高温機器溶接部の寿命設計方法
【課題】クリープ損傷の損傷過程におけるクリープ変形による応力変化を考慮し、疲労損傷の評価とともに従来に比べて高精度に高温機器溶接部の寿命評価を行うことのできる高温機器溶接部の寿命設計方法を提供する。
【解決手段】クリープ損傷に対しては、主要部の溶接部評価断面を設定し、この溶接部評価断面に対して各負荷荷重から平均応力を算出する(110)。そして、算出された平均応力によって溶接部評価断面のクリープ損傷を算出し、クリープ強度評価を行う(111)。
【解決手段】クリープ損傷に対しては、主要部の溶接部評価断面を設定し、この溶接部評価断面に対して各負荷荷重から平均応力を算出する(110)。そして、算出された平均応力によって溶接部評価断面のクリープ損傷を算出し、クリープ強度評価を行う(111)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラント等に於いて使用される蒸気タービン等の高温機器溶接部の寿命設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温機器である蒸気タービンにおいては、高速で流動する高温蒸気によって回転力を得ているため、高温の蒸気が流入する機器には運転に伴って多くの損傷や変形が生じる。図20に一般的な蒸気タービンの一部の構成を示す。この図20に示されるような蒸気タービン220では、高温高圧になった蒸気が、高圧、中圧タービンの各段落で温度、圧力を低下しながら羽根を介してロータに回転力を与えている。すなわち、原動力は蒸気流体によってタービン動翼を介してロータ軸に伝達されるが、近年の発電プラントの大容量化に伴うタービンの作動流体量の増大や高温高圧化による作動条件の高度化から、使用する蒸気の温度、圧力は益々高くなり、また大量となっている。
【0003】
このため、これら高温高圧の蒸気にさらされている機器には、高温下で部品に加わる応力によって材料自体の劣化とともに様々な損傷や変形を引き起こし、局部的にき裂が発生し、発生したき裂をもとにして機器全体の破壊を引き起こす可能性があった。特に機器の大型化に伴い数多くの部品から構成される機器では、溶接構造によって製作することが不可避となり、さらに何らかの損傷が発生した場合にはその補修のための溶接施工が必要なことから、当該溶接部からき裂が発生することも度々経験している。機器は高温で長時間使用されるため、材料はクリープ変形し、機器に多大な損傷を与え、重大な変形やき裂が発生することがあった。
【0004】
このため、これまで様々な方法で、溶接部に対して材料の損傷、特にクリープ損傷を評価する方法が提案されてきた。図21は、従来から母材に適用されているクリープ損傷を検出する方法の1つを示すものである。すなわち、この方法では、図21に示すようなクリープボイド個数密度とクリープ寿命(MLASによる寿命消費率)の関係を用い、溶接金属内部のクリープボイドを超音波を用いた非破壊的方法によって求め、クリープ損傷を検出する方法である(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、クリープボイドの個数密度が鋼種や適用環境によって変化することに着目し、図22に示すように、ボイド個数密度の時間変化(ボイド個数密度変化率)とクリープ寿命消費率を関係付けて溶接部におけるクリープ損傷を評価する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
また、図23のフローチャートに示すように、レプリカ法によって測定されるボイド個数密度に閾値を設け、超音波探傷検査(UT検査)による内部欠陥評価と余寿命評価を合理的に実施できるようにした方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
また、図24のフローチャートに示すように、溶接部表面の損傷をレプリカ法によって行い、内部損傷をタンデム探傷法によって行うことにより、溶接部全域をカバーする評価が可能となると同時に、化学分析により材料内の不純物の定量を行うことによって、クリープ損傷評価の補正を行うようにした方法が知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【0008】
また以上に示した非破壊試験データを用いる方法の他に、解析的に寿命評価する方法も数多く提案されている。多くの方法では解析によって求められた局部的に最も大きな応力やひずみを基にして寿命評価を行っている。材料寿命データとしては高温の一定荷重による変形、破断に対するデータとしてクリープ破断データを、繰返しのひずみに対するデータとして低サイクル疲労データを用いて、それぞれクリープ損傷および疲労損傷を算出し、寿命評価を行っている。
【0009】
以上のように従来から、寿命評価の方法として、ボイドなどの非破壊試験や局部的な破壊試験または有限要素法(FEM)解析によって得られる様々なデータを基に評価する方法が提案されている。
【0010】
しかし、寿命評価に用いるデータはあくまで実験室で得られたクリープ損傷に対するもので、評価範囲もクリープボイドや硬さなど局部的に限定されるものであり、解析的に評価する場合でも高応力部として評価範囲は限定される。さらに、寿命評価結果は試験片レベルでは試験片全体に均一にクリープ損傷が生ずるために寿命評価精度は高いものの、実際の機器溶接部においては、かなりのクリープ損傷を生じていると判定されながら、実際にはクリープによる破断が生じた例はほとんどないのが実情である。
【0011】
一方、クリープ損傷と異なり疲労損傷に関しては、高サイクル疲労によって振動を生ずる部品が想定外の部位から短時間で破断する例が数多く見られる。これは高サイクル疲労が機器の予想外の振動応力や表面状態によって容易に生ずるためである。これに対して低サイクル疲労による損傷に関しては解析的に評価されたひずみに対しては寿命管理が確立されており、現在では低サイクル疲労によるき裂発生や破断は実機ではほとんど見られない。
【0012】
疲労やクリープは材料に損傷を与える損傷の形態の一つであり、ともに高温機器溶接部の寿命評価においては非常に重要であるが、考慮すべき機器溶接部の評価方法は異なる。
【0013】
疲労損傷は局部的に応力変化が集中し、その最も高くなる部位に局部的にき裂を発生して、それを伝播して破断に至らせるが、クリープ損傷では損傷が集中する場合はまれであり、絶えず損傷を分散させる傾向にある。疲労損傷では、あまり大きな材料の変形を伴うことなく損傷が蓄積するため、損傷過程において周囲の大きな応力状況の変化がなく、損傷が蓄積する初期の応力状態が継続されてき裂発生に至る。このため、初期状態が明確に把握される低サイクル疲労による損傷に対しては運転過程で大きく変化する場合がない限り、その損傷は確実に把握され、寿命管理もしやすい。
【0014】
これに対して、クリープ損傷では、損傷過程において絶えずクリープ変形による応力変化を生じている。最初の負荷において、高応力となった部位は高応力であるがために他の部位よりクリープ変形を生じやすくなるため、高応力部のクリープ変形により自らの高応力状態を回避して応力を低下させる結果となる。このため、初期の応力状態からクリープ寿命を評価した場合には常に短寿命側の安全側の寿命評価を行うことになる。
【0015】
一定部位での損傷は、変形を生じない疲労損傷については経時的に直線的に損傷が累積するが、変形を伴うクリープ損傷は経時的に常に非線形に変化しており、瞬間的なある時点での評価は疲労損傷に対しては適切であるが、クリープ損傷に対しては大きな誤差を生ずることになる。
【0016】
非破壊的なデータを基にして寿命評価する場合でも、高応力部位から得られたデータを基に評価した場合には、初期の短時間における損傷過程で生じたデータを用いるために解析的に評価した結果と同様な結果となり、常に安全側の評価となる。この場合、どれだけ精度の高い非破壊的な方法を用いても、その時点での局部的な評価を行う限り評価精度の向上は望めない。
【0017】
以上のように、実際の機器の溶接部におけるクリープ損傷の評価において、これまでの方法では常に安全側の寿命推定となっていた。このため、従来に比べて寿命評価における評価精度を向上させることのできる高温機器溶接部の寿命設計方法の提供が必要とされていた。
【特許文献1】特開2003−14705号公報
【特許文献2】特開2004−85347号公報
【特許文献3】特開2007−232401号公報
【特許文献4】特開2003−130789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記したとおり、従来の方法では、FEM解析などの解析的な方法を用いた場合でも、クリープ変形による損傷の分散を無視して、瞬間的な局部的評価データを用いて高温機器の溶接部のクリープ損傷を評価していたため、常に短寿命側の安全側評価となっていた。このため、クリープ変形に伴うクリープ損傷の分散を考慮した高精度な溶接部寿命評価を行うことのできる高温機器溶接部の寿命設計方法の開発が必要とされていた。
【0019】
本発明は上記の従来の事情に対処してなされたもので、クリープ損傷の損傷過程におけるクリープ変形による応力変化を考慮し、疲労損傷の評価とともに従来に比べて高精度に高温機器溶接部の寿命評価を行うことのできる高温機器溶接部の寿命設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様は、高温機器の溶接部における評価部位に負荷される定常負荷からクリープ寿命を算出して高温機器溶接部の寿命設計を行う高温機器溶接部の寿命設計方法であって、前記溶接部に、変位により前記定常負荷が与えられる場合、クリープ変形による応力変化を予測して前記クリープ寿命を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、クリープ損傷の損傷過程におけるクリープ変形による応力変化を考慮し、疲労損傷の評価とともに従来に比べて高精度に高温機器溶接部の寿命評価を行うことのできる高温機器溶接部の寿命設計方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る高温機器溶接部の寿命設計方法の概略構成を示したものである。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の高温機器溶接部の寿命設計方法では、まず高温機器のうち対象となる高温対象部品を選定する(101)。次に、選定した高温対象部品のなかで溶接を行う構造溶接部位を選定する(102)。構造溶接部位は応力変化や温度変化の小さな部位や製造上の部品形状から規定される部位となる。
【0024】
次に、溶接材料データベース(溶接材料DB)120から最適な溶接材料を選定する(103)。この溶接材料データベース120には、異なった母材や同種の母材に対して実施し、溶接時の割れや欠陥が無かった過去の溶接実施例から最適な溶接材料が挙げられている。
【0025】
次に、選定された溶接材料に適用する溶接開先形状及び溶接方法を、溶接材料データベース120から取得する(104)。これにより、溶接部の溶接金属の溶接量が決定される(105)。
【0026】
次に、溶接部位に負荷する主要な荷重を、定常的に負荷する荷重と過渡的に負荷する荷重に分類し、定常負荷に対する評価を行うとともに(106)、変動負荷に対する評価を行う(107)。定常負荷としては遠心力、圧力、締結力等があり、変動負荷としては非定常熱応力、遠心力等がある。遠心力、圧力は定常運転状態では定常負荷であるが、起動停止に伴う過渡的な荷重変化と考えると変動負荷となる。
【0027】
変動負荷つまり過渡的な荷重に対しては、疲労に伴う損傷を考慮する。このため、これらの過渡的な荷重により発生する応力、ひずみをできるだけ局所評価点でとらえて、各溶接部局部評価点での発生応力、ひずみを算出し(108)、これに基づいて各溶接部局部評価点の疲労損傷を算出し、疲労強度評価を行う(109)。
【0028】
遠心力等のような機器の起動停止に伴う疲労損傷の場合には、遠心力により発生する応力、ひずみの変動によって疲労破断する繰返し回数(疲労寿命)に対する起動停止の回数の比で疲労損傷を表す。起動停止回数が増える毎に損傷は線形的に増大し、定期的な起動停止であれば時間に対しても線型的な増大となる。一般的にはFEM解析により、各荷重の荷重変化によって生ずる応力、ひずみを求めて、疲労損傷を算出することになる。
【0029】
図2に示す蒸気タービンの弁200では、配管201との接合部に溶接部202が設けられており、溶接部断面をクリープの評価断面203、形状的に段差を生じている部分を、疲労損傷を評価する評価点204とする。なお、図2において、205は弁箱、206は上蓋、207は弁箱205に上蓋206を固着するためのボルトである。
【0030】
定常負荷つまり定常的な荷重に対しては、クリープ損傷を考慮することになる。クリープ損傷は、変位により定常負荷が与えられる場合、クリープ変形による応力変化を予測して算出する。この際、変位により定常負荷が与えられ初期状態が繰返し負荷されない場合と、初期状態が繰返し負荷される場合とでクリープ変形による応力変化が異なる。以下では、初期状態が繰返し負荷されない場合について説明する。
【0031】
このようなクリープ損傷に対しては、主要部の溶接部評価断面を設定し、この溶接部評価断面に対して各負荷荷重から平均応力を算出する(110)。そして、算出された平均応力によって溶接部評価断面のクリープ損傷を算出し、クリープ強度評価を行う(111)
【0032】
次に、各評価断面と各評価点でのクリープ寿命と疲労寿命を評価し(112)、各溶接部に対してのクリープ損傷と、疲労損傷との割合で消費寿命を評価し、溶接部各評価断面、評価点の設計寿命が満足できるか否かを判断する(113)。
【0033】
この判断では、構造設計データベース(構造設計DB)121から得られる限界損傷線図上でクリープ損傷と疲労損傷を評価し、限界損傷に達した段階で、き裂発生となるため、評価断面でのクリープ損傷と評価点での疲労損傷が限界線を超える場合には、溶接部の寿命が設計寿命以下となり、再度溶接設計を行うことになる。この場合、溶接部位(102)や溶接材料(103)、開先形状や溶接方法(104)を見直し、再度寿命を算出して設計寿命を満足するまでこれを繰り返す。以上の過程を完全に満たした段階で許容溶接構造として決定される(114)。
【0034】
次に、上記したクリープ損傷の評価方法について詳細に説明する。上記したとおり、溶接部の複数の評価断面に対して各負荷荷重から算出される平均応力によってクリープ損傷を評価する。図3に示す一般的な溶接部300に対して、まず溶着金属の中央部に対して評価断面(溶着金属評価断面)301を設定できるとともに、母材側の溶接部との境界部に形成される熱影響部は母材が熱的に変質した層であり、この部分に沿って評価断面(熱影響部評価断面)302を設定できる。材料によっては溶接金属側の境界層の強度が低い場合にはこの断面に対しても、評価断面を設定して評価する。なお、図3において303は母材部評価断面である。
【0035】
クリープ損傷の評価においてはミーゼス相当応力の平均応力が最も大きくなる評価断面によって評価するが、その理由となる応力分布の変化を図4に示す。なお、図4において縦軸は応力、横軸は評価断面での位置を示す。初期状態においては、内圧や熱応力により発生する応力は局部的な応力集中によって、最大応力部分や最小応力となる部分を有する分布となる(初期応力分布)。しかし、高温で初期状態の負荷が継続すると、最大応力部分のクリープ変形が進行し、応力は低下する傾向となる。逆に低応力部分は高応力部分の負荷を分担するため応力の上昇傾向となる。長時間にわたり一定の負荷状態が継続すると、最終的には評価断面に沿って応力はほぼ均一な分布となる(最終応力分布)。
【0036】
図5は、縦軸を応力、横軸を時間として、高応力部と低応力部の時間に対する応力変化を示したもので、高応力部は初期他状態の応力が高いものの、短時間で急激に低下し、一定の応力となる。逆に低応力部の応力は初期状態の応力から徐々に応力が高くなり、高応力部の応力と同程度の応力に収斂することとなる。この収斂する応力がこの評価断面での平均応力であり、この応力でクリープ損傷を評価することにより、簡易ながら精度の高いクリープ寿命を評価することができる。
【0037】
図6は、縦軸を応力及び損傷、横軸を時間として、高応力部の応力と損傷の時間変化を示したものである。通常の非破壊的方法等によりクリープ損傷を評価する場合には、高応力の最も損傷の大きい部分に対して、局部的にクリープ損傷の評価を行う。このため、評価結果の精度が高く、正確にその時点でのクリープ損傷が評価されたとしても、損傷の時間に対する変化は線型変化でないため、初期状態と評価結果を線型推定して得た寿命評価結果(図中点線で示す)は必ず実寿命に比べて短寿命となる。端的には、ある時点でのクリープ損傷が1/2となっていても、寿命消費速度は時間に対して変化するため寿命消費は1/2ではなく、それ以下であるということである。
【0038】
図7は、縦軸を応力、横軸を破断時間として、実部品を模擬した溶接試験片に対して実施したクリープ破断試験の結果と、通常の単軸クリープ破断試験の結果を比較して示したものである。ケーシングを模擬した溶接部を有する厚肉円筒試験片に対して、蒸気による内圧を負荷した試験を実施すると、それぞれ平均応力が最も高くなる評価断面に沿って平均応力で評価した場合(図7中円形のマークで示す。)は、単軸のクリープ破断データと良く一致するが、最大応力で評価した場合(図7中正方形のマークで示す。)は、常に短寿命側の推定となり、実寿命と大きなずれを生じている。この結果から、評価断面に沿った平均応力によるクリープ損傷の評価は簡易ながら、時間に対して非線形で変化する損傷を線形で評価できる方法であることがわかる。
【0039】
クリープ損傷は、一定変位により定常負荷を与える負荷形態で、初期の負荷形態が繰り返し負荷される場合には、損傷が最大応力部位に限定されることになる。その一例は、図2に示した蒸気弁200の上蓋206の取り付けボルト207である。このボルトは取り付け時の締結力と蒸気の内圧に抗して長時間にわたり引張荷重が負荷されている。また形状的にネジにより荷重を伝えているため、そのネジ底には応力の集中により過大な応力が発生する。このボルトに対してもクリープ損傷評価断面としてネジ底を含む断面を設定でき、全寿命にわたり蒸気弁を分解し、再組立することなく初期の組立状態で使用する場合には、上記の平均応力によってクリープ寿命を評価できる。
【0040】
しかし、ボルトによる締結構造であるため、メンテナンスのため定期的な分解と再組立が行われることになる。このように変位型の定荷重負荷で初期状態が繰返し負荷される場合には、応力が平均化することなく最大応力部にクリープ損傷が蓄積し、当該部のみにき裂が発生し、進展してボルトの破断に至ることがある。
【0041】
図8は、縦軸を応力、横軸を評価断面での位置として、その過程を模式的に示したもので、ネジ底に発した高応力は時間の経過とともに応力緩和して応力が低下するが、十分に低下して平均的な応力分布となる以前に、分解、組立が実施されると組立直後に初期の高応力状態が再現されることになる。この過程が繰り返されることにより、ネジ底の高応力状態は緩和されることなく維持されることになり、クリープ損傷が局部的に蓄積されることになる。すなわちこのような状態で使用される場合には、高応力部(局所部位)のみにクリープ損傷が累積するとしてクリープ寿命を評価する必要がある。
【0042】
この場合、ネジ底の高応力が応力緩和により低下する過程でのクリープ破断時間に対する比からクリープ損傷を評価し、その損傷範囲は例えば非破壊検査により検出可能な大きさとすることにより安全側にその範囲を決めることができる。当該ボルトのような使用形態にある溶接部に対しては、同様なクリープ損傷の集中を考慮して寿命を算出する必要がある。
【0043】
しかし、縦軸を応力、横軸を時間とした図9に示すように、ケーシングの内圧による応力のように蒸気タービンの起動・停止により内圧が変化しても、応力の変化過程に変動を生ずるものの、全体としてクリープ変形過程が継続している場合には、上記のクリープ損傷の局部的な累積は生じないため、通常の平均応力評価によりクリープ損傷を評価できる。
【0044】
一般的にクリープ寿命は、溶接部と母材では強度の相違から同一の応力に対しても異なった値となる。このため、母材と同一のクリープ寿命を得るためには、クリープを生じる荷重に対して負担する断面の厚さを変化させることによって同一の寿命とすることができる。
【0045】
図10は、縦軸を応力、横軸を破断時間として、母材と同一のクリープ寿命とする場合の溶接部の応力設定の方法を示すものである。溶接部のクリープ強度(図10中四角形のマークで示す。)が母材のクリープ強度(図10中円形のマークで示す。)に比べて低い場合には、同一の設計寿命で設定したクリープ寿命に対して当該の応力値を設定応力とすることで、母材と同一のクリープ寿命を確保することができる。この場合には当該断面の厚さを厚くする事により同一の負荷に対して低応力状態を実現できる。逆に溶接部の強度が母材より高い場合には、母材よりも薄肉化して高応力化しても同一のクリープ寿命とすることができる。
【0046】
次に、疲労損傷の評価法について説明する。図11は段差部310に設けられた溶接部311の疲労損傷評価点の例を示す。当該溶接部311は段差部310による形状的な不連続のために、応力やひずみの集中を生じる。その大きさは評価点(溶接金属評価点)312を通る断面に沿った応力やひずみの分布を描くとことによって得ることができる。疲労損傷は応力やひずみの大きさによって算出の方法が異なる。過渡的な負荷によって生じる応力が溶接材料の引張と圧縮の耐力σyを超えて繰り返される場合、すなわち応力範囲Δσ>2σyの場合には過渡的な負荷の繰り返しによって低サイクル疲労と呼ばれる繰り返しの塑性変形を伴う疲労となるため、低サイクル疲労データを用いた疲労損傷が必要となる。
【0047】
図12は、縦軸をひずみ範囲Δε、横軸を破断繰り返し数Nfとして、低サイクル疲労曲線による疲労寿命算出の方法を示すものである。FEM解析等で得られた評価点におけるひずみ範囲の値Δεtにより疲労寿命を得ることができる。
【0048】
過渡的な負荷によって生じる応力が溶接材料の引張と圧縮の両方の耐力σyを超えずに繰り返される場合、すなわち応力範囲Δσ<2σyの場合には過渡的な負荷の繰り返しによって高サイクル疲労と呼ばれる疲労となる。この場合には繰り返される応力の平均応力と応力の振幅によって疲労破壊するか否かを判定する。
【0049】
図13のうち、上部に示す図13(A)は、縦軸を応力振幅σa、横軸を平均応力σmとして、評価点の状態をプロットしたものである。ここで平均応力なしで疲労破壊しない上限応力振幅(疲労限) σWと平均応力軸上の引張強さσBを結んだ直線が疲労破壊の限界線となり、この限界線以下の条件ではどのような状態でも疲労破壊することなく安全である。
【0050】
しかし、この領域を超えた応力条件にある場合には疲労寿命は有限寿命となるため、疲労寿命を算出する必要がある。この場合、図中点線で示すように、まず平均応力軸上の引張強さσBと評価点の応力条件(評価点の平均応力、応力振幅)のプロットを結んで、応力振幅軸(縦軸)上に延長し、その交点を相当応力振幅σeqとする。次に、縦軸を相当応力振幅σeq、横軸を破断繰り返し数Nfとした図13の下部の図13(B)に示すように、通常の平均応力の無い高サイクル疲労曲線上において、この相当応力振幅σeqにあたる破断繰り返し数Nfを読み取ることによって評価点における疲労寿命を得ることができる。
【0051】
以上のようにして得られたクリープ寿命trと疲労寿命Nfを基にして、設計寿命内での使用時間tと繰り返し数nとの分数によりそれぞれクリープ損傷Φc=t/tr、疲労損傷Φf=n/Nfを算出する。そして、縦軸を疲労損傷Φf、横軸をクリープ損傷Φcとした図14に示す限界損傷線図上でクリープ損傷と疲労損傷をプロットし、限界損傷線以下であれば、設定した設計寿命は安全な領域にあるため許容される溶接構造となる。限界損傷線を越えた位置にプロットされる場合には、設定した設計寿命内でき裂を発生し、局部的な破壊を生ずることとなるため、当該の溶接構造は許容されず、再設計が必要となる。この場合には材料や溶接開先形状、溶接部全体の形状に対して見直しが必要となる。
【0052】
以上のように、本実施形態では特にクリープ損傷評価において、従来の方法とは異なり、溶接部の局部的な高応力部での瞬間的な損傷評価にとらわれることなく、全寿命にわたりクリープ変形によって応力状態が変化し、損傷の累積速度が変化していく状態で、これまで得られた知見により相当応力の平均応力が最も大きくなる評価断面を設定することにより、簡易で高精度なクリープ損傷の評価が可能である。
【0053】
また、定常荷重の負荷形態により高応力状態が局部的に持続する場合には、クリープ損傷が局部的に累積するとして評価する。さらに、疲労損傷とクリープ損傷の相互作用による寿命の低下を考慮して、限界損傷を評価することにより、限界損傷に達した段階でのき裂の発生範囲を特定した。以上のように負荷形態に応じてクリープ損傷評価における応力の平均化と損傷の累積範囲を適正化して評価することにより、クリープ寿命を簡易で高精度に評価することができ、溶接部を有する高温機器の安全運用に大いに貢献することができる。
【0054】
以上のように、本実施形態では、高温機器のうち対象となる溶接部を選定し、評価部位ごとに負荷する主要な荷重を定常的に負荷する荷重と過渡的に負荷する荷重に分類している。このように、クリープ損傷を評価すべき定常的な荷重と、疲労損傷を評価すべき過渡的な荷重を明確に区別し、それぞれの損傷の発生する範囲を明確にすることによって、損傷の相互作用が生ずる範囲も明らかになる。
【0055】
過渡的な荷重に対しては疲労損傷を考慮し、過渡的な荷重により発生する応力、ひずみをできるだけ局所評価点でとらえて、各評価点での疲労損傷を算出する。一般的にはFEM解析により、各荷重の荷重変化によって生ずる応力、ひずみを求めて、疲労損傷を算出する。疲労損傷は荷重の繰返しにより常に線形で損傷が累積するため、局部的な線型損傷和によって容易に評価される。
【0056】
定常的な荷重によるクリープ損傷に対しては、その負荷形態により損傷が局所に限定されることがあるが、クリープ損傷が局部的に累積しない一般的なクリープ損傷に対しては、主要部の評価断面に対して各負荷荷重から算出されるミーゼス相当応力の平均応力によってクリープ損傷を評価する。
【0057】
従来の方法では、最大応力によってそのまま評価したり、非破壊的な手法によって得た損傷評価パラメータを用いてクリープ寿命を算出していた。しかし、これらの結果はクリープ損傷が時間に対して非線形的に累積していくことを無視していたため、全て安全側の短寿命評価なっていた。本実施形態では、応力分布と損傷速度の変化により、応力分布と損傷が平準化されるという実験的事実を用いることによって、評価断面に沿った平均応力を設定し、この応力によってクリープ損傷を評価することによりクリープ寿命を簡易で、精度良く評価することができる。またクリープ損傷を平均応力で評価することにより、局部的には非線形で累積するクリープ損傷が時間に対しては線形で累積する量に変換することができ、限界損傷と比較する場合の限界寿命評価が容易に実施できるようになる。
【0058】
一定変位により定常負荷を与える負荷形態で、初期の負荷形態が繰り返し負荷される場合には、クリープ損傷が最大応力部位に限定されることになる。この場合には、一定変位負荷中の最大応力部の応力変化からクリープ損傷を算出し、これが繰り返され、最大応力部のみに累積するとしてクリープ損傷を評価する。本実施形態ではクリープ損傷がクリープ変形により平均化しやすいことを示しているが、部品の負荷形態によっては局部的に高応力状態が持続し、クリープ損傷が局部的に累積することも示しており、その評価方法としてクリープ損傷の算出法と累積する範囲を示している。以上のように本実施形態は高温機器溶接部の様々な負荷形態に対応した損傷評価方法を示しており、その適用性は高い。
【0059】
総合的な寿命評価では各部品に対して主要評価断面でクリープ損傷を評価して、疲労損傷とともに設計寿命を評価する。限界損傷線図上でクリープ損傷と疲労損傷をプロットし、限界損傷線以下であれば、設定した設計寿命は安全な領域にあるため許容される溶接構造となる。限界損傷線を越えた位置にプロットされる場合には、設定した設計寿命内でき裂を発生し、局部的な破壊を生ずることとなるため、当該の溶接構造は許容されず、再設計が必要となる。この場合には材料や溶接開先形状、溶接部全体の形状に対して見直しが必要となる。以上のように、限界損傷評価によって、損傷の相互作用による寿命の低下が考慮され、当該溶接構造が許容されるか否かが明確となる。
【0060】
他の実施形態として、図15、16に示すように簡易的にケーシングや蒸気弁などの厚肉容器の溶接部における平均応力を算出することができる。図15に示す方法は、最も単純に平均応力を算出する方法として、内壁側での最大応力と、外壁側での最小応力の単純な算術平均を用いる方法であり、方法が簡易であるが、得られた結果は全体的な分布を考慮すると高めの応力なるため、短寿命側の評価となる。
【0061】
図16に示す方法は、内壁側から外壁に対して応力が線分上に分布するとして平均応力で分割した場合に、応力×距離の面積すなわち積分値が同一なるように分割した場合の応力である。この積分平均応力は、上記した単純平均応力に比べて小さな値となるが、応力形状から見ると妥当な値を与える。
【0062】
上記2つの方法は、適用する部位と状態によって、最適な方法を適用することができる。最も簡易な単純平均応力も、比較的薄肉の容器の場合には、簡易でしかも十分な精度が得られるため、必ずしも常に最も複雑な方法を適用することはない。
【0063】
以上の実施形態では、内圧や熱応力によって損傷するケーシングや蒸気弁において、平均応力を簡易に求めることができ、形状や使用状態により最適な方法を選定して高精度にクリープ寿命を評価することができる。
【0064】
さらに別の実施形態として、図17に示すように、応力が複雑に変化してクリープ損傷の評価断面が特定できない場合には、代表的な評価断面について短時間の有限要素法解析を実施して応力変化傾向をつかみ、得られた応力変化傾向を外挿して長時間の使用状態での評価応力を決定し、評価断面を特定することができる。本実施形態では、精度の高い有限要素法解析を適用することにより長時間の応力状態や損傷状態を推定し、容易にクリープ寿命評価を行うことができる。
【0065】
さらにまた別の実施形態として、図18に示すように溶接部に溶け込み不良などの溶接欠陥を生じた場合を想定し、当該欠陥をき裂とみなして、設計寿命内での疲労とクリープによるき裂進展を考慮することにより、設計寿命内で安全に使用できるかを判断することができる。以上のようにき裂進展寿命による寿命評価を併用することにより、より安全に寿命を判断可能となる。
【0066】
以上説明した蒸気タービンの弁、ケーシングなどの圧力容器の溶接部だけでなく、本発明は、回転体である図19に示すような異材継ぎ手を有し高温で使用されるロータ190などにも適用可能であり、高温機器の溶接部の様々な負荷に対応した簡易で、高精度な寿命設計方法を提供することができ、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係わる一実施形態を説明する流れ図。
【図2】蒸気弁におけるクリープ損傷のための評価断面を説明する概略縦断面図。
【図3】一般的な高温機器の溶接部における評価断面を説明する要部拡大断面図。
【図4】本発明に係わる評価断面での応力分布の変化を説明する概略図。
【図5】本発明に係わる最大応力部と最小応力部の応力の時間変化を説明する概略図。
【図6】本発明に係わる高応力部での応力と損傷の変化を説明する概略図。
【図7】本発明に係わる実機模擬部品溶接部によるクリープ破断試験の結果と単軸クリープ破断試験の結果を比較した概略図。
【図8】クリープ損傷が局部的に累積する過程を説明する概略図。
【図9】一般的な起動・停止におけるクリープ応力変化の持続性を説明する概略図。
【図10】母材と溶接部のクリープ強度の違いに対する設定応力の相違を説明する概略図。
【図11】溶接部の疲労損傷算出のための評価点の応力、ひずみを説明する要部拡大断面図。
【図12】繰り返し塑性変形が繰り返される低サイクル疲労における疲労寿命の算出方法を説明する概略図。
【図13】高サイクル疲労における疲労寿命の算出方法を説明する概略図。
【図14】限界損傷線図を用いて溶接設計が許容できるか判断する方法を説明する概略図。
【図15】蒸気弁などにおいて単純平均により平均応力を設定する方法を説明する概略図。
【図16】蒸気弁などにおいて積分平均を用いて平均応力を設定する方法を説明する概略図。
【図17】複雑な応力状態の部品や実部品を用いて、有限要素法解析を適用することにより長時間の評価応力や損傷を推定する方法を説明する概略図。
【図18】想定される欠陥からのき裂進展を基にして寿命を算定する方法を説明する概略図。
【図19】回転体である高温のロータに溶接部を適用した場合を説明する一部切断図。
【図20】蒸気タービンの主要部を説明する一部切り欠き斜視図。
【図21】ボイド個数密度を用いて非破壊的にクリープ損傷を評価する方法を説明する概略図。
【図22】ボイド個数密度の時間変化を用いた寿命評価法を説明する概略図。
【図23】クリープボイド個数密度によりクリープ損傷を評価する方法を説明する流れ図。
【図24】レプリカ法と探傷法を用いた溶接部の寿命評価方法を説明するブロック図。
【符号の説明】
【0068】
200……蒸気タービンの弁、201……配管、202……溶接部、203……評価断面、204……評価点、205……弁箱、206……上蓋、207……ボルト。
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラント等に於いて使用される蒸気タービン等の高温機器溶接部の寿命設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温機器である蒸気タービンにおいては、高速で流動する高温蒸気によって回転力を得ているため、高温の蒸気が流入する機器には運転に伴って多くの損傷や変形が生じる。図20に一般的な蒸気タービンの一部の構成を示す。この図20に示されるような蒸気タービン220では、高温高圧になった蒸気が、高圧、中圧タービンの各段落で温度、圧力を低下しながら羽根を介してロータに回転力を与えている。すなわち、原動力は蒸気流体によってタービン動翼を介してロータ軸に伝達されるが、近年の発電プラントの大容量化に伴うタービンの作動流体量の増大や高温高圧化による作動条件の高度化から、使用する蒸気の温度、圧力は益々高くなり、また大量となっている。
【0003】
このため、これら高温高圧の蒸気にさらされている機器には、高温下で部品に加わる応力によって材料自体の劣化とともに様々な損傷や変形を引き起こし、局部的にき裂が発生し、発生したき裂をもとにして機器全体の破壊を引き起こす可能性があった。特に機器の大型化に伴い数多くの部品から構成される機器では、溶接構造によって製作することが不可避となり、さらに何らかの損傷が発生した場合にはその補修のための溶接施工が必要なことから、当該溶接部からき裂が発生することも度々経験している。機器は高温で長時間使用されるため、材料はクリープ変形し、機器に多大な損傷を与え、重大な変形やき裂が発生することがあった。
【0004】
このため、これまで様々な方法で、溶接部に対して材料の損傷、特にクリープ損傷を評価する方法が提案されてきた。図21は、従来から母材に適用されているクリープ損傷を検出する方法の1つを示すものである。すなわち、この方法では、図21に示すようなクリープボイド個数密度とクリープ寿命(MLASによる寿命消費率)の関係を用い、溶接金属内部のクリープボイドを超音波を用いた非破壊的方法によって求め、クリープ損傷を検出する方法である(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、クリープボイドの個数密度が鋼種や適用環境によって変化することに着目し、図22に示すように、ボイド個数密度の時間変化(ボイド個数密度変化率)とクリープ寿命消費率を関係付けて溶接部におけるクリープ損傷を評価する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
また、図23のフローチャートに示すように、レプリカ法によって測定されるボイド個数密度に閾値を設け、超音波探傷検査(UT検査)による内部欠陥評価と余寿命評価を合理的に実施できるようにした方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
また、図24のフローチャートに示すように、溶接部表面の損傷をレプリカ法によって行い、内部損傷をタンデム探傷法によって行うことにより、溶接部全域をカバーする評価が可能となると同時に、化学分析により材料内の不純物の定量を行うことによって、クリープ損傷評価の補正を行うようにした方法が知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【0008】
また以上に示した非破壊試験データを用いる方法の他に、解析的に寿命評価する方法も数多く提案されている。多くの方法では解析によって求められた局部的に最も大きな応力やひずみを基にして寿命評価を行っている。材料寿命データとしては高温の一定荷重による変形、破断に対するデータとしてクリープ破断データを、繰返しのひずみに対するデータとして低サイクル疲労データを用いて、それぞれクリープ損傷および疲労損傷を算出し、寿命評価を行っている。
【0009】
以上のように従来から、寿命評価の方法として、ボイドなどの非破壊試験や局部的な破壊試験または有限要素法(FEM)解析によって得られる様々なデータを基に評価する方法が提案されている。
【0010】
しかし、寿命評価に用いるデータはあくまで実験室で得られたクリープ損傷に対するもので、評価範囲もクリープボイドや硬さなど局部的に限定されるものであり、解析的に評価する場合でも高応力部として評価範囲は限定される。さらに、寿命評価結果は試験片レベルでは試験片全体に均一にクリープ損傷が生ずるために寿命評価精度は高いものの、実際の機器溶接部においては、かなりのクリープ損傷を生じていると判定されながら、実際にはクリープによる破断が生じた例はほとんどないのが実情である。
【0011】
一方、クリープ損傷と異なり疲労損傷に関しては、高サイクル疲労によって振動を生ずる部品が想定外の部位から短時間で破断する例が数多く見られる。これは高サイクル疲労が機器の予想外の振動応力や表面状態によって容易に生ずるためである。これに対して低サイクル疲労による損傷に関しては解析的に評価されたひずみに対しては寿命管理が確立されており、現在では低サイクル疲労によるき裂発生や破断は実機ではほとんど見られない。
【0012】
疲労やクリープは材料に損傷を与える損傷の形態の一つであり、ともに高温機器溶接部の寿命評価においては非常に重要であるが、考慮すべき機器溶接部の評価方法は異なる。
【0013】
疲労損傷は局部的に応力変化が集中し、その最も高くなる部位に局部的にき裂を発生して、それを伝播して破断に至らせるが、クリープ損傷では損傷が集中する場合はまれであり、絶えず損傷を分散させる傾向にある。疲労損傷では、あまり大きな材料の変形を伴うことなく損傷が蓄積するため、損傷過程において周囲の大きな応力状況の変化がなく、損傷が蓄積する初期の応力状態が継続されてき裂発生に至る。このため、初期状態が明確に把握される低サイクル疲労による損傷に対しては運転過程で大きく変化する場合がない限り、その損傷は確実に把握され、寿命管理もしやすい。
【0014】
これに対して、クリープ損傷では、損傷過程において絶えずクリープ変形による応力変化を生じている。最初の負荷において、高応力となった部位は高応力であるがために他の部位よりクリープ変形を生じやすくなるため、高応力部のクリープ変形により自らの高応力状態を回避して応力を低下させる結果となる。このため、初期の応力状態からクリープ寿命を評価した場合には常に短寿命側の安全側の寿命評価を行うことになる。
【0015】
一定部位での損傷は、変形を生じない疲労損傷については経時的に直線的に損傷が累積するが、変形を伴うクリープ損傷は経時的に常に非線形に変化しており、瞬間的なある時点での評価は疲労損傷に対しては適切であるが、クリープ損傷に対しては大きな誤差を生ずることになる。
【0016】
非破壊的なデータを基にして寿命評価する場合でも、高応力部位から得られたデータを基に評価した場合には、初期の短時間における損傷過程で生じたデータを用いるために解析的に評価した結果と同様な結果となり、常に安全側の評価となる。この場合、どれだけ精度の高い非破壊的な方法を用いても、その時点での局部的な評価を行う限り評価精度の向上は望めない。
【0017】
以上のように、実際の機器の溶接部におけるクリープ損傷の評価において、これまでの方法では常に安全側の寿命推定となっていた。このため、従来に比べて寿命評価における評価精度を向上させることのできる高温機器溶接部の寿命設計方法の提供が必要とされていた。
【特許文献1】特開2003−14705号公報
【特許文献2】特開2004−85347号公報
【特許文献3】特開2007−232401号公報
【特許文献4】特開2003−130789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記したとおり、従来の方法では、FEM解析などの解析的な方法を用いた場合でも、クリープ変形による損傷の分散を無視して、瞬間的な局部的評価データを用いて高温機器の溶接部のクリープ損傷を評価していたため、常に短寿命側の安全側評価となっていた。このため、クリープ変形に伴うクリープ損傷の分散を考慮した高精度な溶接部寿命評価を行うことのできる高温機器溶接部の寿命設計方法の開発が必要とされていた。
【0019】
本発明は上記の従来の事情に対処してなされたもので、クリープ損傷の損傷過程におけるクリープ変形による応力変化を考慮し、疲労損傷の評価とともに従来に比べて高精度に高温機器溶接部の寿命評価を行うことのできる高温機器溶接部の寿命設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様は、高温機器の溶接部における評価部位に負荷される定常負荷からクリープ寿命を算出して高温機器溶接部の寿命設計を行う高温機器溶接部の寿命設計方法であって、前記溶接部に、変位により前記定常負荷が与えられる場合、クリープ変形による応力変化を予測して前記クリープ寿命を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、クリープ損傷の損傷過程におけるクリープ変形による応力変化を考慮し、疲労損傷の評価とともに従来に比べて高精度に高温機器溶接部の寿命評価を行うことのできる高温機器溶接部の寿命設計方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る高温機器溶接部の寿命設計方法の概略構成を示したものである。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の高温機器溶接部の寿命設計方法では、まず高温機器のうち対象となる高温対象部品を選定する(101)。次に、選定した高温対象部品のなかで溶接を行う構造溶接部位を選定する(102)。構造溶接部位は応力変化や温度変化の小さな部位や製造上の部品形状から規定される部位となる。
【0024】
次に、溶接材料データベース(溶接材料DB)120から最適な溶接材料を選定する(103)。この溶接材料データベース120には、異なった母材や同種の母材に対して実施し、溶接時の割れや欠陥が無かった過去の溶接実施例から最適な溶接材料が挙げられている。
【0025】
次に、選定された溶接材料に適用する溶接開先形状及び溶接方法を、溶接材料データベース120から取得する(104)。これにより、溶接部の溶接金属の溶接量が決定される(105)。
【0026】
次に、溶接部位に負荷する主要な荷重を、定常的に負荷する荷重と過渡的に負荷する荷重に分類し、定常負荷に対する評価を行うとともに(106)、変動負荷に対する評価を行う(107)。定常負荷としては遠心力、圧力、締結力等があり、変動負荷としては非定常熱応力、遠心力等がある。遠心力、圧力は定常運転状態では定常負荷であるが、起動停止に伴う過渡的な荷重変化と考えると変動負荷となる。
【0027】
変動負荷つまり過渡的な荷重に対しては、疲労に伴う損傷を考慮する。このため、これらの過渡的な荷重により発生する応力、ひずみをできるだけ局所評価点でとらえて、各溶接部局部評価点での発生応力、ひずみを算出し(108)、これに基づいて各溶接部局部評価点の疲労損傷を算出し、疲労強度評価を行う(109)。
【0028】
遠心力等のような機器の起動停止に伴う疲労損傷の場合には、遠心力により発生する応力、ひずみの変動によって疲労破断する繰返し回数(疲労寿命)に対する起動停止の回数の比で疲労損傷を表す。起動停止回数が増える毎に損傷は線形的に増大し、定期的な起動停止であれば時間に対しても線型的な増大となる。一般的にはFEM解析により、各荷重の荷重変化によって生ずる応力、ひずみを求めて、疲労損傷を算出することになる。
【0029】
図2に示す蒸気タービンの弁200では、配管201との接合部に溶接部202が設けられており、溶接部断面をクリープの評価断面203、形状的に段差を生じている部分を、疲労損傷を評価する評価点204とする。なお、図2において、205は弁箱、206は上蓋、207は弁箱205に上蓋206を固着するためのボルトである。
【0030】
定常負荷つまり定常的な荷重に対しては、クリープ損傷を考慮することになる。クリープ損傷は、変位により定常負荷が与えられる場合、クリープ変形による応力変化を予測して算出する。この際、変位により定常負荷が与えられ初期状態が繰返し負荷されない場合と、初期状態が繰返し負荷される場合とでクリープ変形による応力変化が異なる。以下では、初期状態が繰返し負荷されない場合について説明する。
【0031】
このようなクリープ損傷に対しては、主要部の溶接部評価断面を設定し、この溶接部評価断面に対して各負荷荷重から平均応力を算出する(110)。そして、算出された平均応力によって溶接部評価断面のクリープ損傷を算出し、クリープ強度評価を行う(111)
【0032】
次に、各評価断面と各評価点でのクリープ寿命と疲労寿命を評価し(112)、各溶接部に対してのクリープ損傷と、疲労損傷との割合で消費寿命を評価し、溶接部各評価断面、評価点の設計寿命が満足できるか否かを判断する(113)。
【0033】
この判断では、構造設計データベース(構造設計DB)121から得られる限界損傷線図上でクリープ損傷と疲労損傷を評価し、限界損傷に達した段階で、き裂発生となるため、評価断面でのクリープ損傷と評価点での疲労損傷が限界線を超える場合には、溶接部の寿命が設計寿命以下となり、再度溶接設計を行うことになる。この場合、溶接部位(102)や溶接材料(103)、開先形状や溶接方法(104)を見直し、再度寿命を算出して設計寿命を満足するまでこれを繰り返す。以上の過程を完全に満たした段階で許容溶接構造として決定される(114)。
【0034】
次に、上記したクリープ損傷の評価方法について詳細に説明する。上記したとおり、溶接部の複数の評価断面に対して各負荷荷重から算出される平均応力によってクリープ損傷を評価する。図3に示す一般的な溶接部300に対して、まず溶着金属の中央部に対して評価断面(溶着金属評価断面)301を設定できるとともに、母材側の溶接部との境界部に形成される熱影響部は母材が熱的に変質した層であり、この部分に沿って評価断面(熱影響部評価断面)302を設定できる。材料によっては溶接金属側の境界層の強度が低い場合にはこの断面に対しても、評価断面を設定して評価する。なお、図3において303は母材部評価断面である。
【0035】
クリープ損傷の評価においてはミーゼス相当応力の平均応力が最も大きくなる評価断面によって評価するが、その理由となる応力分布の変化を図4に示す。なお、図4において縦軸は応力、横軸は評価断面での位置を示す。初期状態においては、内圧や熱応力により発生する応力は局部的な応力集中によって、最大応力部分や最小応力となる部分を有する分布となる(初期応力分布)。しかし、高温で初期状態の負荷が継続すると、最大応力部分のクリープ変形が進行し、応力は低下する傾向となる。逆に低応力部分は高応力部分の負荷を分担するため応力の上昇傾向となる。長時間にわたり一定の負荷状態が継続すると、最終的には評価断面に沿って応力はほぼ均一な分布となる(最終応力分布)。
【0036】
図5は、縦軸を応力、横軸を時間として、高応力部と低応力部の時間に対する応力変化を示したもので、高応力部は初期他状態の応力が高いものの、短時間で急激に低下し、一定の応力となる。逆に低応力部の応力は初期状態の応力から徐々に応力が高くなり、高応力部の応力と同程度の応力に収斂することとなる。この収斂する応力がこの評価断面での平均応力であり、この応力でクリープ損傷を評価することにより、簡易ながら精度の高いクリープ寿命を評価することができる。
【0037】
図6は、縦軸を応力及び損傷、横軸を時間として、高応力部の応力と損傷の時間変化を示したものである。通常の非破壊的方法等によりクリープ損傷を評価する場合には、高応力の最も損傷の大きい部分に対して、局部的にクリープ損傷の評価を行う。このため、評価結果の精度が高く、正確にその時点でのクリープ損傷が評価されたとしても、損傷の時間に対する変化は線型変化でないため、初期状態と評価結果を線型推定して得た寿命評価結果(図中点線で示す)は必ず実寿命に比べて短寿命となる。端的には、ある時点でのクリープ損傷が1/2となっていても、寿命消費速度は時間に対して変化するため寿命消費は1/2ではなく、それ以下であるということである。
【0038】
図7は、縦軸を応力、横軸を破断時間として、実部品を模擬した溶接試験片に対して実施したクリープ破断試験の結果と、通常の単軸クリープ破断試験の結果を比較して示したものである。ケーシングを模擬した溶接部を有する厚肉円筒試験片に対して、蒸気による内圧を負荷した試験を実施すると、それぞれ平均応力が最も高くなる評価断面に沿って平均応力で評価した場合(図7中円形のマークで示す。)は、単軸のクリープ破断データと良く一致するが、最大応力で評価した場合(図7中正方形のマークで示す。)は、常に短寿命側の推定となり、実寿命と大きなずれを生じている。この結果から、評価断面に沿った平均応力によるクリープ損傷の評価は簡易ながら、時間に対して非線形で変化する損傷を線形で評価できる方法であることがわかる。
【0039】
クリープ損傷は、一定変位により定常負荷を与える負荷形態で、初期の負荷形態が繰り返し負荷される場合には、損傷が最大応力部位に限定されることになる。その一例は、図2に示した蒸気弁200の上蓋206の取り付けボルト207である。このボルトは取り付け時の締結力と蒸気の内圧に抗して長時間にわたり引張荷重が負荷されている。また形状的にネジにより荷重を伝えているため、そのネジ底には応力の集中により過大な応力が発生する。このボルトに対してもクリープ損傷評価断面としてネジ底を含む断面を設定でき、全寿命にわたり蒸気弁を分解し、再組立することなく初期の組立状態で使用する場合には、上記の平均応力によってクリープ寿命を評価できる。
【0040】
しかし、ボルトによる締結構造であるため、メンテナンスのため定期的な分解と再組立が行われることになる。このように変位型の定荷重負荷で初期状態が繰返し負荷される場合には、応力が平均化することなく最大応力部にクリープ損傷が蓄積し、当該部のみにき裂が発生し、進展してボルトの破断に至ることがある。
【0041】
図8は、縦軸を応力、横軸を評価断面での位置として、その過程を模式的に示したもので、ネジ底に発した高応力は時間の経過とともに応力緩和して応力が低下するが、十分に低下して平均的な応力分布となる以前に、分解、組立が実施されると組立直後に初期の高応力状態が再現されることになる。この過程が繰り返されることにより、ネジ底の高応力状態は緩和されることなく維持されることになり、クリープ損傷が局部的に蓄積されることになる。すなわちこのような状態で使用される場合には、高応力部(局所部位)のみにクリープ損傷が累積するとしてクリープ寿命を評価する必要がある。
【0042】
この場合、ネジ底の高応力が応力緩和により低下する過程でのクリープ破断時間に対する比からクリープ損傷を評価し、その損傷範囲は例えば非破壊検査により検出可能な大きさとすることにより安全側にその範囲を決めることができる。当該ボルトのような使用形態にある溶接部に対しては、同様なクリープ損傷の集中を考慮して寿命を算出する必要がある。
【0043】
しかし、縦軸を応力、横軸を時間とした図9に示すように、ケーシングの内圧による応力のように蒸気タービンの起動・停止により内圧が変化しても、応力の変化過程に変動を生ずるものの、全体としてクリープ変形過程が継続している場合には、上記のクリープ損傷の局部的な累積は生じないため、通常の平均応力評価によりクリープ損傷を評価できる。
【0044】
一般的にクリープ寿命は、溶接部と母材では強度の相違から同一の応力に対しても異なった値となる。このため、母材と同一のクリープ寿命を得るためには、クリープを生じる荷重に対して負担する断面の厚さを変化させることによって同一の寿命とすることができる。
【0045】
図10は、縦軸を応力、横軸を破断時間として、母材と同一のクリープ寿命とする場合の溶接部の応力設定の方法を示すものである。溶接部のクリープ強度(図10中四角形のマークで示す。)が母材のクリープ強度(図10中円形のマークで示す。)に比べて低い場合には、同一の設計寿命で設定したクリープ寿命に対して当該の応力値を設定応力とすることで、母材と同一のクリープ寿命を確保することができる。この場合には当該断面の厚さを厚くする事により同一の負荷に対して低応力状態を実現できる。逆に溶接部の強度が母材より高い場合には、母材よりも薄肉化して高応力化しても同一のクリープ寿命とすることができる。
【0046】
次に、疲労損傷の評価法について説明する。図11は段差部310に設けられた溶接部311の疲労損傷評価点の例を示す。当該溶接部311は段差部310による形状的な不連続のために、応力やひずみの集中を生じる。その大きさは評価点(溶接金属評価点)312を通る断面に沿った応力やひずみの分布を描くとことによって得ることができる。疲労損傷は応力やひずみの大きさによって算出の方法が異なる。過渡的な負荷によって生じる応力が溶接材料の引張と圧縮の耐力σyを超えて繰り返される場合、すなわち応力範囲Δσ>2σyの場合には過渡的な負荷の繰り返しによって低サイクル疲労と呼ばれる繰り返しの塑性変形を伴う疲労となるため、低サイクル疲労データを用いた疲労損傷が必要となる。
【0047】
図12は、縦軸をひずみ範囲Δε、横軸を破断繰り返し数Nfとして、低サイクル疲労曲線による疲労寿命算出の方法を示すものである。FEM解析等で得られた評価点におけるひずみ範囲の値Δεtにより疲労寿命を得ることができる。
【0048】
過渡的な負荷によって生じる応力が溶接材料の引張と圧縮の両方の耐力σyを超えずに繰り返される場合、すなわち応力範囲Δσ<2σyの場合には過渡的な負荷の繰り返しによって高サイクル疲労と呼ばれる疲労となる。この場合には繰り返される応力の平均応力と応力の振幅によって疲労破壊するか否かを判定する。
【0049】
図13のうち、上部に示す図13(A)は、縦軸を応力振幅σa、横軸を平均応力σmとして、評価点の状態をプロットしたものである。ここで平均応力なしで疲労破壊しない上限応力振幅(疲労限) σWと平均応力軸上の引張強さσBを結んだ直線が疲労破壊の限界線となり、この限界線以下の条件ではどのような状態でも疲労破壊することなく安全である。
【0050】
しかし、この領域を超えた応力条件にある場合には疲労寿命は有限寿命となるため、疲労寿命を算出する必要がある。この場合、図中点線で示すように、まず平均応力軸上の引張強さσBと評価点の応力条件(評価点の平均応力、応力振幅)のプロットを結んで、応力振幅軸(縦軸)上に延長し、その交点を相当応力振幅σeqとする。次に、縦軸を相当応力振幅σeq、横軸を破断繰り返し数Nfとした図13の下部の図13(B)に示すように、通常の平均応力の無い高サイクル疲労曲線上において、この相当応力振幅σeqにあたる破断繰り返し数Nfを読み取ることによって評価点における疲労寿命を得ることができる。
【0051】
以上のようにして得られたクリープ寿命trと疲労寿命Nfを基にして、設計寿命内での使用時間tと繰り返し数nとの分数によりそれぞれクリープ損傷Φc=t/tr、疲労損傷Φf=n/Nfを算出する。そして、縦軸を疲労損傷Φf、横軸をクリープ損傷Φcとした図14に示す限界損傷線図上でクリープ損傷と疲労損傷をプロットし、限界損傷線以下であれば、設定した設計寿命は安全な領域にあるため許容される溶接構造となる。限界損傷線を越えた位置にプロットされる場合には、設定した設計寿命内でき裂を発生し、局部的な破壊を生ずることとなるため、当該の溶接構造は許容されず、再設計が必要となる。この場合には材料や溶接開先形状、溶接部全体の形状に対して見直しが必要となる。
【0052】
以上のように、本実施形態では特にクリープ損傷評価において、従来の方法とは異なり、溶接部の局部的な高応力部での瞬間的な損傷評価にとらわれることなく、全寿命にわたりクリープ変形によって応力状態が変化し、損傷の累積速度が変化していく状態で、これまで得られた知見により相当応力の平均応力が最も大きくなる評価断面を設定することにより、簡易で高精度なクリープ損傷の評価が可能である。
【0053】
また、定常荷重の負荷形態により高応力状態が局部的に持続する場合には、クリープ損傷が局部的に累積するとして評価する。さらに、疲労損傷とクリープ損傷の相互作用による寿命の低下を考慮して、限界損傷を評価することにより、限界損傷に達した段階でのき裂の発生範囲を特定した。以上のように負荷形態に応じてクリープ損傷評価における応力の平均化と損傷の累積範囲を適正化して評価することにより、クリープ寿命を簡易で高精度に評価することができ、溶接部を有する高温機器の安全運用に大いに貢献することができる。
【0054】
以上のように、本実施形態では、高温機器のうち対象となる溶接部を選定し、評価部位ごとに負荷する主要な荷重を定常的に負荷する荷重と過渡的に負荷する荷重に分類している。このように、クリープ損傷を評価すべき定常的な荷重と、疲労損傷を評価すべき過渡的な荷重を明確に区別し、それぞれの損傷の発生する範囲を明確にすることによって、損傷の相互作用が生ずる範囲も明らかになる。
【0055】
過渡的な荷重に対しては疲労損傷を考慮し、過渡的な荷重により発生する応力、ひずみをできるだけ局所評価点でとらえて、各評価点での疲労損傷を算出する。一般的にはFEM解析により、各荷重の荷重変化によって生ずる応力、ひずみを求めて、疲労損傷を算出する。疲労損傷は荷重の繰返しにより常に線形で損傷が累積するため、局部的な線型損傷和によって容易に評価される。
【0056】
定常的な荷重によるクリープ損傷に対しては、その負荷形態により損傷が局所に限定されることがあるが、クリープ損傷が局部的に累積しない一般的なクリープ損傷に対しては、主要部の評価断面に対して各負荷荷重から算出されるミーゼス相当応力の平均応力によってクリープ損傷を評価する。
【0057】
従来の方法では、最大応力によってそのまま評価したり、非破壊的な手法によって得た損傷評価パラメータを用いてクリープ寿命を算出していた。しかし、これらの結果はクリープ損傷が時間に対して非線形的に累積していくことを無視していたため、全て安全側の短寿命評価なっていた。本実施形態では、応力分布と損傷速度の変化により、応力分布と損傷が平準化されるという実験的事実を用いることによって、評価断面に沿った平均応力を設定し、この応力によってクリープ損傷を評価することによりクリープ寿命を簡易で、精度良く評価することができる。またクリープ損傷を平均応力で評価することにより、局部的には非線形で累積するクリープ損傷が時間に対しては線形で累積する量に変換することができ、限界損傷と比較する場合の限界寿命評価が容易に実施できるようになる。
【0058】
一定変位により定常負荷を与える負荷形態で、初期の負荷形態が繰り返し負荷される場合には、クリープ損傷が最大応力部位に限定されることになる。この場合には、一定変位負荷中の最大応力部の応力変化からクリープ損傷を算出し、これが繰り返され、最大応力部のみに累積するとしてクリープ損傷を評価する。本実施形態ではクリープ損傷がクリープ変形により平均化しやすいことを示しているが、部品の負荷形態によっては局部的に高応力状態が持続し、クリープ損傷が局部的に累積することも示しており、その評価方法としてクリープ損傷の算出法と累積する範囲を示している。以上のように本実施形態は高温機器溶接部の様々な負荷形態に対応した損傷評価方法を示しており、その適用性は高い。
【0059】
総合的な寿命評価では各部品に対して主要評価断面でクリープ損傷を評価して、疲労損傷とともに設計寿命を評価する。限界損傷線図上でクリープ損傷と疲労損傷をプロットし、限界損傷線以下であれば、設定した設計寿命は安全な領域にあるため許容される溶接構造となる。限界損傷線を越えた位置にプロットされる場合には、設定した設計寿命内でき裂を発生し、局部的な破壊を生ずることとなるため、当該の溶接構造は許容されず、再設計が必要となる。この場合には材料や溶接開先形状、溶接部全体の形状に対して見直しが必要となる。以上のように、限界損傷評価によって、損傷の相互作用による寿命の低下が考慮され、当該溶接構造が許容されるか否かが明確となる。
【0060】
他の実施形態として、図15、16に示すように簡易的にケーシングや蒸気弁などの厚肉容器の溶接部における平均応力を算出することができる。図15に示す方法は、最も単純に平均応力を算出する方法として、内壁側での最大応力と、外壁側での最小応力の単純な算術平均を用いる方法であり、方法が簡易であるが、得られた結果は全体的な分布を考慮すると高めの応力なるため、短寿命側の評価となる。
【0061】
図16に示す方法は、内壁側から外壁に対して応力が線分上に分布するとして平均応力で分割した場合に、応力×距離の面積すなわち積分値が同一なるように分割した場合の応力である。この積分平均応力は、上記した単純平均応力に比べて小さな値となるが、応力形状から見ると妥当な値を与える。
【0062】
上記2つの方法は、適用する部位と状態によって、最適な方法を適用することができる。最も簡易な単純平均応力も、比較的薄肉の容器の場合には、簡易でしかも十分な精度が得られるため、必ずしも常に最も複雑な方法を適用することはない。
【0063】
以上の実施形態では、内圧や熱応力によって損傷するケーシングや蒸気弁において、平均応力を簡易に求めることができ、形状や使用状態により最適な方法を選定して高精度にクリープ寿命を評価することができる。
【0064】
さらに別の実施形態として、図17に示すように、応力が複雑に変化してクリープ損傷の評価断面が特定できない場合には、代表的な評価断面について短時間の有限要素法解析を実施して応力変化傾向をつかみ、得られた応力変化傾向を外挿して長時間の使用状態での評価応力を決定し、評価断面を特定することができる。本実施形態では、精度の高い有限要素法解析を適用することにより長時間の応力状態や損傷状態を推定し、容易にクリープ寿命評価を行うことができる。
【0065】
さらにまた別の実施形態として、図18に示すように溶接部に溶け込み不良などの溶接欠陥を生じた場合を想定し、当該欠陥をき裂とみなして、設計寿命内での疲労とクリープによるき裂進展を考慮することにより、設計寿命内で安全に使用できるかを判断することができる。以上のようにき裂進展寿命による寿命評価を併用することにより、より安全に寿命を判断可能となる。
【0066】
以上説明した蒸気タービンの弁、ケーシングなどの圧力容器の溶接部だけでなく、本発明は、回転体である図19に示すような異材継ぎ手を有し高温で使用されるロータ190などにも適用可能であり、高温機器の溶接部の様々な負荷に対応した簡易で、高精度な寿命設計方法を提供することができ、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係わる一実施形態を説明する流れ図。
【図2】蒸気弁におけるクリープ損傷のための評価断面を説明する概略縦断面図。
【図3】一般的な高温機器の溶接部における評価断面を説明する要部拡大断面図。
【図4】本発明に係わる評価断面での応力分布の変化を説明する概略図。
【図5】本発明に係わる最大応力部と最小応力部の応力の時間変化を説明する概略図。
【図6】本発明に係わる高応力部での応力と損傷の変化を説明する概略図。
【図7】本発明に係わる実機模擬部品溶接部によるクリープ破断試験の結果と単軸クリープ破断試験の結果を比較した概略図。
【図8】クリープ損傷が局部的に累積する過程を説明する概略図。
【図9】一般的な起動・停止におけるクリープ応力変化の持続性を説明する概略図。
【図10】母材と溶接部のクリープ強度の違いに対する設定応力の相違を説明する概略図。
【図11】溶接部の疲労損傷算出のための評価点の応力、ひずみを説明する要部拡大断面図。
【図12】繰り返し塑性変形が繰り返される低サイクル疲労における疲労寿命の算出方法を説明する概略図。
【図13】高サイクル疲労における疲労寿命の算出方法を説明する概略図。
【図14】限界損傷線図を用いて溶接設計が許容できるか判断する方法を説明する概略図。
【図15】蒸気弁などにおいて単純平均により平均応力を設定する方法を説明する概略図。
【図16】蒸気弁などにおいて積分平均を用いて平均応力を設定する方法を説明する概略図。
【図17】複雑な応力状態の部品や実部品を用いて、有限要素法解析を適用することにより長時間の評価応力や損傷を推定する方法を説明する概略図。
【図18】想定される欠陥からのき裂進展を基にして寿命を算定する方法を説明する概略図。
【図19】回転体である高温のロータに溶接部を適用した場合を説明する一部切断図。
【図20】蒸気タービンの主要部を説明する一部切り欠き斜視図。
【図21】ボイド個数密度を用いて非破壊的にクリープ損傷を評価する方法を説明する概略図。
【図22】ボイド個数密度の時間変化を用いた寿命評価法を説明する概略図。
【図23】クリープボイド個数密度によりクリープ損傷を評価する方法を説明する流れ図。
【図24】レプリカ法と探傷法を用いた溶接部の寿命評価方法を説明するブロック図。
【符号の説明】
【0068】
200……蒸気タービンの弁、201……配管、202……溶接部、203……評価断面、204……評価点、205……弁箱、206……上蓋、207……ボルト。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温機器の溶接部における評価部位に負荷される定常負荷からクリープ寿命を算出して高温機器溶接部の寿命設計を行う高温機器溶接部の寿命設計方法であって、
前記溶接部に、変位により前記定常負荷が与えられる場合、クリープ変形による応力変化を予測して前記クリープ寿命を算出することを特徴とする高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項2】
前記溶接部に、変位により前記定常負荷が与えられ初期状態が繰返し負荷されない場合、前記評価部位を評価断面とし、前記定常負荷に対して該評価断面の断面積を用いて算出された平均応力に基づいて前記クリープ寿命を算出することを特徴とする請求項1記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項3】
前記溶接部に、変位により前記定常負荷が繰返し負荷される場合であって、かつ、クリープ変形が継続的に進行する場合には、前記評価部位を評価断面とし、前記定常負荷に対して該評価断面の断面積を用いて算出された平均応力に基づいて前記クリープ寿命を算出することを特徴とする請求項1記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項4】
前記評価断面が、ミーゼス相当応力の平均応力が最も高い断面であることを特徴とする請求項2又は3記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項5】
厚肉容器の溶接部における平均応力を、内外面における応力を単純平均して求めることを特徴とする請求項2〜4いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項6】
厚肉容器の溶接部における平均応力を、応力の厚さ方向の積分値を内外径差で除して求めることを特徴とする請求項2〜4いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項7】
溶接部の各部と母材のクリープ強度が異なる場合にはクリープ寿命が同一となるように平均応力を設定することを特徴とする請求項2〜6いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項8】
前記溶接部に、変位により前記定常負荷が与えられ、初期状態が繰返し負荷される場合、前記評価部位を局所部位とし、前記定常負荷に対して前記局所部位について算出された局所応力に基づいて前記クリープ寿命を算出することを特徴とする請求項1記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項9】
限界損傷線図を用い、変動負荷から算出された疲労寿命と前記クリープ寿命が、限界損傷以下の安全域に位置するか否かによって、溶接構造が許容できるか否かを判定することを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項10】
溶接部に生ずる溶接欠陥をき裂とみなして疲労とクリープによりき裂進展する寿命から溶接構造が許容されるかを判断することを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項11】
応力分布が複雑に変化する場合に、代表的な評価点について有限要素法解析により短時間の経時的な応力変化を解析し、この解析結果に基づいて外挿して応力を算出することを特徴とする請求項1〜10いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項12】
前記溶接部が、ロータの異材継手の溶接部であることを特徴とする請求項1〜11いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項1】
高温機器の溶接部における評価部位に負荷される定常負荷からクリープ寿命を算出して高温機器溶接部の寿命設計を行う高温機器溶接部の寿命設計方法であって、
前記溶接部に、変位により前記定常負荷が与えられる場合、クリープ変形による応力変化を予測して前記クリープ寿命を算出することを特徴とする高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項2】
前記溶接部に、変位により前記定常負荷が与えられ初期状態が繰返し負荷されない場合、前記評価部位を評価断面とし、前記定常負荷に対して該評価断面の断面積を用いて算出された平均応力に基づいて前記クリープ寿命を算出することを特徴とする請求項1記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項3】
前記溶接部に、変位により前記定常負荷が繰返し負荷される場合であって、かつ、クリープ変形が継続的に進行する場合には、前記評価部位を評価断面とし、前記定常負荷に対して該評価断面の断面積を用いて算出された平均応力に基づいて前記クリープ寿命を算出することを特徴とする請求項1記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項4】
前記評価断面が、ミーゼス相当応力の平均応力が最も高い断面であることを特徴とする請求項2又は3記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項5】
厚肉容器の溶接部における平均応力を、内外面における応力を単純平均して求めることを特徴とする請求項2〜4いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項6】
厚肉容器の溶接部における平均応力を、応力の厚さ方向の積分値を内外径差で除して求めることを特徴とする請求項2〜4いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項7】
溶接部の各部と母材のクリープ強度が異なる場合にはクリープ寿命が同一となるように平均応力を設定することを特徴とする請求項2〜6いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項8】
前記溶接部に、変位により前記定常負荷が与えられ、初期状態が繰返し負荷される場合、前記評価部位を局所部位とし、前記定常負荷に対して前記局所部位について算出された局所応力に基づいて前記クリープ寿命を算出することを特徴とする請求項1記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項9】
限界損傷線図を用い、変動負荷から算出された疲労寿命と前記クリープ寿命が、限界損傷以下の安全域に位置するか否かによって、溶接構造が許容できるか否かを判定することを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項10】
溶接部に生ずる溶接欠陥をき裂とみなして疲労とクリープによりき裂進展する寿命から溶接構造が許容されるかを判断することを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項11】
応力分布が複雑に変化する場合に、代表的な評価点について有限要素法解析により短時間の経時的な応力変化を解析し、この解析結果に基づいて外挿して応力を算出することを特徴とする請求項1〜10いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【請求項12】
前記溶接部が、ロータの異材継手の溶接部であることを特徴とする請求項1〜11いずれか1項記載の高温機器溶接部の寿命設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2009−162647(P2009−162647A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1258(P2008−1258)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】
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