説明

高架橋柱の最大応答部材角測定装置

【課題】安価で、かつ無電源方式の機械式センサーを用いて、直接的に高架橋柱の最大応答部材角を測定することができる高架橋柱の最大応答部材角測定装置を提供する。
【解決手段】高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、高架橋柱1の上層梁2に第1の治具4により取り付けられるX方向及び該X方向に直交するY方向に配置される2個の無電源方式の機械式ピークセンサー3A,3Bと、前記上層梁2に揺動部8が設けられ、前記2個の無電源方式の機械式ピークセンサー3A,3Bの一端に係合するとともにさらに下方に伸び、その下端部が高架橋柱1の塑性ヒンジ区間を外した位置に第2の治具7により係合するアーム6とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架橋柱の最大応答部材角測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道RCラーメン高架橋の損傷は、通常被災後の随時検査において目視により確認するが、近年その柱の多くは鋼板巻き補強が施されている。そのため目視による損傷の把握が困難なRC柱の本数が増加しているのが現状である。
【0003】
一方、柱端部に生じる最大応答部材角と損傷レベルの関係は概ね把握されている(下記非特許文献1参照)ため、最大応答部材角を効率的に測定することが出来れば、地震時の柱の損傷レベル評価を早期に評価することが可能となり、被災後の復旧作業の効率化や、「ダウンタイム」の減少が期待できる。
【非特許文献1】財団法人鉄道総合技術研究所編:鉄道標準〔耐震設計〕 橋梁および高架橋耐震照査の手引き,研友社,2006
【非特許文献2】下見成明,松井義昌、新川秀一、中泉義政:「最大ひずみ記憶センサーを用いた橋梁の診断技術」,「耐震補強・補修技術,耐震診断技術に関するシンポジウム」講演論文集,Vol.3,pp.143−150,1999
【非特許文献3】財団法人鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(耐震設計),丸善,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の状況に鑑みて、安価で、かつ無電源方式の機械式センサーを用いて、直接的に高架橋柱の最大応答部材角を測定することができる高架橋柱の最大応答部材角測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、高架橋柱の上層梁に第1の治具により取り付けられるX方向及び該X方向に直交するY方向に配置される2個の無電源方式の機械式ピークセンサーと、前記上層梁に揺動部が設けられ、前記2個の無電源方式の機械式ピークセンサーの一端に係合するとともにさらに下方に伸び、その下端部が前記高架橋柱の塑性ヒンジ区間を外した位置に第2の治具により係合するアームとを具備することを特徴とする。
【0006】
〔2〕上記〔1〕記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、前記高架橋柱の柱端部に印加される全方位の振動による任意方向の変位量をX方向とこのX方向に直交するY方向成分に分解し、1つの装置で2方向の最大応答部材角を測定することを特徴とする。
【0007】
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、前記揺動部が2層のボールベアリングから構成されることを特徴とする。
【0008】
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、前記治具の剛性を高めることを特徴とする。
【0009】
〔5〕上記〔2〕記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、前記上層梁に鉄道線路が敷設される場合に、前記X方向が鉄道線路方向、前記Y方向が鉄道線路直角方向である。
【0010】
〔6〕上記〔2〕記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、前記上層梁に道路が設けられる場合に、前記X方向が道路方向、前記Y方向が道路直角方向である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0012】
(1)無電源方式の機械式ピークセンサーにより、簡便に高架橋柱の最大応答部材角の測定を実施することができる。
【0013】
(2)目視による損傷の把握が困難な鋼板巻き補強を含むRC高架橋柱の最大応答部材角を測定することができる。
【0014】
(3)1つの装置で、2方向の高架橋柱の最大応答部材角の測定を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の高架橋柱の最大応答部材角測定装置は、高架橋柱の上層梁に第1の治具により取り付けられるX方向及び該X方向に直交するY方向に配置される2個の無電源方式の機械式ピークセンサーと、前記上層梁に揺動部が設けられ、前記2個の無電源方式の機械式ピークセンサーの一端に係合するとともにさらに下方に伸び、その下端部が高架橋柱の塑性ヒンジ区間を外した位置に第2の治具により係合するアームとを具備する。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の実施例を示す最大応答部材角測定装置の模式図、図2は図1における機械式センサーとしてのピークセンサーの模式図、図3はその最大応答部材角測定装置の外観を示す代用図面としての写真である。
【0018】
この図において、1は高架橋柱、1Aはその高架橋柱1における塑性ヒンジ区間(RC柱部材の基部付近の損傷が集中する箇所)、2はその高架橋柱1に支持される上層梁、3AはX方向に配置される第1のピークセンサー、3BはそのX方向に直交するY方向に配置される第2のピークセンサー〔この第2のピークセンサー3Bは、Y方向に第1の治具(図示なし)が設けられており、Y方向に第1のピークセンサー3Aと同様の構造のピークセンサーが配置されている〕。4はピークセンサー3A,3Bを取りつける第1の治具、5は第1の治具と上層梁の接続箇所、6はアーム、7はそのアーム6の先端部と高架橋柱1との間に設けられる第2の治具、8はアーム揺動部、9はアーム揺動部8を構成する2層のボールベアリング、10は第2の治具7と高架橋柱1との接続箇所である。なお、第2の治具7の先端には、穴(図示なし)が形成されており、その穴にアーム6の先端部が貫通し係合している。また、アーム6とピークセンサー3A,3Bとは、例えば、ピークセンサー3A,3Bの先端部に固定された2個の円筒状体の間に係合するようにしている(図3参照)。
【0019】
また、表1にはピークセンサーの仕様が示されており、例えば、ピークセンサーの寸法は127×18×32mm、重量は155g、検出範囲±10mm、分解能は2μmである。
【0020】
【表1】

ピークセンサー3A,3Bは、図2において、11はケース部分、12は第1の可動部分、13は第2の可動部分、14は正側、15は負側、16は第1の可動部分12に接続される正側最大値検出機構、17は正側最大値検出機構16にかかるポテンショメータ、18は第2の可動部分13に接続される負側最大値検出機構、19は負側最大値検出機構18にかかるポテンショメータである。
【0021】
このように、ピークセンサー3A,3Bは正側14と負側15の両方の最大変位量を検知し、記憶することが可能である。ここで、ピークセンサー3A,3Bの検出範囲が柱の部材角を直接計測できる範囲にないため、図1に示すように、幾何学的な相似の関係を利用して部材角θを測定できる第1の治具4を用いた(非特許文献2参照)。ただし、高架橋柱1の端部では、地震により全方位に振動することが予測される。そこで、図3に示すように、任意方向の変位量をX方向(路線方向)とY方向(路線直角方向)成分に分解し、1つの装置で2方向の最大応答部材角を測定する機構を提供した。
【0022】
この最大応答部材角測定装置を実構造物に設置する場合、第1の治具4と上層梁2の接続箇所5は、第2の治具7と高架橋柱1の接続箇所10は、塑性ヒンジ区間(RC柱部材の基部付近の損傷が集中する箇所)1Aを避ける位置となるようにした。
【0023】
最大応答部材角測定装置に生じるガタつきおよび機械的な歪みは、測定精度に大きく影響する可能性がある。そのため、正弦波加振や円加振による予備実験結果をもとに、アーム揺動部8のボールベアリング9を2層に設置したり、ピークセンサー3を取りつけた第1の治具4と第2の治具7の剛性を高める等、最大応答部材角測定装置の改善を図っている。
【0024】
次に、本発明の最大応答部材角測定装置の実験概要について説明する。
【0025】
最大応答部材角測定装置に、正弦波および模擬地震波(L1とL2地震波)により生じる柱天端の応答部材角を静的に与え、精度確認実験を行った。
【0026】
本実験におけるアーム全長は、1000mm(実構造物においては1000〜2000mm程度を想定している)、ピークセンサーまでのアーム長はX方向をC=230mm、Y方向をD=200mmとした。これらは、高架橋の柱天端の応答部材角、ピークセンサーの仕様および測定精度との関係より設定している。
【0027】
表2に実験に用いた波形について想定した高架橋および入力地震波を示す。
【0028】
【表2】

波形は、まず、線路直角方向の非線形動的解析により得られた柱天端部における各時刻歴での応答部材角を、アーム長先端に与える変位量に逆算し、さらに、線路方向をX方向、線路直角方向をY方向とした両方向に同一変位量を与えることを目的として、振幅を√2倍し、45°方向から入力するものとした。
【0029】
表2に示すように、Case0−1では、入力地震波は正弦波、測定方向はL方向(図3ではX方向:線路方向)を、Case0−2では、入力地震波は正弦波、測定方向はC方向(図3ではY方向:線路直角方向)を、Case1−1では、柱高さ12m(1層)、入力地震波はL1,G3地盤で測定方向はL方向(図3ではX方向:線路方向)を、Case1−2では、柱高さ12m(1層)、入力地震波はL1,G3地盤で測定方向はC方向(図3ではY方向:線路直角方向)を、Case2−1では、柱高さ7m(1層)、入力地震波はL2,G3地盤で測定方向はL方向(図3ではX方向:線路方向)を、Case2−2では、柱高さ7m(1層)、入力地震波はL2,G3地盤で測定方向はC方向(図3ではY方向:線路直角方向)について実験した。
【0030】
次に、その実験結果について説明する。
【0031】
図4にCase0−1、図5にCase1−1および図6にCase2−2の実験結果を示す。
【0032】
これらの図から、正弦波および入力した模擬地震波に対し、センサーは正負側ともに経験した最大応答部材角を測定、記憶できることが分かる。
【0033】
なお、予めセンサーと治具に構造上発生する検知不能な微小な変位(不感帯)量を計測し(図7)、初期値に不感帯量を加えて実験を行っている。本装置における不感帯量は、XY方向および正負側ともに、アーム先端の変位量に換算して3.0mm〔0.003(rad)〕であった。図5と図6に示すように、鉄道標準(非特許文献3参照)により求めた各ケースの損傷レベルの閾値を事前に設定し、最大応答部材角を測定することにより、RC柱の損傷レベルの測定が可能であることを確認した。
【0034】
図8に最大応答部材角の入力値に対する測定値の誤差割合を示す。
【0035】
実験ケースごとの極端な相違は見られなかった。また、応答部材角の値が小さい場合、値にばらつきが見られるものの、応答値が大きくなるにつれて、測定精度が向上する傾向が見られた。変動係数で検討した場合、全データでの変動係数(Cv1)は8.8%、高架橋柱の損傷レベル1と2の閾値程度である部材角0.01(rad)以上のデータで集約すると、変動係数(Cv2)が6.6%であった。
【0036】
以上より、本発明の最大応答部材角測定装置は精度よく最大応答部材角を測定し、高架橋柱の損傷レベルの推定が可能である。
【0037】
上記のように構成したので、鋼板巻き補強を含むRC高架橋柱の最大応答部材角を測定することが可能である。模擬地震波等を与えた精度確認実験の結果、最大応答部材角を概ね誤差10%、損傷レベルの1と2の閾値程度である最大応答部材角0.01(rad)以上では、概ね誤差7%で検知出来ることを確認した。
【0038】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の最大応答部材角測定装置は、高架橋柱の損傷レベルの推定に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例を示す最大応答部材角測定装置の模式図である。
【図2】図1における機械式センサーとしてのピークセンサーの模式図である。
【図3】本発明の実施例を示す最大応答部材角測定装置の外観を示す代用図面としての写真である。
【図4】正弦波:Case0−1の実験例を示す図である。
【図5】L1地震波:Case1−1の実験例を示す図である。
【図6】L2地震波:Case2−2の実験例を示す図である。
【図7】最大応答部材角測定装置の不感帯領域を示す図である。
【図8】最大応答部材角の測定誤差の割合を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 高架橋柱
1A 高架橋柱における塑性ヒンジ区間(RC柱部材の基部付近の損傷が集中する箇所)
2 上層梁
3A 第1のピークセンサー(X方向に配置)
3B 第2のピークセンサー(Y方向に配置)
4 第1の治具
5 第1の治具と上層梁の接続箇所
6 アーム
7 第2の治具
8 アーム揺動部
9 アーム揺動部を構成する2層のボールベアリング
10 第2の治具と高架橋柱の接続箇所
11 ケース部分
12 第1の可動部分
13 第2の可動部分
14 正側
15 負側
16 第1の可動部分に接続される正側最大値検出機構
17 正側最大値検出機構にかかるポテンショメータ
18 第2の可動部分に接続される負側最大値検出機構
19 負側最大値検出機構にかかるポテンショメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)高架橋柱の上層梁に第1の治具により取り付けられるX方向及び該X方向に直交するY方向に配置される2個の無電源方式の機械式ピークセンサーと、
(b)前記上層梁に揺動部が設けられ、前記2個の無電源方式の機械式ピークセンサーの一端に係合するとともにさらに下方に伸び、その下端部が前記高架橋柱の塑性ヒンジ区間を外した位置に第2の治具により係合するアームとを具備することを特徴とする高架橋柱の最大応答部材角測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、前記高架橋柱の柱端部に印加される全方位の振動による任意方向の変位量をX方向と該X方向に直交するY方向成分に分解し、1つの装置で2方向の前記高架橋柱の最大応答部材角を測定することを特徴とする高架橋柱の最大応答部材角測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、前記揺動部が2層のボールベアリングから構成されることを特徴とする高架橋柱の最大応答部材角測定装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、前記治具の剛性を高めることを特徴とする高架橋柱の最大応答部材角測定装置。
【請求項5】
請求項2記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、前記上層梁に鉄道線路が敷設される場合に、前記X方向が鉄道線路方向、前記Y方向が鉄道線路直角方向である高架橋柱の最大応答部材角測定装置。
【請求項6】
請求項2記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置において、前記上層梁に道路が設けられる場合に、前記X方向が道路方向、前記Y方向が道路直角方向である高架橋柱の最大応答部材角測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−51675(P2008−51675A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228682(P2006−228682)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(591248223)株式会社計測リサーチコンサルタント (12)
【Fターム(参考)】