説明

高気孔率の燃料極を形成可能な燃料極材料及びその製造方法

【課題】燃料極の出力特性、耐久性を兼備する高気孔率の燃料極を形成可能な燃料極材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記成分(A)〜(C)を含有し、前記成分(C)の含有量が酸化物換算で10〜40重量%である固体酸化物型燃料電池用燃料極材料:
・粉末X線回折法によって得られる空間群Fm3mの(001)面の半価幅に於いて0.45°未満の半価幅且つ熱機械分析(TMA)における30℃から1300℃までの線収縮率が10%以下である酸化ニッケル(A)、
・安定化ジルコニア(B)、及び
・TMAにおける30℃から1300℃までの線収縮率が20%以上であるニッケル化合物(C)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高気孔率の燃料極を形成可能な燃料極材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化ニッケルと安定化ジルコニアは混合粉として固体酸化物型燃料電池の燃料極材料に用いられており、その材料特性は電極特性や電極構造に大きく寄与している。
【0003】
例えば、酸化ニッケルと安定化ジルコニアを粉砕混合して燃料極材料として用いる場合には、電極成形の際の変形及び収縮が少なく、寸法精度の良い電極を得ることができる。また均一に混合することでムラが少ない充填性の高い電極を得ることができ、それにより得られる電極の出力特性は良好な傾向にある。
【0004】
しかしながら、酸化ニッケルと安定化ジルコニアを均一に混合すればするほど、電極内部の気孔が減少し、電気導電性や触媒活性は優れるものの、燃料ガスの拡散が悪くなり、特に高電流域での運転に於いて出力特性が低下することが知られている。固体酸化物型燃料電池は一般に600〜1000℃の高温で動作させるため、装置の立ち上げ及び立ち下げ時の熱応力が大きい。よって、充填性が高く気孔の少ない電極では、そのような熱サイクル時に掛かる応力によって電極が破損する危険性がある。また逆に気孔が多すぎる場合には電極の強度が不足する場合がある。従って、電極内部には熱応力を緩和でき且つ強度が維持できる適度な量の気孔が存在することが望ましい。
【0005】
一方、安定化ジルコニアと熱収縮の大きな材料(例えば、水酸化ニッケルのみ)を粉砕混合して燃料極材料とした場合、電極成形の際に水酸化ニッケルの熱収縮に起因する収縮が生じることによって気孔率の大きな電極が得られる。しかしながら、収縮が大きすぎることにより電極の寸法精度が低下し、且つ非常に脆く強度不十分な電極が得られやすい。
【0006】
このような問題点を改善するために、例えば、特許文献1には、燃料極を形成する工程に於いて、酸化ニッケルと安定化ジルコニアを有機バインダーでペースト化する際に、カーボンを主成分とする揮発性粒子を少量混練し、共焼結による電極形成の際に寸法精度を維持しつつ、カーボンを電極内部より揮発させて気孔を形成することが記載されている。また、特許文献2には、揮発性カーボン粒子の量やサイズを適正に調整することで適度な気孔率、気孔径を電極に付与することが記載されている。しかしながら、これらの手法に於いては、造孔剤としてカーボンを用いることで比較的簡便に気孔が得られ、寸法精度が維持できる点で利点はあるが、電極形成の際に微量ながらカーボンが電極に残留し、ニッケルを汚染することで出力特性が低下するおそれがある。またカーボン材料は高価な場合が多く副原料による製造コストが上昇するといった問題がある。
【0007】
上記について詳細な説明を以下に述べる。気孔を付与する際に、燃料極の共焼結工程に於ける造孔剤の体積減少量の総量が気孔付与量となる。即ち、造孔剤自身の収縮率が比較的大きい場合には添加量を少なく、収縮率が比較的小さい場合には添加量を多くすることで付与する気孔の量を制御する。しかしながら、収縮率の比較的小さい造孔剤を用いる場合、十分な気孔を得るために電極材料の構成比率に於ける造孔剤の割合を大きくする必要があるために電極形成の際に全体としての体積変動が大きい、即ち寸法精度が悪くなる問題がある。その上、ニッケル化合物以外の造孔剤を用いて電極内に造孔剤が残存した場合、電子伝導、イオン伝導を阻害する懸念がある。そのため、従来では焼結工程で揮発するカーボン材料を最小限の添加量で混合し、寸法精度、出力特性を維持しつつ、気孔を付与していた。しかしながら、その場合でも僅かながら残存するカーボンによる電極汚染、更には副原料コスト上昇という課題がある。
【0008】
その他に、特許文献3には、酸化ニッケル及び安定化ジルコニアの粒径比を大小適宜設定することで幾何学的に空間を形成する手法が記載されている。詳細には微細な酸化ニッケル群と微細な安定化ジルコニア群が電子伝導とイオン伝導を精密に形成し、その上で粗大な安定化ジルコニア群が骨格構造を形成し、ガス透過性、電極強度の双方を保持する。しかしながら、電極を形成する工程に於いて、上記材料を用いて十分な効果を得るためには高い応力による混合手法で微細な粒子群を均一に分散する、更には前記のように分散された微細な粒子群を粗大な粒子群の側に均一に配置する必要がある。その際、添加した粗大な安定化ジルコニア群のサイズが損なわれる可能性があり、十分な効果が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−236137号公報
【特許文献2】特開2005−158269号公報
【特許文献3】特許第4201247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、燃料極の出力特性、耐久性を兼備するためには35〜45%の気孔率を付与することが必要であるが、従来の方法では不十分である。
【0011】
従って、本発明は、燃料極の出力特性、耐久性を兼備する高気孔率の燃料極を形成可能な燃料極材料及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化ニッケル、安定化ジルコニア及びニッケル化合物を含有する特定の混合粉末を用いる場合には、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記の燃料極材料及びその製造方法に関する。
1. 下記成分(A)〜(C)を含有し、前記成分(C)の含有量が酸化物換算で10〜40重量%である固体酸化物型燃料電池用燃料極材料:
・粉末X線回折法によって得られる空間群Fm3mの(001)面の半価幅に於いて0.45°未満の半価幅且つ熱機械分析(TMA)における30℃から1300℃までの線収縮率が10%以下である酸化ニッケル(A)、
・安定化ジルコニア(B)、及び
・TMAにおける30℃から1300℃までの線収縮率が20%以上であるニッケル化合物(C)。
2. 前記成分(A)及び(C)の酸化物換算での総重量:前記成分(B)の重量比が、50:50〜90:10の範囲である、上記項1に記載の燃料極材料。
3. 前記成分(C)は、TMAにおける1300℃の線収縮率が20%以上である水酸化ニッケル(C1)、又は、TMAにおける1300℃の線収縮率が20%以上である酸化ニッケル(C2)である、上記項1又は2に記載の燃料極材料。
4. 前記水酸化ニッケル(C1)が空間群P−3m1の構造を有する、上記項3に記載の燃料極材料。
5. 前記酸化ニッケル(C2)が空間群Fm3mの構造を有し且つその(001)面に於いて0.70°以上の半価幅を有する、上記項3に記載の燃料極材料。
6. 下記成分(A)〜(C)を、前記成分(C)の含有量が酸化物換算で10〜40重量%となるように混合する固体酸化物型燃料電池用燃料極材料の製造方法:
・粉末X線回折法によって得られる空間群Fm3mの(001)面の半価幅に於いて0.45°未満の半価幅且つ熱機械分析(TMA)における30℃から1300℃までの線収縮率が10%以下である酸化ニッケル(A)、
・安定化ジルコニア(B)、及び
・TMAにおける30℃から1300℃までの線収縮率が20%以上であるニッケル化合物(C)。
【0014】
以下、本発明の燃料極材料及びその製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明の固体酸化物型燃料電池用燃料極材料は、下記成分(A)〜(C)を含有し、前記成分(C)の含有量が酸化物換算で10〜40重量%であることを特徴とする:
・粉末X線回折法によって得られる空間群Fm3mの(001)面の半価幅に於いて0.45°未満の半価幅且つ熱機械分析(TMA)における30℃から1300℃までの線収縮率が10%以下である酸化ニッケル(A)、
・安定化ジルコニア(B)、及び
・TMAにおける30℃から1300℃までの線収縮率が20%以上であるニッケル化合物(C)。
【0016】
上記成分(A)〜(C)を使用し、且つ、成分(C)の含有量を上記範囲に設定することにより、寸法精度、出力特性を維持しつつ、電極内部の汚染もなく、且つ電極形成時に従来よりも高い35〜45%の気孔率を付与することができる。特に、空間群Fm3mの(001)面の半価幅に於いて0.45°未満の半価幅且つ30℃から1300℃におけるTMA線収縮率が10%以下の酸化ニッケル(A)と、30℃から1300℃におけるTMA線収縮率が20%以上であるニッケル化合物(C)を混合することにより、アノード形成の際に双方の材料間に大きな収縮差が生じるため、従来の造孔剤としてのカーボン材料を用いなくても燃料極形成の際に十分な気孔を付与することができる。
【0017】
上記成分(A)と成分(C)との間のTMA熱収縮差は、少なくとも10%以上であることが気孔を付与する上で重要である。収縮差が10%未満の場合、アノード形成の際の気孔生成が少なく効果が不十分となるおそれがある。収縮差が大きいほど添加量が少なくなる点で好ましく、具体的には収縮差10%以上が好ましく、収縮差15〜30%がより好ましい。なお、収縮差30%を超えると、成分(C)の添加量が少なくなり過ぎ、電極内に均一に気孔を付与し難くなるおそれがある。よって、収縮差としては10〜30%の範囲が好ましい。
【0018】
成分(B)に該当する安定化ジルコニアの例としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア等が挙げられる。
【0019】
成分(C)に該当するニッケル化合物としては、例えば、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、蓚酸ニッケル等が挙げられる。しかしながら、炭酸ニッケル、蓚酸ニッケルは、従来のカーボン造孔剤同様、電極形成時に電極内部にカーボンが残存する可能性がある。そのため、成分(C)としては、水酸化ニッケル(C1)、又は、酸化ニッケル(C2)を用いることが好ましい。
【0020】
水酸化ニッケル(C1)としては、空間群P−3mlの構造を有するものが好ましい。また、酸化ニッケル(C2)としては、空間群Fm3mの構造を有し、(001)面の半価幅が0.70°以上のものが好ましい。これらの水酸化ニッケル又は酸化ニッケルは、寸法精度、出力特性を維持しつつ、電極内部の汚染もなく、かつ電極形成時に35〜45%の気孔率を容易に付与可能な造孔剤として作用する。
【0021】
本発明では、前記成分(A)及び(C)の酸化物換算での総重量:前記成分(B)の重量比が、50:50〜90:10の範囲であることが好ましい。より好ましくは、60:40〜80:20の範囲である。
【0022】
本発明では、また、成分(C)の酸化物換算での含有量を10〜40重量%に設定する。成分(C)の含有量が10重量%未満の場合、気孔増加分が少なく十分な添加効果が得られない。他方、成分(C)の含有量を40重量%よりも多くした場合、気孔率が高くなりすぎて強度的に脆弱となるおそれがある。即ち、10〜40重量%の間において強度を保持しつつ、出力特性及び気孔率双方の向上が得られる。成分(C)の特に好ましい含有量は15〜35重量%の範囲である。
【0023】
本発明の燃料極材料は、次のようにして製造される。即ち、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を、前記成分(C)の含有量が酸化物換算で10〜40重量%となるように混合することにより得られる。なお、燃料極材料の熱収縮挙動を電極内の全域で均一化させるために精密に混合することが好ましい。また、本発明における気孔形成は、粗大な粒子による幾何学的な気孔形成とは異なり、混合精度に応じて気孔がより均一化する。よって、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル等の比較的応力の高い、精密混合が可能な工業的混合方法が好ましい。
【0024】
なお、本発明で言う「TMAにおける30℃から1300℃までの線収縮率」は、測定試料粉末を所定のサイズを有する成形体とし、熱を印加する前の成型体長とこれを所定の速度で30℃〜1300℃まで連続的に加熱して焼結させた後の成形体長の変化を熱機械分析装置TMAで測定したものである。
【0025】
得られる収縮率は次式のようにして定義され、設定温度下における変化が大きいほど焼結性による収縮が大きく、寸法精度の劣化に繋がるものと考えられる。
【0026】
収縮率(t)=((L−L(t))/L)×100(%)
(収縮率(t)は温度t℃での線収縮率、Lは成形体の焼結前の長さ、L(t)は温度t℃での成形体の長さである。)
線収縮率の測定は以下のようにして実施する。即ち、試料粉末50gを200kg/cmで仮成型した後に1ton/cmの圧力でCIP成型を実施し、得られた成型体から高さ5×5×12mmの形状物を切り出して測定試料とする。この成型体の縦方向の線収縮率の温度変化を、熱機械分析装置TMA(理学電機製 型番:TMA8310)を用いて、大気雰囲気下で10gの加重をかけながら10℃/分の昇温速度で測定する。
【発明の効果】
【0027】
上記のような混合処理によって熱収縮の大きな成分(C)は、電極形成の際に燃料極内部に均一に分布される。塗布された燃料極を共焼結処理する際には成分(A)並びに成分(B)に比べて成分(C)が大きく収縮することによって電極内部には気孔が分散されて形成される。その結果、得られる燃料極は多孔質構造であり、熱応力に強くかつ燃料ガスの拡散性に優れた特性を示す。
【0028】
従来の手法で得られる電極の気孔率は30%程度に留まり、ガス拡散性、熱応力に対する耐久性の観点でより一層の気孔率が求められていた。その課題を顧みて過去に造孔材を電極内部に添加することで気孔を得る手法が報告されているが、造孔材自身が不純物となりうる課題がある。それに対し本発明で用いる手法は造孔する物質が造孔後に電極材料として作用するため、不純物残存の課題は生じない。またその配合比を前述の範囲で調整することで得られる気孔は35〜45%と従来に比べて向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】試験例1におけるニッケル化合物(C1、C2)添加量(酸化ニッケル換算)に対する相対出力密度推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に実施例、比較例及び試験例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
(気孔率測定)
実施例1
空間群Fm3mを有し、(001)面の半価幅が0.36°であり、且つ30〜1300℃におけるTMA線収縮率が1.6%である酸化ニッケル(A)(田中化学研究所製)と、8YSZ(B)(第一稀元素化学製)と、空間群P−3m1を有し、且つ30〜1300℃におけるTMA線収縮率が26.2%である水酸化ニッケル(C1)(田中化学研究所製)とを用意した。上記8YSZは、Yを8mol%含有するイットリア安定化ジルコニアを意味する。
【0031】
上記成分(A)、成分(B)、成分(C1)を酸化物換算で50:40:10の重量比で混合し、ボールミルを用いて湿式粉砕を行った。粉砕後、脱水・乾燥処理を経て得られた複合粉を加圧成形した。得られた成形体を1350℃で酸化焼成後、1000℃の水素雰囲気下で還元焼成することにより還元焼結体を得た。
【0032】
還元焼結体の気孔率を水銀ポロシメーター(島津製作所製、型番:Autopore IV 9500)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0033】
実施例2
酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と水酸化ニッケル(C1)の酸化物換算での重量比を45:40:15に変えた以外は実施例1と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0034】
実施例3
酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と水酸化ニッケル(C1)の酸化物換算での重量比を30:40:30に変えた以外は実施例1と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0035】
実施例4
水酸化ニッケル(C1)を、空間群Fm3mを有し、(001)面の半価幅が0.70°であり、且つ30〜1300℃におけるTMA線収縮率が21.6%である酸化ニッケル(C2)(田中化学研究所製)に変えた。そして、酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と酸化ニッケル(C2)の酸化物換算での重量比を50:40:10に変えた以外は実施例1と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0036】
実施例5
酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と酸化ニッケル(C2)の酸化物換算での重量比を45:40:15に変えた以外は実施例4と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0037】
実施例6
酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と酸化ニッケル(C2)の酸化物換算での重量比を30:40:30に変えた以外は実施例4と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0038】
実施例7
酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と水酸化ニッケル(C1)の酸化物換算での重量比を10:50:40に変えた以外は実施例1と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0039】
比較例1
酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)の酸化物換算での重量比を60:40とし、他の成分を含まない以外は実施例1と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0040】
比較例2
酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と水酸化ニッケル(C1)の酸化物換算での重量比を55:40:5に変えた以外は実施例1と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0041】
比較例3
酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と水酸化ニッケル(C1)の酸化物換算での重量比を15:40:45に変えた以外は実施例1と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0042】
比較例4
酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と酸化ニッケル(C2)の酸化物換算での重量比を55:40:5に変えた以外は実施例4と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0043】
比較例5
酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と酸化ニッケル(C2)の酸化物換算での重量比を15:40:45に変えた以外は実施例4と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0044】
比較例6
水酸化ニッケル(C1)を、空間群Fm3mを有し、(001)面の半価幅が0.54°であり、且つ30〜1300℃におけるTMA線収縮率が15.4%である酸化ニッケル(D)(田中化学研究所製)に変えた。そして、酸化ニッケル(A)とイットリア安定化ジルコニア(B)と酸化ニッケル(D)の酸化物換算での重量比を45:40:15に変えた以外は実施例1と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0045】
比較例7
酸化ニッケル(A)を酸化ニッケル(D)に変えて、更に酸化ニッケル(D)とイットリア安定化ジルコニア(B)と酸化ニッケル(C2)の酸化物換算での重量比を45:40:15とした以外は実施例4と同様にして還元焼結体を作製した。還元焼結体の気孔率の測定結果を表1に示す。
【0046】
比較例8
イットリア安定化ジルコニア(B)と水酸化ニッケル(C1)の酸化物換算での重量比を40:60とし、他の成分を含まない以外は実施例1と同様にして還元焼結体を作製した。得られた成型体には所々に割れ・欠けが見られた。また気孔率測定の際の圧力によって成型体構造の崩壊が生じ、測定できなかった。
【0047】
【表1】

【0048】
(電気化学的測定)
試験例1(固体酸化物型燃料電池の作製)
下記条件下で、固体酸化物型燃料電池を作製した。
【0049】
燃料極(アノード)については、実施例1〜7及び比較例1〜8で得られた酸化ニッケル−安定化ジルコニア複合酸化物を一種類ずつ用いて15種類作製した。
セル形状
セル直径;20mmφ
電解質厚さ;500μm
各電極の直径;0.64cm
電解質;8YSZ(東ソー製、TZ−8YSB)
カソード;LSM−80F(第一稀元素化学製)と10Sc1CeSZ(第一稀元素化学製)を重量比1:1で混合
セル製造条件
1)電解質
1)−1 成形;プレス成型の後CIP処理 (CIP圧;1.3t/cm
2)−2 焼成;1500℃×2hr
3)−3 加工;上下面→平面研削 外径→円筒研削
2)アノード
・スクリーンマスク ST#165 乳剤厚20μm
・印刷回数 2回
・焼き付け温度 1300℃×2hr
3)カソード
・スクリーンマスク ST#165 乳剤厚20μm
・印刷回数 2回
・焼き付け温度 1200℃×2hr
<発電評価>
作製した固体酸化物型燃料電池を測定冶具にセットし、それを電気炉内に設置した後、電気炉を1000℃まで昇温させた。1000℃に達したら窒素ガスを150(ml/分)10〜20分フローさせ、その後1時間で900℃まで降温し、アノード側にH:N=5:95の混合ガスを150(ml/分)、カソード側にAirガスを150(ml/分)フローさせ、単セルの起電力が安定するまで保持した。その後、30分で電流密度0から300mA/cmにまで調整し、その電流値を30分保持後の端子電圧を読み取った。
【0050】
読み取った電圧値(mV)に電流密度を乗じ、出力密度とした。またそれぞれ得られた出力密度を比較例1の酸化ニッケル−安定化ジルコニア複合酸化物を用いて作製した電池の出力密度で除することにより得られた相対値(%)を表2、ニッケル化合物(C1、C2)添加量(酸化ニッケル換算)に対する相対出力密度推移を図1に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2の結果から明らかなように、本発明の燃料極材料(実施例1〜7)を用いる場合に、比較例の燃料極材料を用いた場合よりも相対的に高い出力密度が得られることが分かる。
【0053】
燃料極材料中の成分(C)の含有量が40重量%を超えた場合に、出力密度が低下する理由としては、次の通りである。即ち、アノードにはニッケルによって形成される電子伝導経路、ジルコニアによって形成される酸化物イオン伝導経路及び気孔によって形成されるガス伝導経路の3経路が必要とされる。これらの中でもガス伝導経路が不足する場合、燃料ガスが電極に行き渡らずに実質有効な電極面積が低下することとなり、出力が低下する。この傾向は燃料利用率を向上する、つまり燃料供給量を絞っていくほどに顕著となる。そのため、気孔率を向上することは実用化を見据えた出力向上に寄与するものと考えられるが、気孔率を向上させすぎた場合、つまり成分(C)が40重量%を超える場合には、電極内部に存在するニッケル同士の結合やジルコニア同士の結合が切れやすくなり、必要な電子伝導性、イオン伝導性が損なわれる結果となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)〜(C)を含有し、前記成分(C)の含有量が酸化物換算で10〜40重量%である固体酸化物型燃料電池用燃料極材料:
・粉末X線回折法によって得られる空間群Fm3mの(001)面の半価幅に於いて0.45°未満の半価幅且つ熱機械分析(TMA)における30℃から1300℃までの線収縮率が10%以下である酸化ニッケル(A)、
・安定化ジルコニア(B)、及び
・TMAにおける30℃から1300℃までの線収縮率が20%以上であるニッケル化合物(C)。
【請求項2】
前記成分(A)及び(C)の酸化物換算での総重量:前記成分(B)の重量比が、50:50〜90:10の範囲である、請求項1に記載の燃料極材料。
【請求項3】
前記成分(C)は、TMAにおける1300℃の線収縮率が20%以上である水酸化ニッケル(C1)、又は、TMAにおける1300℃の線収縮率が20%以上である酸化ニッケル(C2)である、請求項1又は2に記載の燃料極材料。
【請求項4】
前記水酸化ニッケル(C1)が空間群P−3m1の構造を有する、請求項3に記載の燃料極材料。
【請求項5】
前記酸化ニッケル(C2)が空間群Fm3mの構造を有し且つその(001)面に於いて0.70°以上の半価幅を有する、請求項3に記載の燃料極材料。
【請求項6】
下記成分(A)〜(C)を、前記成分(C)の含有量が酸化物換算で10〜40重量%となるように混合する固体酸化物型燃料電池用燃料極材料の製造方法:
・粉末X線回折法によって得られる空間群Fm3mの(001)面の半価幅に於いて0.45°未満の半価幅且つ熱機械分析(TMA)における30℃から1300℃までの線収縮率が10%以下である酸化ニッケル(A)、
・安定化ジルコニア(B)、及び
・TMAにおける30℃から1300℃までの線収縮率が20%以上であるニッケル化合物(C)。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−81955(P2011−81955A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231625(P2009−231625)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(592197418)株式会社田中化学研究所 (34)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】