説明

高炉水砕スラグの処理方法および高炉水砕スラグ

【課題】本発明は、針状滓を適切に除去しながら、かつ十分な固結遅延を実現できる高炉水砕スラグの処理方法、およびこの方法で処理された高炉水砕スラグを提供することを目的とする。
【解決手段】針状滓を含有する高炉水砕スラグの処理方法であって、破砕前後のスラグの粒子径を用いてWm/Wi= 10/(d801/2 − 10/ (d80(0)1/2で示されるWm/Wiの値が0.037以上となるようスラグを破砕処理しつつ、同時にスラグに炭酸化処理することを特徴とする高炉水砕スラグの処理方法。ここで、Wm:破砕仕事、Wi:仕事指数、d80:破砕後の試料の80%通過粒子径(μm)、d80(0):破砕前の試料の80%通過粒子径(μm)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製鉄所等の鉄鋼製造プロセスで発生するスラグのうち、針状滓を含む高炉水砕スラグの処理方法、およびそれにより製造される高炉水砕スラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉水砕スラグ(以降、単に「スラグ」と記載する場合がある。)とは、製鐵所の製銑工程にて発生する高炉溶融スラグに加圧水を噴射し、急冷処理する事により得られる粒状のスラグである。近年、資源枯渇や環境保護の観点から、この高炉水砕スラグを土木建築や海洋環境整備などの分野で天然砂の代替として利用する機会が増えている。
【0003】
溶融している高炉スラグを加圧水で急冷して得られた高炉水砕スラグには、通常、針状に固化したスラグである針状滓が、含有されている。従って、高炉水砕スラグを利用するにあたって、針状滓を多く含むスラグに人が触れると、皮膚に不快な刺激がある。また、針状滓を多く含むスラグを覆砂としてそのまま用いると、魚介類が針状滓による刺激を忌避して蝟集性に悪影響が生じる恐れがある。
【0004】
この様な、高炉水砕スラグに含有される針状滓を除去する方法として、例えば、特許文献1に開示されている様な、破砕機による破砕処理が広く知られている。また、特許文献2には、パンチング板を篩部材として用いて、スラグから針状滓のみを分離する方法が開示されている。
【0005】
一方で、高炉水砕スラグは潜在水硬性を有しているため、スラグ単独であっても長期間静置すると固結してしまう。この様に固結したスラグはセメント用の骨材として使用できなくなり、あるいは覆砂材としても貝類などの底棲生物の棲息が困難となるため、固結を実用上問題なくなるまで抑制するような、固結遅延処理等の対策が必要となる。
【0006】
この様な、固結を遅延させる方法として、例えば特許文献3に、高炉水砕スラグを分散させる工程と、分散された状態の高炉水砕スラグに炭酸ガスおよび炭酸水の少なくとも一方を含む物質を接触させる工程とを有する高炉水砕スラグの処理方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、高炉水砕スラグを軽破砕後24時間以内に二酸化炭素と接触させる水砕スラグの固結防止方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭53−22522号公報
【特許文献2】特開2006−181414号公報
【特許文献3】特開2003−335558号公報
【特許文献4】特開昭54−112304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記の従来技術では以下のような問題点がある。
【0010】
特許文献1に記載されている方法では、破砕処理により針状滓は破砕されて減少する。しかし、破砕によりスラグに新生面が生じ、時間経過とともにスラグからカルシウムなどの元素が溶出して固結するという欠点がある。
【0011】
また、特許文献2に記載されている方法であれば、針状滓を篩い分けることが出来るが、分離できるのは5mm以上の比較的大きな針状滓のみが開示されているだけであり、5mm未満については何ら記載されていない。
【0012】
一方、特許文献3に記載されている方法によれば、分散された状態の高炉スラグに二酸化炭素および炭酸水の少なくとも一方を含む物質を接触させることにより、スラグ粒子の表層にある可溶性の石灰を炭酸カルシウムへと変化させて固結を遅延させることができる。また、効率的な炭酸イオンの供給のためにスラグを分散させている。しかし、針状滓を破砕するほどの力はスラグに加わらないため、この方法では固結を遅延させることは出来ても、スラグ中の針状滓を十分に減らす事は出来ない。
【0013】
また、特許文献4に記載されている方法では、スラグを軽破砕後24時間以内に炭酸ガスを接触させる処理方法が述べられているだけであり、針状滓を破砕するために必要な破砕強度に関する記載がなされていない。
【0014】
以上の通り、従来の技術では、針状砕を除去し、かつ十分な固結遅延が可能な高炉水砕スラグの処理方法、およびこの方法で処理された高炉水砕スラグは得られていない。
【0015】
本発明は、針状滓を適切に除去しながら、かつ十分な固結遅延を実現できる高炉水砕スラグの処理方法、およびこの方法で処理された高炉水砕スラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 針状滓を含有する高炉水砕スラグの処理方法であって、下記の[1式]で示されるWm/Wiの値が0.037以上となるようにスラグを破砕処理しつつ、同時にスラグに炭酸化処理することを特徴とする高炉水砕スラグの処理方法。
Wm/Wi= 10/(d801/2 − 10/ (d80(0)1/2 ・・・[1式]
Wm:破砕仕事
Wi:仕事指数
80:破砕後の試料の80%通過粒子径(μm)
80(0):破砕前の試料の80%通過粒子径(μm)
(2) (1)に記載の方法により破砕処理されたスラグであって、長径が2.5mm以上で、かつ長径/短径が3以上の針状滓の個数が、スラグ20g中に70個以下であることを特徴とする高炉水砕スラグ。
【発明の効果】
【0017】
本発明による高炉水砕スラグの処理方法によれば、破砕による針状滓の除去と、破砕により生じる新生面の効率的な固結遅延処理が実施可能である。それにより、針状滓による悪影響がなく、かつ十分な固結遅延処理がなされたスラグを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明者らは、高炉水砕スラグの針状滓の除去と固結遅延の両方を満足させる方法を種々検討したところ、適切な衝撃力でスラグを破砕することで針状滓を除去しつつ、この破砕処理の際に同時に炭酸化処理を行うことで、破砕により生じるスラグの新生面を効率的に炭酸化でき、これにより固結遅延処理も実施可能であるという新たな知見を得て、本発明を成すに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の検討を行うに際して、環境保全の観点から厳しい品質が要求される覆砂材を想定して、「針状滓の除去」および「固結遅延」に関する基礎実験を実施した。
【0021】
まず、針状滓の除去について、針状滓の個数を何処まで減少させれば実用上問題ないかを検討した。
【0022】
なお、本発明が対象とする針状滓とは、高炉水砕スラグ中に含まれる長径が2.5mm以上、長径と短径のアスペクト比が1:3以上の針状のスラグであり、針状滓の数とはスラグ20g中に含まれる前記の針状滓の数とした。
【0023】
針状滓の長径を2.5mm以上としたのは、通常、高炉水砕スラグの最大粒径はおよそ2.5mm前後であるため、それ以上の長さの針状滓であればスラグ中から突出して、悪影響が顕在化すると考えられるためである。針状滓の長径の上限は特に規定するものではないが、常識的には5mm程度であり、最大でも7mm程度である。また、長径と短径のアスペクト比を1:3以上としたのは、蝟集性等に影響するほど先の鋭い針状滓であれば、太さは最大でも直径0.8mm程度以下であり、上述の2.5mm以上の針状滓であればアスペクト比は1:3以上になるためである。
【0024】
具体的な実験では、コンクリートミキサー中に約3トンの高炉水砕スラグを入れ、さらに針状滓を破砕する目的で攪拌容器中に直径50mmの鉄球を入れ、ミキサーを回転させてスラグを攪拌することで針状滓の破砕を行った。このとき、任意に鉄球の個数、攪拌時間を変化させ、攪拌後にスラグ中に残留している針状滓の個数を変えた。そして、これらのスラグの覆砂材としての実用性を調べるため、その主な評価指標のである魚介類の蝟集性について評価を行った。ちなみに、針状滓の個数は、攪拌後のスラグ20gから目視で分離して、その個数を数えた。
【0025】
魚介類の蝟集性の評価は、「福岡県水産海洋技術センター事業報告 H16年度〜H17年度」に開示されている内容に基いて行った。以下に具体的に示す。
【0026】
1トン型円形水槽を4等分し、交互に「海砂」と攪拌後スラグである「試験材」を10cmの深さで敷き詰め、流水無給餌でシロギス4匹を5日間飼育した。ここで、5日間としたのは、7日以上になるとスラグの固結が開始する恐れがあることを知見していたため、スラグの固結の影響が出ない期間として5日間とした。また、5日間という制約のため、シロギスを4匹飼育し、シロギス1匹を20日間飼育した場合と等価の実験を、短期間で実施した。また、この評価にシロギスを選定したのは、底砂に生息する魚類であることから、覆砂材の影響が顕著に把握できるためである。
【0027】
飼育の際、1日1回、シロギスがスラグと海砂のどちらの底砂にいるかを観察し、観察したシロギスの延べ数のうち、スラグの区画にいたシロギスの延べ数の割合を求めた。
その結果、針状滓の個数と蝟集性の関係を図1に示す通り、スラグ20g当りの針状滓が70個以下であれば、スラグ区にいるシロギスの割合は50%前後となることが判明した。これは、海砂区にいるシロギスの割合も50%前後であることを意味していることから、スラグ20g当りの針状滓が70個以下にまで破砕されたスラグの蝟集性は、海砂と同等とすることが可能であることを知見した。
【0028】
そこで、スラグ20g当りの針状滓を70個以下とするために必要な破砕条件について調べた。スラグの硬度などの物性は、スラグ自体の成分のみならず、溶融スラグを急冷・固化し始める直前の温度や、そのときスラグ中に溶解している窒素の濃度、スラグの冷却条件など様々な要因により変化し、その結果、針状滓を破砕するために必要な条件も変化する。一般的には、同じスラグ成分であれば、固化し始める直前の溶融スラグの温度が低く、冷却時の冷却速度は速いほうが固化後のスラグは硬質になる。その結果、針状滓の破砕に必要な条件もスラグの性状により、多少変化することが知られている。
【0029】
しかし、本発明者らは、Bondの破砕理論(「Bond, F. C., Wang, J. T., Trans. AIME, 187, 871 (1950)」、あるいは「Bond, F. C., Trans. AIME, 193, 484 (1952)」に記載)を用い、破砕仕事Wmを試料の破砕性を示す指標である仕事指数Wiで割った、以下の[1式]で示されるWm/Wiと、破砕処理後の針状滓の個数との間の相関について、針状滓を含有する種々の高炉水砕スラグを用いて、別途、検討を行った。その結果、これらには良い相関があることを知見し、これを針状滓の破砕に必要な条件の指標とすることが可能であることを見出した。
【0030】
Wm/Wi= 10/(d801/2 − 10/ (d80(0)1/2 ・・・[1式]
Wm:破砕仕事
Wi:仕事指数(JIS M 4002にて測定方法を規定)
80:破砕後の試料の80%通過粒子径(μm)
80(0):破砕前の試料の80%通過粒子径(μm)
【0031】
なお、Wm/Wiの値は、WmやWiの値を直接求めることなく、上記に示した破砕前の試料の80%通過粒子径「d80(0)」および破砕後の試料の80%通過粒子径「d80」をそれぞれ求め、その差分により求めることができる。
【0032】
ちなみに、前記の「d80(0)」や「d80」については、篩い分けにより粒径と通過質量百分率の関係を調べ、その結果から求めることができる。
【0033】
そこで、スラグ中の針状滓の個数を種々変化させて、図1に用いた試料について、Wm/Wiと針状滓の個数の関係を検討した。その結果、図2に示す通り、Wm/Wiが0.037以上であれば、スラグ20g当りの針状滓が70個以下とできることが判明した。従って、後述の方法により、Wm/Wiが0.037以上となる様にスラグを破砕することで、覆砂材として用いる際に針状滓を適切に除去できる。
【0034】
なお、Wm/Wiの上限値は特に規定するものではないが、この値が大きくなるほどスラグがより細かい粉状に破砕されることを意味している。従って、天然砂の代替材としての利用を指向する場合は、破砕後の粒度が天然砂と同等となる程度の値である0.095をWm/Wiの上限値とすることが、粉砕コストの面から推奨される。参考として、Wm/Wi=0.037、および0.095の場合のd80(0)とd80の関係を図3に示す。
【0035】
また、実用面からは、Wm/Wiの上限値は0.080でも、ほとんど天然砂と同等の代替材としての利用できることから、粉砕コスト面からは、より好ましい。
【0036】
次に、破砕スラグの固結遅延について、検討した。
【0037】
破砕によりスラグに新生面が生じると、時間経過とともにスラグからカルシウムなどの元素が溶出してpHが上昇し、固結し易くなる恐れがある。このため、スラグの固結遅延の手法として、スラグの炭酸化処理を行うことを検討した。
【0038】
具体的には、スラグ破砕時に炭酸化処理を行った場合、およびスラグ破砕後に所定の静置時間を設定し、その後に炭酸化処理を行った場合について、炭酸化処理後のスラグから溶出するアルカリ分としてpHを調べた。pH の測定は、「土質試験の方法と解説 第一回改訂版」(社団法人 地盤工学会発行 平成12年3月20日 第1刷発行、丸善)に記載されている測定方法に従い、固液比1:5の条件となるようスラグ20gを入れたビーカーに蒸留水100ミリリットルを加え、攪拌棒で懸濁させる程度まで攪拌後に30分静置してから測定した。
【0039】
実験では、スラグ破砕と炭酸化を同時に行う場合(すなわち、静置時間がない場合)として、攪拌容器の容量が約10mのコンクリートミキサーに約3トンの高炉水砕スラグと直径50mmの鉄球30個を入れ、当該攪拌容器中に二酸化炭素を20容量%含む常温のガスを2m/minの流量で吹き込みながら、容器の回転数3rpmで炭酸化処理を行った。処理時間は1時間から5時間まで30分おきの計9通りとした。
【0040】
一方、スラグ破砕後に所定時間静置してから、炭酸化を別途行う場合としては、まず上記の攪拌による針状滓の破砕を二酸化炭素雰囲気中ではなく大気中で行い、攪拌容器中から上記の鉄球を取り除いて、12時間静置し、その後、攪拌容器中に二酸化炭素を20容量%含む常温のガスを2m/minの流量で吹き込みながら、容器の回転数3rpmで炭酸化処理を行った。処理時間は1時間から4時間まで30分おきの計7通りとした。
【0041】
その結果、Wm/WiとpH の関係は、図4に示す通り、スラグの破砕と同時に炭酸化処理をした場合のpHと比較して、スラグ破砕後に12時間静置時間を設定した後、炭酸化処理を行った場合のpHの方が上昇していることがわかった。従って、12時間静置時間を設定した場合では、その後に炭酸化処理を行ってもpHが上昇することから、スラグが固結しやすくなっていることが確認された。
【0042】
また、pHが中性付近の水はわずかなアルカリ成分の溶出でも急激にpHが上昇するため、破砕直後にスラグの新生面からカルシウムなどの元素が溶出し始めると、スラグのpHは速やかに上昇することも確認している。しかし、破砕と同時に炭酸化処理することにより破砕直後のアルカリ成分の溶出も抑制でき、これによるpH上昇は顕著に抑制できる。
【0043】
以上のことから、スラグ破砕と同時に破砕により生じるスラグの新生面を炭酸化処理する必要があることが判明した。
【0044】
ちなみに、炭酸化処理にCOガスを用いる場合、二酸化炭素の量は、特に規定するものではなく、二酸化炭素を含有するガスであれば良い。但し、炭酸化処理ではスラグ表面の間隙水を介して炭酸ガスとカルシウムが反応するため、処理温度が高いほど水への炭酸ガスの溶解度が減少し、炭酸化反応は進みづらくなくなる。このため、処理温度は80℃以下、好ましくは60℃以下とするのが好ましい。
【0045】
二酸化炭素を含有するガスとしては、工業的には、例えば製鉄所内であれば、各種工場から排出されている排ガスを用いることが効率的である。代表的な排ガスとしては、石灰を焼成するキルン工場の排ガス(CO濃度として約20体積%)、加熱炉排ガス(CO濃度約7体積%)や発電工場排ガス(CO濃度約15体積%)等が挙げられ、これら排ガスのCO濃度であれば十分な炭酸化処理が可能である。さらに、炭酸化処理の際の二酸化炭素の供給形態は、気体だけでなく炭酸水等の液体やドライアイス等でも良く、その添加量や添加条件は、事前実験等により把握することで、適宜、設定すれば良い。
【0046】
以上の通り、環境保全の観点から厳しい品質が要求される覆砂材に、針状滓を含有する高炉水砕スラグを適用する場合であっても、スラグの適切な破砕により針状滓を除去しつつ、同時に炭酸化処理を行うことにより、破砕により生じるスラグの新生面を効率的に炭酸化でき、これにより固結遅延処理も併せて実現可能とすることができ、実用上、十分に固結を遅延させた高炉水砕スラグを、効率的に製造することができる。
【0047】
従って、本発明によれば、高炉水砕スラグの用途として、覆砂材以外では、天然砂代替材料として一般的な用途に使用でき、さらには、セメントの原料としての骨材として使用することもできる。
【0048】
ちなみに、Wm/Wiの値を所望の値に設定して、スラグの破砕を実施する際には、スラグ破砕に用いる装置ごとに、処理条件を事前に実験により確かめる必要がある。スラグを破砕する装置としては、例えば、ミキサー車、水平円筒型混合機、揺動回転型混合機、V型混合機、あるいは2重円錐型混合機等が挙げられる。
【0049】
ここでは、実機での処理として、ミキサー車を用いた場合を例に挙げて、スラグを破砕しながら炭酸化処理を実施し、当該スラグに含まれる針状滓個数をスラグ20g中に70個以下とするための破砕条件として、Wm/Wiの値を0.037以上とするための処理時間、投入する鉄球の個数、ミキサーの回転数などの処理条件を調べた。
【0050】
まず、処理時間に関する実験では、攪拌容器の容量が約10mのコンクリートミキサー車に約3トンのスラグを入れ、当該攪拌容器中に、二酸化炭素を20容量%含む常温のガスを2m/minの流量で吹き込みながら3rpmの回転数で6時間攪拌しつつ炭酸化処理を行った。処理中は、処理開始から1時間、2時間、4時間で処理を一旦中断し、5kgずつスラグをサンプリングしてWm/Wiの値を求めた。併せて、攪拌中の破砕エネルギーを増加させる目的で、攪拌容器中にスラグと一緒に直径50mmの鉄球を20個入れ、その他は同条件で炭酸化処理を行った場合についても、同様にWm/Wiの値を求めた。その結果、処理時間とWm/Wiの関係は図5に示す通り、処理時間とWm/Wiの間には線形の相関が見られる。処理時間が増加し、スラグの粒子径が小さくなると、粒子径を小さくする為に必要なエネルギーは徐々に大きくなり、処理時間を長くしても、粒子径から算出するWm/Wiの増加は緩やかになるが、図5の鉄球ありの場合では、Wm/Wiが0.05になっても攪拌時間とWm/Wiの間には線形の関係が成り立っている。
【0051】
同様に、鉄球なしの場合でもWm/Wiが0.05程度迄であれば、攪拌時間とWm/Wiの関係が線形を大きく外れるほどスラグの粒子径が小さくはならず、攪拌時間とWm/Wiの間には線形の関係が成り立つことがわかっており、Wm/Wiを0.037以下とするためには、鉄球なしの条件では約15時間の攪拌が必要であると推察されること、また直径50mmの鉄球を20個入れて攪拌した場合には攪拌時間を約4.5時間まで短縮できることが確認できた。
【0052】
次に、鉄球の個数とWm/Wiの関係を調べるために、直径50mmの鉄球が10個、20個、30個を用いて、4時間処理の場合について、上記と同様に、二酸化炭素を20容量%含む常温のガスを2m/minの流量で吹き込みながら3rpmの回転数で処理を行った。その結果、鉄球個数と、4時間処理後のWm/Wiとの関係は図6に示す通り、鉄球の個数とWm/Wiの間には線形の相関が見られ、回転数3rpmで4時間の処理条件では、鉄球を23個以上使用すればWm/Wiを0.037以上に出来ることが確認できた。鉄球の個数をさらに増加させることで、針状滓の破砕効率が上がり、必要な攪拌時間を短縮する操業形態を選択することもできる。
【0053】
さらに、攪拌容器の回転数とWm/Wiとの関係について調べるために、直径50mmの10個の鉄球を用いて、4時間処理の場合について、容器の回転数を1、3、5rpmの3通りで、上記と同様に二酸化炭素を20容量%含む常温のガスを2m/minの流量で吹き込みながら処理を行った。その結果、回転数とWm/Wiの関係は図7に示す通り、両者には線形の相関が見られ、回転数5rpm以上でWm/Wiを0.037以上に出来ることが判明した。回転数をさらに増加させた場合のWm/Wiとの関係を把握しておくことで、必要な攪拌時間を短縮する操業形態を選択することもできる。
【0054】
以上のように、ミキサー車を用いた炭酸化処理の例では、ミキサー車に特有の条件である攪拌時間、投入する鉄球の個数、ミキサーの回転数などの処理条件を変化させることで、Wm/Wiの値を0.037以上とするための条件を事前に確認することができる。また、Wm/Wiの値を0.037以上の所望の値に設定するニーズが発生した場合でも、同様にミキサー車の攪拌時間、投入する鉄球の個数、ミキサーの回転数などの処理条件を変化させることで、処理条件を事前に確認することができる。
【0055】
同様に、ミキサー車以外の装置を用いて、スラグを破砕する場合は、当該装置に特有の処理条件を変化させて、Wm/Wiを所望の値とするための処理条件を事前に確認することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例ならびに比較例について説明する。
【0057】
本実験で用いた処理前水砕スラグの化学成分の分析結果は表1、分級試験での篩いの目の開きと通過質量百分率の関係は表2に示した通りである。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
用いたスラグの水分は外掛けで7質量%であった。また、スラグに含まれる長径が2.5mm以上で、かつ長径/短径が3以上の針状滓の個数は、約170個/スラグ20gであった。
【0061】
このスラグを約3トンずつに小分けした後、容器体積約10mのコンクリートミキサー車に配置した。これらのスラグに対し、攪拌時間、用いた鉄球の個数、攪拌容器の回転数、破砕から炭酸化までの間隔を変化させて、それぞれ小分けされたスラグごとに炭酸化処理を行った。なお、鉄球は直径50mmのものを用いた。
【0062】
実施例1〜6、および比較例1〜4は、攪拌を行うと同時に、攪拌容器中に二酸化炭素を20容量%含む(残部は空気)ガスを常温で2m/minの流量で吹き込むことで、炭酸化処理を行った。また、比較例5と6の実験方法は、鉄球を用いた回転数3rpmで3時間の攪拌を大気中で行い、その後、鉄球を除いて12時間、もしくは24時間静置し、その後、攪拌容器中に二酸化炭素を20容量%含む(残部は空気)ガスを常温で2m/minの流量で吹き込みながら、回転数3rpmで3時間の炭酸化処理を実施した。
【0063】
実施例、比較例の処理条件を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
表3の実施例、比較例で処理を行った後のスラグに対し、Wm/Wi、針状滓個数、魚介類の蝟集性、pH の測定を前述の方法で行った。なお、表4に示す魚介類の蝟集性については、前述の「福岡県水産海洋技術センター事業報告 H16年度〜H17年度」に開示された方法に基づいており、5日間という短期間のため、針状滓による影響を評価するものであるため、固結の影響は評価の対象としていない。
【0066】
Wm/Wiの値は[1式]を用い、前記のd80およびd80(0)から求めた。その際に、d80(0)は表2の篩目の開きとスラグの通過質量百分率との関係をプロットして、スラグの80%通過粒子径(μm)の値を求めることでも良いが、篩目の開きが1.2mmと2.5mmの間を直線近似で求めても精度的にはほとんど問題がないことが確認されているため、ここでは直線近似でスラグの80%通過粒子径(μm)の値を求めた。
【0067】
なお、各実施例および比較例の条件で破砕された後のスラグについても、それぞれ篩目の開きとスラグの通過質量百分率との関係を求め、上記と同様にスラグの80%通過粒子径(μm)の値を求めた。
【0068】
さらに、実海域での覆砂材としての使用を想定した固結評価試験を行った。この実海域でのスラグの固結評価については、「福岡県水産海洋技術センター事業報告 H16年度〜H17年度」に開示されている内容に基き、実海域でスラグを一定期間設置した後に、固結の状態を評価する方法を用いた。
【0069】
具体的には、福岡県豊前市大字宇島の豊前海沿岸において、海岸線から50m程度の浅場海域に縦1m×横0.6m×深さ0.3mのステンレス網のボックスを設置し、その中に処理後のスラグを入れて、設置から半年後の固結の有無を調べた。評価期間は、気温が高く、最も固結しやすい夏場を含む、4月から10月の半年間とした。
【0070】
固結の有無の判定については、山中式土壌硬度計(藤原製作所製)を用いてボックス中央部の硬度を測定し、後述の通り、予備試験で多くの生物に蝟集性への悪影響が見られた15mm以上を固結ありとした。
【0071】
なお、前記の山中式土壌硬度計による硬度の測定方法は、平坦な試験面に垂直にコーンを所定の位置まで圧入し、このときのコーンの圧入深さを測定した。
【0072】
また、予備試験としては、海砂とスラグを様々な比率で混合し、その比率を変えることで固結強度を変化させた試験材を用い、干潟にこれらを入れたボックスを約4ヶ月設置して、固結の硬度により貝類やゴカイ類が棲息可能であるか調査した。結果として硬度が15mm以上ではこれらの生物が見られず、生存が困難であるとの知見を得ている。
【0073】
【表4】

【0074】
結果は表4に示すとおり、本実施例1〜6ではWm/Wiが0.037以上を満足しており、長径が2.5mm以上、長径と短径のアスペクト比が1:3以上の針状滓個数は、スラグ20g当りで70個以下であり、また蝟集性は50%前後となり、前述の通り、海砂と同等とすることができた。さらに、実海域での実証試験でも長期的に固結せず、十分な固結遅延効果を得ることが出来た。
【0075】
一方、比較例1〜4ではWm/Wiが0.037以上を満足しておらず、上記の針状滓個数はスラグ20g当りで70個を超えていた。従って、長期的な固結はなかったものの、針状滓による蝟集性への悪影響が見られた。
【0076】
また、破砕から炭酸化処理までに間隔をあけた比較例5と6は、Wm/Wiが0.037以上を満足しており、針状滓個数はスラグ20g当りで70個以下であったため、蝟集性は50%前後とできたものの、固結が発生し、長期的な固結遅延効果は不充分であった。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】強度を変えて破砕した高炉水砕スラグの、針状滓の個数と魚の蝟集性の関係の一例を示す図である。
【図2】Wm/Wiの値と、破砕処理後のスラグ中に残留する針状滓の個数の関係の一例を示す図である。
【図3】Wm/Wi=0.037、および0.095の場合の、破砕前と後のスラグの80%通過粒子径の関係の一例を示す図である。
【図4】破砕と同時に炭酸化処理を行った場合と、破砕後に12時間静置してから炭酸化した場合の、pHの違いを示す図である。
【図5】炭酸化処理の攪拌時間と、スラグに加わる破砕仕事の関係の一例を示す図である。
【図6】攪拌で使用する鉄球の個数と、スラグに加わる破砕仕事の関係の一例を示す図である。
【図7】炭酸化処理時の攪拌容器の回転数と、スラグに加わる破砕仕事の関係の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針状滓を含有する高炉水砕スラグの処理方法であって、
下記の[1式]で示されるWm/Wiの値が0.037以上となるようにスラグを破砕処理しつつ、同時にスラグを炭酸化処理することを特徴とする、高炉水砕スラグの処理方法。
Wm/Wi= 10/(d801/2 − 10/ (d80(0)1/2 ・・・[1式]
Wm:破砕仕事
Wi:仕事指数
80:破砕後の試料の80%通過粒子径(μm)
80(0):破砕前の試料の80%通過粒子径(μm)
【請求項2】
請求項1に記載の方法により破砕処理されたスラグであって、
長径が2.5mm以上で、かつ長径/短径が3以上の針状滓の個数が、スラグ20g中に70個以下であることを特徴とする、高炉水砕スラグ。



【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−113999(P2009−113999A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285570(P2007−285570)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】