説明

高尿酸血症、又は痛風の予防、改善、又は治療剤

【課 題】天然の有効成分を含有する、高尿酸血症、又は痛風の予防、改善、若しくは治療剤を提供する。
【解決手段】以下の(a)又は(b)を含む高尿酸血症、又は痛風の予防、改善、若しくは治療剤。
(a) ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質
(b) 植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高尿酸血症、又は痛風の予防、改善、又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
痛風の基礎病態である高尿酸血症は、尿酸の血中濃度が、血漿中の尿酸の溶解限界濃度である7mg/dLを超えるものと定義されている。近年、食生活の変化やアルコール摂取量の増加などに伴い、高尿酸血症の患者は年々増加傾向にあり、日本国内に約500万人存在すると言われている。
また、高尿酸血症は、痛風関節炎、腎障害、尿路結石などを引き起こす危険性があり、また、疫学的研究から心血管障害や脳血管障害の独立した予測因子であることも示唆されている。さらに、高尿酸血症は、動脈硬化症の危険因子であることが知られており、メタボリックシンドロームのマーカーとしての重要性が指摘されてきている。
【0003】
高尿酸血症の原因には、尿酸の産生が過剰になる場合、尿酸排泄能が低下する場合およびそれらの混合した場合がある。これまでに高尿酸血症を治療する医薬品としては、尿酸産生抑制剤アロプリノールや尿酸排泄促進剤ベンズブロマロンが提供されているが、これらの医薬品は肝機能障害など副作用が懸念される。また、高尿酸血症を改善する食品素材としては、植物抽出物であるワサビ抽出物(特許文献1)、ザクロ抽出物(特許文献2)、リンゴポリフェノール(特許文献3)などが報告されている。
一方、リン脂質は、細胞膜の主要構成成分であるとともに、生体内で多くの生理機能を担う物質である。その生理機能としては、動脈硬化症、高コレステロール血症、肝臓脂質代謝異常、脳疾患又は神経疾患などに対する改善効果が知られている。
具体的には、ホスファチジルセリンの作用としては、脳機能改善作用(非特許文献1)、ストレス性不眠症改善作用(特許文献4)が知られている。また、ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールの作用としては、抗ストレス作用(特許文献5)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-217366号
【特許文献2】特開2006-16340号
【特許文献3】特開2006-169227号
【特許文献4】特許第3999249号
【特許文献5】特表2004-537577号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「オレオサイエンス」、第2巻、第2号、85-90、2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、天然の有効成分を含有する、高尿酸血症、又は痛風の予防、改善、又は治療剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ね、大豆由来のレシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を、高尿酸血症の人が摂取することにより、血中尿酸濃度が低下することを見出した。また、このグリセロリン脂質混合物には主要成分として、ホスファチジルセリン(以下、「PS」と略称することもある。)及びホスファチジルイノシトール(以下、「PI」と略称することもある。)が含まれることも見出した。
【0008】
本発明は、これらの知見に基づき完成されたものであり、以下の、高尿酸血症、又は痛風の予防、改善、又は治療剤を提供する。
項1. ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤。
項2. グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである項1に記載の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤。
項3. ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である項2に記載の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤。
項4. 植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を含む高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤。
項5. ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む痛風の予防、改善、又は治療剤。
項6. グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである項5に記載の痛風の予防、改善、又は治療剤。
項7. ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である項6に記載の痛風の予防、改善、又は治療剤。
項8. 植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を含む痛風の予防、改善、又は治療剤。
項9. ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を、組成物全体に対して、乾燥重量に換算して、0.01〜40重量%含む食品組成物。
【発明の効果】
【0009】
PS、及びPIからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むグリセロリン脂質混合物は、食品組成物の有効成分として使用して摂取されること、又は経口剤、注射剤、座剤などの医薬組成物の有効成分として使用して投与されることによって、血中の尿酸濃度を低下させる。それにより、高尿酸血症、並びに血中高濃度尿酸に起因する痛風関節炎、腎障害、尿路結石、心血管障害、脳血管障害、及び動脈硬化症などを予防、改善又は治療することができる。
また、このグリセロリン脂質は、大豆などの天然物由来の成分であるため安全であり、また自然に優しい方法で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。
(I)高尿酸血症の予防、改善又は治療剤
本発明の第1の高尿酸血症の予防、改善又は治療剤は、PS、及びPIからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を有効成分として含む。また、本発明の第2の高尿酸血症の予防、改善又は治療剤は、植物由来のレシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を有効成分として含む。本発明において、「PS、及びPIからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質」及び/又は「植物由来のレシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物」を「本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物」と略称することがある。また、「植物由来のレシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物」を「グリセロリン脂質混合物」と略称することがある。
【0011】
(1)グリセロリン脂質
本発明の第1の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤において、グリセロリン脂質がPSとPIとの混合物である場合の、PSとPIとの重量比率については、乾燥重量に換算して、PS:PIが約0.5〜20:1であることが好ましく、約1〜10:1であることがより好ましく、約1〜4:1であることがさらにより好ましい。
PSは、SIGMA社、BIOMOL社、日油株式会社などから市販されている。PIは、BIOMOL社などから市販されている。PSとPIとの混合物は、これら市販品を混合することにより調製できる。
また、PIは、大豆、菜種、ひまわり、パームなどの植物由来のレシチンから単離することができる。PIは、また、SLP-WHITE(ホスファチジルコリン(以下、「PC」と略称することもある。)25.6重量%、ホスファチジルエタノールアミン(以下、「PE」と略称することもある。)24.1重量%、ホスファチジン酸(以下、「PA」と略称することもある。)8重量%、PI重量12%、その他約30重量%)、SLP-PIパウダー(PC18重量%、PE22重量%、PA8重量%、PI重量17%、その他約35重量%)(いずれも辻製油製)などの市販レシチンから単離することもできる。PIの単離は、各種のクロマトグラフィーで行うことができる。
【0012】
また、上記原料レシチン(植物由来レシチン及び上記市販レシチン)はPC及びPEを含むため、これらのレシチンにセリン及びホスホリパーゼD(以下、PLDと略称することもある。)を作用させ塩基交換をさせることにより、PSを含むグリセロリン脂質混合物を得ることができる。また、原料レシチンがさらにPIを含む場合、PS及びPIを含むグリセロリン脂質混合物を得ることができる。PSを含むグリセロリン脂質混合物は、本発明の第1の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤の有効成分として利用でき、PS及びPIを含むグリセロリン脂質混合物は、本発明の第1及び第2の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤として利用できる。なお、PI及びPSは、それぞれ、その他のグリセロリン脂質などの夾雑物質が含まれた状態で製剤化することもできる。また、これらのグリセロリン脂質混合物からPS又はPIを単離することもできる。
【0013】
PSとPIとの重量比率(乾燥重量換算)がPS:PI=約0.5〜20:1であるグリセロリン脂質混合物は、出発原料となるレシチンとして、PCとPEとの合計重量に対するPI重量の比率(PI /(PC+PE))が、乾燥重量に換算して、約20〜45重量%、好ましくは約25〜40重量%であるものを用いて、上記塩基交換反応を行うことにより得ることができる。上記植物由来レシチン及び上記市販レシチンは、通常この範囲でPC、PE、及びPIを含むが、PC及びPEの含有量が少ない場合は、例えばSLPC55(辻製油製)のような高純度リン脂質を添加することにより、レシチン中のPCとPEとの合計重量に対するPI重量の比率(PI /(PC+PE))(乾燥重量換算)を上記範囲内に調整すればよい。
【0014】
レシチンの塩基交換反応は、例えば、特開2007-014270号公報に記載の方法で行うことができる。
即ち、塩基交換反応を行う前に、レシチンを有機溶媒相と水相からなる二相系中で攪拌すればよい。有機溶媒は特に限定されないが、脂肪族炭化水素、環状脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル類、エーテル類、ケトン類等の公知のものを使用すればよい。水相としては緩衝液が好ましい。緩衝液の酸、塩基及び塩の合計濃度は約0.1〜2Mが好ましい。上記二相系において、水は有機溶媒に対して20重量%以下であることが好ましい。二層系中での攪拌は約10〜40℃の温度で、約30分〜2時間行えばよい。これにより、通常、グリセロリン脂質と有機溶媒と水とのエマルジョンが形成される。
次いで、この混合物にセリン及びPLDを添加するが、塩基交換反応系中のグリセロリン脂質の濃度は約5〜40重量%であることが好ましい。また、本反応系中のセリンの濃度は約20〜40重量%が好ましい。
【0015】
ホスホリパーゼDは、特に限定されず、ナガセケムテックス社製のホスフォリパーゼD、Sigma社製のStreptomyces chromofuscus由来のホスフォリパーゼD、Streptomyces sp.由来のホスフォリパーゼDなどを利用できる。本反応系中におけるホスホリパーゼDの濃度は、グリセロリン脂質1gに対して約5〜200Uとすればよい。なお、1Uは、95%大豆ホスファチジルコリンを基質とし、基質濃度0.16%の0.2M酢酸緩衝液(pH4.0、10mMのCaCl2、1.3%のTriton X-100を含む)を37℃にて反応させた時、1分間に1μmolのコリンを遊離する酵素量である。
塩基交換反応は、約3.5〜10のpH条件で、約10〜40℃の温度で、約1〜72時間行えばよい。
【0016】
上記塩基交換反応により、グリセロリン脂質中のPC、PE等とセリンとが反応してPSが生成する。PIは、上記塩基交換反応においてヒドロキシル基含有化合物と反応し難いので、原料のグリセロリン脂質に含まれるPIはほぼそのまま塩基交換反応後のリン脂質混合物中に含まれる。
塩基交換反応は、PLDを加熱失活させることにより、終了させればよい。さらに、遠心分離法等により有機溶媒相を得たあと、有機溶媒を減圧除去することによって反応混合物を濃縮すればよい。
次いで、アセトン又はエタノールで晶析を行い、固液分離によって固形物を得、乾燥することにより、PS及びPIを含むグリセロリン脂質混合物を単離することができる。
【0017】
(2)製剤
本発明の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤には、医薬組成物、医薬部外品組成物、食品組成物などが含まれる。
経口投与剤
本発明の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤が医薬組成物である場合の剤型としては、代表的には、経口投与製剤が挙げられる。経口投与用の固形製剤としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、タブレット剤、丸剤、カプセル剤、チュアブル剤などが挙げられ、液体製剤としては、乳剤、液剤、シロップ剤などが挙げられる。中でも、服用し易く味がよい点で、顆粒剤、錠剤、タブレット剤、カプセル剤が好ましく、顆粒剤がより好ましい。
固形製剤は、有効成分である本発明のグリセロリン脂質又はその混合物に、薬学的に許容される担体や添加剤を配合して調製される。例えば、白糖、乳糖、ブドウ糖、でんぷん、マンニットのような賦形剤;アラビアゴム、ゼラチン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースのような結合剤;カルメロース、デンプンのような崩壊剤;無水クエン酸、ラウリン酸ナトリウム、グリセロールのような安定剤などが配合される。さらに、ゼラチン、白糖、アラビアゴム、カルナバロウなどでコーティングしたり、カプセル化したりしてもよい。また、液体製剤は、例えば、上記の有効成分を、水、エタノール、グリセリン、単シロップ、又はこれらの混液などに、溶解又は分散させることにより調製される。これらの製剤には、甘味料、防腐剤、粘滑剤、希釈剤、緩衝剤、着香剤、着色剤のような添加剤が添加されていてもよい。
【0018】
経口投与剤中の本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物の含有量は、以下の通りである。
即ち、本発明の第1の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、有効成分がPS又はPIである場合は、PS又はPIの含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.005〜20重量%であることが好ましく、約0.01〜15重量%であることがより好ましく、約0.01〜10重量%であることがさらにより好ましい。また、有効成分がPS及びPIである場合は、PS及びPIの合計含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.001〜20重量%であることが好ましく、約0.005〜15重量%であることがより好ましく、約0.01〜10重量%であることがさらにより好ましい。
また、本発明の第2の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、植物由来のレシチンとセリンとホスホリパーゼDとの反応により得られるグリセロリン脂質混合物に含まれるPS及びPIの合計含有量が、製剤全体に対して、乾燥重量に換算して、約0.001〜20重量%であることが好ましく、約0.005〜15重量%であることがより好ましく、約0.01〜10重量%であることがさらにより好ましい。
上記範囲であれば、適量の投与によって十分な血中尿酸濃度低下作用が得られる。
【0019】
その他の剤型
また、本発明の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤が医薬組成物である場合、注射剤や座剤などの剤型にすることもできる。
注射剤は、本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物を、注射用蒸留水または生理用食塩水などに溶解又は分散させることにより得ることができる。また、pH調整剤等として水溶性無機酸又はその塩、水溶性有機酸又はその塩、中性アミノ酸、酸性アミノ酸又はその塩、塩基性アミノ酸の塩などが含まれていてもよい。また、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤などが含まれていてもよい。
注射剤中のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物の含有量は、以下の通りである。即ち、本発明の第1の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、有効成分がPS又はPIである場合は、PS又はPIの含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.005〜2.5重量%であることが好ましく、約0.05〜1重量%であることがより好ましく、約0.1〜0.5重量%であることがさらにより好ましい。また、有効成分がPS及びPIである場合は、PS及びPIの合計含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.002〜2.5重量%であることが好ましく、約0.02〜1重量%であることがより好ましく、約0.08〜0.5重量%であることがさらにより好ましい。
また、本発明の第2の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、植物由来のレシチンとセリンとホスホリパーゼDとの反応により得られるグリセロリン脂質混合物に含まれるPS及びPIの合計含有量が、製剤全体に対して、乾燥重量に換算して、約0.002〜2.5重量%であることが好ましく、約0.02〜1重量%であることがより好ましく、約0.08〜0.5重量%であることがさらにより好ましい。
上記範囲であれば、適量の使用によって十分な血中尿酸濃度低下作用が得られる。
【0020】
座剤は、本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物を、カルボポール及びポリカルボフィルのようなアクリル性高分子;ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなセルロース性高分子;アルギン酸ナトリウム及びキトサンのような天然高分子;脂肪酸ワックスなどの基剤に配合することにより調製できる。また、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラベンのような防腐剤;塩酸、クエン酸、水酸化ナトリウムのようなpH調節剤;メチオニンのような安定化剤を配合してもよい。
座剤中の本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物の含有量は、以下の通りである。即ち、本発明の第1の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、有効成分がPS又はPIである場合は、PS又はPIの含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.1〜5重量%であることが好ましく、約0.2〜3重量%であることがより好ましく、約0.8〜2重量%であることがさらにより好ましい。また、有効成分がPS及びPIである場合は、PS及びPIの合計含有量が、乾燥重量に換算して、製剤全体に対して、約0.05〜5重量%であることが好ましく、約0.1〜3重量%であることがより好ましく、約0.5〜2重量%であることがさらにより好ましい。
また、本発明の第2の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、植物由来のレシチンとセリンとホスホリパーゼDとの反応により得られるグリセロリン脂質混合物に含まれるPS及びPIの合計含有量が、製剤全体に対して、乾燥重量に換算して、約0.05〜5重量%であることが好ましく、約0.1〜3重量%であることがより好ましく、約0.5〜2重量%であることがさらにより好ましい。
上記範囲であれば、適量の使用によって十分な血中尿酸濃度低下作用が得られる。
【0021】
食品組成物
本発明の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤が食品組成物である場合、この食品組成物は、栄養補助食品(サプリメント)として用いるのに適している。また、保健機能食品(特定保健用食品(条件付特定保健用食品を含む)、栄養機能食品)に好適である。この場合、保健効果や成分の機能などに関する記載として、高尿酸血症の予防又は改善、痛風の予防又は改善、尿酸値が気になる方へなどの表示を、包装容器に付することができる。
本発明の食品組成物は、食品に通常用いられる賦形剤または添加剤を配合して、錠剤、タブレット剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤、水和剤、乳剤、液剤、エキス剤、またはエリキシル剤等の剤型に調製することができる。中でも、服用しやすく味が良い点で、錠剤、タブレット剤、顆粒剤が好ましく、顆粒剤がより好ましい。
食品に通常用いられる賦形剤としては、シロップ、アラビアゴム、ショ糖、乳糖、粉末還元麦芽糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドンのような結合剤;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリエチレングリコールのような潤沢剤;ジャガイモ澱粉のような崩壊剤;ラウリル硫酸ナトリウムのような湿潤剤等が挙げられる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0022】
また、本発明の食品組成物は、飲料(スポーツ飲料、ドリンク剤、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁飲料、炭酸飲料、野菜飲料、茶飲料等)、菓子類(クッキー等の焼き菓子、ゼリー、ガム、グミ、飴等)を含むものであってもよい。中でも、製剤化の点で、リン脂質との相性がよく、処方の調製が容易である点で、乳飲料が好ましい。
高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤が食品組成物である場合の組成物中の本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物の含有量は、約0.01〜40重量%が好ましく、約0.02〜30重量%がより好ましく、約0.05〜20重量%がさらにより好ましい。上記範囲であれば、無理なく摂取できる食品量中に、十分に高尿酸血症を改善できるだけの有効成分が含まれることになる。
【0023】
(3)使用方法
本発明の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤の使用量は、対象の健康状態や年齢などにより異なるが、概ね以下の通りである。即ち、医薬組成物の経口投与剤である場合は、本発明の第1の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、PS又はPIの投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.02〜0.5gであることが好ましい。経口投与剤がPSとPIとを含む場合は、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜0.5gであることが好ましい。本発明の第2の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜0.5gとなる量のグリセロリン脂質混合物を投与することが好ましい。
また、医薬組成物の注射剤である場合は、本発明の第1の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、PS又はPIの投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜100mgであることが好ましい。注射剤がPSとPIとを含む場合は、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.005〜100mgであることが好ましい。本発明の第2の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.005〜100mgとなる量のグリセロリン脂質混合物を投与することが好ましい。
【0024】
また、医薬組成物の座剤である場合は、本発明の第1の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、PS又はPIの投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜100mgであることが好ましい。座剤がPSとPIとを含む場合は、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.005〜100mgであることが好ましい。本発明の第2の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.005〜100mgとなる量のグリセロリン脂質混合物を投与することが好ましい。
本発明の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤が食品組成物である場合の摂取量は、摂取者の体重や、肌の状態などによって異なるが、本発明の第1の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤では、PS又はPIの1日摂取量が、乾燥重量に換算して、約0.02〜1.5gとなる量とするのが好ましい。食品組成物がPSとPIとを含む場合は、PS及びPIの合計摂取量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜1.5gであることが好ましい。本発明の第2の高尿酸血症の予防、改善又は治療剤では、PS及びPIの合計投与量が、乾燥重量に換算して、1日当たり、約0.01〜1.5gとなる量のグリセロリン脂質混合物を投与することが好ましい。
【0025】
使用対象は特に限定されないが、高尿酸血症の人や、高尿酸血症に起因する痛風関節炎、腎障害、尿路結石、心血管障害、脳血管障害、動脈硬化症などの人が好適な対象となる。また、食生活の乱れにより肥満(特に内臓肥満)やメタボリックシンドロームになっている人も好適な対象となる。
本発明には、本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物を哺乳動物、特に人に投与する、血中尿酸濃度低下方法、又は高尿酸血症の予防、改善、又は治療方法も包含される。
【0026】
(II)痛風の予防、改善、又は治療剤
本発明の痛風の予防、改善、又は治療剤は、本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物を有効成分として含む。痛風の予防、改善、又は治療剤には、医薬品組成物、医薬部外品組成物、食品組成物などが含まれる。その他の構成は、高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤について説明した通りである。
また、本発明には、本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物を哺乳動物、特に人に投与する、痛風の予防、改善、又は治療方法や、高尿酸血症に起因する腎障害、尿路結石、心血管障害、脳血管障害、又は動脈硬化症の予防、改善、又は治療方法も包含される。
【0027】
(III)食品組成物
本発明には、本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物を約0.01〜40重量%含む食品組成物も包含される。この食品組成物中の本発明のグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物の含有量は、約0.02〜30重量%であることが好ましく、約0.05〜20重量%であることがより好ましい。上記範囲であれば、無理なく摂取できる食品量中に、十分に高尿酸血症や痛風を予防又は改善できるだけのグリセロリン脂質又はグリセロリン脂質混合物が含まれることになる。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
製造例1(PI・PS含有リン脂質混合物の製造)
大豆レシチン(UltralecP(ADM社);PC=24重量%、PE=17重量%、PI=14重量%含有)7gをヘプタン・アセトン混合液(ヘプタン:アセトン=4:1)70mLと混合し、溶解させ、レシチン溶液を得た。これとは別に、セリン20g及びPLD(ナガセケムテックス社製)500Uを1M酢酸緩衝液(pH4.5)67mL中に含む酵素含有セリン溶液を調製した。
上記レシチン溶液に酵素含有セリン溶液を加え、30℃にて5時間攪拌した。次いで、この混合液に、上記ヘプタン・アセトン混合液75mL及び塩化ナトリウム20gを加え、1時間攪拌し、これを静置して、水相と有機溶媒相とを分離した後、有機相を回収し、PI及びPS含有有機溶媒溶液を得た。この有機溶媒溶液は固形分8gを含有していた。
その固形分の組成を下記条件のHPLCで調べたところ、次の通りであった。PS 32重量%、PI 21重量%、PC 2重量%、PE 9重量%、PA 13重量%。
<HPLC条件>
使用カラム:ジーエルサイエンス社製 Unisil Q NH2(4.6mm I.D.×250mm)
移動相:アセトニトリル/メタノール/50mMリン酸二水素アンモニウム=1856/874/270
流速:1.3mL/分
検出:UV 205nm
【0029】
高尿酸血症改善効果の評価
健康な日常生活を営むが、高尿酸血症(血中尿酸濃度:7.5〜8.5mg/dL)と分類される成人男性4名を被験者とし、製造例1で製造したPI・PS含有リン脂質混合物400mgを含有する顆粒製剤を毎朝、8週間にわたり経口摂取させ、摂取前と摂取8週間後の血清尿酸値を酵素法(ウリカーゼ・F-DAOS法)により測定した。
4名全員がグリセロリン脂質混合物の摂取により血清尿酸値を低下させ、血清尿酸値の平均値は、摂取前は7.8 mg/dL、摂取8週間後は7.1 mg/dLであった。
【0030】
処方例
【表1】

牛乳に製造例1と同様にして得られたPI・PS含有リン脂質混合物を混合し、室温で2分間、5000rpmでTKホモミクサーで攪拌した。乳化後、100℃、10分加熱処理した。
【0031】
【表2】

豆乳に上記組成を混合し、室温で2分間、5000rpmでTKホモミキサーで攪拌した。乳化後、100℃、10分加熱処理した。PI・PS含有リン脂質混合物は、製造例1と同様にして調製したものである。
【0032】
【表3】

上記の全ての成分を室温にて混合および撹拌して均一な溶液として、飲料を作製する。PI・PS含有リン脂質混合物は、製造例1と同様にして調製したものである。
【0033】
【表4】

PI・PS含有リン脂質混合物、乳糖、ジャガイモデンプンを均一に混合する。混合物にポリビニルアルコールの水溶液を加え、湿式顆粒造粒法により顆粒を調製する。顆粒を乾燥し、ステアリン酸マグネシウムを混合し、圧縮打錠して重量300mgの錠剤を作製する。PI・PS含有リン脂質混合物は、製造例1と同様にして調製したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤。
【請求項2】
グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである請求項1に記載の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤。
【請求項3】
ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である請求項2に記載の高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤。
【請求項4】
植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を含む高尿酸血症の予防、改善、又は治療剤。
【請求項5】
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を含む痛風の予防、改善、又は治療剤。
【請求項6】
グリセロリン脂質がホスファチジルセリン及びホスファチジルイノシトールである請求項5に記載の痛風の予防、改善、又は治療剤。
【請求項7】
ホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの重量比率が、乾燥重量に換算して、ホスファチジルセリン:ホスファチジルイノシトール=0.5〜20:1である請求項6に記載の痛風の予防、改善、又は治療剤。
【請求項8】
植物由来レシチンとセリンとをホスホリパーゼDの存在下で反応させることにより得られるグリセロリン脂質混合物を含む痛風の予防、改善、又は治療剤。
【請求項9】
ホスファチジルセリン、及びホスファチジルイノシトールからなる群より選ばれる少なくとも1種のグリセロリン脂質を、組成物全体に対して、乾燥重量に換算して、0.01〜40重量%含む食品組成物。

【公開番号】特開2009−256331(P2009−256331A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64800(P2009−64800)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】