説明

高周波結合器およびそれを用いた非接触伝送通信システム

【課題】
容量結合方式を用いた高周波結合器は、使用する高周波信号の波長により、その大きさが決まる。高周波結合器を小型化・低背化することにより、非接触伝送通信システムを小型化することを目的とする。
【解決手段】
データを非接触で伝送する誘導電界方式による高周波結合器50において、トロイダル状のプリントコイル41を結合素子とし、前記プリントコイルの下に、誘電体層と導体層31を設け、前記プリントコイルの上面に中心周波数調整用の導体部を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電界を利用した近距離の無線通信で非接触でデータ伝送を行う非接触伝送通信システムに用いられる高周波結合器、およびそれを用いた非接触伝送通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、小型の情報機器端末において、大容量の画像や音楽などのデータ交換の際に、ケーブルを接続したり、メモリカードを交換したりする必要のない、静電界若しくは誘導電界を用いる近距離無線通信が発明・考案されている。
微弱電波で通信可能な結合器間のみで発生する静電界若しくは誘導電界を用いれば、無線局の免許が必要のない、微弱無線による非接触伝送通信システムの実現が容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−154198
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の静電界若しくは誘導電界を利用した非接触伝送通信システムの送信機と受信機の間には高周波結合器が用いられる。高周波結合器には、コンデンサの電荷を利用した容量結合方式が知られている。特許文献1。
【0005】
図9は、静電界若しくは誘導電界を利用して無線通信を行う非接触伝送通信システムにおいて、容量結合方式の高周波結合器を示す斜視図である。
容量結合方式の高周波結合器60は、下面にベタグランド12が形成され、上面にインピーダンス整合と共振のための導体パターンによるスタブ11が形成された基板10に、結合用電極20が配設されている。
結合用電極20の中央部は、金属線21を介して、スタブ11の略中央部に接続されている。
スタブ11の一方の端部は、図示しない送受信回路モジュールに接続され、他方の端部は、基板10を貫通するスルーホール13を介して、下面のベタグランド12に接続されている。
スタブ11の長さL1は、高周波信号の2分の1波長程度である。
【0006】
上記の静電界若しくは誘導電界を利用する容量結合方式を用いた高周波結合器は、用いる高周波信号の波長により、スタブ11の長さL1、金属線21の長さ、結合用電極20の大きさが決まる。スタブ11を折り曲げて基板10に配置して、高周波結合器を小型化する方法もあるが更なる小型化が要求されている。
【0007】
本発明は、高周波結合器を小型化・低背化することにより非接触伝送通信システムをより小型化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の高周波結合器は、トロイダル状のプリントコイルを結合素子とし、前記プリントコイルの下に誘電体層と導体層を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高周波結合器によれば、スタブを不要とし、製造上のばらつきや、実装状態による中心周波数のばらつきが小さくでき、小型で低背な高周波結合器とすることができる。また、本発明の高周波結合器を用いれば、高周波信号による誘導電界を利用する非接触伝送通信システムを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例である誘導電界方式の高周波結合器である。
【図2】図1の高周波結合器の実装状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の高周波結合器を用いた非接触伝送通信システムのブロック図である
【図4】本発明の高周波結合器の周波数特性である。
【図5】本発明の高周波結合器の指向性特性である。
【図6】本発明の高周波結合器の誘電体と基板間の距離による周波数の変化である。
【図7】本発明の高周波結合器が結合した状態の等価回路図である。
【図8】本発明の高周波結合器の他の実施例を示す斜視図である。
【図9】従来の容量結合方式による高周波結合器である。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例である誘導結合方式を用いた高周波結合器の斜視図を示す。
高周波結合器50は、第1の誘電体40と第2の誘電体30と、第1の誘電体40に設けられた螺旋状のプリントコイル41からなる。
第1の誘電体40の上面と下面に複数の線状の導体パターンが形成され、それぞれの導体パターンの端部は、第1の誘電体40を貫通するスルーホール43により上下の導体パターンを電気的に接続して、巻き軸が環状となるトロイダル状のプリントコイル41を構成している。このプリントコイル41に発生する磁流ループで誘導電界による非接触伝送通信が行われる。
第2の誘電体30の上に第1の誘電体40が積み重ねられ、プリントコイル41の両端部は、スルーホール51、52を介して、第2の誘電体30の下面に導かれる。
第2の誘電体30の下面には、スルーホール51、52を除くの外縁に導体層31が形成されている。
【0012】
図2は、送受信回路モジュール5が搭載された基板10に図1の高周波結合器50を実装した斜視図である。
高周波結合器50は、基板10の上面に配置され、高周波結合器の一方のスルーホール51は送受信回路モジュール5に接続され、他方のスルーホール52は、基板10に設けられたスルーホール14によって、基板10の底面のベタグランド12に接続されている。
【0013】
上記の高周波結合器50は、一辺の長さが5.5mm、厚さは1.5mmで、2層のFR4基板を用いて作製されている。
図において、基板10の表面をXY平面とし、高周波結合器50のプリントコイル41の端子の引き出し方向をX軸方向、X軸と直交する方向をY軸方向、基板10の厚さ方向をZ軸とする。
【0014】
図3は、本発明の高周波結合器を用いた非接触伝送通信システムのブロック図である。図の非接触伝送通信システムは、データ送信を行なう送信機1と、データ受信を行なう受信機2で構成される。送信機1は、送信部3と誘導結合方式による高周波結合器50からなり、受信機2は、誘導結合方式による高周波結合器50と受信部4からなる。同図に示すように、送信機と受信機のそれぞれの高周波結合器50を、近距離で向かい合わせて配置することにより、2つの高周波結合器が誘導結合して、非接触伝送通信が可能になる。
【0015】
図4は、図2に示した高周波結合器間50,50の距離L2を15mmとした場合の周波数特性を示す。図において、横軸は周波数、縦軸は伝搬損を示している。
図5は、図2に示した高周波結合器の周波数が4.5GHzにおけるXZ平面での放射指向特性を示すグラフである。図において、Vは垂直偏波を示し、Hは水平偏波を示す。
図より、高周波結合器50の上面、下面方向に縦波が発生していることがわかる。
【0016】
高周波結合器の中心周波数は、基板の実装状態において、基板からの浮き加減により変化する。
図6は、図2に示した高周波結合器において、高周波結合器50と基板10の浮きによる中心周波数の変化を示すグラフである。図において、横軸は高周波結合器50と基板10のギャップGp、縦軸は周波数であり、Xは導体層31がある場合、Yは導体層31がない場合を示す。
図より、高周波結合器50の下面に導体層31を設けると、高周波結合器50と基板10の浮きによる周波数の変化が小さくなることがわかる。
【0017】
このように、本発明の非接触伝送通信システムに用いられる誘導結合方式による高周波結合器は、スタブが不要である。
また、プリント基板方式で導体パターンのプリントコイルを形成したので、低背で寸法精度の高く、製造上のばらつきの少ない高周波結合器とすることができる。さらに、高周波結合器の底面には導体層を設けることにより、実装時の浮き加減のばらついても中心周波数の変化を小さくできる。
【0018】
図7は本発明の高周波結合器を用いた非接触伝送通信システムの送信機と受信機が結合した状態の等価回路を示す。
図において、送信機1は、誘導結合方式による高周波結合器50と、送信部3のインピーダンスR1Aの等価回路を示す。受信機2は、誘導結合方式による高周波結合器50と、受信部2のインピーダンスR1Bの等価回路を示す。高周波結合器50の等価回路は、送信機1または受信機2に並列に接続された、インダクタンスL5A、L5Bと、容量C4A、C4Bで表され、高周波結合器の間の等価回路は、並列に接続されたインダクタンスLoと容量Coで表される。
【0019】
図8は、本発明に用いられる誘導結合方式による高周波結合器の他の実施例を示す斜視図である。
前記実施例において、高周波結合器50Bは、第1の誘電体40の上面にプリントコイル41を形成する導体パターンと導体パターンの外側から端部にかけて、導体部48が形成されている。導体部48は、プリントコイル41の導体パターンと所定の位置43で接続されている。
【0020】
高周波結合器をこのような構造にすることにより、導体部48の面積を変えることによって、図7の等価回路における容量C4Aと容量Coを調整することができる。プリントコイル41のパターンを変更せずに、中心周波数の変更が可能である。導体部48をトリミングして、面積を変更する。
【0021】
なお、導体部48とプリントコイル41の接続位置43は、スルーホール51に近づけると、図7における容量C4Aの調整の割合が大きくなり、スルーホール52に近づけると、容量Coの調整の割合が大きくなる。
【0022】
上記、第1の誘電体40と第2の誘電体30は誘電体に限られるものではなく、磁性材料を用いてもよい。第2の誘電体30に磁性材料を用いると、プリントコイル41を小型化することができ、高周波結合器もさらに小型化することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 送信機
2 受信機
3 送信部
4 受信部
5 送受信回路モジュール
10 基板
11 スタブ
12 ベタグランド
13、14、43、51、52 スルーホール
16 スタブの長さ
20 結合電極
21 金属線
30、40 誘電体
31 導体層
48 導体部
41 プリントコイル
50、50B、60 高周波結合器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを非接触で伝送する誘導電界方式による高周波結合器において、
トロイダル状のプリントコイルを結合素子としたことを特徴とする高周波結合器。
【請求項2】
前記プリントコイルの下に誘電体層と導体層を設けたことを特徴とする請求項1記載の高周波結合器。
【請求項3】
前記プリントコイルの上面に中心周波数調整用の導体部を設けたことを特徴とする請求項1および請求項2記載の高周波結合器。
【請求項4】
データを伝送する高周波信号を生成する送信回路と、該高周波信号を誘導電界として送出する高周波結合器を備えた送信機と、
送信側の高周波結合器に対面する受信側の高周波結合器と、高周波結合器で受信した高周波信号を受信処理する回路を備えた受信機とで構成され、
前記送信側の高周波結合器および前記受信側の高周波結合器は、磁流ループを形成するトロイダル状のプリントコイルからなり、
前記送信機および受信機の対向する高周波結合器間の誘導結合により、前記高周波信号を非接触で伝送することを特徴とする非接触伝送通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−200227(P2010−200227A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45478(P2009−45478)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】