説明

高炉ガスの分離方法、および高炉ガスの分離装置

【課題】高炉ガスから、PSA法による操作を実行して、二酸化炭素および水素を選択的に濃縮・分離する。
【解決手段】二酸化炭素、窒素、水素および一酸化炭素を含む高炉ガスから、二酸化炭素の吸着能力が高く、かつ水素の吸着能力が低い吸着剤が充填された吸着塔A,B,Cを用いて行う圧力変動吸着式ガス分離法により、塔内が高圧である状態において、当該吸着塔に上記高炉ガスを導入して当該高炉ガス中の二酸化炭素を吸着剤に吸着させ、当該吸着塔から非吸着ガスを導出する吸着工程と、塔内が低圧である状態において、吸着剤から二酸化炭素を脱着させて塔外へ脱着ガスを導出する脱着工程とを含むサイクルを繰り返し行う高炉ガスの分離方法であって、吸着塔からの非吸着ガスを、吸着工程の開始時から途中の時点まで水素回収配管3を介して回収した後に水素回収配管3とは異なる出口配管4を介して取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力変動吸着式ガス分離法(PSA法)を利用して、高炉ガスから特定の成分ガスを分離するための方法および装置に関し、特に、二酸化炭素および水素を選択的に分離回収するのに適した方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業において副生物として発生する高炉ガスは、主に二酸化炭素、窒素、水素および一酸化炭素の4種類の成分ガスを含むガスである。高炉ガスにおける各種ガスの濃度は、例えば、二酸化炭素が19〜24%、窒素が52〜60%、水素が2〜6%、一酸化炭素が21〜27%であり、二酸化炭素の濃度は比較的に高い。昨今、地球温暖化対策として、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量の削減が求められており、高炉ガスについても二酸化炭素を効率よく分離回収することが求められる。二酸化炭素を分離する手法としては、アミン類を用いた化学吸収法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
一方、高炉ガスは、可燃性ガス(水素および一酸化炭素)を含んでいるため、燃料として利用されている。当該可燃性ガスの成分のうち、燃焼の際に二酸化炭素の生成を伴わない水素は、クリーン燃料として注目されている。この水素について濃縮回収することができれば付加価値の高い燃料として有効利用が見込まれる。しかしながら、上記の化学吸収法では、二酸化炭素の分離は可能であるものの、さらに水素を分離することはできない。
【0004】
物理吸着を用いてガスを分離する手法としては、圧力変動吸着式ガス分離法(PSA法)がある。このPSA法は、吸着剤に対する吸着容量がガス種によって異なることを利用して、目的ガスを濃縮・分離する技術である。PSA法によるガス分離では、所定成分を優先的に吸着するための吸着剤が充填された吸着塔を具備するPSAガス分離装置が用いられ、吸着塔において、少なくとも吸着工程および脱着工程が実行される。吸着工程では、吸着塔に混合ガスを導入して当該混合ガス中の易吸着成分を高圧条件下で吸着剤に吸着させ、難吸着成分が濃縮された非吸着ガスを吸着塔から導出する。脱着工程では、塔内圧力を降下させて易吸着成分を吸着剤から脱着させ、当該易吸着成分を主に含む脱着ガスを吸着塔から導出する。
【0005】
PSA法では、一般に、取得目的のガスは難吸着成分または易吸着成分のいずれか1種であり、複数のガス種のそれぞれについて高い濃縮率と高い回収率を目指して取得することは困難であると考えられる。例えば、難吸着成分について濃縮率および回収率を高くするためには、吸着剤の破過が始まる前に吸着工程を終了する必要があり、この時点で吸着剤には易吸着成分が十分に吸着されていない。したがって、この場合、易吸着成分を取得するために脱着ガスを回収しても、易吸着成分の濃縮率および回収率は比較的に低くなる。一方、易吸着成分について濃縮率および回収率を高くするためには、吸着剤が十分に破過するまで吸着工程を継続する必要があり、吸着工程の終了間際に吸着塔から導出される非吸着ガスは、もとの混合ガスに近い組成である。したがって、この場合、難吸着成分を取得するために非吸着ガスを回収しても、難吸着成分の濃縮率は比較的に低くなる。
【0006】
PSA法によって二酸化炭素を分離取得する場合には、一般に、吸着剤として二酸化炭素に対する吸着容量の大きいものが用いられ、例えば活性炭が好適に用いられる。活性炭に対する水素の吸着容量は二酸化炭素に比べて極端に小さいことが知られており、吸着剤として活性炭を用いる場合、二酸化炭素は易吸着成分になり、水素は難吸着成分になる。したがって、二酸化炭素の濃縮率および回収率を高めようとすると、上述の理由により水素の濃縮率は低くなってしまう。このように、1段のPSA操作によって複数の目的ガスを個別に濃縮・分離することは困難であった。特に、目的ガスを二酸化炭素および水素とする高炉ガスを分離対象とする場合、水素濃度は2〜6%と低濃度であるので、二酸化炭素を濃縮・分離しつつ水素を濃縮回収することはさらに困難であった。
【0007】
【特許文献1】特開平9−47634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情の下で考え出されたものであって、高炉ガスから、PSA法による操作を実行して、二酸化炭素および水素を選択的に濃縮・分離する方法および装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面によって提供される高炉ガスの分離方法は、二酸化炭素、窒素、水素および一酸化炭素を含む高炉ガスから、二酸化炭素の吸着能力が相対的に高く、かつ水素の吸着能力が相対的に低い吸着剤が充填された複数の吸着塔を用いて行う圧力変動吸着式ガス分離法により、上記吸着塔内が相対的に高圧である状態において、当該吸着塔に上記高炉ガスを導入して当該高炉ガス中の二酸化炭素を上記吸着剤に吸着させ、当該吸着塔から非吸着ガスを導出する吸着工程と、上記吸着塔内が相対的に低圧である状態において、上記吸着剤から二酸化炭素を脱着させて塔外へ脱着ガスを導出する脱着工程とを含むサイクルを繰り返し行う高炉ガスの分離方法であって、上記吸着塔からの上記非吸着ガスを、上記吸着工程の開始時から途中の時点まで水素回収配管を介して回収した後に上記水素回収配管とは異なる出口配管を介して取り出すことを特徴としている。
【0010】
高炉ガスから二酸化炭素を主たる目的ガスとして分離回収する場合、高回収率および高濃度で回収するためには、吸着工程において二酸化炭素を吸着剤が破過するまで二酸化炭素を吸着させるのが好ましい。吸着工程の初期段階に導出される非吸着ガスについては、高炉ガスのガス成分のうち、相対的に吸着容量が小さい水素の濃縮率が最も高くなり、当該非吸着ガスの水素濃度が比較的に高くなっている。本発明に係る分離方法によれば、水素濃度が高い初期段階の非吸着ガスを水素回収用の専用配管で回収することにより、1段のPSA法による操作を実行して、高炉ガスから二酸化炭素および水素の2成分を濃縮・分離することができる。
【0011】
本発明の第1の側面において、一つの実施形態によれば、上記途中の時点は、上記吸着塔からの上記非吸着ガスの水素濃度が所定の濃度まで低下した時点である。
【0012】
本発明の第1の側面において、他の実施形態によれば、上記途中の時点は、上記吸着工程の時間の所定割合経過時である。
【0013】
本発明の第1の側面において、好ましくは、上記水素回収配管には、水素の吸着能力が相対的に低く、かつ窒素および一酸化炭素の吸着能力が相対的に高い追加の吸着剤が充填されたフィルターが設けられている。
【0014】
本発明の第1の側面において、好ましくは、上記追加の吸着剤は、ゼオライトである。
【0015】
本発明の第1の側面において、好ましくは、上記吸着工程は、上記高炉ガスの圧力を利用して行う。
【0016】
本発明の第1の側面において、一つの実施形態によれば、上記脱着工程において上記吸着塔内の圧力を大気圧にする。この場合、好ましくは、上記脱着工程において上記吸着塔外へ導出された脱着ガスの一部を、圧縮機によって上記吸着工程が終了した他の吸着塔へ導入する。
【0017】
本発明の第1の側面において、他の実施形態によれば、上記脱着工程において上記吸着塔内の圧力を大気圧未満に減圧する。この場合、好ましくは、上記脱着工程において上記吸着塔外へ導出された脱着ガスの一部を、真空ポンプの吐出圧力を利用して上記吸着工程が終了した他の吸着塔へ導入する。
【0018】
本発明の第1の側面において、好ましくは、上記高炉ガスを、上記吸着塔に導入する前に、硫黄化合物を優先的に吸着する吸着剤が充填された前処理塔に通流する。
【0019】
本発明の第2の側面によって提供される高炉ガスの分離装置は、二酸化炭素、窒素、水素および一酸化炭素を含む高炉ガスから、吸着剤が充填された複数の吸着塔を用いて行う圧力変動吸着式ガス分離法により、上記吸着塔内が相対的に高圧である状態において、当該吸着塔に上記高炉ガスを導入して当該高炉ガス中の二酸化炭素を上記吸着剤に吸着させ、当該吸着塔から非吸着ガスを導出し、かつ、上記吸着塔が相対的に低圧である状態において、上記吸着剤から二酸化炭素を脱着させて塔外へ脱着ガスを導出するための、高炉ガスの分離装置であって、上記吸着塔からの上記非吸着ガスのうち水素を回収するための水素回収配管と、当該水素回収配管とは異なる出口配管と、上記吸着塔からの上記非吸着ガスを上記水素回収配管に通流させる状態および上記出口配管に通流させる状態に切換える切換手段と、を備えることを特徴としている。このような構成の高炉ガスの分離装置によると、本発明の第1の側面の高炉ガスの分離方法を適切に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、吸着工程において吸着塔から導出される非吸着ガスのうち、吸着工程の開始時から所定の時点までの比較的に水素濃度が高いガスについてのみ水素回収配管を介して回収することが可能となる。したがって、1段のPSA操作により、二酸化炭素を比較的に高濃度でかつ高い回収率で回収しつつ、水素についても所定以上に濃縮されたものとして回収することができる。水素が濃縮されたガスは、比較的に発熱量が高く、燃料として有効利用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の好ましい実施形態に係る高炉ガスの分離方法について、図面を参照して具体的に説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る高炉ガスの分離方法を実行するのに使用することができる高炉ガス分離装置の概略構成を示している。高炉ガス分離装置X1は、3つの吸着塔A,B,C、高炉ガス用配管1、非吸着ガス用配管2、水素回収配管3、非吸着ガス出口配管4、脱着ガス用配管5、脱着ガス回収配管6、洗浄用配管7、およびパージガス出口配管8を備え、二酸化炭素、窒素、水素および一酸化炭素を含む高炉ガスから難吸着成分が濃縮された非吸着ガスと易吸着成分が濃縮された脱着ガスとを分離回収するべく、圧力変動吸着式ガス分離法(PSA法)を実行可能に構成されたものである。
【0023】
高炉ガスとしては、例えば製鉄所における高炉からの排出ガスに脱湿処理を施したガスが挙げられる。当該高炉ガスの組成(体積濃度)は、例えば、二酸化炭素が19〜24%、窒素が52〜60%、水素が2〜6%、一酸化炭素が21〜27%であり、不純物としての硫黄化合物(硫化水素、硫化カルボニルや二硫化炭素など)が数ppm程度含まれている。
【0024】
吸着塔A,B,Cには、所定の吸着剤が充填されている。当該吸着剤としては、二酸化炭素を優先的に吸着する性質を有するものが用いられる。そのような吸着剤としては、例えば、椰子殻や竹などの植物質や、石炭質、石油質などのものを原料とする活性炭を採用することができる。
【0025】
高炉ガス用配管1は、高炉ガスを吸着塔A,B,Cに導入するためのものであり、各吸着塔A,B,Cに繋がる分岐配管101,102,103を含んで構成されている。分岐配管101,102,103には、それぞれ前処理塔9が設けられている。各前処理塔9には、硫黄化合物を優先的に吸着する吸着剤が充填されている。当該吸着剤としては、硫黄化合物を選択的に吸着する化学物質を添着または混合したものが好適であり、例えば銅−クロム−アルカリ金属の三元触媒を添着した活性炭(粒状白鷺TAC)が用いられる。
【0026】
非吸着ガス用配管2は、吸着塔A,B,Cから導出される非吸着ガスを通流させるためのものであり、切換弁10を介して非吸着ガス出口配管4につながっている。水素回収配管3は、切換弁10を介して非吸着ガス用配管2につながっており、非吸着ガスの一部を回収するためのものである。また、非吸着ガス用配管2には、切換弁10の近傍に水素濃度センサ11が設けられている。水素濃度センサ11は、非吸着ガス用配管2内を通流するガスの水素濃度を常時的に検知するためのものである。切換弁10は、水素濃度センサ11で検知したガスの水素濃度に応じて、非吸着ガス用配管2内のガスを水素回収配管3へ通流させる状態と、非吸着ガス出口配管4へ通流させる状態とに自動的に切換えるように構成されている。このような水素濃度センサ11および切換弁10は、本発明でいう切換手段の役割を担う。
【0027】
水素回収配管3には、フィルター12が設けられており、当該フィルター12には、水素の吸着能力が低く、かつ窒素および一酸化炭素の吸着能力が高い吸着剤(追加の吸着剤)が充填されている。そのような吸着剤としては、例えばゼオライトを採用することができる。
【0028】
脱着ガス用配管5は、各吸着塔A,B,Cから導出される脱着ガスを通流させるためのものであり、切換弁13を介して脱着ガス回収配管6につながっている。洗浄用配管7は、切換弁13を介して脱着ガス用配管5につながっており、脱着ガス用配管5を通流する脱着ガスの一部を吸着塔A,B,Cのいずれかに戻すためのものである。洗浄用配管7には、圧縮機14が設けられている。圧縮機14は、脱着ガスを各吸着塔A,B,Cへ送出するためのものである。切換弁13は、脱着ガス用配管5内のガスを脱着ガス回収配管6へ通流させる状態と、洗浄用配管7へ通流させる状態とに切換可能に構成されている。パージガス出口配管8は、各吸着塔A,B,Cから排出されるガスを系外に取り出すためのものである。
【0029】
各配管1,2,5,7,8には、自動弁a〜oが設けられている。高炉ガス分離装置X1を用いて行うPSA法による高炉ガスの分離では、各自動弁a〜oの開閉状態および切換弁10,13の切換状態を選択することにより、各吸着塔A,B,Cにおいて、例えば吸着工程、洗浄工程、および脱着工程からなるサイクルが繰り返し行われる。
【0030】
具体的には、吸着塔A,B,Cにおいて所定の工程(ステップ1〜6)が並行して行われる。各ステップにおける高炉ガス分離装置X1のガス流れを模式的に表せば、図2(a)〜(f)に示したようなものとなっている。
【0031】
ステップ1においては、吸着塔Aでは吸着工程、吸着塔Bでは洗浄工程、吸着塔Cでは脱着工程が行われており、図2(a)に示すガス流れ状態とされている。
【0032】
図1および2(a)に示したように、吸着塔Aには、高炉ガス用配管1、前処理塔9、および自動弁aを介して高炉ガスが導入される。吸着塔Aでは、吸着剤により易吸着成分である二酸化炭素が優先的に吸着されて非吸着ガスが塔外に導出される。吸着工程における吸着圧力は、例えば100〜400kPa(ゲージ圧)である。ここで、高炉ガスの導入に際し、高炉からの排出ガスの元圧を利用して吸着工程を実行することができる。したがって、この場合、吸着工程を実行するための圧縮機を用いる必要がない。なお、吸着塔Aに導入される高炉ガスは、前処理塔9を通過することにより、不純物として微少量含まれている硫黄化合物が除去される。これにより、吸着塔A内の吸着剤が硫黄化合物によって劣化するといった不都合は防止される。
【0033】
吸着剤(活性炭)の各種ガス成分に対する吸着容量は、二酸化炭素≫一酸化炭素>窒素>水素という関係になっている。図3は、活性炭の二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、水素に対する常温(25℃)での吸着等温線を表す。ここで、二酸化炭素の吸着容量は、他のガス成分に比べて極端に大きいことから、吸着圧力を低めに設定しても、吸着剤に対する二酸化炭素の吸着量は比較的に多くなる。
【0034】
一酸化炭素および窒素の吸着容量については、二酸化炭素に比べると小さいものの、水素に比べると大きい。したがって、吸着工程の初期においては一酸化炭素および窒素もある程度吸着され、吸着工程の初期段階において塔外に導出される非吸着ガスについては、水素濃度が相当に高くなっている。図4は、吸着工程における非吸着ガスの水素濃度の経時変化を示すグラフである。非吸着ガス中の水素濃度は、時間の経過とともに低下し、ある時点で急激に低下し始める。このことは、吸着工程が進行すると、二酸化炭素に比べて吸着容量が小さい一酸化炭素および窒素が吸着剤に吸着されることなく非吸着ガスとして塔外へ導出されることになり、もとの高炉ガスにおける濃度の低い水素(2〜6%)が高炉ガスにおける濃度の高い窒素(52〜60%)や一酸化炭素(21〜27%)によって希釈されることによると考えられる。
【0035】
本実施形態においては、吸着工程の開始時から途中の時点まで、吸着塔Aからの非吸着ガスを、自動弁k、非吸着ガス用配管2、切換弁10、水素回収配管3、およびフィルター12を介して水素濃縮ガスとして回収する。水素濃縮ガスの回収は水素濃度センサ11で検知した非吸着ガスの水素濃度が所定の濃度に低下した時点で終了する。その後は切換弁10を切換えることによって、吸着塔Aからの非吸着ガスを、非吸着ガス出口配管4を介して取り出す。
【0036】
水素濃縮ガス回収の終了時として設定される水素濃度(水素濃度センサ11で検知されるガスの水素濃度)は、例えば5〜90%の範囲とされ、好ましくは10〜30%とされ、より好ましくは15〜25%とされる。水素の回収率を高める場合には、水素濃縮ガス回収の終了時の水素濃度を低く設定し、水素の濃縮率を高めるためには、当該終了時の水素濃度を高く設定する。水素の回収率を重視して当該終了時の水素濃度を例えば10%とした場合、回収した水素濃縮ガス全体における水素濃度は約30%となり、もとの高炉ガスにおける水素濃度が2〜6%であったので、水素は5倍以上に濃縮されることになる。この場合、水素の回収率は約80%となる。また、本実施形態では、水素回収配管3を通流するガスはフィルター12を通過することにより、一酸化炭素および窒素が効率よく除去される。かかる構成によれば、回収される水素濃縮ガスの濃縮率を高めるうえで好適である。ただし、水素濃縮ガスの濃縮率をあまり高くする必要がない場合には、フィルター12を設けなくてもよい。
【0037】
吸着塔Bは、先に吸着工程を行っているので(図2(f)に示される後述のステップ6参照)、塔内は昇圧されているとともに、塔内の空間部には、難吸着成分である水素、窒素、一酸化炭素を主成分とするガス、あるいは高炉ガスと同程度の組成のガスが残存している。吸着塔Bには、吸着塔Cから導出された脱着ガス(中濃度の二酸化炭素を含む)が自動弁i、脱着ガス用配管5、切換弁13、圧縮機14、洗浄用配管7および自動弁eを介して吸着塔Bに導入される。吸着塔B内の残存ガスは、塔外に排出されて自動弁l、パージガス出口配管8を介して系外に取り出される。これにより、吸着塔B内の空間部には、吸着塔Cからの脱着ガスが充満する。
【0038】
ステップ2においては、吸着塔Aでは吸着工程、吸着塔Bでは脱着工程、吸着塔Cでは脱着工程が行われており、図2(b)に示したようなガス流れ状態とされている。
【0039】
図1および2(b)に示したように、吸着塔Aには、ステップ1と同様にして高炉ガスが導入され、非吸着ガスが塔外に導出される。吸着工程は、塔内の吸着剤が破過するまで行う。非吸着ガスは、自動弁k、非吸着ガス用配管2、切換弁10および出口配管4を介して取り出される。
【0040】
吸着塔Bにおいては、自動弁lが開放状態とされており、塔内の圧力が大気圧に減圧されて吸着剤から吸着ガスが脱着し始める。ここで、脱着初期のガスは、二酸化炭素よりも吸着されにくい一酸化炭素および窒素が比較的に多く含まれるので、塔内の空間部のガスとともに塔外へ排出される。吸着塔Bからの排出ガスは、自動弁l、パージガス出口配管8を介して系外に取り出される。
【0041】
吸着塔Cでは、ステップ1に引き続いて脱着工程が行われる。ここで、塔内において吸着剤から脱着するガスは、二酸化炭素が高い濃度で含まれている。吸着塔Cから導出される脱着ガスについては、自動弁i、脱着ガス用配管5、切換弁13、および脱着ガス回収配管6を介して回収される。回収した脱着ガスについては、例えば、二酸化炭素の濃度が85〜95%であり、二酸化炭素の回収率が80〜90%である。
【0042】
ステップ3,4においては、図2(c)、(d)に示したように、吸着塔Aではステップ1,2における吸着塔Bと同様にして洗浄工程および脱着工程が行われ、吸着塔Bではステップ1,2における吸着塔Cと同様にして脱着工程が行われ、吸着塔Cではステップ1,2における吸着塔Aと同様にして吸着工程が行われる。
【0043】
ステップ5,6においては、図2(e)、(f)に示したように、吸着塔Aではステップ1,2における吸着塔Cと同様にして脱着工程が行われ、吸着塔Bではステップ1,2における吸着塔Aと同様にして吸着工程が行われ、吸着塔Cではステップ1,2における吸着塔Bと同様にして洗浄工程および脱着工程が行われる。
【0044】
そして、以上に説明したステップ1〜6が高炉ガス分離装置X1において繰り返し行われることにより、高炉ガスから、高濃度の二酸化炭素を含む脱着ガスと、水素が濃縮された非吸着ガスとが分離回収される。
【0045】
以上、本発明の具体的な実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上記洗浄工程において、他の吸着塔から導出された脱着ガスの一部だけを洗浄用ガスとして用いると同時に、残りの脱着ガスを脱着ガス回収配管6から回収してもよい。また、例えば、上記実施形態では、吸着工程において水素濃度に応じてガスの流れを水素回収配管3から非吸着ガス出口配管4に切換えるように構成されているが、ガスの流れを切換える時点としては、例えば吸着工程の時間の所定割合経過時としてもよい。この場合、例えば、図4に示す水素濃度曲線、および目標とする水素濃縮ガスの水素濃度の関係から、例えば吸着工程の時間の20〜30%経過した時点で水素回収配管3を介してのガス回収を終了するといったことをあらかじめ設定しておけばよく、水素濃度センサ11は不要となる。
【0046】
上記実施形態では、脱着工程における吸着塔内の圧力を大気圧としたが、これに代えて脱着工程の際に塔内圧力を大気圧未満に減圧してもよい。脱着工程の際に塔内を減圧すれば、脱着ガス量が増加するとともに、次回の吸着工程に備えての吸着剤の再生が促進され、当該PSA法における高炉ガスを分離する全体性能の向上を図ることができる。この場合、例えば脱着ガス用配管に真空ポンプを設ければよく、洗浄工程にある吸着塔への脱着ガスの送出は、真空ポンプの吐出圧力を利用して行うことができる。
【0047】
なお、高炉ガス分離装置の吸着塔数については、上記実施形態で示した3塔だけに限定されるものではなく、2塔または4塔以上としてもよい。2塔の場合には、例えばPSA操作において洗浄工程を省略すればよい。
【0048】
本発明に係る高炉ガス分離装置X1を用いた高炉ガスの分離方法によると、吸着工程において吸着塔から導出される非吸着ガスのうち、吸着工程の開始時から所定の時点までの比較的に水素濃度が高いガスについてのみ水素回収配管3を介して回収することが可能となる。したがって、本分離方法によれば、1段のPSA操作により、二酸化炭素を比較的に高濃度でかつ高い回収率で回収しつつ、水素についても所定以上に濃縮されたものとして回収することができる。上記実施形態において一例として述べた濃度30%程度の水素濃縮ガスは、比較的に発熱量が高く、燃料として有効利用を図ることができる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の有用性を実施例により説明する。
【0050】
〔実施例1〕
本実施例では、図5に示すような高炉ガス分離装置X2を用いて、以下に説明する条件下で、図2に示したステップからなるサイクルを繰り返し行うことにより高炉ガスの分離を試みた。高炉ガス分離装置X2は、図1の高炉ガス分離装置X1と比較して、フィルター12の前後において水素回収配管3に対して分岐状に接続されたバイパス配管15、バイパス配管15に分岐状に接続された配管16、水素回収配管3においてフィルター12の下流側に位置する水素濃度センサ17、および弁p〜tが追加的に設けられている。
【0051】
吸着塔A,B,Cは円筒状容器とされており、各吸着塔A,B,Cの内部に活性炭吸着剤を2リットル充填した。高炉ガスとしては、体積濃度にして、二酸化炭素が22%、窒素が52%、水素が3%、一酸化炭素が23%のものを用いた。高炉ガスの供給量は、1500リットル/hr(標準状態換算)とした。吸着工程における吸着塔A,B,C内の最高圧力は300kPa(ゲージ圧)、脱着工程の最低圧力は、−90kPa(ゲージ圧)とした。また、水素回収配管3に取り付けたフィルター12には、ゼオライト系の吸着剤を0.2リットル充填した。
【0052】
本実施例においては、切換弁10を介して水素回収配管3に導入される水素濃縮ガスは、弁p,q,tを閉じておくことにより、フィルター12を通さずにバイパス配管15を通して回収した。その結果、吸着工程において吸着塔A,B,Cから導出される非吸着ガス中の水素濃度を、水素濃度センサ11を用いて確認すると、図2に示す様に吸着工程の初期には92%の高濃度を保持したが、20秒を経過すると急激に濃度は低下した。そのため、吸着時間25秒で水素濃度20%前後まで低下した時点で水素回収配管3からの水素の回収を終了した。また、最終的に水素ガス濃度が、高炉ガス濃度にほぼ等しくなった時点、即ち、吸着工程開始から50秒を経過した時点で吸着工程も終了した。本条件下で水素の回収率は約50%、回収された水素濃縮ガス全体における水素濃度は約65%であった。また、脱着工程時に回収された脱着ガス(高濃度二酸化炭素)については、二酸化炭素の濃度は約98%、回収率は90%に達した。
【0053】
〔実施例2〕
本実施例においては、切換弁10を介して水素回収配管3に導入される水素濃縮ガスは、弁r,tを閉じておくことにより、バイパス配管15を通さずにフィルター12を通して回収した。それ以外の条件は、実施例1と同一とした。その結果、水素濃度センサ11を用いて確認した水素濃度の変動は、実施例1と同一であったが、フィルター12を通過したガスについて水素濃度センサ17で検知した水素濃度は、吸着工程開始後25秒経過してから92%から減少し始め、それ以降の濃度下降曲線は、実施例1と同一であった。よって、水素濃度が20%前後にまで低下した吸着工程開始30秒の時点で水素回収配管3からのガスの回収を終了した。また、水素濃縮ガスの回収を終了するとともに、フィルター12の下流に設けた弁sを閉止し、かつ弁tを開けて、フィルター12内の圧力を大気圧まで下げることにより、フィルター12内の吸着剤に吸着された不純物を脱着した。本脱着操作は、次の吸着工程が実施される直前まで実施した。本脱着操作により、フィルター12を再生することができる。本条件下で、水素の回収率は約53%、回収された水素濃縮ガス全体における水素濃度は約69%に向上した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る高炉ガスの分離方法を実行するのに使用することができる高炉ガス分離装置の一例の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る高炉ガスの分離方法の各ステップに対応するガスの流れ図である。
【図3】活性炭の各種ガスに対する吸着等温線を示すグラフである。
【図4】吸着工程における非吸着ガス中の水素濃度の経時変化の一例を示すグラフである。
【図5】本発明に係る高炉ガスの分離方法を実行するのに使用することができる高炉ガス分離装置の他の例の概略構成図である。
【符号の説明】
【0055】
X1,X2 高炉ガス分離装置
1 高炉ガス用配管
2 非吸着ガス用配管
3 水素回収配管
4 非吸着ガス出口配管(出口配管)
5 脱着ガス用配管
6 脱着ガス回収配管
7 洗浄用配管
8 パージガス出口配管
9 前処理塔
10 切換弁
11,17 水素濃度センサ
12 フィルター
13 切換弁
14 圧縮機
15 バイパス配管
16 配管
A,B,C 吸着塔
a〜o 自動弁
p〜t 弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素、窒素、水素および一酸化炭素を含む高炉ガスから、二酸化炭素の吸着能力が相対的に高く、かつ水素の吸着能力が相対的に低い吸着剤が充填された複数の吸着塔を用いて行う圧力変動吸着式ガス分離法により、上記吸着塔内が相対的に高圧である状態において、当該吸着塔に上記高炉ガスを導入して当該高炉ガス中の二酸化炭素を上記吸着剤に吸着させ、当該吸着塔から非吸着ガスを導出する吸着工程と、上記吸着塔内が相対的に低圧である状態において、上記吸着剤から二酸化炭素を脱着させて塔外へ脱着ガスを導出する脱着工程とを含むサイクルを繰り返し行う高炉ガスの分離方法であって、
上記吸着塔からの上記非吸着ガスを、上記吸着工程の開始時から途中の時点まで水素回収配管を介して回収した後に上記水素回収配管とは異なる出口配管を介して取り出すことを特徴とする、高炉ガスの分離方法。
【請求項2】
上記途中の時点は、上記吸着塔からの上記非吸着ガスの水素濃度が所定の濃度まで低下した時点である、請求項1に記載の高炉ガスの分離方法。
【請求項3】
上記途中の時点は、上記吸着工程の時間の所定割合経過時である、請求項1に記載の高炉ガスの分離方法。
【請求項4】
上記水素回収配管には、水素の吸着能力が相対的に低く、かつ窒素および一酸化炭素の吸着能力が相対的に高い追加の吸着剤が充填されたフィルターが設けられている、請求項1ないし3いずれかに記載の高炉ガスの分離方法。
【請求項5】
上記追加の吸着剤は、ゼオライトである、請求項4に記載の高炉ガスの分離方法。
【請求項6】
上記吸着工程は、上記高炉ガスの圧力を利用して行う、請求項1ないし5のいずれかに記載の高炉ガスの分離方法。
【請求項7】
上記脱着工程において上記吸着塔内の圧力を大気圧にする、請求項6に記載の高炉ガスの分離方法。
【請求項8】
上記脱着工程において上記吸着塔外へ導出された脱着ガスの一部を、圧縮機によって上記吸着工程が終了した他の吸着塔へ導入する、請求項7に記載の高炉ガスの分離方法。
【請求項9】
上記脱着工程において上記吸着塔内の圧力を大気圧未満に減圧する、請求項6に記載の高炉ガスの分離方法。
【請求項10】
上記脱着工程において上記吸着塔外へ導出された脱着ガスの一部を、真空ポンプの吐出圧力を利用して上記吸着工程が終了した他の吸着塔へ導入する、請求項9に記載の高炉ガスの分離方法。
【請求項11】
上記高炉ガスを、上記吸着塔に導入する前に、硫黄化合物を優先的に吸着する吸着剤が充填された前処理塔に通流する、請求項1ないし10のいずれかに記載の高炉ガスの分離方法。
【請求項12】
二酸化炭素、窒素、水素および一酸化炭素を含む高炉ガスから、吸着剤が充填された複数の吸着塔を用いて行う圧力変動吸着式ガス分離法により、上記吸着塔内が相対的に高圧である状態において、当該吸着塔に上記高炉ガスを導入して当該高炉ガス中の二酸化炭素を上記吸着剤に吸着させ、当該吸着塔から非吸着ガスを導出し、かつ、上記吸着塔が相対的に低圧である状態において、上記吸着剤から二酸化炭素を脱着させて塔外へ脱着ガスを導出するための、高炉ガスの分離装置であって、
上記吸着塔からの上記非吸着ガスのうち水素を回収するための水素回収配管と、当該水素回収配管とは異なる出口配管と、上記吸着塔からの上記非吸着ガスを上記水素回収配管に通流させる状態および上記出口配管に通流させる状態に切換える切換手段と、を備えることを特徴とする、高炉ガスの分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−226258(P2009−226258A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71820(P2008−71820)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】