説明

高温用ステンレス鋼繊維焼結成形体、及び該成形体によるスターリング機関の熱再生器

【課題】通気特性と、熱交換性能に優れたステンレス鋼繊維焼結成形体、及びその応用に係わるスターリング機関の熱再生部材を提供する。
【解決手段】多孔質構造を備え、温度300℃以上の高温環境の用途に用いられる焼結成形体で、該成形体は、平均等価直径:5〜50μmとその直径の30〜2000倍の平均長さを持つステンレス鋼繊維のランダム分布と焼結によって構成され、平均空孔径1〜40μmで、かつ一方の一次面から温度(T℃)に加熱された加熱流体を他方の二次面側に向かって送給圧力10Paで供給した時の、次式による熱遮蔽効率(η)が60〜95%である高温用のステンレス鋼繊維焼結成形体と、これを用いたスターリング機関の熱再生器である。η=1−(下流側での排出温度(T1)/上面側の供給加熱空気の温度(T0))※但し、供給加熱温度(T0)は300℃、供給時間(t)は5sec間とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、300℃以上の高温環境下で使用され、ステンレス鋼繊維でなる高温環境用の多孔質焼結成形体、及び該成形体で構成され、外部熱源を活用して例えば電気エネルギーを得るスターリングエンジンや、低温用途に用いるスターリング冷凍機などのスターリング機関の為の熱再生器に関する。
【背景技術】
【0002】
スターリングエンジンは、理論的に極めて高い熱効率が得られること、石油燃料以外にあらゆる種類の熱源を利用でき汎用性があること、静粛で低公害であり、また温室効果ガスの排出を抑え得る等の多くの利点を有し、またスターリングエンジンの逆サイクルであるスターリング冷凍機についても、フロン等の有害な冷媒など複雑な要因を必要とせず、自然環境及びエネルギー効率の面から、近年の有効なエネルギー手段として注目され、産学官を挙げた取り組みがなされている。
【0003】
このようなスターリング機関は、等温圧縮、等積加熱、等温膨張、等積冷却からなる周知の熱サイクルで運転され、その基本的構造は例えば第4図の構成図に示すように、パワ

プレーサピストンdを配置し、前記パワーピストンaとクランク機構で連結するとともに、前記高温室bと低温室Cを結ぶ通路h内に、熱媒ガスを加温する加熱器e,熱再生器f、及び通過した熱媒ガスを冷却するクーラgを配置している。また最近では、こうしたクランク機構を備えることなく、全体を筒状ハウジング内に直列的に配置した内臓型のものも試みられている。
【0004】
これら機関は、その熱媒ガスとして例えばヘリウムガスが用いられ、一方の高温室と他方の低温室との間での熱媒ガスの膨張と収縮現象を利用して、パワーピストンa及びディスプレーサピストンdを各々往復作動させるもので、熱再生器fの高温室側は例えば500〜700℃程度の高温状態に加熱され、他方の低温室側では温度降下した低温状態の熱媒ガスが繰返し流入することとなる。従って、通常の一方向性の熱交換器に比してより大きな温度差が生じる為、その熱交換性能はスターリング機関の装置性能に直接影響を及ぼし、重要な品質要件になっている。
【0005】
またこのような熱再生器fは、一方の高温室側からは高熱に加熱された熱媒ガスが流入し、他方の低温室側からは冷却されたガス流入が各々高速で繰り返し行われることから、そうした使用に適するよう次のような性能を備えることが求められている。
▲1▼再生器内部で熱媒ガスの温度を吸収緩和し、熱伝達しにくい特性であること。
▲2▼再生器内部を流通する熱媒ガスの流通抵抗が小さく、通気性に優れること、
▲3▼必要に応じて、再生器の系外に放熱できる構造であること、
▲4▼耐熱性に優れ、熱腐食や熱酸化等が少なく長寿命であること、
【0006】
従来、こうした要請に応える熱再生器fとして、例えば特許文献1は、表面に凹部を形成した金属線材のメッシュを用いることを開示し、特許文献2は、このような網体を積層し拡散結合した所定形状の焼結品をハウジング内に直接組み込んでなる外燃機関を示し、更に特許文献3は、金属繊維を焼結した蓄熱部の周囲にリング状の保持部を設けた熱交換具を装着して、保持部と外筒の内周面との間に、熱媒体が通る流路と隔離された気密な断熱用の空孔を形成したスターリングエンジン用の熱再生器を各々開示している。
【先行技術文献】
【0007】
特許文献1 特開平11−248274号公報
特許文献2 特開平7−19633号公報
特許文献3 特開昭63−68759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前二者のように金網メッシュを用いる熱再生器では、それを構成する金属線材が比較的太く、しかもその線材間に形成される空孔の容積比率(空孔率)が小さいことから、流通する熱媒ガスの流れが阻害され、また織りピッチを必要以上に大きくして空孔率を高めたものでは、熱媒ガスとの接触が減少して十分な吸熱が行われず、熱交換性能が満足できない。
【0009】
他方、後者の特許文献3は、そうした欠点を改善するものとして、金属繊維を焼結した焼結体を用いるものとして、図3のように不規則に曲がり変形した長繊維の焼結体を開示しているが、必要以上の長さの長繊維でなる焼結体は、各繊維が実質的に平面的に配向し、前記金網メッシュを越えるような空孔状態は得られ難い。
【0010】
また、一般的な金属材料は種々形態への加工性や強度特性に優れるものの、他の無機材料や有機材料に比して比較的高い熱伝導率を備え、例えば銅金属では0.94cal/sec・cm℃の熱伝導率であり、アルミニウムでは0.49cal/sec・cm℃、軟鋼でも0.12cal/sec・cm℃と大きく、また、低熱伝導性の金属材料として知られているステンレス鋼でも0.04〜0.06cal/sec・cm℃程度と10倍以上の熱特性を有するものとされている。
【0011】
したがって、前記スターリング機関の熱再生器のように、高温状態と低温状態との繰り返しで使用される場合、流通する熱媒ガスの保持温度をその内部で十分に調和するように、高温→低温への流通時には熱吸収して緩和し、逆に低温→高温方向への流通時には低温状態のまま送給されないよう、両面間での温度差を大きくする緩衝機能を備えながら、円滑な流通状態を備えることが有効との結論に至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような使用を前提とする高温環境用での焼結成形体として、ガス状態の高温熱媒ガスの流通性能を高め、円滑な流入・流出をもたらす通気特性と、成形体自体が吸収した熱の伝達を抑え熱的緩衝機能に優れた高温用ステンレス鋼繊維焼結成形体、及びその応用に係わるスターリング機関の熱再生部材の提供を目的とする。
【0013】
すなわち、本願請求項1に係わる発明は、多孔質構造を備え、温度300℃以上の高温環境の用途に用いられる焼結成形体であって、該成形体は、平均等価直径:5〜50μmとその直径の30〜2000倍の平均長さを持つステンレス鋼繊維のランダム分布と焼結によって成形され、平均空孔径1〜40μmで、比表面積:100cm2/g以上を有し、その上流一次面から温度(T℃)に加熱された加熱流体を下流二次面側に送給圧力10Paで供給した時の、次式による熱緩衝効率(η)が60〜95%であることを特徴とする高温用のステンレス鋼繊維焼結成形体である。
【0014】
η=1−(二次面側での排出温度(T1)/一次面側の供給加熱空気の温度(T0))
※但し、供給加熱温度(T0)は300℃、供給時間は5sec間とする
【0015】
また請求項2に係わる発明は、前記ステンレス鋼繊維は、重量%で、C:0.08%以下、Si:0.4〜1.0%、Mn:0.8〜2.0%、Ni:12〜15%、Cr:17〜19%、Mo:2〜3%を含み、かつ次式A値が84.0〜98.0%で、残部Fe及び不可避不純物でなるオーステナイト系ステンレス鋼でなることを特徴とし、請求項3に係わる発明は、前記ステンレス鋼繊維は、該横断面面積と等価の正円形状での周長に対し、1.2〜3倍の実周長Lを持つ不規則な凹凸形状をなし、かつ該凹凸がその軸方向に延びた稜と微小溝によって、増大した表面積を有するものであることを特徴とする前記成形体である。
【0016】
A=5.5Si+1.3Ni+4Cr+Mo
【0017】
更に請求項4に係わる発明は、前記成形体は、前記平均等価直径の30〜100倍の平均長さを持つ前記オーステナイト系ステンレス鋼の短繊維が、直針状でかつ3次元ランダム方向に配向した分布によって、その内部に立体状の微細流路が形成されたことを特徴とし、請求項5に係わる発明は、前記熱緩衝効率(η)が、80〜90%であることを特徴とする。
【0018】
請求項6に係わる発明は、前記いずれかの前記焼結成形体により、円環リング状に加圧焼結形成された焼結成形体でなるスターリング機関の熱再生器であり、請求項7に係わる発明は、前記焼結成形体は、その上下面又は上下面間のいずれかの位置に、その外周面にまで広がり、かつ前記ステンレス鋼繊維焼結成形体より大きな熱伝導率を有する第二構成部材を更に積層配置してなること、請求項8に係わる発明は、前記第二構成部材は、銅又は銅合金の線材を織製した粗メッシュ品であることを各々特徴とするスターリング機関の熱再生器である。
【発明の効果】
【0019】
このように本願請求項1に係わる発明によれば、焼結体は線径5〜50μmでその30〜2000倍の平均長さを持つオーステナイト系ステンレス鋼繊維のランダムな分布と焼結により一体な多孔質構造とした繊維焼結成形体であって、特に300℃以上の高温環境下で用いられる熱的配慮から、通常の金属材料より低い熱伝導特性を持つオーステナイト系ステンレス鋼の選択、かつその繊維形態による形成空孔の調整によって、熱緩衝効率(η)が60〜95%のものとし、例えば前記スターリング機関の熱再生器として使用する際は、加熱された高温の熱媒ガスが下流側に伝達される際の熱交換性を高め、エネルギー効率の飛躍的な向上を図ることを可能とする。
【0020】
また前記ステンレス鋼繊維の形態として、前記等価直径、繊維長さ及び得られる空孔特性の調整は、流通する熱媒ガスの流れの円滑化とともに、熱媒ガスとの接触機会を高めて効果的に熱的緩和作用をもたらすなど、通気効率と熱的作用を高め得る。
【0021】
また前記ステンレス鋼が請求項2のように、Ni及びCrの増加、ならびにMoの添加とともに、前記所定組成の関係を示すA値が84.0〜98.0%とするオーステナイト系ステンレス鋼にものでは、繊維材料自体の熱伝導率を抑えて耐高温酸化・耐高温腐食性に優れ、繰り返しの加熱・冷却に対する耐熱性が向上される。
【0022】
更に請求項3〜5に係わる発明では、前記効果に加え、更に増大された表面積を持つ前記ステンレス鋼繊維、乃至短繊維状のステンレス鋼繊維によって、形成される空隙特性を向上して熱媒ガスの流通を良好にして該熱緩衝性能を向上する。したがって、熱媒ガスの通気性と熱的効果を更に促進される。
【0023】
請求項6の発明では、このようなステンレス鋼繊維の焼結成形体によって、スターリング機関としてエネルギー効率の向上した再生器が提供でき、さらに請求項7及び8のように、その一部に熱伝導特性に優れた第二構成部材を複合配置することで、前記焼結成形体が吸熱した保持温度を前記第二構成部材を通じてその周面で摺接する例えばシリンダ壁面に効果的に伝達して、随時系外に放熱させることができる。したがって、ガス流体の流通方向には熱伝達を抑えながらも、吸収した吸収熱は該第二構成部材によって効果的に系外への放熱させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係わるステンレス鋼繊維焼結成形体の一形態を示す斜視図である。
【図2】焼結成形体におけるステンレス鋼繊維の拡大図である。
【図3】前記ステンレス鋼繊維の分布状態を示す顕微鏡写真の一例である。
【図4】スターリングエンジンの構造を示す構成図である。
【図5】焼結成形体の厚さ断面内での熱的緩衝状態の一例を示す説明図である。
【図6】他の形態の焼結成形体の使用状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一形態を添付図面に基づき、その製造方法とともに説明する。
図1は本発明に係わる焼結成形体の一例として、図4に符号fで示すスターリング機関の熱再生器として用いられるものであって、その成形形状は、例えば厚さ5mm以上の厚肉品、具体的には外径100〜300mm,内径80〜250mm、厚さ10〜50mm程度の大きさで、かつ内部に微細空孔を設けた多孔質構造の円環状の成形体1(以下、単に成形体という場合もあり)をなす。なお該成形体1を前記熱再生器に用いる時は、前記高温室と低温室との間のガス流路3内に配置して前記熱媒用ガスが充満され、一方の一次面(本形態では高温室側)は該熱媒ガスが膨張して可動ピストンを動かすよう、例えば温度300〜700程度の任意な温度に加熱され、他方の二次面側は、前記膨張作用で透過した該熱媒ガスを冷却する冷却室に繋がるよう配置される。
【0026】
前記成形体1は、本発明では金属材料の中で特に熱伝導性の低いオーステナイト系ステンレス鋼が選択され、その平均等価直径が5〜50μmで、かつ該直径の30〜2000倍の平均長さを持つ前記ステンレス鋼の繊維材料2をランダム状に所定密度で加圧焼結することで、内部には所定の空孔径と比表面積を備えた前記多孔質構造をなす。それにより、該成形体1は、熱緩衝効率が60〜95%で、微細かつ複雑な内部空孔3が形成される。
【0027】
前記ステンレス鋼繊維2は、例えば特開昭62−259612号が開示するような、ステンレス鋼線材を外装材で被包した複数本を更に集束した複合線体に、強度の引抜き加工をして細径化する集束加工法による繊維トウを、前記所定長さに切断したものが用い得る。
【0028】
特に、このような集束加工プロセスによる繊維材料では、その集束構造や加工方法、処理条件等の適宜選択によって、複合線材内における各細線材は各々異なる加工歪、応力を受けながら細径化されることから、その断面形状は例えば図2のように、複雑で不規則な凹凸4と粗雑表面を持つ非円形形状をなし、また該凹凸4はその長手方向に沿って連続する微小溝4Aや稜4Bとして、増大した表面積をもたらす。より好ましくは、前記凹凸の実周長Lが、該横断面面積から算出される真円形状での周長の1.2〜3倍、更に好ましくは1.5〜1.8倍として、焼結成形体1における比表面積の増加と空孔特性に寄与する。
【0029】
このように不規則形状と粗雑表面は、該ステンレス鋼繊維の表面積を増大して、その近傍を流通する前記熱媒ガスとの接触機会を高め、ガス流体の保持温度をより効果的に吸収して全体的に熱伝達を抑え、熱的緩衝効果を向上する。また他方では、微細かつ複雑な流路が形成でき、空隙率を例えば50〜95%にまで高めて、流通する前記熱媒ガスの円滑な流通をもたらし、前記熱的緩衝性能とともに熱機関での性能アップに寄与する。
【0030】
本発明の焼結成形体1は、このような不規則断面形状の前記ステンレス鋼繊維2の使用を許容し、かつその繊維形態(繊維径と繊維長さ)と焼結成形に基づく空孔特性(空孔径及び比表面積)の調整によって、所定の前記熱遮蔽効率を備えるものとしており、より好ましくは80〜90%の前記熱緩衝効率を備える。なお本発明は、前記ステンレス鋼繊維2のこのような不規則形状を前提とする関係から、その繊維太さについては平均等価直径で示すこととし、算出は、例えば数〜数十点程度の任意に抽出したステンレス鋼繊維の各横断面面積から各々算出される真円形状での換算直径の平均値が用いられる。
【0031】
前記ステンレス鋼繊維2は、こうして求めた等価直径が前記5〜50μmで、かつその直径の30〜2000倍の平均長さを持つものが用いられ、これをランダム方向に配向分布させることで、形成される空孔3を立体化してより高い空隙特性をもたらすこととなる。特にその繊維長さが同30〜100倍程度の比較的短い長さの短繊維状のものを、ほぼ直針状態でランダム方向に配向したものでは、その効果がより促進される。
【0032】
前記等価直径が5μmを下回るような微細なものでは、熱緩衝の絶対的容量、すなわち蓄熱容量が少なくなって十分な熱的効率が期待できず、また形成される空孔も微小すぎてガス流体の流通性が阻害される。逆に50μmを超える太い繊維材料によるものでは、形成空孔が大きくなって熱媒ガスとの接触機会が減少し、ガスの保持熱を十分に吸収させることが困難となり、熱緩衝効果が低下する。したがって、より好ましくは15〜40μm、さらに好ましくは20〜30μmとする。
【0033】
またその繊維長さについても、前記透過直径との関係が前記30倍未満のものでは、充填密度が大きくなって熱媒ガスの流通抵抗が大きくなり、2000倍を超えるものでは繊維2の配置が平面的に積層したものとなって良好な空孔が得られ難く、より好ましくは30〜300倍、更に好ましくは50〜150倍とする。
【0034】
こうしたステンレス鋼繊維2でなる前記成形体1は、その繊維材料の仕様選定や、焼結成形時の加圧乃至加熱温度等の条件設定によって、平均空孔径1〜40μmでかつ比表面積が100cm2/g以上を有するように調整される。 空孔径が1μm未満のものでは、熱媒ガスの圧力損失が増大して熱媒ガスの良好な流通が得られ難く、40μmを超えると、同ガス流体の流れが直線的になって十分な熱緩衝が期待できず、より好ましくは5〜30μmとする。また、こうした空孔精度の調整とともに、その比表面積が100cm2/g以上、例えば100〜3000cm2/gに増大することで、流通する前記熱媒ガスの接触機会を高めて有効な熱吸収が図れる。比表面積が100cm2/g未満のものでは、このような熱緩衝効果は期待できない。
【0035】
前記空孔径の測定については、例えばJIS−B8356に基づくバブルポイント圧による方法、粒子を予め懸濁した懸濁流体からの分級コンタミナントから求める方法など、従来公知の方法が採用でき、また比表面積についても例えばBTE測定法(例えば島津製作所製のBTE測定装置)が用いられる。また該成形体1が必要以上に大型のもので、これら測定範囲を超えることが懸念されるものについては、例えば該成形体1の一部を予め測定可能な大きさ乃至厚さに適宜手段で切出したサンプル試料で測定することを許容する。
【0036】
こうして、本発明に採用される前記ステンレス鋼繊維材料2には、例えばSUS304,316,316Lなど熱伝導性が低いオーステナイト系ステンレス鋼が選択される。特に質量%で、C:0.08%以下、Si:0.4〜1.0%、Mn:0.8〜2.0%、Ni:12〜15%、Cr:17〜19%、Mo:2〜3%をみ、かつ次式A値が84.0〜98.0%で、残部Fe及び不可避不純物でなる、高Ni,高CrでMo添加型のステンレス鋼ではその特性が更に向上でき、前記熱的特性とともに、耐高温酸化・耐高温腐食性にも優れることから、繰り返しの加熱・冷却に伴う耐熱特性が向上できる。
A=5.5Si+1.3Ni+4Cr+Mo
【0037】
この中で、前記Cはより高強度の特性をもたらすとともに、その繊維材料内に微細な炭化物を形成することで、熱の伝達を抑え熱伝導性を抑制するが、多量の添加は好ましくなく、上限を0.08%とする。また、Siは脱酸剤として作用するフェライト生成元素で、耐酸化性を向上する関係からより好ましくは0.4〜1.0%とする。同様にMnも前記Siと同様に脱酸剤として作用し、固溶強化による加工性の低下を含めて、より好ましくは0.8〜2.0%とする。
【0038】
またNiは、オーステナイトの生成元素で安定した固溶状態をもたらし、高温状態での耐熱性及び耐酸化性を高める関係から、12〜15%とするのがよく、Crも高温状態での耐酸化性を図る必要から17〜19%が好ましい。他方、Moは材料の孔食電位を向上してた耐食性を高め、耐酸化性をもたらし2〜3%の添加が好ましい。
【0039】
そうしたステンレス鋼の組成の中でも、更に前記A値が84.0〜98.0%のものでは前記熱的特性を更に向上して使用寿命の増大が図れ、より好ましくは89.0〜95.0%とする。
【0040】
本発明に係わる前記焼結成形体は、こうした調整や選択によってその熱遮蔽効率(η)が60〜95%を備え、それによって温度300℃以上の高温環境下での使用、特に該温度への加熱と冷却を繰り返し行う際の熱的影響を抑えて、熱交換性能の向上が図られる。
【0041】
前記熱緩衝効率(η)は、本発明の前記成形体1をスターリング機関の熱再生器として使用されることを想定して、その一方の例えば上流側一次面Aから、他方の下流二次面B側に向かって、所定温度(T=300℃)に加熱された加熱流体(例えば加熱エアー)を送給圧力10Paで供給した時の二次面から排出される排出温度(T)との比、すなわち、{η=1−(T/T)}で求めることとする。 この場合、高温状態の熱風が連続的に流通すると、その流通時間とともに成形体1の全体が温度上昇する他、前記送給条件についても、その使用目的及び使用形態も種々異なることもある為、本発明では便宜的に前記条件に加えて、その供給時間を5sec.間として基準化しており、より好ましい熱緩衝効率(η)は80〜90%である。
【0042】
ところで、このような多孔質構造体の形成空孔内を加熱された高温ガス流体が流通する場合の熱伝達は、その構成材である前記ステンレス鋼繊維を介して直接的に伝達される熱伝導現象の他、加熱された熱媒ガス自体がそのまま空孔内を通過することで伝達される対流現象、更には熱の電磁放射による放射現象など種々状態が複合して、全体としてその供給側と排出側との間で温度差が生じるものの、本発明は、こうした温度差を前記熱遮蔽効率との関係で着目し、その為の必要条件を前記のように設定するものである。
【0043】
このような熱緩衝状態の一例を図5に示しており、実線は加熱側→冷却側の正変化、破線は冷却→加熱の場合の逆変化を示す温度変化であるが、このように正逆の温度変化は完全なリニアではなく、若干のズレが見られることから、本発明に係わる前記熱緩衝効率は前記条件による正変化の場合を対象とする。
【0044】
そして、該熱緩衝効率(η)を60〜95%に大幅に高めることで、これを前記スターリング機関の熱再生器や熱交換器として用いる場合には発生エネルギー効率を高め、用途拡大に貢献する。また、その熱緩衝効率を得る手段として、前記ステンレス鋼繊維での低熱伝導性材料の選択の他、その繊維材料の太さや長さ、分布充填状態、形成空孔や成形品寸法などを含めた仕様調整で達成されてなる。そうした調節によって、空孔内を流通する熱媒ガスの流れが阻害されない流通特性とともに、前記熱的特性の改良が図られる。
【0045】
なお、前記成形体1の成形形状や大きさ、寸法などの仕様は、前記記載の円環リング状以外にも、例えば用途及び使用条件などに応じて種々形態で可能であり、円筒状や円錐状、あるいはその周面を膨出乃至絞り形状にした太鼓状のもの、さらに広幅な板状に成形したものを含む。 また必要ならば、熱媒ガスの流通方向に沿って分布密度や空孔特性が異なるように、勾配付けしたり、特性の異なる数種の前記成形体を積層した積層成形体とすることもできる。
【0046】
また本発明の焼結成形体1は、例えば次の方法で製造可能である。
予め成形品形状に調整された成形型を用意し、その型内に前記所定量のステンレス鋼繊維2を充填して、必要に応じて表面を押圧しながら加熱し焼結一体化するという従来公知の粉末や金技術がある。 この時、前記充填ないし焼結後に押圧するものでは、その押圧強度に伴って表面層がより大きく押圧されて密な空孔状態を得ることができる。したがって、その厚さ方向においてその中央側に向かって空孔密度や空孔径が勾配的に変化させることができ、このような分布状態の成形体では、熱媒ガスの一次側表面での緻密部分によって、該ガス流体の保持温度を効果的に吸収でき、その分、排出側での温度降下が図れ熱交換性が促進される。
【0047】
また、図6は同熱再生器の他の形態として、前記構成の焼結成形体10の厚さ方向の例えば上面側に、その外周にまで達する面状の第二構成部材11(第二部材ともいう)を重ね積層配置した複合構造としたもので、該構成部材11は前記焼結体10より大きい熱伝導特性を持つ、例えば銅金属線を織り合わした粗メッシュを用いている。
【0048】
該第二部材11は、前記熱媒ガスの高温室側での加熱温度を吸収して、その周面側に設けられるシリンダー壁面12に伝達して系外に放熱させ、温度低下させた上で前記焼結成形体10を流通させることができる。 具体的には、より高い熱伝導特性を持つ前記銅乃至銅合金等の例えば線径0.05〜2mm程度の線材により、5〜200#のメッシュ網体乃至その積層品が好適する。これら網体は該熱媒ガスの流通を必要以上低下せず、また成形体1を構成する前記ステンレス鋼繊維2の脱落を防ぐ表面保護用としての働きを合わせ持つ。
【0049】
特に前記第二構成部材が銅金属によるものでは、前記ステンレス鋼によるものに比して約10倍以上の優れた熱伝導特性を備え、例えば100℃での銅金属が0.94cal/sec・cm℃にも及ぶことから、この構成部材を介して内部蓄熱を効率的に外周方向に伝達し、例えばシリンダ壁面12を通じて系外に放出させることができる。
【0050】
またこのような作用は該熱再生器の中では、特に高温室側において有用性が高く、流通ガスの高温熱を予めその前段階で低減させた上で前記焼結成形体に送る構造が好ましく、その為、該第二構成部材は、前記焼結リング体10の上面側に積層配置したり、あるいはサンドイッチ状態に挟み込んで介在させることことができる他、前記金網メッシュに代えて、前記成形体1より粗大空孔を持つように構成した、焼結膜材やパンチング孔開き多孔板なども可能である。
以下、実施例により本発明の作用効果を更に説明する。
【実施例1】
【0051】
冷間集束伸線法により加工されたステンレス鋼繊維は、平均等価直径20μmで、その横断面形状は、正円形状に換算した円周長さの1.3倍の実周長を持つ不規則凹凸断面を備えるとともに、前記等価直径の50倍の平均長さに切断した切断繊維であり、この繊維にバインダー用のポリイミド樹脂の微粉末を加えて、十分に混ぜ合わせたものを原材料とした。
【0052】
成形型は、外径160mm、内径120mm、厚さ40mmに成形されたもので、その型内凹所に所定量の前記繊維をランダムかつ均一に分布させて充填した後、10〜20N/mm2の圧力を付加して温度230℃に加熱し、前記ポリイミド樹脂を介した仮結合した予備成形体を得た。該成形体はその状態で十分に取り扱い可能な成形性を有しており、前記型から取出して次の焼結処理を行った。
【0053】
焼結は、真空引きしながら温度800〜1200℃に加熱可能な焼結炉で3時間加熱し、その結果、前記樹脂バインダーはガス化して除却され、ステンレス鋼繊維同士が拡散結合してより強度な多孔質の成形体が得られた。その成形体は、平均空孔径は13μmで、充填密度20%を有し、空孔状態も、ステンレス鋼繊維がランダムな方向性と直針状態での分布によって立体化されており、その分布状態を図3の拡大写真に示す。 また該成形体の比表面積を測定する為、厚さ3mmに切除して島津製作所製BET測定装置で測定した結果、240cm2/gであった。
【0054】
次にこの成形体の熱遮蔽効率を測定する為に、その上面側にノズルを載置して温度300℃に加熱された熱風を10Paの供給圧力で5秒間送給した時の、下面側から排出される排出温度を赤外線温度計で測定した。その結果、60℃にまで低下しており、熱遮蔽効率は80%で有効な熱遮蔽が図れており、またその時の圧力損失も比較的少なく、良好な通気特性を有するものであった。
【実施例2】
【0055】
平均等価直径30μmで、長さ2mmに切断した表1記載の3種類のステンレス鋼でなる切断繊維を用い、外径100mm×厚さ30mmの厚板成形板状の成形型内に充填して、前記実施例1と同様に加圧焼結処理を調整して空孔径10〜20μmを有する焼結成形体を得た。その比表面積はいずれも110〜250cm2/gであり、またその中で、各繊維はストレートな直針状で、種々方向性を持ってランダムかつ一様に分布したもので、形成された空孔は実質的に立体化したものであった。
【0056】
【表1】

※A=5.5Si+1.3Ni+4Cr+Mo
【0057】
次に、各成形体について、形成空孔特性と、加熱ガスの熱緩衝効率及び流通特性の測定結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
この結果に見られるように、試料A,Bは微細空孔で、比表面積も大きいことから熱緩衝効率に優れ、全体的に良好であった。しかし試料C,Dは、形成空孔が大きいこと、また材料の熱伝導率が高いことに伴って熱緩衝効率が低い結果となった。また流通特性については、全体的に良好であった。
【比較例】
【0060】
本発明の比較材として、熱伝導率が0.36cal/sec・cm℃の銅合金の繊維材料(繊維径35μm、繊維長さ50mm)のスライバーを厚さ10mmに加圧成形した銅製金属多孔質板を用いて、その4枚を積み重ねて合計厚さ40mmの成形体とした。
その熱緩衝効率は、高い熱伝導性であることに起因して40%程度に留まり、あまり大きな熱的降下作用は得られなかった。
【実施例3】
【0061】
前記実施例1で得られたステンレス鋼繊維の焼結成形体の上流側表面上に、線径0.5mmの銅線でなる50#の金網シート2枚を重ね合わせた積層品を用い、これをα型スターリングエンジンの熱再生器として発電試験を行ったところ、良好な温度緩和ができ発電効率の向上が図れた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上詳述したように、本発明によれば、多孔質構造の繊維焼結成形体として、その熱遮蔽効率が60〜95%に高めることで、特に高温状態の熱媒ガスを流通させる際の熱吸収を効果的に行うものであり、これをスターリング機関の熱再生器のように、300℃以上の高温と冷却状態を繰り返し行うような用途、あるいはそのような高温環境の用途に用いる構造材として有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 焼結成形体
2 ステンレス鋼繊維
f 熱再生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造を備え、温度300℃以上の高温環境の用途に用いられる焼結成形体であって、
該成形体は、平均等価直径:5〜50μmとその直径の30〜2000倍の平均長さを持つステンレス鋼繊維のランダム分布と焼結によって成形され、平均空孔径:1〜40μm、比表面積:100cm2/g以上を有し、かつその上流一次面から温度(T℃)に加熱された加熱流体を下流二次面側に送給圧力10Paで供給した時の、次式による熱緩衝効率(η)が60〜95%であることを特徴とする高温用ステンレス鋼繊維焼結成形体。
η=1−(二次面側での排出温度(T1)/一次面側の供給加熱流体の温度(T0))
※但し、供給加熱温度(T0)は300℃、供給時間(t)は5sec間とする
【請求項2】
前記ステンレス鋼繊維は、質量%で、C:0.08%以下、Si:0.4〜1.0%、Mn:0.8〜2.0%、Ni:12〜15%、Cr:17〜19%、Mo:2〜3%をみ、かつ次式A値が84.0〜98.0%で、残部Fe及び不可避不純物でなるオーステナイト系ステンレス鋼でなることを特徴とする請求項1に記載の高温用ステンレス鋼繊維焼結成形体。
A=5.5Si+1.3Ni+4Cr+Mo
【請求項3】
前記ステンレス鋼繊維は、該横断面面積と等価の正円形状での周長に対し、1.2〜3倍の実周長Lを持つ不規則な凹凸形状をなし、かつ該凹凸がその軸方向に延びた稜と微小溝によって、増大した表面積を有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高温用ステンレス鋼繊維焼結成形体。
【請求項4】
前記成形体は、前記平均等価直径の30〜100倍の平均長さを持つ前記オーステナイト系ステンレス鋼の短繊維が、直針状でかつ3次元ランダム方向に配向した分布によって、内部に立体状の微細流路が形成されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高温用ステンレス鋼繊維焼結成形体。
【請求項5】
前記成形体の前記熱緩衝効率(η)が、80〜90%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の高温用ステンレス鋼繊維焼結成形体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の前記焼結成形体により、円環リング状に加圧焼結形成された焼結リング体でなることを特徴とするスターリング機関の熱再生器。
【請求項7】
前記焼結リング体は、その上・下面又は上下面間のいずれかの位置に、その外周面にまで広がり、かつ前記焼結成形体より大きな熱伝導率を有する第二構成部材を更に積層配置してなることを特徴とする請求項6に記載のスターリング機関の熱再生器。
【請求項8】
前記第二構成部材は、銅又は銅合金の線材を織製した粗メッシュ品であることを特徴とする請求項7に記載のスターリング機関の熱再生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−236078(P2010−236078A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103427(P2009−103427)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000231556)日本精線株式会社 (47)
【Fターム(参考)】