説明

高温用途に有用なポリエーテルイミド樹脂及び製造方法

【課題】優れた特性バランス(比誘電率値、破壊強度、頑強性)を有する新規ポリエーテルイミド樹脂の提供。
【解決手段】m−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)をビスフェノールAの塩及びアリールシアノ変性ビスフェノールの塩のビスフェノール混合物と反応させて得られるポリエーテルイミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ポリエーテルイミドに関する。特に、本発明は、種々の高温物品の部品を形成するのに有用な新規ポリエーテルイミド樹脂及び物品の部品に関する。本発明はまた、このような樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルイミドは、高温環境に非常に有用な高性能ポリマーの1種として知られている。(ポリエーテルイミドは、「ポリイミド」という大きな分類中の一群の材料と考えられることが多い。)ポリエーテルイミド樹脂は、例えばSaudi Basic Industries社からUltem(登録商標)にて市販されている。ポリエーテルイミド材料は通常、優れた耐熱性、耐溶剤性及び耐燃性を特徴とする。ポリエーテルイミド材料は、高エネルギー密度及び良好な機械特性に加えて高い絶縁強度も示すことができる。これらの特性によって、ポリエーテルイミド樹脂は多くの最終用途、例えば医療及び化学機器並びに多くの自動車及び航空機用途(装飾及び保護の両目的)に非常に魅力的になる。さらに、ポリエーテルイミド樹脂は、コイル及びケーブル被覆材として高温電気絶縁に用いたり、変圧器、キャパシタなどの電気装置の部品として用いたりする。
【0003】
幾つかの最終用途では、さらに優れた物理、化学及び電気特性をもつポリマー部品が依然として必要とされている。一例として、一部の電気デバイスは、約200℃超の動作温度に耐えることができる材料を必要とする。さらに、最終用途が高い比誘電率値及び高い破壊強度(必ずしも両方一緒に向上する特性ではない)の組合せを必要とすることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5357033号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、優れた特性バランスを有する新規ポリエーテルイミド樹脂が当業界で望まれている。多くの場合、材料は比較的高い比誘電率値及び破壊強度特性を有する必要がある。材料は、また、約200℃超の高温で動作できなければならず、過酷な環境に曝露されたデバイス内で適切に機能するのに十分な頑強性(例えば、膜強度及び柔軟性)をもたなければならない。また、デバイス部品の主成分となるポリマー材料を経済的な方法で形成することができれば理想的であり、これによりデバイスその他の物品の製造プロセス全体が向上する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1実施形態は、次の式(I)の繰返し単位の構造を有するポリエーテルイミド樹脂に関する。
【0007】
【化1】

【0008】
上記構造中の各芳香環は、少なくとも1つのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0009】
ポリエーテルイミドは次式のものである。
【0010】
[A]m[B]1-m
式中、Aは次の構造であり、
【0011】
【化2】

【0012】
Bは次の構造のものであり、
【0013】
【化3】

【0014】
構造A及びBの各芳香環は、少なくとも1つのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【0015】
本発明の別の実施形態は、m−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)をビスフェノールAの塩及び構造IIを有するアリールシアノビスフェノールの塩のビスフェノール混合物と1種以上の極性非プロトン性溶剤の存在下約60℃〜約110℃の範囲の温度で反応させる工程を含む、ポリエーテルイミドポリマーの製造方法を含む。
【0016】
【化4】

【0017】
構造IIのR3〜R10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、C1−C20アルキル基、C4−C20シクロアルキル基又はC4−C20アリール基であり、R11〜R14は各々独立に、水素原子、C1−C20アルキル基、C4−C20シクロアルキル基又はC4−C20アリール基であるか、或いはR11とR12は結合してC4−C20脂肪族環を形成し、脂肪族環は、1つ又は2つ以上のC1−C20アルキル、C6−C20アリール、C5−C20アラルキル、C5−C20シクロアルキル基又はこれらの組合せによって置換されていてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で記載した数値範囲は上限と下限を含み、独立に組合せることができる(例えば、「約25重量%以下、特定すると約5重量%〜約20重量%」の範囲は上下限値及びその範囲のすべての中間値を含む)。組成範囲に関しては、重量レベルは、特記しない限り、全組成物の重量に基づき、比も重量に基づく。さらに、用語「組合せ」はブレンド、混合物、合金、反応生成物などを含む。
【0019】
本明細書及び特許請求の範囲全体を通して用いた近似的な表示は、それが関与する基本機能に変化をもたらすことなく変動することが許される量的表現を修飾するのに適用することがある。したがって、「約」のような用語で修飾された値は、特定された正確な値に限定されない。ある例では、近似的な表示はその値を測定する計器の精度に対応する。
【0020】
本明細書及び特許請求の範囲において、単数表現は、文脈上明らかにそうでない場合以外は、複数も含む。ここで用いる用語「ことができる」及び「ことがある」は、一連の状況下で何かが起こる、つまり特定の性質、特徴又は機能を有する可能性を示したり、他の動詞を修飾してその修飾した動詞とともに1つ又は2つ以上の能力、性能又は可能性を表す。したがって、「ことができる」及び「ことがある」を利用する場合、修飾した用語が、表す能力、機能又は使用に対して明らかに適切、可能又は適当であることを示し、一方、ある状況では、修飾した用語が適切でも、可能でも、適当でもないことがあることを勘案している。例えば、ある状況では、事象又は能力を期待することができ、一方、別の状況ではその事象又は能力を実現することができない。
【0021】
本発明では、ポリエーテルイミド樹脂(即ち、ポリエーテルイミドポリマー)は次の式(I)の繰返し単位の構造を有する。
【0022】
【化5】

【0023】
式Iにおいて、構造中の各芳香環は(独立に)、種々の基又は単原子で置換することができる。具体例としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素又は臭素)、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などがあるが、これらに限らない。本明細書及び本出願人の同日付け出願(整理番号241840−1)に記載されているように、このアリールシアノポリエーテルイミド構造単位を他のポリエーテルイミド類とともに存在させることにより、種々の最終用途に魅力的なポリマー系を得ることができる。
【0024】
以下にさらに説明するように、樹脂のシアノ(CN)−フェニル終端ビスフェノール構造(簡単にするために式Iの下位構造xとして表示)は、構造(II)を有するモノマー塩から製造することができる。
【0025】
【化6】

【0026】
構造IIの場合、種々の基又は原子をフェニル基に結合することができ、その多くは上述したものである。したがって、基R3〜R10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、C1−C20アルキル基、C4−C20シクロアルキル基又はC4−C20アリール基であり、R11〜R14は各々独立に、水素原子、C1−C20アルキル基、C4−C20シクロアルキル基又はC4−C20アリール基とすることができる。ある実施形態では、R11とR12は結合してC4−C20脂肪族環を形成することができる。脂肪族環は、1つ又は2つ以上のC1−C20アルキル、C6−C20アリール、C5−C20アラルキル、C5−C20シクロアルキル基又はこれらの組合せによって置換されていてもよい。
【0027】
シアノ(CN)−フェニル終端ビスフェノール構造又は単位に注目したが、樹脂全体は次の式で示されるポリマー(技術的にはコポリマー)として考えることができる。
【0028】
[A]m[B]1-m
式中、Aは次の構造のものであり、
【0029】
【化7】

【0030】
を有し、Bは次の構造のものである。
【0031】
【化8】

【0032】
式A及びBの各々において、幾つか又はすべての芳香環を、少なくとも1つのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基で置換することができる。
【0033】
以下に説明するように、2つの構造の主な相違点はビスフェノールの選択にある。さらに、式A及びB各々では、幾つか又はすべての芳香環を、少なくとも1つのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基で置換することができる。
【0034】
構造Aと構造Bの相対比率(即ち、ビスフェノールA由来材料対アリールシアノビスフェノール由来材料)は広い範囲で変化することがある。比率の選択に影響を与える幾つかの要因には、所望のレベルの引張強さ、延性(例えば、衝撃強さの増加及び/又は破断点引張伸びの増加によって示される)、比誘電率値、誘電損失値、エネルギー密度、詳細なポリエーテルイミドの種類及び樹脂の最終用途がある。ある例では、アリールシアノ含量を増加するとTg値、エネルギー密度及び比誘電率を増加することができるが、誘電正接(dissipation loss factor)も増加する。さらに、比誘電率は、アリールシアノ含量がもっと高いレベル、例えば総ビスフェノール由来含量の割合として約50%超に増加すると、横ばい状態になるか低下し始めることがある。
【0035】
ビスフェノールA由来材料とアリールシアノビスフェノール由来材料の比率は、最終ポリマーの含量に基づいて表すことができる。したがって、ある実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂は、構造A及びBの総ポリマー含量に基づき約10%以上の構造Bを含有する。特定の実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂は、約50%以下の構造B、好ましくは、約40%以下の構造Bを含有する。キャパシタなどの電子デバイスに関連する幾つかの最終用途では、ポリエーテルイミド樹脂は、約20%〜約30%の構造Bを含有する。
【0036】
ポリエーテルイミドの分子量は、ある程度まで調節することができ、上記の多くの要因に依存する。ある例では、分子量(重量平均)は約35,000〜約100,000の範囲である。さらに特定の実施形態は、範囲は約40,000〜約70,000であるが、最も適切な範囲は特定の最終用途に合わせる。
【0037】
また、上述のように、ポリエーテルイミド樹脂の引張強さを、例えばモノマーの比率を加減することにより調節することもできる。約1μm〜約100μmの厚さのポリエーテルイミド膜では、引張強さ(例えば、ASTM D−638標準に準ずる)が、約5,000psi超であることが多く、場合によっては、約15,000psi超である。
【0038】
ある実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂のガラス転移温度(Tg)は約200℃超である。高温用途では、Tgは約220℃超、場合によっては、約250℃超にすることができる。上述のように、本発明のポリエーテルイミド材料は、引張強さなどの機械特性、Tgなどの熱特性及び特定の最終用途のための他の特性、例えば種々の電気特性の間で所望のバランスをもつように設計される。
【0039】
上述のように、本発明の別の実施形態は、ポリエーテルイミドポリマーの製造方法に関する。好ましい実施形態では、製造方法は、ビスフェノールAの塩と構造II(上記)のアリールシアノビスフェノールの塩とのビスフェノール混合物を構造IIIのm−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)と反応させる工程を含む。
【0040】
【化9】

【0041】
簡単にするために、本明細書でこの化合物を「ニトロフタルイミド化合物」、場合によっては、「ニトロPAMI」ということもある。
【0042】
各ビスフェノール化合物の塩の一般的な製造方法は当業界で既知である。例えば米国特許第5068353号(Dellacoletta)に、ジフェノキシド塩を対応する二価フェノール化合物から形成する方法が記載されている(この特許は本発明の先行技術として援用する)。ビスフェノールは、種々の他の塩基、例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド及び類似のカリウム又はリチウムの塩と反応させることができる。
【0043】
中間化合物に関しては、m−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)を様々な方法で製造することができる。大抵は、適当なニトロ置換無水フタル酸化合物を1種以上のジアミンと反応させる。好ましい化合物は、4−ニトロフタル酸無水物、3−ニトロフタル酸無水物及びこれらの混合物から選択される。ある例では、混合物は約75%以上の4−ニトロフタル酸無水物を含有することができる。
【0044】
多様なジアミンを用いることができ、それらの多くは、本特許の先行技術として援用する米国特許第3983093号(Williams, IIIら)に記載されている。Williamsの特許に記載されているように、適当なジアミンの多くは、以下の構造IVになる。
【0045】
2N─R─NH2 (IV)
式中、Rは、種々の芳香族炭化水素基(及びこれらのハロゲン化誘導体)、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルキレン終端ポリジオルガノシロキサン及びWilliamsの特許に記載された別の種類の二価の基から選択することができる。
【0046】
ジアミンの例としては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4■
−ジアミノジフェニルプロパン、4,4■−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、4
,4■−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4■−ジアミノジフェニルスルホン、4,
4■−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、2,4−ビス(β−
アミノ−t−ブチル)トルエン、1,3−ジアミノ−4−イソプロピルベンゼン、m−キシリレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−アミノプロピル)スルフィド、ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン及びジアミンの種々の混合物があるが、これらに限らない。好ましい実施形態では、ジアミンは、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン又はこれらの混合物から選択される。
【0047】
m−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)を生成する反応は、周知の高沸点不活性溶剤、例えばo−ジクロロベンゼン及びキシレンを用いる融解反応として行うことが有効である。反応温度は様々であるが、通常約150℃〜約180℃の範囲である。通常、反応系から水を留去し、得られたm−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)生成物は反応溶媒に不溶である。生成物を、濾過により固体として回収し、洗浄し、乾燥することができる。
【0048】
ポリエーテルイミドポリマーを製造するある実施形態では、まず、洗浄及び乾燥後のビスフェノール塩を適当な容器中で混合する。ニトロフタルイミド化合物(III)との反応の溶媒系は通常、極性非プロトン性溶剤及び1種以上の芳香族溶剤を含有する。(極性非プロトン性溶剤は、以下に説明する反応の特徴となるニトロ置換化学並びに他のポリエーテルイミドプロセスに必要となることが多い。芳香族溶剤は、下記の実施例で述べる共沸現象によって出発生成物又は反応系の水分を除去するのに役立つ。)
適当な極性非プロトン性溶剤の例には、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)及びこれらの組合せがある。ある実施形態では、DMSOが好ましい。芳香族溶剤の例には、ベンゼン、エチルベンゼン、キシレン、トルエン及びこれらの組合せがある。トルエンが好ましいことがある。当業者は、本発明の教示内容に基づいて与えられた状況に最適な溶媒系を選択することができる。
【0049】
溶媒系中でのビスフェノール塩の混合は、ある程度溶剤の種類及び沸点に依存する反応温度で行う。通常、反応は、約100℃〜約160℃の範囲の温度で行う。典型的には、混合工程の間に芳香族溶剤を反応容器から留去する。以下の実施例の1つで説明するように、この後反応混合物を室温まで放冷するが、その間、塩は完全に極性非プロトン性溶剤に溶解したままである。冷却工程は、ニトロフタルイミド成分の添加時の早期反応を防ぐために非常に重要になることがある。
【0050】
次に、無水環境でm−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)成分を少量の非プロトン性溶剤とともに反応系に注意深く添加することができる。適当な反応容器の例は、不活性気体で満たすことができるグローブボックスである。ビスフェノール及びニトロフタルイミド化合物の相対量は、所定の最終用途のポリエーテルイミドコポリマーの特定の組成によって決定される。反応温度は多くの変数、例えば使用する特定のビスフェノール及び使用する溶媒系に依存する。ほとんどの場合、反応温度は約60℃〜約120℃の範囲である。特定の実施形態では、反応温度は約70℃〜約100℃の範囲である。
【0051】
重合反応についてのそのほかの詳細は、実施例の1つで説明する。重合反応は非常に迅速に起こり、例えばキログラムレベルで反応物質を使用した場合約20分間未満で起こることができる。この種類の反応では、コポリマー生成物が反応溶液から沈殿する。生成物を適切な溶剤に溶解し、その後、濾過して不純物を除去することができる。このようなポリマー生成物の分離及び精製についての詳細は当業者に既知である。本発明の全般的な教示内でのこれらの方法の変更も当業者に明らかである。さらに、本発明のプロセス工程は、幾つかの従来の組成物の製造に用いる工程に比べてより実用的、例えば労力が小さいと考えられる。引用特許文献であるBendler及びタケコシらの米国特許第5357033号記載の工程がよい比較対象になる。
【0052】
上述のように、本発明のポリマー樹脂は、多くの形態、例えば成形品、接着剤、コーティング、膜又は発泡体で用いることができる。さらに、樹脂は、充填剤添加でも無添加でもよく、種々の界面活性剤、例えばフッ素系界面活性剤も含有することができる。樹脂の示す特性によって、多くの最終用途、例えば医療及び化学機器並びに多くの自動車及び航空機用途(装飾及び保護の両目的)に非常に魅力的になる。さらに、ポリエーテルイミド樹脂は、コイル及びケーブル被覆材として高温電気絶縁に用いたり、変圧器、キャパシタなどの電気装置の部品として用いたりする。幾つかの適当な最終用途は、本発明の関連技術として援用する本出願人の同日付け出願(整理番号241840−1)にさらに詳細に記載されている。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示して本発明の特定の実施形態をさらに説明する。これらの実施例はいかなる意味でも本発明を限定するためのものではない。
【0054】
実施例1
4つの試料を種々の電気及び機械特性について評価した。
【0055】
試料1は、SABIC Innovative Plastics社からUltem(登録商標)1000にて市販されているポリエーテルイミド樹脂であった。
【0056】
試料2は、メチルシアノ変性ポリエーテルイミド樹脂であり、下記の試料4のところで説明する方法にしたがってm−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)を以下のメチルシアノビスフェノール化合物(IV)の塩と反応させることにより製造した。得られたポリマーの分子量は46,000であった。
【0057】
【化10】

【0058】
試料3は、シアノ基を有する変性ポリエーテルイミド樹脂であった。この試料は、本発明の先行技術として援用する米国特許第5357033号(Bendlerら)の実施例2で製造した材料に類似していた(Bendlerの特許ではこの材料を「シアノメチル双極性基」を有するポリエーテルイミドということがある。)。試料は、m−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)を以下のシアノビスフェノール化合物(V)の塩と反応させることにより製造した。得られたポリマーの分子量は42,000であった。
【0059】
【化11】

【0060】
試料4は、本発明の実施形態の変性ポリエーテルイミド樹脂であった。ドライボックス中の機械式攪拌機を備えた2リットルの三つ口丸底フラスコに81.702g(0.3009モル)のビスフェノールAの二ナトリウム塩及び35.989g(0.10015モル)の以下に示したアリールシアノビスフェノール二ナトリウム塩(VI)を量り入れた。
【0061】
【化12】

【0062】
乾燥ジメチルスルホキシド(DMSO)(Aldrich社Sure−sealボトル入り)で塩を反応容器に洗い入れた。合計460mlのDMSOを添加した。次に容器に50mlの乾燥トルエン(4Åのモレキュラーシーブで乾燥)を添加した。反応容器に栓をし、ドライボックスから取り出した。その後、温度を126℃に設定した油浴に反応容器を入れた。反応容器に窒素導入管と背圧バブラーを有する冷却器/受器とを取り付けた。攪拌した混合物はすぐに透明な溶液になり、約4時間かけて、トルエンを容器から蒸留除去した。
【0063】
油浴の温度を79℃に下げ、油浴を反応フラスコから外し、反応混合物を放冷した。その後、フラスコに栓をし、ドライボックスに戻した。容器を約1.5時間放冷したが、すべての塩はまだ溶解していた。次に、ビス(4−ニトロフタルイミド)を秤量した(183.443g、0.40023モル)。この固体材料を反応容器に注意深く移し、別に270mlの乾燥DMSOを用いてビス(4−ニトロフタルイミド)を反応容器中にすすぎ入れた。反応容器に栓をし、ドライボックスから取り出した。その後、反応容器を油浴に再び浸けて79℃に保った。窒素導入管を冷却器/受器とともに再び取り付けた。攪拌機をゆっくりと作動させ、反応が進むにつれて攪拌速度をゆっくり上げた。
【0064】
反応は迅速に16〜18分間で起こり、ポリマーが大きな固体の塊として沈殿したときに反応を停止させた。少量の低分子量ポリマー及び副生物の亜硝酸ナトリウムのほとんどを含有するDMSO溶液を容器から注ぎ出した。その後、得られたポリマーの塊をクロロホルムに溶解させ、6.0mlの酢酸で奪活した。次に、1.5μmのガラス繊維フィルターで溶液を濾過して、微量の吸蔵亜硝酸ナトリウムを除去した。その後、ポリマーを高速ブレンダーを用いてメタノール溶液中で沈殿させた。ポリマーのGPC分子量はMw64,889、Mn22,834であった。Tg235℃。収量225g。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示すように、すべての試料は、許容レベルの強度及び柔軟性を示し、目視により亀裂又は別の劣化の形跡は認められなかった。しかし、本発明の材料に基づいた試料4は、非常に高いTg値を示し、他のデバイスより高温で用いたり、組み立てたりする電子デバイスへのこの材料の使用を可能にした。さらに、試料4の低い誘電正接(dissipation loss factor)Dfは、ここで示したキャパシタなどの種々のデバイスに非常に重要な高密度値をもたらすことができる。
【0067】
実施例2
試料5〜8は、ビスフェノールA及びアリールシアノビスフェノール(即ち、各々の塩)の比率を変えた以外は試料4の上記方法と同様に製造した。試料の膜(平均膜厚約5〜25μm)を形成した後、表2に示す特性を測定した(測定値における実施例1との相違は、用いた試料組成及び/又は試験手順のわずかな違いによるものである。)
【0068】
【表2】

【0069】
試料5〜8のデータは、2つのビスフェノールモノマーの比を変えた場合の誘電率、誘電損失及び破壊強度の変化を示す。しかし、あるレベルのアリールシアノモノマーを用いる利点がすべての例で明らかである。ある実施形態では、約25モル%のアリールシアノモノマー、即ち25モル%付近の範囲を用いることが好ましい。
【0070】
本発明を特定の特徴だけについて例示し、説明したが、多くの変更や改変を当業者が想起することができるであろう。したがって、特許請求の範囲は本発明の要旨に入るこのようなすべての変更や改変を含むものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(I)の繰返し単位の構造を有するポリエーテルイミド樹脂。
【化1】

上記構造中の各芳香環は、少なくとも1つのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【請求項2】
シアノ(CN)−フェニル末端ビスフェノール構造が以下の構造(II)を有するモノマーから誘導される、請求項1記載のポリエーテルイミド樹脂。
【化2】

式中、R3〜R10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、C1−C20アルキル基、C4−C20シクロアルキル基又はC4−C20アリール基であり、R11〜R14は各々独立に、水素原子、C1−C20アルキル基、C4−C20シクロアルキル基又はC4−C20アリール基であるか、或いはR11とR12は結合してC4−C20脂肪族環を形成し、脂肪族環は、1つ又は2つ以上のC1−C20アルキル、C6−C20アリール、C5−C20アラルキル、C5−C20シクロアルキル基又はこれらの組合せによって置換されていてもよい。
【請求項3】
構造(II)のR3〜R14が水素である、請求項2記載のポリエーテルイミド樹脂。
【請求項4】
約220℃超のガラス転移温度(Tg)を有する、請求項2記載のポリエーテルイミド樹脂。
【請求項5】
約500kV/mm以上の破壊強度及び約3超の比誘電率を有する、請求項2記載のポリエーテルイミド樹脂。
【請求項6】
次の式のポリエーテルイミド。
[A]m[B]1-m
式中、Aは次の構造のものであり、
【化3】

Bは次の構造の構造のものであり、
【化4】

構造A及びBの各芳香環は、少なくとも1つのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
【請求項7】
構造A及びBの総ポリマー含量に基づき約15%以上の構造Bを含有する、請求項6記載のポリエーテルイミド。
【請求項8】
構造AがビスフェノールA構造単位を有し、構造Bがアリールシアノビスフェノール構造単位を有する、請求項7記載のポリエーテルイミド。
【請求項9】
m−フェニレンジアミンビス(4−ニトロフタルイミド)を、ビスフェノールAの塩と次の構造IIのアリールシアノビスフェノールの塩とのビスフェノール混合物と、1種以上の極性非プロトン性溶剤の存在下約60℃〜約120℃の範囲の温度で反応させる工程を含む、ポリエーテルイミドポリマーの製造方法。
【化5】

構造IIのR3〜R10は独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、C1−C20アルキル基、C4−C20シクロアルキル基又はC4−C20アリール基であり、R11〜R14は各々独立に、水素原子、C1−C20アルキル基、C4−C20シクロアルキル基又はC4−C20アリール基であるか、或いはR11とR12は結合してC4−C20脂肪族環を形成し、脂肪族環は、1つ又は2つ以上のC1−C20アルキル、C6−C20アリール、C5−C20アラルキル、C5−C20シクロアルキル基又はこれらの組合せによって置換されていてもよい。
【請求項10】
前記反応を極性非プロトン性溶剤及び1種以上の芳香族溶剤を含有する溶媒系で行う、請求項9記載の方法。

【公開番号】特開2012−77301(P2012−77301A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−213597(P2011−213597)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】