板状電極に損失の大きいAu等の金属材を使用しているため、低損失化の効果が減殺されていた。
【0008】本発明はこのような課題を解決するもので、製造の手間を要さず、コンパクトかつ低損失の高周波伝送線路と、その製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明においては、積層型平面伝送線路を構成する導体層(1)を、絶縁膜(11)とこれを挟んで上下に位置する上側導体膜(12)および下側導体膜(13)とで構成し、前記上側導体膜(12)および下側導体膜(13)の一方により、インダクタ素子(14)とこれの一端(141)に接続された一の板状電極(15)とを形成するとともに、前記上側導体膜(12)および下側導体膜(13)の他方により、前記絶縁膜(11)を介して前記一の板状電極(15)に対向してキャパシタ素子を構成する他の板状電極(16)を形成する。
【0010】請求項2に記載の発明においては、積層型平面伝送線路を構成する導体層を、絶縁膜とこれを挟んで上下に位置する上側導体膜(12)および下側導体膜(13)とで構成し、インダクタ素子(14)およびこれの一端に接続された一の板状電極(15)と、前記絶縁膜(11)を介して前記一の板状電極(15)に対向してキャパシタ素子を構成する他の板状電極(16)とを、前記上側導体膜(12)および下側導体膜(13)により交互に高周波伝播方向へ複数形成して、前記インダクタ素子(14)の他端(142)に、当該インダクタ素子(14)の直前ないし直後に位置してインダクタ素子(14)と同一の導体膜(12、13)により形成された前記他の板状電極(16)を接続する。
【0011】請求項3に記載の発明では、請求項1又は2に記載の高周波伝送線路において、前記インダクタ素子は渦巻き状に成形されたスパイラルインダクタ素子(14)であり、当該スパイラルインダクタ素子(14)の中心部に前記一の板状電極(15)を形成して、これに前記スパイラルインダクタ素子(14)の内周端(141)を接続する。
【0012】請求項4に記載の発明においては、高周波が伝送される誘電体基板(3)の板面全面に下側導体膜(13)を形成する工程と、押さえ用基板(4)の板面全面に前記上側導体膜(12)を形成する工程と、前記下側導体膜(13)および上側導体膜(12)の一方をエッチングして、インダクタ素子(14)とこれの一端に接続される一の板状電極(15)を形成する工程と、前記下側導体膜(13)および上側導体膜(12)の他方をエッチングして、他の板状電極(16)を形成する工程と、前記誘電体基板(3)の板面と前記押さえ用基板(4)の板面とを絶縁膜を介して互いに圧着して、前記絶縁膜(11)を介して対向する前記一の板状電極(15)と他の板状電極(16)によりキャパシタ素子を構成する工程とからなる。
【0013】なお、上記各手段のカッコ内の符号は、後述する実施例記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【0014】
【発明の作用効果】請求項1に記載の発明によれば、インダクタ素子とこれの一端に接続された一の板状電極、および他の板状電極が、絶縁膜を挟んだ上側導体膜および下側導体膜のいずれかの平面内で形成される。したがって、従来のようなスルーホールを設ける必要がないから、製造の手間が大幅に軽減されるとともに、膜に屈曲部を生じないから、前記各導体膜を超伝導材で構成することができ、線路の低損失化が実現される。
【0015】請求項2に記載の発明によれば、インダクタ素子とキャパシタ素子よりなる多段のフィルタが簡易に製造される。請求項3に記載の発明によれば、インダクタ素子を渦巻き状に成形したスパイラルインダクタ素子として、その中心部にキャパシタ素子を構成する板状電極を配したから、フィルタ形状をコンパクトなものにできる。
【0016】請求項4に記載の発明によれば、絶縁膜を挟んで位置する上側導体膜および下側導体膜が、それぞれ誘電体基板および押さえ基板の板面上に形成されるから、特に導体膜を超伝導材で構成した場合に良好な膜質を得ることができる。
【0017】
【実施例】以下、本発明を図に示す実施例について説明する。
(第1実施例)図1は本発明をマイクロストリップ伝送線路に適用した場合の線路断面図、図2はその分解斜視図である。図の左右方向へ高周波が伝播する約500μm厚の誘電体基板3には、下面全面にYBCO等の超伝導材の導体膜2が形成されてアース導体層となっている。
【0018】前記誘電体基板3の上面には、YBCO等の超伝導材の導体膜13により、細線を矩形の渦巻き状としたスパイラルインダクタ素子14が形成され(図3)、このスパイラルインダクタ素子14の中心部に矩形の板状電極15が形成されて、これにスパイラルインダクタ素子14の内終端141が接続されている。スパイラルインダクタ素子14の外周端142は誘電体基板3の長手方向へ屈曲してリード部となっている。
【0019】スパイラルインダクタ素子14の上面には一定厚(2〜3μm)でポリイミド等の絶縁膜11が全面に形成され、この絶縁膜11の上面には、前記板状電極15に対向して、これとほぼ同形のYBCO等の超伝導材の導体膜よりなる矩形の板状電極16が形成されて(図4)、キャパシタ素子を構成している。前記板状電極16の角部からは、前記スパイラルインダクタ素子14のリード部141とは反対方向へリード部161が延びている。上記板状電極16の上面には、前記誘電体基板3と同形の、誘電体製の押さえ用基板4が圧接している。
【0020】これらスパイラルインダクタ素子14、キャパシタ素子を構成する板状電極15、16、絶縁膜11、および押さえ用基板4により、ストリップ導体層1が構成されている。なお、前記各リード部142、161には公知の方法で同軸ケーブルが接続されて、外部信号の入出力がなされる。このような構造のマイクロストリップ線路の製造は以下のように行う。
【0021】すなわち、誘電体基板2の上下面全面に導体膜2、13を形成した後、上面の導体膜13を所定形状にエッチングして、前記スパイラルインダクタ素子14および板状電極15を成形する。その後、上記スパイラルインダクタ素子14および板状電極15を覆って、蒸着等により前記絶縁膜11を堆積する。一方、押さえ基板4の下面全面に導体膜12を形成し、この導体膜12を所定形状にエッチングして前記板状電極16とする。そして、この押さえ基板4を、前記絶縁膜11の上から圧着する。
【0022】このような構造のストリップ伝送線路によれば、スパイラルインダクタ素子14と、これの中心部に位置する板状電極15、16によって構成されるキャパシタ素子とにより、伝送線路中にフィルタがコンパクトに形成される。また、従来のように、絶縁膜にスルーホールを形成する必要がないから、製造の手間が大きく軽減される。そして、スパイラルインダクタ素子や板状電極をいずれも誘電体基板あるいは押さえ基板の平面内に形成しているから、スルーホールや絶縁膜端縁の段付きによる導体膜の屈曲が生じず、導体膜を全て超伝導材で構成することが可能となって、伝送損失の大幅な低減が可能となる。
【0023】なお、本実施例のストリップ伝送線路の製造方法としては、前記押さえ用基板を使用せず、前記絶縁膜11をCeO2 等で構成して、その上に上記導体膜12を蒸着等で積層形成した後、これを所定形状にエッチングして板状電極16としても良い。
(第2実施例)図5には、上記第1実施例におけるフィルタを、高周波伝播方向へ多段に設けた場合を示す。図において、誘電体基板3の上面には導体膜13により、中心部に板状電極15を配したスパイラルインダクタ素子14と板状電極16とが交互に形成され、中間位置のスパイラルインダクタ素子14の外周端142は、高周波伝播方向の直前に位置する板状電極16に接続されている。
【0024】一方、絶縁膜11上にも、スパイラルインダクタ素子14と板状電極15とが、誘電体基板3上のものとは前後に位置をずらして交互に形成してあり、各スパイラルインダクタ素子14の外周端142はそれぞれ直前に位置する板状電極16に接続されている。そして、前記絶縁膜11を介した上下の板状電極15、16は互いに対向してそれぞれキャパシタ素子を構成し、全体として高周波伝播方向へ4段のフィルタが形成されている。
【0025】このように、フィルタを高周波伝播方向へ多段で設ける場合に、本発明の高周波伝送線路によれば、全体の長さが短くなってコンパクト化が実現されるとともに、スルーホール形成の手間が削減され、かつ超伝導材導体膜の使用による損失低減が図られて、より大きな効果が得られる。なお、伝送線路のコンパクト化を図るためには、上記各実施例に示す如く、インダクタ素子としてスパイラル形状のものを使用するのが有利であるが、他の形状のインダクタ素子を使用することもできる。
【0026】また、上記各実施例におけるインダクタ素子および各板状電極の形成位置を、実施例とは反対側の導体膜にしても良い。本発明の適用対象はマイクロストリップ伝送線路に限られず、積層型の平面伝送線路に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例に係る、伝送線路の垂直断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る、伝送線路の分解斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る、伝送線路を構成する誘電体基板上の平面図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係る、伝送線路を構成する絶縁膜上の平面図である。
【図5】本発明の第2の実施例に係る、伝送線路の分解斜視図である。
【図6】従来例に係る、伝送線路の分解斜視図である。
【図7】従来例に係る、伝送線路の垂直断面図である。
【図8】従来例に係る、伝送線路を構成する誘電体基板上の平面図である。
【図9】従来例に係る、伝送線路を構成する絶縁膜上の平面図である。
【符号の説明】
1…ストリップ導体層、11…絶縁膜、12…上側導体膜、13…下側導体膜、14…インダクタ素子、141…一端(内周端)、142…他端(外周端)、15…一の板状電極、16…他の板状電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 積層型平面伝送線路を構成する導体層を、絶縁膜とこれを挟んで上下に位置する上側導体膜および下側導体膜とで構成し、前記上側導体膜および下側導体膜の一方により、インダクタ素子とこれの一端に接続された一の板状電極とを形成するとともに、前記上側導体膜および下側導体膜の他方により、前記絶縁膜を介して前記一の板状電極に対向してキャパシタ素子を構成する他の板状電極を形成したことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項2】 積層型平面伝送線路を構成する導体層を、絶縁膜とこれを挟んで上下に位置する上側導体膜および下側導体膜とで構成し、インダクタ素子およびこれの一端に接続された一の板状電極と、前記絶縁膜を介して前記一の板状電極に対向してキャパシタ素子を構成する他の板状電極とを、前記上側導体膜および下側導体膜により交互に高周波伝播方向へ複数形成して、前記インダクタ素子の他端に、当該インダクタ素子の直前ないし直後に位置してインダクタ素子と同一の導体膜により形成された前記他の板状電極を接続したことを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項3】 前記インダクタ素子は渦巻き状に成形されたスパイラルインダクタ素子であり、当該スパイラルインダクタ素子の中心部に前記一の板状電極を形成して、これに前記スパイラルインダクタ素子の内周端を接続したことを特徴とする請求項1又は2に記載の高周波伝送線路。
【請求項4】 高周波が伝送される誘電体基板の板面全面に下側導体膜を形成する工程と、押さえ用基板の板面全面に前記上側導体膜を形成する工程と、前記下側導体膜および上側導体膜の一方をエッチングして、インダクタ素子とこれの一端に接続される一の板状電極を形成する工程と、前記下側導体膜および上側導体膜の他方をエッチングして、他の板状電極を形成する工程と、前記誘電体基板の板面と前記押さえ用基板の板面とを絶縁膜を介して互いに圧着して、前記絶縁膜を介して対向する前記一の板状電極と他の板状電極によりキャパシタ素子を構成する工程とからなることを特徴とする高周波伝送線路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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