説明

高周波回路用筐体

【課題】ケースを蓋するカバーと誘電体基板との間に形成される空間が有する共振周波数による発振を防止でき、周波数特性の劣化を軽減でき、特性の優れた高周波回路用筐体を得ること。
【解決手段】マイクロ波帯やミリ波帯で用いる増幅回路などの様々な高周波回路が組み込まれた誘電体基板が実装されるケースと、前記ケースを蓋するカバーとを備える高周波回路用筐体において、前記誘電体基板には、前記様々な高周波回路間を仕切るように接地面が設けられ、前記カバーには、前記接地面に対応したカバー面の位置に、前記ケースを蓋したとき先端が前記接地面に接触可能な導電性突起が設けられ、前記誘電体基板の接地面に抵抗膜または電波吸収体が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯やミリ波帯の電子装置で用いる高周波回路用筐体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波帯やミリ波帯の電子装置では、当該電子装置の機能実現に必要な増幅回路や減衰回路、フィルタ回路、周波数変換回路など様々な高周波回路を1枚の誘電体基板に分布定数回路技術を用いて一体的に組み込み、その誘電体基板を金属箱体からなる筐体に収納して用いている。この高周波回路用筐体では、収納している誘電体基板に搭載されている高周波回路間の結合防止が解決すべき課題の一つになっており、従来から種々の防止方法が提案されている(例えば、特許文献1,2など)。
【0003】
すなわち、特許文献1では、誘電体基板上の回路毎にシールドキャップで覆う方法が提案されている。また、特許文献2では、誘電体基板上にカバーを設置し、そのカバーに設けられた仕切りにより誘電体基板上の回路間の結合を防止する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7―263887号公報
【特許文献2】特開2001−185915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の構成では、隣接する高周波回路間同士の結合は防止できるが、シールドキャップまたはカバーと誘電体基板との間に形成される空間が有する特定の共振周波数により、動作不良が生じる可能性がある。
【0006】
通常、空間のサイズは、共振周波数が所望の動作帯域内でカットオフとなるように寸法を定めるが、例えば、誘電体基板に搭載されている高周波回路内に広帯域増幅器を用いているような場合、上記のように形成される空間が有する所望の動作帯域外の共振周波数で発振することが起こる。
【0007】
また、空間は一種の導波管とみなすことができ、導波管のカットオフ周波数以上の周波数は空間内を伝播することが可能となるので、高周波回路の入力と出力との間での結合が増加し、周波数特性が劣化するといった動作不良が生じる場合がある。
【0008】
さらに、誘電体基板上にシールドキャップまたはカバーを設けて回路間の結合を防止する構成では、誘電体基板をケース内に実装しカバーで蓋する場合、ケースとそれを蓋するカバーとで構成される空間で同様な共振や入出力間の結合が生ずるので、ケースを蓋するカバーに電波吸収体を設ける等の措置が必要となる場合がある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ケースを蓋するカバーと誘電体基板との間に形成される空間が有する共振周波数による発振を防止でき、周波数特性の劣化を軽減でき、特性の優れた高周波回路用筐体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、マイクロ波帯やミリ波帯で用いる増幅回路などの様々な高周波回路が組み込まれた誘電体基板が実装されるケースと、前記ケースを蓋するカバーとを備える高周波回路用筐体において、前記誘電体基板には、前記様々な高周波回路間を仕切るように接地面が設けられ、前記カバーには、前記接地面に対応したカバー面の位置に、前記ケースを蓋したとき先端面が前記接地面に接触可能な導電性突起が設けられ、前記誘電体基板の接地面に抵抗膜または電波吸収体が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カバーに設けた導電性突起と誘電体基板とで仕切られた空間内を伝播する不要信号の一部は、誘電体基板に形成した接地面に設けた抵抗膜または電波吸収体により吸収されて減衰する。一方、所望の信号は、空間に漏れ出すことなく誘電体基板上の各回路を通るので、減衰することはない。したがって、ケースを蓋するカバーと誘電体基板との間に形成される空間が有する共振周波数による発振を防止でき、周波数特性の劣化を軽減でき、特性の優れた高周波回路用筐体を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態による高周波回路用筐体の外観構成を示す概念斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる高周波回路用筐体の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態による高周波回路用筐体の外観構成を示す概念斜視図である。図1において、高周波回路用筐体1は、ケース2と、ケース2を蓋するカバー3とで構成される。
【0015】
ケース2には、誘電体基板4が実装されている。誘電体基板4には、増幅回路や減衰回路、フィルタ回路など様々な高周波回路が搭載されているが、各回路を仕切る接地面5が設けられている。接地面5には、抵抗膜または電波吸収体6が設けられている。
【0016】
また、カバー3は、接地面5に対応したカバー面の位置に、ケース2を蓋したとき先端面が接地面5に接触可能な導電性突起7が設けられている。
【0017】
以上の構成において、図示しない入力端子から入力されたマイクロ波帯やミリ波帯の信号は、誘電体基板4に搭載された増幅回路、減衰回路、フィルタ回路など複数の回路を通って図示しない出力端子へ出力される。各回路同士が結合すると、所望の性能が得られないため、カバー3に設けた導電性突起7の先端を誘電体基板4上の接地面5に接触させ、回路間の結合を防止する。
【0018】
このとき、カバー3に設けた導電性突起7と誘電体基板4とで仕切られた空間は一定の共振周波数を有している。この空間を直方体と考えて、横方向、奥行き方向及び高さ方向の寸法をそれぞれa,b,cとすれば、共振周波数frは、自由空間での光の速度Coと共振波長λrとを用いて、
fr=Co/λr …(1)
と表される。なお、共振波長λrは式(2)で与えられる。式(2)において、m,n,pは、ゼロまたは正の整数である。
【0019】
【数1】

【0020】
一般には、寸法a、b及びcは、動作周波数帯域での特性の劣化を防止するため、動作周波数帯域で共振しないように選択して決める。しかしながら、使用している回路、例えば増幅器が広帯域に渡り動作可能で共振周波数においても十分利得をもつ場合は動作帯域外で発振等の動作不良を生じることがある。
【0021】
また、カバー3に設けた導電性突起7と誘電体基板4とで仕切られた空間は、
fc=Co/(2a) …(3)
で与えられる周波数fc以上の周波数を伝播することが可能である。そのため、例えばフィルタ回路の帯域外減衰量が不足するといった動作不良を生じることがある。
【0022】
この問題に対して本実施の形態では、空間内を伝播する不要信号の一部は、誘電体基板4に形成した接地面5に設けた抵抗膜または電波吸収体6により吸収されて減衰する。一方、所望の信号は、空間に漏れ出すことなく誘電体基板4上の各回路を通るので、減衰することはない。
【0023】
ここで、図1に示す構成において、カバー3の導電性突起7の先端面が誘電体基板4の接地面5に設けた抵抗膜または電波吸収体6と接触していなくとも、導電性突起7の先端面と抵抗膜または電波吸収体6との隙間に電界が集中するため、空間を伝播する不要波または隣接する回路へ漏れ込む信号は減衰するので、特性の劣化を防止することができる。
【0024】
したがって、本実施の形態によれば、カバー3と誘電体基板4との間に形成される空間が有する共振周波数による発振を防止でき、周波数特性の劣化を軽減でき、特性の優れた高周波回路用筐体を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上のように、本発明にかかる高周波回路用筐体は、ケースを蓋するカバーと誘電体基板との間に形成される空間が有する共振周波数による発振を防止でき、周波数特性の劣化を軽減でき、特性の優れた高周波回路用筐体として有用である。
【符号の説明】
【0026】
1 高周波回路用筐体
2 ケース
3 カバー
4 誘電体基板
5 接地面
6 抵抗膜または電波吸収体
7 導電性突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波帯やミリ波帯で用いる増幅回路などの様々な高周波回路が組み込まれた誘電体基板が実装されるケースと、前記ケースを蓋するカバーとを備える高周波回路用筐体において、
前記誘電体基板には、前記様々な高周波回路間を仕切るように接地面が設けられ、
前記カバーには、前記接地面に対応したカバー面の位置に、前記ケースを蓋したとき先端面が前記接地面に接触可能な導電性突起が設けられ、
前記誘電体基板の接地面に抵抗膜が設けられている
ことを特徴とする高周波回路用筐体。
【請求項2】
マイクロ波帯やミリ波帯で用いる増幅回路などの様々な高周波回路が組み込まれた誘電体基板が実装されるケースと、前記ケースを蓋するカバーとを備える高周波回路用筐体において、
前記誘電体基板には、前記様々な高周波回路間を仕切るように接地面が設けられ、
前記カバーには、前記接地面に対応したカバー面の位置に、前記ケースを蓋したとき先端面が前記接地面に接触可能な導電性突起が設けられ、
前記誘電体基板の接地面に電波吸収体が設けられている
ことを特徴とする高周波回路用筐体。

【図1】
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