説明

高炉へのコークス装入方法

【課題】コークス中心装入を採用するベル式高炉において、150kg/thmを超える高微粉炭比操業やペレット多配合操業を行う場合であっても、アーマプレートの変位方式にかかわらず、安定した中心流操業が確保でき、安定な炉況を維持し得る高炉へのコークス装入方法を確立する。
【解決手段】炉中心部には、中心装入専用シュート2により、1チャージあたりの全コークス量(=C1+C2+CC1+CC2+CC3)の2〜7.5質量%に相当するコークス量(=CC1+CC2+CC3)を装入するとともに、炉周縁部側には、下ベル3aとアーマプレート3bとの組合せからなるベル方式装入装置3により、残部のコークス量(=C1+C2)を複数バッチに分けて装入し、そのうち最後に装入するバッチのコークス量(=C2)を1チャージあたりの全コークス量の49質量%超、69質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉操業の安定化および効率化に寄与し得る原料装入技術に関し、詳しくは本出願人の開発に係るコークス中心装入技術(「コークス軸芯装入技術」ともいう。)の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、高炉操業の安定化および効率化を実現すべく、いわゆる中心流操業の安定化ないし確実化を向上させるコークス中心装入技術を確立し(たとえば特許文献1参照)、さらに低コークス比操業下においてもコークス中心装入操業の実施効果を確実に発揮できる改良技術を完成した(特許文献2参照)。
【0003】
上記特許文献2に記載の発明は、「コークスを高炉の軸芯部(中心部)へ集中的に投入するコークス軸芯装入手段と、コークスおよび鉱石を高炉の周縁部側へ投入する周縁装入手段とを備えてなる高炉内へ、コークスおよび鉱石を装入する方法において、前記コークス軸芯装入手段によって高炉軸芯部(中心部)のコークス比率を高めるとともに、前記周縁装入手段によって炉壁から0.02R〜0.6R(但しRは高炉半径)の位置にピーク高さを有するように山状に装入されたコークス層に対し、鉱石装入の少なくとも初期段階で投入される鉱石の投入位置を、前記周縁装入手段によって前記ピーク位置よりも遠心側に設定することにより、前記山状装入コークス層の少なくとも山頂部を含む高地部を崩して高炉軸芯部側(中心部側)へ押し流す様に構成してなることを特徴とする高炉への原料装入方法。」である。
【0004】
この発明により、軸芯部(中心部)のO/Cが低くなるとともに炉壁部のO/Cが高くなり、かつ、それらの中間部はO/Cが平滑化されてその変化はなだらかであり、途中でO/Cが急激に上下することがないので炉内の上昇ガスは軸芯部(中心部)へ集中し、安定した中心流操業を継続させることができ、そのために炉況が安定し、かつ経済的な操業が行われるようになった。
【0005】
ところで、前記周縁装入手段としては、ベル装入方式の高炉の場合、ベルとムーバブルアーマの組合せからなるベル方式装入装置が用いられ、ムーバブルアーマのプレート(アーマプレート)を変位させることによって、上記コークス層のピーク位置を制御している。
【0006】
ムーバブルアーマとしては、一般的に、原料を反射させるプレート面を垂直に固定したまま炉内側に押し出したり炉壁側に引き込むことができる押出しタイプと、前記プレート面を垂直から斜め上向きの所定の角度までの範囲で変更できるスイングタイプとが用いられている。
【0007】
押出しタイプのムーバブルアーマを用いた場合は、上記コークス層のピークが明瞭に形成され、引き続く鉱石装入によりコークス層の削り取りが十分に行われて炉中心近傍に混合層が形成され、上記発明の効果が十分に得られることが確認されている。
【0008】
ところが、スイングタイプのムーバブルアーマを用いた場合は、上記コークス層はなだらかな堆積形状となり、ピークが明瞭に形成されず、このため引き続く鉱石装入によるコークス層の削り取り量が不足して炉中心近傍に十分な厚さの混合層が形成されず、上記発明の効果が十分に発揮されない場合があることが判明した。このように押出しタイプとスイングタイプとで上記コークス層のピークの形成状況に差が生じる理由は以下のように想定される。すなわち、炉内の所定位置にピークを形成しようとしてコークスを装入する場合、コークス粒子は下ベルからプレート面に向かって降下したのちプレート面で反射され、前記所定位置近辺に落下する。このとき、プレート面を斜め上向きにしていると、プレート面で反射されたコークス粒子は、垂直に維持されたプレート面で反射された場合にくらべて、水平方向の速度成分が大きくなる。このようなコークス粒子は、前記所定位置近辺に供給されても、水平方向の慣性力によってさらに炉中心方向に流れ込もうとするため、前記所定位置に明瞭なピークができず、なだらかな装入形状となってしまうものと考えられる。
【0009】
また、高O/C操業において、1チャージ当たりのコークスの装入量を減少するに際し、炉壁側におけるコークスの堆積状況を安定化して炉内ガス流分布の安定化を図る目的で、コークス中心装入技術を用いない方法として、「ベル式高炉において1チャージのコークスを複数バッチに分け装入している操業でのコークス装入方法において、コークスの装入量を低下させる際に、はじめに装入するバッチのコークス量を最後に装入するバッチのコークス量の95〜90%にすることを特徴とする高炉におけるコークス装入方法。」が開示されている(特許文献3参照)。
【0010】
この方法は、1チャージ当たりのコークスの装入量を減少する際に、はじめに装入するバッチのコークス量を優先的に減少させ、最後に装入されるバッチのコークス量をある程度確保することにより、コークス層の傾斜角度の増加を抑制して中心部のO/Cの過度の上昇を防止し、中心ガス流を維持することによって、炉内ガス流分布を安定化させようとするものである。そして、微粉炭比を120kg/thmから150kg/thmに上昇させた場合において上記効果が得られることが示されている(特許文献3の[実施例]参照)。
【0011】
しかしながら、このコークス装入方法では、微粉炭比を150kg/thmを超えてさらに上昇させていくと、1チャージ当たりのコークスの装入量がさらに減少し、はじめに装入するバッチのコークス量を優先的に減少させても、最後に装入されるバッチのコークス量を十分に確保できなくなり、コークス層の傾斜角度の増加を抑制できなくなってしまう。また、特許文献3には、鉱石の種類についてはなんら記載がないが、ペレットを多配合した鉱石を使用すると、ペレットは球状であるため中心部に流れ込みやすく、中心部の鉱石層が厚くなりやすい。したがって、微粉炭比が150kg/thmを超える高微粉炭比操業やペレット多配合操業においては、このコークス装入方法を用いても、中心部のO/Cが上昇して中心ガス流が維持できなくなり、炉内ガス流分布の安定化が維持できなくなる可能性が高い。
【特許文献1】特開昭64−65207号公報
【特許文献2】特公平6−27283号公報
【特許文献3】特開平10−17910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、コークス中心装入を採用するベル式高炉において、150kg/thmを超える高微粉炭比操業やペレット多配合操業を行う場合であっても、アーマプレートの変位方式にかかわらず、安定した中心流操業が確保でき、安定な炉況を維持し得る高炉へのコークス装入方法を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、コークスを高炉の中心部と周縁部側とに分けて装入するコークス中心装入操業でのコークス装入方法において、中心部には1チャージあたりの全コークス量の2〜7.5質量%に相当するコークス量を装入するとともに、周縁部側には残部のコークス量を複数バッチに分けて装入し、そのうち最後に装入するバッチのコークス量を1チャージあたりの全コークス量の49質量%超、69質量%以下とすることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コークス中心装入を採用するベル式高炉において、150kg/thmを超える高微粉炭比操業を行う場合やペレット多配合操業を行う場合であっても、アーマプレートの変位方式にかかわらず、安定した中心流操業が確保できるようになり、安定な炉況を維持でき、より経済的な高炉操業が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
〔実施形態〕
以下、図1の高炉炉頂部における原料装入状況を説明する縦断面図を参照しつつ、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の説明においては、本発明の効果を最も顕著に発揮しうる、ベル装入方式でスイングタイプのムーバブルアーマを有する高炉についてのみ説明するが、本発明は、これに限定されるものではなく、ベル装入方式で押出しタイプのムーバブルアーマを有する高炉やベルレス装入方式の高炉にも当然に適用し得るものである。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る高炉1は、コークスを高炉1の中心部へ集中的に投入する中心装入専用シュート2と、コークスおよび鉱石を高炉の周縁部側へ投入するための、下ベル3aとスイングタイプのアーマプレート3bとの組合せからなるベル方式装入装置3とを備えている。
【0017】
まず、コークス層の形成は、ベル方式装入装置3(下ベル3aとアーマプレート3bとの組合せ)を用いて、コークス装入をC1↓C2↓の2回に分割して行う。具体的には、例えば、C1↓では、アーマプレート3bを垂直の状態として炉壁近傍に落下点を設定して所定のコークス量を装入してベースとなるコークス層C1厚みを形成する。ついで、C2↓では、アーマプレート3bを斜め上向きに傾動させてC1↓より高炉中心寄りの位置Pに落下点を設定して残部のコークスを装入し、最終的なコークス層C2の表面形状を形成する。ここで、↓の付いていない符号(たとえばC1)は原料装入(たとえばC1↓)で形成された堆積層を意味し、以下同様である。
【0018】
C2↓のピーク位置Pとしては、炉壁から0.02R〜0.6R(ただし、Rは高炉半径)とするのが推奨される。0.02Rより小さいときは炉壁側のコークス層が比較的厚くなる結果、炉壁側の鉱石層が比較的薄くなって上昇ガス流の一部が炉壁側へ偏流して熱放散量が大きくなる。いっぽう0.6Rより大きいときは炉壁側のコークス層が薄くなりすぎる結果、炉壁側の鉱石層が厚くなりすぎ炉壁側へのガス流れが不足して鉱石の還元が遅れ、生下りや直接還元量の増加による燃料比の上昇等の懸念が生じるためである。
【0019】
次に、鉱石層およびコークス・コラムの形成を行う。たとえば、上記コークス層C1,C2を形成した後、中心装入専用シュート2とベル方式装入装置3とを交互に使用して、中心部へのコークス装入CC1↓、周縁部への鉱石装入O1↓、中心部へのコークス装入CC2↓、周縁部への鉱石装入O2↓、中心部へのコークス装入CC3↓の順序で装入を行う。このように、中心部へのコークス装入と周縁部への鉱石装入とを交互に行うことにより、中心装入コークスCC1,CC2,CC3が鉱石層で分断されることがなく、上記コークス層C1,C2と中心装入コークスCC1,CC2,CC3とが連続し、中心部に完全なコークス・コラムを形成することができる。
【0020】
上記1チャージ分の原料装入に際し、中心装入コークス量WCC(=[CC1+CC2+CC3]合計コークス量)を1チャージあたりの全コークス量WTC(=[C1+C2+CC1+CC2+CC3]合計コークス量)の2〜7.5質量%とするとともに、最後に装入するバッチであるC2コークス量WC2(=C2コークス量)を1チャージあたりの全コークス量WTCの49質量%超、69質量%以下とする。
【0021】
上記のように、中心装入コークス量WCCおよびC2コークス量WC2の範囲を限定した理由を以下に述べる。
【0022】
まず、中心装入コークス量WCCの範囲の限定理由について述べる。中心装入コークス量WCCを少なくしすぎると、中心装入コークスCC1,CC2,CC3が鉱石層O1,O2で分断され、中心部に完全なコークス・コラムが形成されなくなるため、中心流が確保できなくなるおそれが高まる。いっぽう、中心装入コークス量WCCを多くしすぎると、中心部へのガス流れが過剰になり周縁部へのガス流れが不足し、周縁部の鉱石の還元が遅れ、かえって生下りや直接還元量の増加による燃料比の上昇等の懸念が生じる。したがって、中心装入コークス量WCCには適正範囲が存在し、その適正範囲は1チャージあたりの全コークス量WTCの2〜7.5質量%であり、より好ましい範囲は5〜6質量%である。
【0023】
つぎに、C2コークス量WC2の範囲の限定理由について述べる。C2コークス量WC2を少なくしすぎると、中心部へのコークスの流れ込みが不足し、装入後のC2コークス層表面の傾斜角度が大きくなり、中心部近傍のコークス層厚みが減少するため、中心流が確保できなくなるおそれが高まる。いっぽう、C2コークス量WC2を多くしすぎると、C2コークス層表面の傾斜角度が過度に低下し、中心部近傍のコークス層厚みが過度に増加する。この結果、中心流が過剰となり、炉頂温度が過度に上昇するため、実ガス体積が増加し、高炉全圧損はむしろ上昇する。したがって、C2コークス量WC2には適正範囲が存在し、その適正範囲は1チャージあたりの全コークス量WTCの49質量%超、69質量%以下であり、より好ましい範囲は50〜66質量%であり、さらに好ましい範囲は52〜62質量%である。
【0024】
本発明方法によれば、中心部にコークス・コラムが形成されるので、ペレット多配合鉱石を使用しても、中心部にペレットが流れ込むことが防止され、中心流が維持される。本発明は、鉱石の種類により制約されるものではないが、本発明の効果は、鉱石中のペレット配合率が15%以上、さらには20%以上、特に25%以上の操業において、より効果的に発揮される。
【0025】
〔変形例〕
上記実施形態では、コークスを中心部と周縁部側とに分けて装入する手段として、中心装入専用シュートとベル方式装入装置を用いたが、ベルレス方式装入装置を有する高炉では、旋回シュートを用いて、前記両者の機能を兼ねさせてもよい。
【0026】
また、上記実施形態では、周縁部に装入するコークスを2回に分けて装入する例を示したが、3回以上に分けて装入してもよい。ただし、1回で装入するとコークス層の厚みが不均一になりやすく、分割数が多くなると装入シーケンスが複雑になり、トラブルが発生しやすくなるので、2回程度が推奨される。
【0027】
また、上記実施形態では、中心部に装入するコークスを3回に分けて装入する例を示したが、2回または4回以上に分けて装入してもよい。ただし、分割数が多くなると、上記と同様、装入シーケンスが複雑になり、トラブルが発生しやすくなるので、2〜3回程度が推奨される。
【0028】
また、上記実施形態では、鉱石を2回に分けて装入する例を示したが、1回で装入してもよく、または3回以上に分けて装入してもよい。ただし、上記周縁部へのコークス装入と同様、1回で装入すると鉱石層の厚みが不均一になりやすく、いっぽう分割数が多くなると、装入シーケンスが複雑になり、トラブルが発生しやすくなるので、2回程度が推奨される。
【実施例】
【0029】
本発明の効果を確認するため、スイングタイプのアーマプレートを有するベル装入方式の高炉(内容積:4500m3、コークス比:340kg/thm、微粉炭吹込み比:160〜165kg/thm)において、中心部へのコークス装入量2水準のそれぞれに対し、C2コークス量を順次変化させた操業を実施した。なお、装入鉱石中のペレット配合率は27質量%、焼結鉱配合率は50質量%、塊鉱石配合率は23質量%とした。
【0030】
図2に、1チャージあたりの全コークス量に対するC2コークス量の割合と、高炉全圧損(=羽口圧力−炉頂圧力)との関係を示す。図中、○印および◆印は、1チャージあたりの全コークス量に対する中心装入コークス量の割合が、それぞれ4.5質量%および7.5質量%の場合を示す。
【0031】
図中、点A1および点A2は比較例を示し、C1コークス量とC2コークス量とが等しい場合である。これらの比較例に対し、C2コークス量の割合を順次増加させていくと、その割合が49質量%を超え、69質量%以下である本発明の範囲内では、高炉全圧損は、比較例に比べ、約0.7〜3.0kPaの大幅な低下を示した。なかでも、C2コークス量の割合が50〜66質量%の範囲において、約2.0〜3.0kPaの圧損低減が確保され、特に、C2コークス量の割合が52〜62質量%の範囲において、約2.7〜3.0kPaという最大の圧損低減効果が得られることがわかった。しかしながら、C2コークス量の割合がさらに増加して、本発明の範囲を外れる69質量%超になると、高炉全圧損はほぼ比較例のレベルに戻ってしまい、本発明の効果が得られなくなることがわかった。
【0032】
よって、本発明により、150kg/thmを超える高微粉炭比で、かつ、ペレット配合率が25%を超えるペレット多配合操業において、スイングタイプのアーマプレートを用いても、安定した中心流操業が確保でき、炉内通気性が大幅に改善されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】高炉炉頂部における原料装入状況を説明する縦断面図である。
【図2】1チャージあたりの全コークス量に対するC2コークス量の割合と、高炉全圧損との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0034】
1:高炉
2:中心装入専用シュート
3:ベル方式装入装置
3a:下ベル
3b:アーマプレート
O1↓,O2↓:鉱石装入
C1↓,C2↓:周縁部へのコークス装入
CC1↓,CC2↓,CC3↓:中心部へのコークス装入
O1,O2:鉱石層
C1,C2:コークス層
CC1,CC2,CC3:中心装入コークス
P:コークス層C2のピーク位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークスを高炉の中心部と周縁部側とに分けて装入するコークス中心装入操業でのコークス装入方法において、
中心部には1チャージあたりの全コークス量の2〜7.5質量%に相当するコークス量を装入するとともに、周縁部側には残部のコークス量を複数バッチに分けて装入し、そのうち最後に装入するバッチのコークス量を1チャージあたりの全コークス量の49質量%超、69質量%以下とすることを特徴とする高炉へのコークス装入方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−131967(P2006−131967A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323580(P2004−323580)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】