説明

高周波伝送線路

【課題】生産性に優れた高周波伝送線路を提供できる。
【解決手段】第1の誘電体基板3と第2の誘電体基板2との間に設けられている誘電体層7とを備え、第1の誘電体基板3の、誘電体層7の側の面には、第1のグランド導体4と、信号導体であって、その両側がそれぞれスロット領域25up、25dnを介してグランド導体4に囲まれている信号導体24とを有するコプレーナ伝送線路が設けられており、さらに、スロット領域25up、25dnのうちの一つが伸長されて、これらの伸長されている部分において、スロット部5(伸長部)が構成されており、第2の誘電体基板2の、誘電体層7の側の面には、スロット部5と立体交差するように電磁結合用信号導体1が設けられており、スロット部5と電磁結合用信号導体1とが立体交差することにより電磁結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波又はミリ波等の通信に適する高周波伝送線路及び高周波アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平面アンテナをマイクロ波、ミリ波の通信に用いるのに際し、平面アンテナに信号を給電し、又は、平面アンテナで受信した信号を伝送するための伝送線路として、コプレーナ伝送線路が一般的に用いられている。コプレーナ伝送線路は、誘電体基板の一方の基板面上にグランド導体と信号導体とが設けられた伝送線路であり、このコプレーナ伝送線路は例えば、同軸ケーブルによって高周波回路と接続される。
【0003】
図2は、コプレーナ伝送線路の信号を同軸ケーブル46に取り出し、又は、逆に同軸ケーブル46の信号をコプレーナ伝送線路へ送り出すための従来例の接続構造を示す斜視図である。
【0004】
図2に示す接続構造では、誘電体基板33の一方の基板面上に信号導体54とグランド導体34とが設けられてコプレーナ伝送線路51が構成されている。コプレーナ伝送線路51では、信号導体54の両側に設けられているスロット領域55up,55dnによって信号導体54がグランド導体34から離間している。
【0005】
同軸ケーブル46は内側導体48と外側導体49と誘電体被膜47(絶縁層)とによって構成されている。同軸ケーブル46の内側導体48はコプレーナ伝送線路51の終端部にて信号導体54に接し、図示されていない半田により信号導体54に接続される。外側導体49はコプレーナ伝送線路51の終端部にてグランド導体34に接し図示されていない半田によりグランド導体34に接続されている。図2の従来例について、特に特許文献は見当たらない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図2に示すような半田付けを用いる接続構造の場合、半田がスロット領域を跨いで信号導体とグランド導体との間で導通することのないように慎重に半田付けを行なわなければいけない。この半田付けの接続作業は、自動車用窓ガラス板を誘電体基板として扱い自動車用ガラスアンテナを製造する量産ラインにおいて、特に精度良く行なわなければならない。このため、上記接続作業は生産性を悪化させ、コストアップの要因となる問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、この問題を解決し、自動車用窓ガラス板に設けられたガラスアンテナや高周波回路に接続される生産性の優れた高周波伝送線路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1の誘電体基板と、第1の誘電体基板に離間した第2の誘電体基板と、第1の誘電体基板と第2の誘電体基板との間に設けられている誘電体層とを備えた高周波伝送線路であって、
第1の誘電体基板の、該誘電体層の側の面には、グランド導体と、信号導体であって、その両側の一部又は全部がそれぞれスロット領域を介して該グランド導体に囲まれている信号導体とを有するコプレーナ伝送線路が設けられており、
さらに、該スロット領域のうちの一つが伸長されて、これらの伸長されている部分において、伸長部が構成されており、
第2の誘電体基板には、該伸長部と立体交差するように電磁結合用信号導体が設けられており、
該伸長部と該電磁結合用信号導体とが立体交差することにより電磁結合されていることを特徴とする高周波伝送線路を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高周波伝送線路では、第2の誘電体基板に電磁結合用信号導体が設けられ、この電磁結合用信号導体をコプレーナ伝送線路のスロット領域から伸長したスロット部と電磁結合させる。このため、コプレーナ伝送線路が設けられた基板面とは異なる基板面上で接続用信号導体を同軸ケーブルの内側導体と半田付けにより接続することで、コプレーナ伝送線路と同軸ケーブルとの間で信号を伝送させることができる。したがって、従来のように、ガラス基板面上でコプレーナ伝送線路の信号導体と同軸ケーブルの内側導体とを精度の高い半田付けで直接接続する必要がなくなるので、ガラスアンテナや高周波回路に接続される生産性に優れた高周波伝送線路を提供できる。
【0010】
特に、本発明の高周波伝送線路を自動車の前部窓ガラス板又は後部窓ガラス板等に設けられている平面アンテナの伝送線路として用いることで、高周波アンテナ装置を効率よく生産することができる。さらには、GPS(Global Positioning System)、衛星デジタル放送、VICS(Vehicle Information and Communication System)、ETC(Electronic Toll Collection System)及びDSRC(Dedicated Short Range Communication)システム等に好適な高周波アンテナ装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の高周波伝送線路を添付の図面に示される好適実施形態に基づいて詳細に説明する。本発明の高周波伝送線路では、互いに離間した2つの誘電体基板の一方にコプレーナ伝送線路を他方に、例えば、マイクロストリップ線路を設け、コプレーナ伝送線路及びマイクロストリップ線路間を電磁結合により接続して異なる誘電体基板間で信号の伝送を行なう。図1は、本発明の高周波伝送線路の一実施形態の斜視図である。
【0012】
図1に示す高周波伝送線路は、同軸ケーブル16とコプレーナ伝送線路との間で信号を伝送する伝送線路である。高周波伝送線路は、第1の誘電体基板である例えば自動車用窓ガラス板3(以下、ガラス板3という)と、誘電体層7と、第2の誘電体基板である例えば高周波回路基板2(以下、回路基板2という)とを主に有して構成される。回路基板2は、誘電体層7を介在してガラス板3に離間して配されている。ガラス板3の、誘電体層7の側に面する基板面(以下、第1の対向基板面という)上には第1のグランド導体4と一方向に延びる信号導体24とが設けられている。
【0013】
信号導体24の長手方向に沿って第1のグランド導体4と一定の距離離間するように一対のスロット領域25up,25dnが信号導体24の両側に設けられ、コプレーナ伝送線路21を構成している。信号導体24は、両側の一部又は全部が一対のスロット領域25up,25dnを介して第1のグランド導体4に囲まれている。図1に示すとおり、スロット領域25up,25dnは線状又は略線状である。
【0014】
コプレーナ伝送線路21は、ガラス板3の面上の位置21に終端部を有する。この終端部付近で、スロット領域25upは伸長されて、この伸長されている部分において、スロット部(伸長部)が構成されている。
【0015】
スロット部5とは、第1のグランド導体4の導体が表面になく、ガラス板3の基板面が露出し、スロット部5の周囲の一部又は全部が第1のグランド導体4に接している細長い領域をいう。すなわち、スロット部5は、終端部の位置21において、スロット領域25upが信号導体24の長手方向に対して直交する方向又は略直交する方向に曲折して伸長されて構成されている。
【0016】
図1に示す例では、スロット部5の幅は、スロット領域25up,25dnの幅と異なっているが、これに限定されず、スロット部5の幅は、スロット領域25up,25dnの幅と同一であってもよい。
【0017】
コプレーナ伝送線路21のスロット領域25up,25dnの幅は互いに同じ幅であるが、これに限定されず、互いに異なる幅であってもよい。幅が異なる場合非対称コプレーナ伝送線路となる。しかし、伝送特性を良好にするためにはスロット領域25up,25dnの幅を互いに同じにし、対称コプレーナ伝送線路とすることが好ましい。
【0018】
コプレーナ伝送線路21の終端部位置21付近で、スロット領域25dnは必要に応じて伸長され、この伸長されている部分において、スタブ部29が構成されている。
【0019】
スタブ29は、ガラス板3の基板面が露出している領域で、かつ、周縁が第1のグランド導体4で囲まれていることにより構成されており、必要に応じて設けられる。スタブ29は、コプレーナ伝送線路21とスロット部5とのインピーダンスマッチングの機能を果たす。図1に示す例では、スタブ29の形状は扇型であるが、これに限定されず、三角形、円形、楕円形及びスロット形等であってもよい。
【0020】
エアーブリッジ28は、例えば、導体線により構成され、必要に応じて設けられるものであり、第1のグランド導体4の、スロット領域25up,25dnの両側の箇所を接続している。これにより、挿入損失が低減される。
【0021】
回路基板2の、誘電体層7の側に面する基板面(以下、第2の対向基板面という)には、スロット部5と立体交差するように電磁結合用信号導体1が設けられている。この電磁結合用信号導体1は、誘電体層7を介在してガラス板3の第1のグランド導体4とともにマイクロストリップ線路、すなわち、インバーテッドマイクロストリップ線路を構成する。
【0022】
インバーテッドマイクロストリップ線路とは、誘電体基板に設けられている信号導体と、この誘電体基板に設けられていないグランド導体とを備えている線路であって、この誘電体基板の、グランド導体側の基板面に上記信号導体が設けられている線路をいう。
【0023】
電磁結合用信号導体1とスロット部5とは立体交差することにより電磁結合されており、後述する同軸ケーブル16とコプレーナ伝送線路21との間で信号を効率よく伝送することができる。
【0024】
例えば、スロット部5からインバーテッドマイクロストリップ線路側に信号を伝送する場合、スロット部5で磁界が励起され、この励起した磁界によって電磁結合用信号導体1に電流が誘導されて信号が伝送される。
【0025】
なお、図1に示す例では、電磁結合用信号導体1は、誘電体層7の側の面に設けられており、効率よく電磁結合させるには、このようにすることが好ましいが、これに限定されず、電磁結合用信号導体1を第2の誘電体基板2の、誘電体層7とは反対側の面(以下、第2の非対向基板面という)に設けてもよい。この場合、電磁結合用信号導体1と第1のグランド導体4とでサスペンデッドマイクロストリップ線路を構成する。
【0026】
サスペンデッドマイクロストリップ線路とは、誘電体基板に設けられている信号導体と、この誘電体基板に設けられていないグランド導体とを備えている線路であって、この誘電体基板の、グランド導体側と反対側の基板面に上記信号導体が設けられている線路をいう。
【0027】
本発明において、電磁結合用信号導体1は必ずしも、その全体が回路基板2の同じ面の側(図1に示す例では第2の対向基板面)にある必要はなく、一部分において、反対側の基板面にあってもよい。その場合は、回路基板2を貫通するビアホールを用いて、回路基板2の異なる側の面にそれぞれ設けている電磁結合用信号導体1を接続する。
【0028】
第2の対向基板面に設けられている電磁結合用信号導体1と第1のグランド導体4とでインバーテッドマイクロストリップ線路を構成している。仮に、第2の非対向基板面に電磁結合用信号導体が設けられている場合には、電磁結合用信号導体と第1のグランド導体4とでサスペンデッドマイクロストリップ線路を構成する。
【0029】
以降において、電磁結合用信号導体1によって構成されるインバーテッドマイクロストリップ線路及びサスペンテッドマイクロストリップ線路を第1のマイクロストリップ線路という。
【0030】
図1に示す例では、第2の非対向基板面には、接続用信号導体12が設けられている。電磁結合用信号導体1は、ビアホール15により接続用信号導体12に接続されている。接続用信号導体12は、回路基板2の第2の対向基板面に設けられた第2のグランド導体11とともにマイクロストリップ線路を構成する(第2のマイクロストリップ線路)。
【0031】
接続用信号導体12の近傍には、同軸ケーブル16と第2のマイクロストリップ線路とを接続する接続機構13が設けられている。この接続機構13により接続用信号導体12は同軸ケーブル16の内側導体18と半田等により接続されている。第2のグランド導体11は同軸ケーブル16の外側導体19とビアホール14を介して接続されている。外側導体19と内側導体18とは誘電体被膜17で絶縁されている。
【0032】
なお、本発明において、接続機構13は図1に示す形態に限られない。例えば、コネクタ等の接続機構を用いてもよい。内側導体18と接続用信号導体12とを接続し、かつ、外部導体19とグランド導体11とを接続するものであり、伝送損失が少ないものであれば、接続機構又は接続手段は特に限定されない。
【0033】
誘電体層7は、ガラス板3と回路基板2との間に介在し、絶縁性を有することが好ましい。誘電体層7には気体層、合成樹脂等を含む誘電体の組成物等が用いられる。誘電体層7が気体層の場合には、通常コスト的に安価な空気層が用いられるが、これに限定されず、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスでもよい。また、誘電体層7は、温度により気体中に含まれる水分が結露しないように十分乾燥していることが好ましい。誘電体層7として合成樹脂を含む介在物を用いる場合、絶縁性を有する接着剤(例えば、エポキシ樹脂等を含有する接着剤)又は絶縁性を有しシリコーンを含有する充填材等が用いられる。接着剤として、比誘電率が1.0〜4.0の範囲にあるものが容易かつ安価に入手でき好ましい。
【0034】
しかし、誘電体層7の材質は特に限定されない。電磁結合用信号導体1及び第2のグランド導体11等の回路基板2に設けられる導体が、第1のグランド導体4及びコプレーナ伝送線路21等の導体との間で絶縁性を有し、かつ、基板間の間隙を所定の材料で充填し易いものであればどのような材料でも用いることができる。
【0035】
ガラス板3の厚さ及びガラス板3の比誘電率は、電磁結合と直接関わりがないため、特に限定されない。例えば、通常の自動車用窓ガラス板のように厚さが2.0〜6.0mmで比誘電率が5.0〜9.0のガラス板を用いることが好ましい。
【0036】
回路基板2の厚さは0.1〜6.0mmであるのが好ましい。この厚さの範囲の基板を製造することが生産技術上容易だからである。なお、サスペンテッドマイクロストリップ線路を構成する電磁結合用信号導体1のように、信号導体の少なくとも一方が第2の非対向基板面に設けられている場合には、回路基板2の厚さを0.1〜2.0mmに設定するのが好ましい。回路基板2の比誘電率は2.0〜25.0であるのが好ましい。
【0037】
第1のグランド導体4と電磁結合用信号導体1との間隔は0.1〜2.0mmであることが好ましい。この間隔を0.1mm以上にすることは、回路基板2を精度良く配し易くなる。この間隔が2.0mm以下であると、2.0mm超である場合に比べて挿入損失特性が向上する。
【0038】
図3は、本発明の高周波伝送線路に平面アンテナを接続した平面アンテナ装置の一実施形態を示す斜視図である。図3に示す例では、第1のグランド導体4と所定の間隔で離間し、第1のグランド導体4に囲まれたパッチ導体61がガラス板3に設けられている。また、インピーダンス変成器62の中心導体63がパッチ導体61に設けられており、信号導体24に接続されている。インピーダンス変成器62は、中心導体63と、中心導体63の周縁近傍の第1のグランド導体4の縁辺とで構成されている。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、GPS、衛星デジタル放送、VICS、ETC及びDSRCシステムに好適な高周波アンテナ装置等に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の高周波伝送線路の一実施形態の斜視図。
【図2】コプレーナ伝送線路の信号を同軸ケーブルに取り出し、又は、逆に同軸ケーブルの信号をコプレーナ伝送線路へ送り出すための従来例の接続構造を示す斜視図。
【図3】本発明の高周波伝送線路に平面アンテナを接続した平面アンテナ装置の一実施形態を示す斜視図。
【符号の説明】
【0041】
1:電磁結合用信号導体
2:回路基板
3:自動車用窓ガラス板(第1の誘電体基板)
4:第1のグランド導体
5:スロット部
7:誘電体層
11:第2のグランド導体
16:同軸ケーブル
24:信号導体
25up、25dn:スロット領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の誘電体基板と、第1の誘電体基板に離間した第2の誘電体基板と、第1の誘電体基板と第2の誘電体基板との間に設けられている誘電体層とを備えた高周波伝送線路であって、
第1の誘電体基板の、該誘電体層の側の面には、グランド導体と、信号導体であって、その両側の一部又は全部がそれぞれスロット領域を介して該グランド導体に囲まれている信号導体とを有するコプレーナ伝送線路が設けられており、
さらに、該スロット領域のうちの一つが伸長されて、これらの伸長されている部分において、伸長部が構成されており、
第2の誘電体基板には、該伸長部と立体交差するように電磁結合用信号導体が設けられており、
該伸長部と該電磁結合用信号導体とが立体交差することにより電磁結合されていることを特徴とする高周波伝送線路。
【請求項2】
前記第2の誘電体基板の、前記誘電体層の反対側の面には、外部信号線と接続される接続用信号導体が設けられ、該接続用信号導体及び該電磁結合用信号導体のいずれか一方の信号導体が、第2の誘電体基板を厚さ方向に横切って他方の信号導体に接続されている請求項1に記載の高周波伝送線路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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