説明

高液状性パーム油の製造方法および高液状性パーム油

【課題】簡便な方法により、液状性が高く、また風味のよいサラダ油に適した高液状性パーム油を改善された収率で得る。
【解決手段】高液状性パーム油の製造方法が、(A)パーム系油脂をリパーゼを用いてエステル交換する工程と、(B)前記エステル交換する工程において得られたエステル交換油脂を分別して、SSS(Sは飽和脂肪酸、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリドを意味する)を除去する工程と、を含み、前記工程(A)および(B)を2回以上繰り返すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素的エステル交換および分別を繰り返すことによりパーム系油脂から高液状性油を得る、高液状性パーム油の製造方法および高液状性パーム油に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用サラダ油としてはキャノーラなどの菜種油が主流である。しかしながら、昨今、ヨーロッパなどでのバイオディーゼルの急速な普及により、菜種油の価格が高騰し、サラダ油の製造コストが高くなっている。また、菜種油は今後供給面でも逼迫することが予測される。そこで、安価でしかも供給が安定なパーム系油脂を原料にサラダ油を製造することができれば極めて有意義である。
【0003】
パーム系油脂から高液状性油を得る方法としては、アルカリ触媒を用いる化学的エステル交換法がある。非特許文献1に開示のダイレクテッドエステル交換においては、パーム油をアルカリ触媒を用いて30℃前後でエステル交換を行う。トリ飽和脂肪酸グリセリドを結晶化させ、反応系から除去しながら、反応を進行させることにより、高液状性油が得られることが記載されている。しかしながら、この方法では触媒除去が煩雑で収率が悪い。収率を向上させるためには溶剤分別が必要となり、作業がより煩雑となる。
【0004】
非特許文献2には、多段ドライ分別法が開示されている。この方法では、パーム油からドライ分別を3回行い、ヨウ素価70の高液状性パーム油を得ている。得られた高液状性パーム油は単独でサラダ油冷却試験をクリアするが、収率が低く、また製造時間も長い。
【0005】
非特許文献3には、化学的エステル交換と分別とを行うことが記載されている。パーム油をアルカリ触媒を用いてエステル交換を行い、触媒除去後、分別にて高融点部を除去して液状部を得ている。ただし、この方法も触媒除去が煩雑で収率が悪いうえ、液状性も十分ではない。
【特許文献1】特開昭61−293389号公報
【特許文献2】特開平8−38190号公報
【非特許文献1】Regina C.A.Lago and Leopold Hartman,J.Sci.Food Agric,37,pp.689−693(1986)
【非特許文献2】Dry multiple fractionation:trends in products and applications,Lipid Technology,7,pp.34−38(1995.3)
【非特許文献3】米国特許公報第2,442,531号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、化学的エステル交換法では、触媒除去が煩雑で収率が悪い。収率を向上させるためには溶剤分別が必要となり、作業がより煩雑となる。また、アルカリ触媒を用いる影響で精製を行っても油の風味が悪く、色も濃くなる。また、多段分別法では、収率が低く、製造時間も長い。さらに、液状性も十分ではない。
【0007】
上記課題を解決するために、パーム系油脂の酵素的エステル交換により高液状性パーム油を得る方法がある(特許文献1および2)。しかしながら、従来の方法では依然として液状性が十分ではなく、特に高い液状性が要求されるサラダ油等への使用に適したものは得られていなかった。また、従来では、通常、パーム系油脂と液状性の高い他の油脂とを混合したものが原料として用いられており、パーム系油脂単独を原料として、高い収率で高液状性油を得ることは依然として困難であった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、簡便な操作により、収率よく、液状性の高められたパーム油を製造する方法および高液状性パーム油を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、(A)パーム系油脂をリパーゼを用いてエステル交換する工程と、
(B)エステル交換する前記工程において得られたエステル交換油脂を分別して、SSS(Sは飽和脂肪酸、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリドを意味する)を除去する工程と、
を含むパーム油の製造方法において、前記工程(A)および(B)を2回以上繰り返す、高液状性パーム油の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の製造方法は、パーム系油脂の液状性を高めるために、リパーゼを用いたエステル交換を行った後、分別で高融点トリグリセリドを除去するという一連のサイクルを繰り返すことを特徴とする。パーム系油脂の酵素的エステル交換を行うことにより、油脂中の飽和脂肪酸を高融点のトリ飽和脂肪酸グリセリドとし、その後分別にてこれを除去する。この一連の工程を2回以上繰り返すことによって、油脂中の飽和脂肪酸を著しく減じることができ、液状性が向上される。
また、本発明ではリパーゼを用いた酵素的エステル交換を行うため、化学的エステル交換を用いる場合と比較して、水洗などの触媒除去工程が不要で操作が簡便であり、収率も良い。分別でも特に複雑な操作は必要とされず、要する時間も比較的短時間である。また、アルカリ触媒を用いないため、得られた液状油の風味が良好であり、色が濃くなることもない。
【0011】
また、本発明によれば、工程(A)後に工程(B)を行う一連の操作を3回以上繰り返す、高液状性パーム油の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、工程(A)において、ランダムエステル交換能を有するリパーゼを用いる、高液状性パーム油の製造方法が提供される。
さらに、本発明によれば、工程(B)において、分別をドライ分別により行う、高液状性パーム油の製造方法が提供される。
さらに、本発明によれば、前記工程(A)において、ランダムエステル交換能を有するリパーゼを用い、および前記工程(B)において、分別をドライ分別により行う、高液状性パーム油の製造方法が提供される。
【0012】
さらに、本発明によれば、パーム系油脂から、リパーゼを用いたエステル交換と前記エステル交換により得られたエステル交換油脂の分別とを繰り返すことによりSSS(Sは飽和脂肪酸、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリドを意味する)を除去して得られた高液状性パーム油であって、
(i)PPP(Pはパルミチン酸、PPPはパルミチン酸3つで構成されるトリパルミチンを意味する)含量が0.2質量%以下、
(ii)PO(Oはオレイン酸、POはパルミチン酸2つとオレイン酸1つで構成されるトリグリセリドを意味する)含量が16質量%以下、
(iii)POP/(POP+PPO)(POPは1および3位がパルミチン酸、2位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドを意味し、PPOは1および2位がパルミチン酸、3位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドと、2および3位がパルミチン酸、1位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドとを意味する)比が0.3以上、0.6以下、
(iv)ヨウ素価が70以上、
である高液状性パーム油が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、本発明の製造方法により得られた高液状性パーム油を単独でまたは他の液状油と混合して得られるサラダ油が提供される。
本発明では、サラダ油に高液状性パーム油を用いることによって、耐熱性が向上する。従って、通常の菜種油を主体としたサラダ油よりも長持ちし、廃油処理などを考慮すると環境面からも良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便な方法を用いて、液状性が高く、また風味のよいサラダ油に適した高液状性パーム油を高い収率で得ることができる。さらに、高液状性パーム油を用いるので、通常の菜種油を主体としたサラダ油よりも長持ちし、廃油処理などを考慮すると環境に優しいサラダ油を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の説明において、Sは飽和脂肪酸、Pはパルミチン酸、Oはオレイン酸、およびLはリノール酸を意味する。また、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリド、PPPはパルミチン酸3つで構成されるトリパルミチン、OOOはオレイン酸3つで構成されるトリオレインを意味する。さらに、POPは1および3位がパルミチン酸、2位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドであり、PPOは1および2位がパルミチン酸、3位がオレイン酸で構成されるトリグリセリド、と2および3位がパルミチン酸、1位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドとの両方を包含する。PLPは1および3位がパルミチン酸、2位がリノール酸で構成されるトリグリセリドであり、PLOは1位がパルミチン酸、2位がリノール酸、3位がオレイン酸で構成されるトリグリセリド、と3位がパルミチン酸、2位がリノール酸、1位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドとの両方を包含する。
【0016】
本発明の製造方法の工程フローを図1に示す。本発明の方法は、パーム系油脂の液状性を高めるために、リパーゼを用いたエステル交換を行った後、固形部と液状部とを分別することにより高融点トリグリセリドを除去するという一連のサイクルを2回以上繰り返すことを特徴とする。
【0017】
図2は、パーム系油脂のランダムエステル交換を概念的に示した図である。パーム系油脂のランダムエステル交換を行うことにより、油脂中にPPPなどの高融点のトリ飽和脂肪酸グリセリド(SSS)が増加する。パーム系油脂には、POPが多く含まれており、その他の成分として、PPO、OOP、PLP、POL、OOO等が混在している。
パーム系油脂における、POPおよびPPOの合計を基準としたPOP比は通常、約0.9〜約0.8である。ランダムエステル交換を行うことにより、PPP、PPO、およびOOOなどが形成され、POPの比率は減少する(図2を参照)。その後、分別にてPPPなどのトリ飽和脂肪酸グリセリド(SSS)を除去し、油脂中の飽和脂肪酸を減じることによって液状性を向上させることができる。さらに、この一連の工程を繰り返すことによって、より液状性を高めることができる。
【0018】
本発明では、酵素的エステル交換を行うため、化学的エステル交換を用いるシステムよりも、高収率で風味の良い高液状性パーム油を得ることができる。また、酵素的エステル交換を用いる方法は触媒除去のための煩雑な作業を必要とせず、廃水量が低減され、環境面でも優れている。従って、操作も簡便なため、設備費およびユーティリティーコストも大幅に低減することができる。
【0019】
本発明で原料として使用されるパーム系油脂の語は、精製および未精製のパーム油、および一回以上の分別によって得られたパームオレインを含む。原料として、パーム系油脂単独で用いても、他の油脂と混合して用いてもよい。しかしながら、本発明では、他の液状性の高い油脂を混合しなくても、パーム系油脂原料から高液状性のパーム油を得ることができる。従って、原料中にパーム系油脂が大部分を占める場合、例えば、パーム系油脂を単独または実質的に単独で用いた場合や他の油脂の混合率が10質量%以下のような場合に、特に本発明の効果が顕著となる。
【0020】
酵素的エステル交換に使用するリパーゼとしては、特に限定されない。しかし、1,3位特異性を有するものでは十分な効果を発揮できない可能性があるため、ランダムエステル交換能を有するものが好ましい。
【0021】
酵素的エステル交換反応条件は、平衡(特にランダム化)に達する条件であれば、特に限定されない。また、反応形態はカラム充填式、バッチ式、またはその他の形態を用いてもよい。
【0022】
分別は、ドライ分別または溶剤分別を用いることができる。しかしながら、溶剤分別は設備投資が高額であり、しかも操作が煩雑であるため、ドライ分別を用いることが好ましい。本発明ではドライ分別を用いても、高い品質を有する液状部を収率良く得ることができる。
【0023】
分別の条件は特に限定されないが、エステル交換油脂を分別して、SSSを除去する条件で行う。分別は複数回行うため、1回目およびそれ以降の分別と、最後の分別とにおいてそれぞれ条件を変えてもよい。好ましくは、最後の分別以外は、PPPなどのトリ飽和脂肪酸グリセリド(SSS)のみを除去するような条件で行う。この段階では必ずしもSSSを完全に除去する必要はなく、2〜3質量%程度残存しても良い。むしろ、最後の分別以外は分別時間、収率を考慮した場合、SSSが2〜3質量%程度残存するような条件で行った方が良い。このような分別条件としては、例えば、分別温度を25〜35℃程度で、30分〜2時間程度行うのが良い。
【0024】
一方、最後の分別では、液状性を高めるためにSSSをほぼ完全に除去し、中融点部であるPO等もある程度除去することが好ましい。このような分別条件としては、例えば、分別の最終温度を0〜10℃程度で、30分〜3時間程度行うのが良い。
【0025】
最終液状部(油脂組成物)はPPPが0.2質量%以下、POが16質量%以下であると、菜種油と50%配合でサラダ油規格の冷却試験をクリアする。さらに、PPPが0.05質量%未満、POを12質量%以下であると単独でサラダ油規格の冷却試験をクリアする。
最後の分別以外はSSSが少し残存する程度の厳しくない条件で分別を行った場合、高収率を維持しつつ工程の煩雑化を回避することができる。
【0026】
酵素的エステル交換−分別の一連の操作は2回以上繰り返し、好ましくは3回以上繰り返す。このような方法により、高配合でサラダ油を調製できる高液状性パーム油が得られる。酵素的エステル交換−分別の一連の操作を1回行う場合でも上記に該当する油脂組成物を得ることは可能であるが、1回のみの操作では高収率でPPPの少ないパーム系油脂を得ることは困難である。すなわち、上記一連の操作1回のみでPPPを完全に除去しようとすると分別条件が厳しくなり、収率が悪くなる。一方、収率を良くしようとすると、得られた油脂組成物が上記の好ましいPPPおよびPO範囲を逸脱し、充分な液状性が得られなくなる可能性がある。
【0027】
ここで、酵素的ランダムエステル交換を行うことにより、POP/PPO比が変化する。パーム系油脂におけるPOPの比率は、POPおよびPPOの合計を基準とした場合約0.9〜約0.8である。一方、ランダムエステル交換すると、POPおよびPPOの合計を基準としたPOP比は約0.33となる。最終的に得られる高液状性パーム油における、POPおよびPPOの合計を基準としたPOP比は、好ましくは0.3以上、0.6以下であり、より好ましくは0.4以上、0.55以下である。
【0028】
図3に、POP/PPO比と融点との関係を示す。POP/PPOの相図によると、POP/PPOが50/50で分子化合物を形成し、POとしては融点が最も低くなる。よって、最終的に得られた油脂組成物のPOPの比がPOPおよびPPOの合計を基準として、約0.5である場合に、PO含量が同じ組成物であれば、最も液状性が高いものが得られる。相図からPOとして析出してくる温度は、ランダムエステル交換した方が低くなることがわかる。従って、ランダムエステル交換を行った方がPPPとPOの融点の差が広がるため、分別時の温度を高くすることができ、PPPを除去しやすくなり、収率が向上する。
【0029】
一連の操作の繰り返し回数は、製造コスト等を考慮して、2〜4回程度が好ましい。
【0030】
本発明の方法により製造されるパーム油は、高い液状性を有する。具体的には、本発明の高液状性パーム油は、PPP含量が0.2質量%以下、PO含量が16質量%以下である。該範囲内で、高液状性パーム油は菜種油の配合が50質量%以下でサラダ油規格の冷却試験をクリアすることが可能である。
また、さらに好ましくは、PPP含量が0.05質量%未満、PO含量が12質量%以下であり、このような範囲内であると単独でサラダ油規格の冷却試験をクリアする。
【0031】
さらに、本発明の高液状性パーム油は、POPの比が、POPおよびPPOの合計を基準として、0.3以上、0.6以下であり、通常のパーム系油脂と比較してPPOに対するPOP比が小さいことを特徴とする。さらに好ましくは、POPの比がPOPおよびPPOの合計を基準として、0.4以上、0.55以下である。これに対し、エステル交換を行っていないパーム系油脂原料のPOPの比は、POPおよびPPOの合計を基準として、通常、約0.9〜約0.8である。上述の通り、PO含量が同じ組成物なら、POP/PPOの比が約50/50である場合、すなわちPOPの比が、POPおよびPPOの合計を基準として、約0.5である場合に、最も液状性が高い。本発明の高液状性パーム油は、PPOに対するPOP比が減少されているため、エステル交換されていないPO含量が同じ組成物と比較して液状性が高くなっている。
【0032】
本発明の高液状性パーム油は、ヨウ素価が70以上であり液状性が高い。ヨウ素価は不飽和結合の量を示す指標である。ヨウ素価が高いほど不飽和脂肪酸の量が多いため、液状性が高くなり、好ましい。
【0033】
さらに、本発明の高液状性パーム油は、エステル交換の際にアルカリ触媒を用いずに製造されているため、風味がよく、色度も低い。また、菜種油やアルカリ触媒を用いたエステル交換油と比較して、耐熱性に優れ、着色上昇率も低い。
【0034】
従って、本発明の高液状性パーム油は液状性が高く、サラダ油への使用にも適したものである。また、従来の菜種油主体のサラダ油と比較して、本発明の高液状性パーム油を高配合で調製したサラダ油は、耐熱性に優れており、フライ油に使用した場合にも長持ちする。また、菜種油は今後、バイオディーゼルの普及により、価格が高騰して供給面でも逼迫すると予測されるが、本発明ではパーム油を利用することにより、価格および供給面においても比較的安定したサラダ油を供給することが可能となる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
ヨウ素価57のパームオレインを60℃、減圧下で窒素バブリングを行い、残存水分を50ppm以下にし、Lipozyme TL IM(ノボザイムズ社)を約4kg充填した直径10cmのカラムに流速1.3kg/hで通液してエステル交換を行った。得られたエステル交換油脂のPPP含量は11質量%、PO含量は28質量%、POP/(POP+PPO)比は0.3であり、ほぼランダム化されていた。このエステル交換油脂10kgをDe Smet社のLab Pilot Fractionation Unit(10kg、以降の分別も同設備を用いて行った)を用いて70℃で完全溶解後、28℃まで急冷し、その後32℃で90分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価62、PPP含量3質量%、PO含量30質量%、POP/(POP+PPO)比0.33の液状部を収率80%で得た(1サイクル目)。この液状部を60℃、減圧下で窒素バブリングを行い、残存水分を50ppm以下にし、同条件でエステル交換を行い、PPP含量9質量%、PO含量24質量%のエステル交換油脂を得た。このエステル交換油脂10kgを70℃で完全溶解後、26℃まで急冷し、その後32℃で40分、30℃で30分、28℃で40分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価66、PPP含量2質量%、PO含量25質量%の液状部を収率85%で得た(2サイクル目)。得られた液状部を60℃、減圧下で窒素バブリングを行い、残存水分を50ppm以下にし、再度同条件でエステル交換を行い、PPP含量6質量%、PO含量22質量%、POP/(POP+PPO)比0.26のエステル交換油脂を得た。このエステル交換油脂10kgを70℃で完全溶解後、19℃まで急冷し、その後25℃で45分、20℃で30分、15℃で90分、10℃で90分、5℃で120分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価75、PPP含量0.1質量%、PO含量14質量%、POP/(POP+PPO)比0.47の液状部を収率66%で得た(3サイクル目)。パームオレインからの収率は45%であった。なお、POP/(POP+PPO)比は液体クロマトグラフィーにて、先ずはODSカラム(例えば、LiChrosorb RP-18 5μm/GL−Pack、ジーエルサイエンス社製)を用いてトリグリセリド種を分画してPO画分を分取後、PO画分を銀イオンカラム(例えば、ChromSpher 5 Lipids、VARIAN社製)を用いてPOPとPPOを分画し、その比を測定した。
【0037】
(実施例2)
実施例1の3サイクル目の分別前のエステル交換油脂(PPP含量6質量%、PO含量22質量%、POP/(POP+PPO)比0.26)を70℃で完全溶解後2000mlビーカーに1200g採取し、撹拌機で撹拌しながら(20rpm)12℃まで急冷し、その後25℃で60分、20℃で30分、15℃で30分、10℃で30分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価76、PPP含量0質量%、PO含量16質量%、POP/(POP+PPO)比0.48の液状部を収率64%で得た。パームオレインからの収率は44%であった。
【0038】
(実施例3)
実施例1の3サイクル目の分別前のエステル交換油脂(PPP含量6質量%、PO含量22質量%、POP/(POP+PPO)比0.26)を70℃で完全溶解後2000mlビーカーに1200g採取し、撹拌機で撹拌しながら(20rpm)12℃まで急冷し、その後25℃で60分、20℃で30分、15℃で30分、10℃で30分、5℃で30分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価78、PPP含量0質量%、PO含量12質量%、POP/(POP+PPO)比0.49の液状部を収率61%で得た。パームオレインからの収率は41%であった。
【0039】
(比較例1)
実施例1の1サイクル目の分別前のエステル交換油脂(PPP含量11質量%、PO含量28質量%、POP/(POP+PPO)比0.30)10kgをDe Smet社のLab Pilot Fractionation Unit(10kg)を用いて、70℃で完全溶解後、28℃まで急冷し、その後32℃で90分、25℃で45分、20℃で30分、15℃で90分、10℃で90分、5℃で120分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価72、PPP含量0.5質量%、PO含量18質量%、POP/(POP+PPO)比0.45の液状部をパームオレインからの収率18%で得た。ろ過性は非常に悪かった。
【0040】
(比較例2)
撹拌機のついた反応装置にヨウ素価57のパームオレイン1kgを投入し、60℃、減圧下で窒素バブリングを行い、残存水分を50ppm以下にした後、20℃まで冷却して窒素気流下で触媒であるナトリウムメトキシド3gを添加した。窒素気流下、20℃で48時間撹拌後、フィルタープレス(12barまで加圧)にて析出した結晶をろ別した(ろ過性は非常に悪い)。得られた液状の反応生成物から触媒を除去するために中性になるまで水洗を行った後、減圧下で水分を除去し、パームオレインからの収率20%で油脂組成物を得た。得られた油脂組成物のヨウ素価は69、PPP含量は1.5質量%、PO含量は20質量%、POP/(POP+PPO)の比は0.43であった。
【0041】
(比較例3)
撹拌機のついた反応装置にヨウ素価57のパームオレイン10kgを投入し、60℃、減圧下で窒素バブリングを行い、残存水分を50ppm以下にした後、窒素気流下で触媒であるナトリウムメトキシド30gを添加した。窒素気流下、60℃で2時間撹拌し、エステル交換を行った。触媒を除去するために中性になるまで水洗を行った後、減圧下で水分を除去し、エステル交換油脂を収率93%で得た。得られたエステル交換油脂のPPP含量は10質量%、PO含量は27質量%、POP/(POP+PPO)の比は0.36であり、ほぼランダム化されていた。このエステル交換油脂10kgをDe Smet社のLab Pilot Fractionation Unit(10kg)を用いて70℃で完全溶解後、28℃まで急冷し、その後32℃で90分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価62、PPP含量3質量%、PO含量31質量%、POP/(POP+PPO)比0.33の液状部を収率77%で得た(1サイクル目)。この液状部を上記記載と同様な方法でエステル交換を行い、PPP含量8質量%、PO含量24質量%のエステル交換油脂を収率94%で得た。このエステル交換油脂10kgを70℃で完全溶解後、26℃まで急冷し、その後32℃で40分、30℃で30分、28℃で40分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価66、PPP含量2質量%、PO含量24質量%の液状部を収率81%で得た(2サイクル目)。この液状部を再度上記記載と同様な方法でエステル交換を行い、PPP含量6質量%、PO含量22質量%、POP/(POP+PPO)比0.32のエステル交換油脂を収率94%で得た。このエステル交換油脂10kgを70℃で完全溶解後、19℃まで急冷し、その後25℃で45分、20℃で30分、15℃で90分、10℃で90分、5℃で120分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価75、PPP含量0.1質量%、PO含量14質量%、POP/(POP+PPO)比0.49の液状部を収率60%で得た(3サイクル目)。パームオレインからの収率は31%であった。実施例1に比べて収率がかなり劣った。
【0042】
(試験例1:油脂組成物の冷却試験)
実施例1〜3および比較例1〜3で得られた油脂組成物を通常の精製(脱酸/脱色/脱臭)を行った。得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合したものおよび得られた油脂組成物単独について、サラダ油規格の冷却試験(0℃、5.5h)を行った。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
上記結果より、実施例1〜3および比較例3で得られた油脂組成物は、菜種油と50質量%配合した場合、サラダ油規格の冷却試験(0℃、5.5h)をクリアした。しかも、実施例3で得られた油脂組成物は単独(100%)でも冷却試験をクリアした。しかし、比較例1および2で得られた油脂組成物を菜種油とそれぞれ50質量%配合した場合は、冷却試験をクリアできず、比較例1および2で得られた油脂組成物の液状性は充分満足できるものではなかった。
【0045】
(試験例2:油脂組成物の色度)
実施例1〜3および比較例3で得られた油脂組成物を通常の精製(脱酸/脱色/脱臭)を行って、ロビボンド比色計(The Tintometer社製)を用いて色度を測定した。結果を表2に示す。なお、用いたセルのサイズは1インチである。また、表2中のRは赤色を、Yは黄色を示す。
【0046】
【表2】

【0047】
上記結果より、実施例1〜3で得られた油脂組成物に比べて、比較例3で得られた油脂組成物は色度が非常に高く、他の液状油を、混合油全体を基準として50質量%配合したとしても、サラダ油として商品にするには耐え難いものであった。
【0048】
(試験例3:油脂組成物の風味試験)
実施例1〜3および比較例3で得られた油脂組成物を通常の精製(脱酸/脱色/脱臭)を行って、風味を専門のパネラー10名が評価した。評価は5点法にて行い、5点:新鮮で非常においしい、4点:非常においしい、3点:おいしい、2点:ややまずい、1点:まずい、とした。結果を表3に示す。なお、表3中の点数は10名の点数の平均点である。
【0049】
【表3】

【0050】
上記結果より、実施例1〜3で得られた油脂組成物は風味が良好であり、サラダ油として充分使用できるものであった。しかし、比較例3で得られた油脂組成物は精製直後でも風味が悪く、サラダ油としての使用には適さないものであった。
【0051】
(試験例4:油脂組成物の空加熱試験)
実施例1〜3および比較例3で得られた油脂組成物を通常の精製(脱酸/脱色/脱臭)を行った後、シリコーン2ppmを添加した。実施例1〜2および比較例3の油脂組成物と菜種油(シリコーン2ppm含有)とをそれぞれ50質量%配合した油脂組成物を、実施例3はそのままの油脂組成物を、直径18cmの丸底磁製皿に300g採取し、180℃、5時間空加熱を行った。比較対象として菜種油(シリコーン2ppm含有)の空加熱試験も行った。常温まで戻した後、アニシジン価、粘度上昇率(空加熱前との比較)および着色上昇率(空加熱前との比較)を比較した。結果を表4に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
上記結果より、実施例1〜2および比較例3で得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合した油脂組成物および実施例3で得られた油脂組成物(単独)は、サラダ油の主体である菜種油よりも耐熱性が良かった。中でもサラダ油の冷却試験もクリアした実施例3で得られた油脂組成物(単独)は、サラダ油として優れた耐熱性を有することがわかった。比較例3で得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合したものは、実施例1〜2で得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合したものよりも、着色上昇率がかなり劣っていた。
【0054】
(試験例5:油脂組成物の天ぷら風味試験)
実施例1〜2および比較例3で得られた油脂組成物を通常の精製(脱酸/脱色/脱臭)を行った。実施例1〜2および比較例3の油脂組成物に、混合油全体を基準として菜種油を50質量%配合した油脂組成物を、直径18cmの丸底磁製皿に300g採取した。170℃で下記の材料を用いて天ぷらを作り、天ぷらの風味を専門のパネラー10名が評価した。なお、比較対象として菜種油の風味試験も行った。結果を表5に示す。
使用した材料: 海老 2尾、南瓜 2切れ
バッター組成: 卵 50g、水 150g、小麦粉 100g
【0055】
【表5】

【0056】
上記結果より、実施例1〜2で得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合した油脂組成物は、風味が良く、さらに風味の維持も菜種油よりも優れていた。しかし、比較例3で得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合した油脂組成物は、風味がかなり劣っていた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の製造方法に係る工程フロー図である。
【図2】パーム系油脂のランダムエステル交換に関する概念図である。
【図3】POP/PPO比と融点との関係を示す相図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)パーム系油脂をリパーゼを用いてエステル交換する工程と、
(B)エステル交換する前記工程において得られたエステル交換油脂を分別して、SSS(Sは飽和脂肪酸、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリドを意味する)を除去する工程と、
を含むパーム油の製造方法において、前記工程(A)および(B)を2回以上繰り返す、高液状性パーム油の製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)後に工程(B)を行う一連の操作を3回以上繰り返す、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(A)において、ランダムエステル交換能を有するリパーゼを用いる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程(B)において、分別をドライ分別により行う、請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程(A)において、ランダムエステル交換能を有するリパーゼを用い、および前記工程(B)において、分別をドライ分別により行う、請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
パーム系油脂から、リパーゼを用いたエステル交換と前記エステル交換により得られたエステル交換油脂の分別とを繰り返すことによりSSS(Sは飽和脂肪酸、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリドを意味する)を除去して得られた高液状性パーム油であって、
(i)PPP(Pはパルミチン酸、PPPはパルミチン酸3つで構成されるトリパルミチンを意味する)含量が0.2質量%以下、
(ii)PO(Oはオレイン酸、POはパルミチン酸2つとオレイン酸1つで構成されるトリグリセリドを意味する)含量が16質量%以下、
(iii)POP/(POP+PPO)(POPは1および3位がパルミチン酸、2位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドを意味し、PPOは1および2位がパルミチン酸、3位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドと、2および3位がパルミチン酸、1位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドとを意味する)比が0.3以上、0.6以下、
(iv)ヨウ素価が70以上、
である高液状性パーム油。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法により得られた高液状性パーム油を単独でまたは他の液状油と混合して得られるサラダ油。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−194011(P2008−194011A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35234(P2007−35234)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】