説明

高炉用焼結鉱の製造方法

【課題】高アルミナ鉄鉱石の多量配合操業時に、焼結ベット内の通気性悪化等による焼結鉱の生産性の低下および品質水準劣化による歩留り低下をきたすことのない、高炉用焼結鉱の製造方法を提供する。
【解決手段】Al2O3を0.6質量%以上含有する高アルミナ鉄鉱石を、全鉄鉱石量に対して50質量%以上配合し、かつFeOを15〜90質量%含有するFeO源を、FeO源中のFeOと高アルミナ鉄鉱石中のAl2O3との質量比(FeO/Al2O3)で0.8以上となるように配合した原料を、焼結原料として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉用焼結鉱の製造方法に関し、特にドワイトロイド型焼結機等の下方吸引式焼結機により、アルミナ含有率の高い鉄鉱石を主原料として高炉操業に適した焼結鉱を得るに際し、その歩留りおよび生産性の向上を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
高炉原料として使用される焼結鉱の品質は、高炉操業の安定性や高炉の炉内通気性および還元性等に大きな影響を与える。従って、焼結鉱は、その強度、被還元性および耐還元粉化性などの品質水準が厳しく管理されている。また、焼結鉱の製造コストを下げるために、焼結鉱の製造工程における焼結鉱の歩留りや生産性も重要な管理項目になっている。
【0003】
従来、焼結鉱の品質を良好にし、かつ安定したものにするために、その原料として主に赤鉄鉱〔主成分:Fe2O3(ヘマタイト)〕や磁鉄鉱〔主成分:Fe3O4(マグネタイト)〕のような良質の鉄鉱石が使用されてきた。そして、安定した品質の焼結鉱を得るために、種々の性質を有する銘柄の鉄鉱石をブレンドして使用するのが一般的である。
【0004】
しかしながら、近年、良質鉄鉱石の産出量が減少し、これに伴いアルミナ(Al2O3)含有率の高い鉄鉱石、すなわち高アルミナ鉄鉱石の使用量が次第に増加する傾向にある。
ところで、焼結鉱中のAl2O3含有率を増加させると、それに伴って焼結鉱の強度や耐還元粉化性が低下する。その結果、焼結鉱製造工程においては、歩留りや生産性が低下し、また高炉操業においては、操業の安定性を阻害する要因となる。
そこで、従来は、鉄鉱石中のAl2O3成分の希釈剤としてSiO2成分が利用され、焼結鉱へのSiO2成分の添加が行われてきた。
【0005】
ところが、最近では、高炉におけるスラグ比低減や燃料比低減の要請により、鉄鉱石中のAl2O3含有率の低減が指向されるようになってきたことから、高アルミナ鉄鉱石の使用による焼結鉱中Al2O3含有率の上昇は、一層大きな問題となっている。
また、高アルミナ鉄鉱石は、通常の鉄鉱石よりも安価であるため、高アルミナ鉄鉱石の使用技術の確立は、高炉操業における最重要課題の一つである。
【0006】
これまで、焼結鉱製造工程において高アルミナ鉄鉱石を多量に配合したときに生じる成品焼結鉱の歩留り低下を、その品質の低下なしに防止する技術として、種々の提案がなされている。これらの技術はいずれも、焼結原料の焼成過程において生成する融液の流動性を適正化すると共に、焼結原料充填層(以下、原料ベットという)内に通気孔を形成させることによって、焼結鉱品質の向上を図ろうとするものである。
【0007】
例えば、特許文献1には、フッ化物、バリウム化合物またはホウ素化合物を、原料ベットの中層部1/3部分、または下層部2/3部分に適正量、配合・添加する方法が提案されている。
また、特許文献2には、金属鉄を含む物質、例えば還元鉄粉、粒銑、ダライ粉または鉄スクラップ細片を、原料ベット表層より200mm以上下方に適正量、配合・添加する方法が提案されている。
しかしながら、これらの先行技術では、造粒設備を増設し、原料搬送ラインを組み替える必要があるだけでなく、焼結機パレットへの原料供給機を2ヶ所に設けて操業する必要が生じるため、多大な設備投資が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−311254号公報
【特許文献2】特開平6−330192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、高アルミナ鉄鉱石の多量配合操業を行うに際し、多大な設備投資を必要とせず、また焼結ベット内の通気性悪化等による焼結鉱の生産性の低下および品質の劣化による歩留り低下をきたすことのない、高炉用焼結鉱の製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
さて、発明者らは、特許文献1と同様、焼結時に生成する融液の流動性に着目し、成品焼結鉱の品質を低下させることなく歩留りの向上を図るべく、種々の実験を重ねた。
以下、本発明を由来するに到った実験結果について説明する。
【0011】
図1に、焼結時における焼結原料中成分の反応過程を示す。
同図に示したように、焼結時に焼結原料の擬似粒子から融液が生成するに際しては、まず1200℃程度で低融点のカルシウムフェライト融液が生成し、その後、温度上昇に伴い、鉄鉱石の主成分であるFe2O3並びにSiO2、Al2O3およびMnO等の微量成分がカルシウムフェライト融液中に溶解し、融液の発生量が増大していく。
【0012】
なお、上記したような微量成分の溶け込んでいないカルシウムフェライト融液は、温度上昇に伴い、図2に示すようなレベルの粘度を呈する。
【0013】
そこで、図2に示した各温度において、Al2O3を添加し、その添加量を増大していったときの融液の粘度について調査した。その結果を図3に示す。
同図に示したように、いずれの温度水準においても融液の粘度は、Al2O3添加量が増大するにつれて上昇することが判明した。
特に1300〜1350℃の温度水準においては、その温度水準に応じた一定のAl2O3濃度に達すると、融液の粘度は急激に上昇することが判明した。
【0014】
従来、焼結時の最高到達温度は1350℃程度であることが判明しており、これから判断して、カルシウムフェライト融液へのAl2O3の溶解に起因した流動性の悪化(低下)は、カルシウムフェライトの初期生成以後、最高温度に到達しても継続すると考えられ、その結果、原料の焼結性の悪化、ひいては焼結鉱の歩留り低下が生じるものと考えられる。
【0015】
そこで、発明者らは、高アルミナ鉄鉱石を多量に配合した場合であっても、焼結原料の焼成過程において融液が生成したのち、この融液に対する原料中のAl2O3の溶解量が増大しても融液の粘性が急激に上昇しないような焼結鉱の製造方法の開発に取り組んだ。
【0016】
その結果、高アルミナ鉄鉱石の多量配合操業時に、Al2O3の溶解に起因したカルシウムフェライト融液の流動性の悪化を防止するには、溶解するAl2O3量に応じて、製鉄過程で発生する製鋼ダストやミルスケール等の含FeO原料を適量配合することが極めて有効であるとの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0017】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.Al2O3を0.6質量%以上含有する高アルミナ鉄鉱石を、全鉄鉱石量に対して50質量%以上配合し、かつFeOを15〜90質量%含有するFeO源を、FeO源中のFeOと高アルミナ鉄鉱石中のAl2O3との質量比(FeO/Al2O3)で0.8以上となるように配合した原料を、焼結原料として使用することを特徴とする高炉用焼結鉱の製造方法。
【0018】
2.前記FeO源のFeO含有量が15〜70質量%で、かつ前記質量比(FeO/Al2O3)が1.0以上30.0以下であることを特徴とする上記1に記載の高炉用焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多大な設備投資を必要とせず、また焼結鉱の生産性、品質および歩留りの劣化を招くことなしに、高アルミナ鉄鉱石の多量配合操業を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】焼結時における焼結原料中成分の反応過程を説明する図である。
【図2】カルシウムフェライト融液の粘度の温度依存性を示すグラフである。
【図3】カルシウムフェライト融液の粘度に及ぼすAl2O3添加量の影響を示すグラフである。
【図4】FeO/Al2O3比と焼結鉱の歩留りとの関係を示すグラフである。
【図5】FeO/Al2O3比と生産率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明の主原料である高アルミナ鉄鉱石について説明する。
本発明において、全鉄鉱石量に対する高アルミナ鉄鉱石の配合量を50質量%以上にした理由は、配合量が50質量%未満であれば、Al2O3の溶解に起因したカルシウムフェライト融液の流動性の悪化についてはさほど心配する必要がないからである。
また、かかる高アルミナ鉄鉱石中のAl2O3量を0.6質量%以上とした理由は、Al2O3量が 0.6質量%未満であればアルミナの悪影響はほぼ無視できる程度に小さいからである。なお、高アルミナ鉄鉱石中のAl2O3量があまりに大きくなると、本発明をもってしてもカルシウムフェライト融液の流動性改善効果が望めなくなるので、Al2O3量の上限は3質量%とする。好ましくは2.5質量%である。
【0022】
次に、FeO源について説明する。
本発明では、FeO源として、FeOを15〜90質量%の範囲で含有するものを用いる。というのは、FeO源中のFeOが15質量%に満たないと、FeO源としての効果が小さく、一方90質量%を超えても、それに見合う効果が得難いからである。より好ましいFeO含有量は15〜70質量%の範囲である。
【0023】
また、本発明において、焼結原料に対するFeO源の配合量は、FeO源中のFeOと高アルミナ鉄鉱石中のAl2O3との質量比(FeO/Al2O3)が0.8以上を満足する量とすることが肝要である。
というのは、FeO源の配合量が、FeO/Al2O3比で0.8に満たないと、満足いくほどの融液粘度の低減効果が得られないからである。より好ましくはFeO/Al2O3比で1.0以上30.0以下、さらに好ましくはFeO/Al2O3比で5.0以上15.0以下である。なお、上記した好適範囲においてFeO/Al2O3比の上限を30.0としたのは、これ以上大きくしてもそれに見合う融液粘度の低減効果が得られないだけでなく、原料の造粒性が低下するからである。
【0024】
焼結原料として、
a)Al2O3量が0.5質量%の低アルミナ鉄鉱石中にFeO源としてミルスケールを種々の割合で配合したもの、
b)Al2O3量が1.5質量%の高アルミナ鉄鉱石中にFeO源としてミルスケールを種々の割合で配合したもの、
c)Al2O3量が1.5質量%の高アルミナ鉄鉱石中にFeO源として製鋼ダストを所定量配合したもの(FeO/Al2O3比:約7.0)
を用いて製造した焼結鉱の歩留りおよび生産性について調査した結果を、FeO/Al2O3比の関係で図4および図5に示す。
【0025】
図4,5に示したとおり、ミルスケール(FeO源)の添加量が0の場合に比べて、ミルスケールを添加するにつれて成品歩留りおよび生産率は共に向上し、特にFeO/Al2O3比が0.8以上で良好な成品歩留りおよび生産率を得ることができた。しかしながら、FeO/Al2O3比が30.0%を超えると特に生産率の低下が顕著となった。この理由は、コークスに比べてFeOの反応が遅いことに起因しているものと考えられる。
なお、FeO源として、ミルスケールの代りに製鋼ダストを用いた場合でも、FeO/Al2O3比が本発明の範囲であれば、成品歩留りおよび生産率はいずれも改善される。
【0026】
なお、上記した鉄鉱石およびFeO源以外の焼結原料としては、石灰石、生石灰、珪石および返鉱などが挙げられるが、これらを常法に従って適宜混合することは何ら差し支えない。
また、本発明における焼結原料は、粉体のままで使用することもできるが、ペレットに造粒して使用することがより有利である。さらに、本発明の焼結原料は、全体の焼結原料の一部として使用することもできる。
【0027】
本発明において、FeO源としては、上述したミルスケールや製鋼ダストが好適であるが、その他、FeOを多量に含有する鉄鉱石なども使用することができる
【実施例1】
【0028】
この例では、実験室規模の小型焼結試験機に焼結原料を装入したのちに、バッチ焼成を実施した。
このとき使用した原料の化学成分を表1に示す。
粉コークスについては、FeOの発熱を考慮して熱量に応じた配合割合とした。なお、この粉コークスの比率は、各表の配合に返鉱を加えた原料に対する質量比率である。
表2に示すように各原料を配合して焼結原料とした。この例では、配合原料に水分を添加して造粒を行ったが、造粒機としてはドラムミキサーを用い、配合に応じた適量の水を添加したのちに3分間混合して造粒した。
【0029】
得られた焼結鉱について、成品歩留り、落下強度、焼結時間および生産率について調べた結果を表2に併記する。
なお、成品は、焼結ケーキを2mの落差で破砕し+10mm割合で歩留りを評価し、さらに4回落下後の+5mm割合で落下強度を評価した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表2に示したとおり、水準2〜6,8の発明例はいずれも、高強度の鉄鉱石を、高い成品歩留りおよび生産性の下で得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、安価ではあるものの、その使用に際して成品歩留りや生産性の低下が懸念された高アルミナ鉄鉱石を、かようなおそれなしに使用できるので、低コストでの高炉鉄鉱石の供給が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al2O3を0.6質量%以上含有する高アルミナ鉄鉱石を、全鉄鉱石量に対して50質量%以上配合し、かつFeOを15〜90質量%含有するFeO源を、FeO源中のFeOと高アルミナ鉄鉱石中のAl2O3との質量比(FeO/Al2O3)で0.8以上となるように配合した原料を、焼結原料として使用することを特徴とする高炉用焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記FeO源のFeO含有量が15〜70質量%で、かつ前記質量比(FeO/Al2O3)が1.0以上30.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の高炉用焼結鉱の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−185104(P2010−185104A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29572(P2009−29572)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】