説明

高周波磁場を用いた磁性部材の加熱方法

【課題】高周波磁場を用いた磁性部材の加熱方法において、より効率的な磁性部材の加熱方法を提供する。
【解決手段】高周波磁場を用いた磁性部材(但し、磁性部材には、磁性部と非磁性部からなる複合磁性部材を含む)の加熱方法であって、前記磁性部材は磁化に関して異方性を有し、前記高周波磁場として、マイクロ波を前記磁性部材の磁化最容易方向以外の方向に印加することを特徴とする。または、高周波磁場を用いた磁性部材(但し、磁性部材には、磁性部と非磁性部からなる複合磁性部材を含む)の加熱方法であって、前記高周波磁場として、マイクロ波を前記磁性部材に印加するとともに、前記マイクロ波の印加方向と直交する方向に静磁場を印加することで加熱効率を向上させることを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性体を高周波磁場を用いて加熱する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄などの磁性体の熱処理には、電気炉などを用いて主に外部の雰囲気を加熱する雰囲気加熱が用いられてきた。このような雰囲気加熱は、加熱したい磁性体以外の炉体内部なども加熱することになり、効率が低く、加熱する速度も遅いという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するためにマイクロ波を用いた加熱が注目されてきている。マイクロ波は対象物自身を自己発熱させる効果があり、雰囲気加熱と異なり、対象物以外の加熱に使われてしまうエネルギーが小さいことが知られている。効率的なマイクロ波加熱を行うための要件として、加熱の対象物がマイクロ波を吸収することが必要である。マイクロ波を吸収するためには、磁性損失(μ’’)、誘電損失(ε’’)または内部に流れる電流(誘導電流)による損失のいずれかが必要となる。
【0004】
文献1では、筋肉モデルにフェライト粉を含ませてマイクロ波で加熱する際、更に外部静磁場を印加することで強磁性共鳴状態とし、加熱を促進させる効果が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IEEETransactions on Magnetics, vol. Mag-23,[5] (1987) 2431-2433
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性体の場合、高周波磁場による磁性損失または渦電流による発熱が起きるが、渦電流による加熱を利用して積層型トロイダルコアの加熱を行った場合、外側のみが加熱され内部まで十分な加熱できないおそれがある。また、磁性損失を用いた加熱の場合でも一般にマイクロ波帯域では磁性損失は小さく、効率的な加熱を行うことが難しい。これは高周波帯域では磁場に対する磁気モーメントの応答が低下するためであり、特に低周波帯域で透磁率の大きいものほどこの低下が顕著である。従って、磁性体を磁性損失(μ’’)を利用して加熱しようとしてもその効率は十分なものとはならなかった。例えば、非特許文献1に開示の技術は医療用材料を意図しているため、その温度上昇効果も10℃にも満たず、磁性部材の加熱方法として十分な加熱効果を期待させるものではなかった。
【0007】
本願発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、高周波磁場を用いた磁性部材の加熱方法において、より効率的に磁性部材を加熱する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁性部材の加熱方法は、高周波磁場を用いた磁性部材(但し、磁性部材には、磁性部と非磁性部からなる複合磁性部材を含む)の加熱方法であって、前記磁性部材は磁化に関して異方性を有し、前記高周波磁場として、マイクロ波を前記磁性部材の磁化最容易方向以外の方向に印加することを特徴とする。異方性を有する磁性部材内部において、磁気モーメントは、磁化容易方向に向いている。したがってかかる磁化容易方向のうち、特に磁化最容易方向以外の方向に高周波磁場を印加することで、該方向に平行に印加した場合に比べて、マイクロ波帯域において高い透磁率虚数部μ’’が得られ、効率のよい加熱が可能となる。
【0009】
前記磁性部材の加熱方法において、前記磁性部材は薄帯または薄帯の積層物であり、前記マイクロ波は前記薄帯の面内方向に印加することが好ましい。かかる構成によってより効率のよい加熱が可能となる。
【0010】
前記磁性部材の加熱方法において、前記薄帯の面内方向にさらに静磁場を印加することが好ましい。かかる構成によって加熱の効果をよりいっそう高めることができる。
【0011】
本発明の他の磁性部材の加熱方法は、高周波磁場を用いた磁性部材(但し、磁性部材には、磁性部と非磁性部からなる複合磁性部材を含む)の加熱方法であって、前記高周波磁場として、マイクロ波を前記磁性部材に印加するとともに、前記マイクロ波の印加方向と直交する方向に静磁場を印加することで加熱効率を向上させることを特徴とする。静磁場を印加することで、強磁性共鳴状態を発現させ、μ’’を増大させることができる。かかる構成によれば、効率のよい加熱が可能となる。
【0012】
前記磁性部材の加熱方法において、前記磁性部材が1T以下の静磁場で飽和することが好ましい。
【0013】
上述の磁性部材の加熱方法において、特定の方向に磁場を振動させることができる導波管または円筒導波管を用いて、進行波または定在波を発生させることにより、前記マイクロ波の印加を行うことが好ましい。かかる構成を備えることにより、加熱対象物に対して特定方位関係を有する高周波磁場を印加することができ、上述の効率の良い加熱を行うことが可能である。
【0014】
前記磁性部材の加熱方法において、前記マイクロ波の入射電力が1W以上であることが好ましい。かかる構成によれば加熱方法として十分な加熱効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高周波磁場を用いた磁性部材の加熱方法において、より効率的な磁性部材の加熱が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】加熱装置の構成を示す図である。
【図2】静磁場の強度が磁性部材の温度上昇に与える影響を示す図である。
【図3】静磁場の強度が磁性部材の温度上昇に与える影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の磁性部材加熱方法の実施形態について、以下具体的に説明するが本発明がこれに限定されるものではない。本発明に係る加熱方法に供する磁性部材は、アモルファスやナノ結晶材等の金属薄帯、それを積層した積層体、金属の圧粉体・焼結体、フェライト等の酸化物の圧密体・焼結体、単結晶、薄膜、ワイヤ等である。かかる磁性部材には、磁性体単体に限らず、磁性部と非磁性部からなる複合磁性部材も含まれる。かかる複合磁性部材は、例えば、アモルファス金属薄帯を樹脂を介して積層した積層体、磁性粒子が樹脂等の非磁性体とともに圧密化されたバルク体、磁性粒子が非磁性体中に分散しているバルク体等である。但し、本発明に係る磁性部材の加熱方法には、磁性体のうち粉末状のものを粉末の状態のまま加熱する方法を含まない。本願発明に係る加熱方法は、例えば薄帯積層コア・圧粉磁心の歪を除去するための熱処理、或いはアモルファスの結晶化熱処理、磁性薄膜のアニール処理等として用いることができる。また樹脂等との混合物を加熱して樹脂を溶解させる処理にも用いることができる。このような処理により樹脂との複合磁性材を効率良く作製することができる。
また、本願発明に係る加熱方法は、磁性体に異方性を付与する熱処理にも使用できる。特に静磁場を同時に印加する処理では、熱処理中に異方性も付与することができる。上述のような加熱を実施するためには、好ましい加熱温度は、絶対温度でのTc(キュリー温度)の95%以下であることが望ましい。本構成により磁性損による効率的な加熱を行うことができる。また更に望ましくはTcの85%以下であることが望ましい。かかる構成において例えばFeやNiなどの代表的な磁性金属は極低温の飽和磁化との比で60%以上の磁化を示すため高い透磁率虚数部が得られ、効率的な加熱を行うことができる。一方で、上記のような樹脂を溶解させる場合には、100℃以上まで加熱することが望ましく、また上述の薄帯積層コア・圧粉磁心の歪取り処理などの場合、300℃以上の高温とすることが望ましい。
上述した加熱方法は、本発明の第1の実施形態、すなわち磁化最容易方向以外の方向に高周波磁界を印加すること、および本発明の第2の実施形態、すなわちマイクロ波磁場に垂直に静磁界を印加すること、のいずれを用いることもできる。しかし内部組織の複雑さにより特定の磁化最容易方向を持たない磁性体に関しては、第2の実施形態を用いるのが適当である。また更に可能であれば第1の実施形態および第2の実施形態を同時に用いることが望ましい。
【0018】
本願発明のうち、磁化に関して異方性を有する磁性部材を対象とする発明の場合、かかる磁性部材としては、異方性を持つアモルファス薄帯やナノ結晶材、またそれを積層した積層体、異方性を持つ薄膜等が望ましい。薄帯や薄膜は面内に反磁場係数の小さい方向を持つため、その方向に高周波磁場を印加した時、高い透磁率が得られやすく効率的な加熱ができる。また同様の理由から針状の磁性体であって、針の軸に垂直な方向に磁化容易方向を持つ磁性体が望ましい。また非磁性部を含む複合磁性体でも上記のような異方性を有する磁性部材を構成することができる。異方性の発生要因は、単結晶または配向した多結晶体の場合は結晶磁気異方性であり、アモルファス薄帯の場合は、歪や原子の配向である。また、試料または試料に含まれる磁性体の形状に由来する形状磁気異方性も異方性発生要因の一つである。本発明で述べる異方性はこれらいずれの原因によってもたらされたものでも構わない。
【0019】
本願発明の第1の実施形態では、高周波磁場として、マイクロ波を前記磁性部材の磁化最容易方向以外の方向に印加し、マイクロ波磁場と磁性部材の磁気異方性との方位関係を利用して加熱を促進する。磁化最容易方向とは、磁性部材を磁化する際において、磁化のしやすさが各方向で異なる場合に、最も磁化しやすい方向のことである。磁化容易面を持つ場合であっても、その面内の特定の方向で、その面内の他の方向よりも磁化しやすい方向があれば、その方向が磁化最容易方向となる。異方性によって生じた磁化最容易方向以外の方向に高周波磁場を印加することで、高い透磁率の虚数部μ’’を利用して高周波での効率的な加熱を行うことができる。これは磁化最容易方向が静的な磁化過程で最も磁化しやすい方向であるのに対し、マイクロ波帯域で用いる高周波磁場に関してはこれ以外の方向の方が高い透磁率を得られるという点に由来している。静的な磁化最容易方向は最も静磁エネルギーが小さい方向であり、磁性体はこの方向になるべく多くの磁気モーメントを向かせるような磁区構造を形成する。このため磁化最容易方向に高周波磁場を印加して磁化する場合、磁壁の移動による磁化過程が支配的となる。磁壁移動は、磁気モーメントの回転による共鳴よりも低い周波数で共鳴を起こし、磁化しにくくなる。このため高周波では磁化最容易方向に直交する方向が高い透磁率を示す。高周波磁場の印加方向は、磁化最容易方向を少しでも外れれば、該磁化最容易方向に印加した場合に比べて加熱効率が向上するが、より効率的な加熱の観点からは、高周波磁場の印加方向は磁化最容易方向に垂直な方向であることがより好ましい。
磁化容易方向を確認する方法としては、比較的大きな異方性を有する場合は振動試料型磁力計を用いて、飽和に必要な磁場が小さい方向が容易方向と分かる。また円盤や円柱などは磁気トルク計を用いて異方性を評価することができる。またヴィッター法、縦カー効果などを利用し、直接磁区を観察することでも評価できる。また薄帯や薄膜などで面内に弱い異方性が有するものは、薄膜評価型の高周波透磁率測定機を用いて、方向を変えて評価することができる。磁壁共鳴周波数を超える高周波での透磁率測定を行った場合、上述の理由により透磁率の最も高い方向が、磁化最容易方向と直交していると解釈してよい。
【0020】
ここで、磁性部材として薄帯を例にしてさらに詳述する。薄帯は薄帯の平面方向とそれに垂直な方向とで形状磁気異方性による異方性が生じる。さらに、メルトスパン法によって作製されたアモルファス薄帯の場合、冷却ロール面に平行となる薄帯の面内方向においても、溶湯の吐出時に異方性が付与される。この場合、薄帯の面内方向のうち、薄帯の長手方向(薄帯の連続方向)が薄帯の磁化容易方向となる。すなわち、かかる方向が薄帯における磁化最容易方向となる。薄帯の場合、磁化最容易方向である薄帯の長手方向以外に高周波磁場を印加すれば本願発明の第1の実施形態の効果を発揮するが、かかる条件を満たしつつ、特に薄帯の面内方向に高周波磁場を印加することで、より効率的な加熱を行うことができる。磁化最容易方向以外の方向として、例えばそれに垂直な方向を考えると、該方向としては、薄帯の面内方向のみならず、薄帯の面(冷却ロール面に平行な面)の法線方向もありうる。しかしながら、薄帯の面の法線方向に高周波磁場を印加すると、薄帯の厚さ方向に加熱むらが生じやすい。したがって、薄帯に高周波磁場を印加する場合は、より均一な加熱を可能とするために、薄帯の面内方向に高周波磁場を印加することが好ましい。なお、薄帯の面内方向に高周波磁場を印加することによる、均一加熱の効果は、上述の異方性にかかわらず発揮されるため、薄帯の加熱方法として広く適用できるものである。また、上述の効果は薄帯のみならず、薄帯を積層した積層物においても同様に発揮され、特に積層物を均一に効率よく加熱する上で有効である。
【0021】
また、上述の薄帯の面内方向に高周波磁場を印加する場合、薄帯の面内方向にさらに静磁場を印加することで磁性部材をより効率的に加熱できる。静磁場を印加することで共鳴状態を発現させ、それによって加熱が加速される。
【0022】
次に本願発明の第2の実施形態について説明する。本願発明の第2の実施形態でも、前記第1の実施形態と同様に、高い透磁率の虚数部μ’’を利用して高周波での効率的な加熱が行われる。第2の実施形態においては、高周波磁場として、マイクロ波を磁性部材に印加するとともに、前記マイクロ波の印加方向と直交する方向に静磁場を印加する。静磁場を印加することによって、強磁性共鳴状態を発現させる。この強磁性共鳴の発現によってμ’’を増大させ、該μ’’を利用した効率のよい加熱が可能である。かかる第2の実施形態においては、磁性部材は必ずしも異方性を有することを必要としない。静磁場強度は、印加しない場合に比べて加熱が促進される、例えば温度上昇効果が得られる範囲で印加すればよい。静磁場は少しでも印加されれば加熱促進・温度上昇の効果があるが、より好ましい静磁場強度は、加熱効率・温度の静磁場強度依存性においてピークを取る静磁場強度Hpに対して、−100%を超え、+100%未満の範囲である。さらに好ましくは、Hpの±70%以内、より好ましくは±50%以内である。かかるピークを取る静磁場強度Hpを予め決めることができない場合は、強磁性共鳴の共鳴条件から算出されるHr(共鳴磁界)を用いて、そのHrの±50%以内の静磁場強度を採用してもよい。一方、複合磁性部材の場合も含む磁性部材の飽和磁化は0.1T以上が好ましい。十分な加熱効果を得るためにはなるべく磁性部位が多いことが望ましいからである。かかる観点からは0.3T以上の飽和磁化を持つ磁性体がより望ましい。
【0023】
また、磁性部材は1T以下の静磁場で飽和するものであることが好ましい。磁性部材を飽和させるために1Tを超える静磁場が必要となると、一般的な電磁石を用いることが困難になる。磁性部材は0.6T以下の静磁場で飽和することがより好ましい。第2の実施形態においても、磁性部材として、アモルファスやナノ結晶材などの薄帯、それを積層した積層体または薄膜が望ましい。薄帯や薄膜は面内に反磁場係数の小さい方向を持つため、その薄帯面内または膜面内に静磁場と高周波磁場を直交させながら印加することができ、高い透磁率が得られやすいだけでなく、弱い静磁場で試料を飽和させることができるという利点がある。
【0024】
前記第2の実施形態に係る構成は、前記第1の実施形態に係る構成と組み合わせて加熱することで更に効率的な加熱を行うことができる。このとき磁化最容易方向に静磁場を印加することで、低い静磁場で飽和させることができるというメリットもある。
【0025】
本願発明において用いる高周波磁場は、上述のようにマイクロ波である。具体的には、かかるマイクロ波の周波数は600MHz〜30GHzが望ましい。この周波数において特定の方向に磁場を振動させることができる導波管または円筒導波管を用いて、進行波または定在波を発生させることによって、マイクロ波の印加を行うことができる。また、トロイダル形状に積層したコアの場合、コア軸に沿って振動する高周波磁場を印加するか、または円筒導波管を用いることにより周に沿った方向に高周波磁場を印加することで、反磁場係数が低い態様で、望ましい加熱ができる。大きな加熱効果を得る観点からはマイクロ波の入射電力は1W以上であることが好ましい。かかる入射電力は、導波管内のマイクロ波の一部を方向性結合器により進行波と反射波に分離し、マイクロ波検出素子により評価すればよい。
【0026】
上述の磁性部材の加熱方法を実現するための加熱装置は、少なくとも磁性部材に高周波磁場を印加するための発振管を備える。また、静磁場も印加する加熱方法の場合には、静磁場を印加するための静磁場発生源を備える。発振管は、クライストロン、マグネトロン、ジャイロトロンまたは半導体発振器等を用いることができる。高周波磁場を印加するための構成以外は、必要に応じて構成を変更・追加すればよい。
図1には加熱装置の一例として、高周波磁場に加えて静磁場も印加可能な加熱装置を示す。図1に示す加熱装置では、発振管1としてマグネトロンを用いている。なお、前記第2の実施形態においては、強い強磁性共鳴を誘起するために、発振する電磁波の周波数分布が狭い半導体発振器を用いることが望ましい。また、マイクロ波印加のために導波管または円筒導波管を備えることがより好ましい。また図1に示すように、入射電力をモニターし、制御するために、入射するマイクロ波の一部を取り出す、方向性結合器3を発振管1とキャビティ5との間に備えるとよい。方向性結合器3とキャビティ5の間にはE−Hチューナ4が接続されている。かかるE−Hチューナ4によってキャビティ5に生じる定在波を調整し、発生する高周波磁場を強めることができる。発振管1と方向結合器3との間にはアイソレータ2が接続されている。試料に吸収されなかったマイクロ波は、反射後、アイソレータ2のダミーロードに吸収される。加熱する磁性部材は石英管に挿入し、キャビティ5内に配置する。これら発振管1、アイソレータ2、方向性結合器3、E−Hチューナ4およびキャビティ5は導波管で接続されており、これら発振管1、アイソレータ2、方向性結合器3、E−Hチューナ4およびキャビティ5も固有の目的を持った導波管とみなせる。特にキャビティ5においては内部に定在波を立てるため終端を可動できる金属壁としており、キャビティ5とE−Hチューナ4から接続される導波管の間にはアイリスが設置され、金属壁との間を電磁波が多重反射して定在波の高周波磁場強度を高めることができる。キャビティ上部には穴が空けられ、石英菅が挿入できる構成になっている。静磁場は、永久磁石によって発生させることもできるが、磁場強度制御の観点からは電磁石を用いることが好ましい。
図1に示す構成では磁場発生源6として電磁石を用いている(図1のおける磁場発生源6は便宜上電磁石のポールピースの部分を示している)を用いることが好ましい。キャビティ内部には電磁波の進行方向およびそれに直交する2方向の高周波磁場が発生する領域がある。図1に示す加熱装置では電磁波の進行方向に垂直に静磁場が印加できるような電磁石が付帯されている。なお、静磁場はギャップ間隔が広くなるほど発生させることが困難になるため、例えば35cm以下であることが望ましい。さらに加熱する磁性部材を囲むように断熱材を配置するとよい。
【0027】
本願発明に係る加熱方法は、アモルファスコアや圧粉磁心の熱処理のような、磁性部材自体の特性・性状を変化させる磁性部材の製造方法として利用することができるのはもちろんのこと、磁性部材の加熱・発熱を利用して他の対象物を加熱することにも用いることができる。また、上述の磁性部材は各種モータ・電子部品の磁性コアとして用いることができるが、その用途はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
Fe5Co75Si4B16の組成を有するアモルファス薄帯をメルトスパン法で作製した。薄帯の厚さは23μmとした。本試料のアモルファス状態でのTcは590℃である。作製した薄帯を5mm角の正方形に切断し、石英菅に入れ、図1に示す加熱装置(但し、静磁場を印加する機能は用いていない)を用いて加熱を行った。なお、加熱部位として、発振器接続側に固定アイリス、その反対側に可動型プランジャーが付帯したTE10モードキャビティーを使用した。本キャビティに5.8GHzのマグネトロンを接続してマイクロ波を供給した。試料は温度を均一にするため周囲をグラスウールで断熱し、断熱材の隙間から放射温度計(商品名:PhotoriX System、Luxtron社製)にて試料の温度を測定した。薄帯試料の面内で且つ、メルトスパンを行ったときの薄帯の長手方向と垂直になる方向に高周波磁場を印加して加熱を行った。また、比較のために、薄帯試料の面内で且つ、メルトスパンを行ったときの薄帯の長手方向に平行になる方向に高周波磁場を印加して加熱を行った。試料を300,350,400℃まで加熱したときのマイクロ波出力の値をそれぞれ表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
アモルファス材料は吐出時に異方性が付与されることが知られており、上記薄帯の長手方向が磁化最容易方向である。表1に示したように同形状の試料を同温度まで加熱する際に、高周波磁場を磁化最容易方向に垂直に印加することにより、平行に印加した場合に比べ20W以上小さい出力で所定の温度まで加熱することができることが分かる。
【0031】
(実施例2)
原料のマグネタイト粉末(Sigma Aldrich Japan製)を7mmφの金型を用いてプレスし、高さ0.5mm相対密度60%の円筒形の成形体を作製した。マグネタイトの室温での飽和磁化は0.6Tであり、圧粉体の飽和磁化は0.36Tである。また本試料のTcは585℃である。振動試料型磁力計を用いた測定より飽和させるのに必要な磁場は40kA/m(500Oe)であった。実施例1と同様の加熱装置(但し、静磁場を印加する機能を用いている)を用いて成形体試料を加熱した。実施例1と同様に放射温度計を使用し、試料の上端面の温度を測温した。まず試料に高周波磁場を円筒状試料の側面部に垂直に印加して420℃の一定温度となるように出力を調整した。その後、円筒側面および高周波磁場方向に共に直交するように静磁場を印加した。図2にその結果を示す。静磁場が少しでも印加されると加熱が促進され、温度上昇の効果が現れることがわかる。また、静磁場を印加する際ほぼ0.15Tの外部磁場で温度の極大値が見られ、初期、すなわち静磁場を印加していない場合の420℃よりも80℃程度以上高い温度となることが分かった。ここで、粉体の形状が不定形で磁気的結合が弱く等方媒質の球を仮定し、ω=γHの共鳴条件の式(ここでω=2πf (fは周波数で5.8×109)、γはジャイロ磁気定数でHは外部磁場である。)を用いて、強磁性共鳴が生じる磁場を算出する。このとき共鳴磁場は0.21Tが導き出される。図2に示したピークはこの強磁性共鳴の共鳴条件に係る静磁場強度に対応しており、本実施例の加熱が強磁性共鳴に起因した加熱であることを示している。
【0032】
(実施例3)
実施例1と同様に作製した薄帯を5mm角の正方形に切断し、石英菅に入れ、実施例2と同様の加熱装置を用いて加熱した。実施例1と同様に放射温度計を使用して試料の温度を測定した。薄帯試料の面内で且つ、メルトスパンを行ったときの薄帯の長手方向と垂直になる方向に高周波磁場を印加して加熱を行った。加熱の手順は次のように行った。まず試料に高周波磁場のみを印加し、反射電力が小さくなるよう、プランジャーやEHチューナーを利用して調整した。加熱開始後は入射波の出力を小さくするよう電力を調整し、一定の温度となるようにした。一定の温度となった後に、薄帯面内で且つ高周波磁場と垂直な方向に静磁場を印加した。磁場は徐々に出力を強め、その都度温度を安定させるため10秒ほど保持した。0.1Tまでの静磁場を印加した後、静磁場を除去した。このとき静磁場は薄帯面内方向で、かつ高周波磁場と直交する向きに印加した。そのときの印加した静磁場と温度の関係を図3に示す。なお、本試料は磁力測定より4kA/m(50Oe)で磁気飽和することが分かっている。
【0033】
静磁場を印加する際、ほぼ0.036Tの外部磁場を印加したときに温度の極大値が見られ、初期、すなわち静磁場を印加していない場合の300℃よりも約150℃程度以上高い温度となることが分かった。ここで、試料がバルク体で板状であることを前提として、ω=γ{H・(H+Is/μ0)}0.5の共鳴条件の式(ここでω=2πf (fは周波数で5.8×109)、γはジャイロ磁気定数でHは外部磁場である。Isは試料は飽和磁化でμ0は真空の透磁率である。)から、振動試料型磁力計により求めたIsの値1.15Tを用いて、強磁性共鳴が生じる磁場を算出する。このとき共鳴磁場は0036Tが導き出せる。図3に示した極大値を与える静磁場強度は、この強磁性共鳴の共鳴条件に係る静磁場強度に対応しており、本実施例の加熱が強磁性共鳴に起因した加熱であることを示している。
【0034】
(実施例4)
高周波磁場を長手方向と平行に、静磁場を薄帯面内で長手方向に垂直に印加する構成に変更した以外は実施例3と同様な実験を行った。結果、450℃まで加熱するのに必要な出力は静磁場無しの場合で95W、静磁場を印加した場合75Wであることが分かり、静磁場を印加することで効率良く加熱できることが分かった。しかし高周波磁場を磁化最容易方向以外の方向(具体的には磁化最容易方向に垂直な方向)に印加した実施例3では、52Wで450℃まで加熱できることから、マイクロ波を磁性部材の磁化最容易方向以外の方向に印加する第1の実施形態と、マイクロ波を磁性部材に印加するとともに、マイクロ波の印加方向と直交する方向に静磁場を印加する第2の実施形態とを組み合わせて用いることで最も効率的な加熱が行うことができることが分かる。
【符号の説明】
【0035】
1:発振管 2:アイソレータ 3:方向性結合器 4:E−Hチューナ
5:キャビティ 6:磁場発生源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波磁場を用いた磁性部材(但し、磁性部材には、磁性部と非磁性部からなる複合磁性部材を含む)の加熱方法であって、
前記磁性部材は磁化に関して異方性を有し、
前記高周波磁場として、マイクロ波を前記磁性部材の磁化最容易方向以外の方向に印加することを特徴とする磁性部材の加熱方法。
【請求項2】
前記磁性部材は薄帯または薄帯の積層物であり、
前記マイクロ波は前記薄帯の面内方向に印加することを特徴とする請求項1に記載の磁性部材の加熱方法。
【請求項3】
前記薄帯の面内方向にさらに静磁場を印加することを特徴とする請求項2に記載の磁性部材の加熱方法。
【請求項4】
高周波磁場を用いた磁性部材(但し、磁性部材には、磁性部と非磁性部からなる複合磁性部材を含む)の加熱方法であって、
前記高周波磁場として、マイクロ波を前記磁性部材に印加するとともに、前記マイクロ波の印加方向と直交する方向に静磁場を印加することで加熱効率を向上させることを特徴とする磁性部材の加熱方法。
【請求項5】
前記磁性部材が1T以下の静磁場で飽和することを特徴とする請求項4に記載の磁性部材の加熱方法。
【請求項6】
特定の方向に磁場を振動させることができる導波管または円筒導波管を用いて、進行波または定在波を発生させることにより、前記マイクロ波の印加を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の磁性部材の加熱方法。
【請求項7】
前記マイクロ波の入射電力が1W以上であることを特徴とする請求項6に記載の磁性部材の加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−38491(P2012−38491A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176093(P2010−176093)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】