説明

高炉の操業方法

【課題】鉄皮に掛かる熱負荷を均一化することによって、高炉寿命の延長を図ることができる高炉の操業方法を提案する。
【解決手段】高炉内に張られた耐火煉瓦内の円周方向に沿った複数位置に、高炉半径方向に離間して1対の熱電対を埋設し、上記各位置における1対の熱電対の温度差から高炉円周方向の熱流速分布を求め、その熱流速分布が高炉の円周方向で均一となるよう、羽口から吹き込む微粉炭量および/または熱風風量を制御する高炉の操業方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉寿命の延長を図ることのできる高炉の操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉は、炉頂より鉄鉱石、コークスおよび石灰石などの原料を装入し、下部にある複数の羽口より熱風を吹込んでコークスを燃焼させ、生じたCOガスにより鉄鉱石を加熱、還元して溶解し、炉底部に溜まった銑鉄およびスラグを取り出すトックリ型の巨大な竪型炉である。
【0003】
高炉は、鉄皮式の場合、図1に示すように、外側を鉄皮と称する厚い鉄板で覆い、その内側に鉄皮を保護するための耐火煉瓦が厚く張られ、また、鉄皮と耐火煉瓦との間には、要所々々に、内部に冷却水を通して鉄皮を冷却する銅製または鋳鋼製のステーブが配設され、鉄皮とステーブ間およびステーブとレンガ間には不定形耐火物が充填されているのが普通である。
【0004】
近年、高炉操業技術等の進歩によって、高炉の寿命は20年以上にまでなってきている。しかし、高炉の寿命をさらに延長するためには、鉄皮への熱負荷を軽減し、鉄皮の損傷を極力低減してやることが重要である。しかし、高炉の炉底部側、特に熱風を吹き込む羽口の直上部は、炉内温度が2000℃を超える高温となっており、耐火煉瓦には大きな熱負荷がかかる。そのため、長年、使用し続けた場合には、鉄皮の内側に張られた耐火煉瓦は徐々に損耗したり、耐火煉瓦に亀裂が生じたりして、鉄皮に掛かる熱負荷が徐々に増大し、高炉寿命に大きな悪影響を与える。
【0005】
そこで、高炉炉内に張られた耐火煉瓦内に熱電対を埋設し、温度を測定することで、耐火煉瓦の損耗状態を把握することが一般に行われている。例えば、特許文献1には、炉内方向に常時押圧力を付与した熱電対により測定した高炉炉底側壁部の温度および冷却水温度をもとに、鉄皮の膨張収縮に伴う不定形耐火物の空気層厚さを算出して炉底耐火物温度を推定し、その値に基づき前記空気層を消失させるべく、補修を行う技術が開示されている。
【0006】
また、近年では、原料コスト削減の観点から、高炉炉底部の円周方向に30数個配設された、熱風を吹き込む羽口から微粉炭等を吹き込むことで、鉱石とコークスの比である装入比(O/C)を高くした操業が行われるようになってきている(図2参照)。しかし、この高O/C操業は、高炉の安定操業を難しくするという問題がある。そこで、この問題を解決するため、特許文献2には、高炉羽口からの微粉炭吹き込みに際して、二重管または三重管ランスを用い、揮発分が低い微粉炭を内管中内部から供給するとともに、冷風を内管と外管の間から供給し、その冷風の速度および/または風量を調整変更することで、炉芯表層の温度を高める技術が開示されている。また、特許文献3には、円周方向に沿って高炉に複数個設けられた羽口から微粉炭燃料を炉内に吹き込む際、高さ方向に複数段でかつ各段において円周方向に等間隔で高炉の炉壁に埋め込まれた温度検出手段で炉内円周方向の温度情報を取り出し、炉内温度の円周方向に関する偏差量を求め、各吹込みランスからの微粉炭燃料の吹込み量を偏差量に基づいて制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3512042号公報
【特許文献2】特許第4044711号公報
【特許文献3】特開平11−124609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年、コークスの使用量をより削減のため、羽口からの微粉炭吹込量を増加する傾向にあり、羽口からの微粉炭吹込によって炉内の周方向の温度分布をうまく制御できない場合には、レンガの損傷を早め、鉄皮への熱負荷を増大させるおそれがある。しかし、上記特許文献2の技術は、炉心表層部の温度を常に高温度に維持して通気性・通液性の悪化部位を解消する技術であり、高炉内部の円周方向における温度分布については考慮していない。また、特許文献3の技術は、炉内円周方向の温度情報から各吹込みランスからの微粉炭の吹込量を制御することで、炉心表層部の温度を常に高温度に維持しているが、炉内温度だけでは、炉内から鉄皮に掛かる熱負荷を評価することはできないという問題がある。
【0009】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、鉄皮が受ける熱負荷を精度よく把握し、その結果に基づいて鉄皮に掛かる熱負荷を均一化することによって、高炉寿命の延長を図ることができる高炉の操業方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記課題の解決に向けて検討を重ねた。その結果、高炉内に張られた耐火煉瓦内の円周方向の複数位置に、高炉の半径方向(煉瓦の厚さ方向)に離間した1対の熱電対を埋設し、上記各位置における1対の熱電対の温度差から各位置における熱流束を求めてやれば、鉄皮に掛かる熱負荷の高炉円周方向分布を精度よく評価することができること、したがって、上記円周方向の熱流束分布に基づいて、微粉炭吹込量および/または熱風風量を制御して、上記熱流束分布を均一化してやれば、高炉円周方向の鉄皮に掛かる熱負荷も均一化し、ひいては、高炉の寿命延長を達成することができることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、高炉内に張られた耐火煉瓦内の円周方向に沿った複数位置に、高炉半径方向に離間して1対の熱電対を埋設し、上記各位置における1対の熱電対の温度差から高炉円周方向の熱流速分布を求め、その熱流速分布が高炉の円周方向で均一となるよう、羽口から吹き込む微粉炭量を制御することを特徴とする高炉の操業方法を提案する。
【0012】
本発明の高炉の操業方法は、上記微粉炭量に代えて、または、上記微粉炭量に加えてさらに、羽口から吹き込む熱風風量を制御することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の高炉の操業方法は、上記微粉炭量および熱風風量を、高炉円周方向に4以上の区分に分割して個々の区分ごとに制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高炉内に張られた耐火煉瓦内の円周方向に沿った複数位置に、高炉半径方向(煉瓦の厚さ方向)に離間した1対の熱電対を埋設し、高炉円周方向の鉄皮に掛かる熱負荷の分布を精度よく評価し、その結果に基づいて高炉の操業方法を制御し、高炉の鉄皮に掛かる熱負荷を均一化するので、従来よりも増して高炉寿命の延長が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】鉄皮式高炉の炉体断面構造を説明する模式図である。
【図2】鉄皮式高炉の羽口近傍部の縦断面構造を説明する模式図である。
【図3】高炉内円周方向の熱電対埋設位置を説明する図である。
【図4】高炉内円周方向の熱流束分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前述したように、特許文献3に記載の発明は、円周方向に沿って高炉に複数個設けられた羽口から微粉炭を炉内に吹き込む際、高さ方向に複数段でかつ各段において円周方向に等間隔で高炉の炉壁に埋め込まれた温度検出手段で炉内円周方向の温度情報を取り出し、炉内温度の円周方向に関する偏差量を求め、その偏差量に基づいて、各吹込みランスからの微粉炭燃料の吹込み量を制御している。
【0017】
しかしながら、高炉の炉内温度が高いからといって、鉄皮に掛かる熱負荷が大きいとは限らない。何故ならば、耐火煉瓦の断熱性が優れていれば、耐火煉瓦内の温度は高くても、耐火煉瓦の外側の温度は低い(即ち、鉄皮への熱負荷は小さい)こともあり、逆に、耐火煉瓦に亀裂等が発生していた場合には、耐火煉瓦の温度は低くても、耐火煉瓦の外側温度が高い(即ち、鉄皮への熱負荷は大きい)こともあり得るからである。
【0018】
これに対して、熱流束は、高温から低温へと流れる熱エネルギーであるから、ステーブによる抜熱が高炉円周方向で均一であれば、熱流速が大きければ、それだけ鉄皮に掛かる熱負荷も大きいといい得る。
そこで、本発明では、炉内円周方向の温度分布の測定に代えて、炉内円周方向の熱流束分布を測定することとした。
【0019】
ここで、熱流束q(W/m)は、単位時間、単位面積を流れるエネルギー(熱流)量であり、例えば、x方向に距離L(m)だけ離れたA,B2点のうちのA点の温度をT(K)、B点の温度をT(K)とした時の熱流束は、
q=−k(dT/dx)=−k((T−T)/L)
(kは、熱伝導度(W/mK)であり、物質(耐火煉瓦)によって定まる物性値)
で与えられる。
【0020】
上記式から、高炉内に張られた耐火煉瓦内の半径方向の異なる2つの位置に1対の熱電対を埋設しておき、その温度差を測定すれば、耐火煉瓦内を半径方向に流れる単位面積当たりの熱流速(熱量)を求めることができる。さらに、上記1対の熱電対を高炉の耐火煉瓦内の円周方向の複数位置の埋設し、それぞれの円周方向位置における熱流束を測定すれば、高炉円周方向における鉄皮に掛かる熱負荷分布を知ることができる。
【0021】
そこで、上記高炉円周方向の鉄皮に掛かる熱負荷分布に基づいて、羽口から高炉内に吹き込む微粉炭量および/または熱風風量を調整する、具体的には、鉄皮の熱負荷が大きい円周方向位置に対しては、羽口から吹き込む微粉炭量および/または羽口から吹き込む熱風の風量を減量する、あるいは、鉄皮の熱負荷が小さい円周方向位置に対しては、羽口から吹き込む微粉炭量および/または羽口から吹き込む熱風の風量を増量することで、鉄皮に掛かる熱負荷を高炉円周方向で均一化することができる。
【0022】
ここで、上記1対の熱電対を埋設する高炉高さ方向位置は、鉄皮に掛かる熱負荷が最も大きい部分とすることが好ましく、例えば、炉内温度が最も高い羽口の上方約0〜10mの範囲とするのが好ましい。10mを超えると炉体冷却の影響が強くなり、測定精度に問題を生じる。なお、高さ方向の埋設位置は1箇所でもよいが、測定精度を高めるためには2箇所以上で測定するのが好ましい。
【0023】
また、1対の熱電対を埋設する耐火煉瓦内の半径方向位置は、長期使用による耐火煉瓦の損耗を考慮して、耐火煉瓦内のステーブ側に、10〜200mm程度の距離を設けて埋設するのが好ましい。上記離間距離が10mm未満では、温度差が小さいため熱流束を精度よく測定することが難しい。一方、200mmを超えると耐火煉瓦の厚さに近づくため、耐火煉瓦の損耗により、熱電対自体が早期に消失してしまうおそれがあるからである。
【0024】
また、1対の熱電対を埋設する高炉円周方向位置は、4箇所以上羽口数以下とするのが好ましい。というのは、少なくとも4箇所の熱流束が判明すれば、大まかな熱流束の分布を把握することができること、および、羽口から吹き込む微粉炭量あるいは熱風風量は、高炉円周方向で4区分程度に分割して制御している場合が多いからである。また、高炉円周方向の埋設位置の上限を羽口数としたのは、羽口ごとに微粉炭量あるいは熱風風量を制御することができる場合には、個々の羽口部近傍の熱流束に基づいて微粉炭量あるいは熱風風量を調整するのが好ましいからである。より好ましくは6〜16の範囲である。
【0025】
なお、高炉内に張られた耐火煉瓦内に熱電対を埋設する方法としては、ステーブとステーブの隙間、あるいは、ステーブの中央部に設けられた熱電対挿入用孔を介して行うのが好ましい。
【実施例】
【0026】
内容積が5000mで、微粉炭吹き込み用ランスを設けた羽口を円周方向に30個配設した高炉の耐火煉瓦内に1対の熱電対を複数位置に埋設して、耐火煉瓦内に円周方向における熱流束分布を測定した。なお、上記熱電対の高さ方向埋設位置は、高炉内で最も高温となる羽口上方5mの位置とし、耐火煉瓦内の埋設位置は、耐火煉瓦の外側(ステーブ側)から50mmと100mm(離間距離:50mm)の位置とした。また、円周方向の埋設位置は、上記高炉では、図3に示したように、羽口からの熱風風量および微粉炭吹込量を円周方向で4ブロックに分割して制御していることから、各ブロックの円柱方向中央位置の4箇所に埋設した。
また、上記熱流束測定時における、羽口から吹き込む熱風温度は1200℃、熱風風量は6000m/minで、ランスから羽口に吹き込む微粉炭量は、高炉円周方向で均一に500kg/t−pigであった。
【0027】
図4に、上記熱流束の測定結果を、Aブロックにおける熱流束qの値を基準(1.0)とし、B,C,D各位置の熱流束を相対値化して破線で示した。この結果から、上記高炉操業条件では、Bブロックの熱流束が最も大きく、Dブロックの熱流束が最も小さくなっていること、即ち、Bブロックの鉄皮に最も熱負荷が掛かっていることがわかった。
そこで、上記結果に基づき、Bブロックにおける微粉炭吹込量および熱風風量を削減すると共に、Dブロックにおける微粉炭吹込量および熱風風量を増量した結果、図4の実線に示したように、B〜Dブロックのすべて熱流束がAブロックの熱流束に対して±0.05の範囲内に収まっており、鉄皮に掛かる熱負荷を高炉円周方向で均一化することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉内に張られた耐火煉瓦内の円周方向に沿った複数位置に、高炉半径方向に離間して1対の熱電対を埋設し、上記各位置における1対の熱電対の温度差から高炉円周方向の熱流速分布を求め、その熱流速分布が高炉の円周方向で均一となるよう、羽口から吹き込む微粉炭量を制御することを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項2】
上記微粉炭量に代えて、または、上記微粉炭量に加えてさらに、羽口から吹き込む熱風風量を制御することを特徴とする請求項1に記載の高炉の操業方法。
【請求項3】
上記微粉炭量および熱風風量を、高炉円周方向に4以上の区分に分割して個々の区分ごとに制御することを特徴とする請求項1または2に記載の高炉の操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−67834(P2013−67834A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207264(P2011−207264)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】