説明

高成型性、高流動性低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよびそれを含む固形製剤

【課題】成型性と流動性を改善し、添加量の制約を受けること無しに使用できる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを提供する。
【解決手段】アルカリセルロースをエーテル化して得られる、無水グルコース単位当たりの置換モル数が0.1〜0.4の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを圧密摩砕する工程と、圧密摩砕された低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを気流分級装置で処理して、平均粒子径が20〜50μm、90%積算粒子径が50〜100μm、及び平均粒子径と90%積算粒子径との比(90%積算粒子径/平均粒子径)が2.4以下である低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を得る分級工程とを少なくとも含んでなる低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末の製造方法等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品及び食品分野において、高成型性、高流動性の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びこれを主体とした固形製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品又は食品分野においては高品質な製剤が求められている。特に医薬品分野では、新規に開発される薬物が不安定なものが増え、利用できる添加物も相互作用の観点から制約されてきている。こうした中で低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、非イオン性の崩壊剤、結合剤として幅広く使用されてきており、好ましい添加剤といえる(特許文献1)。
【0003】
医薬品又は食品分野で、固形製剤、特に錠剤を製造するには、薬物と添加剤を混合してそのまま打錠する直接打錠法と、薬物と添加剤の混合物を結合剤溶液や水等の適当な溶媒を用いて造粒し、これを乾燥した後に打錠する湿式造粒法が挙げられる。前者は薬物や添加剤の流動性、成型性が不足する場合には、ロール成型(乾式造粒)後に解砕して、打錠する方法等が取られることがある。また、後者では撹拌造粒機を用いる場合と流動層造粒機を用いる場合がある。
【0004】
湿式造粒法は、一般に結合剤を使用するため造粒操作により、粉体の持つ圧縮成型性そのものを大きく改善することができる。一方、直接打錠法では薬物と添加剤の圧縮成型性がそのまま反映されるため、薬物の配合比率と添加剤の性能によりその適用範囲が制限される。
【0005】
直接打錠法は、工程がシンプルで工程管理が容易なため、近年、採用されるケースが増えてきているものの、一般に湿式造粒法と比較すると成型性を確保するためにより多くの添加剤が必要となる。高成型性の添加剤としては結晶セルロースが広く、錠剤の製造に使用されている。また、近年(特許文献2)に示されるように、より高成型性の結晶セルロースが開発されている。しかしながら、高成型とするために単位重量当たりの粒子の比表面積を増加させたため、かさ密度が低下している。このため、成型性を確保するために高成型グレードを多量に使用すると粉体の臼への充填性が低下し、錠剤重量のばらつき等の問題点があった。特許文献3に示されるようにかさ密度の低い高成型グレードとかさ密度の高い高流動グレードを組み合わせることで問題点を解決する方法が提案されている。その他の高成型の添加剤としては、スプレードライのリン酸カルシウムを用いる方法が提案されている(特許文献4)。しかしながら、リン酸塩は非イオン性の添加剤と比較して、薬物との配合性が悪く、その使用は制限される。同様に、スプレードライのメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等も利用される。
【0006】
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、非イオン性で安定性に優れ、成型性も兼ね備えているため、好ましい添加剤であるが、従来市販されている低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、繊維状粒子を多く含み、流動性に欠けるもので、直接打錠法に適用するには流動性の良いその他の添加剤と併用する必要があり、また、その添加量にも制約があった。
【0007】
これを改善した低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが、重質で流動性に富むものとして、特許文献5及び6に開示されているものの、圧縮成型性の点で結晶セルロース等と比較すると満足できるものではなかった。成型性の改善は、特許文献7に開示されるように、微粉化により比表面積を増加させることで達成される反面、微粉化により流動性が低下する問題があった。
【0008】
特許文献8には、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造過程で、反応後の溶解晶出工程でかさ密度と繊維状粒子の割合を制御し、流動性を改善する方法が開示されているが、特許文献9に開示されるように、中和し反応生成物を部分溶解することで、逆に成型性は低下してしまう。
【0009】
特許文献1には、篩い分けで繊維状粒子を取り除くことで、流動性を改善する方法が開示されているが、篩い分けで取り除くことのできる繊維状粒子の割合には限りがあり、その改善効果も限定的であった。
【0010】
流動性が低く、水に敏感な薬物の場合、乾式造粒を適用してから打錠するケースが多くみられる。その場合ロール成型後の解砕で微粉が発生してしまうと打錠障害が生じることが知られている。解砕後の微粉の発生を少なくする方法としては、ロール成型時のロール圧を高くするとことが考えられるが、あまり高くすると打錠時の圧縮成型性が低下し、必要な錠剤硬度が得られなくなる。これらの問題点を解決する方法としては、水分を調節(増加させた)したコメデンプンを用いる方法が特許文献9に開示されている。この方法では市販のコメデンプンをそのまま使うことができず煩雑である。また、高水分のコメデンプンの使用は、製剤の安定性の観点から好ましくない。
【0011】
同様に微粉の発生を抑制する方法として、低融点の油脂類を用いる方法が特許文献10に、更にロール成型時のロールへの付着を低減させる目的で、前記低融点の油脂類と軽質無水ケイ酸を組み合わせる方法が特許文献11に開示されている。しかしながら、これらの低融点物質を用いる場合、組み合わせる添加剤の配合量によっては、崩壊遅延を起こす、あるいは安定性が低下する等の問題点が見られた。
【0012】
このように低いロール圧でも微粉の発生を少なくするために、特許文献9及び10では塑性変形性に富む添加剤が提案されている。
【0013】
結晶セルロースは、塑性変形性に富む添加剤で低圧化でも塑性変形し、十分な強度のロール成型物が得られる反面、ロール成型後の粉末は、成型前の粉末と比べ、著しく塑性変形性が失われる。このため、ロール成型後の打錠では、直接打錠法に比べ、錠剤硬度は大きく低下する問題が見られた。
従来市販されている低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは結晶セルロースと比べ、塑性変形性が不足し、微粉の発生を抑制するためには多くの添加量が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平7-324101号公報
【特許文献2】国際公開第02/002643号パンフレット
【特許文献3】特開2007-186470号公報
【特許文献4】特開2006-335771号公報
【特許文献5】特開平11-322802号公報
【特許文献6】特開2001-114703号公報
【特許文献7】特開2001-200001号公報
【特許文献8】特開平10-305084号公報
【特許文献9】特開2006-176496号公報
【特許文献10】特開2002-234832号公報
【特許文献11】特開2008-50264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記従来技術の欠点を解消するためになされたものであり、非イオン性で安定性に優れる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの成型性と流動性を改善し、添加量の制約を受けること無しに使用できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、低置換度ヒドロキシプルピルセルロースの粉体物性について、成型性を犠牲とすることなく、流動性を改善する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、アルカリセルロースをエーテル化して得られる、無水グルコース単位当たりの置換モル数が0.1〜0.4の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを圧密摩砕する工程と、圧密摩砕された低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを気流分級装置で処理して、平均粒子径が20〜50μm、90%積算粒子径が50〜100μm、及び平均粒子径と90%積算粒子径との比(90%積算粒子径/平均粒子径)が2.4以下である低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を得る分級工程とを少なくとも含んでなる低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末の製造方法が提供できる。
また、この方法で製造された、無水グルコース単位当たりの置換モル数が0.1〜0.4の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を乾式造粒して造粒物を得る工程と、上記造粒物を乾式直接打錠する工程とを少なくとも含む固形製剤の製造方法を提供できる。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、水に不溶で膨潤性を有する粉末であって、高成型性、高流動性を示すものである。この低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、無水グルコース当たりの置換モル数が0.1〜0.4で、平均粒子径が20〜50μmで90%積算粒子径が50〜100μmであり、かつ、90%積算粒子径と平均粒子径との比(90%積算粒子径/平均粒子径)が2.4以下であることを特徴とする。BET法で測定した比表面積は、好ましくは1.0m/g以上であり、圧縮圧50MPaで圧縮成型した時の弾性回復率は、好ましくは7%以下であり、ゆるめ嵩密度は、好ましくは0.3〜0.4g/mLである。
また、本発明によれば、上記高成型性、高流動性の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを好ましくは20質量%以上含有し、保存安定性に優れる固形製剤を提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高成型性、高流動性の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、添加量の制約を受けること無く、使用できる利点を有する。このため、従来、流動性を改善するために併用された低置換度ヒドロキシプロピルセルロース以外の添加剤を排除でき、組成を単純化することができる。これにより、安定性に優れる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの配合量の増加により、より安定性に優れる固形製剤を提供できる。また、崩壊性に優れる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの配合量の増加により、溶出特性に優れる固形製剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】粒度分布幅と錠剤質量バラツキの関係を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の高成型性、高流動性の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、高い流動性と成型性を有するため、高添加で固形製剤に使用できる。従来にない高添加とは、固形製剤組成中20質量%以上を指す。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末は、高成型性を保持するために、無水グルコース単位当たりの置換モル数が0.1〜0.4の範囲が好ましく、より好ましくは0.3を超えて0.4以下である。これは市販品の0.1〜0.3の範囲より高く、このため粒子の塑性変形性に優れる。また、0.4超過では製剤の崩壊時間が遅延する恐れがある。
【0020】
一般的に同一粉体では、粉体の比表面積が高いほど、結合性が高い粉体となることが知られている。比表面積の分析は、粉体粒子表面に吸着占有面積の判った分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法であり、不活性気体の低温低湿物理吸着によるBET法を用いることができる。例えば、MICROMERITICS GEMINI 2375(島津製作所社製)を用いて測定できる。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末は、比表面積は1.0m/g以上が好ましく、これ以下では所望の成型性が得られない場合がある。
【0021】
弾性回復率は、粉体の圧縮成型性を示す指標である。粉体を直径11.3mmで、接触面が平面である平杵を用いて、錠剤質量480mg、圧縮圧50MPaで圧縮成型したときの錠剤厚みより、次式から求めることができる。
弾性回復率={(30秒後の錠剤厚み−最小錠剤厚み)/(最小錠剤厚み)}×100
ここで、「最小錠剤厚み」は、下杵が固定された平杵を用いて上杵にて粉体を圧縮したときの最下点、すなわち錠剤が最も圧縮されたときの厚みをいう。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末の弾性回復率は、好ましくは7%以下であり、結合剤として汎用される結晶セルロースと類似の塑性変形体であり、緻密な成型体を形成することができる。
【0022】
粉体の粒度分布は、粉体の流動性等の特性を決定する重要な指標である。粒度分布の測定には、様々な方法とその代表粒子径の選択により、その結果が大きく異なることが知られている。本発明では、レーザー回折法を用いた粉体粒子径測定方法による体積平均径で記述している。例えば、HELOS&RODOS(日本レーザー社製)を用いて測定できる。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末は高い成型性を保ちながら、高流動性を保持するために、平均粒子径の範囲は20〜50μmが好ましい。平均粒子径が20μm未満では、粉体の凝集性が増大し、粉体の流動性が低下する。また、50μmを超えると十分な比表面積が確保できず、成型性が低下してしまう。また、90%積算粒子径は50〜100μmの範囲が好ましく、さらに、90%積算粒子径と平均粒子径の比(90%積算粒子径/平均粒子径)が2.4以下が好ましい。この比が小さいほどシャープな粒度分布を示すもので、このように粒子径が揃っていると良好な流動性を示す。既存の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースでは、この比は2.5〜3.5の範囲にあり流動性が低く、製剤中に高添加で使用できない。即ち、既存の置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、特公昭57−53100号公報に記載されているようにエーテル化反応終了後に、反応触媒として用いられたアルカリを水中で部分的に中和し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを一部溶解させて、繊維質部分を調整している。また、特開平10−305084号公報では粉砕はハンマーミル等の衝撃型粉砕機によって行われることが記載されている。このように方法で得られた粉体は、原料パルプ由来の繊維状形態とアルカリに溶解後、中和析出した球状の粉体との混合物で、粒子形状の異なる粒子の混合物であった。このような粉体を後述の気流分級装置を使用しても、粒度分布比の低い、流動性に優れる粉体を得ることは難しかった。本発明では、ロールやボール等の媒体を用いて粉体を圧密摩砕することにより、粉砕物は粒子形状が揃った粉体となる。このような粉砕物を後述の気流分級装置を用いることにより、粒度分布比が2.4以下で流動性に優れる粉体を得ることができる。
【0023】
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末のゆるめ嵩密度は、容量既知の容器に軽く充填した粉の重量を測定することにより算出できる。例えばパウダーテスター( ホソカワミクロン社製)を用いて直径5.03cm、高さ5.03cmの100mlの円筒容器( ステンレス製)に試料をJISの2 4 メッシュの篩を通して、上方(23cm)から均一に軽く(タップすることなくの意味である)充填し、上面をすり切って質量を測定することにより測定できる。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末のゆるめ嵩密度は、0.3〜0.5g/mLが好ましく、さらに好ましくは0.3〜0.4g/mLである。ゆるめ嵩密度が0.3g/mL未満だと粉体の流動性は低下する恐れがある。特に高速打錠においては、臼への充填が追いつかなくなり、錠剤重量にばらつきが生じる恐れがある。また、0.5g/mLを超える場合には、成型性が低下する場合がある。
【0024】
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末は、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形製剤に添加量の制約無く使うことができる。特に、流動性と成型性が求められる直接打錠法又は乾式造粒法を併用して製される錠剤が好適である。
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製剤中の添加量は20質量%以上が好ましく、さらに好ましくは40質量%以上である。20質量%未満では成型性の低い薬物では実用的な硬度を有する錠剤が得られない場合がある。また、崩壊性、溶出性に優れる錠剤が得られない場合がある。上限については薬物の有効量等によって異なるが、好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。
【0025】
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末は、粒子径が揃っているため、混合の均一性の点でも優れ、混合の均一性と混合粉体の流動性が求められるカプセル充填用途も好ましい適用分野である。
また、球形顆粒の製造において、糖等の核粒子に薬物と添加剤の混合物を散布し、結合剤溶液をスプレーしながら造粒するレイヤリングでは、既存の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末に比べて、粒子径が揃っているため、球形度の高い顆粒を製造することができる。
【0026】
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、特許文献9に記載されているような従来公知の方法を利用することにより製造できる。例えば、無水グルコース単位あたりの置換モル数が0.1〜0.4である低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末の製造方法は、粉末化したパルプに無水セルロースに対する苛性ソーダの質量比が0.1〜0.3となる量で苛性ソーダ水溶液を添加混合してアルカリセルロースを製造する工程と、得られたアルカリセルロースのエーテル化反応を行って粗反応物を得る工程と、得られた粗反応物中に含有される苛性ソーダを中和する工程と、その後の洗浄・脱水工程と、乾燥工程とを含んでなる。中和工程は、好ましくは、粗反応物の一部又は全部を溶解する溶解工程を経ることなく、得られた粗反応物中に含有される苛性ソーダを中和する。
具体的には、原料パルプにNaOH水溶液を混合することにより、反応性に富むアルカリセルロースを作製し、次に反応器内部を不活性ガスと置換後、プロピレンオキサイド等のエーテル化剤を仕込み反応させ、反応後の粗反応品中に残存するNaOHを酸により中和後、洗浄、乾燥する。
【0027】
次に、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの乾燥物をローラー、ボール、ビーズ、石臼等の媒体を有する粉砕機にて粉体を圧密後、粉砕するか又は圧密しながら粉砕する圧密摩砕を行う。この圧密粉砕には、ローラーミル、ボールミル、ビーズミル、石臼型粉砕機等の粉砕機が利用できる。ローラーミルは、ローラー又はボールが、その回転運動に伴う遠心力や重力荷重により、ミル壁の被粉砕物を圧縮・剪断しながら転がる粉砕機で、石川島播磨重工業社製ISミル、栗本鐵工所社製VXミル、増野製作所社製MSローラーミル等が利用できる。ボールミルは、鋼球、磁性ボール、玉石及びその類似物を粉砕媒体とする粉砕機で、栗本鉄工社製ボールミル、大塚鉄工社製チューブミル、FRITSCH社製遊星ボールミル等が利用できる。ビーズミルはボールミルと類似するが、使われるボールの径が小さく、機器内部が高速回転することにより、ボールの加速度をより高めることができる点で異なり、例えばアシザワ製作所社製のビーズミルが利用できる。石臼型粉砕機は、石臼が狭いクリアランスで高速回転することにより粉体を摩砕することができる機械で、例えば増幸産業社製のセレンディピターが利用できる。特に金属異物の混入が少なく、設置面積が小さく、生産性の高いローラーミルが好ましい。
ここで、上記の様な圧密摩砕することにより、比表面積の増大と、塑性変形性が向上し、成型性が向上する。
【0028】
しかし、上記粉砕機のみでは、得られた粉砕物の粒度分布幅が広い場合があり、流動性の高い粉体が得られない場合がある。そこで、本発明は、分級により、粒度分布幅を改善し、流動性を改良した。
その分級装置としては、気流分級装置が好適に使用できる。他の機械的篩通過品では粒度分布幅の狭い粉体は得られない。ここでいう気流分級装置は、気流を用いて粉体の粒度を調製するもので、粉体の浮遊速度の違いを利用して分級する装置である。
例えば、分級装置としては、日清エンジニアリング社製ターボクラシファイアー、日本ニューマチック工業社製高精度気流分級機UFCtype、セイシン企業社製ファルマエアーセパレーター等が挙げられる。これらを用いて上記粉砕品を分級し、粒度分布幅の狭い粉体を調製することが可能である。製品の収率又は生産性を考慮して、上記記載の粉砕との組み合わせで使用することが好ましい。
例えば、ローラーミルの上部に気流分級機をセットし、粉砕物が所定の粒度になったものをバグフィルター等で回収する。所定粒度より大きいものはローラーミル内部に滞留し、新たな粉砕原料とともに粉砕を繰り返す。このような組み合わせにより、より効率的に所望の粒子径、粒度分布の粉体が得られる。
【0029】
得られた低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を用いて製剤化する場合に用いられる薬物としては、特に限定されず、中枢神経系薬物、循環器系薬物、呼吸器系薬物、消化器系薬物、抗生物質及び化学療法剤、代謝系薬物、ビタミン系薬物等が挙げられる。
中枢神経系薬物としては、ジアゼパム、イデベノン、アスピリン、イブプロフェン、パラセタモール、ナプロキセン、ピロキシカム、ジクロフェナック、インドメタシン、スリンダック、ロラゼパム、ニトラゼパム、フェニトイン、アセトアミノフェン、エテンザミド、ケトプロフェン等が挙げられる。
循環器系薬物としては、モルシドミン、ビンポセチン、プロプラノロール、メチルドパ、ジピリダモール、フロセミド、トリアムテレン、ニフェジビン、アテノロール、スピロノラクトン、メトプロロール、ピンドロール、カプトプリル、硝酸イソソルビト等が挙げられる。
呼吸器系薬物としては、アンレキサノクス、デキストロメトルファン、テオフィリン、プソイドエフェドリン、サルブタモール、グアイフェネシン等が挙げられる。
消化器系薬物としては、抗潰瘍作用を有するベンズイミダゾール系薬物、シメチジン、ラニチジン、パンクレアチン、ビサコジル、5−アミノサリチル酸等が挙げられる。
抗生物質及び化学療法剤としては、セファレキシン、セファクロール、セフラジン、アモキシシリン、ピバンピシリン、バカンピシリン、ジクロキサシリン、エリスロマイシン、エリスロマイシンステアレート、リンコマイシン、ドキシサイクリン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール等が挙げられる。
代謝系薬物としては、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、アデノシントリフォスフェート、グリベンクラミド、塩化カリウム等が挙げられる。
ビタミン系薬物としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC等が挙げられる。
【0030】
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を用いて製剤化する場合の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末添加量は、固形製剤中に、好ましくは20質量%以上、更に好ましくは20〜80質量%である。また、固形製剤中には、他に薬物に加えて、他の公知の製剤と同様に、乳糖、糖アルコール、コーンスターチ、微結晶セルロース等の賦型剤やステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤を添加することができる。賦型剤の添加量は固形製剤中に、好ましくは10〜50質量%であり、滑沢剤の添加量は固形製剤中に、好ましくは0.1〜3質量%である。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
8.6kgの粉末状のパルプ(無水換算8kg)を130L内部撹拌型反応機に仕込み35質量%苛性ソーダ3.5kgを反応機に仕込み45℃で30分間混合して、無水セルロースに対する苛性ソーダの質量比が0.151のアルカリセルロースを得た。次に、窒素置換を実施し、そこにプロピレンオキサイドを1.68kg(セルロースに対して0.21質量部)添加して、ジャケット温度60℃で1.5時間反応を行い、無水グルコース単位あたりヒドロキシプロポキシル基置換モル数0.34のヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
次に、反応機に50質量%の酢酸11.8kgを添加し、混合して中和を行った。この中和物をバッチ式減圧濾過機にて90℃の熱水で洗浄を行った。この脱水物を流動層乾燥機にて吸気80℃で排気温度60℃になるまで乾燥を行った。
次に乾燥物をローラーミル石川島播磨重工業社製IS−250に日清エンジニアリング社製に気流分級機ターボクラシファイアTC−15Nを上部にセットした粉砕機を使用した。ローラー加圧力3MPa、テーブル回転数90rpm、ターボクラシファイアの回転数350rpm、風量10Nm/分、供給時間5kg/時で粉砕を行い目的の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。この粉体の平均粒子径、90%積算粒子径、粒度分布幅(90%積算粒子径/平均粒子径)、比表面積、弾性回復率、ゆるめ嵩密度を測定した結果を表1に示す。次に、下記組成および打錠条件で乾式直打法により、錠剤を作製した。その錠剤硬度、錠剤質量バラツキRSD(相対標準偏差)を評価した結果を表1に示す。なお、錠剤硬度は、ERWEKA TBH−30にて1mm/秒の圧縮速度で錠剤を圧縮したときの錠剤の破断強度を測定した。
錠剤組成 (質量部)
アセトアミノフェン微粉タイプ 20
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 80
ステアリン酸マグネシウム 0.5
打錠条件
打錠機:ロータリー打錠機 菊水製作所社製 12本立て
錠剤サイズ:200mg/錠、8mm−D、12mm−R
打錠圧:2.5kN、5.0kN、7.5kN
打錠速度:20rpm、60rpm
【0032】
実施例2
プロピレンオキサイドの添加量を1.28kg(セルロースに対して0.16質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして無水グルコース単位あたりヒドロキシプロポキシル基置換モル数0.25のヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
この粗反応物を、実施例1と同様にして、中和、洗浄及び乾燥した。
次に、この乾燥物を、ローラー加圧力4MPa、ターボクラシファイアの回転数200rpmとした以外は実施例1と同様にして粉砕を行い、目的の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。この粉体の測定結果、実施例1と同様に乾式直打法により打錠して得られた錠剤の評価結果を表1に示す。
【0033】
実施例3
プロピレンオキサイドの添加量を0.88kg(セルロースに対して0.11質量部)に変更した以外は実施例1と同様にして、無水グルコース単位あたりヒドロキシプロポキシル基置換モル数0.18のヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
この粗反応物を、実施例1と同様にして、中和、洗浄及び乾燥した。
次に、この乾燥物を、ローラー加圧力6MPa、ターボクラシファイアの回転数450rpmとした以外は実施例1と同様にして粉砕を行い、目的の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。この粉体の測定結果、実施例1と同様に乾式直打法により打錠して得られた錠剤の評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、比表面積が大きく、弾性回復率が低い実施例1〜3の方が比較例1、2より、高い成型性を示した。さらに、粒度分布幅が狭い実施例1〜3では低置換度ヒドロキシプロピルセルロース含量が高い場合においても錠剤質量バラツキの少ない錠剤が製造可能であった。
この粒度分布幅と錠剤質量バラツキの関係を図1に示した。一般的に錠剤の質量バラツキは1%以下が好適と言われており、本発明の粒度分布幅2.4以下であれば低置換度ヒドロキシプロピルセルロース高添加系で高速打錠時においても錠剤質量バラツキは1%以下となることが分かる。
【0036】
実施例4
実施例1と同様の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を用いて、下記組成および打錠条件で乾式直打法により、錠剤を作製した。その錠剤硬度を測定した結果を表2に示す。
錠剤組成 (質量部)
アセトアミノフェン微粉タイプ 80
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 20
ステアリン酸マグネシウム 0.5
打錠条件
打錠機:ロータリー打錠機 菊水製作所社製 12本立て
錠剤サイズ:200mg/錠、8mm−D、10mm−R
打錠圧:5.0kN、7.5kN、10.0kN、12.5kN
打錠速度:20rpm
【0037】
実施例5
実施例1と同様の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を用いて、下記組成および打錠条件で乾式直打法により、錠剤を作製した。その錠剤硬度を測定した結果を表2に示す。
錠剤組成 (質量部)
アセトアミノフェン微粉タイプ 60
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 40
ステアリン酸マグネシウム 0.5
打錠条件
打錠機:ロータリー打錠機 菊水製作所社製12本立て
錠剤サイズ:200mg/錠、8mm−D、10mm−R
打錠圧:5.0kN、7.5kN、10.0kN、12.5kN
打錠速度:20rpm
【0038】
【表2】

【0039】
表1から、比表面積が大きく、弾性回復率が低く成型性の高い実施例4、5の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは添加量20質量%以上であれば、成型性の低い薬物においても錠剤を製造できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリセルロースをエーテル化して得られる、無水グルコース単位当たりの置換モル数が0.1〜0.4の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを圧密摩砕する工程と、
圧密摩砕された低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを気流分級装置で処理して、平均粒子径が20〜50μm、90%積算粒子径が50〜100μm、及び平均粒子径と90%積算粒子径との比(90%積算粒子径/平均粒子径)が2.4以下である低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を得る分級工程と、
を少なくとも含んでなる低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で製造された、無水グルコース単位当たりの置換モル数が0.1〜0.4の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を用いて、乾式直打による又は乾式造粒して得られた造粒物を乾式打錠による固形製剤の製造方法。
【請求項3】
上記造粒物を得る工程において、上記低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末が、上記固形製剤中に20質量%以上含まれるように添加される請求項2に記載の固形製剤の製造方法。
【請求項4】
平均粒子径が20〜50μmであり、90%積算粒子径が50〜100μmで、かつ平均粒子径と90%積算粒子径との比(90%積算粒子径/平均粒子径)が2.4以下である、無水グルコース単位当たりの置換モル数が0.1〜0.4の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末。
【請求項5】
BET法で測定した比表面積が1.0m/g以上であり、圧縮圧50MPaで圧縮成型した時の弾性回復率が7%以下であり、ゆるめ嵩密度が0.30〜0.40g/mLである請求項4に記載の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末を20質量%以上含んでなる固形製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−254756(P2010−254756A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103871(P2009−103871)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】