説明

高炉出銑温度測定方法及び測定装置

【課題】 高炉の出銑口から流出する溶銑の温度を簡易にかつ連続的に正確に測温するための高炉出銑温度測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】 高炉出銑口6から流出する溶融物5の熱放射輝度分布を1次元または2次元の濃度分布画像として撮像すると、輝度の低い溶銑部分と輝度の高い溶融スラグ部分とに明確に分離した画像が得られる。撮像した画像の濃度ヒストグラムを算出し、濃度ヒストグラム上の溶銑相当部分における極大頻出濃度値をピーク濃度値Pとし、ピーク濃度値Pに基づいて溶銑温度を算出することにより、出銑温度を正確かつ連続的に測定することができる。溶融物5の熱放射輝度分布を分解能1mm以下かつ露光時間1/5000秒以下で撮像する。2次元画像の撮像に温度校正を施した固体撮像素子を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の出銑口から流出する溶銑の温度を測定する高炉出銑温度測定方法及び測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉操業において出銑温度は炉内の熱状況を判断する重要な指標の一つである。出銑温度が変動する場合は、熱分布が不均一であることなどが考えられ、好ましくない。このため、高炉の出銑口から流出する溶銑の温度推移を測定するための種々の方法が工夫されている。
【0003】
高炉の出銑口から、溶銑と溶融スラグが混合された状態で流出し、その後スキンマー装置により溶銑と溶融スラグとが分離され、溶銑は溶銑樋に流されていく。
【0004】
従来用いられている出銑温度測定方法として第1に、浸漬消耗型熱電対を用いてスキンマー装置において間欠的に溶銑温度を測定する方法が用いられている。測定精度・信頼性の高い測温が可能であるが、使い捨てにする貴金属熱電対プローブのコスト、人手測定の労力等の制約から出銑中数回の間欠的な測定に限られる。また、出銑開始から数十分間は溶銑から樋耐火物への抜熱が大きく、スキンマー装置において測温する溶銑温度は出銑時点の温度より低い値とならざるを得ない。高炉の炉内状況を把握する上では出銑温度そのものが重要であり、スキンマー装置における溶銑温度と出銑口での溶銑温度との差が誤差要因となる。
【0005】
高温の物質温度を非接触で測温する方法として放射測温を用いることができる。物体の放射率が既知であれば、測定した放射輝度と放射率に基づいて物体の温度を測定することができる。特定波長の放射輝度測定結果とその波長における既知の分光放射率に基づいて測定する方法、あるいは全放射エネルギと全放射率とに基づいて測定する方法がある。
【0006】
出銑口からの噴出流には溶銑と溶融スラグとが混在しており、溶銑と溶融スラグとでは放射率が異なる。そのため、高炉出銑口において放射測温を行い、溶銑の放射率を用いて溶銑温度を測定しようとした場合、溶融スラグの部分では放射率が異なるため誤った温度が測定されることとなる。
【0007】
スキンマー装置で溶銑と溶融スラグが分離された以降の溶銑樋において、溶銑温度を放射測温により連続的に測定する方法が知られている。しかし、溶銑樋の部位においても溶銑の上には溶融スラグなどが浮遊しており、この浮遊物が雑音源となって温度測定値の急変などが起こり、正確な温度測定が困難であった。特許文献1においては、溶銑の温度を放射温度計で測定する際、溶銑表面状態による特定の測温値パターンを検出分類し、パターンに応じたノイズ除去処理を行うことを特徴とする溶銑温度の検出方法が記載されている。また特許文献2には、高炉出銑樋を流れる溶銑の温度を放射温度計で測定する方法において、溶銑表面に溶銑と放射率の異なる鉱滓が存在する場合、測定データ上、溶銑と鉱滓とを区別することによって、鉱滓による測定誤差を自動的に補正し、精度良く溶銑温度を測定する方法が記載されている。
【0008】
特許文献3には、出銑口から噴出する溶銑に光ファイバを浸漬して放射測温を行う方法が記載されている。光ファイバ放射温度計に接続された消耗型金属管被覆光ファイバを溶銑噴流中に送り込み、溶銑内部で直接熱放射を受光する。
【0009】
特許文献4には、スラグのみを流出させて放射測温を行い、別途求めた溶銑温度とスラグ温度との関係に基づき溶銑温度を推定する方法が記載されている。この方法は、混銑車の耐火物容器等に収容された溶銑の温度を測定する方法であって、容器からスラグのみを流し出すことができる場合の測温方法である。高炉の出銑口では溶銑、溶融スラグが混在した状態で流出しており、スラグあるいは溶銑を意図的に選択して流出させることはできないので、出銑口から流出する溶銑の温度を測定するためにはこの方法を適用することはできない。
【0010】
【特許文献1】特開平1−233329号公報
【特許文献2】特開平1−185422号公報
【特許文献3】特開平8−82553号公報
【特許文献4】特開2001−115208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、放射測温によって高炉の溶銑温度を測温する場合においては、溶融スラグによる測定誤差を極力排除する目的で、スキンマー装置で溶銑と溶融スラグを分離した後の溶銑樋における溶銑温度測定が行われていた。しかしこの方法では、出銑口から溶銑樋までの間で溶銑温度が降下し、この温度降下代が一定ではないため、出銑口における溶銑温度を精度良く測定することが困難であった。また、溶銑樋においても溶銑の上に溶融スラグが浮遊しており、たとえ特許文献1、2に記載の方法を用いたとしても、浮遊スラグに起因する温度測定誤差を十分に低減することは困難であった。
【0012】
特許文献3に記載の方法においては、光ファイバ先端の昇降装置、メジャーロールからなる送り出し機構が必要であり、装置が大がかりになるとともに、出銑口からのガス噴出に起因して溶銑や溶融スラグが飛散することもあり、出銑口付近に置かれる装置の耐久性が懸念される。
【0013】
本発明は、高炉の出銑口から流出する溶銑の温度を簡易にかつ連続的に正確に測温するための高炉出銑温度測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者が高炉出銑口から流出する溶融物の熱放射輝度分布を静止画像として撮像したところ、溶融物表面の放射輝度は一様ではなく、放射輝度の低い部分と放射輝度の高い部分とに明確に分離されることがわかった。出銑口から流出する溶融物は溶銑と溶融スラグとの混合物であり、両者はほぼ同温度であることから、放射輝度の低い部分は放射率の低い溶銑であり、放射輝度の高い部分は放射率の高い溶融スラグであるものと推定することができる。即ち、高炉出銑口から流出する溶融物は溶銑とスラグが渾然一体として存在するのではなく、溶銑部分とスラグ部分とが明確に分離して存在することが明らかになった。
【0015】
従って、高炉出銑口から流出する溶融物の熱放射輝度分布を濃度分布画像として撮像し、撮像画像のうちで溶銑を撮像している部分について着目して画像の濃度値を検出すれば、その濃度値は溶銑部分の輝度を表している。溶銑部分の輝度は溶銑温度と溶銑の放射率によって定まっており、溶銑の放射率は予め求めておくことができるから、結局この撮像画像に基づいて高炉出銑口から流出する溶銑の温度を測定することが可能になることがわかった。
【0016】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、即ちその要旨とするところは以下の通りである。
(1)高炉出銑口6から流出する溶融物5の熱放射輝度分布を1次元または2次元の濃度分布画像として撮像し、撮像した画像の濃度ヒストグラムを算出し、濃度ヒストグラム上の溶銑相当部分における極大頻出濃度値をピーク濃度値Pとし、ピーク濃度値Pに基づいて溶銑温度を算出することを特徴とする高炉出銑温度測定方法。
(2)溶融物5の熱放射輝度分布の撮像において、撮像素子の露光時間が短い高速シャッターを用いることを特徴とする上記(1)に記載の高炉出銑温度測定方法。
(3)前記溶融物の熱放射輝度分布の撮像において、分解能を1mm以下で且つ露光時間を1/5000秒以下とすることを特徴とする(2)に記載の高炉出銑温度測定方法。
(4)2次元画像の撮像に温度校正を施したCCDカメラを用いることを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちの一つに記載の高炉出銑温度測定方法。
(5)高炉出銑口6から流出する溶融物5の熱放射輝度分布を1次元または2次元の濃度分布画像として撮像する撮像装置1と、撮像した画像の濃度ヒストグラムを算出し、濃度ヒストグラム上の溶銑相当部分における極大頻出濃度値をピーク濃度値Pとして定める画像処理装置2と、ピーク濃度値Pに基づいて溶銑温度を算出する演算装置3とを有することを特徴とする高炉出銑温度測定装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、高炉出銑口から流出する溶銑の温度を非接触で連続して直接測定することができるので、測定が正確、簡易かつ安全であり、高炉の炉内状況を常に正確に把握することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
高炉の出銑口から流出する溶銑の温度を従来から使われている放射温度計によって測定する場合を考える。放射温度計の応答時間は1/100秒程度である。出銑口から流出する溶銑の速度は5〜10m/秒程度であるため、1/100秒の間に平均的には50〜100mm程度進行することになり、出銑流は乱流であるため、局所的な旋回流の動きはそれより速く、とても出銑流表面の微細構造を分解して測温することはできなかった。また、出銑流を肉眼で観察したところでも、その表面において溶銑と溶融スラグとが分離して存在するまだら構造であることを認識することができなかった。
【0019】
ところが、本発明者らが高炉出銑口から流出する溶融物の熱放射輝度分布を露光時間が極めて短い高速シャッターを用いて静止画像として撮像したところ、前述のとおり、溶融物表面の放射輝度は一様ではなく、図1(a)に示すように、放射輝度の低い部分と放射輝度の高い部分とに明確に分離されることがわかった。出銑口6から流出する溶融物5は溶銑と溶融スラグとの混合物であり、両者はほぼ同温度であることから、放射輝度の低い部分は放射率の低い溶銑であり、放射輝度の高い部分は放射率の高い溶融スラグであるものと推定することができる。即ち、高炉出銑口6から流出する溶融物5は溶銑とスラグが渾然一体として存在するのではなく、溶銑部分とスラグ部分とが明確に分離して存在することが明らかになった。
【0020】
図1(a)の画像は、図2(a)に示すように、モノクロCCDカメラを用いて出銑流5を短い露光時間(1/10000秒)で露光して図2(b)に示す範囲を静止画像として撮像したものである。出銑流を分解能約0.4mmで観察している。出銑流の直径はおおよそ100〜200mmである。
【0021】
上記の画像について、各画素毎の濃度を濃度階調に分解して横軸に取り、濃度階調毎の画素数の度数分布をグラフ化することができる。このようにして作成したグラフを濃度ヒストグラムと呼ぶ。図1(a)に示す二次元濃度分布画像の濃度ヒストグラムが図1(b)である。濃度ヒストグラムにおいて濃度レベルの低い部分に出現しているピークは、濃度分布画像における背景部に起因するものである。濃度レベルの高い部分に2つのピークが出現しており、このうち濃度値の小さい方のピーク付近は溶銑に起因するものであり、濃度値の大きい方のピーク付近は溶融スラグに起因するものである。
【0022】
なお、溶銑や溶融スラグの濃度値が1点に集中せずに分布を有する理由としては、たまたま表面に存在する時間が長い流れ成分は大気との接触により瞬間的・局所的に温度が低下して濃度値が小さくなることや、逆に乱流表面の波立ちの谷間では放射光の多重反射により見かけの放射率が高くなり、濃度値が大きくなること等が考えられる。
【0023】
出銑中は溶銑とスラグの比率や流出量が時々刻々変動する。そこで、出銑中の異なる時刻で出銑流の2次元濃度分布画像を撮像して濃度ヒストグラムの様子を見たところ、図3に示すように、溶銑とスラグの比率に対応して両者の分布の形状も変化することが確認された。図3(a)は溶銑の比率が高い場合、図3(b)はスラグの比率が高い場合の濃度ヒストグラムを示す。
【0024】
本発明者は、まず濃度ヒストグラム上で溶銑およびスラグの濃度分布ピークを明瞭に観察できる画像を得るための撮像条件を検討した。その結果つぎの2点の知見を得た。第1に、スラグ像の模様の細部には2mm程度のサイズの線状あるいは点状の部分があり、これを捉えるためには1mm以下の分解能で撮像する必要がある。第2に、高速で且つ乱流状態で移動する溶銑流を、像流れすることなく静止させて観察するために、露光時間は1/5000秒以下にする。これら両方の撮像条件を満足していないと、濃度ヒストグラム上で溶銑およびスラグのピークがつぶれて、お互いの濃度分布ピーク位置を変動させてしまう。極端な例として、著しい像流れが起こった場合あるいは撮像時の著しいボケで分解能が不足している場合、本来であれば図6(a)に示すように溶銑とスラグそれぞれの濃度分布ピークが存在するはずであるが、図6(b)のように溶銑とスラグそれぞれの濃度ピークが消失し、両ピークの中間になだらかな擬似的なピークが現れる。
【0025】
さらに詳細に調査したところ、以下のような興味深い事実が明らかになった。
【0026】
第1に、濃度ヒストグラム上の溶銑像(溶銑のピークを含むその近傍のヒストグラム像)の分布ピーク濃度値Pは、溶銑像の分布形状(分布の大きさ、高さ)には影響されず無関係である。
【0027】
第2に、浸漬消耗型熱電対プローブを試験的に出銑流に挿入して溶銑温度を測定し、上記溶銑像の分布ピーク濃度値Pと溶銑温度との関係を調べたところ、溶銑温度が高くなると分布ピーク濃度値Pが高い方(画像が明るくなる方)に移動することが明らかになった。
【0028】
第3に、CCDカメラが観測する可視光波長帯域での溶銑放射率で放射率補正を行うことにより、分布ピーク濃度値Pから温度を計算することができる。このようにして計算した温度と浸漬消耗型熱電対の測定値とを対比したところ、両者はよく一致することがわかった。
【0029】
これらは、先に記した分解能と露光時間条件で撮像された画像であることが前提である。
【0030】
本発明の高炉出銑温度測定方法は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、高炉出銑口6から流出する溶融物5の熱放射輝度分布を濃度分布画像として撮像した画像の濃度ヒストグラムを算出し、濃度ヒストグラム上の溶銑相当部分における極大頻出濃度値をピーク濃度値Pとし、ピーク濃度値Pに基づいて溶銑温度を算出することが可能となった。
【0031】
また本発明の高炉出銑温度測定装置は、高炉出銑口6から流出する溶融物5の熱放射輝度分布を1次元または2次元の濃度分布画像として撮像する撮像装置1と、撮像した画像の濃度ヒストグラムを算出し、濃度ヒストグラム上の溶銑相当部分における極大頻出濃度値をピーク濃度値Pとして定める画像処理装置2と、ピーク濃度値Pに基づいて溶銑温度を算出する演算装置3とを有するものであり、これによって溶銑温度を算出することが可能となった。
【0032】
撮像装置は、受光する光の波長に応じた特有の分光感度特性を有している。例えばCCDカメラであれば、受光感度があるのは波長0.4〜0.8μm程度の範囲であり、またこの波長帯域内で感度は一定ではなく、一定の分光感度特性を有している。このような特有の分光感度特性を有する撮像装置を用いて溶銑流の温度測定を行うに際しては、一定の狭い波長範囲のみの光を透過する波長選択フィルタを用いることにより、真の温度を算出するための放射率補正を容易に行うことが可能となり、好ましい。
【0033】
出銑流表面の熱放射輝度分布を濃度分布画像として撮像する撮像装置1については、まず予め黒体炉を用いた温度校正を施す。温度校正とは、所定の温度における黒体放射輝度と、該放射輝度の物体を撮像装置1で撮像したときの画像の濃度レベルとの関係を求めることを指す。複数の温度において温度と濃度レベルの関係を測定して検量線を求めておく。測温に波長選択フィルタを用いる場合には、上記黒体炉を用いた温度校正においても波長選択フィルタを用いて校正を行う。
【0034】
このように温度校正を施した撮像装置1を用い、高炉出銑口6から流出する出銑流5を撮像し、画像処理装置2にて撮像画像から濃度ヒストグラムを算出する。
【0035】
同じ画像処理装置2を用い、この濃度ヒストグラムから溶銑相当部分における極大頻出濃度(ピーク濃度P)を定める。
【0036】
濃度ヒストグラムにおける背景部の濃度分布は常にほぼ同一形状である。背景は常温近傍で温度変化がないからである。そこで画像処理装置2においては、図4に示すように、背景部の濃度の山を濃度値が大きい(輝度の高い)側に越えたところに予め始点Kを指定しておく。始点Kから濃度値が大きい側(高輝度側)に向かってピーク検出処理を実行する。隣り合う濃度レベルで度数(画素数)の多寡を比較する処理を逐次進めると、画素数の変曲点が極大頻出濃度値(ピーク濃度値P)である。始点Kから検出をはじめ、最初に検出されるピーク位置が溶銑像のピーク濃度値Pである。
【0037】
ピーク濃度値Pの検出に際しては、予め濃度ヒストグラムの平滑化を行った上で検出を行うこととしても良い。濃度ヒストグラムの波形に細かい雑音が乗っている場合でも、平滑化を行えば正しくピーク濃度値Pを検出することが可能になる。
【0038】
出銑流の溶銑温度は1450〜1600℃の範囲で変動する。従って、濃度ヒストグラムにおける溶銑のピーク濃度値Pの存在範囲も限定することができる。そこで、溶銑のピーク濃度値Pを求めるに際しては、予め予測される溶銑のピーク濃度値Pの存在範囲内において画素数の変曲点を求めることとしても良い。
【0039】
画像処理装置2は温度校正を行っているので、求められたピーク濃度値Pから溶銑温度Tm(見かけの溶銑温度)を算出することができる。一方上述のとおり、画像処理装置2の温度校正においては、黒体放射輝度と画像濃度との検量線を求める作業を行っている。実際の溶銑は黒体ではなく1未満の放射率を有しているので、放射率の影響に基づいて見かけの温度Tmから真の溶銑温度Tを求める演算を行うことが必要である。演算装置3にてこの演算を行う。
【0040】
真の溶銑温度Tと見かけの溶銑温度Tmとの関係は理論的に以下の(1)式で表される。
【0041】
ln(ε)=c2/λ・(1/T−1/Tm) (1)
ここで、εは溶銑の放射率であり、λは観察波長であり波長選択フィルタ1bの透過波長を示す。c2はプランクの第2定数であり、c2=1.44×104[μm・K]である。
【0042】
演算装置3で上記(1)式の演算を行うことにより、真の溶銑温度Tを求めることができる。
【0043】
以上のような処理をリアルタイムで繰り返して実行すれば、出銑中の溶銑温度を連続的に測定することができる。
【0044】
本発明の高炉出銑温度測定方法、測定装置で用いる撮像装置1としては、通常の2次元撮像装置を用いることとすると好適である。撮像装置1として、波長選択フィルタ1bを取り付けた上で温度校正を施したCCDカメラ1aを用いることができる。温度校正を施すとは、上述のとおりの温度校正を行うことを意味する。撮像装置1としては、CCD以外の撮像素子を用いたカメラ、銀塩フィルムを用いたスチールカメラなど、どのような撮像装置を用いても良い。
【0045】
2次元の撮像装置を用いず、1次元の例えばリニアーアレイカメラを用いることもできる。リニアーアレイカメラで1次元の濃度分布画像を撮像し、この1次元の撮像画像から濃度ヒストグラムを算出し、上述のように温度を算出することができる。
【0046】
また、上記1次元のリニアーアレイカメラで時間的に連続して露光時間が短い高速シャッターで撮像を繰り返し、カメラの素子配列方向と時間方向とを直交させて2次元の画像を形成し、この2次元の濃度分布画像から濃度ヒストグラムを算出し、上述のように温度を算出することも可能である。
【0047】
さらには、溶銑流の狭い1点のみを観察するビームスポット撮像装置を用いてもよい。この撮像装置で時間的に連続して露光時間が短い高速シャッターで撮像を繰り返し、時間方向に1次元の画像を形成し、この1次元の濃度分布画像から濃度ヒストグラムを算出し、上述のように温度を算出することも可能である。
【0048】
本発明で使用する撮像装置1において、波長選択フィルタ1bを用いれば温度校正を容易に行うことができるが、もちろん波長選択フィルタを用いない方法を採用しても良い。この場合、撮像装置の検出波長帯域における撮像装置の分光感度特性、溶銑の分光放射率ならびに黒体放射の分光特性から溶銑の実効放射率を求める。具体的には、撮像装置の受光感度範囲内において、撮像装置の分光特性と熱放射(黒体放射)の分光特性で波長毎に重み付けした上で波長平均した溶銑の放射率を用いることとすると好ましい。また、出銑流そのものを用いて温度校正を行うこととしても良い。
【0049】
本発明により、高炉出銑口から流出する出銑流の濃度分布画像から溶銑像の濃度を抽出して放射測温を行うことで、溶銑とスラグが未知の比率で混在した状態であるにもかかわらず、精度の高い測温が可能となる。
【0050】
また本発明が放射測温の原理を採用していることに起因して、出銑口の極めて近接した位置に装置を設置する必要がなく、離れた場所から遠隔測定するので、溶銑・スラグの熱放射、スプラッシュなどの環境対策が簡便である。
【0051】
さらに連続的な測定が可能であり、出銑温度の変化、推移から高炉内部の熱状況を今まで以上に迅速かつ正確に把握できるようになり、高炉操業をより安定させることができる。
【実施例】
【0052】
高炉出銑口6から流出する出銑流5の温度を測定する目的で、本発明を適用した。
【0053】
出銑流の熱放射輝度分布を2次元の濃度分布画像として撮像する撮像装置1には、波長選択フィルタ1bとして中心透過波長0.65μmの光学バンドパスフィルタを取り付けたモノクロCCDカメラ1aを使用した。撮像素子の画素数は640×480画素である。露光時間として1/10000秒のシャッター速度を適用した。出銑流表面の画像の分解能が0.4mmになるカメラレンズを選択して正確に焦点を合わせた。
【0054】
予め、黒体炉を用いた温度校正を実施した。3点以上の温度において、黒体放射輝度を撮像装置1で撮像し、各温度における撮像画像の濃度レベルを把握しておく。
【0055】
次に、図2(a)に示すように、出銑口から流出する出銑流5(溶銑・スラグ噴流)を横方向から撮像装置1を用いて撮像した。1/10000秒のシャッター速度を採用し且つ分解能0.4mmで観察しているので、図1に示すような静止画像を得ることができる。
【0056】
CCDカメラ1a及び波長選択フィルタ1bで構成される撮像装置1から出力される映像信号は画像処理装置2に入力され、ここでまず濃度ヒストグラムを算出し、次いで濃度ヒストグラム上の溶銑相当部分における極大頻出濃度値をピーク濃度値として定める。図4に示すように、背景部の濃度の山を濃度値の大きい(輝度の高い)側に越えたところに予め始点Kを指定しておく。始点Kから濃度値の大きい側(高輝度側)に向かってピーク検出処理を実行する。隣り合う濃度レベルで度数(画素数)の多寡を比較する処理を逐次進めると、画素数の変曲点が極大頻出濃度値(ピーク濃度値P)である。始点Kから検出をはじめ、最初に検出されるピーク位置が溶銑像のピーク濃度値Pである。
【0057】
さらに、検出されたピーク濃度値Pを演算装置3に入力し、ピーク濃度値Pに基づいて溶銑温度を算出する。まず、黒体炉による温度校正結果を用い、ピーク濃度値Pから見かけの溶銑温度Tmを求める。次に、前記(1)式を用い、真の溶銑温度Tを算出する。(1)式を用いるに際し、溶銑の放射率εとして0.4を用い、観察波長λとして0.65μmを用いた。
【0058】
画像処理装置2及び演算装置3としては、具体的には画像入力ボードを備えたパソコンを用いた。温度算出結果はパソコンの画面にグラフ表示されると共に、パソコン内部の記憶装置に保存される。
【0059】
本発明によって出銑途中の出銑流5(溶銑・スラグ噴流)の温度推移を測定し、併せて浸漬消耗型熱電対を用いて出銑口近傍で間欠的に人手による出銑流5の測温を行い、両者を比較した。結果を図5に示す。本発明による連続測温結果(点線)と熱電対による測温結果(■)とがよく一致することが確認された。本発明による測温は、連続的な温度推移が観察できることが特徴である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による測温状況を示す図であり、(a)は撮像装置で撮像した静止画像を示し、(b)は静止画像に基づく濃度ヒストグラムを示す。
【図2】本発明による測温状況を示す図であり、(a)は撮像状況を示す斜視概念図であり、(b)は図1(a)に対応する撮像画像を示す図である。
【図3】本発明の濃度ヒストグラムを示す図であり、(a)は溶銑の比率が高い場合、(b)はスラグの比率が高い場合の濃度ヒストグラムを示す。
【図4】本発明で濃度ヒストグラムから溶銑のピーク濃度値Pを求める状況を示す図である。
【図5】本発明による測温結果と熱電対を用いた測温結果を対比する図である。
【図6】撮像条件による濃度ヒストグラムの差異を説明する図で、(a)は分解能1mm以下、露光時間1/5000秒以下の場合、(b)は顕著な分解能不足あるいは像流れがある場合の濃度ヒストグラムを示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 撮像装置
1a CCDカメラ
1b 波長選択フィルタ
2 画像処理装置
3 演算装置
5 出銑流(溶融物)
6 出銑口
7 遮蔽板
8 出銑樋カバー
P 溶銑のピーク濃度値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉出銑口から流出する溶融物の熱放射輝度分布を1次元または2次元の濃度分布画像として撮像し、撮像した画像の濃度ヒストグラムを算出し、濃度ヒストグラム上の溶銑相当部分における極大頻出濃度値をピーク濃度値とし、該ピーク濃度値に基づいて溶銑温度を算出することを特徴とする高炉出銑温度測定方法。
【請求項2】
前記溶融物の熱放射輝度分布の撮像において、撮像素子の露光時間が短い高速シャッターを用いることを特徴とする請求項1に記載の高炉出銑温度測定方法。
【請求項3】
前記溶融物の熱放射輝度分布の撮像において、分解能を1mm以下で且つ露光時間を1/5000秒以下とすることを特徴とする請求項2に記載の高炉出銑温度測定方法。
【請求項4】
前記2次元画像の撮像に温度校正を施したCCDカメラを用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの1項に記載の高炉出銑温度測定方法。
【請求項5】
高炉出銑口から流出する溶融物の熱放射輝度分布を1次元または2次元の濃度分布画像として撮像する撮像装置と、撮像した画像の濃度ヒストグラムを算出し、濃度ヒストグラム上の溶銑相当部分における極大頻出濃度値をピーク濃度値として定める画像処理装置と、該ピーク濃度値に基づいて溶銑温度を算出する演算装置とを有することを特徴とする高炉出銑温度測定装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−119110(P2006−119110A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39354(P2005−39354)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】