説明

高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】グリップ性能および耐摩耗性能がバランスよく向上した高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物およびこのゴム組成物を用いたトレッドを有する空気入りタイヤを提供すること。
【解決手段】ジエン系ゴム成分100質量部に対して、(A)ヨウ素吸着量が100〜250mg/gであり、圧縮オイル吸収量が105〜145ml/100gであるカーボンブラックを10〜190質量部、(B)ヨウ素吸着量が270〜450mg/gであり、圧縮オイル吸収量が85〜110ml/100gであるカーボンブラックを10〜190質量部含有し、さらに、可塑剤成分を含有し、可塑剤成分の含有量に対するカーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量が0.7〜1.0である高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物およびそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
競技用タイヤなどの高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物には、グリップ性能および耐摩耗性能がバランスよく優れていることが強く求められ、これらの性能を向上させるために従来から様々な工夫がなされている。
【0003】
その中でも、充填剤によりゴム組成物の性能を向上させる技術は広く知られており、特にグリップ性能を向上させるためにカーボンブラックが好んで使用されている。一般的にグリップ性能を向上させるためには、粒子径の小さいカーボンブラックが使用されるが、粒子径の小さいカーボンブラックを使用すると耐摩耗性能が低下するというデメリットがある。このデメリットを補うために、ストラクチャーの発達したカーボンブラックを調製することによる改善が行われてきた。
【0004】
このように、トレッド用ゴム組成物のグリップ性能および耐摩耗性能は背反する性能であるところ、要求されるグリップ性能および耐摩耗性能に応じて、カーボンブラックの粒子径およびストラクチャーを調整し、要求を満たすカーボンブラックの開発がされてきた。
【0005】
しかしながら、グリップ性能および耐摩耗性能をバランスよく向上させることを目的とし、特定のカーボンブラックのストラクチャーを大きく調整した改良カーボンブラックを使用した場合、耐摩耗性能は向上するが、グリップ性能が損なわれ、カーボンブラックが本来有するグリップ性能を確保することができないという問題があった。
【0006】
また、高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物に要求される特性に応じて、その要求を満足する新たなカーボンブラックを調製する必要があり、開発への負荷が非常に高く、要求に迅速に対応することができないという問題があった。
【0007】
特許文献1には、ハードカーボンブラックとソフトカーボンブラックとを配合し、破断伸びや作業性の低下を抑えて、効果的に弾性率を上昇させたビードフィラー用ゴム組成物が記載されている、特許文献2には、CTAB比表面積が異なる2種以上のカーボンブラックを含有し、低温および高温領域において優れたグリップ性能を示すタイヤ用ゴム組成物が記載されている、特許文献3には、特定のチッ素吸着比表面積を有する2種のカーボンブラックを含有し、低発熱性および破断時強度に優れたタイヤ用ゴム組成物が記載されている、また、特許文献4には、特定のヨウ素吸着量およびジブチルフタレート吸油量を有する2種のカーボンブラックを含有し、強度を維持し、低燃費性能を向上させたクッション用ゴム組成物が記載されている。
【0008】
特許文献1〜4にはカーボンブラックをブレンドして含有するゴム組成物が記載されているが、ゴム組成物のグリップ性能および耐摩耗性能をバランスよく向上させることについては考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−105248号公報
【特許文献2】特開2006−152079号公報
【特許文献3】特開2010−084059号公報
【特許文献4】特許4671246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者らは研究を重ねた結果、耐摩耗性能に特化した大粒径−高ストラクチャーカーボンと、グリップ性能に特化した微粒子−低ストラクチャーカーボンとをブレンド使用し、特定量の軟化剤成分を含有することにより、グリップ性能と耐摩耗性能とをバランスよく向上させうることを知見した。
【0011】
さらに、従来技術では数十種ものカーボンブラックの開発が必要であったが、2種類の開発で性能のコントロールが可能になり、グリップ性能と耐摩耗性能とのバランスを自在に調整でき、開発負荷が低減され、開発スピードが大幅に短縮出来うることを知見した。
【0012】
本発明はグリップ性能および耐摩耗性能がバランスよく向上した高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物およびこのゴム組成物を用いたトレッドを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、(A)ヨウ素吸着量が100〜250mg/gであり、圧縮オイル吸収量が105〜145ml/100gであるカーボンブラックを10〜190質量部、(B)ヨウ素吸着量が270〜450mg/gであり、圧縮オイル吸収量が85〜110ml/100gであるカーボンブラックを10〜190質量部含有し、さらに、可塑剤成分を含有し、可塑剤成分の含有量に対するカーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量が0.7〜1.0である高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物に関する。
【0014】
カーボンブラック(A)の圧縮オイル吸収量(a)およびカーボンブラック(B)の圧縮オイル吸収量(b)が式(1):
圧縮オイル吸収量(a)−圧縮オイル吸収量(b) > 3ml/100g (1)
を満たし、
カーボンブラック(A)のヨウ素吸着量(a)およびカーボンブラック(B)のヨウ素吸着量(b)が式(2):
ヨウ素吸着量(b)−ヨウ素吸着量(a) > 20mg/g (2)
を満たすことが好ましい。
【0015】
カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)のCTAB比表面積/ヨウ素吸着量が、いずれも0.6〜0.9であることが好ましい。
【0016】
カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量が50〜200質量部であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は前記の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物を用いたトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ジエン系ゴム成分に特定のヨウ素吸着量および圧縮オイル吸収量を有するカーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)ならびに可塑剤成分を含有し、可塑剤成分の含有量に対するカーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量を0.7〜1.0とすることで、グリップ性能および耐摩耗性能がバランスよく向上した高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物を提供することができる。また、該ゴム組成物を用いたトレッドを有する空気入りタイヤとすることで、グリップ性能および耐摩耗性能がバランスよく向上した高性能タイヤを提供することができる。
【0019】
さらに、カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の含有量を適宜調整することで、グリップ性能と耐摩耗性能とのバランスを、容易に、幅広くコントロールすることができ、要求性能を満たす高性能タイヤの開発スピードを向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、(A)ヨウ素吸着量が100〜250mg/gであり、圧縮オイル吸収量が105〜145ml/100gであるカーボンブラックを10〜190質量部、(B)ヨウ素吸着量が270〜450mg/gであり、圧縮オイル吸収量が85〜110ml/100gであるカーボンブラックを10〜190質量部含有し、さらに、可塑剤成分を含有し、可塑剤成分の含有量に対するカーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量を0.7〜1.0とすることで、グリップ性能および耐摩耗性能をバランスよく向上させることができる。
【0021】
本発明におけるジエン系ゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。ジエン系ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、グリップ性能および耐摩耗性がバランスよく得られるという理由からNR、BR、SBRを使用することが好ましく、より優れたグリップ性能が得られるという理由からSBRを使用することがより好ましい。
【0022】
SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。また、末端を変性したSBR(変性SBR)を使用することもでき、変性SBRとしては、例えば、アルコキシ基を含有する有機ケイ素化合物で変性した変性SBR等が挙げられる。
【0023】
SBRのスチレン含有率は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。SBRのスチレン含有率が20質量%未満では、充分なグリップ性能が得られない傾向がある。また、SBRのスチレン含有率は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。SBRのスチレン含有率が60質量%をこえると、耐摩耗性が低下するだけでなく、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなってしまう傾向がある。
【0024】
ジエン系ゴム成分としてSBRを含有する場合の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。10質量%未満であると、充分な耐熱性およびグリップ性能が得られない傾向がある。また、SBRの含有量の上限は特に限定されず、100質量%であることがグリップ性能と耐摩耗性とのバランスにおいて優れるという理由からさらに好ましい。
【0025】
本発明のゴム組成物は、耐摩耗性能に特化した大粒径−高ストラクチャーカーボンであるカーボンブラック(A)、およびグリップ性能に特化した微粒子−低ストラクチャーカーボンであるカーボンブラック(B)を含有することを特徴とする。すなわち、本発明の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラック(A)の含有により得られる耐摩耗性能、およびカーボンブラック(B)の含有により得られるグリップ性能の両性能を確保することで、グリップ性能および耐摩耗性能がバランスよく向上した高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物とすることを特徴とする。
【0026】
カーボンブラック(A)のヨウ素吸着量(IA)は、100〜250mg/gであり、110〜240mg/gであることが好ましく、115〜220mg/gであることがより好ましい。カーボンブラック(A)のIAが100mg/g未満では、充分な補強性が得られない傾向、グリップ性能が低下する傾向がある。また、カーボンブラック(A)のIAが250mg/gをこえると粒子径が小さく、充分なモジュラスが確保できず、耐摩耗性が確保できなくなる傾向がある。なお、カーボンブラックのIAは、JIS K6217−1の測定方法によって求められる。
【0027】
カーボンブラック(A)の臭化セチルトリメチルアンモニウム吸着比表面積(CTAB)は、65〜230m2/gであることが好ましく、80〜230m2/gであることがより好ましく、90〜220m2/gであることがさらに好ましい。カーボンブラック(A)のCTAB比表面積が65m2/g未満では、充分な補強性が得られない傾向、グリップ性能が低下する傾向がある。また、カーボンブラック(A)のCTAB比表面積が230m2/gをこえると粒子径が小さく、充分なモジュラスが確保できず、耐摩耗性が確保できなくなる傾向がある。なお、カーボンブラックのCTABは、JIS K6217−3の測定方法によって求められる。
【0028】
カーボンブラック(A)の圧縮オイル吸収量(COAN)は、105〜145ml/100gであり、110〜140ml/100gであることが好ましく、115〜135ml/100gであることがより好ましい。カーボンブラック(A)のCOANが105ml/100g未満ではストラクチャーの発達が不充分であり、充分なモジュラスが確保できず、耐摩耗性が確保できなくなる傾向がある。また、カーボンブラック(A)のCOANが145ml/100gをこえると、ゴム組成物の加工性が悪化する傾向がある。なお、カーボンブラックのCOANは、ASTM D3493−09の測定方法によって求められる。
【0029】
カーボンブラック(B)のIAは、270〜450mg/gであり、280〜400mg/gであることが好ましく、290〜380mg/gであることがより好ましい。カーボンブラック(B)のIAが270mg/g未満では粒子径が大きく、充分なグリップ性能が確保できない傾向がある。また、カーボンブラック(B)のIAが450mg/gをこえると、ゴム組成物の加工性が悪化する傾向がある。
【0030】
カーボンブラック(B)のCTABは、160〜405m2/gであることが好ましく、160〜380m2/gであることがより好ましく、165〜350m2/gであることがさらに好ましい。カーボンブラック(B)のCTAB比表面積が160m2/g未満では粒子径が大きく、充分なグリップ性能が確保できない傾向がある。また、カーボンブラック(B)のCTAB比表面積が405m2/gをこえると、ゴム組成物の加工性が悪化する傾向がある。
【0031】
カーボンブラック(B)のCOANは、85〜110ml/100gであり、90〜108ml/100gであることが好ましく、95〜105ml/100gであることがより好ましい。カーボンブラック(B)のCOANが85ml/100g未満では、補強性が悪化する傾向がある。また、カーボンブラック(B)のCOANが110ml/100gをこえるとストラクチャーが発達しすぎとなり、充分なグリップ性能が確保できない傾向がある。
【0032】
カーボンブラック(A)のCOAN(a)およびカーボンブラック(B)のCOAN(b)の関係を式(1):
COAN(a)−COAN(b) > x ml/100g (1)
で示した場合、式(1)中のxは3であることが好ましく、5であることがより好ましく、8であることがさらに好ましい。COAN(a)−COAN(b)の値が3以下では、高ストラクチャーカーボンであるカーボンブラック(A)の高い耐摩耗性を発揮することができない傾向がある。
【0033】
カーボンブラック(A)のIA(a)およびカーボンブラック(B)のIA(b)の関係を式(2):
IA(b)−IA(a) > y mg/g (2)
で示した場合、式(2)中のyは20であることが好ましく、25であることがより好ましく、30であることがさらに好ましい。IA(b)−IA(a)の値が20以下では、微粒子カーボンであるカーボンブラック(B)の高いグリップ性能を発揮することができない傾向がある。
【0034】
カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)のIAに対するCTABの比(CTAB/IA)は、いずれのカーボンブラックにおいても0.6〜0.9であることが好ましく、0.63〜0.87であることがより好ましく、0.65〜0.85であることがさらに好ましい。CTAB/IAが、0.6未満では、表面官能基量が少なく、補強性が低下する傾向がある。また、CTAB/IAが、0.9をこえると、充分なグリップ性能を得ることができない傾向がある。なお、カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)のCTAB/IAが同じである必要はない。
【0035】
カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の含有量は、目的とする高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物に求められる特性バランスに応じて調整することができる。
【0036】
カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)のそれぞれの含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して10〜190質量部であり、20〜180質量部であることが好ましく、30〜170であることがより好ましい。10質量部未満では、それぞれのカーボンブラックが有する特性を発揮することができない傾向がある。また、190質量部をこえると、ゴム組成物の加工性が悪化する傾向がある。
【0037】
また、カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して50〜200質量部であることが好ましく、55〜190質量部であることがより好ましく、60〜180質量部であることがさらに好ましい。50質量部未満では、充分なグリップ性能も耐摩耗性能も確保できない傾向がある。また、200質量部をこえると、ゴム組成物の加工性が悪化する傾向がある。
【0038】
本発明のゴム組成物には、カーボンブラック以外の補強用充填剤、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルクなど、従来タイヤ用ゴム組成物において慣用されるものを好適に含有することができる。
【0039】
さらに、本発明のゴム組成物は可塑剤成分を含有する。
【0040】
可塑剤成分としては、ゴム工業で一般的に可塑剤や、軟化剤として用いられるものを用いることができ、例えば、液状ポリマー、オイル、レジン、低温可塑剤等が挙げられる。可塑剤成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐摩耗性能とグリップ性能とをバランスよく向上できるという理由から液状ポリマーを使用することが好ましい。
【0041】
液状ポリマーとしては、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算重量平均分子量が1.0×103〜2.0×105の液状ポリマーであることが好ましい。液状ポリマーの分子量が1.0×103未満では、破壊特性が低下し、充分な耐久性を得られない傾向がある。また、液状ポリマーの分子量が2.0×105をこえると、粘度が高くなり生産性が悪化する傾向がある。
【0042】
液状ポリマーとしては、例えば、液状SBR、液状BR、液状IR、液状SIR等が挙げられる。なかでも、特に耐久性能とグリップ性能とをバランスよく向上できるという理由から液状SBRを使用することが好ましい。
【0043】
液状ポリマーを使用する場合の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して10〜200質量部であることが好ましく、10〜180質量部であることがより好ましく、20〜170質量部であることがさらに好ましい。液状ポリマーの含有量10質量部未満では、充分な耐久性およびグリップ性能が得られない傾向がある。また、液状ポリマーの含有量が200質量部をこえると加工性が悪化する傾向がある。
【0044】
オイルとしては、例えば、アロマチックオイル、プロセスオイル、パラフィンオイル等の鉱物油などが挙げられる。なかでも、環境への負荷低減という理由からプロセスオイルを使用することが好ましい。
【0045】
オイルを使用する場合の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して5〜200質量部であることが好ましく、10〜180質量部であることがより好ましく、20〜170質量部であることがさらに好ましい。オイルの含有量が5質量部未満では、可塑剤としての効果が得られ難くなる傾向がある。また、オイルの含有量が200質量部をこえると充分な耐久性が得られ難くなる傾向がある。なお、ジエン系ゴム成分として油展されたゴム成分を使用する場合は、該油展されたゴム成分中のオイルを含む。
【0046】
レジンの軟化点は、10〜180℃であることが好ましく、20〜180℃であることがより好ましい。レジンの軟化点が10℃未満では、高温でのグリップ性能が低下する傾向がある。また、レジンの軟化点が180℃をこえると、ポリマーへの分散不良が生じる恐れがある。
【0047】
レジンとしては、例えば、クマロンレジン、石油系レジン、およびフェノール系レジン、テルペンレジン、ロジンエステル、キシレンレジンなどが挙げられる。
【0048】
レジンを使用する場合の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して3〜70質量部であることが好ましく、4〜60質量部であることがより好ましく、5〜50質量部であることがさらに好ましい。レジンの含有量が3質量部未満では、グリップ性能の向上が得られない恐れがある。また、レジンの含有量が70質量部をこえると耐摩耗性が悪化する恐れがある。
【0049】
低温可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)、ビス(2エチルヘキシル)セバケート(DOS)などの液状成分が挙げられる。
【0050】
低温可塑剤を使用する場合の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して0.5〜50質量部であることが好ましく、1〜40質量部であることがより好ましく、3〜35質量部であることがさらに好ましい。低温可塑剤の含有量が0.5質量部未満では、低温での可塑効果を得られない可能性がある。また、低温可塑剤の含有量が50質量部をこえると高温でのグリップ性能が低下する恐れがある。
【0051】
可塑剤成分の含有量は、ジエン系ゴム成分100質量部に対して20〜250質量部であることが好ましく、25〜200質量部であることがより好ましく、30〜180質量部であることがさらに好ましい。可塑剤成分の含有量が20質量部未満では、可塑剤としての効果が充分に得られない恐れがある。また、可塑剤成分の含有量が250質量部をこえると耐摩耗性が悪化する可能性がある。
【0052】
本発明のゴム組成物における、可塑剤成分の含有量に対するカーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量(カーボンブラック合計含有量/可塑剤成分含有量)は0.7〜1.0であり、0.73〜0.97であることが好ましく、0.75〜0.95であることがより好ましい。カーボンブラック合計含有量/可塑剤成分含有量が0.7未満では、ゴム組成物に必要な剛性を得ることができず、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、カーボンブラック合計含有量/可塑剤成分含有量が1.0をこえると、充分なグリップ性能を得ることができない傾向がある。
【0053】
本発明のゴム組成物は、前記ゴム成分、カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)等の補強用充填剤、可塑剤成分以外にも、通常ゴム工業で使用される配合剤、例えば、硫黄、シランカップリング剤、各種老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種加硫促進剤などを好適に含有することができる。
【0054】
本発明のゴム組成物は、競技用タイヤなどの高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物に用いられ、特に、競技用ドライタイヤのトレッド部に用いられることが好ましい。
【0055】
本発明の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記ゴム成分、および必要に応じてその他の配合剤を混練りし、その後加硫することにより、本発明の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物を製造することができる。
【0056】
本発明の空気入りタイヤは、本発明の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物を用いてトレッドを製造し、このトレッドを用いて通常の方法により製造される。すなわち、本発明の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物を未加硫の段階でタイヤのトレッドの形状に押出し加工し、タイヤ成形機上で、通常の方法により、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを成形する。該未加硫タイヤを加硫機中で加熱・加圧し、本発明の空気入りタイヤを得る。
【実施例】
【0057】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0058】
以下に実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
E−SBR:日本ゼオン(株)製のNipol 9549(SBR固形分100質量部に対するオイル含有量50質量部、スチレン単位量:45質量%)
プロセスオイル:出光興産(株)製のダイナプロセスオイルPW32AH−24
液状SBR:サートマー社製のRAICON100(重量平均分子量:6000)
レジン:日塗化学(株)製のニットレジン クマロン G−90(軟化点:90℃)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C
ステアリン酸:日本油脂(株)製の椿
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTOT−N
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM
【0059】
カーボンブラックは、公知の技術であるオイルファーネス法により作製したものを使用した。使用したカーボンブラックA〜Gの物性値を表1に示す。なお、表1に示すIAはJIS K 6217−1に準拠した測定方法、COANはASTM D3493−09に準拠した測定方法、CTABはJIS K 6217−3に準拠した測定方法により測定した。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例1〜5および比較例1〜14
表2および3に示す配合内容のうち、各種薬品(硫黄ならびに加硫促進剤1および2を除く)を、バンバリーミキサーにて混練りし、混練り物を得た。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄ならびに加硫促進剤1および2を添加して混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。
【0062】
さらに、前記未加硫ゴム組成物を所定の形状の口金を備えた押し出し機で押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。
【0063】
<グリップ性能試験>
製造した試験用タイヤを用いて、ドライアスファルト路面のテストコース(1周約5km)にて10周の実車走行を行なった。その際における操舵時のコントロール性をテストドライバーが評価し、比較例1を100として指数表示した。指数が大きいほど、ドライ路面におけるグリップ性が高いことを示す。
【0064】
<耐摩耗性能試験>
製造した試験用タイヤを用いて、ドライアスファルト路面のテストコース(1周約5km)にて10周の実車走行を行なった。走行後のタイヤトレッドゴムの残溝量を計測し(新品時15mm)、比較例1の残溝量を100として指数表示した。指数が大きいほど耐摩耗性能が高いことを示す。
【0065】
上記のグリップ性能試験および耐摩耗性能試験の結果を、表2〜4に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
表2に示すように、カーボンブラック(A)を満たすカーボンブラックおよびカーボンブラック(B)を満たすカーボンブラックならびに可塑剤成分を特定量含有する高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物は、グリップ性能および耐摩耗性能の両方において優れることがわかる。また、カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の含有量を調整することで、グリップ性能と耐摩耗性能とのバランスを、容易に、幅広くコントロールできることもわかる。
【0070】
一方、表3および4より、特定のカーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)を併用しない比較例1〜12では、グリップ性能および耐摩耗性能の一方が劣ることがわかる。
【0071】
また、可塑剤成分の含有量に対するカーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量が大きい比較例13ではグリップ性能において劣り、可塑剤成分の含有量に対するカーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量が小さい比較例14では耐摩耗性能において劣ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム成分100質量部に対して、
(A)ヨウ素吸着量が100〜250mg/gであり、圧縮オイル吸収量が105〜145ml/100gであるカーボンブラックを10〜190質量部、
(B)ヨウ素吸着量が270〜450mg/gであり、圧縮オイル吸収量が85〜110ml/100gであるカーボンブラックを10〜190質量部含有し、
さらに、可塑剤成分を含有し、
可塑剤成分の含有量に対するカーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量が0.7〜1.0である高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
カーボンブラック(A)の圧縮オイル吸収量(a)およびカーボンブラック(B)の圧縮オイル吸収量(b)が式(1):
圧縮オイル吸収量(a)−圧縮オイル吸収量(b) > 3ml/100g (1)
を満たし、
カーボンブラック(A)のヨウ素吸着量(a)およびカーボンブラック(B)のヨウ素吸着量(b)が式(2):
ヨウ素吸着量(b)−ヨウ素吸着量(a) > 20mg/g (2)
を満たす請求項1記載の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の臭化セチルトリメチルアンモニウム吸着比表面積/ヨウ素吸着量が、いずれも0.6〜0.9である請求項1または2記載の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
カーボンブラック(A)およびカーボンブラック(B)の合計含有量が50〜200質量部である請求項1〜3のいずれか1項に記載の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の高性能タイヤのトレッド用ゴム組成物を用いたトレッドを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2013−71970(P2013−71970A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210735(P2011−210735)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】