説明

高張力鋼板のスポット溶接方法と高張力鋼板の溶接継手

【課題】板厚が厚い高張力鋼板を、高加圧力ではなく、量産実用上可能な低加圧力でスポット溶接することで、ナゲット径を拡大させ、必要な継ぎ手強度や耐衝撃性を得ることができる高張力鋼板のスポット溶接方法と、高張力鋼板の溶接継手を提供することを課題とする。
【解決手段】板厚が1.8mm以上で、引張強度が580MPa以上の高張力鋼板をスポット溶接する高張力鋼板のスポット溶接方法であって、スポット溶接を行う際の加圧力、溶接電流値を以下の式を満足させる条件で行うと共に、そのスポット溶接はチリを発生させた状態で行う。
ここで、2000N<P<5000N、Imin<I<17.0kA
上式で、Imin=(1/500)P+4t−8

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚が1.8mm以上で、引張強度が580MPa以上の高張力鋼板のスポット溶接方法と、そのスポット溶接で溶接された高張力鋼板の溶接継手に関するものである。この溶接継手は主に自動車をはじめとする輸送機などの部材に適用される。
【背景技術】
【0002】
近年、北米や欧州を中心に自動車の側面衝突特性に関する規制強化が活発化してきており、最近は、これら諸外国の動きに対応して日本でも側面衝突特性に関する規制強化の動きがある。これらの新しい衝突安全性基準対応のために、580MPa以上の引張強度で、且つ板厚が厚いハイテンと呼ばれる高張力鋼板(高強度鋼板)の需要がある。この高張力鋼板を用いて、十分な側面衝突特性を確保するためには、板厚が厚い高張力鋼板に対してのスポット溶接性(継ぎ手強度、最適溶接電流の範囲)が重要な要因の一つとなっている。
【0003】
780MPaや980MPaといった580MPa以上の引張強度の高張力鋼板であっても、板厚が薄い場合は、一般に用いられている量産タイプのスポット溶接機でスポット溶接を行うにあたり、加圧力を高めて、チリの発生を抑え、最適溶接電流の範囲を広げることで、必要なナゲット径の確保と必要な継ぎ手強度の確保を行うことが可能である。
【0004】
一方、板厚が厚い場合には、高強度であることに加えて板厚が厚いことから、鋼板のうねりを抑えて接触面積を確保してスポット溶接を行うのは非常に困難である。一般に用いられている量産タイプのスポット溶接機の加圧力は5000N程度までが限界であり、それ以上に加圧力を高めて溶接することはできず、接触面積は小さくなり、必要なナゲット径のナゲットを形成することや、場合によればナゲットを形成すること自体が不可能となる。量産実用上、加圧力をできる限り抑えて、板厚が厚い高張力鋼板をスポット溶接する場合には、従来のスポット溶接とは異なる溶接方法を開発する必要があった。
【0005】
複雑な制御装置などの特別な装置を用いることなく、汎用のスポット溶接装置を用いるだけで、容易かつ良好に板厚の厚い溶接継手の接合強度を向上させることができるスポット溶接方法として、特許文献1に示される技術がある。このスポット溶接方法は、スポット溶接機の一方の電極で、被溶接体を押圧することにより、被溶接体を他方の電極側に突状となるように屈曲させた状態にて、溶接電流を流す第1の工程と、被溶接体を挟んだまま、他方の電極で被溶接体を一方の電極側に突状となるように屈曲させた状態にて、溶接電流を流す第2の工程を有する。このスポット溶接方法で、板厚の厚い高張力鋼板を屈曲させることは困難且つ手間であり、屈曲に際しての材料変形に伴う特性劣化も懸念される。また、第1の工程と第2の工程の二工程があるため、スポット溶接の作業自体が複雑となる。
【0006】
また、特許文献2や非特許文献1には、鋼板のチリ発生限界電流値とそれより3kA高い電流値との間でスポット溶接することにより、優れた疲労強度を有する溶接継手を得ることができる技術が開示されているが、これはチリによって発生するスパッタが接触するコロナボンド部にはみ出してコロナボンド部のノッチ形状を改善するものであり、スポット溶接において、従来、発生させてはならないとされていたチリに着目し、そのチリを積極的に発生させることで、溶接継手の疲労強度を改善したという技術である。
【0007】
しかしながら、特許文献2や非特許文献1に記載された技術は、チリを発生させた条件化でスポット溶接を行う技術ではあるが、板厚が1.8mm以上の高張力鋼板を量産実用上可能な低加圧力にて、ナゲット径を拡大させて継ぎ手強度(十字引張強度)や、それと相関のある耐衝撃性などを向上させようとした技術ではない。
【0008】
【特許文献1】特開2004−322182号公報
【特許文献2】特公昭60−11597号公報
【非特許文献1】鉄と鋼、社団法人日本鉄鋼協会、1982年、第68巻、第9号、p.1444
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の問題を解消せんとしてなされたもので、板厚が厚い高張力鋼板を、高加圧力ではなく、量産実用上可能な比較的低い加圧力にてスポット溶接することで、ナゲット径を拡大させて、必要な継ぎ手強度(十字引張強度)や、それに伴う耐衝撃性を得ることができる高張力鋼板のスポット溶接方法と、そのスポット溶接で溶接された高張力鋼板の溶接継手を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、板厚(t)が1.8mm以上で、引張強度(TS)が580MPa以上の高張力鋼板をスポット溶接する高張力鋼板のスポット溶接方法であって、スポット溶接を行う際の加圧力(P)、溶接電流値(I)を以下の式を満足させる条件で行うと共に、そのスポット溶接はチリを発生させた状態で行うことを特徴とする高張力鋼板のスポット溶接方法である。
ここで、2000N<P<5000N、Imin<I<17.0kA
上式で、Imin=(1/500)P+4t−8
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の高張力鋼板のスポット溶接方法によって溶接されていることを特徴とする高張力鋼板の溶接継手である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高張力鋼板のスポット溶接方法によると、板厚が1.8mm以上で、引張強度が580MPa以上の高張力鋼板を、高加圧力ではなく、量産実用上可能な比較的低い加圧力にてスポット溶接することで、ナゲット径を拡大させて、必要な継ぎ手強度(十字引張強度)や、それに伴う耐衝撃性を得ることができる。
【0013】
また、本発明の高張力鋼板の溶接継手によると、板厚が1.8mm以上で、引張強度が580MPa以上の高張力鋼板から成る必要な継ぎ手強度(十字引張強度)や、それに伴う耐衝撃性を備えた補強用部材や耐衝撃部材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づいて更に詳細に説明する。
【0015】
本発明の高張力鋼板のスポット溶接方法に用いられる高張力鋼板の板厚(t)は、1.8mm以上、且つ、5mm以下である。高張力鋼板の板厚(t)を1.8mm以上としたのは、板厚(t)が1.8mm未満であれば、スポット溶接を行うにあたり、量産実用上可能な比較的低い加圧力の範囲で加圧力を高めて、チリの発生を抑え、最適溶接電流の範囲を広げることで、必要なナゲット径の確保と必要な継ぎ手強度の確保を行うことが可能であるからであり、特に本発明の高張力鋼板のスポット溶接方法を採用しなくても、必要な継ぎ手強度(十字引張強度)や、それに伴う耐衝撃性を得ることができるからである。また、高張力鋼板の板厚(t)を5mm以下としたのは、板厚(t)を5mm超とすれば、板厚(t)が厚過ぎ、上下の電極に高張力鋼板を挟んで電気を通電した際の抵抗発熱を利用した一般のスポット溶接機を用いたスポット溶接では、対になった電極で、重ね合わせた高張力鋼板を挟めないことと、板厚(t)が厚過ぎることで、通電される電流では放熱が大きくなり、溶接が不可能であるためである。
【0016】
高張力鋼板のスポット溶接を行う際には、加圧力(P)を、2000N<P<5000Nの範囲としなければならない。加圧力(P)を2000N以下とした場合は、必要なナゲット径のナゲットを形成することや、場合によればナゲットを形成すること自体が不可能となる。一方、加圧力(P)を5000N以上とした場合には、電極で押圧されて形成された窪みが深くなり過ぎて、溶接される高張力鋼板同士の接触面積が小さくなり、必要な継ぎ手強度(十字引張強度)を得ることができなくなる。
【0017】
図3に、引張強度(TS)が980MPaの高張力鋼板をスポット溶接した場合の、加圧力(P)と十字引張強度(CTS)の関係を示す。データは後記する実施例から得たものであるが、板厚(t)が1.8mm以上の高張力鋼板をスポット溶接した場合(図中に板厚:1.8mm、板厚:2.4mmと記載)には、加圧力(P)が5000N未満で、十字引張強度(CTS)が10000N以上となっており、また、4000N未満で、略最大強度となりグラフが安定した状態となっている。
【0018】
また、高張力鋼板のスポット溶接を行う際には、溶接電流値(I)を、Imin<I<17.0kA(Imax)の範囲としなければならない。Iminは、Imin=(1/500)P+4t−8という式で表すことができる。溶接電流値(I)が、板厚(t)、加圧力(P)を加味した前記の(1/500)P+4t−8という式以下の値である場合は、スポット溶接を、チリを発生させた状態で行うことができない。一方、溶接電流値(I)がImaxの17.0kA以上である場合は、スポット溶接を行う際に電極が高張力鋼板に溶着してしまい、スポット溶接自体が不可能になる。尚、スポット溶接を、チリを発生させた状態で行うとしたのは、チリを発生させることで確実にナゲットを形成することができるからである。
【0019】
上記したImin=(1/500)P+4t−8という式の設定根拠は次に述べる理由による。ナゲット直径/√(t)が4のナゲットを形成すれば、必要最低限の十字引張強度を確保することができるが、加圧力(P)と板厚(t)の変化によって、チリ発生以後に形成されるナゲットの直径が、その4/√(t)となる溶接電流値を実験により求めた。その結果を表1に示す。この表1の数値をプロットし、グラフ化したのが図1と図2である。加圧力(P)と溶接電流値の関係を示す図1によるとグラフの勾配は1/500となる。また、溶接電流値の関係を示す板厚(t)と図2によるとグラフの勾配は2/0.5=4となる。以上、各因子の勾配から(1/500)P+4tという計算式を求めだし、最後に定数を実験値より−8kAと定めて数式化した。以上の実験結果から数式化したのが、(1/500)P+4t−8という式の右辺である。
【0020】
【表1】

【0021】
尚、高張力鋼板のスポット溶接を行う際には、上下に重ねた高張力鋼板同士の間に隙間を設けてスポット溶接を行うことが望ましい。高張力鋼板同士の間に隙間を設けた場合と、隙間を設けない場合を比較すると、同じ加圧力(P)で上下の高張力鋼板を抑えた場合、上下の高張力鋼板の接触面積は、適正な隙間を設けてスポット溶接を行った方が小さくて適正な大きさとなり、同じ溶接電流値(I)の電流を印加させた場合には、単位面積あたりの電流密度が高くなり、より狭い領域がより高い温度で加熱される。また、隙間が設けられるため、チリの発生も起こりやすい。よって、上下に重ねた高張力鋼板同士の間に隙間を設けてスポット溶接を行った方が、チリ発生を起こしやすく、また、チリ発生以後に形成されるナゲットも得やすい。尚、ここで述べた適正な隙間とは、1mm厚のスペーサーを10〜30mmの間隔を開けて2枚挟んでできる隙間を例示することができるが、高張力鋼板の板厚(t)等にもよるが0.2〜2mm程度の隙間であっても良い。
【0022】
実際に、上下に重ねた高張力鋼板同士の間に隙間を設けた場合と、設けない場合でスポット溶接を行った。スポット溶接は、板厚(t)が2.3mmで、引張強度(TS)が980MPaの高張力鋼板を重ねて行った。高張力鋼板同士の間に隙間を設ける場合は、上下に重ねた高張力鋼板の間に、1mm厚のスペーサーを20mmの間隔をあけて2枚挟んで隙間を形成し、その2枚のスペーサー間の中央部でスポット溶接を行った。尚、他の溶接条件等については、後記する実施例の記載と同一であるので、ここでは記載を省略する。
【0023】
ナゲット直径/√(t)が5のナゲットを形成すれば、十字引張強度を最大とすることができるが、上下に重ねた高張力鋼板同士の間に隙間を設けた場合の方が、同じ溶接電流値(I)の電流であれば、隙間を設けない場合と比較してより低い加圧力(P)で、ナゲット直径/√(t)が5のナゲットを形成することができる。また、同じ加圧力(P)であれば、隙間を設けた場合の方が、2〜3kA程度低い溶接電流値(I)の電流で、同一直径のナゲットを形成することができる。
【実施例】
【0024】
表2には、実施例の試験で用いた高張力鋼板の成分組成を、引張強度(TS)毎に夫々示す。単位は質量%であって、AlとはSol.Alのことを示す。
【0025】
【表2】

【0026】
実施例では、様々な条件で高張力鋼板同士のスポット溶接を行った。表3には、参考例として、板厚(t)が1.4mmの高張力鋼板を、加圧力(P)と溶接電流値(I)を変えて溶接した試験結果を示す。また、表4には、板厚(t)が2.4mmの高張力鋼板を、溶接電流値(I)を変えて溶接した試験結果を示し、表5には、板厚(t)が2.4mmで、夫々引張強度(TS)が異なる高張力鋼板を用いて溶接した試験結果を示す。更に、表6には、板厚(t)が1.8mm以上の高張力鋼板を、加圧力(P)を変えて溶接した試験結果を示す。表6の上段は板厚(t)が1.8mmの高張力鋼板を用いて溶接した試験結果を、中段は板厚(t)が2.1mmの高張力鋼板を用いて溶接した試験結果を、下段は板厚(t)が2.4mmの高張力鋼板を用いて溶接した試験結果を夫々示す。
【0027】
試験結果で、十字引張強度(CTS)が10000N以上であったものを、必要な継ぎ手強度(十字引張強度)や、それに伴う耐衝撃性を得ることができたものと判断し、合格判定基準を、十字引張強度(CTS)が10000N以上とした。また、ナゲット直径/√(t)が4〜5.5のナゲットが形成できれば、溶接される高張力鋼板同士の接触面積が適正であり、上記合格判定基準を達成できるので、副次的な合格判定基準とした。表3〜6には、形成されたナゲットのナゲット直径/√(t)が4〜5.5のものを、ナゲット径が○、それ以外のものをナゲット径が×として示す。
【0028】
試験での他の溶接条件は以下の通りである。スポット溶接機の電極は、上下ダブルR型(ドーム・ラジアス)、Cu−Cr、外径:19mm、先端径:8mmとして、冷却水冷:上下2リットル/分、溶接時間:20サイクルでスポット溶接を行った。
【0029】
十字引張強度(CTS)の測定は、JIS規格Z3317に準拠する方法で行った。即ち、50mm×150mmの板の両端から25mmの位置に、夫々φ20の穿孔(2箇所)を開けた2枚の試験板を準備し、その2枚の試験板を交差させ、その交差する中央部をスポット溶接してから、φ20の穿孔を利用してボルト締めを行って試験板を治具に固定し、その試験板を治具を介して上下に引っ張ることで、その破断強度を測定するという試験方法である。
【0030】
表3の参考例では、板厚(t)が1.4mmで、引張強度(TS)が980MPaの高張力鋼板を、加圧力(P)と溶接電流値(I)を変えてスポット溶接したが、チリを発生させなくとも、加圧力(P)と溶接電流値(I)を上げることで、十字引張強度(CTS)を10000N以上とすることができる。1.4mm程度の板厚(t)であれば、チリの発生を極力抑えるという従来から行われているスポット溶接方法で溶接を行えば、必要な十字引張強度(CTS)を得ることができる。
【0031】
【表3】

【0032】
表4では、板厚(t)が2.4mm、引張強度(TS)が980MPaの高張力鋼板を、加圧力(P)を3700Nとして、溶接電流値(I)を変えてスポット溶接を行った。この条件で、Imin=(1/500)P+4t−8という式から求められるIminは9.0kAであり、溶接電流値(I)を、9.0kA<I<17.0kA(Imax)の範囲内とした実験番号9〜11では、全てナゲット径は○であり、十字引張強度(CTS)は全て10000N以上であった。これに対し、実験番号8は、溶接電流値(I)が2.0kAであり、スポット溶接はチリを発生させた状態で行うことできなかったため、スポット溶接自体ができなかった。また、実験番号12は、溶接電流値(I)が18.0kAであり、チリは発生してナゲットは形成されるものの、スポット溶接を行う際に電極が高張力鋼板に溶着してしまい、以後のスポット溶接自体が不可能になった。
【0033】
表4の試験結果より、溶接電流値(I)を、Imin<I<17.0kAという式を満足する範囲内としなければ、適正なナゲットは形成できず、必要な十字引張強度を得ることができないことが確認できた。
【0034】
【表4】

【0035】
表5では、板厚(t)が2.4mmで、夫々引張強度(TS)が異なる高張力鋼板を用いてスポット溶接を行った。そのスポット溶接を行う際の加圧力(P)は全て3700N、溶接電流値(I)は全て12.0kAとした。引張強度(TS)が580MPa以上の高張力鋼板を用いてスポット溶接を行った実験番号14〜17では、ナゲット径は全て○で、十字引張強度(CTS)は全て10000N以上であった。これに対し、実験番号13では、引張強度(TS)が440MPaの高張力鋼板を用いてスポット溶接を行ったため、チリを発生させた状態でスポット溶接はできたものの、ナゲット径は×で、十字引張強度(CTS)は10000Nに達しなかった。
【0036】
表5の試験結果より、引張強度(TS)が580MPa以上の高張力鋼板を用いなければ、適正なナゲットは形成できず、必要な十字引張強度を得ることができないことが確認できた。
【0037】
【表5】

【0038】
表6では、板厚(t)が1.8mm、2.1mm、2.4mmの何れかで、引張強度(TS)が980MPaの高張力鋼板を、加圧力(P)と溶接電流値(I)を変えてスポット溶接した。実験番号18〜39の全てで、溶接電流値(I)は、Imin<I<17.0kAという式に収まる範囲内としたが、適正な加圧力(P)を確かめるため、加圧力(P)は、必ずしも、2000N<P<5000Nという式に収まる範囲内とはしていない。
【0039】
表6の上段は板厚(t)が1.8mmの高張力鋼板を用いてスポット溶接を行った試験結果である。加圧力(P)を、2000N<P<5000Nという式に収まる範囲内とした実験番号19〜23では、全てナゲット径は○であり、十字引張強度(CTS)は全て10000N以上であった。これに対し、実験番号18は、加圧力(P)が1500Nと小さく、チリを発生させた状態でスポット溶接を行うことはできたものの、ナゲット径は×で、十字引張強度(CTS)は10000Nに達しなかった。一方、実験番号24、25は、加圧力(P)が逆に5200Nまたは5500Nと大きく、チリを発生させた状態でスポット溶接を行うことはできたものの、ナゲット径は×で、また、電極で押圧されて形成されたた窪みが深くなり過ぎて、溶接される高張力鋼板同士の接触面積が小さくなり、十字引張強度(CTS)は10000Nに達しなかった。
【0040】
また、表6の中段は板厚(t)が2.1mmの高張力鋼板を用いて溶接した試験結果である。加圧力(P)を、2000N<P<5000Nという式に収まる範囲内とした実験番号27〜31では、全てナゲット径は○であり、十字引張強度(CTS)は全て10000N以上であった。これに対し、実験番号26は、加圧力(P)が1500Nと小さく、チリを発生させた状態でスポット溶接を行うことができなかった。一方、実験番号32は、加圧力(P)が逆に5500Nと大きく、チリを発生させた状態でスポット溶接を行うことはできたものの、ナゲット径は×であり、また、電極で押圧されて形成されたた窪みが深くなり過ぎて、溶接される高張力鋼板同士の接触面積が小さくなり、十字引張強度(CTS)は10000Nに達しなかった。
【0041】
また、表6の下段は板厚(t)が2.4mmの高張力鋼板を用いて溶接した試験結果である。加圧力(P)を、2000N<P<5000Nという式に収まる範囲内とした実験番号34〜38では、全てナゲット径は×であり、十字引張強度(CTS)は全て10000N以上であった。これに対し、実験番号33は、加圧力(P)が1500Nと小さく、チリを発生させた状態でスポット溶接を行うことができなかった。一方、実験番号39は、加圧力(P)が逆に5500Nと大きく、チリを発生させた状態でスポット溶接を行うことはできたものの、ナゲット径は×であり、また、電極で押圧されて形成されたた窪みが深くなり過ぎて、溶接される高張力鋼板同士の接触面積が小さくなり、十字引張強度(CTS)は10000Nに達しなかった。
【0042】
表6の試験結果より、加圧力(P)を、2000N<P<5000Nという式を満足する範囲内としなければ、適正なナゲットは形成できず、必要な十字引張強度を得ることができないことが確認できた。
【0043】
【表6】

【0044】
重ねて述べるが、図3に、表6の板厚(t)が1.8mmと、2.4mmの高張力鋼板と、表3の板厚(t)が1.4mmの高張力鋼をスポット溶接した場合の、加圧力(P)と十字引張強度(CTS)の関係を示す。図3は、試験で得られた各データをプロットして線で結んだグラフである。板厚(t)が1.8mmと2.4mmの高張力鋼板をスポット溶接した場合は、加圧力(P)が5000N未満で、全て十字引張強度(CTS)が10000N以上となっており、4000N未満で、略最大強度となりグラフが安定した状態となっている。即ち、図3からは、加圧力(P)を5000N未満とすれば、必要な十字引張強度を得ることができることが分かり、加圧力(P)を4000N未満とすれば、更に安定的な十字引張強度を得ることができ、より好ましいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】加圧力(P)とナゲットの直径が4/√(t)となる溶接電流値の関係を示すグラフ図である。
【図2】板厚(t)とナゲットの直径が4/√(t)となる溶接電流値の関係を示すグラフ図である。
【図3】引張強度(TS)が980MPaの高張力鋼板をスポット溶接した場合の、加圧力(P)と十字引張強度(CTS)の関係を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚(t)が1.8mm以上で、引張強度(TS)が580MPa以上の高張力鋼板をスポット溶接する高張力鋼板のスポット溶接方法であって、スポット溶接を行う際の加圧力(P)、溶接電流値(I)を以下の式を満足させる条件で行うと共に、そのスポット溶接はチリを発生させた状態で行うことを特徴とする高張力鋼板のスポット溶接方法。
ここで、2000N<P<5000N、Imin<I<17.0kA
上式で、Imin=(1/500)P+4t−8
【請求項2】
請求項1記載の高張力鋼板のスポット溶接方法によって溶接されていることを特徴とする高張力鋼板の溶接継手。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−190046(P2009−190046A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30681(P2008−30681)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】