高圧放電ランプ用金属箔の製造方法、高圧放電ランプ及び表示装置
【課題】クラックに起因する放電容器の破損が起こり難いランプの製造に適した高圧放電ランプ用金属箔の製造方法を提供する。
【解決手段】長手方向一端に電極が接合され他端に外部リード線が接合された状態で放電容器の封止部内に封止される高圧放電ランプ用金属箔の製造方法であって、前記金属箔の前駆体である箔片の外周縁部の少なくとも一部をナイフエッジ形状に電解研磨する電解研磨工程と、電解研磨によりナイフエッジ形状となった部分の表面を化学研磨する化学研磨工程とを含む製造方法とする。
【解決手段】長手方向一端に電極が接合され他端に外部リード線が接合された状態で放電容器の封止部内に封止される高圧放電ランプ用金属箔の製造方法であって、前記金属箔の前駆体である箔片の外周縁部の少なくとも一部をナイフエッジ形状に電解研磨する電解研磨工程と、電解研磨によりナイフエッジ形状となった部分の表面を化学研磨する化学研磨工程とを含む製造方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電ランプ用金属箔の製造方法、当該金属箔を用いた高圧放電ランプ及び画像表示装置に関し、特に、金属箔の端縁部をナイフエッジ形状に加工する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧放電ランプの一例として、例えば、発光部と当該発光部に連設された封止部とからなるガラス製の放電容器を有し、前記発光部内の放電空間に発光物質として水銀が封入された高圧水銀ランプがある。当該ランプは、点灯中の水銀蒸気圧が10〜100[気圧](1〜10[MPa])と高圧であるため、高い気密性を必要とする。そこで、電極、金属箔及び外部リード線をこの順で接合してなる電極組立体を組み立て、当該電極組立体を封止部に封止する構造とすることで、主として前記金属箔の部分で電極組立体を気密に封止し、ランプの気密性を確保している。
【0003】
近年、ランプ点灯中の水銀蒸気圧が200[気圧]程度にまで達する所謂超高圧放電ランプが製造されている。このような超高圧放電ランプでは、金属箔の端縁部をナイフエッジ形状に加工することで、電極組立体を封止する際の金属箔近傍のガラスへの応力集中を軽減し、金属箔近傍のガラスにクラックが発生するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−227970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、ランプの高効率化を目的として、点灯中の水銀蒸気圧が300[気圧]を超えるような次世代の超高圧水銀ランプの開発が進められており、より耐圧性能が高くクラックが発生し難いランプ構造が求められている。しかしながら、上述のように金属箔の端縁部をナイフエッジ形状に加工するだけでは300[気圧]を超える超高圧に耐えることができず、金属箔近傍のガラスにクラックが発生し、放電容器が破損する。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、クラックに起因する放電容器の破損が起こり難いランプの製造に適した高圧放電ランプ用金属箔の製造方法を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、放電容器の破損が起こり難く信頼性の高い高圧放電ランプを提供することにある。また、信頼性の高い高圧放電ランプを備えているためメンテナンスが容易な画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る高圧放電ランプ用金属箔の製造方法は、長手方向一端に電極が接合され他端に外部リード線が接合された状態で放電容器の封止部内に封止される高圧放電ランプ用金属箔の製造方法であって、前記金属箔の前駆体である箔片の外周縁部の少なくとも一部をナイフエッジ形状に電解研磨する電解研磨工程と、電解研磨によりナイフエッジ形状となった部分の表面を化学研磨する化学研磨工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る高圧放電ランプは、放電空間を有する発光部及び当該発光部に連設された封止部からなる放電容器と、電極、金属箔及び外部リード線がこの順で接合されてなる一
対の電極組立体とを備え、前記封止部内に前記金属箔の全体が埋め込まれた状態で、前記封止部に前記一対の電極構造体が封止された高圧放電ランプであって、前記金属箔は、外周縁部の少なくとも一部がナイフエッジ形状であり、当該ナイフエッジ形状の部分の表面には、結晶粒からなる付着物を除去するための化学研磨が施されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る画像表示装置は、上記高圧放電ランプを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る高圧放電ランプ用金属箔の製造方法は、金属箔の前駆体である箔片の外周縁部の少なくとも一部をナイフエッジ形状に電解研磨する電解研磨工程と、電解研磨によりナイフエッジ形状となった部分の表面を化学研磨する化学研磨工程とを含むため、電解研磨後のナイフエッジ形状部分の表面に付着している付着物を除去することができる。したがって、当該方法で製造された金属箔は、ナイフエッジ形状部分の表面に付着物が少なく滑らかであり、ガラスとの密着性が良い。そのため、当該金属箔を用いて製造された高圧放電ランプは、封止部のガラスと金属箔との間に水銀蒸気等が入り込み難く、その結果クラックが生じ難いため信頼性が高い。
【0011】
本発明に係る高圧放電ランプは、金属箔の外周縁部の少なくとも一部がナイフエッジ形状であり、当該ナイフエッジ形状の部分の表面には結晶粒からなる付着物を除去するための化学研磨が施されているため、金属箔の縁部近傍においてクラックが発生し難く、放電容器の破損が起こり難い。
本発明に係る画像表示装置は、上記高圧放電ランプを備えているため、従来の画像表示装置に比べてランプの交換の回数が少なくて済み、メンテナンスが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係る高圧放電ランプを用いたランプユニットを示す平面図
【図2】本実施の形態に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図
【図3】第2の実施形態に係る画像表示装置を示す一部破断斜視図
【図4】第3の実施形態に係る画像表示装置を示す斜視図
【図5】電解研磨工程後であって化学研磨工程前における箔片のナイフエッジ形状部分を示す図であって、(a)は断面図、(b)は、(a)における矢印方向から見た表面状態の電子顕微鏡写真、(c)は、(b)において符号Gで示す範囲の表面状態を示す模式図
【図6】箔片のナイフエッジ形状部分の表面状態を示す電子顕微鏡写真
【図7】電解研磨についての実験結果を示す図
【図8】化学研磨についての実験結果を示す図
【図9】電解研磨及び化学研磨を施した場合についての実験結果を示す図
【図10】電解研磨及び化学研磨を施した場合についての実験結果を示す図
【図11】電解研磨及び化学研磨を施した場合についての実験結果を示す図
【図12】変形例1に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図
【図13】変形例2に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施の形態に係る高圧放電ランプ用金属箔の製造方法、その金属箔を用いた高圧放電ランプ及び表示装置について、図面を参照しながら説明する。なお、各図面における部材の縮尺は実際のものとは異なる。また、本発明において、数値範囲を示す符号「〜」は、その両端の数値を含む。
[高圧放電ランプ]
図1は、第1の実施形態に係る高圧放電ランプを用いたランプユニットを示す平面図であって、内部の様子がわかるようにハウジングを切り欠いている。図1に示すように、ランプユニット100は、ハウジング101と、当該ハウジング101の内部に組み込まれた第1の実施形態に係る高圧放電ランプ102とを備える。
【0014】
高圧放電ランプ102は、所謂ダブルエンド型の高圧水銀ランプであって、例えば石英ガラス製の放電容器110と、一対の電極組立体120とを備える。なお、高圧放電ランプはダブルエンド型に限定されず、例えば所謂シングルエンド型であっても良い。
放電容器110は、発光部111と、当該発光部111の両側に連設された一対の封止部112とを有する。発光部111は、例えば、外径が約12[mm]、内径が約5[mm]の略球状であって、内部に内容積が約0.1[cm3]の放電空間113を有する。なお、発光部111の外径及び内径、並びに、放電空間113の内容積は上記に限定されず、高圧放電ランプ102の仕様により適宜変更可能である。
【0015】
放電空間113には、例えば、発光物質としての水銀が約0.3[mg/mm3]、始動補助用としての希ガスが約30[kPa]、ハロゲン物質としての臭素(Br)が約10−7[μmol/mm3]〜10−2[μmol/mm3]封入されており、ランプ点灯中の水銀蒸気圧は300[気圧]程度になる。なお、発光物質は水銀に限定されず、アルカリ金属原子等であっても良い。希ガスとしては、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のいずれか又はそれらの少なくとも2種の混合ガス等が挙げられ、好適なのはアルゴンである。ハロゲン物質としては、ヨウ素(I)、臭素(Br)、塩素(Cl)のいずれか又はそれらの少なくとも2種の混合物質などが挙げられ、好適なのは臭素である。また、ランプ点灯中の水銀蒸気圧は300[気圧]程度に限定されず、それよりも低くても高くても構わない。
【0016】
一対の封止部112は、例えば、外径が約5.2[mm]、長さが約25[mm]の略円柱状であって、それぞれに電極組立体120が封止されている。一方の封止部112は、ハウジング101に例えばセメント等により固定されており、他方の封止部112は、ハウジング101内に位置する。なお、封止部112の外径、長さ及び形状は上記に限定されず、高圧放電ランプ102の仕様により適宜変更可能である。
【0017】
各電極組立体120は、電極130、金属箔140および外部リード線150を備え、それら電極130、金属箔140及び外部リード線150がこの順で例えば溶接などにより接合されたものであって、主として金属箔140の部分において封止部112に封止されている。
各電極130は、例えばタングステン製で棒状の電極軸131と、当該電極軸131の一端部に巻装され電極130の先端部を構成するタングステン製のコイル132とを有する。そして、互いの先端部が放電容器110の放電空間113内で対向し、且つ、先端部と反対側の端部が封止部112内に埋め込まれた状態で、略一直線上に並べて配設されている。一対の電極130の先端部間の間隔すなわち電極間距離は、例えば投射型の画像表示装置に用いられる高圧放電ランプの場合(所謂ショートアークタイプの高圧放電ランプの場合)、点光源に近づけるために、0.5[mm]〜2.0[mm]の範囲であることが好ましい。
【0018】
図2は、本実施の形態に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面
図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図である。
各金属箔140は、例えば、モリブデン製の略短冊状であって、図2(a)に示すように、長手方向の幅Lが約20[mm]、短手方向の幅Wが約1.5[mm]、図2(b)に示すように、肉厚tが約20[μm]である。なお、金属箔140の長手方向の幅L、短手方向の幅W、及び、肉厚tは、上記に限定されないが、長手方向の幅Lは10[mm]〜30[mm]、短手方向の幅Wは1.0[mm]〜2.0[mm]、肉厚tは10[μm]〜30[μm]の範囲であることが好ましい。
【0019】
金属箔140の形状は、より具体的には、図2(a)に示すように、平面視において長方形の長手方向一方側(電極130が接合される側)の二隅を斜めに切り落としてなる略六角形であって、その略六角形の外周は、対向する一対の長辺141,142と、対向する一対の短辺143,144と、前記二隅を切り落とすことにより生じた2つの斜辺145,146とで構成され、長辺141,142の長さはいずれも約19[mm]、短辺143,144の長さは長い方が約1.5[mm]短い方が約0.7[mm]、斜辺145,146の長さはいずれも約1.0[mm]である。なお、前記長辺141,142、短辺143,144及び斜辺145,146の長さは上記に限定されない。
【0020】
金属箔140は、電解研磨及び化学研磨がこの順で施されている。電解研磨が施されていることは、金属箔140の外周縁部の少なくとも一部がナイフエッジ形状に加工されているか否かにより確認できる。化学研磨が施されていることは、金属箔外周縁部付近にモリブデンの付着物が存在するか否かにより確認できる。
図2(b)〜(d)に示すように、金属箔140は、外周縁部の少なくとも一部、具体的には前記長辺141,142の近傍部分(金属箔140の短手方向両端縁部)が、ナイフエッジ形状に加工されている。このようなナイフエッジ形状にすることで、電極組立体120を封止する際の金属箔140近傍のガラスへの応力集中を軽減し、金属箔140近傍のガラスにクラックが発生し難い構造としている。なお、短手方向両端縁部のどちらか一方側のみがナイフエッジ形状に加工されていても良い。
【0021】
一方、図2(b),(e)に示すように、短辺143,144の近傍部分(金属箔140の長手方向両端縁部)はナイフエッジ形状に加工されておらず、フラットな端面143a,144aを有する。
図1に戻って、金属箔140の長尺方向の一端部には電極130が接合され、他端部には外部リード線150が接合されている。そして、金属箔140の全体が封止部112内に埋め込まれている。このように、電極130と外部リード線150との間に金属箔140を介在させ、主に金属箔140の部分において電極組立体120を封止することで、放電空間113の気密性を確保している。
【0022】
外部リード線150は、金属箔140側の端部が封止部112内に埋め込まれており、金属箔140とは反対側の端部が封止部112から外部に導出されている。
ハウジング101は、反射部材160とレンズ部材170とを備える。反射部材160は、例えば、漏斗形状で内側に凹面状の反射面161を有するダイクロイック反射鏡であって、前記反射面161で高圧放電ランプ102の発光部111から発せられた光を照射方向(レンズ部材170側)に反射させる。
【0023】
反射部材160の径の大きい方(照射方向側)の開口162には、当該開口162を塞ぐようにしてレンズ部材170が取り付けられており、それら反射部材160とレンズ部材170とは例えばシリコーン系の接着剤(図示しない)等により接着されている。また、反射部材160の径の小さい側(照射方向とは反対方向側)の開口163には、高圧放電ランプ102の一方の封止部112がハウジング101の内側から挿入されており、前記封止部112が前記反射部材160に例えばセメント103等により固定されている。
【0024】
反射部材160に固定されている方の封止部112から導出した外部リード線150は、ハウジング101の外部においてコネクタ(図示しない)のリード線104に接続スリーブ105を介して接続されている。一方、ハウジング101内に位置する方の封止部112から導出した外部リード線150は、反射部材160の反射面161に形成された貫通孔164を通ってハウジング101の外部へと導出され前記コネクタのリード線(図示しない)に接続されている。
【0025】
[画像表示装置]
図3は、第2の実施形態に係る画像表示装置を示す一部破断斜視図であって、内部の様子がわかるように筐体の天板を取り除いている。図3に示すように、第2の実施形態に係る画像表示装置200は、前方に設置したスクリーン(図示しない)に向けて画像を投影する投射型のフロントプロジェクタであって、DLP(登録商標)方式を採用している。当該画像表示装置200は、筐体201内に、光源としてのランプユニット100、DMD(登録商標)や3色のカラーフィルタからなるカラーホイール(いずれも図示しない)等を有する光学ユニット202、前記DMD等を駆動制御する制御ユニット203、投射レンズ204、冷却ファンユニット205、及び、商用電源から供給される電力を前記制御ユニット203やランプユニット100に適した電力に変換して供給する電源ユニット206等が収納された構成を有する。
【0026】
図4は、第3の実施形態に係る画像表示装置を示す斜視図である。図4に示すように、第3の実施形態に係る画像表示装置300は、投射型のリアプロジェクタであって、光源としてのランプユニット100、光学ユニット(図示しない)、投射レンズ(図示しない)及びミラー(図示しない)等が筐体301内に収納された構成であり、前記投射レンズから投射され前記ミラーで反射された画像が、透過式スクリーン302の裏側から投影されて画像を表示する。
【0027】
第2及び第3の実施形態に係る画像表示装置200,300は、放電容器110の破損が起こり難く信頼性の高い長寿命な高圧放電ランプ102を使用しているため、従来の画像表示装置に比べて高圧放電ランプ102の交換或いはランプユニット100の交換の回数が少なくて済み、メンテナンスが容易である。
[金属箔の製造方法]
本実施の形態に係る金属箔の製造方法は、研磨工程に特徴を有し、その点において従来の製造方法と相違する。その他の工程については基本的に従来の製造方法に準じている。以下では、研磨工程についてのみ詳細に説明し、その他の工程については省略又は簡略化して説明する。
【0028】
本実施の形態に係る金属箔の製造方法では、まず、モリブデン箔板を切断して長方形の短冊状にし、前駆体としての箔片を得る。次に、箔片の端縁部を研磨工程により研磨して金属箔を得る。研磨工程には電解研磨工程と化学研磨工程とがあり、まず、電解研磨工程で箔片の端縁部をナイフエッジ形状に加工し、その後、化学研磨工程で電解研磨された部分すなわちナイフエッジ形状部分の表面から付着物を除去する。
【0029】
電解研磨は、特定部位を選択的に研磨できるため、箔片の端縁部をナイフエッジ形状に加工するのに適しているが、ナイフエッジ形状部分の表面に付着物が発生する課題を有する。金属箔の表面に付着物が付着していると、その部分ではガラスとの密着性が悪くなるためガラスにクラックが発生し易い。水銀蒸気圧が200[気圧]程度の従来の高圧放電ランプであれば付着物が付着していてもクラックが発生することはなかったが、水銀蒸気圧が300[気圧]を超える場合は、付着物が付着しているとクラックが発生してしまう
ため付着物を除去する必要がある。
【0030】
そこで、本実施の形態に係る製造方法では、電解研磨後、化学研磨によってナイフエッジ形状部分をさらに研磨して、表面から付着物を除去する。化学研磨は、研磨部分の表面を均一に研磨することができるため付着物の除去に適している。なお、化学研磨では箔片の端縁部をナイフエッジ形状に加工することはできないため、化学研磨だけでは目的とする金属箔は得られず、電解研磨が不可欠である。
【0031】
図5は、電解研磨工程後であって化学研磨工程前における箔片のナイフエッジ形状部分を示す図であって、(a)は断面図、(b)は、(a)における矢印方向から見た表面状態の電子顕微鏡写真、(c)は、(b)において符号Gで示す範囲の表面状態を示す模式図である。なお、箔片180における図5(a)に示す領域は、金属箔140における図2(d)の符号Fで示す領域に相当する。
【0032】
図5(a)に示すように、箔片180のナイフエッジ形状部分181の表面182には、モリブデンの結晶粒からなる付着物183が付着している。図5(b)の電子顕微鏡写真で灰色に写っているのがナイフエッジ形状部分181の表面182であり、白っぽい部分とその白っぽい部分で囲まれる内側の部分とが付着物183である。図5(a)及び(c)に示す付着物183の外周縁184は、図5(b)において表面182の灰色の部分と付着物183の白っぽい部分との境界に相当する。ナイフエッジ形状部分181の表面182を当該表面182と直交する方向から見た場合における付着物183の大きさは、外周縁184で囲まれる領域の面積である。なお、この面積は、表面182に垂直投影することにより形成される投影図をカバーする領域の面積を意味する。
【0033】
付着物183は、大きさが25[μm2]以上のものが特にクラック発生の原因となるが、付着物とクラックとの関係を目視により確認すると、大きさ25[μm2]以上の付着物183が存在しない場合、クラックが発生しないことが確認された。したがって、化学研磨により付着物183を溶かして小さくし或いは消滅させることで、大きさが25[μm2]以上のものが存在しないことが好ましい。
【0034】
図6は、箔片のナイフエッジ形状部分の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。図6において箔片180の観測箇所C〜Eは、金属箔140における図2(a)の符号C〜Eで示す箇所に相当する。箔片180を化学研磨すると、研磨時間の経過と共に各観測箇所C〜Eのいずれにおいても付着物183の大きさ及び数量が減少し、当該付着物183が除去されていることがわかる。
【0035】
以下に電解研磨工程についての詳細を説明する。電解研磨工程では、箔片を陽極とし陰極との間に電解研磨液を介して直流電流を流して前記箔片を研磨する。電界研磨強度は、直流電流の電流値と、直流電流を流す時間との積により決定される。電流値と時間の設定は基本的に自由であるが、これについては図7に示すような実験結果を得ている。
図7は、電解研磨についての実験結果を示す図である。実験用として、化学研磨を施さず電解研磨だけを施した金属箔を製造し、その金属箔を用いて高圧放電ランプを製造した。実験用の高圧放電ランプは、金属箔以外については第1の実施形態に係る高圧放電ランプ102と略同様の構成を有し、水銀蒸気圧は300[気圧]程度である。電解研磨は、電解研磨液に2[wt%]のNaOH(水酸化ナトリウム)水溶液を用い、電流値及び時間は種々設定した。
【0036】
そして、製造した各種高圧放電ランプを点灯させて破損の有無を調べた(n=10)。点灯時間100h以内で封止部を基点とする破損が起こった場合は「×」と評価し、100hを超え1000h以内で同様の破損が起こった場合は「△」と評価し、2000hま
で同様の破損が起こらなかった場合は「○」と評価した。なお、水銀蒸気圧が200[気圧]程度の高圧放電ランプについても同様の実験を行ったのでその実験結果を図7中のカッコ内に示す。
【0037】
図7に示すように、水銀蒸気圧が300[気圧]程度の場合、電流値及び時間をどのように設定しても、評価が「○」になる高圧放電ランプはなかった。これは、化学研磨を施していないのが原因であり、水銀蒸気圧が300[気圧]程度の場合は、電解研磨だけでは不十分であることがわかる。
なお、水銀蒸気圧が200[気圧]程度の場合は、評価が「○」になる高圧放電ランプがあった。電解研磨強度が好適な範囲(電流値と時間との積が好適な範囲)であり金属箔の端縁部が好適にナイフエッジ形状に加工された場合に、評価が「○」になると考えられる。電界研磨強度が弱過ぎる、すなわち電流値と時間との積が小さ過ぎると、端縁部がナイフエッジ形状にならず破損が起こると考えられる。一方で、電解研磨強度が強過ぎる、すなわち電流値と時間との積が大き過ぎると、端縁部が研磨され過ぎて金属箔が薄くなり、電流集中によって破損が起こると考えられる。
【0038】
電解研磨における電流値及び時間以外の条件としては、電解研磨液の種類、濃度及び温度などが考えられるが、それらの設定は自由である。基本的に、電解研磨液の種類、濃度及び温度などは電解研磨強度に大きな影響を与えないが、ナイフエッジ形状の仕上がり状態には影響する。なお、電解研磨液の種類としてはNaOH水溶液以外に、KOH水溶液等が考えられる。
【0039】
以下に化学研磨工程についての詳細を説明する。化学研磨工程では、箔片を化学研磨液に浸漬させて前記箔片を研磨する。化学研磨強度は、化学研磨液の濃度及び箔片を浸漬させる時間との積により決定される。濃度と時間の設定は基本的に自由であるが、これについては図8に示すような実験結果を得ている。
図8は、化学研磨についての実験結果を示す図である。実験用として、電解研磨を施さず化学研磨だけを施した金属箔を製造し、その金属箔を用いて高圧放電ランプを製造した。実験用の高圧放電ランプは、金属箔以外については第1の実施形態に係る高圧放電ランプ102と略同様の構成を有し、水銀蒸気圧は300[気圧]程度である。化学研磨は、室温の過酸化水素水を用い、電流値及び時間は種々設定した。
【0040】
そして、製造した各高圧放電ランプを点灯させて破損の有無を調べた。評価基準は、電解研磨についての実験の場合と同様である。なお、水銀蒸気圧が200[気圧]程度の高圧放電ランプについても同様の実験を行ったのでその実験結果を図8中のカッコ内に示す。
図8に示すとおり、水銀蒸気圧が300[気圧]程度である場合は勿論のこと、水銀蒸気圧が200[気圧]程度である場合も、評価が「○」になる高圧放電ランプはなかった。これは、電解研磨を施していないのが原因であり、この結果から、化学研磨だけでは不十分であることがわかる。
【0041】
化学研磨における濃度及び時間以外の条件としては、化学研磨液の種類及び温度などが考えられるが、それらの設定は自由である。化学研磨液の種類としては、過酸化水素水以外にフッ酸等が考えられる。また、沸騰していると研磨制御が難しくなるため、化学研磨液の温度は100℃未満が好ましく、常温がより好ましい。
図9は、電解研磨及び化学研磨を施した場合についての実験結果を示す図である。実験用として、電解研磨を施し更に化学研磨を施した金属箔を製造し、その金属箔を用いて高圧放電ランプを製造した。実験用の高圧放電ランプは、金属箔以外については第1の実施形態に係る高圧放電ランプ102と略同様の構成を有し、水銀蒸気圧は300[気圧]程度である。電解研磨の条件として、電解研磨液に2[wt%]のNaOH水溶液を用い、
電流値を200[mA]、時間を6[s]に設定した。化学研磨の条件として、化学研磨液には室温の過酸化水素水を用い、濃度x[wt%]及び時間t[min]は種々設定した。
【0042】
そして、製造した各高圧放電ランプを点灯させて破損の有無を調べた。評価基準は、電解研磨についての実験の場合と同様である。図9中のカッコ内は、濃度x[wt%]と時間t[min]との積である。
図9に示すように、3≦x≦25、5≦t≦60、30≦xt≦300の条件を満たす場合に、水銀蒸気圧が300[気圧]程度であるにもかかわらず、評価が「○」の高圧放電ランプを得た。金属箔の端縁部がナイフエッジ形状に加工されており、且つ、その表面から付着物が除去されていたため、破損が起こらなかったと考えられる。t<5の場合や、xt<30の場合は、付着物が十分に除去できていないため破損が起こったと考えられる。t>60の場合や、xt>300の場合は、研磨により金属箔が薄くなり電流密度が大きくなり過ぎたため、或いは、研磨により金属箔が薄くなり箔切れを起こしたため、破損したと考えられる。なお、濃度x[wt%]は、濃過ぎると研磨時間の幅が狭くなるため研磨制御が難しくなり、薄過ぎると研磨時間が長くなり過ぎ非効率であるため、過酸化水素水の場合は、10[wt%]〜15[wt%]の範囲であることが好ましい。
【0043】
図10及び図11は、電解研磨及び化学研磨を施した場合についての実験結果を示す図である。図10に係る実験では、電解研磨の条件として、5[wt%]のNaOH水溶液を用い、電流値を200[mA]、時間を6[s]に設定した。化学研磨の条件として、過酸化水素水を用い、濃度を3[wt%]、時間を15[min]に設定した。図11に係る実験では、電解研磨の条件として、5[wt%]のNaOH水溶液を用い、電流値を300[mA]、時間を2[s]に設定した。化学研磨の条件として、過酸化水素水を用い、濃度を3[wt%]、時間を10[min]に設定した。
【0044】
図10及び図11に示すように、電解研磨のみを施した場合(比較例1−1、比較例2)や、化学研磨後に電解研磨を施した場合(比較例1−2)は、高圧放電ランプの破損が起こったが、電解研磨後に化学研磨を施した場合(実施例1、実施例2)は、高圧放電ランプの破損は起こらず、本実施の形態に係る製造方法は水銀蒸気圧が300[気圧]程度の高圧放電ランプの製造に有効であることがわかる。
【0045】
[変形例]
以上、本発明に係る高圧放電ランプ用金属箔の製造方法、高圧放電ランプ及び表示装置を実施の形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明の内容は、上記の実施の形態に限定されない。
<金属箔>
金属箔は、第1の実施形態に係る金属箔140のような形状に限定されず、例えば以下に示す変形例1及び変形例2に係る金属箔のような形状であっても良い。
【0046】
図12は、変形例1に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図である。
図12(a)に示すように、変形例1に係る金属箔440は、例えば、モリブデン製の略短冊状であって、平面視における形状が、長方形の長手方向一方側(電極が接合される側)の二隅を斜めに切り落とした略六角形であって、その略六角形の外周は、対向する一対の長辺441,442と、対向する一対の短辺443,444と、前記二隅を切り落とすことにより生じた2つの斜辺445,446とで構成される。
【0047】
図12(b)〜(d)に示すように、金属箔440は、長辺441,442の近傍部分
(金属箔440の短手方向両端縁部)がナイフエッジ形状に加工されており、さらに、図12(c)及び(e)に示すように、短辺443,444の近傍部分(金属箔440の長手方向両端縁部)もナイフエッジ形状に加工されている。このように長手方向両端縁部もナイフエッジ形状であるため、長手方向両端縁部近傍のガラスへの応力集中も軽減でき、よりクラックが生じ難い高圧放電ランプを得ることができる。さらに加えて、金属箔440は、図12(b)及び(c)に示すように、斜辺445,446の近傍部分もナイフエッジ形状に加工されている。そのため更にクラックが生じ難い。
【0048】
なお、長手方向両端縁部のどちらか一方側にのみがナイフエッジ形状に加工されていても良い。その場合は、ランプ点灯中高温になるためクラックが発生し易い電極側をナイフエッジ形状に加工することが効果的である。また、斜辺445,446の近傍部分についても、そのうちの一部のみをナイフエッジ形状に加工しても良い。
図13は、変形例2に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図である。図13(a)に示すように、変形例2に係る金属箔540は、例えば、モリブデン製の略短冊状であって、平面視における形状が、対向する一対の長辺541,542と、対向する一対の短辺543,544とで構成される長方形である。
【0049】
図13(b)〜(d)に示すように、金属箔540の長辺541,542の近傍部分(短手方向両端縁部)はナイフエッジ形状に加工されている。なお、短辺543,544の近傍部分(長手方向両端縁部)もナイフエッジ形状に加工した構成であっても良く、その場合はガラスにクラックがより生じ難い構成とすることができる。
金属箔に関するその他の変形例としては、金属箔の外周縁に凹凸を設けることによって前記金属箔にアンカー効果を付加して耐圧性能を向上させることが考えられる。また、化学エッチングを施すと、前述した電解研磨後において金属箔外周縁部に発生するモリブデンの付着物を取り除くことができるという効果にくわえて、わずかに金属箔を酸化させることができるという効果も得られる。このように金属箔を酸化させると、金属箔がより石英ガラスとなじみやすくなるため、結果として、石英ガラスと金属箔との界面付近における破損の発生をより抑制することができる。
【0050】
<製造方法>
電解研磨工程における、電解研磨の条件、すなわち、直流電流を流す電流値及び時間、並びに、電解研磨液の種類、濃度及び温度、等については、上記実施の形態に記載の条件に限定されない。
また、電解研磨は、交流電流を流して行ってもよい。この場合、流す電流値及び時間、並びに、電解研磨液の種類、濃度、等については、上記実施の形態に記載の直流電流と同様の条件を用いることができる。
なお、直流電流による電界研磨の場合、電解液の濃度勾配が発生しやすいため、一定の間隔で電解液を攪拌することが好ましい。一方、交流電流による電界研磨の場合、両極において気泡が発生しやすく、別途電解液を攪拌しなくとも電解液が攪拌されたような状態となり、電解液の濃度勾配を発生し難くすることができる。
また、化学研磨工程における、化学研磨の条件、すなわち、電解研磨液の種類、濃度及び温度、並びに、電解研磨液に浸漬させる時間等については、上記実施の形態に記載の条件に限定されない。なお、化学研磨する際に箔片を陽極として陰極との間に化学研磨液を介して微量の電流を流しても良い。ここで微量とは、箔片の外周縁部をナイフエッジ形状に加工することはできないが、表面の付着物は除去できる程度の値を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
上記実施の形態では、点灯中の水銀蒸気圧が300[気圧]程度の高圧放電ランプに適用する場合について詳細に説明したが、水銀蒸気圧が300[気圧]以下の高圧水銀ランプや、低圧水銀ランプについても適用することが可能である。また、水銀ランプ以外の他の放電ランプにも適用可能であり、例えば、金属ハロゲン化物を封入したメタルハライドランプなどの放電ランプに適用することもできる。
【符号の説明】
【0052】
102 高圧放電ランプ
111 発光部
112 封止部
110 放電容器
120 電極組立体
130 電極
140 金属箔
140’ 箔片
183 付着物
150 外部リード線
200,300 画像表示装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電ランプ用金属箔の製造方法、当該金属箔を用いた高圧放電ランプ及び画像表示装置に関し、特に、金属箔の端縁部をナイフエッジ形状に加工する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧放電ランプの一例として、例えば、発光部と当該発光部に連設された封止部とからなるガラス製の放電容器を有し、前記発光部内の放電空間に発光物質として水銀が封入された高圧水銀ランプがある。当該ランプは、点灯中の水銀蒸気圧が10〜100[気圧](1〜10[MPa])と高圧であるため、高い気密性を必要とする。そこで、電極、金属箔及び外部リード線をこの順で接合してなる電極組立体を組み立て、当該電極組立体を封止部に封止する構造とすることで、主として前記金属箔の部分で電極組立体を気密に封止し、ランプの気密性を確保している。
【0003】
近年、ランプ点灯中の水銀蒸気圧が200[気圧]程度にまで達する所謂超高圧放電ランプが製造されている。このような超高圧放電ランプでは、金属箔の端縁部をナイフエッジ形状に加工することで、電極組立体を封止する際の金属箔近傍のガラスへの応力集中を軽減し、金属箔近傍のガラスにクラックが発生するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−227970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、ランプの高効率化を目的として、点灯中の水銀蒸気圧が300[気圧]を超えるような次世代の超高圧水銀ランプの開発が進められており、より耐圧性能が高くクラックが発生し難いランプ構造が求められている。しかしながら、上述のように金属箔の端縁部をナイフエッジ形状に加工するだけでは300[気圧]を超える超高圧に耐えることができず、金属箔近傍のガラスにクラックが発生し、放電容器が破損する。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、クラックに起因する放電容器の破損が起こり難いランプの製造に適した高圧放電ランプ用金属箔の製造方法を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、放電容器の破損が起こり難く信頼性の高い高圧放電ランプを提供することにある。また、信頼性の高い高圧放電ランプを備えているためメンテナンスが容易な画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る高圧放電ランプ用金属箔の製造方法は、長手方向一端に電極が接合され他端に外部リード線が接合された状態で放電容器の封止部内に封止される高圧放電ランプ用金属箔の製造方法であって、前記金属箔の前駆体である箔片の外周縁部の少なくとも一部をナイフエッジ形状に電解研磨する電解研磨工程と、電解研磨によりナイフエッジ形状となった部分の表面を化学研磨する化学研磨工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る高圧放電ランプは、放電空間を有する発光部及び当該発光部に連設された封止部からなる放電容器と、電極、金属箔及び外部リード線がこの順で接合されてなる一
対の電極組立体とを備え、前記封止部内に前記金属箔の全体が埋め込まれた状態で、前記封止部に前記一対の電極構造体が封止された高圧放電ランプであって、前記金属箔は、外周縁部の少なくとも一部がナイフエッジ形状であり、当該ナイフエッジ形状の部分の表面には、結晶粒からなる付着物を除去するための化学研磨が施されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る画像表示装置は、上記高圧放電ランプを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る高圧放電ランプ用金属箔の製造方法は、金属箔の前駆体である箔片の外周縁部の少なくとも一部をナイフエッジ形状に電解研磨する電解研磨工程と、電解研磨によりナイフエッジ形状となった部分の表面を化学研磨する化学研磨工程とを含むため、電解研磨後のナイフエッジ形状部分の表面に付着している付着物を除去することができる。したがって、当該方法で製造された金属箔は、ナイフエッジ形状部分の表面に付着物が少なく滑らかであり、ガラスとの密着性が良い。そのため、当該金属箔を用いて製造された高圧放電ランプは、封止部のガラスと金属箔との間に水銀蒸気等が入り込み難く、その結果クラックが生じ難いため信頼性が高い。
【0011】
本発明に係る高圧放電ランプは、金属箔の外周縁部の少なくとも一部がナイフエッジ形状であり、当該ナイフエッジ形状の部分の表面には結晶粒からなる付着物を除去するための化学研磨が施されているため、金属箔の縁部近傍においてクラックが発生し難く、放電容器の破損が起こり難い。
本発明に係る画像表示装置は、上記高圧放電ランプを備えているため、従来の画像表示装置に比べてランプの交換の回数が少なくて済み、メンテナンスが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係る高圧放電ランプを用いたランプユニットを示す平面図
【図2】本実施の形態に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図
【図3】第2の実施形態に係る画像表示装置を示す一部破断斜視図
【図4】第3の実施形態に係る画像表示装置を示す斜視図
【図5】電解研磨工程後であって化学研磨工程前における箔片のナイフエッジ形状部分を示す図であって、(a)は断面図、(b)は、(a)における矢印方向から見た表面状態の電子顕微鏡写真、(c)は、(b)において符号Gで示す範囲の表面状態を示す模式図
【図6】箔片のナイフエッジ形状部分の表面状態を示す電子顕微鏡写真
【図7】電解研磨についての実験結果を示す図
【図8】化学研磨についての実験結果を示す図
【図9】電解研磨及び化学研磨を施した場合についての実験結果を示す図
【図10】電解研磨及び化学研磨を施した場合についての実験結果を示す図
【図11】電解研磨及び化学研磨を施した場合についての実験結果を示す図
【図12】変形例1に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図
【図13】変形例2に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施の形態に係る高圧放電ランプ用金属箔の製造方法、その金属箔を用いた高圧放電ランプ及び表示装置について、図面を参照しながら説明する。なお、各図面における部材の縮尺は実際のものとは異なる。また、本発明において、数値範囲を示す符号「〜」は、その両端の数値を含む。
[高圧放電ランプ]
図1は、第1の実施形態に係る高圧放電ランプを用いたランプユニットを示す平面図であって、内部の様子がわかるようにハウジングを切り欠いている。図1に示すように、ランプユニット100は、ハウジング101と、当該ハウジング101の内部に組み込まれた第1の実施形態に係る高圧放電ランプ102とを備える。
【0014】
高圧放電ランプ102は、所謂ダブルエンド型の高圧水銀ランプであって、例えば石英ガラス製の放電容器110と、一対の電極組立体120とを備える。なお、高圧放電ランプはダブルエンド型に限定されず、例えば所謂シングルエンド型であっても良い。
放電容器110は、発光部111と、当該発光部111の両側に連設された一対の封止部112とを有する。発光部111は、例えば、外径が約12[mm]、内径が約5[mm]の略球状であって、内部に内容積が約0.1[cm3]の放電空間113を有する。なお、発光部111の外径及び内径、並びに、放電空間113の内容積は上記に限定されず、高圧放電ランプ102の仕様により適宜変更可能である。
【0015】
放電空間113には、例えば、発光物質としての水銀が約0.3[mg/mm3]、始動補助用としての希ガスが約30[kPa]、ハロゲン物質としての臭素(Br)が約10−7[μmol/mm3]〜10−2[μmol/mm3]封入されており、ランプ点灯中の水銀蒸気圧は300[気圧]程度になる。なお、発光物質は水銀に限定されず、アルカリ金属原子等であっても良い。希ガスとしては、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のいずれか又はそれらの少なくとも2種の混合ガス等が挙げられ、好適なのはアルゴンである。ハロゲン物質としては、ヨウ素(I)、臭素(Br)、塩素(Cl)のいずれか又はそれらの少なくとも2種の混合物質などが挙げられ、好適なのは臭素である。また、ランプ点灯中の水銀蒸気圧は300[気圧]程度に限定されず、それよりも低くても高くても構わない。
【0016】
一対の封止部112は、例えば、外径が約5.2[mm]、長さが約25[mm]の略円柱状であって、それぞれに電極組立体120が封止されている。一方の封止部112は、ハウジング101に例えばセメント等により固定されており、他方の封止部112は、ハウジング101内に位置する。なお、封止部112の外径、長さ及び形状は上記に限定されず、高圧放電ランプ102の仕様により適宜変更可能である。
【0017】
各電極組立体120は、電極130、金属箔140および外部リード線150を備え、それら電極130、金属箔140及び外部リード線150がこの順で例えば溶接などにより接合されたものであって、主として金属箔140の部分において封止部112に封止されている。
各電極130は、例えばタングステン製で棒状の電極軸131と、当該電極軸131の一端部に巻装され電極130の先端部を構成するタングステン製のコイル132とを有する。そして、互いの先端部が放電容器110の放電空間113内で対向し、且つ、先端部と反対側の端部が封止部112内に埋め込まれた状態で、略一直線上に並べて配設されている。一対の電極130の先端部間の間隔すなわち電極間距離は、例えば投射型の画像表示装置に用いられる高圧放電ランプの場合(所謂ショートアークタイプの高圧放電ランプの場合)、点光源に近づけるために、0.5[mm]〜2.0[mm]の範囲であることが好ましい。
【0018】
図2は、本実施の形態に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面
図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図である。
各金属箔140は、例えば、モリブデン製の略短冊状であって、図2(a)に示すように、長手方向の幅Lが約20[mm]、短手方向の幅Wが約1.5[mm]、図2(b)に示すように、肉厚tが約20[μm]である。なお、金属箔140の長手方向の幅L、短手方向の幅W、及び、肉厚tは、上記に限定されないが、長手方向の幅Lは10[mm]〜30[mm]、短手方向の幅Wは1.0[mm]〜2.0[mm]、肉厚tは10[μm]〜30[μm]の範囲であることが好ましい。
【0019】
金属箔140の形状は、より具体的には、図2(a)に示すように、平面視において長方形の長手方向一方側(電極130が接合される側)の二隅を斜めに切り落としてなる略六角形であって、その略六角形の外周は、対向する一対の長辺141,142と、対向する一対の短辺143,144と、前記二隅を切り落とすことにより生じた2つの斜辺145,146とで構成され、長辺141,142の長さはいずれも約19[mm]、短辺143,144の長さは長い方が約1.5[mm]短い方が約0.7[mm]、斜辺145,146の長さはいずれも約1.0[mm]である。なお、前記長辺141,142、短辺143,144及び斜辺145,146の長さは上記に限定されない。
【0020】
金属箔140は、電解研磨及び化学研磨がこの順で施されている。電解研磨が施されていることは、金属箔140の外周縁部の少なくとも一部がナイフエッジ形状に加工されているか否かにより確認できる。化学研磨が施されていることは、金属箔外周縁部付近にモリブデンの付着物が存在するか否かにより確認できる。
図2(b)〜(d)に示すように、金属箔140は、外周縁部の少なくとも一部、具体的には前記長辺141,142の近傍部分(金属箔140の短手方向両端縁部)が、ナイフエッジ形状に加工されている。このようなナイフエッジ形状にすることで、電極組立体120を封止する際の金属箔140近傍のガラスへの応力集中を軽減し、金属箔140近傍のガラスにクラックが発生し難い構造としている。なお、短手方向両端縁部のどちらか一方側のみがナイフエッジ形状に加工されていても良い。
【0021】
一方、図2(b),(e)に示すように、短辺143,144の近傍部分(金属箔140の長手方向両端縁部)はナイフエッジ形状に加工されておらず、フラットな端面143a,144aを有する。
図1に戻って、金属箔140の長尺方向の一端部には電極130が接合され、他端部には外部リード線150が接合されている。そして、金属箔140の全体が封止部112内に埋め込まれている。このように、電極130と外部リード線150との間に金属箔140を介在させ、主に金属箔140の部分において電極組立体120を封止することで、放電空間113の気密性を確保している。
【0022】
外部リード線150は、金属箔140側の端部が封止部112内に埋め込まれており、金属箔140とは反対側の端部が封止部112から外部に導出されている。
ハウジング101は、反射部材160とレンズ部材170とを備える。反射部材160は、例えば、漏斗形状で内側に凹面状の反射面161を有するダイクロイック反射鏡であって、前記反射面161で高圧放電ランプ102の発光部111から発せられた光を照射方向(レンズ部材170側)に反射させる。
【0023】
反射部材160の径の大きい方(照射方向側)の開口162には、当該開口162を塞ぐようにしてレンズ部材170が取り付けられており、それら反射部材160とレンズ部材170とは例えばシリコーン系の接着剤(図示しない)等により接着されている。また、反射部材160の径の小さい側(照射方向とは反対方向側)の開口163には、高圧放電ランプ102の一方の封止部112がハウジング101の内側から挿入されており、前記封止部112が前記反射部材160に例えばセメント103等により固定されている。
【0024】
反射部材160に固定されている方の封止部112から導出した外部リード線150は、ハウジング101の外部においてコネクタ(図示しない)のリード線104に接続スリーブ105を介して接続されている。一方、ハウジング101内に位置する方の封止部112から導出した外部リード線150は、反射部材160の反射面161に形成された貫通孔164を通ってハウジング101の外部へと導出され前記コネクタのリード線(図示しない)に接続されている。
【0025】
[画像表示装置]
図3は、第2の実施形態に係る画像表示装置を示す一部破断斜視図であって、内部の様子がわかるように筐体の天板を取り除いている。図3に示すように、第2の実施形態に係る画像表示装置200は、前方に設置したスクリーン(図示しない)に向けて画像を投影する投射型のフロントプロジェクタであって、DLP(登録商標)方式を採用している。当該画像表示装置200は、筐体201内に、光源としてのランプユニット100、DMD(登録商標)や3色のカラーフィルタからなるカラーホイール(いずれも図示しない)等を有する光学ユニット202、前記DMD等を駆動制御する制御ユニット203、投射レンズ204、冷却ファンユニット205、及び、商用電源から供給される電力を前記制御ユニット203やランプユニット100に適した電力に変換して供給する電源ユニット206等が収納された構成を有する。
【0026】
図4は、第3の実施形態に係る画像表示装置を示す斜視図である。図4に示すように、第3の実施形態に係る画像表示装置300は、投射型のリアプロジェクタであって、光源としてのランプユニット100、光学ユニット(図示しない)、投射レンズ(図示しない)及びミラー(図示しない)等が筐体301内に収納された構成であり、前記投射レンズから投射され前記ミラーで反射された画像が、透過式スクリーン302の裏側から投影されて画像を表示する。
【0027】
第2及び第3の実施形態に係る画像表示装置200,300は、放電容器110の破損が起こり難く信頼性の高い長寿命な高圧放電ランプ102を使用しているため、従来の画像表示装置に比べて高圧放電ランプ102の交換或いはランプユニット100の交換の回数が少なくて済み、メンテナンスが容易である。
[金属箔の製造方法]
本実施の形態に係る金属箔の製造方法は、研磨工程に特徴を有し、その点において従来の製造方法と相違する。その他の工程については基本的に従来の製造方法に準じている。以下では、研磨工程についてのみ詳細に説明し、その他の工程については省略又は簡略化して説明する。
【0028】
本実施の形態に係る金属箔の製造方法では、まず、モリブデン箔板を切断して長方形の短冊状にし、前駆体としての箔片を得る。次に、箔片の端縁部を研磨工程により研磨して金属箔を得る。研磨工程には電解研磨工程と化学研磨工程とがあり、まず、電解研磨工程で箔片の端縁部をナイフエッジ形状に加工し、その後、化学研磨工程で電解研磨された部分すなわちナイフエッジ形状部分の表面から付着物を除去する。
【0029】
電解研磨は、特定部位を選択的に研磨できるため、箔片の端縁部をナイフエッジ形状に加工するのに適しているが、ナイフエッジ形状部分の表面に付着物が発生する課題を有する。金属箔の表面に付着物が付着していると、その部分ではガラスとの密着性が悪くなるためガラスにクラックが発生し易い。水銀蒸気圧が200[気圧]程度の従来の高圧放電ランプであれば付着物が付着していてもクラックが発生することはなかったが、水銀蒸気圧が300[気圧]を超える場合は、付着物が付着しているとクラックが発生してしまう
ため付着物を除去する必要がある。
【0030】
そこで、本実施の形態に係る製造方法では、電解研磨後、化学研磨によってナイフエッジ形状部分をさらに研磨して、表面から付着物を除去する。化学研磨は、研磨部分の表面を均一に研磨することができるため付着物の除去に適している。なお、化学研磨では箔片の端縁部をナイフエッジ形状に加工することはできないため、化学研磨だけでは目的とする金属箔は得られず、電解研磨が不可欠である。
【0031】
図5は、電解研磨工程後であって化学研磨工程前における箔片のナイフエッジ形状部分を示す図であって、(a)は断面図、(b)は、(a)における矢印方向から見た表面状態の電子顕微鏡写真、(c)は、(b)において符号Gで示す範囲の表面状態を示す模式図である。なお、箔片180における図5(a)に示す領域は、金属箔140における図2(d)の符号Fで示す領域に相当する。
【0032】
図5(a)に示すように、箔片180のナイフエッジ形状部分181の表面182には、モリブデンの結晶粒からなる付着物183が付着している。図5(b)の電子顕微鏡写真で灰色に写っているのがナイフエッジ形状部分181の表面182であり、白っぽい部分とその白っぽい部分で囲まれる内側の部分とが付着物183である。図5(a)及び(c)に示す付着物183の外周縁184は、図5(b)において表面182の灰色の部分と付着物183の白っぽい部分との境界に相当する。ナイフエッジ形状部分181の表面182を当該表面182と直交する方向から見た場合における付着物183の大きさは、外周縁184で囲まれる領域の面積である。なお、この面積は、表面182に垂直投影することにより形成される投影図をカバーする領域の面積を意味する。
【0033】
付着物183は、大きさが25[μm2]以上のものが特にクラック発生の原因となるが、付着物とクラックとの関係を目視により確認すると、大きさ25[μm2]以上の付着物183が存在しない場合、クラックが発生しないことが確認された。したがって、化学研磨により付着物183を溶かして小さくし或いは消滅させることで、大きさが25[μm2]以上のものが存在しないことが好ましい。
【0034】
図6は、箔片のナイフエッジ形状部分の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。図6において箔片180の観測箇所C〜Eは、金属箔140における図2(a)の符号C〜Eで示す箇所に相当する。箔片180を化学研磨すると、研磨時間の経過と共に各観測箇所C〜Eのいずれにおいても付着物183の大きさ及び数量が減少し、当該付着物183が除去されていることがわかる。
【0035】
以下に電解研磨工程についての詳細を説明する。電解研磨工程では、箔片を陽極とし陰極との間に電解研磨液を介して直流電流を流して前記箔片を研磨する。電界研磨強度は、直流電流の電流値と、直流電流を流す時間との積により決定される。電流値と時間の設定は基本的に自由であるが、これについては図7に示すような実験結果を得ている。
図7は、電解研磨についての実験結果を示す図である。実験用として、化学研磨を施さず電解研磨だけを施した金属箔を製造し、その金属箔を用いて高圧放電ランプを製造した。実験用の高圧放電ランプは、金属箔以外については第1の実施形態に係る高圧放電ランプ102と略同様の構成を有し、水銀蒸気圧は300[気圧]程度である。電解研磨は、電解研磨液に2[wt%]のNaOH(水酸化ナトリウム)水溶液を用い、電流値及び時間は種々設定した。
【0036】
そして、製造した各種高圧放電ランプを点灯させて破損の有無を調べた(n=10)。点灯時間100h以内で封止部を基点とする破損が起こった場合は「×」と評価し、100hを超え1000h以内で同様の破損が起こった場合は「△」と評価し、2000hま
で同様の破損が起こらなかった場合は「○」と評価した。なお、水銀蒸気圧が200[気圧]程度の高圧放電ランプについても同様の実験を行ったのでその実験結果を図7中のカッコ内に示す。
【0037】
図7に示すように、水銀蒸気圧が300[気圧]程度の場合、電流値及び時間をどのように設定しても、評価が「○」になる高圧放電ランプはなかった。これは、化学研磨を施していないのが原因であり、水銀蒸気圧が300[気圧]程度の場合は、電解研磨だけでは不十分であることがわかる。
なお、水銀蒸気圧が200[気圧]程度の場合は、評価が「○」になる高圧放電ランプがあった。電解研磨強度が好適な範囲(電流値と時間との積が好適な範囲)であり金属箔の端縁部が好適にナイフエッジ形状に加工された場合に、評価が「○」になると考えられる。電界研磨強度が弱過ぎる、すなわち電流値と時間との積が小さ過ぎると、端縁部がナイフエッジ形状にならず破損が起こると考えられる。一方で、電解研磨強度が強過ぎる、すなわち電流値と時間との積が大き過ぎると、端縁部が研磨され過ぎて金属箔が薄くなり、電流集中によって破損が起こると考えられる。
【0038】
電解研磨における電流値及び時間以外の条件としては、電解研磨液の種類、濃度及び温度などが考えられるが、それらの設定は自由である。基本的に、電解研磨液の種類、濃度及び温度などは電解研磨強度に大きな影響を与えないが、ナイフエッジ形状の仕上がり状態には影響する。なお、電解研磨液の種類としてはNaOH水溶液以外に、KOH水溶液等が考えられる。
【0039】
以下に化学研磨工程についての詳細を説明する。化学研磨工程では、箔片を化学研磨液に浸漬させて前記箔片を研磨する。化学研磨強度は、化学研磨液の濃度及び箔片を浸漬させる時間との積により決定される。濃度と時間の設定は基本的に自由であるが、これについては図8に示すような実験結果を得ている。
図8は、化学研磨についての実験結果を示す図である。実験用として、電解研磨を施さず化学研磨だけを施した金属箔を製造し、その金属箔を用いて高圧放電ランプを製造した。実験用の高圧放電ランプは、金属箔以外については第1の実施形態に係る高圧放電ランプ102と略同様の構成を有し、水銀蒸気圧は300[気圧]程度である。化学研磨は、室温の過酸化水素水を用い、電流値及び時間は種々設定した。
【0040】
そして、製造した各高圧放電ランプを点灯させて破損の有無を調べた。評価基準は、電解研磨についての実験の場合と同様である。なお、水銀蒸気圧が200[気圧]程度の高圧放電ランプについても同様の実験を行ったのでその実験結果を図8中のカッコ内に示す。
図8に示すとおり、水銀蒸気圧が300[気圧]程度である場合は勿論のこと、水銀蒸気圧が200[気圧]程度である場合も、評価が「○」になる高圧放電ランプはなかった。これは、電解研磨を施していないのが原因であり、この結果から、化学研磨だけでは不十分であることがわかる。
【0041】
化学研磨における濃度及び時間以外の条件としては、化学研磨液の種類及び温度などが考えられるが、それらの設定は自由である。化学研磨液の種類としては、過酸化水素水以外にフッ酸等が考えられる。また、沸騰していると研磨制御が難しくなるため、化学研磨液の温度は100℃未満が好ましく、常温がより好ましい。
図9は、電解研磨及び化学研磨を施した場合についての実験結果を示す図である。実験用として、電解研磨を施し更に化学研磨を施した金属箔を製造し、その金属箔を用いて高圧放電ランプを製造した。実験用の高圧放電ランプは、金属箔以外については第1の実施形態に係る高圧放電ランプ102と略同様の構成を有し、水銀蒸気圧は300[気圧]程度である。電解研磨の条件として、電解研磨液に2[wt%]のNaOH水溶液を用い、
電流値を200[mA]、時間を6[s]に設定した。化学研磨の条件として、化学研磨液には室温の過酸化水素水を用い、濃度x[wt%]及び時間t[min]は種々設定した。
【0042】
そして、製造した各高圧放電ランプを点灯させて破損の有無を調べた。評価基準は、電解研磨についての実験の場合と同様である。図9中のカッコ内は、濃度x[wt%]と時間t[min]との積である。
図9に示すように、3≦x≦25、5≦t≦60、30≦xt≦300の条件を満たす場合に、水銀蒸気圧が300[気圧]程度であるにもかかわらず、評価が「○」の高圧放電ランプを得た。金属箔の端縁部がナイフエッジ形状に加工されており、且つ、その表面から付着物が除去されていたため、破損が起こらなかったと考えられる。t<5の場合や、xt<30の場合は、付着物が十分に除去できていないため破損が起こったと考えられる。t>60の場合や、xt>300の場合は、研磨により金属箔が薄くなり電流密度が大きくなり過ぎたため、或いは、研磨により金属箔が薄くなり箔切れを起こしたため、破損したと考えられる。なお、濃度x[wt%]は、濃過ぎると研磨時間の幅が狭くなるため研磨制御が難しくなり、薄過ぎると研磨時間が長くなり過ぎ非効率であるため、過酸化水素水の場合は、10[wt%]〜15[wt%]の範囲であることが好ましい。
【0043】
図10及び図11は、電解研磨及び化学研磨を施した場合についての実験結果を示す図である。図10に係る実験では、電解研磨の条件として、5[wt%]のNaOH水溶液を用い、電流値を200[mA]、時間を6[s]に設定した。化学研磨の条件として、過酸化水素水を用い、濃度を3[wt%]、時間を15[min]に設定した。図11に係る実験では、電解研磨の条件として、5[wt%]のNaOH水溶液を用い、電流値を300[mA]、時間を2[s]に設定した。化学研磨の条件として、過酸化水素水を用い、濃度を3[wt%]、時間を10[min]に設定した。
【0044】
図10及び図11に示すように、電解研磨のみを施した場合(比較例1−1、比較例2)や、化学研磨後に電解研磨を施した場合(比較例1−2)は、高圧放電ランプの破損が起こったが、電解研磨後に化学研磨を施した場合(実施例1、実施例2)は、高圧放電ランプの破損は起こらず、本実施の形態に係る製造方法は水銀蒸気圧が300[気圧]程度の高圧放電ランプの製造に有効であることがわかる。
【0045】
[変形例]
以上、本発明に係る高圧放電ランプ用金属箔の製造方法、高圧放電ランプ及び表示装置を実施の形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明の内容は、上記の実施の形態に限定されない。
<金属箔>
金属箔は、第1の実施形態に係る金属箔140のような形状に限定されず、例えば以下に示す変形例1及び変形例2に係る金属箔のような形状であっても良い。
【0046】
図12は、変形例1に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図である。
図12(a)に示すように、変形例1に係る金属箔440は、例えば、モリブデン製の略短冊状であって、平面視における形状が、長方形の長手方向一方側(電極が接合される側)の二隅を斜めに切り落とした略六角形であって、その略六角形の外周は、対向する一対の長辺441,442と、対向する一対の短辺443,444と、前記二隅を切り落とすことにより生じた2つの斜辺445,446とで構成される。
【0047】
図12(b)〜(d)に示すように、金属箔440は、長辺441,442の近傍部分
(金属箔440の短手方向両端縁部)がナイフエッジ形状に加工されており、さらに、図12(c)及び(e)に示すように、短辺443,444の近傍部分(金属箔440の長手方向両端縁部)もナイフエッジ形状に加工されている。このように長手方向両端縁部もナイフエッジ形状であるため、長手方向両端縁部近傍のガラスへの応力集中も軽減でき、よりクラックが生じ難い高圧放電ランプを得ることができる。さらに加えて、金属箔440は、図12(b)及び(c)に示すように、斜辺445,446の近傍部分もナイフエッジ形状に加工されている。そのため更にクラックが生じ難い。
【0048】
なお、長手方向両端縁部のどちらか一方側にのみがナイフエッジ形状に加工されていても良い。その場合は、ランプ点灯中高温になるためクラックが発生し易い電極側をナイフエッジ形状に加工することが効果的である。また、斜辺445,446の近傍部分についても、そのうちの一部のみをナイフエッジ形状に加工しても良い。
図13は、変形例2に係る金属箔を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図、(d)は(a)におけるA−A線に沿った断面図、(e)は(a)におけるB−B線に沿った断面図である。図13(a)に示すように、変形例2に係る金属箔540は、例えば、モリブデン製の略短冊状であって、平面視における形状が、対向する一対の長辺541,542と、対向する一対の短辺543,544とで構成される長方形である。
【0049】
図13(b)〜(d)に示すように、金属箔540の長辺541,542の近傍部分(短手方向両端縁部)はナイフエッジ形状に加工されている。なお、短辺543,544の近傍部分(長手方向両端縁部)もナイフエッジ形状に加工した構成であっても良く、その場合はガラスにクラックがより生じ難い構成とすることができる。
金属箔に関するその他の変形例としては、金属箔の外周縁に凹凸を設けることによって前記金属箔にアンカー効果を付加して耐圧性能を向上させることが考えられる。また、化学エッチングを施すと、前述した電解研磨後において金属箔外周縁部に発生するモリブデンの付着物を取り除くことができるという効果にくわえて、わずかに金属箔を酸化させることができるという効果も得られる。このように金属箔を酸化させると、金属箔がより石英ガラスとなじみやすくなるため、結果として、石英ガラスと金属箔との界面付近における破損の発生をより抑制することができる。
【0050】
<製造方法>
電解研磨工程における、電解研磨の条件、すなわち、直流電流を流す電流値及び時間、並びに、電解研磨液の種類、濃度及び温度、等については、上記実施の形態に記載の条件に限定されない。
また、電解研磨は、交流電流を流して行ってもよい。この場合、流す電流値及び時間、並びに、電解研磨液の種類、濃度、等については、上記実施の形態に記載の直流電流と同様の条件を用いることができる。
なお、直流電流による電界研磨の場合、電解液の濃度勾配が発生しやすいため、一定の間隔で電解液を攪拌することが好ましい。一方、交流電流による電界研磨の場合、両極において気泡が発生しやすく、別途電解液を攪拌しなくとも電解液が攪拌されたような状態となり、電解液の濃度勾配を発生し難くすることができる。
また、化学研磨工程における、化学研磨の条件、すなわち、電解研磨液の種類、濃度及び温度、並びに、電解研磨液に浸漬させる時間等については、上記実施の形態に記載の条件に限定されない。なお、化学研磨する際に箔片を陽極として陰極との間に化学研磨液を介して微量の電流を流しても良い。ここで微量とは、箔片の外周縁部をナイフエッジ形状に加工することはできないが、表面の付着物は除去できる程度の値を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
上記実施の形態では、点灯中の水銀蒸気圧が300[気圧]程度の高圧放電ランプに適用する場合について詳細に説明したが、水銀蒸気圧が300[気圧]以下の高圧水銀ランプや、低圧水銀ランプについても適用することが可能である。また、水銀ランプ以外の他の放電ランプにも適用可能であり、例えば、金属ハロゲン化物を封入したメタルハライドランプなどの放電ランプに適用することもできる。
【符号の説明】
【0052】
102 高圧放電ランプ
111 発光部
112 封止部
110 放電容器
120 電極組立体
130 電極
140 金属箔
140’ 箔片
183 付着物
150 外部リード線
200,300 画像表示装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向一端に電極が接合され他端に外部リード線が接合された状態で放電容器の封止部内に封止される高圧放電ランプ用金属箔の製造方法であって、
前記金属箔の前駆体である箔片の外周縁部の少なくとも一部をナイフエッジ形状に電解研磨する電解研磨工程と、電解研磨によりナイフエッジ形状となった部分の表面を化学研磨する化学研磨工程とを含むことを特徴とする高圧放電ランプ用金属箔の製造方法。
【請求項2】
前記化学研磨工程では、過酸化水素水中に、前記箔片の少なくとも前記ナイフエッジ形状となった部分を浸漬させて化学研磨し、
前記過酸化水素水の濃度[wt%]をx、前記浸漬の時間[min]をtとした場合に、3≦x≦15、5<t<90、30<xt<400の条件を満たすことを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ用金属箔の製造方法。
【請求項3】
前記電解研磨工程では、前記箔片の外周縁部を全周に亘ってナイフエッジ形状に電解研磨することを特徴とする請求項1又は2に記載の高圧放電ランプ用金属箔の製造方法。
【請求項4】
放電空間を有する発光部及び当該発光部に連設された封止部からなる放電容器と、電極、金属箔及び外部リード線がこの順で接合されてなる一対の電極組立体とを備え、前記封止部内に前記金属箔の全体が埋め込まれた状態で、前記封止部に前記一対の電極構造体が封止された高圧放電ランプであって、
前記金属箔は、外周縁部の少なくとも一部がナイフエッジ形状であり、当該ナイフエッジ形状の部分の表面には、結晶粒からなる付着物を除去するための化学研磨が施されていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項5】
請求項4に記載の高圧放電ランプを備えることを特徴とする画像表示装置。
【請求項1】
長手方向一端に電極が接合され他端に外部リード線が接合された状態で放電容器の封止部内に封止される高圧放電ランプ用金属箔の製造方法であって、
前記金属箔の前駆体である箔片の外周縁部の少なくとも一部をナイフエッジ形状に電解研磨する電解研磨工程と、電解研磨によりナイフエッジ形状となった部分の表面を化学研磨する化学研磨工程とを含むことを特徴とする高圧放電ランプ用金属箔の製造方法。
【請求項2】
前記化学研磨工程では、過酸化水素水中に、前記箔片の少なくとも前記ナイフエッジ形状となった部分を浸漬させて化学研磨し、
前記過酸化水素水の濃度[wt%]をx、前記浸漬の時間[min]をtとした場合に、3≦x≦15、5<t<90、30<xt<400の条件を満たすことを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ用金属箔の製造方法。
【請求項3】
前記電解研磨工程では、前記箔片の外周縁部を全周に亘ってナイフエッジ形状に電解研磨することを特徴とする請求項1又は2に記載の高圧放電ランプ用金属箔の製造方法。
【請求項4】
放電空間を有する発光部及び当該発光部に連設された封止部からなる放電容器と、電極、金属箔及び外部リード線がこの順で接合されてなる一対の電極組立体とを備え、前記封止部内に前記金属箔の全体が埋め込まれた状態で、前記封止部に前記一対の電極構造体が封止された高圧放電ランプであって、
前記金属箔は、外周縁部の少なくとも一部がナイフエッジ形状であり、当該ナイフエッジ形状の部分の表面には、結晶粒からなる付着物を除去するための化学研磨が施されていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項5】
請求項4に記載の高圧放電ランプを備えることを特徴とする画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−49136(P2011−49136A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5466(P2010−5466)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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