説明

高比重複合繊維の製造方法

【課題】 高比重粒子を含有する芯成分の延伸流動性を向上させて、ボイドや延伸毛羽の発生を最小限に抑制し、比重の高さ(良好な沈降性)と高強度を有する高比重複合繊維を延伸性よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 ポリエチレンテレフタレートを主成分とする鞘成分、高比重粒子を含有するポリエステルを芯成分とする芯鞘複合繊維を、溶融複合紡糸装置を用いて、溶融紡糸し、未延伸繊維を一旦巻き取ることなく連続して延伸し、強度が3.5cN/dtex以上、比重が1.45以上の高比重複合繊維を製造する方法であって、加熱ローラを用いて2段階の延伸(引き揃えは含まず)を全延伸倍率が4.0〜6.0倍となるように行い、2段目の延伸は、温度300℃以上のスチームを繊維に吹き付けながら、延伸倍率1.2〜1.6倍の延伸を行い、その後、弛緩処理を行いながら巻き取ることを特徴とする高比重複合繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯成分中に高比重粒子を含有し、水産資材用途に好適な比重の高さ(良好な沈降性)と高強度を有する高比重複合繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエステルやポリアミド等の合成繊維は高強度であるため、漁網等の水産資材用の繊維として使用されている。
【0003】
水産資材用の繊維の中でも、定置網用途に用いる繊維としては、水中での沈降速度を速くするためと、潮流に対する漁網の保形性を向上させるめに、使用する繊維は比重の高いものが求められている。そして、合成繊維の中でも安価で比較的比重も高く、高強度が得られやすいポリエステルが使用されており、中でもポリエチレンテレフタレート繊維が多く用いられている。
【0004】
近年、さらに比重の高い繊維が求められるようになり、特許文献1や特許文献2に記載されているように、芯鞘型複合繊維の芯成分に高比重粒子を含有させ、比重を1.5乃至は1.7以上とした高比重複合繊維が提案されている。
【0005】
しかしながら、このような複合繊維においては、芯成分に高比重粒子を高濃度に含有させると均一な分散が困難となりやすく、その結果、延伸する際に高濃度に高比重粒子が含有された部分は延伸流動性に劣ることとなり、芯成分にボイド(空隙)が発生し、繊維中の高比重粒子の含有量に相当する比重を有する繊維が得られ難くなったり、あるいは、芯成分の切断によるものと思われる延伸毛羽が発生し、巻き取られた製品に延伸毛羽が多く存在し、製網時の機台の停止が頻繁に起こる等の加工性が劣るという問題があった。
【0006】
このよう現状に鑑み、特許文献3では、芯成分の熱可塑性ポリマーにナイロンを用い、延伸時に350℃以上の加熱蒸気を噴射しつつ延伸倍率4.3〜4.8倍の1段延伸と収縮処理を行う製造方法も提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献3の技術では芯成分の熱可塑性ポリマーがポリエステルの場合、ボイドの発生が多くなり、比重はむしろ低下するので満足される方法ではなかった。
【特許文献1】特開平8−311721号公報
【特許文献2】特開平8−144125号公報
【特許文献3】特許第3335063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、高比重粒子を含有する芯成分の延伸流動性を向上させて、ボイドや延伸毛羽の発生を最小限に抑制し、比重の高さ(良好な沈降性)と高強度を有する高比重複合繊維を延伸性よく製造する方法を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする鞘成分、高比重粒子を含有するポリエステルを芯成分とする芯鞘複合繊維を、溶融複合紡糸装置を用いて、溶融紡糸し、未延伸繊維を一旦巻き取ることなく連続して延伸し、強度が3.5cN/dtex以上、比重が1.45以上の高比重複合繊維を製造する方法であって、加熱ローラを用いて2段階の延伸(引き揃えは含まず)を全延伸倍率が4.0〜6.0倍となるように行い、2段目の延伸は、温度300℃以上のスチームを繊維に吹き付けながら、延伸倍率1.2〜1.6倍の延伸を行い、その後、弛緩処理を行いながら巻き取ることを特徴とする高比重複合繊維の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高比重複合繊維の製造方法によれば、芯成分に高比重粒子を含有する高比重複合繊維をスピンドロー法で製造するに際し、延伸を二段延伸とし、かつ、二段目の延伸を温度300℃以上のスチームを繊維に吹き付けて行うことにより、高比重で沈降性がよく、かつ高強度の繊維を延伸性よく製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の高比重複合繊維の製造方法は、芯成分に高比重粒子を含有している芯鞘型の複合繊維を未延伸繊維の状態で一旦巻き取ることなく、連続して延伸を行うスピンドロー法で製造する方法である。
【0014】
まず、本発明で得られる複合繊維の鞘成分としては、強度と製糸性を考慮し、安価で比較的比重も高く寸法安定性に優れるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称す。)を主成分とするのが好ましい。
【0015】
そして、PETの極限粘度〔η〕は0.9〜1.2が好ましい。極限粘度が0.9より低くなると強度の高い繊維とすることが困難となる場合があり、一方、1.2より高くなると、延伸性が低下する場合があるので好ましくない。
【0016】
次に、芯成分に用いるポリエステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン2,6ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボキシフェノキシ)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はこれらの誘導体と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のジオール化合物とから重縮合されるポリエステル及びその共重合体や混合物等が挙げられる。中でも高比重粒子の分散性や延伸性に優れるPET、ポリブチレンテレフタレート及びこれら主成分とした共重合PETや共重合ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0017】
芯成分の極限粘度〔η〕は、高比重粒子を練り込む前で0.6〜0.9が好ましい。極限粘度が0.6より低くなると、延伸時に芯成分が切断して延伸性が劣るようになる場合があり、一方、0.9より高くなると、延伸流動性が劣るようになる場合がある。
【0018】
本発明において、芯成分に含有させる高比重粒子としては、バリウム、チタン、アルミニウム、タングステン等の金属粒子や二酸化チタン、酸化亜鉛、沈降性硫酸バリウム等の金属化合物を用いることができる。中でも硫酸バリウムは比重が高く、芯成分のポリエステルへの分散性に優れ、延伸性にも優れるため好ましい。
【0019】
また、高比重粒子の最大粒子径(直径)は、延伸性を考慮して4.0μm以下、中でも3.0μm以下とすることが好ましい。
【0020】
芯成分に含有させる高比重粒子の含有量は、芯成分中の30〜70質量%とすることが好ましい。高比重粒子の含有量が芯成分中の30質量%未満になると、繊維比重を高くするためには芯成分の複合比率を大きくする必要性が生じ、鞘成分の複合比率が低下することにより強度の高い繊維とすることが困難となる場合がある。一方、芯成分中の70質量%を超えると、芯成分中に均一に練り込むことが困難となり、延伸流動性に劣るようになる場合がある。
【0021】
また、紡糸時に用いる方法としては、あらかじめ芯成分に用いるポリエステルに任意の高比重粒子を均一に練り込んでチップ化されたものを、そのまま芯成分として用いるのが好ましい。
【0022】
次に、複合繊維の芯鞘複合比は、質量比(芯:鞘)で30:70〜70:30が好ましい。芯成分の比率がこの範囲より小さいと、比重を高くすることが困難となる場合がある。一方、芯成分の比率がこの範囲より大きいと、鞘成分の割合が少なくなり、繊維の強度が低くなる傾向を示す。
【0023】
なお、芯成分と鞘成分ともにその効果や特性を損なわない範囲において、酸化チタンなどの艶消剤、ヒンダートフェノール系化合物等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、難燃剤、抗菌剤、導電性付与剤等が配合されていてもよい。
【0024】
本発明における複合繊維の横断面形状は、芯成分、鞘成分ともに多角形や多葉形状等の異形であってもよい。また、芯成分と鞘成分の中心点が一致していない偏心芯鞘型のものであってもよい。中でも、高強度が得やすいため、芯成分と鞘成分の中心点が一致しており、丸断面形状のものである同心円型の芯鞘型複合繊維が特に好ましい。
【0025】
本発明の高比重複合繊維の製造方法は、スピンドロー法によるものであり、加熱ローラを用いて2段階の延伸(引き揃えは含まず)を行い、続いて弛緩処理を行いながら巻き取るものである。
【0026】
その際、1段目と2段目を合計した全延伸倍率は、4.0〜6.0倍とすることが必要であり、特に4.5〜5.7倍が好ましい。全延伸倍が4.0倍より小さいと高強度が得られ難く、また、6.0倍を超えると高比重粒子を含有する芯成分の延伸流動性が劣るため、延伸性に劣り、ボイドや延伸毛羽が発生しやすくなる。
【0027】
高比重複合繊維を2段階延伸するに際し、2段目の延伸倍率は、1.2〜1.6倍とすることが高強度化や延伸性の面において好ましく、より好ましくは1.3〜1.5倍である。2段目の延伸倍率がこの範囲より外れると、高強度化が困難になったり、延伸性が劣るようになるため好ましくない。
【0028】
また、2段目の延伸は、延伸性を向上させるためにスチームを繊維に吹き付けながら行う必要がある。その理由は、芯成分は高比重粒子を高濃度に含有しているため、低伸度化がより進む2段目の延伸では、延伸流動性が劣る芯成分の切断が要因と思われる延伸毛羽やボイドが発生しやすく、これらを防止するためである。
【0029】
繊維に吹き付けるスチームの温度は300℃以上であるが、好ましくは350〜500℃である。スチームの温度が300℃より低いと延伸性の向上効果が小さく、延伸性が劣るようになる。また、高くなり過ぎるとフィラメント間の融着や糸切れが発生することがあるので、スチーム温度の上限は500℃程度である
2段目の延伸で使用するスチームの圧力は0.3〜0.8Mpaが好ましく、スチーム圧力が0.3Mpaより低くなると延伸性向上効果が低下しやすく、0.8Mpaを超えると、糸切れしやすくなるので好ましくない。
【0030】
なお、本発明においては、1段目の延伸時に繊維にスチームを吹き付けると、延伸張力が低いために延伸がスチーム吹き付け部分に集中し、急激に細化が進むため、芯成分にボイドがより発生しやすくなり、高比重の繊維が得られ難くなるので好ましくない。
【0031】
次に、繊維へのスチームの吹き付け方法はなんら制限されるものではなく、片面あるいは対称に配置されたオリフィスやスリット形状のスチーム吹き出し孔から、繊維の進行方向に向かって30〜80度の角度で繊維に吹き付けて行うことが好ましい。
【0032】
本発明で得られる複合繊維は、比重が1.45以上であり、特に1.50以上であることが好ましい。複合繊維の比重が1.45未満になると、定置網用途に用いる際に、漁網の沈降性や保形性が不十分となる。また、芯成分中に高比重粒子を含有させるものであるため、高比重化するには高比重粒子の含有量を多くする必要がある。しかしながら、高比重粒子の含有量が多くなるに従って繊維を高強度化することは困難となる。したがって、前記したように高比重粒子を芯成分中の70質量%以下にすると、強度3.5cN/dtex以上の繊維を得るためには、繊維比重の上限は1.80とすることが好ましい。
【0033】
また、本発明で得られる複合繊維の強度は3.5cN/dtex以上であり、特に4.0cN/dtex以上であることが好ましい。複合繊維の強度が3.5cN/dtex未満になると、水産資材用途に用いるには不十分な強度のものとなる。そして、前記同様に繊維比重を考慮にいれると、強度の上限は5.0cN/dtexとすることが好ましい。
【0034】
さらに、耐摩耗性や製糸性を考慮すれば、本発明で得られる複合繊維の単糸繊度は10〜30dtex、伸度は15〜20%とすることが好ましい。
【0035】
次に、本発明の高比重複合繊維の製造方法の一実施態様について、さらに説明する。
【0036】
複合型の溶融紡糸装置に、芯鞘複合型の紡糸口金を装着し、芯成分と鞘成分を導入して溶融紡糸を行う。紡出された繊維を口金直下に設置された壁面温度200〜500℃の加熱筒内を通過させた後、冷却装置で温度10〜30℃、速度0.5〜1m/秒の冷却風を吹き付けて冷却し、油剤を付与する。
【0037】
その後、非加熱の第1ローラに引き取り、引き続き、表面温度120〜170℃の第2ローラに掛けて1.005〜1.05倍の引き揃えを行い、表面温度130〜200℃の第3ローラとの間で1段目の延伸を行う。続いて表面温度200〜260℃の第4ローラと第3ローラとの間にスチーム処理機を設置し、300℃以上のスチームを吹き付けながら、全延伸倍率が4.0〜6.0倍となるように、延伸倍率1.2〜1.6倍で2段目の延伸を行う。この後、表面温度100〜200℃の第5ローラとの間で2〜5%の弛緩熱処理を行い、速度1500〜3500m/分でワインダーに巻き取り、強度が3.5cN/dtex以上、比重が1.45以上の高比重複合繊維を得る。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、本発明における各物性の評価は、次の方法で行った。
(a)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(b)強伸度
JIS L−1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に従い、島津製作所製オートグラフDSS−500を用い、試料長25cm、引張速度30cm/分で測定した。
(c)繊維の比重
JIS L−1013 比重(浮沈法)に従い測定した。
(d)延伸性
各5.0kg巻き10チーズ採取し、各々チーズ表面の延伸毛羽を目視にて判定し、以下の3段階で評価した。
○:延伸毛羽の発生がない。
△:1〜2チーズに延伸毛羽が発生していた。
×:3チーズ以上に延伸毛羽が発生していた。
【0039】
実施例1
鞘成分として極限粘度1.1のPETを用い、芯成分として、極限粘度0.8のPETに平均粒子径が0.6μm、最大粒子径2.0μm、比重4.3の沈降性硫酸バリウムを芯成分中の55質量%となるように溶融混合を行ったもの(チップ)を用いた。
そして、芯成分と鞘成分を複合型溶融紡糸装置に導入し、直径0.6mm、孔数60個の紡糸孔を有する芯鞘型複合紡糸口金より、温度290℃、芯鞘質量比(芯:鞘)35:65で溶融紡糸した。
紡出された繊維を壁面温度350℃の加熱筒を通過させた後、横型冷却装置を用いて、温度15℃、速度0.8m/秒の冷却風を吹き付けて冷却し、油剤を付与した。続いて、非加熱の第1ローラに引き取り、表面温度150℃の第2ローラとの間で1.01倍の引き揃えを行った後、表面温度160℃の第3ローラとの間で4.2倍(1段目)の延伸を行った。その後、スチーム処理機を用いて、表面温度400℃、圧力0.4Mpaのスチームを繊維に吹き付けながら、表面温度240℃の第4ローラとの間で1.3倍(2段目)の延伸を行い、温度150℃、速度2015m/分の表面第5ローラとの間で3%の弛緩熱処理を行い、速度2000m/分のワインダーに巻き取り、1110dtex/60フィラメントで同心円型の芯鞘型複合繊維を得た。
【0040】
実施例2
芯鞘質量比を40:60に変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0041】
比較例1〜4
延伸条件を表1に記載したように種々変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から明らかなように、実施例1〜2では、強度が高く、かつ高比重の複合繊維が得られ、また、これらの繊維は延伸性も良好であった。
【0044】
一方、比較例1は、延伸工程でスチームを用いなかったため延伸性が劣り、また、比較例2及び3は、1段目の延伸にスチームを用いたため、急延伸になって得られた繊維の比重もやや低く、延伸性も劣るものであった。さらに、比較例4は、スチームの温度が低かったため延伸性向上の効果がなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを主成分とする鞘成分、高比重粒子を含有するポリエステルを芯成分とする芯鞘複合繊維を、溶融複合紡糸装置を用いて、溶融紡糸し、未延伸繊維を一旦巻き取ることなく連続して延伸し、強度が3.5cN/dtex以上、比重が1.45以上の高比重複合繊維を製造する方法であって、加熱ローラを用いて2段階の延伸(引き揃えは含まず)を全延伸倍率が4.0〜6.0倍となるように行い、2段目の延伸は、温度300℃以上のスチームを繊維に吹き付けながら、延伸倍率1.2〜1.6倍の延伸を行い、その後、弛緩処理を行いながら巻き取ることを特徴とする高比重複合繊維の製造方法。


【公開番号】特開2007−56382(P2007−56382A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239947(P2005−239947)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】