説明

高密度焦点式超音波治療に対するプラスミド増強剤およびその使用

本発明は、HIFU治療時に標的部位における超音波エネルギー沈着を増大させることができる、高密度焦点式超音波(HIFU)治療に対するプラスミド増強剤について開示する。前記増強剤は、ナノメートルサイズの生体適合性の固体を含んでなる。本発明は、HIFU治療に対するもう1つのプラスミド増強剤についても開示し、前記増強剤は、膜形成物質により被包されたコア物質を含んでなる不連続相、および水性媒質を含んでなる連続相を含み;前記不連続相は、連続相中に均一に分散し、10〜1000nmの範囲の粒子サイズであり;増強剤中の膜形成物質の量は0.1〜100g/Lであり;前記コア物質は、磁性生物材料、ヒドロキシルアパタイト、および炭酸カルシウムからなる群より選択されるナノメートルサイズの生体適合性の固体を含んでなり、前記増強剤中のコア物質の量は0.1〜150g/Lである。本発明のHIFU治療に対するプラスミド増強剤は、標的部位の超音波環境を有意に変化させることができ、HIFU治療時の標的部位における超音波エネルギーの沈着を増大させることができる。最終的に、腫瘍細胞を除去するための臨床的なHIFU治療の有効性が有意に改善される。従って、本発明は、HIFU治療時におけるHIFU治療に対する上記プラスミド増強剤の使用について開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、医薬および内科療法の分野、具体的には超音波治療の分野、さらに具体的には、HIFU治療時に標的部位における超音波エネルギー沈着を増大させることができるHIFU治療に対するプラスミド増強剤、およびその使用に関する。
【発明の背景】
【0002】
腫瘍および他の疾患を治療するための新規の技術としての高密度焦点式超音波(HIFU)は、臨床での適用において既に認識されている。HIFUは、焦点を合わせた超音波を使用して、持続的、高密度の超音波エネルギーを焦点に提供することにより、即時の熱的効果(65〜100℃)、キャビテーション効果、機械的効果、および音化学効果を生じ、焦点において凝固性のネクローシスを選択的に引き起こし、腫瘍の増殖、浸潤、および転移を妨げる。
【0003】
体内の超音波伝達において伝達距離が増大した場合、超音波エネルギーが指数関数的に減弱することが示された(Baoqin Liu et al., Chinese Journal of Ultrasound in Medicine, 2002, 18(8):565-568)。加えて、軟部組織中の超音波伝達におけるエネルギーは、組織吸収、散乱、屈折、回折等により減弱し、これらの中でも組織吸収および散乱は、エネルギー損失に対する主要な原因である(Ruo Feng and Zhibiao Wang as editors in chief, Practical Ultrasound Therapeutics, Science and Technology Reference Publisher of China, Beijing, 2002.14)。それ故、HIFU治療が深在性且つ大きな腫瘍に対して使用される場合、標的に伝達される超音波エネルギーは相対的に低くなるであろう。それ故、超音波エネルギーの減弱により、治療効率が低下し、治療時間は延長されるであろう。
【0004】
もちろん、治療効率を改善するために、治療的な変換器の伝達力を増大させることは可能であるが、高密度の超音波環境において、超音波伝達の経路上の正常な組織が焼ける可能性がある。
【0005】
加えて、現在では、超音波伝達の経路が肋骨により遮断された肝臓腫瘍に対してHIFU技術が臨床的に適用される場合、標的部位におけるエネルギー沈着を増大させ、治療時間を短縮し、治療効率を増大させるために、肋骨は通常除去される。それ故、HIFU治療の非侵襲性が保証され得ず、患者および医師にとって望ましくない。
【0006】
上記問題は、不都合にも、臨床での実施に対する技術としてのHIFU治療の使用を限定する。それ故、標的部位におけるエネルギー沈着を増大させること、超音波経路における周囲の正常な組織を損傷することなく深在性の腫瘍を効率的に治療すること、および肋骨を除去することなく肋骨により遮断された肝臓腫瘍を治療することに関する技術的な問題を早急に解決する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明の1つの目的は、HIFU治療に対するプラスミド増強剤であって、HIFU治療時に、標的組織において超音波エネルギーの沈着を増強することができる薬剤を提供することである。
【0008】
本発明のもう1つの目的は、本発明の高密度焦点式超音波(HIFU)治療に対するプラスミド増強剤を用いて、HIFU治療時に、標的部位における超音波エネルギーの沈着を増強するための方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、HIFU治療の有効性を増強するために、HIFU治療に対するプラスミド増強剤の使用を提供することである。
【0010】
上述した目的を達成するために、1つの実施形態において、本発明はHIFU治療に対するプラスミド増強剤を提供する。本発明の増強剤は、生物体に投与した後に、HIFUで治療されるべき標的部位において超音波エネルギーの吸収を増強することができる物質、すなわち、HIFU治療時において、標的組織(腫瘍および非腫瘍組織)の破壊を引き起こすのに必要な超音波エネルギーを減少させるために使用することができる物質である。本発明において、HIFU治療に対する増強剤として使用される物質のタイプは、その物質がナノメートルサイズの生体適合性の固体であり、標的組織の超音波環境を変化させることができ、標的組織における治療的な超音波エネルギーの吸収および沈着を促進する限り、特に限定されない。
【0011】
特に、本発明のHIFU治療に対する増強剤は、好ましくは、超常磁性の酸化鉄(SPIO)、ヒドロキシルアパタイト(HAP)、および炭酸カルシウムのような磁性の生物材料からなる群より選択されるナノメートルサイズの生体適合性の固体、好ましくはヒドロキシルアパタイトを含んでなる。前記増強剤は、1nm〜500nm、好ましくは1〜200nm、より好ましくは10〜100nmの範囲の粒子サイズを有する。
【0012】
HIFU治療に対する増強剤を調製するための方法は、特に限定されない。例えば、望ましい粒子サイズを有する上述したナノメートルサイズの生体適合性の固体(超常磁性酸化鉄(SPIO)、ヒドロキシルアパタイト(HAP)、および炭酸カルシウムのような磁性の生物材料等)は、水性媒質に添加することができ、0.1〜150g/Lの濃度の懸濁液を形成する。使用前に、ソニケーターのような混合装置を用いて懸濁液を均質化することにより、ナノメートルサイズの生体適合性の固体が水性懸濁媒質中に完全且つ均質に分散されることが好ましい。
【0013】
ここで用いる場合、「ナノメートルサイズ」という用語は、1nm超1000nm未満の粒子サイズを示す。
【0014】
ナノメートルサイズの生体適合性の固体が水性媒質中で凝集または沈殿することを防ぐために、本発明の好ましい実施形態は、膜形成物質により被包されたコアを含んでなる不連続相および水性媒質を含んでなる連続相を含む、HIFU治療に対する増強剤を提供する。前記不連続相は、連続相中に均一に分散し、10〜1000nm、好ましくは10〜500nm、より好ましくは10〜200nmの範囲の粒子サイズを有する。前記増強剤中の膜形成物質の量は、0.1-100g/L、好ましくは0.5〜20g/L、より好ましくは0.5〜10g/Lである。ナノメートルサイズの生体適合性の固体は、コア物質として使用され、超常磁性酸化鉄(SPIO)、ヒドロキシルアパタイト(HAP)、および炭酸カルシウムのような磁性の生物材料からなる群より選択され、好ましくはヒドロキシルアパタイトである。ナノメートルサイズの生体適合性の個体の粒子サイズは、1-500nm、好ましくは1〜200nm、より好ましくは10〜100nmである。前記増強剤中のコア物質の量は、0.1〜150g/L、好ましくは10〜100g/L、より好ましくは20〜80g/Lである。
【0015】
本発明の上述した実施形態において、前記膜形成物質には以下が含まれる:3-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルグリセロールナトリウム塩、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸ナトリウム、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリンおよび水素化ホスファチジルセリン、コレステロール、ならびに糖脂質のような脂質;例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、デンプン、およびそれらの分解産物を含む糖質;アルブミン、グロブリン、フィブリノゲン、フィブリン、ヘモグロビン、および植物性タンパク質の分解産物等のようなタンパク質。
【0016】
本発明の上記実施形態において、前記水性媒質は、蒸留水、生理食塩水、またはグルコース溶液である。グルコース溶液の濃度は50%(w/v)まで可能である。しかしながら、グルコース溶液は、糖尿病患者のHIFU治療に対するプラスミド増強剤の水性媒質としては用いることができない。
【0017】
好ましい実施形態において、前記増強剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)および/またはグリセリンも含まれてよい。前記増強剤中のCMC-Naの量は、0.01〜10g/L、好ましくは0.05〜0.6g/L、より好ましくは0.1〜0.3g/Lである。増強剤中のグリセリンの量は5〜100g/Lである。前記増強剤には、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシエチルセルロースナトリウム、カルボキシエチルセルロースカリウム、カルボキシプロピルセルロースナトリウム、カルボキシプロピルセルロースカリウム等が含まれてもよい。
【0018】
より好ましい実施形態において、前記増強剤の安定性を増大させるために、増強剤のpHは3.0〜6.5、好ましくは5.0〜6.0に調節される。無機酸または有機酸は、前記増強剤のpH値を調節するために用いられてよい。好ましくは酢酸が、前記増強剤のpH値を調節するために用いられる。
【0019】
加えて、特定の腫瘍組織または焦点を標的とする本発明によるHIFU治療に対するプラスミド増強剤を作るために、腫瘍特異的な抗体のように前記腫瘍組織または焦点に対する特異的な親和性を有する物質が前記増強剤に加えられてよい。
【0020】
本発明のHIFU治療に対するプラスミド増強剤において、ナノメートルサイズの磁性物質であるヒドロキシルアパタイト(HAP)および/または炭酸カルシウムを被包するために、脂質(より好ましくはリン脂質)を使用することが好ましく、それにより、前記増強剤を静脈に注射することが可能になり、血液循環を円滑に介して運搬され、その後、細網内皮細胞で満たされた人体の組織により迅速に貪食される。それ故、多くの増強剤は、短時間人体の組織に沈着することができ、標的組織の超音波環境を著しく変化させ、それ故、組織の超音波吸収能は大いに増強され、HIFU治療時における標的組織の超音波エネルギー沈着を増大させることができ、最終的に、腫瘍細胞を切除するための臨床的なHIFU治療の有効性を大いに改善することができる。
【0021】
本発明において用いられるようなナノメートルサイズの生体適合性の固体は、商業的に入手可能である。あるいは、生体適合性の固体は、当業者に既知の方法を用いてナノメートルサイズの顆粒に加工されてもよい。
【0022】
本発明による膜で被包されたナノメートルサイズの生体適合性の固体は、以下のように調製されてよい:
(1)膜形成物質およびナノメートルサイズの生体適合性の固体を計量および混合し、0.1〜100g/Lの膜形成物質および0.1〜150g/Lのナノメートルサイズの生体適合性の固体の混合物を得るために予め決められた量まで水性媒質を加え、撹拌し、液体混合物を形成し;
(2)ステップ(1)で調製した脂質混合物をソニケーター中に置き、2〜3分間、400〜800Wで超音波処理することにより、均一に分散した安定な懸濁液を形成する
好ましくは、より均一に分散した安定な懸濁液を得るために2回超音波処理する。
【0023】
本発明のHIFU治療に対するプラスミド増強剤を調製する方法において、ステップ(1)における水性媒質の添加の前に、好ましくは、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはグリセリンが混合物に加えられる。より好ましくは、前記混合物に水性媒質を加えた後、液体混合物のpHを3.0〜6.5、好ましくは5.0〜6.0に調節するために酢酸が加えられる。
【0024】
本発明のHIFU治療に対するプラスミド増強剤を調製する方法において、生体適合性の固体をナノメートルサイズの顆粒に加工することのみが必要である。水性媒質中における不連続相の均一な分散は、ナノメートルサイズの顆粒が集団になることを妨げながら、ソニケーターを用いることにより簡単に達成することができる。それ故、本発明において使用される設備に対する要求はより少なく、方法は使用することが簡単であり、均一な分散に対して有効であり、対費用効果が高い。
【0025】
本発明は、HIFU治療時に標的部位においてエネルギー沈着を増大させるための方法にも向けられており;前記方法は、患者に対してHIFU治療を適用する0〜168時間前に、本発明のプラスミド増強剤の有効量を継続的に静脈に投与することおよび急速IV注入することまたは大量瞬時投与することを含んでなる。上述した有効量は、腫瘍の型、患者の体重、腫瘍の部位、腫瘍の容積等により変化する。しかしながら、医師または薬剤師は、異なる患者に対して適切な用量を容易に決定することができる。例えば、前記用量は、0.1〜10ml/kg、好ましくは0.1〜5ml/kg、より好ましくは0.5〜5ml/kgの範囲から選択することができる。
【0026】
ここで用いられる場合、「破壊」という用語は、腫瘍または正常組織の生理的な状態における実質的な変化を意味し、一般的に、腫瘍または正常組織の凝固性ネクローシスを意味する。エネルギー効率因子(EEF)は、標的組織の破壊を引き起こすのに必要な、組織の単位体積当りの超音波エネルギーを定量するために用いることができる。EEFは、式EEF=ηPt/V(単位:J/mm3)により表され、腫瘍または正常組織の破壊を引き起こすために必要な、組織の単位体積当りの超音波エネルギーを示し、ここでのηはHIFU変換器の焦点係数を意味し、変換器の超音波エネルギーの焦点を合わせる能力を示し、ここではη=0.7であり;Pは、HIFUソースの全超音波力(単位:W)を意味し;tは、HIFU治療の全時間(単位:s)を意味し;Vは、HIFU誘発性の破壊の体積(単位:mm3)を意味する。投与後に標的組織のEEFを大いに減少させる物質は、HIFU治療に対する増強剤として使用することがより適している。
【0027】
HIFU治療に対する増強剤は、投与後に、標的組織のEEFを大いに減少させる。結果として、増強剤の投与前に測定した標的組織のEEF(すなわちEEF(ベース))と、増強剤の投与後に測定した標的組織のEEF(すなわちEEF(測定値))の間の比は、1より大きく、好ましくは2より大きく、より好ましくは4より大きい。前記比の上限は特になく、より高い比が好ましい。
【発明の詳細な説明】
【0028】
実施例1
以下の物質を混合した:1nm〜100nmの範囲の粒子サイズを有する2.5gのHAP(Sichuan 大学の生物材料のための技術研究センター(Engineering Research Center for Biomaterials of Sichuan University)から購入)、注射のための卵黄レシチン0.3g(上海化学試薬会社(Shanghai Chemical Reagent Company)から購入)、および0.3gのCMC-Na (上海化学試薬会社から購入)、ならびに最終体積が100mlとなるように蒸留水。均一に混合した後、酢酸を用いて混合物のpHを5.0に調節した。ソニケーター送波器を混合物の表面から1.5cmの深さに位置させ、混合物を400Wの力で2分間超音波処理した。超音波処理の後、乳白色の、均一に分散した、安定な懸濁液が得られた。結果として得られる増強剤の不連続相の粒子サイズは、10nm〜1000nmの範囲、平均して100nm〜500nmの範囲であった。
【0029】
実施例2
以下の物質を混合した:1nm〜100nmの範囲の粒子サイズを有する2.5gのHAP (Sichuan 大学の生物材料のための技術研究センターから購入)、注射のための卵黄レシチン0.3g(上海化学試薬会社から購入)、および1mlの注射のためのグリセリン、ならびに最終体積が100mlとなるように蒸留水。均一に混合した後、酢酸を用いて混合物のpHを5.0に調節した。ソニケーター送波器を混合物の表面から1.5cmの深さに位置させ、混合物を400Wの力で2分間超音波処理した。超音波処理の後、乳白色の、均一に分散した、安定な懸濁液が得られた。結果として得られる増強剤の不連続相の粒子サイズは、10nm〜1000nmの範囲、平均して100nm〜500nmの範囲であった。
【0030】
実施例3〜5
本発明のHIFU治療に対するプラスミド増強剤を、実施例1と同じ方法および手法により、表1に示す物質および量を用いて調製した。生成物のパラメータも表1に示す。
【表1】

【0031】
実施例6
Sichuan 大学の生物材料のための技術研究センターから購入したナノメートルサイズのヒドロキシアパタイト(HAP)は、正常な分布を有し、10nm〜200nmの範囲の粒子サイズを有する白色粉末であった。HAPを9%の生理食塩水に溶解し、それぞれ25g/Lおよび50g/Lの濃度を有する2種類の乳白色の懸濁液を得た。使用前に、前記懸濁液をソニケーターにより600Wで2分間超音波処理し、均一に分散させた。
【0032】
動物試験1:実施例1で調製した増強剤とHIFU治療装置モデルJCとの併用
重慶医科大学の実験動物センター(Laboratory Animals Center of Chongqing University of Medical Sciences)により提供された約2kgの重さの36のニュージーランドシロウサギを、1つの対照群およびHIFU増強剤を用いる2つの実験群にランダムに分け、各群12のウサギとした。対照群のウサギに、ウサギの耳の辺縁静脈(ear border vein)を介して、急速注入により生理食塩水を投与した(2ml/kg)。実験群のウサギには、ウサギの耳の辺縁静脈を介して、急速注入により実施例1で調製した薬剤を投与し(2ml/kg)、前記薬剤が体に完全に入ったことを確実にするために、1mlの生理食塩水を流した。2つの実験群は、それぞれ薬剤の投与後24時間および48時間にHIFUに曝した。注入後24時間でHIFUに曝された群を第1の実験群と呼び、注入後48時間でHIFUに曝された群を第2の実験群と呼んだ。重慶 Haifu (HIFU) Technology Co. Ltd.により製造された高密度焦点式超音波腫瘍治療システムモデル-JCが、単一パルス照射下で、対照群および2つの実験群のウサギの肝臓に照射するために用いられた。高密度焦点式超音波腫瘍治療システムモデル-JCは、調節発電機、B-モード超音波モニタリングシステム、治療変換器、機械的運動調節システム、処理台、および超音波結合装置から構成される。前記システムの治療変換器は、1MHzの振動数で作用し、直径150mm、焦点距離150mmであり、気体の量が3ppm以下である標準的な循環脱気水を使用し、2.3×2.4×26mmの焦点領域を作ることができ、平均超音波強度を5500W/cm2にすることができる。この試験において、照射のための超音波力は220Wであり、振動数は1.0MHZであり、照射深さは20mmであり、照射時間は15秒であった。動物は、HIFU照射後に屠殺され、解剖された。標的部位における凝固性ネクローシスの大きさを測定した。対照群および2つの実験群のウサギの肝臓にある一定の凝固性ネクローシスを産生するのに必要なEEFは、表2に示す。
【表2】

【0033】
表2に示したように、同じ条件下で、注入後24時間または48時間に同じ照射時間で行われた照射において、HIFU治療時の両実験群において誘発された凝固性ネクローシスの容積は、対照群よりも大きく、実験群において必要とされるEEFは対照群と比較してずっと減少した。これらのデータは、対照群と実験群との間の凝固性ネクローシスの容積およびEEFの違いについて、統計的に有意である(P<0.05)。
【0034】
動物試験2:実施例6で調製したHIFU治療に対するプラスミド増強剤のインビトロ試験
重慶医科大学の実験動物センターにより提供された、性別を限定しない、平均体重2.7±0.3kgの40のニュージーランドシロウサギを、3つのHAP群および1つの対照群にランダムに分け、各群10のウサギとした。
【0035】
HIFU治療の24時間前、HAP群の各ウサギに濃度を変化させた実施例6で調製したHAP懸濁液を、ウサギに耳の辺縁静脈を介して1kg体重当り2〜3mlの用量で急速注入により投与し、注入は5秒以内で終えた。その後、懸濁液が体に完全に入ったことを確実にするために、1mlの生理食塩水を流した。対照群の各ウサギには、ウサギの耳の辺縁静脈を介して、急速注入により生理食塩水を投与した(2mg/kg)。ウサギの右の胸および腹部において、8%硫化ナトリウムを用いて剥皮した。HIFU治療の前に、麻酔薬であるスミアンキシン(Sumianxin)の筋肉内注射(0.2ml/kg)によりウサギを麻酔し、無菌条件下で腹腔壁を切開し、肝臓を完全に露出させた。重慶 Haifu (HIFU) Technology Co. Ltd.により製造されたHIFU婦人科治療装置CZF-1が、ウサギの肝臓に照射するために使用された。前記HIFU婦人科治療装置CZF-1は、電源、アプリケーター、中国特許第01144259.X号に記載されているような循環水から構成される。この試験におけるパラメータは、以下のように設定した:振動数:9.85MHz、力:5W、焦点距離:4mm、処理モード:単一パルス照射。1サイクルに対して3つの照射点、各肝臓について2または3の照射サイクルを導入した。照射時間は10秒とした。切開はHIFU治療後に縫合した。24時間後、ウサギの耳の辺縁静脈を介して10mlの空気を急速注入することにより、ウサギを屠殺した。標的部位において形成された凝固性ネクローシスの大きさを測定し、EEFを計算した。
【0036】
T検定および関連する分析は、群間の比較のために用いた。
【0037】
HIFU治療の後すぐに治療領域において生じたドット形の灰白色の凝固性ネクローシスおよび組織破壊と正常組織の間の境界は明確であった。これらの群のウサギが同じ時間HIFUに曝された後、異なるHAP用量のHAP群において形成された焦点領域(凝固性ネクローシス)の容積は、生理食塩水を投与した対照群よりも大きく;HAP群において必要とされるEEFは、対照群と比較して大いに減少し、HAP群および対照群の間の違いは、統計的に有意であった(P<0.001)。異なるHAP群と異なるナノメートルサイズのHAP量を比較すると、HAPの用量が増大した場合に、形成される焦点領域(凝固性ネクローシス)の容積が大いに増大することが分かり;HAP群が必要とするEEFは大いに減少し、それは統計学的に有意であった(P<0.001)。表3は、異なるHAP用量であるHAP群における焦点領域(凝固性ネクローシス)の容積およびEEFを示す(χの平均±s)。
【表3】

【0038】
注:表中の「n」は、照射点の数を示す。
【0039】
上述した実験から、ナノメートルサイズのHAPは、インビトロにおいてHIFUの治療効率を大いに促進できること、およびHIFU治療は、より多いHAP用量が適用された場合により効果的であるということを結論付けることができた。
【0040】
動物試験3:実施例6で調製したHIFU治療に対するプラスミド増強剤のインビトロ試験
重慶医科大学の実験動物センターにより提供された、性別を限定しない、2.5±0.3kgの体重の80の健康的なニュージーランドウサギを、HIFU治療の前24時間絶食させた。その後、各ウサギに、実施例6で調製したHAPの乳白色の懸濁液を、25g/Lの濃度で、ウサギの耳の辺縁静脈を介して急速注入により投与し(2ml/kg)、1mlの生理食塩水を流した。ウサギの肝臓を、HAPの投与後24時間(20のウサギ)、48時間(25のウサギ)、72時間(10のウサギ)、および168時間(15のウサギ)において、それぞれHIFUで走査した。対照群における10のウサギには、生理食塩水を投与し(2ml/kg)、生理食塩水の投与後24時間においてHIFUで走査した。HIFU治療の前に、これらのウサギの右胸および腹部を8%硫化ナトリウムで剥皮した。スミアンキシン(0.2ml/kg)の筋肉内注射によりウサギを麻酔し、高密度焦点式超音波腫瘍治療システムモデルJC-Aに対して安定させた。
【0041】
高密度焦点式超音波腫瘍治療システムモデルJC-Aは、医薬における超音波技術の研究所, 重慶医科大学により製造され、その製造は、登録番号99−301032で中国における国家食品薬品監督管理局により承認された。このシステムは、実時間超音波モニタリングならびに位置調整装置および治療装置からなる。循環脱気水は、超音波カップリング試薬として使用され、3×10-6未満のガスを含む。治療パラメータは、以下のように設定した:力:220W、振動数:1MHz、焦点距離:150nm、および焦点領域:2.3×2.4×26mm。治療アプリケーターはx、y、およびz方向に自由に動いた。
【0042】
各ウサギの胸部および腹部を循環脱気水に浸し、ウサギの肝臓をB-モード超音波で明確に映し出した。単一パルス照射下で、各肝臓に1または2の照射点を導入した。各照射点を、固定された15sの照射時間、20mmの照射深さで導入した。その後、HIFU治療後24時間において、ウサギの耳の辺縁静脈を介して10mlの空気を急速注入することによりウサギを屠殺し、肝臓を取り出し、超音波の経路に沿って切開し、最大の凝固性ネクローシス領域の部位を見た。その後、TTC染色により決定した凝固性ネクローシス領域の形および凝固性ネクローシス領域の大きさを測定した。その後、EEFを計算した。
【0043】
T検定および関連する分析を、群間の比較のために使用した。
【0044】
同じ処理条件下において、ナノメートルサイズのHAPを用いたHAP群において形成された凝固性ネクローシス領域は、対照群より大きく(P<0.05);HAP群におけるHIFU治療に必要なEEFは、対照群と比較して大いに減少した。また、HAP群において、最も大きな凝固性ネクローシス領域はHAP注入後24時間および48時間におけるHIFU照射により得られ、それに応じて最小のEEFが必要とされた。データは、HAP注入後24時間および48時間にHIFU治療を行うことが最も効果的であることを示す。HAP注入後、HIFU照射が行われる時間が遅くなった場合、より小さなネクローシス領域が形成されるであろう。それにもかかわらず、HAP注入後2週間においても、HIFU治療は対照群と比較してより効果的であることを示した(P<0.05)(表4を参照)。
【表4】

【0045】
注:表中の「n」は、照射点の実際の数を示す。
【0046】
上記実験から、ナノメートルサイズのHAPは、インビトロにおいてHIFUの治療効果を大いに増大させることができ、HAP注入後48〜72時間にHIFU照射を実行した場合にHIFU治療が最も効果的であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のHIFU治療に対するプラスミド増強剤は、標的部位の超音波環境を大いに変化させることができ、HIFU治療時に標的組織(腫瘍/非腫瘍組織)の破壊を引き起こすのに必要な、組織の単位容積当りの超音波エネルギーを減少させることができる。従って、深在性且つ大きいサイズの腫瘍を、ある一定の超音波力の下で、超音波経路上の正常組織を損傷することなく、HIFU治療を用いてより効果的に治療することが可能である。肋骨を除去することなく、肋骨により遮断されている肝臓腫瘍を有する患者を治療するために、本発明のHIFU治療に対する増強剤を使用することが可能である。
【0048】
本発明は好ましい実施形態に関して記載されているが、上述した実施形態により本発明の範囲が限定されるものではない。本発明に対する種々の適用可能な修飾および変形は、当業者にとって自明であると解されるべきである。特許請求の範囲は、本発明の範囲を網羅するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度焦点式超音波(HIFU)治療に対する増強剤を調製するためのナノメートルサイズの生体適合性の固体の使用。
【請求項2】
請求項1に記載の使用であって、前記ナノメートルサイズの生体適合性の固体は、1nm〜500nmの範囲の粒子サイズを有し、磁性生物材料、ヒドロキシルアパタイト、および炭酸カルシウムからなる群より選択される方法。
【請求項3】
請求項2に記載の使用であって、前記ナノメートルサイズの生体適合性の固体がヒドロキシルアパタイトを含んでなる使用。
【請求項4】
請求項2に記載の使用であって、前記ナノメートルサイズの生体適合性の固体が1nm〜200nmの範囲の粒子サイズである使用。
【請求項5】
請求項4に記載の使用であって、前記ナノメートルサイズの生体適合性の固体が10nm〜100nmの範囲の粒子サイズである使用。
【請求項6】
HIFU治療に対する増強剤であって、前記増強剤は、膜形成物質により被包されたコア物質を含んでなる不連続相、および水性媒質を含んでなる連続相を含み;前記不連続相は、連続相中に均一に分散し、10〜1000nmの範囲の粒子サイズであり;前記増強剤中の膜形成物質の量は0.1〜100g/Lであり;前記コア物質は、ナノメートルサイズの生体適合性の固体を含んでなり、前記増強剤中のコア物質の量は0.1〜150g/Lである増強剤。
【請求項7】
請求項6に記載の増強剤であって、前記不連続相が10〜500nmの範囲の粒子サイズである増強剤。
【請求項8】
請求項7に記載の増強剤であって、前記不連続相が10〜200nmの範囲の粒子サイズである増強剤。
【請求項9】
請求項6に記載の増強剤であって、前記不連続相が、1〜500nmの範囲の粒子サイズであり、磁性生物材料、ヒドロキシルアパタイト、および炭酸カルシウムからなる群より選択される増強剤。
【請求項10】
請求項9に記載の増強剤であって、前記ナノメートルサイズの生体適合性の固体がヒドロキシルアパタイトを含んでなる増強剤。
【請求項11】
請求項9に記載の増強剤であって、前記ナノメートルサイズの生体適合性の固体が1〜200nmの範囲の粒子サイズである増強剤。
【請求項12】
請求項11に記載の増強剤であって、前記ナノメートルサイズの生体適合性の固体が10〜100nmの範囲の粒子サイズである増強剤。
【請求項13】
請求項6に記載の増強剤であって、前記膜形成物質が、リン脂質、コレステロール、および糖脂質の群中の1以上の物質からなる群より選択される増強剤。
【請求項14】
請求項13に記載の増強剤であって、前記膜形成物質が、3-sn-ホスファチジルコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルグリセロールナトリウム塩、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸ナトリウム、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、および水素化ホスファチジルセリンから選択されるリン脂質を含んでなる増強剤。
【請求項15】
請求項6に記載の増強剤であって、前記増強剤中の膜形成物質の量が0.5〜20g/Lである増強剤。
【請求項16】
請求項15に記載の増強剤であって、前記増強剤中の膜形成物質の量が0.5〜10g/Lである増強剤。
【請求項17】
請求項6に記載の増強剤であって、前記増強剤中のコア物質の量が10〜100g/Lである増強剤。
【請求項18】
請求項17に記載の増強剤であって、前記増強剤中のコア物質の量が20〜80g/Lである増強剤。
【請求項19】
請求項6に記載の増強剤であって、前記水性媒質が、蒸留水、生理食塩水、またはグルコース溶液を含んでなる増強剤。
【請求項20】
請求項6〜19のいずれか1項に記載の増強剤であって、0.01〜10g/Lのカルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/または5〜100g/Lのグリセリンを含有する増強剤。
【請求項21】
HIFU治療時に標的部位における超音波エネルギー沈着を増大させるための方法であって、患者の標的部位に対してHIFU治療を適用する0〜168時間前に、請求項1〜20のいずれか1項に記載のプラスミド増強剤の有効量を、患者に対して持続的に静脈に投与することおよび急速IV注入することまたは大量瞬時投与することを含んでなる方法。

【公表番号】特表2008−526784(P2008−526784A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549779(P2007−549779)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【国際出願番号】PCT/CN2005/001361
【国際公開番号】WO2006/072197
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(507232087)チョンチン・ハイフ(エイチアイエフユー)・テクノロジー・カンパニー・リミテッド (11)
【Fターム(参考)】