説明

高強度高延性合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法

【課題】 高強度高延性と合金化度を両立できる合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】 C:0.02〜0.2 質量%、Mn: 0.15〜2.5 質量%を含有する酸洗済みの熱延鋼板、又は焼鈍、酸洗済みの冷延鋼板に、酸洗処理を施し、水洗の後乾燥させることなく、0.2 〜2.0g/m2 のNiプレメッキを施し、無酸化あるいは還元性雰囲気中で板温度430 〜500 ℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行なった後、Al:0.05 〜0.2 質量%を含有するZnメッキ浴中で溶融メッキし、ワイピング直上で470 〜550 ℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行い、均熱時間をとらずに冷却するか、又は10秒未満の均熱保持の後に冷却することを特徴とする。酸洗処理後の水洗水のpHは6 未満が望ましい。また、酸洗処理を施した後に水洗も乾燥もなくNiプレメッキを施すことも可能である。また本発明の鋼板には、更にSiを0.2 〜3 質量%含有しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度高延性合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法に関し、詳しくは、Niプレメッキ法を利用して、溶融亜鉛メッキおよび合金化処理での熱処理による材質劣化が極めて少なく、かつ良好なメッキ性能の得られる高強度高延性合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化対策の一環としてボデー内外板、足回り部品等へ高強度高延性鋼板が適用されている。これらの鋼板には耐食性の観点から、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板が適用されることが望まれるが、強度増加の手段として鋼に添加されるC、Mnは亜鉛メッキの合金化遅延元素として知られ、強度と合金化度を両立することは容易ではない。特にSiを0.2%以上含有する鋼板では、従来のゼンジマータイプの溶融亜鉛メッキ法ではメッキの濡れ性が不十分でまた合金化も極めて進行しにくいといった問題があった。
【0003】
この問題に対して、特許文献1では、Niプレメッキ法を利用して、Siを0.2〜0.5%含有する鋼板を原板として合金化溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第2526320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1における問題点の一つは、590MPaを超えるクラスの高強度高延性合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造は困難であった。また同文献における他の問題点は、合金化度を確保するために長時間の均熱時間を必要としており、結果として強度、延性ともに少なからず低下するため、複雑な形状の自動車ボデー内外板、足回り部品等への適用には制限があった。
そこで本発明は、高強度高延性と合金化度を両立できる合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の解決に向けて検討を重ねたところ、合金化溶融亜鉛メッキ製造における合金化の熱処理条件として、470〜550℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行い、10秒未満の均熱保持の後に冷却すれば、強度、延性の低下はないかまたは最小限に抑えられることが判明した。
しかしながらこの合金化条件のみでは、必要とする合金化度が得られないことも同時に判明した。特にSiを含有する鋼板では合金化の進行が極めて少なかった。
これらを両立するため更に検討を重ねた結果、用いる原板の状態、およびNiプレメッキの前処理の条件が重大な影響を及ぼし、これらを最適化すれば、高強度高延性と合金化度が両立できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明の要旨とするところは、C:0.02〜0.2質量%、Mn:0.15〜2.5質量%を含有する酸洗済みの熱延鋼板、または焼鈍、酸洗済みの冷延鋼板に、酸洗処理を施し、水洗の後乾燥させることなく、0.2〜2.0g/m2 のNiプレメッキを施し、無酸化あるいは還元性雰囲気中で板温度430〜500℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行なった後、Al:0.05〜0.2質量%を含有するZnメッキ浴中で溶融メッキし、ワイピング直上で470〜550℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行い、均熱時間をとらずに冷却するか、または10秒未満の均熱保持の後に冷却することを特徴とするものである。
酸洗処理の後の水洗水のpHは6未満が望ましい。また本発明では、酸洗処理を施した後に水洗も乾燥もなくNiプレメッキを施すことも可能である。また本発明の鋼板には、更にSiを0.2〜3質量%含有しても良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、高強度高延性と合金化度を両立できる合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、C:0.02〜0.2%、Mn:0.15〜2.5%を含有する鋼板を対象とする。これに加えてSi:0.2〜3%を含有することもできる。
本発明における要点の一つは、用いる原板の状態であって、酸洗済みの熱延鋼板、または焼鈍、酸洗済みの冷延鋼板を用いる必要がある。熱延鋼板の酸洗については特に限定なく、公知の一般の方法によって表層スケールが除去できるものであれば良い。
【0009】
冷延鋼板の酸洗については、気水冷却等の水を用いた冷却工程を経たものは、表層にスケールが生成するため、焼鈍ライン内後面にて酸洗することは公知であり、このようなものは本発明の原板としてそのまま用いることが出来る。冷却工程でガス冷却等を経たものは、通常焼鈍ライン内後面にて酸洗されることはないが、このような鋼板は本発明においては、酸洗しておく必要がある。
【0010】
以上の酸洗済みの熱延鋼板、または焼鈍、酸洗済みの冷延鋼板にNiプレメッキを施すにあたり、前処理として酸洗処理を施す必要がある。すなわち、原板における酸洗とあわせて2回の酸洗処理を行うことが本発明の要点の一つで、これによって強度、延性を劣化させない条件で合金化度を確保することが可能となる。
酸洗条件としては、硫酸または塩酸水溶液による処理が望ましく、これら以外の酸では合金化を阻害することがあり好ましくない。なお、本酸洗処理前に必要に応じて汚れを除去するための脱脂処理を施しても良い。またブラシ等による機械研削を組み合わせてもよい。
【0011】
酸洗処理後に通常行なう水洗の条件も重要であって、水洗してNiプレメッキ前に乾燥してしまうことは避ける必要がある。また水洗水のpHも6未満とすることが望ましい。また、酸洗処理の後水洗も乾燥もなくそのままNiプレメッキを行なうことも可能である。以上のような条件を満たさないと、合金化が阻害される。
【0012】
本発明においては、Niプレメッキ量として、0.2〜2g/m2 が必要である。下限未満では、メッキの濡れ性が不足するかあるいは合金化度が得られない。上限を超えても効果が飽和し不経済である。Niプレメッキの条件は特に限定されず、硫酸浴、塩化浴、watt浴、スルファミン酸浴等、公知のものが用いられる。
【0013】
Niプレメッキ後に、無酸化あるいは還元性雰囲気中で板温度430〜500℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行なう。この処理は溶融メッキの濡れ性、またメッキ密着性を確保するために必要である。なお、昇温速度の上限は特に限定しない。
この加熱の後溶融亜鉛メッキを行い、ワイピングにより目付け調整を行なう。溶融亜鉛メッキ浴中のAlは0.05〜0.2%とする。0.05%未満ではメッキの密着性が悪化しやすく、0.2%を超えると合金化と材質の両立が困難になる。
【0014】
ワイピング後に470〜550℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行い、均熱時間をとらずに冷却するか、または10秒未満の均熱保持の後に冷却することで合金化処理を行う。この規定は強度、延性の劣化の防止と必要合金化度確保の点で重要である。なお、昇温速度の上限は特に限定しない。
【実施例】
【0015】
以下に実施例によって本発明を詳細に説明する。
表1に試験に用いた原板を示す。原板1および原板2は、冷延、焼鈍、酸洗済みの鋼板である。原板3は酸洗済みの熱延鋼板である。なお表3には、それぞれの原板を調質圧延した後に測定した材質値も示す。
各原板を表2の条件で脱脂処理後、酸洗処理を行なうものに関しては、表3の条件で酸洗処理を行った。Niプレメッキは、表4の条件にて電気メッキにより行なった。
【0016】
Niプレメッキ後に、3%H2 +N2 の雰囲気中で30℃/secの昇温速度にて450℃まで加熱し、ただちに450℃に保温した溶融Znメッキ浴(Alを0.15%含有)に浸漬し3sec 保持の後、ワイピングして50g/m2 に目付けを調整し、ワイピング直上で所定の昇温速度と温度、均熱時間にて合金化した。冷却は、2℃/secの徐冷を8sec 行なった後、20℃/secで急冷した。その後0.5%の調質圧延を行なった。
【0017】
表5にサンプル製造条件と評価の結果を示す。ここで、合金化度については、サンプルのメッキ層を塩酸溶解して化学分析により成分量を求め、メッキ層中のFe%を算出した。Fe%が9%以上得られた場合を「○」、9%未満で「×」とした。また材質については、各サンプルで測定し、TS×Elの値(Mpa・%)を算出し、元の表1に示した原板のTS×Elからの低下代が10%以下を「○」、10%超を「×」と評価した。
表5から明らかなように、本発明によれば優れた合金化度と材質が得られた。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
【表3】

【0021】
【表4】

【0022】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明により、材質および合金化度の優れた合金化溶融亜鉛メッキ鋼板が得られるため、産業上の利用価値は多大である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.02〜0.2質量%、Mn:0.15〜2.5質量%を含有する酸洗済みの熱延鋼板、または焼鈍、酸洗済みの冷延鋼板に、酸洗処理を施し、水洗の後乾燥させることなく、0.2〜2.0g/m2 のNiプレメッキを施し、無酸化あるいは還元性雰囲気中で板温度430〜500℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行なった後、Al:0.05〜0.2質量%を含有するZnメッキ浴中で溶融メッキし、ワイピング直上で470〜550℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行い、均熱時間をとらずに冷却するか、または10秒未満の均熱保持の後に冷却することを特徴とする高強度高延性合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項2】
C:0.02〜0.2質量%、Mn:0.15〜2.5質量%を含有する酸洗済みの熱延鋼板、または焼鈍、酸洗済みの冷延鋼板に、酸洗処理を施し、pH6未満の水洗水によって水洗の後乾燥させることなく、0.2〜2.0g/m2 のNiプレメッキを施し、無酸化あるいは還元性雰囲気中で板温度430〜500℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行なった後、Al:0.05〜0.2質量%を含有するZnメッキ浴中で溶融メッキし、ワイピング直上で470〜550℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行い、均熱時間をとらずに冷却するか、または10秒未満の均熱保持の後に冷却することを特徴とする高強度高延性合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項3】
C:0.02〜0.2質量%、Mn:0.15〜2.5質量%を含有する酸洗済みの熱延鋼板、または焼鈍、酸洗済みの冷延鋼板に、酸洗処理を施し、水洗も乾燥もせずに、0.2〜2.0g/m2 のNiプレメッキを施し、無酸化あるいは還元性雰囲気中で板温度430〜500℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行なった後、Al:0.05〜0.2質量%を含有するZnメッキ浴中で溶融メッキし、ワイピング直上で470〜550℃に30℃/sec以上の昇温速度で急速加熱を行い、均熱時間をとらずに冷却するか、または10秒未満の均熱保持の後に冷却することを特徴とする高強度高延性合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項4】
酸洗済みの熱延鋼板、または焼鈍、酸洗済みの冷延鋼板が、更にSiを0.2〜3質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度高延性合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。


【公開番号】特開2006−299340(P2006−299340A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121830(P2005−121830)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】