説明

高度にフッ素化されたフェノール誘導体およびその中間体

【課題】フルオラス合成で有用な高度にフッ素化されたパラアルコキシフェニル型保護基の導入試剤の提供。
【解決手段】式[I]


(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化された基を、Xは水素、アルキル基、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを、nは0〜16の整数を表し、Xはその表示各位において同一である必要はない。)で表されることを特徴とする高度にフッ素化されたフェノール誘導体。硝酸第二セリウムアンモニウム存在下で選択的に脱保護され、さらに、従来の高度にフッ素化された保護基が除去されてしまうような酸性や塩基性条件下、酸化や還元反応にも安定。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高度にフッ素化されたフェノール誘導体に関する。さらに詳しくはフルオラス合成に使用する高度にフッ素化された基の導入試剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高度にフッ素化された化合物は、表面が高度にフッ素化されたシリカゲルや樹脂など、高度にフッ素化された固体に吸着されやすい。一方、高度にフッ素化されていない有機化合物はこのような高度にフッ素化された固体担体には吸着されにくい。このような性質を利用し、高度にフッ素化された有機化合物と高度にフッ素化さていない有機化合物との分離方法としてフルオラス固相抽出(F-SPE)法が開発された(非特許文献1)。現在F−SPE法に用いる抽出担体として高度にフッ素化されたシリカゲル(フルオラスシリカゲル)が市販されている。更に、F−SPE法に用いる高度にフッ素化された第3ブトキシカルボニル(F-Boc)基や高度にフッ素化されたベンジルオキシカルボニル(F-Cbz)基、高度にフッ素化された4-メトキシベンジル(F-PMB)基などの、高度にフッ素化された基の導入試剤が開発され、これらも現在市販され、保護基として使用されている。保護基とは有機化学反応でよく利用される、その単位プロセスで反応に係わらない官能基を保護するものである。
【0003】
これまでに報告されている、高度にフッ素化された保護基の除去は、例えばF-Boc基やF-PMB基は、その原型である第3ブトキシカルボニル基、4-メトキシベンジル基と同様トリフルオロ酢酸(TFA)やトリフルオロメタンスルホン酸(Tf−OH)のような酸性条件下で行われる。また、高度にフッ素化されたメチルスルホニルエトキシカルボニル(F-Msc)基はピペリジンのような塩基性試薬により容易に除去され、F-Cbz基も原型であるベンジルオキシカルボニル基の場合同様、接触還元により容易に除去される。
【0004】
ところで、有機合成においては、その合成計画上、酸や塩基、酸化や還元条件下で安定であり、ある特定の条件下でのみ選択的に脱保護される保護基が必要となる場合がある。そのような保護基として4−メトキシフェニル基が挙げられる。水酸基の保護基である4−メトキシフェニル基は3M 塩酸水溶液100℃のような強酸性条件、及び3M 水酸化ナトリウム水溶液100℃のような強塩基性条件下で安定であり、さらに接触還元、水素化アルミニウムリチウムのような還元反応やオゾンやジョーンズ試薬、クロロクロム酸ピリジニウムのような酸化反応にも安定であるが、アセトニトリルと水との混合溶媒中、硝酸第二セリウムアンモニウム存在下で容易に除去できる(非特許文献1)。このように4−メトキシフェニル基はアシル型やベンジル型、シリル型など現在既知である大部分の保護基が分子内に存在していても選択的に脱保護できることから、有機合成においては非常に有用な保護基として用いられている(例えば、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。
しかし、4−メトキシフェニル基を型とした高度にフッ素化された保護基はいまだ開発されていない。4−メトキシフェニル基を型とした高度にフッ素化された保護基が開発されれば、フルオラス合成を行うに際し、使用できる保護基の選択肢が増え、より合成計画を立てやすくなることが期待される。
【0005】
【非特許文献1】Wei Zhang、Zhiyong Luo、Christine Hiu-Yung Chen、Dennis P. Curran著、「Solution-Phase preparation of a 560-Compound Library of Individual Pure Mappicine Analogues by Fluorous Mixture Synthesis」Journal of American Chemical Society誌、2002年, 第124巻、p.10443-10450
【非特許文献2】Toru Fukuyama, Alison. A. Laud and Lia. M. Hotchkiss著,「p-ANISYL GROUP: A VERSATILE PROTECTING GROUP FOR PRIMARY ALCOHOLS」, Tetrahedron Letters誌, 1985年, 第26巻, p.6291−6292.
【非特許文献3】M. Petitou, P. Duchaussoy and J. Choay著,「p-ANISYL ETHERS IN CARBOHYDRATE CHEMISTRY: SELECTIVE PROTECTION OF THE PRIMARY ALCOHOL FUNCTION」, Tetrahedron Letters誌, 1988年, 第29巻, p.1389-1390.
【非特許文献4】Yuji Matsuzaki, Yukishige Ito, Yoshiaki Nakahara, and Tomoya Ogawa著,「SYNTHESIS OF BRANCHED POLY-N-ACETYL-LACTOSAMINE TYPE PENTAANTENNARY PENTACOSASACCHARIDE: GLYCAN PART OF A GLYCOSYL CERAMIDE FROM RABBIT ERYTHROCYTE MEMBRANE」, Tetrahedron Letters誌, 1993年, 第34巻, p.1061-1064.
【非特許文献5】Yukio Masaki, Kazuhiro Yoshizawa, and Akichika Itoh著,「Total Synthesis of Thromboxane B2 Starting from (R,R)-Tartaric Acid as a Chiral Pool」, Tetrahedron Letters誌, 1996年, 第37巻, p.9321-9324.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高度にフッ素化されたパラアルコキシフェニル型保護基の導入試剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明化合物を創出した。
すなわち、本発明は、式[I]
【化4】

(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化された基を、Xは水素、アルキル基、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを、nは0〜16の整数を表し、Xはその表示各位において同一である必要はない。)で表されることを特徴とする高度にフッ素化されたフェノール誘導体、および式[I I]
【化5】

(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化された基を、Rはアルキル基、アラルキル基、アリル基のいずれかを、Xは水素、アルキル基、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを、nは0〜16の整数を表し、Xはその表示各位において同一である必要はない。)で表されることを特徴とする、高度にフッ素化されたフェノール誘導体を製造する際の中間体である。
【0008】
また、複数のパーフルオロアルキル基を所有するものとして、例えば、式[III]
【化6】

(式中、Rzは、パーフルオロアルキル基を、Xは水素、アルキル基、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rz、m 、p、q、Xはその表示各位において同一である必要はない。)のようなものが挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明化合物を用いて導入される高度にフッ素化されたパラアルコキシフェニル型保護基は、硝酸第二セリウムアンモニウム存在下で選択的に脱保護され、さらに、従来の高度にフッ素化された保護基が除去されてしまうような酸性や塩基性条件下、酸化や還元反応にも安定な、これまでにない性質の高度にフッ素化された保護基である。従って、これまでは使用できなかった反応条件下でもフルオラス合成法を展開することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
式[I]において、Rfはパーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化された基であるが、パーフルオロアルキル基としては、炭素数1から16のパーフルオロアルキル基であり、炭素数4から10のパーフルオロアルキル基が好ましい。またパーフルオロアルキル基を複数箇所有するRfとしては、例えば式[IV]、式[V]、式[VI]などが挙げられる。Xは塩素、臭素、ヨウ素など周知のハロゲンや水素、アルキル基で、特に水素やメチル基、エチル基が好ましい。nは0から16であるが、好ましくは1から6の範囲である。
【化7】

【化8】

【化9】

【0011】
式[II]において、Xは塩素、臭素、ヨウ素など周知のハロゲンや水素、アルキル基で、特に水素やメチル基、エチル基が好ましい。Rは、例えば炭素数1〜16のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、アリル基、ベンジル基、フェネチル基、トリフェニルメチル(Trt)基などで、特にRは第3ブチル基、もしくはTrt基が好ましい。
【0012】
式[II]を製造するには有機溶媒中、塩基存在下、フェノール誘導体と高度にフッ素化された誘導体とを反応させる。
原料となるフェノール誘導体は式[VII]
【化10】

(式中、Rはアルキル基、アラルキル基、アリール基のいずれかを、Xは水素、アルキル基、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを、Xはその表示各位において同一である必要はない。)で示されるフェノール誘導体を用いる。Xは塩素、臭素、ヨウ素など周知のハロゲンや水素、アルキル基で、特に水素やメチル基、エチル基が好ましい。Rは、例えば炭素数1〜16のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、アリル基、ベンジル基、フェネチル基、トリフェニルメチル基などで、特にRは第3ブチル基、もしくはトリフェニルメチル基が好ましい。
【0013】
もうひとつの原料である高度にフッ素化された誘導体は式[VIII]
【化11】

(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化された基を、nは0〜16の整数を、Zはアルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、またはフッ素を除くハロゲンのいずれかを表す。)で示されるパーフルオロアルキル誘導体を使用できる。パーフルオロアルキル基としては周知のパーフルオロアルキル基を用いることができる。たとえば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロテトラデシル基などを挙げることができる。パーフルオロアルキル基を複数箇所有する高度にフッ素化された基としては、例えば式[IV]、式[V]、式[VI]記載のような高度にフッ素化された基を挙げることができる。さらに、分岐構造や立体異性体の有無などを問わないことは言うまでもない。
【0014】
アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基としては周知のスルホニルオキシ基を使用できる。たとえば、p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基などのスルホニルオキシ基を挙げることができる。また、フッ素を除くハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素など周知のハロゲンを挙げることができる。
【0015】
有機溶媒としては、周知の溶媒を使用できる。ジクロロメタン、クロロホルム、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、エーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、フルオロカーボン(たとえば、ノベックTMHFE7200)、パーフルオロヘキサン、パーフルオロカーボン(たとえば、フロリナートTMFC72)などを挙げることができる。また、これらの混合物や含水物、あるいは、不均一系での反応ができることは言うまでもない。
【0016】
塩基としては、何ら制限はない。たとえば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、DBUなどの有機塩基、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどの無機塩基あるいは、ブチルリチウム、フェニルリチウムなどの有機金属化合物を挙げることができる。
【0017】
用いる両原料、塩基の当量数にも何ら制限はない。いずれか1成分か2成分を過剰に用いることもできる。パーフルオロアルキル誘導体に1当量〜15当量の範囲の塩基と式[VII]で表されるフェノール誘導体を用いる。
【0018】
また、式[II]で表される中間体は、有機溶媒中、ホスフィンとジアゾカルボン酸誘導体を用いる光延反応により、式[VII]で表されるフェノール誘導体と式[IX]
【化12】

(式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化された基を、nは0〜16の整数を表す。)で示されるパーフルオロアルキル鎖を有するアルコールとを有機溶媒中で反応させて製造することも可能である。
【0019】
使用するホスフィンとしては、周知のホスフィンを使用できる。たとえば、トリフェニルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-n-オクチルホスフィン、トリ-n-ヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、(4-ジメチルアミノフェニル)ジフェニルホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィンなどを挙げることができる。また、これらのホスフィンを樹脂に固定化した試薬も使用できることは言うまでもない。
【0020】
使用するジアゾカルボン酸誘導体としては、周知のジアゾカルボン酸誘導体を使用できる。たとえば、ジベンジルアゾジカルボキシレート、ジエチルアゾジカルボキシレート、ジイソプロピルアゾジカルボキシレート、ジメチルアゾジカルボキシレート、1,1'-(ジアゾカルボニル)ジピペリジン、N,N,N',N'-テトラメチルアゾジカルボキシアミドなどを挙げることができる。また、これらのアゾジカルボン酸誘導体を樹脂に固定化した試薬も使用できることは言うまでもない。
【0021】
有機溶媒としては、周知の溶媒を使用できる。ジクロロメタン、クロロホルム、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、エーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、フルオロカーボン(たとえば、ノベックTMHFE7200)、パーフルオロヘキサン、パーフルオロカーボン(たとえば、フロリナートTMFC72)などを挙げることができる。また、これらの混合物や含水物、あるいは、不均一系での反応ができることは言うまでもない。
【0022】
用いる両原料、ホスフィンとジアゾカルボン酸誘導体の当量数にも何ら制限はない。いずれか1成分か2成分を過剰に用いることもできる。式[IX](式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化された基を、nは0〜16の整数を表す。)で示されるパーフルオロアルキル鎖を有するアルコールに、1当量〜15当量の範囲のホスフィンと1当量〜15当量の範囲のジアゾカルボン酸誘導体、または1当量〜15当量の範囲のホスホラン誘導体と、式[VII](式中、Rはアルキル基、アラルキル基、アリール基のいずれかを、Xは水素、アルキル基、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを、Xはその表示各位において同一である必要はない。)で表されるフェノール誘導体を用いる。
【0023】
反応時間、反応温度にも何ら制限はない。いずれも個々の誘導体によって異なり、またホスフィンとジアゾカルボン酸誘導体、ホスホラン誘導体や溶媒によっても異なるが、通常、室温から溶媒の沸点までの範囲で、1時間から7日間の範囲である。
【0024】
次に式[II]で示される中間体から本発明化合物である式[I]で示される高度にフッ素化されたフェノール誘導体の製造法について述べる。有機溶媒中、式[II](式中、Rfは、パーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化された基を、Rはアルキル基、アラルキル基、アリール基のいずれかを、Xは水素、アルキル基、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを、nは0〜16の整数を表し、Xはその表示各位において同一である必要はない。)を、式[II]中のRの除去試薬存在下で反応させる。
【0025】
Rの除去試薬としては、除去するRの種類に依存するが、水酸基の保護基としてのRを脱保護できる試薬であれば何ら制限はない。例えばRがトリフェニルメチル(Trt)基や第3ブチル基である場合は、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸、カンファースルホン酸などを挙げることができ、Rがベンジル基である場合はパラジウム系触媒存在下での接触還元、液体アンモニア―金属ナトリウム、四塩化スズ等を挙げることができる。
【0026】
有機溶媒としては、周知の溶媒を使用できる。ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルムベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、フルオロカーボン(たとえば、ノベックTMHFE7200)、パーフルオロカーボン(たとえば、フロリナートTMFC72)などを挙げることができる。また、これらの混合物や含水物、あるいは、不均一系での反応ができることは言うまでもない。
【0027】
反応時間、反応温度にも何ら制限はない。いずれも個々の誘導体によって異なり、また、酸化剤や溶媒によっても異なるが、通常、−100℃から溶媒の沸点までの範囲で、1時間から7日間の範囲である。
【0028】
本発明化合物であるフェノール誘導体はフルオラス合成に於ける目的化合物あるいは材料表面のカルボキシル基やアルコールなどの官能基に高度にフッ素化された保護基として導入できる。その導入は通常の4−アルコキシフェニル化の方法が適用できることは言うまでもない。本フェノール誘導体が導入された化合物はパーフルオロカーボン層へ抽出されやすくなり、精製操作が容易になる。しかも、脱保護された後に本発明化合物もしくはその誘導体はパーフルオロカーボン層へ容易に抽出されるため、回収、再利用ができ、環境に優しい製造システムを確立できる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、その要旨を超えない限り、何ら制限を受けるものではない。
【0030】
[実施例1]
4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-トリデカフルオロ-1-ヨードノナン(1; 2.00g, 4.10mmol)と4-tert-ブトキシフェノール(1.02g, 6.14mmol)をアセトニトリル20mLに溶解させ、炭酸カリウム(1.70g, 12.3mmol)を加え、加熱還流下で3時間攪拌した。冷後、反応液に酢酸エチルを加え、有機層を水と飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (hexane:AcOEt=20:1)にて精製し、式[II](但し、RfはC613を、Xは水素を、Rは第3ブチル基を、nは3を示す。)で表される高度にフッ素化されたフェノール中間体2を白色粉末で2.04g(95%)得た。
1H-NMR (CDCl3 ):δ=1.30 (s, 9H), 2.05-2.11 (m, 2H), 2.27-2.36 (m, 2H), 4.00 (t, J=6.2 Hz, 2H), 6.77-6.80 (m, 2H), 6.90-6.93 (m, 2H)
【化13】

【0031】
[実施例2]
4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11-ヘプタデカフルオロ-1-ウンデカノール(3; 507mg, 1.06mmol)と4-tert-ブトキシフェノール(1.02g, 6.14mmol)、トリフェニルホスフィン(419mg, 1.60mmol)をテトラヒドロフラン(5mL)に溶解させた後、室温でジイソプロピルアゾジカルボキシレート(0.84mL, 1.60mmol)を加え、80℃で1時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却後、酢酸エチルを加え、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (hexane:AcOEt=20:1)にて精製し式[II](但し、RfはC817を、Xは水素を、Rは第3ブチル基を、nは3を示す。)で表される高度にフッ素化されたフェノール中間体4を白色粉末で557mg(87%)得た。
【化14】

【0032】
[実施例3]
実施例2で得た高度にフッ素化されたフェノール中間体4(686mg, 1.01mmol)を95%トリフルオロ酢酸水溶液(10mL)に溶解させ、室温で2時間攪拌した。トリフルオロ酢酸を減圧留去し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (hexane:AcOEt=5:1)にて精製し、式[I](但し、RfはC817を、Xは水素を、nは3を示す。)で表される高度にフッ素化されたフェノール誘導体5を白色固体で595mg(95%)得た。
1H-NMR (CDCl3 ):δ=2.05-2.09 (m, 2H), 2.26-2.35 (m, 2H), 3.98 (dd, J=5.50 Hz, 6.2 Hz, 2H), 4.45 (br, s, 1H), 6.76-6.79 (m, 4H)
【化15】

【0033】
[実施例4]
化合物6(特願2005−347717号)(133mg, 67μmol)と4-tert-ブトキシフェノール(67mg, 400μmol)、トリフェニルホスフィン(88mg, 335μmol)をテトラヒドロフラン(2mL)とノベックTMHFE7200(0.5mL)に溶解させた後、室温で4%ジエチルアゾジカルボキシレート/トルエン溶液(152μL, 334μmol)を加え、80℃で1時間半攪拌した。反応溶液を室温まで冷却後、溶液を減圧濃縮し、得られた残渣をフロリナートTMFC72とメタノールで分配抽出し、FC-72層を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (hexane:AcOEt=3:1)にて精製し、化合物7をシロップ状で92mg(64%)得た。
MALDI-TOF MASS:Calcd for C59H44F68NaO6 (M+Na+):2162.99、Found:2162.65.
【化16】

【0034】
[実施例5]
実施例4で得た高度にフッ素化されたフェノール誘導体7(92mg, 43μmol)を95%トリフルオロ酢酸水溶液(5mL)に溶解させ、室温で2時間攪拌した。溶液を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (hexane:AcOEt=4:1)にて精製し、式[III](但し式中、RzはC817を、Xは水素を、kは1、mは3、nは1、pは1、qは0、tは3を示す。)で表される化合物8をシロップ状で83mg (92%)得た。
MALDI-TOF MASS:Calcd for C55H36F68NaO6 (M+Na+):2107.13、Found:2107.03.
【化17】

【0035】
[実施例6](使用例)
実施例3で得た高度にフッ素化されたフェノール誘導体5(161mg, 0.28mmol)とガラクトースのトリクロロアセトイミデート体9(290mg, 0.42mmol)をジクロロメタン(5mL)に溶解させ、モレキュラーシーブス4A(1g)加えて室温で1時間攪拌した。トリメチルシリルトリフレート(26μL, 0.28mmol)を加え、室温で一晩攪拌した後、N, N-ジイソプロピルエチルアミン(100μL)を加えて反応を停止させた。反応溶液をセライト上でろ過し、濾液に酢酸エチルを加えた。有機層を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、1M塩酸、水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。溶媒を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (hexane:AcOEt=2:1)にて精製し、ガラクトースの還元末端に高度にフッ素化されたフェノール誘導体を導入した化合物10を白色固体で214mg(84%)得た。
1H-NMR (CDCl3 ):δ=2.01 (s, 3H), 2.06 (s, 3H), 2.07-2.11 (m, 5H), 2.19 (s, 3H), 3.99-4.02 (m, 5H), 4.14-4.17 (m, 1H), 4.22-4.25 (m, 1H), 4.92 (d, J=7.56 Hz, 1H), 5.09 (dd, J=3.44 Hz, 10.31 Hz, 1H), 5.44-5.48 (m, 2H), 6.80-6.83 (m, 2H), 6.94-6.97 (m, 2H)
【化18】

【0036】
[実施例7] (使用例)
実施例6で得た化合物10(118mg, 0.13mmol)をアセトニトリル(10mL)と水(2.5mL)の混合溶液に溶解させ、硝酸第二セリウムアンモニウム(240mg, 0.44mmol)を加え室温で2時間半攪拌した。反応溶液に酢酸エチルを加え、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。溶媒を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (hexane:AcOEt=3:4)にて精製し、還元末端が遊離のガラクトース誘導体11を白色固体で36mg(78%)得た。
1H-NMR (CDCl3 ):δ=2.00-2.15 (m, 12H)
【化19】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明化合物は、硝酸第二セリウムアンモニウム存在下で選択的に脱保護され、さらに、従来の高度にフッ素化された保護基が除去されてしまうような反応条件下では安定である保護基であることから、従来は使用が制限されていた反応条件下でもフルオラス合成法を展開することが可能である。また、本発明化合物を用いるフルオラス合成が、医薬や食品添加物、化粧品、液晶、電子材料、高分子材料モノマー、機能性材料、医療材料などのファインケミカルズの製造、ペプチド、糖鎖、核酸などの複雑な天然物やそのアナローグの製造を容易にすることは確実であり、本発明化合物の工業的価値や波及効果は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[I]
【化1】

(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化された基を、Xは水素、アルキル基、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを、nは0〜16の整数を表し、Xはその表示各位において同一である必要はない。)で表されることを特徴とする高度にフッ素化されたフェノール誘導体。
【請求項2】
式[II]
【化2】

(式中、Rfはパーフルオロアルキル基を1つまたは複数箇所有する高度にフッ素化された基を、Rはアルキル基、アラルキル基、アリル基のいずれかを、Xは水素、アルキル基、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを、nは0〜16の整数を表し、Xはその表示各位において同一である必要はない。)で表されることを特徴とする、請求項1に記載される高度にフッ素化されたフェノール誘導体を製造する際の中間体。
【請求項3】
下記式[III]
【化3】

(式中、Rzは、パーフルオロアルキル基を、Xは水素、アルキル基、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかを、kは1〜8の整数を、nは0〜16の整数を、mは0〜8の整数を、pは1〜10の整数を、qは0〜8の整数を、tは1〜10の整数を表す。Rz、m 、p、q、Xはその表示各位において同一である必要はない。)で表されることを特徴とする高度にフッ素化されたフェノール誘導体。
【請求項4】
Rfが炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基、Xが水素であることを特徴とする請求項1記載の高度にフッ素化されたフェノール誘導体。
【請求項5】
Rzが炭素数4〜10のパーフルオロアルキル基、Xが水素、kが1、nが1〜8、mが1〜4、pが1、qが0、tが1〜8の整数であることを特徴とする請求項3記載の高度にフッ素化されたフェノール誘導体。