説明

高強度・低弾性に優れるチタン−マグネシウム材料

【課題】人体骨よりも高い強度を有しながら、人体骨に近い低弾性率を有し、骨代替材料や骨補強材料として有用なチタン系生体材料を提供する。
【解決手段】チタン及びマグネシウムの粉末をメカニカルアロイング処理して得られた混合物を焼結することにより得られる、Ti中にMgが均一分散してなるTi−Mg生体材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度で弾性が低く、骨代替材料としての適性に優れるチタン−マグネシウム生体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化社会を迎えた日本では、生活(命)の質の維持・向上を目指し、生体材料の研究・開発が活発に行われている。チタン合金は生体適合性、高比強度、高耐食性、環境浄化性を兼備しているため、金属系生体材料の中で生体への適用が最も多い材料である。しかしながら、人体骨中に埋入させた場合、人体骨(20〜40GPa)とチタン合金(100GPa)とのヤング率の差が大きいため、応力の負荷状態によっては人体骨側に不具合が発生し、生体材料として十分な機能を果たしているとは言い難いのが現状である。
【0003】
このような背景の下、チタン合金に添加する元素や熱処理によって弾性率を人体骨に近づける低弾性率化に関する研究も行われている。しかし、国内外の金属系生体材料の製造プロセスは、従来の溶解・鋳造法をベースに研究・開発が行われており、チタン系生体材料の機械的特性や生体適応性を飛躍的に向上させることは不可能に近く、マイナーな特性の向上にとどまっているのが現状である(特許文献1、2)。
【0004】
一方、マグネシウムの弾性率は約45GPaで、人体骨の弾性率により近い値を示す。また、純マグネシウムは体内で分解しても安全性が高いことから、近年、医療用生体吸収性材料として注目されている。しかし、純マグネシウムやマグネシウム合金を骨接合材として用いる場合、体内での分解速度が極めて速いため、骨折治療に求められる期間の1/3〜1/4で分解する。従って、マグネシウムやマグネシウム合金は骨接材料には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−49656号公報
【特許文献2】特開2004−277873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、人体骨よりも高い強度を有しながら、人体骨に近い低弾性率を有し、骨代替材料や骨補強材料として有用なチタン系生体材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、チタン系材料の低弾性率化を図るべく種々検討した。チタンの融点は1668℃であり、一方マグネシウムの沸点は1090℃であるから、チタンとマグネシウムは溶解鋳造法により合金を形成させることは理論上不可能である。そこでさらに検討したところ、全く意外にも、チタンとマグネシウムの粉末をメカニカルアロイング処理して得られた混合物を焼結させれば、チタン中にマグネシウムが均一に分散しており、高い強度を有しながら弾性率が低下した生体適合性Ti−Mg材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、チタン及びマグネシウムの粉末をメカニカルアロイングして得られた混合物を焼結することにより得られる、Ti中にMgが均一分散してなるTi−Mg生体材料を提供するものである。
また本発明は、チタン及びマグネシウムの粉末をメカニカルアロイングして得られた混合物を焼結することを特徴とする、Ti中にMgが均一に分散してなるTi−Mg生体材料の製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のTi−Mg生体材料は、チタン中にマグネシウムが均一に分散した成形体となっているため、高い強度を有しつつ、チタンに比べて弾性率が低下しており、人体骨の弾性率に近くなっているため、骨代替材料、骨補強材料、人工関節、矯正用ワイヤー、インプラント材料等として有用である。また、本発明生体材料中に均一に分散したMgは、低弾性率化に寄与するだけでなく、徐々に体内で分解することからTiの表面積を増加させることになり、体内で皮質骨との結合がより強固になると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】メカニカルアロイング前後の粉末のSEM像を示す。 (a)メカニカルアロイング前の純チタン、(b)メカニカルアロイング前の純マグネシウム、(c)メカニカルアロイング4時間のTi−20Mg、(d)メカニカルアロイング8時間Ti−30Mg。
【図2】4時間メカニカルアロイング後の粉末のX線回折結果を示す。上から、Ti−30Mg、Ti−20Mg、Ti−10Mg、Pure Ti。
【図3】マグネシウム添加量に対するメカニカルアロイング時間と各粉末の硬さの関係を示す図である。
【図4】Ti−10Mgメカニカルアロイング4時間粉末から得られた焼結体のX線回折結果を示す。上から焼結温度873K、773K、673K。
【図5】異なるメカニカルアロイング時間で作製した焼結体[Ti−xMg(x=0、10、20、30、40、50質量%)]の硬さを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のTi−Mg生体材料は、チタンとマグネシウムの粉末をメカニカルアロイング処理して得られた混合物を焼結することにより得られる。
【0012】
原料としてのチタンは、金属チタンであればよいが、純度が98%以上のチタン、特に純度99%以上のチタンを用いるのが、生体親和性の点で好ましい。また、用いるチタンの粒子径は100μm以下、さらに50μm以下であるのが、メカニカルアロイング及び焼結により目的の材料を得る点で好ましい。
一方、マグネシウムは、金属マグネシウムであればよいが、純度98%以上のマグネシウム、特に純度99%以上のマグネシウムを用いるのが生体親和性の点で好ましい。また用いるマグネシウムの粒子径は100μm以下、さらに50μm以下であるのが、メカニカルアロイング及び焼結により目的の材料を得る点で好ましい。
【0013】
チタンとマグネシウムの混合比は、目的とする弾性率に応じて変化させればよく、チタン100質量部に対するマグネシウムの混合質量が20〜75質量部が好ましく、さらに25〜60質量部がより好ましく、さらに30〜60質量部が特に好ましい。得られる生体材料の弾性率は、マグネシウムの混合質量により制御でき、マグネシウムの混合量が多いほど弾性率が低下する。ただし、マグネシウム混合量が多すぎると、生体での分解性の点から好ましくない。
【0014】
前記混合物のメカニカルアロイング処理は、機械的エネルギーを付与しながら混合する方法であれば特に限定されるものではないが、例えばボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でもボールミルが好ましく、特に振動型ボールミル、遊星型ボールミルが好ましい。
【0015】
メカニカルアロイングの条件は、チタンとマグネシウムが均一に分散する条件であればよいが、アロイング助剤を添加するのが好ましい。アロイング助剤としては、焼結により消失してしまう有機化合物、例えば有機系ワックス、脂肪酸等が用いられる。このうち、炭化水素、C6−C24脂肪酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。アロイング助剤の使用量は、チタン及びマグネシウムの合計量100質量部に対して、0.5〜5質量部が好ましい。ボールミルを採用する場合、ボールとしては鋼、セラミックスが用いられるが、鋼が好ましい。その使用量はチタン及びマグネシウムの合計量100質量部に対して100〜5000質量部程度が好ましい。回転数は、200〜800rpmが好ましく、処理時間は1時間〜50時間が好ましい。また、雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えば窒素ガス、アルゴンガス雰囲気で行うのが好ましい。
【0016】
得られたメカニカルアロイング混合物を焼結する。焼結手段は、無加圧焼結法、ホットプレス法、熱間静水圧プレス法、高周波誘導加熱法、放電プラズマ焼結法(SPS)が挙げられるが、放電プラズマ焼結が特に好ましい。放電プラズマ焼結法としては、放電プラズマ装置に黒鉛ダイスを設置し、真空又は不活性ガス(窒素、アルゴン等)雰囲気下、黒鉛ダイスにパルス直流又は短形波を加えた直流を流すか、あるいは最初にパルス直流を流し次いで短形波を加えた直流を流して行う。放電プラズマ条件としては、原料を700〜1200℃、加圧力20〜80MPaに60〜600秒保持するのが好ましい。
また、得られる生体材料の形状は、焼結に用いる装置により調整することができる。
【0017】
前記のメカニカルアロイング及び焼結により得られるTi−Mg材料は、Ti中にMgが均一に分散しており、全体として均一な性質を発揮する。また微量のTiCが存在する。
【0018】
本発明のTi−Mg生体材料は、強度が高く、かつ弾性率が純チタンに比べて低下しており、人体骨の弾性率に近くなっている。また、Ti及びMgにより形成されており、生体親和性も良好である。従って、本発明のTi−Mg生体材料は、骨代替材料、骨補強材料、人工関節、矯正用ワイヤー、インプラント材料等として有用である。
【実施例】
【0019】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
実施例1
(1)方法
用いた純チタン粉末の純度は99.5%、粒子径は44μm以下である((株)レアメタリック)。一方、純マグネシウム粉末は純度は99.8%、粒子径は276μm以下を使用した。
表1に配合組成及び材料記号を示す。各組成の総量が10gになるように精密天秤を用いて秤量した。さらに、アロイング助剤(PCA)として、ステアリン酸を用い、その添加量は0.25g一定とした。これらの粉末と工具鋼製ボール70gを工具鋼製容器にアルゴンガス雰囲気中で装入した。メカニカルアロイング(MA)処理には振動型ボールミルを使用し、処理時間は4時間、8時間の2条件とした。
【0021】
作製したMA粉末は、X線回折、マイクロビッカース硬さ試験、走査型電子顕微鏡観察により評価した。
MA粉末の焼結には、放電プラズマ焼結(SPS)装置を用いた。φ20の黒鉛ダイスを用いて、昇温速度1.67K/sで873Kまで昇温後、加圧力49MPaで0.18ks保持して成形した。
作製したSPS材は、X線回折、ビッカース硬さ試験、SEM観察により評価した。
【0022】
【表1】

【0023】
(2)結果
(a)純チタンに対して純マグネシウム粉末の添加量を変化させ、MA4時間又は8時間処理して得られた粉末のSEM像を図1に示す。図1に示すように、MA処理によりチタン中にマグネシウムが均一に分散した微粉末が得られたことがわかる。
【0024】
(b)MA処理を4時間一定とし、マグネシウム添加量を変化させて得られた粉末のX線回折結果を図2に示す。図2の結果から明らかに、チタン(α−Ti)中にマグネシウムが均一に分散していることがわかる。微量のTiH2が生成していた。
また、その粉末の硬さを測定した結果を図3に示す。図3に示すように、マグネシウムの添加量を増加させるに従ってビッカース硬さが低下することがわかる。
【0025】
(c)MA処理後、プラズマ焼結して得られたSPS材のX線回折結果を図4に示す。図4から、得られたSPS材は、チタン(α−Ti)中にMgが均一に分散した焼結体であることがわかる。少量のTiH2、TiC及びMgOが存在する。
得られたSPS材のビッカース硬さの測定結果を図5に示す。図5から、得られた焼結体は、マグネシウムの添加量の増加に伴い、ビッカース硬さが低下することがわかる。このビッカース硬さは、Tiよりも低いがMgよりも高く、人体骨に近くなっている。なお、ビッカース硬さと強度及び弾性率には比例関係があり、ビッカース硬さが低下することはこれらの特性も低下することを意味している。特に、ビッカース硬さの約3倍が強度(MPa)に等しい事も知られている。また、この焼結体の強度は、骨材料として十分なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン及びマグネシウムの粉末をメカニカルアロイング処理して得られた混合物を焼結することにより得られる、Ti中にMgが均一分散してなるTi−Mg生体材料。
【請求項2】
チタン100質量部に対するマグネシウム混合質量が20〜75質量部である請求項1記載のTi−Mg生体材料。
【請求項3】
メカニカルアロイング処理が、ボールミル処理である請求項1又は2記載のTi−Mg生体材料。
【請求項4】
焼結が、放電プラズマ焼結である請求項1〜3のいずれか1項記載のTi−Mg生体材料。
【請求項5】
骨代替材料又は骨補強材料である請求項1〜4のいずれか1項記載のTi−Mg生体材料。
【請求項6】
チタン及びマグネシウムの粉末をメカニカルアロイング処理して得られた混合物を焼結することを特徴とする、Ti中にMgが均一分散してなるTi−Mg生体材料の製造法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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