説明

高圧放電ランプおよび照明器具

【課題】
可視光選択性吸収膜をコートした場合であっても、簡単に色温度を最適化するとともに演色性や光色のズレとムラを改善した高圧放電ランプおよびこのランプを使用した照明器具を提供する。
【解決手段】
高圧放電ランプ1は、透光性セラミックス放電容器2と;一端側が閉塞され、他端側に口金14が配設されてなる前記放電容器を収容する外管バルブ13と;この外管バルブ13の一端側および他端側に非形成領域14a,14bを残して外表面に形成された600nm以下の可視光の少なくとも一部を吸収しそれ以上をほぼ透過する可視選択吸収性被膜15と;を具備していることを特徴とする。外管バルブ13の一端側および他端側の非形成領域14a,14bは光色のズレやムラが発生しやすいが、この部分には可視選択吸収性被膜15が形成されていないので、色温度が最適化されるとともに演色性や光色のズレとムラを改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演色性が高く見え方が良好でありかつ光色の良好な金属蒸気放電灯に関する。
【背景技術】
【0002】
店舗用などの光源として、平均演色評価数Raが比較的高く、高効率なセラミックメタルハライドランプが使用されている。このようなランプでは、色温度3000〜4200Kの前後で用途に応じて使いわけされており、主として封入物を最適化することにより色温度4000〜4200K前後,3000〜3200K前後,3500K前後の各種仕様が用意されており、使用用途に応じて選択的に使用されている。しかしながら、この種のランプは、平均演色評価数Raは比較的高いものの、赤の見え方を表す特殊演色評価数R9は60前後までのものがほとんどであり、赤の見え方が悪い。
【0003】
この改善のため、600nm以下を吸収する複合酸化物からなる粒子を主体とした膜をコート、600nmの可視光選択吸収性複合酸化物からなる粒子を利用した膜をコートし簡単に色温度を最適化するとともに演色性や見え方を改善したことを特徴とする金属蒸気放電灯が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3603475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような可視光選択性吸収膜をコートして演色性や見え方を改善することが可能であるが、メタルハライドランプからの発光エネルギー分布、すなわち光色は、ランプ方向によって均一でない。また、ダウンライトなどの器具内で点灯した場合、可視光選択吸収膜をコートしたバルブと器具の反射鏡の相対位置関係によっては、メタルハライドランプから放射された光が一度吸収膜を透過したものが反射鏡で反射され、その反射光が再度バルブ外面の選択吸収膜を透過する光があると選択吸収膜を2回通過することとなり、この光の割合が多いと、ダウンライトなどの器具内で点灯し場合照射面の光色のランプの特性のズレまた、照射面内での色ムラが大きくなるという問題が発生する。
【0005】
本発明は、可視光選択性吸収膜をコートした場合であっても、簡単に色温度を最適化するとともに演色性や光色のズレとムラを改善した高圧放電ランプおよびこのランプを使用した照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の高圧放電ランプは、透光性セラミックス放電容器と;一端側が閉塞され、他端側に口金が配設されてなる前記放電容器を収容する外管バルブと;この外管バルブの一端側および他端側に非形成領域を残して外表面に形成された600nm以下の可視光の少なくとも一部を吸収しそれ以上をほぼ透過する可視選択吸収性被膜と;を具備していることを特徴とする。
【0007】
可視選択吸収性被膜は、可視選択吸収性を有する金属酸化物粒子を使用するのが好ましく、この金属酸化物粒子は平均粒径が0.05〜0.3μmとするのが好ましい。この平均粒径が0.3μmを超えると可視透過率が低下しやすく、0.05μm未満だと製造プロセスが複雑となりコストアップとなりまた結晶状態が悪くなり吸収特性の低下透過率低下が発生しやすい。
【0008】
外管バルブは、T型やBT型等があげられるが、一端側が閉塞された片口金タイプの形状であれば形状は限定されない。また、外管バルブ内に放電容器を覆って放電容器の破裂時に飛散防止効果を発揮するシュラウドを設けてもよい。また、外管バルブの内側に放電容器を包囲する中間バルブを設け、3重管構造の高圧放電ランプとしてもよい。
【0009】
可視選択吸収性被膜は、その膜厚が0.3〜1.0μmとするのが好ましい。膜厚が0.3μm未満だと膜厚調整が困難でありまた被膜に干渉色が発生しやすく、透過率が変動しやすくなる。また、膜厚が1.0μmを超えると膜強度の低下が発生しやすい。
【0010】
透光性セラミックス放電容器を有した金属蒸気放電灯では、口金が上側に向くような姿勢で点灯した場合、外管バルブの一端側の頂部が下向きとなり、透光性セラミックス放電容器の封入物が重力の影響により放電容器下部側に多く溜まるため、外管バルブの一端側に放射される光の色温度が低く、外管バルブの他端側に放射される光の色温度が高くなる。例えば、色温度4200Kで発光する仕様の高圧放電ランプに可視選択吸収性被膜をコートし3500Kとした場合、外管バルブの一端側に放射される光の色温度がさらに低下するため大きく色温度がずれてしまう。
【0011】
また、ダウンライトなどの器具内でこのようなランプを点灯した場合、透光性セラミックス放電容器から放射された光が一度選択吸収膜を透過して反射鏡によって反射した光が再度外管バルブに戻ってくる領域は外管バルブの他端側の割合が多く、この領域に可視選択吸収性被膜を形成しておくと被膜を2回透過することとなり、さらに大きく色温度がずれる。
【0012】
したがって、外管バルブの一端側および他端側には可視選択吸収性被膜が形成されないように、非形成領域を形成することによって外管バルブの一端側および他端側から放射される光の過度の色温度低下が抑制され、色温度が最適化されるとともに演色性や光色のズレとムラを改善される。
【0013】
請求項2は、請求項1記載の高圧放電ランプにおいて、前記可視選択吸収性被膜は、前記外管バルブと同軸に配設された前記透光性セラミックス放電容器の中心軸に対して中心部で直交する方向を0度としたとき、一端側は65度を超えた領域、口金側は60度を超えた領域に前記可視選択吸収性被膜の非形成領域が形成されていることを特徴とする。
【0014】
可視選択吸収性被膜は、透光性セラミックス放電容器の中心軸に対して中心部に直交する方向を0度としたとき、外管バルブの一端側(頂部側)は55度〜65度以内に、口金側(外管バルブの封止部側)は45度〜60度以内の部分のみにコートする。これにより、ランプ単体点灯時および器具組込み点灯時の色温度が最適化されるとともに演色性や光色のズレとムラが大きく改善される。
【0015】
請求項3は、請求項2記載の高圧放電ランプにおいて、前記可視選択吸収性被膜は、Fe2O3,Zr-Si-Pr-O,Bi-V-O,Ti-Ni-Sb-O,Ti-Ni-W-O,Ti-Ni-Nb-Oまたはこれら組成の一部を他の元素に置換した金属酸化物からなる粒子およびSi化合物を主体として形成されていることを特徴とする。
【0016】
これらの物質を用いることによって、透光性セラミックス放電容器を用いた場合に、600nm以下の可視光の少なくとも一部を吸収しそれ以上をほぼ透過する可視選択吸収性被膜を容易に形成することができる。
【0017】
可視選択吸収性被膜は、ZnO,Al2O3,SiO2,Y2O3を主成分とする粒子が混合されていてもよい。このような粒子を混合することによって、透過率の調整、膜強度を改善することが可能である。
【0018】
請求項4の照明器具は、器具本体と;この器具本体に装着された請求項1ないし3いずれか一記載の高圧放電ランプと;を具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の高圧放電ランプによれば、外管バルブの一端側および他端側に非形成領域を残して可視選択吸収性被膜を形成したので、色温度が最適化されるとともに演色性や光色のズレとムラを改善される。
【0020】
請求項2の高圧放電ランプによれば、透光性セラミックス放電容器との位置関係によって外管バルブの非形成領域を規定したので、ランプ単体点灯時および器具組込み点灯時の色温度が最適化されるとともに演色性や光色のズレとムラが大きく改善される。
【0021】
請求項3の高圧放電ランプによれば、可視選択吸収性被膜の使用物質を規定することによって、被膜を容易に形成することができる。
【0022】
請求項4の高圧放電ランプによれば、請求項1ないし3の高圧放電ランプを使用した照明器具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照にして説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施形態である高圧放電ランプを示す正面図である。
【0025】
1は高圧放電ランプとしてのメタルハライドランプであり、アルミナセラミック製の発光管2を備えている。この発光管2は、中央の発光部3と、この発光部3の軸方向の両端側に互いに延出する細管部4a,4bとを備えている。発光部3は、細管部4a,4bを介して気密に封止されていて内部に放電空間が形成されており、この放電空間には細管部4a,4bから導入された一対の電極(図示せず)が対向して配置されている。細管部4a,4bには、夫々先端部に各電極が接合された給電体5a,5bが配設され、ガラスフリット等で封着されている。発光管2内には所定のハロゲン金属や希ガス(必要に応じて水銀が追加される)等からなる放電媒体が封入されている。
【0026】
給電体5aは、一端がステム10に固定された筒状のガイド体11等により支持されるとともに後述する口金と電気的に接続されている。給電体5bは、一端がステム10に固定されたリード線により支持されるとともに後述する口金と電気的に接続されている。なお、このステム10には、必要に応じて点灯管等の始動器が設けられていてもよい。
【0027】
発光管2は、硬質ガラス製の外管バルブ13によって保護されている。この外管バルブ13は、先端側が閉塞されたTバルブ形状をなしており、他端側には発光管2と導通する給電手段としてのE形口金14が取り付けられている。
【0028】
外管バルブ13の外表面には、外管バルブ13の一端部(頂部)及び他端部(外管バルブの封止部)にそれぞれ形成された非形成領域14a,14bを除いて、600nm以下の可視光の少なくとも一部を吸収しそれ以上をほぼ透過する可視選択吸収性被膜15が形成されている。
【0029】
この可視選択吸収性被膜15を形成していない場合には、色温度は約4000Kであるが、可視選択吸収性被膜15を形成することにより、演色性を維持したまま色温度を3500Kに最適化することができる。
【0030】
可視選択吸収性被膜15は、ZnO+Fe2O3微粒子を5質量%、Si化合物として珪素(Si)系バインダーを7質量%含有した塗布液をコーティングして膜厚が約0.7μmとなるように形成されている。形成される。ZnO微粒子およびFe2O3微粒子の平均粒径はそれぞれ約30nm,40nmであり、バインダーは熱硬化型の耐熱性シリコーン樹脂を含有するIPA(イソプロピルアルコール)+エタノール系からなる。
【0031】
可視選択吸収性被膜15は、発光管2の中心軸に対して中心部oに直交する方向を0°としたとき、外管バルブ13の一端側は中心部oからの開き角度θaが0〜65°(外管バルブ13の形状によっては0〜55°)の範囲内に、口金14側は中心部oからの開き角度θbが0度〜60°(外管バルブ13の形状によっては0〜45°)の範囲内にコーティングされている。すなわち、発光管2の中心部oからの所定の放射角度θaおよびθbの範囲内の外管バルブ13の外表面に可視選択吸収性被膜15を形成することによって非形成領域14a,14bがそれぞれ形成される。非形成領域14a,14bは、外管バルブ13の所定領域に予めマスキングを施してから塗布液をコーティングする等の方法によって形成可能である。
【0032】
このように、非形成領域14aが設けられることによって、発光管2内の封入物が重力の影響により下部側に多く溜まることによって外管バルブ13の一端側に放射される光の色温度が低くことがあっても、可視選択吸収性被膜15によって外管バルブ13の一端側に放射される光の色温度が低下することがなく、この部分の色温度が大きくずれてしまうことがない。
【0033】
また、非形成領域14bは発光管2から放射された光が可視選択吸収性被膜15を透過して反射鏡によって反射した光が再度外管バルブ13に戻ってくる割合が多い領域であるが、この領域には可視選択吸収性被膜15が形成されていないので、メタルハライドランプ1全体として被膜15に2回透過される割合が少なくなり、色温度が大きくずれることが抑制される。
【0034】
これにより、ランプ1単体点灯時および器具組込み点灯時の色温度が最適化されるとともに演色性や光色のズレとムラが大きく改善される。
【0035】
なお、可視選択吸収性被膜15は、ZnO微粒子、Fe2O3微粒子に代えて、Zr-Si-Pr-O,Bi-V-O,Ti-Ni-Sb-O,Ti-Ni-W-O,Ti-Ni-Nb-Oまたはこれら組成の一部を他の元素に置換した金属酸化物からなる微粒子を主体として形成されていてもよい。また、可視選択吸収性被膜15には、Al2O3,SiO2,Y2O3を主成分とする微粒子が混合されていてもよい。このような粒子を混合することによって、透過率の調整、膜強度を改善することが可能である。
【0036】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る照明器具を示す概略断面図である。但し、図1と同部材は同符番を付して説明を省略する。
【0037】
21は、照明器具であり、高圧放電ランプ1は、外管バルブ13の所定領域に可視選択吸収性被膜15が形成された第1実施形態の設けられていないメタルハライドランプである。照明器具21は、下面が開放された反射体25を有し、この反射体25の天井面にはソケット26を備えている。高圧放電ランプ1は、口金14を上向きの状態でソケット26に螺合することにより照明器具21に取り付けられている。
【0038】
この第2の実施形態にかかる照明器具によれば、第1の実施形態で説明したように、高圧放電ランプ1の色温度が最適化されるとともに演色性や光色のズレとムラが大きく改善される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施形態である高圧放電ランプを示す正面図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る照明器具を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0040】
1…高圧放電ランプ、2…透光性セラミックス放電容器、13…外管バルブ、14…口金、14a,14b…非形成領域、15…可視選択吸収性被膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性セラミックス放電容器と;
一端側が閉塞され、他端側に口金が配設されてなる前記放電容器を収容する外管バルブと;
この外管バルブの一端側および他端側に非形成領域を残して外表面に形成された600nm以下の可視光の少なくとも一部を吸収しそれ以上をほぼ透過する可視選択吸収性被膜と;
を具備していることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記可視選択吸収性被膜は、前記外管バルブと同軸に配設された前記透光性セラミックス放電容器の中心軸に対して中心部で直交する方向を0度としたとき、一端側は65度を超えた領域、口金側は60度を超えた領域に前記可視選択吸収性被膜の非形成領域が形成されていることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記可視選択吸収性被膜は、Fe2O3,Zr-Si-Pr-O,Bi-V-O,Ti-Ni-Sb-O,Ti-Ni-W-O,Ti-Ni-Nb-Oまたはこれら組成の一部を他の元素に置換した金属酸化物からなる粒子およびSi化合物を主体として形成されていることを特徴とする請求項2記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
器具本体と;
この器具本体に装着された請求項1ないし3いずれか一記載の高圧放電ランプと;
を具備していることを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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