説明

高湿冷却型波動式水耕栽培方法

【課題】 従来の波動式水耕栽培方法において、スペース内に垂下する植物の根を高湿及び適温に冷却して、波により根に供給される酸素と栄養分を正常に吸収させる高湿冷却型の波動式水耕栽培方法を提供する。
【解決手段】
培養液を入れた栽培槽内において、多数枚の植物植設パネルを、上記培養液面より上位に、該液面との間にスペースを形成すると共に根の一部を上記培養液に浸し又は浸さないで上記スペース内に垂下した状態で、支持し、
上記スペース内において、上記培養液面に波を生起させると共に飛沫を発生させ、上記波により上記根に空気と培養液を交互に触れさせ、上記飛沫の一部を気化させて上記スペース内を冷却すると共に上記スペース内の湿度を高める、
高湿冷却型波動式水耕栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、培養液を入れた栽培槽内に植物を植えた定植パネルを、根を培養液に浸した状態に支持して栽培を行う水耕栽培方法に対し、その酸素不足になりがちな根に十分な酸素と栄養を供給すべく提案された波動式水耕栽培方法のさらなる改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波動式水耕栽培方法として、横長箱形の栽培槽内の培養液上に、植物を植えた定植パネル(以下植物植設パネルという)を、該培養液面との間にスペースをあけると共に根を該スペース内に垂下した状態で支持し、その状態で上記培養液面に波を生起させ、それにより上記スペース内の根に空気と培養液を交互に触れさせるようにした方法が知られている。
【0003】
一般に、植物の根は、高湿度又は濡れた状態にあるとき空気中の酸素を活発に吸収することができるものである。温度については、夏期等の高温時に、根の呼吸作用が激しくなり、それに多くのエネルギーを消費してしまうため、植物の生長に支障を来たし、又低温に過ぎる時は、呼吸作用が著しく低下してしまうものであるため、通常18°〜25℃にあることが望ましい。
【0004】
これらの点について上記の従来方法をみると、根全体に空気と培養液を交互に触れさせるには、波高の大きい定常波が必要であるが、従来方法に示される液面に接した波動板をゆっくり上下動させるだけでは、そのような定常波は得られないため、根の一部にしか培養液が供給されず、残りの根は乾燥させてしまったり、夏期に高温の熱気に触れさせてしまうこととなり、植物の生長を阻害するおそれがあった。さらに、上記の従来方法では、発生させた波が、栽培槽の前方壁からの返し波の干渉を受け、定常波を乱されて波動伝播を阻害されるおそれもあった。
【特許文献1】特開昭63−309119
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願第1発明は、植物の根を垂下するスペース内を高湿度及び適温に冷却して、波により根に供給される酸素及び栄養分を正常に吸収させ、健全な生長を実現できる高湿冷却型の波動式水耕栽培方法を提供することを課題とし、
【0006】
本願第2発明は、上記第1発明の課題に加え、返し波の発生を防止して定常波の波動伝播を可能にし、それにより根に空気と培養液を交互に触れさせることができる高湿冷却型の波動式水耕栽培方法を提供することを課題とし、
【0007】
本願第3発明は、夏期等の高温時に植物全体を冷涼に保つことのできる高湿冷却型の波動式水耕栽培方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本願第1発明は、
培養液を入れた栽培槽内において、多数枚の植物植設パネルを、上記培養液面より上位に、該液面との間にスペースを形成すると共に根の一部を上記培養液に浸し又は浸さないで上記スペース内に垂下した状態で、支持し、
上記スペース内において、上記培養液面に波を生起させると共に飛沫を発生させ、上記波により上記根に空気と培養液を交互に触れさせ、上記飛沫の一部を気化させて上記スペース内を冷却すると共に上記スペース内の湿度を高める、
高湿冷却型波動式水耕栽培方法を提案し、
【0009】
本願第2発明は、
上記第1発明における栽培槽が、2本の直線状の栽培ベッドの両端を、弧状のコーナー案内流路により接続した循環流路槽である、高湿冷却型波動式水耕栽培方法を提案し、
【0010】
本願第3発明は、
上記第1又は第2発明におけるスペース内の冷気の一部を上記植物植設パネルの通孔を経て植物の葉茎部がわへ放出する、高湿冷却型波動式水耕栽培方法を提案する。
【発明の効果】
【0011】
本願第1発明によれば、波によって植物の根に空気と培養液を交互に供給すると共に、根全体を常時高湿度に保持して酸素及び栄養分の吸収を活発に継続することができ、又夏期等の高温時に根を冷涼に保持して呼吸作用を正常に持続させ、それらが相まって植物の健全な生長を確保できるのである。
【0012】
本願第2発明によれば、上記第1発明の効果に加え、培養液面に生起させた波が循環流路槽内を伝播し、返し波の発生を確実に防止することができ、それにより定常波をもって根に空気と培養液を交互に確実に供給することができる。
【0013】
本願第3発明によれば、上記第1発明又は第2発明の効果に加え、植物の根に限らず、葉茎部にも涼気を送って植物全体を涼しく保つことができ、それにより夏期の暑い季節にホウレンソウ、レタス等の冬野菜の栽培を実現できるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願発明における上記「波を生起させる」方法と「飛沫を発生させる」方法は、1つの装置により波を、他の装置により飛沫をそれぞれ発生させるものや、1つの装置により波と飛沫を発生させるものが含まれる。
【0015】
又、上記「飛沫の気化」を促進させる方法として、上記スペース内に送風を行うこともある。
【実施例】
【0016】
本例の栽培槽(1)は、図1に示すように、2本の直線状の長い栽培ベッド(2)、(2)を仕切壁(3)を境に平行に配置すると共に、両ベッド(2)、(2)の両端を、適宜弧状に回曲したコーナー案内流路(4)、(4)によりそれぞれ連通状態に接続して循環流路槽に形成してあり、これに培養液(5)を入れてある。
【0017】
定植パネル(6)は発泡スチロール製の長方形板に定植孔(7)…を開設したもので、この定植パネル(6)…多数枚を、上記直線栽培ベッド(2)、(2)における相対する仕切壁(3)と栽培槽(1)側壁に全長にわたって突設されたパネル受け(8)(8)、(8)(8)にパネ同志隣接状態で支持させ、その際全定植パネル(6)…、(6)…を培養液(5)液面より上位に支持して、該液面との間にスペース(S)を形成してある。
【0018】
上記のように支持した各定植パネル(6)…の定植孔(7)…に植物(P)…の基部を植え、それらの根(R)…を、本例では根(R)の一部(下端部分)を培養液(5)に浸した状態で、上記スペース(S)内に垂下させてある。
【0019】
上記培養液面に波を生起し、飛沫を発生させる手段は次のようである。栽培槽(1)の長手方向両端部において、槽(1)の相対する側壁上面に軸受(9)(9)、(9)(9)を固定すると共に、相対する軸受(9)(9)、(9)(9)にそれぞれ軸(10)、(10)を回転自在に支持させ、各軸(10)、(10)に、上記直線状栽培ベッド(2)、(2)の各端部内で培養液中に先端部を突入させた造波板(11)、(11)の基部を固定してある。
【0020】
上記造波板(11)は、矩形板状のもので、本例では、その下端に、図3に示すように短小の飛沫発生板(12)をヒンジ(13)、(13)を介して該造波板(11)の板面延長上の位置から斜め前方(図3左方)へ屈曲揺動自在に連結してあり、このような造波板(11)を、その軸(10)に連結した早戻り機構等により、図3の浸液位置から適宜角度往復揺動させ、その際往揺動時に、飛沫発生板(12)との協動で培養液を斜め前方へかき上げて波を生起させ、復揺動時に飛沫発生板(12)を屈曲させて容易に復帰させ、又上記往揺動時に、飛沫発生板(12)が液面近くに上昇したとき、スプリング、重錘等により該発生板(12)を急速に上方へはね上げて飛沫を発生させるようにしてある。
【0021】
(14)、(14)は、上記弧状コーナー案内流路(4)、(4)の上面を覆うコーナーカバーで、該カバー(14)、(14)と各植物植設パネル(6)…とで上記スペース(S)をほぼ閉塞状態に覆っている。なお、上記弧状コーナー案内流路(4)、(4)には、図1、2に示すように内側コースと外側コースを分ける弧状コース分け板(4’)、(4’)を配設し、該コース分け板(4’)、(4’)により内外両流れの干渉を抑制するようにするとよい。
【0022】
上例の装置を使用した高湿冷却型波動式水耕栽培方法の例について説明する。造波板(11)、(11)の往復揺動を連続駆動すれば、培養液(5)面に波が間欠的に生起され、これらの波が連続してスペース(S)内を前方へ伝播していき、それによりスペース(S)内に垂下する植物の根に空気と培養液を交互に供給する。直線状栽培ベッド(2)、(2)を伝播する波動は相当減衰しつつ弧状コーナー流通路(4)、(4)をめぐって隣りの栽培ベッド(2)、(2)に流れていき、返し波を受けることがない。
【0023】
一方、上記飛沫発生板(12)、(12)のはね上りにより培養液の飛沫がコーナーカバー(14)内に間欠的に発生し、該飛沫の一部が気化し、その気化の潜熱により直接的にはカバー(14)内の空気を冷却すると共に湿度を高めていき、これらカバー(14)内の冷気と湿気が上記波の伝播に乗ってスペース(S)内を前方へ搬送されていき、それによりスペース(S)内に垂下する根を高湿気で包むと共に冷涼に保つ。通常18°〜25℃である。各植物の根のうち培養液に触れずに露出している部分も常に高湿気に包まれ又は水蒸気の凝縮により濡れた状態になるから、空気中の酸素を活発に吸収することができ、又夏期等の暑い時季において根の呼吸作用及び栄養吸収を正常に維持する。
【0024】
図4の定植パネル(6a)は、定植孔(7a)の周囲に、パネルを貫通する冷気放出小孔(15)…を開設した例である。本例の定植パネル(6a)を高湿冷却型波動式水耕栽培方法に使用すれば、植物の根のみならず葉茎部をも冷涼に保ち、夏期に冬野菜の栽培を可能にする。
【0025】
図5の他の実施例は、飛沫発生型のスペース(Sb)つき定植パネル(6b)で、上板(16b)と下板(17b)とを複数の桟(18b)…により連結して内部にスペース(Sb)を有する中空扁平箱形に形成すると共に、上板(16b)に冷気放出小孔(15b)…を、下板(17b)及び桟(18b)…に多数の小孔(19b)…をそれぞれ設けたフロート型のものである。このスペースつきパネル(6b)を培養液面に浮かべ、その上板(16b)に設けた定植孔に植物を保持させ、根をスペース(Sb)内に垂下させた状態で波を生起させると、連続する波が各小孔(19b)…を通過しつつ飛沫を発生させ、その気化による潜熱でスペース(Sb)内を冷却し、その冷気によって根を冷涼に保つと共に、放出孔(15b)…から外へ放出される冷気により植物の葉茎部をも冷やす。
【0026】
なお、スペースつきパネルが沈下型の場合は、図1、2におけるパネル受け(8)、(8)と同様の受けに支持させる。
【0027】
さらに他の実施例として、図5のスペースつきパネルにおける上板(16b)を冷気放出孔のないものにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】高湿冷却型波動式水耕栽培槽の一部切欠平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図2における造波板部分の拡大図である。
【図4】定植パネルの他の例の一部省略拡大平面図である。
【図5】定植パネルのさらに他の例の拡大横断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 栽培槽
2 培養ベッド
4 弧状コーナー案内流路
5、5b 培養液
6、6a、6b 定植パネル
15a、15b 冷気放出孔
P、Pb 植物
R、Rb 根
S、Sb スペース




【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液を入れた栽培槽内において、多数枚の植物植設パネルを、上記培養液面より上位に、該液面との間にスペースを形成すると共に根の一部を上記培養液に浸し又は浸さないで上記スペース内に垂下した状態で、支持し、
上記スペース内において、上記培養液面に波を生起させると共に飛沫を発生させ、上記波により上記根に空気と培養液を交互に触れさせ、上記飛沫の一部を気化させて上記スペース内を冷却すると共に上記スペース内の湿度を高める、
高湿冷却型波動式水耕栽培方法。
【請求項2】
上記栽培槽が、2本の直線状の栽培ベッドの両端を、弧状のコーナー案内流路により接続した循環流路槽である、請求項1に記載の高湿冷却型波動式水耕栽培方法。
【請求項3】
上記スペース内の冷気の一部を上記植物植設パネルの通孔を経て植物の葉茎部がわへ放出する、請求項1又は2に記載の高湿冷却型波動式水耕栽培方法。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−25628(P2006−25628A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205406(P2004−205406)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(395021239)株式会社生物機能工学研究所 (21)
【Fターム(参考)】