説明

高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法

【課題】本来備える高強度特性に加えて、熱伝導率が高く放熱性に優れた窒化けい素焼結体の製法を提供する。
【解決手段】酸素を1.7重量%以下、不純物陽イオン元素としてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下、α相型窒化けい素を90重量%以上含有し、平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%,Mgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1700〜1900℃で焼結し、上記焼結温度から、1500℃までの冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより、粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合を20%以上とすることを特徴とする高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法に係り、特に窒化けい素本来の高強度特性に加えて、熱伝導率が高く放熱性に優れており、また、焼結したままでも良好な表面性状を有し、半導体用基板や各種放熱板として好適な高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化けい素を主成分とするセラミックス焼結体は、1000℃以上の高温度環境下でも優れた耐熱性を有し、かつ低熱膨張係数のため耐熱衝撃性も優れている等の諸特性を持つことから、従来の耐熱性超合金に代わる高温構造材料としてガスタービン用部品、エンジン用部品、製鋼用機械部品等の各種高強度耐熱部品への応用が試みられている。また、金属に対する耐食性が優れていることから溶融金属の耐溶材料としての応用も試みられ、さらに耐摩耗性も優れていることから、軸受等の摺動部材、切削工具への実用化も図られている。
【0003】
従来より窒化けい素セラミックス焼結体の焼結組成としては窒化けい素−酸化イットリウム−酸化アルミニウム系、窒化けい素−酸化イットリウム−酸化アルミニウム−窒化アルミニウム系、窒化けい素−酸化イットリウム−酸化アルミニウム−チタニウム、マグネシウムまたはジルコニウムの酸化物系等が知られている。
【0004】
上記焼結組成における酸化イットリウム(Y)などの希土類元素の酸化物は、従来から焼結助剤として一般に使用されており、焼結性を高めて焼結体を緻密化し高強度化をするために添加されている。
【0005】
従来の窒化けい素焼結体は、窒化けい素粉末に上記のような焼結助剤を添加物として加えて成形し、得られた成形体を1600〜1900℃程度の高温度の焼成炉で所定時間焼成した後に炉冷する製法で量産されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−310164号公報
【特許文献2】特開平09−157054号公報
【特許文献3】特開平09−030866号公報
【特許文献4】特開平09−183666号公報
【特許文献5】特開平09−069672号公報
【特許文献6】特開平06−135771号公報
【特許文献7】特公平05−035107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来方法によって製造された窒化けい素焼結体では、靭性値などの機械的強度は優れているものの、熱伝導特性の点では、他の窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化ベリリウム(BeO)焼結体や炭化けい素(SiC)焼結体などと比較して不十分であったため、特に放熱性を要求される半導体用基板などの電子用材料としては実用化されておらず、用途範囲が狭い難点があった。
【0008】
一方上記窒化アルミニウム焼結体は他のセラミックス焼結体と比較して高い熱伝導率と低熱膨張係数の特長を有するため、高速化、高出力化、多機能化、大型化が進展する半導体回路基板材料やパッケージ材料として普及しているが、機械的強度の点で充分に満足できるものは得られていない。そこで高強度を有するとともに高い熱伝導率をも併せ持ったセラミックス焼結体の開発が要請されている。
【0009】
上記要請に対応するため、本願発明者は、焼結体の組成,組織等を改善することにより、機械的強度および熱伝導率が共に優れた窒化けい素焼結体を開発した。しかしながら、酸化マグネシウム(MgO)を添加しない従来の窒化けい素焼結体においては、焼結後の焼結体表面(以下「焼結上がり面」という。)の表面粗さが大きくなるとともに、表面部に存在する気孔のサイズが大きくなる欠点があった。そして、この気孔部分に応力が集中するため、焼結上がり面の強度が不十分となるという問題点があった。したがって、このような焼結体においては、焼結上がり面を後加工して、所望の強度を有する加工面を露出させた後に、製品を作成する必要があった。そのため、製造工程が複雑化するとともに製品の製造コストが上昇してしまうという問題点があった。
【0010】
本発明は上記のような課題要請に対処するためになされたものであり、窒化けい素焼結体が本来備える高強度特性に加えて、特に熱伝導率が高く放熱性に優れ、焼結したままでも表面性状が良好である窒化けい素焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成するため、従来の窒化けい素焼結体を製造する際に、一般的に使用されていた窒化けい素粉末の種類、焼結助剤や添加物の種類および添加量、焼結条件等を種々変えて、それらの要素が最終製品としての焼結体の特性に及ぼす影響を実験により確認した。
【0012】
その結果、微細で高純度を有する窒化けい素粉末に希土類元素、必要に応じてTi,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wの酸化物、炭化物、窒化物、けい化物、硼化物からなる群より選択される少なくとも1種を所定量ずつ添加した原料混合体を成形脱脂し、得られた成形体を所定温度で一定時間加熱保持して緻密化焼結を実施した後、所定の冷却速度で徐冷したときに熱伝導率が大きく向上し、かつ高強度を有する窒化けい素焼結体が得られることが判明した。
【0013】
また酸素や不純物陽イオン元素含有量を低減した高純度の窒化けい素原料粉末を使用し、窒化けい素成形体の厚さを小さく設定して焼結することにより、粒界相におけるガラス相(非晶質相)の生成が効果的に防止でき、希土類元素酸化物のみを原料粉末に添加した場合においても70W/m・K以上、好ましくは90W/m・K以上の高熱伝導率を有する窒化けい素焼結体が得られるという知見を得た。
【0014】
また、従来、焼結操作終了後に焼成炉の加熱用電源をOFFとして焼結体を炉冷していた場合には、冷却速度が毎時400〜800℃と急速であったが、本発明者の実験によれば、特に冷却速度を毎時100℃以下に緩速に制御することにより、窒化けい素焼結体組織の粒界相が非結晶質状態から結晶相を含む相に変化し、高強度特性と高伝熱特性とが同時に達成されることが判明した。
【0015】
このような高熱伝導性窒化けい素焼結体自体は、その一部が既に本発明者により特許出願されており、さらに特開平6−135771号公報,特開平7−48174号公報および特開平9−69672号公報によって出願公開されている。
【0016】
しかしながら、本発明者はさらに改良研究を進めた結果、希土類元素に加えて、さらにMgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%添加した場合に、焼結体の高強度化がさらに進行し、焼結の際に、α−Si原料からβ−Siへ変化する転移温度が低下し、焼結上がり面の表面粗さが0.4μmRa以下、好ましくは0.3μmRa以下と小さくなり、また表面に存在する気孔のサイズも減少し、焼結上がり面の強度も向上し、かつ焼結性も改善できることを見い出し、本願第1の発明を完成したものである。ちなみに原料成形体を1700〜1900℃の温度範囲で焼結した場合においても、焼結体は研削加工面で750MPa以上,焼結上がり面で700MPa以上の曲げ強度と,中心線平均粗さ(Ra)で0.4μm以下の表面粗さと,70W/m・K以上の高熱伝導率とを達成することができる。
【0017】
また希土類元素およびハフニウム酸化物(HfO)に加えて、さらにMgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%添加した場合に、焼結体の高強度化がさらに進行し、また、焼結の際に、α−Si原料からβ−Siに変化する転移温度が低下し、焼結上がり面の表面粗さが0.4μmRa以下と小さくなり、また表面に存在する気孔のサイズも減少し、焼結上がり面の強度も向上し、かつ焼結性も改善できることを見い出し、本願第2の発明を完成したものである。ちなみに原料成形体を1600〜1900℃の温度範囲で焼結した場合においても、焼結体は研削加工面で750MPa以上,焼結上がり面で700MPa以上の曲げ強度と,中心線平均粗さ(Ra)で0.4μm以下の表面粗さと,70W/m・K以上の高熱伝導率とを達成することができる。
【0018】
ここで焼結上がり面について説明する。通常、窒化けい素焼結体は、焼結ボードの上に窒化けい素成形体を置き、所定条件で焼結することにより製造される。例えば、窒化けい素焼結体を半導体用基板として使用する場合、焼結ボード接触面(下面)とそれに対向する面(上面)に金属板などの回路層を設けることになる。この時、焼結体の表面粗さが大きいと回路層との接合性が悪いため、研磨加工により焼結体の平面度を改善する必要がある。
【0019】
それに対して、本発明方法に係る窒化けい素焼結体は焼結性を向上させたため、焼結上がり面の表面性が向上し、例えば半導体用基板に用いるときに表面研磨加工を施さなくともそのまま回路層を接合することが可能となる。そのため例えば、焼結ボードの表面粗さ(Ra)が0.7μm程度と粗いものを使用したとしても、窒化けい素焼結体の表面粗さ(Ra)は0.4μm以下となり、表面粗さを厳密に制御した焼結ボードを使用しなくても済むことになる。
【0020】
したがって、本発明の焼結上がり面とは、焼結ボード上に接触する面およびそれに対向する面を示すものであり、例えば半導体用基板において回路層を設けている面およびその対向面を示すものである。なお、各側面に関しては、通常、窒化けい素焼結体を切断して所定形状の基板として使用することから、その切断方法により表面性が影響を受けるため、焼結上がり面には含まない。
【0021】
また、複数の窒化けい素焼結体を同一焼成炉で製造する際、隣接する成形体の融着を防止するために、各成形体間にBNなどのしき粉を介在させ複数層重ねて焼結する場合がある。このような場合は、焼結後にしき粉を取り除くためホーニング加工を行う。したがって、本発明で研磨加工とはダイヤモンド砥石などを用いた研磨加工を示すものであり、本発明の焼結体ではこのような研磨加工を施さなくとも表面粗さ(Ra)が0.4μm以下を示す。
【0022】
なお、本発明の窒化けい素焼結体は研磨加工を施さなくとも優れた表面性を有するものであるが、研磨加工して使用してもよいことは言うまでもない。
【0023】
本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。すなわち本願第1の発明方法で得られる高熱伝導性窒化けい素焼結体は、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%,Mgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%,不純物陽イオン元素としてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有し、窒化けい素結晶および粒界相から成るとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であることを特徴とする。
【0024】
また、その他の態様として希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%,Mgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%含有し、窒化けい素結晶および粒界相から成るとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であり、熱伝導率が70W/m・K以上であることを特徴とする。
【0025】
また、カルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)の少なくとも一方を、酸化物に換算して1.5重量%以下添加して構成してもよい。これは、CaまたはSrのどちらか一方を1.5重量%以下含んでもよいし、その両方をそれぞれ1.5重量%以下含有してもよいことを意味している。
【0026】
さらに本願第1の発明に係る高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法は、酸素を1.7重量%以下、不純物陽イオン元素としてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下、α相型窒化けい素を90重量%以上含有し、平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%,Mgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1700〜1900℃で焼結し、上記焼結温度から、1500℃までの冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより、粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合を20%以上とすることを特徴とする。
【0027】
また、本願発明方法で得られる高熱伝導性窒化けい素焼結体は、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%,Hfを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%,Mgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%、不純物陽イオン元素としてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有し、熱伝導率が70W/m・K以上であることを特徴とする。
【0028】
さらに、他の態様として、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%,Hfを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%,Mgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%、不純物陽イオン元素としてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有し、窒化けい素結晶および粒界相から成るとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であることを特徴とする。
【0029】
また、その他の態様として、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%,Hfを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%,Mgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%、不純物陽イオンとしてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有し、窒化けい素結晶および粒界相から成るとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であり、熱伝導率が70W/m・K以上であることを特徴とする。
【0030】
さらに、高熱伝導性窒化けい素焼結体は、CaおよびSrの少なくとも一方を酸化物に換算して1.5重量%以下含有して構成してもよい。また、高熱伝導性窒化けい素焼結体は、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して1.5重量%以下含有してもよい。
【0031】
第2の発明に係る高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法は、酸素を1.7重量%以下、不純物陽イオン元素としてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下、α相型窒化けい素を90重量%以上含有し、平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%,Hfを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%,Mgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1600〜1900℃で焼結し、上記焼結温度から、1500℃までの冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより、粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合を20%以上とすることを特徴とする。
【0032】
上記製造方法において、窒化けい素粉末に、さらにカルシウム(Ca)およびストロンチウム(Sr)の少なくとも一方を酸化物に換算して1.5重量%以下添加するとよい。さらに窒化けい素粉末に、さらにTi,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wの少なくとも1種を酸化物に換算して1.5重量%以下添加するとよい。
【0033】
上記製造方法によれば、窒化けい素結晶組織中に希土類元素等を含む粒界相が形成され、気孔率が2.5%以下、熱伝導率が70W/m・K以上、三点曲げ強度が室温で700MPa以上の機械的特性および熱伝導特性が共に優れた窒化けい素焼結体が得られる。
【0034】
本発明方法において使用され、焼結体の主成分となる窒化けい素粉末としては、焼結性、強度および熱伝導率を考慮して、酸素含有量が1.7重量%以下、好ましくは0.5〜1.5重量%、Al,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bなどの不純物陽イオン元素含有量が合計で0.3重量%以下、好ましくは0.2重量%以下に抑制されたα相型窒化けい素を90重量%以上、好ましくは93重量%以上含有し、平均粒径が1.0μm以下、好ましくは0.4〜0.8μm程度の微細な窒化けい素粉末を使用することができる。
【0035】
平均粒径が1.0μm以下の微細な原料粉末を使用することにより、少量の焼結助剤であっても気孔率が2.5%以下の緻密な焼結体を形成することが可能であり、また焼結助剤が熱伝導特性を阻害するおそれも減少する。
【0036】
またAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bの不純物陽イオン元素も熱伝導性を阻害する物質となるため、70W/m・K以上の熱伝導率を確保するためには、上記不純物陽イオン元素の含有量は合計で0.3重量%以下とすることにより達成可能である。特に同様の理由により、上記不純物陽イオン元素の含有量は合計で0.2重量%以下とすることが、さらに好ましい。ここで通常の窒化けい素焼結体を得るために使用される窒化けい素粉末には、特にFe,Alが比較的に多く含有されているため、Fe,Alの合計量が上記不純物陽イオン元素の合計含有量の目安となる。
【0037】
さらに、β相型と比較して焼結性に優れたα相型窒化けい素を90重量%以上含有する窒化けい素原料粉末を使用することにより、高密度の焼結体を製造することができる。
【0038】
また窒化けい素原料粉末に焼結助剤として添加する希土類元素としては、Y,Ho,Er,Yb,La,Sc,Pr,Ce,Nd,Dy,Sm,Gdなどの酸化物もしくは焼結操作により、これらの酸化物となる物質が単独で、または2種以上の酸化物を組み合せたものを含んでもよい。これらの焼結助剤は、窒化けい素原料粉末と反応して液相を生成し、焼結促進剤として機能する。
【0039】
上記焼結助剤の添加量は、酸化物換算で原料粉末に対して2.0〜17.5重量%の範囲とする。この添加量が2.0重量%以下の場合は、焼結体の緻密化あるいは高熱伝導化が不十分であり、特に希土類元素がランタノイド系元素のように原子量が大きい元素の場合には、比較的低強度で比較的に低熱伝導率の焼結体が形成される。一方、添加量が17.5重量%を超える過量となると、過量の粒界相が生成し、熱伝導率の低下や強度が低下し始めるので上記範囲とする。特に同様の理由により3〜15重量%とすることが望ましい。
【0040】
また本発明において添加成分として使用するマグネシウム(Mg)の酸化物(MgO)は、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能を促進し低温での緻密化を可能にすると共に、結晶組織において粒成長を制御する機能を果し、Si焼結体の機械的強度を向上させるものである。また、焼結時にα−Si原料からβ−Siへ変化する転移温度を低下させ、焼結上がり面の表面粗さを小さくし、さらに焼結体表面に存在する気孔サイズも低減させ、また焼結上がり面の強度も増加させる効果を発揮するものである。このMgの添加量が酸化物換算で0.3重量%未満の場合においては添加効果が不充分である一方、3.0重量%を超える過量となる場合には熱伝導率の低下が起こるため、添加量は0.3〜3.0重量%の範囲とする。特に0.5〜2重量%とすることが望ましい。
【0041】
また本願第2の発明方法において添加成分として使用するHfは酸化物,炭化物、窒化物、けい化物、硼化物として添加され、これらの化合物は、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能を促進すると共に、粒界相の結晶化も促進する機能を果しSi焼結体の熱伝導率と機械的強度とを向上させるものである。このHfの添加量が酸化物換算で0.3重量%未満の場合においては添加効果が不充分である一方、3.0重量%を超える過量となる場合には熱伝導率および機械的強度や電気絶縁破壊強度の低下が起こるため、添加量は0.3〜3.0重量%の範囲とする。
【0042】
さらに本発明方法において、他の添加成分としてのCa,Srの酸化物(CaO,SrO)は、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能を助長する役目を果すものであり、特に常圧焼結を行なう場合に著しい効果を発揮するものである。このCaO,SrOの合計添加量が0.1重量%未満の場合においては、より高温度での焼結が必要になる一方、1.5重量%を超える過量となる場合には過量の粒界相を生成し熱伝導の低下が起こるため、添加量は1.5重量%以下、好ましくは0.1〜1.0重量%の範囲とする。特に強度、熱伝導率共に良好な性能を確保するためには添加量を0.1〜0.75重量%の範囲とすることが望ましい。
【0043】
また本願第2の発明方法において他の添加成分として使用するTi,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wは、酸化物,炭化物、窒化物、けい化物、硼化物として添加され、これらの化合物は、上記希土類元素の焼結促進剤としての機能を促進すると共に、結晶組織において分散強化の機能を果しSi焼結体の機械的強度を向上させるものであり、特に、Ti,Moの化合物が好ましい。これらの化合物の添加量が酸化物換算で0.1重量%未満の場合においては添加効果が不充分である一方、1.5重量%を超える過量となる場合には熱伝導率および機械的強度や電気絶縁破壊強度の低下が起こるため、添加量は0.1〜1.5重量%の範囲とする。特に0.2〜1.0重量%とすることが望ましい。
【0044】
また上記Ti,Mo等の化合物は窒化けい素焼結体を黒色系に着色し不透明性を付与する遮光剤としても機能する。そのため、特に光によって誤動作を生じ易い集積回路等を搭載する回路基板を上記焼結体から製造する場合には、上記Ti等の化合物を適正に添加し、遮光性に優れた窒化けい素基板とすることが望ましい。
【0045】
また焼結体の気孔率は熱伝導率および強度に大きく影響するため2.5%以下となるように製造する。気孔率が2.5%を超えると熱伝導の妨げとなり、焼結体の熱伝導率が低下するとともに、焼結体の強度低下が起こる。
【0046】
また、窒化けい素焼結体は組織的に窒化けい素結晶と粒界相とから構成されるが、粒界相中の結晶化合物相の割合は焼結体の熱伝導率に大きく影響し、本発明に係る高熱伝導性窒化けい素焼結体においては粒界相の20%以上とすることが必要であり、より好ましくは50%以上が結晶相で占めることが望ましい。結晶相が20%未満では熱伝導率が70W/m・K以上となるような放熱特性に優れ、かつ機械的強度に優れた焼結体が得られないからである。
【0047】
さらに上記のように窒化けい素焼結体の気孔率を2.5%以下にし、また窒化けい素結晶組織に形成される粒界相の20%以上が結晶相で占めるようにするためには、窒化けい素成形体を温度1700〜1900℃(第2発明方法では1600〜1900℃)で2〜10時間程度、常圧焼結または加圧焼結し、かつ焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することが重要である。
【0048】
焼結温度を1700℃未満(第2発明方法では1600℃未満)とした場合には、焼結体の緻密化が不充分で気孔率が2.5vol%以上になり機械的強度および熱伝導性が共に低下してしまう。一方焼結温度が1900℃を超えると窒化けい素成分自体が蒸発分解し易くなる。特に加圧焼結ではなく、常圧焼結を実施した場合には、1800℃付近より窒化けい素の分解蒸発が始まる。
【0049】
上記焼結操作完了直後における焼結体の冷却速度は粒界相を結晶化させるために重要な制御因子であり、冷却速度が毎時100℃を超えるような急速冷却を実施した場合には、焼結体組織の粒界相が非結晶質(ガラス相)となり、焼結体に生成した液相が結晶相として粒界相に占める割合が20%未満となり、強度および熱伝導性が共に低下してしまう。
【0050】
上記冷却速度を厳密に調整すべき温度範囲は、所定の焼結温度(第1発明では1700〜1900℃,第2発明では1600〜1900℃)から、前記の焼結助剤の反応によって生成する液相が凝固するまでの温度範囲で充分である。ちなみに前記のような焼結助剤を使用した場合の液相凝固点は概略1600〜1500℃程度である。そして少なくとも焼結温度から上記液相凝固温度に至るまでの焼結体の冷却速度を毎時100℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは25℃以下に制御することにより、粒界相の20%以上、特に好ましくは50%以上が結晶相になり、熱伝導率および機械的強度が共に優れた焼結体が得られる。
【0051】
本発明で得られる窒化けい素焼結体は、例えば以下のようなプロセスを経て製造される。すなわち前記所定の微細粒径を有し、また不純物含有量が少ない微細な窒化けい素粉末に対して所定量の焼結助剤、有機バインダ等の必要な添加剤および必要に応じてCaOやSrOおよびTi等の化合物を加えて原料混合体を調製し、次に得られた原料混合体を成形して所定形状の成形体を得る。原料混合体の成形法としては、汎用の金型プレス法、ドクターブレード法のようなシート成形法などが適用できる。
【0052】
上記成形操作に引き続いて、成形体を非酸化性雰囲気中で温度600〜800℃、または空気中で温度400〜500℃で1〜2時間加熱して、予め添加していた有機バインダ成分を充分に除去し、脱脂する。次に脱脂処理された成形体を窒素ガス、水素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で1700〜1900℃(第2発明方法では1600〜1900℃)の温度で所定時間、常圧焼結または雰囲気加圧焼結を行う。
【0053】
上記製法によって製造された窒化けい素焼結体は気孔率が2.5%以下、70W/m・K(25℃)以上さらには80W/m・K以上の熱伝導率を有し、また三点曲げ強度が常温で700MPa以上と機械的特性にも優れている。
【0054】
なお、低熱伝導性の窒化けい素に高熱伝導性のSiC等を添加して焼結体全体としての熱伝導率を70W/m・K以上にした窒化けい素焼結体は本発明の範囲には含まれない。しかしながら、熱伝導率が70W/m・K以上である窒化けい素焼結体に高熱伝導性のSiC等を複合させた窒化けい素系焼結体の場合には、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0055】
本発明に係る高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法によれば、所定の純度および粒径を有する微細な窒化けい素粉末に希土類元素とHf化合物とMgOと必要に応じてCaOおよびSrOの少なくとも一方と、さらに必要に応じてTi,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wの少なくとも1種とを所定量添加し、焼結処理完了後における焼結体の冷却速度を毎時100℃以下と小さく設定しているため、従来の炉冷のような急速冷却を実施した場合と異なり、粒界相が非晶質から結晶相を含むものに変化して、緻密で高強度かつ高い熱伝導率を有する窒化けい素焼結体が得られる。特に所定量のMgを含有させているため、焼結上がり面が良好であり、研削加工を施すことなく高い強度特性が得られる。したがって、この窒化けい素焼結体は半導体用基板ならびに放熱板などの基板として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
次に本発明の実施形態を以下に示す実施例を参照して具体的に説明する。
【0057】
[実施例1〜3]
酸素を1.3重量%、不純物陽イオン元素としてAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.10重量%含有し、α相型窒化けい素97%を含む平均粒径0.40μmの窒化けい素原料粉末に対して、焼結助剤として平均粒径0.7μmのY(酸化イットリウム)粉末5重量%,平均粒径0.5μmのMgO(酸化マグネシウム)粉末1.5重量%を添加し、エチルアルコール中で72時間湿式混合した後に乾燥して原料粉末混合体を調製した。
【0058】
次に得られた原料粉末混合体に有機バインダを所定量添加して均一に混合した後に、1000kg/cmの成形圧力でプレス成形し、長さ50mm×幅50mm×厚さ5mmの成形体を多数製作した。次に得られた成形体を500℃の空気気流中において2時間脱脂した後に、この脱脂体を窒素ガス雰囲気中7.5気圧にて1800℃で8時間保持し、緻密化焼結を実施した後に、焼結炉に付設した加熱装置への通電量を制御して焼結炉内温度が1500℃まで降下するまでの間における焼結体の冷却速度がそれぞれ100℃/hr(実施例1)、50℃/hr(実施例2)、25℃/hr(実施例3)となるように調整して焼結体を徐冷し、それぞれ実施例1〜3に係る窒化けい素セラミックス焼結体を調製した。なお、焼結時の焼結ボードとしては表面粗さ(Ra)が0.7μmのものを使用した。
【0059】
[比較例1]
一方、緻密化焼結完了直後に、加熱装置電源をOFFにし、従来の炉冷による冷却速度(約500℃/hr)で焼結体を冷却した点以外は実施例1と同一条件で焼結処理して比較例1に係る窒化けい素焼結体を調製した。
【0060】
[比較例2]
酸素を1.5重量%、前記不純物陽イオン元素を合計で0.6重量%含有し、α相型窒化けい素93%を含む平均粒径0.60μmの窒化けい素原料粉末を用いた点以外は実施例1と同一条件で処理し、比較例2に係る窒化けい素セラミックス焼結体を調製した。
【0061】
[比較例3]
酸素を1.7重量%、前記不純物陽イオン元素を合計で0.7重量%含有し、α相型窒化けい素91%を含む平均粒径1.2μmの窒化けい素原料粉末を用いた点以外は実施例1と同一条件で処理し、比較例3に係る窒化けい素焼結体を調製した。
【0062】
こうして得た実施例1〜3および比較例1〜3に係る窒化けい素焼結体について気孔率、熱伝導率(25℃)、室温での三点曲げ強度の平均値を測定した。なお、三点曲げ強度は下記の2通りの場合について測定した。すなわち、焼結上がり面を、そのまま三点曲げ強度試験における引張り面にした場合と、焼結上がり面をダイヤモンド砥石で研削し、その表面粗さを0.8S(約0.15μmRa)にした研削加工面を引張り面にした場合とにおいて測定した。さらに、各焼結体をX線回折法によって粒界相に占める結晶相の割合(面積比)を測定し、下記表1に示す結果を得た。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示す結果から明らかなように実施例1〜3に係る窒化けい素セラミックス焼結体においては、比較例1と比較して緻密化焼結完了直後における焼結体の冷却速度を従来より低く設定しているため、粒界相に結晶相を含み、結晶相の占める割合が高い程、高熱伝導率を有する放熱性の高い高強度焼結体が得られた。
【0065】
一方、比較例1のように焼結体の冷却速度を大きく設定し、急激に冷却した場合は粒界相において結晶相が占める割合が10%以下と少なく熱伝導率が低下した。また、比較例2のように前記不純物陽イオン元素を合計量として0.6重量%と多く含有した窒化けい素粉末を用いた場合は焼結体の冷却速度を実施例1と同一にしても粒界相の大部分が非結晶質で形成され熱伝導率が低下した。
【0066】
さらに比較例3のように平均粒径が1.2μmと粗い窒化けい素粉末を用いた場合は、焼結において緻密化が不充分で強度、熱伝導率とも低下した。
【0067】
[実施例4〜58および比較例4〜11]
実施例4〜58として実施例1において使用した窒化けい素粉末とY粉末と,MgO粉末の他に表2〜表4に示す各種希土類酸化物粉末およびCaO粉末とSrO粉末とを表2〜表4に示す組成比となるように調合して原料混合体をそれぞれ調製した。
【0068】
次に得られた各原料混合体を実施例1と同一条件で成形脱脂処理した後、表2〜表4に示す条件で焼結処理してそれぞれ実施例4〜58に係る窒化けい素セラミックス焼結体を製造した。
【0069】
一方比較例4〜11として表4に示すようにMgOを添加しないもの(比較例4)、過少量に添加したもの(比較例5)、Yを過少量に添加したもの(比較例6)、MgOを過量に添加したもの(比較例7)、Erを過量に添加したもの(比較例8)、Hoを過量に添加したもの(比較例9)、CaOを過量に添加したもの(比較例10)、SrOを過量に添加したもの(比較例11)の原料混合体をそれぞれ調製した。
【0070】
次に、得られた各原料混合体を実施例1と同一条件で成形脱脂処理した後、表4に示す条件で焼結操作を実施してそれぞれ比較例4〜11に係る焼結体を製造した。
【0071】
こうして製造した各実施例および比較例に係る各窒化けい素セラミックス焼結体について実施例1と同一条件で気孔率、熱伝導率(25℃)、室温での三点曲げ強度の平均値、X線回折法による粒界相に占める結晶相の割合を測定し、下記表2〜表4に示す結果を得た。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
上記表2〜表4に示す結果から明らかなように、希土類酸化物,MgO,CaO,SrOを所定量含有し、焼結後の冷却速度を所定に設定した実施例4〜58に係る焼結体は、いずれも高熱伝導率で高強度値を有している。特にMgOを添加しない比較例4との比較からも明らかなように、MgOを所定量含有した各実施例では、焼結体の表面性状が優れているため、焼結したままの状態においても高い曲げ強度を有している。
【0076】
一方、比較例4〜11に示すように、希土類酸化物,MgO,CaO,SrOの少なくとも1種の成分が過少量、あるいは過量添加された場合は、緻密化が不充分であったり、粒界相が過量あるいは粒界相に占める結晶相の割合が低過ぎるために、曲げ強度が低下したり、または熱伝導率が劣ることが確認された。
【0077】
[実施例59〜61]
酸素を1.3重量%、不純物陽イオン元素としてAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.10重量%含有し、α相型窒化けい素97%を含む平均粒径0.40μmの窒化けい素原料粉末に対して、焼結助剤として平均粒径0.7μmのY(酸化イットリウム)粉末5重量%、平均粒径1μmのHfO(酸化ハフニウム)粉末2重量%、平均粒径0.5μmのMgO(酸化マグネシウム)粉末1.5重量%を添加し、エチルアルコール中で窒化けい素製ボールを用いて72時間湿式混合した後に乾燥して原料粉末混合体を調製した。
【0078】
次に得られた原料粉末混合体に有機バインダを所定量添加して均一に混合した後に、1000kg/cmの成形圧力でプレス成形し、長さ50mm×幅50mm×厚さ5mmの成形体を多数製作した。次に得られた成形体を500℃の空気気流中において2時間脱脂した後に、この脱脂体を窒素ガス雰囲気中0.1気圧にて1750℃で8時間保持し、緻密化焼結を実施した後に、焼結炉に付設した加熱装置への通電量を制御して焼結炉内温度が1500℃まで降下するまでの間における焼結体の冷却速度がそれぞれ100℃/hr(実施例59)、50℃/hr(実施例60)、25℃/hr(実施例61)となるように調整して焼結体を徐冷し、それぞれ実施例59〜61に係る窒化けい素セラミックス焼結体を調製した。
【0079】
[比較例12]
一方、緻密化焼結完了直後に、加熱装置電源をOFFにし、従来の炉冷による冷却速度(約500℃/hr)で焼結体を冷却した点以外は実施例59と同一条件で焼結処理して比較例12に係る窒化けい素焼結体を調製した。
【0080】
[比較例13]
酸素を1.5重量%、前記不純物陽イオン元素を合計で0.6重量%含有し、α相型窒化けい素93%を含む平均粒径0.60μmの窒化けい素原料粉末を用いた点以外は実施例59と同一条件で処理し、比較例13に係る窒化けい素セラミックス焼結体を調製した。
【0081】
[比較例14]
酸素を1.7重量%、前記不純物陽イオン元素を合計で0.7重量%含有し、α相型窒化けい素91%を含む平均粒径1.2μmの窒化けい素原料粉末を用いた点以外は実施例59と同一条件で処理し、比較例14に係る窒化けい素焼結体を調製した。
【0082】
こうして得た実施例59〜61および比較例12〜14に係る窒化けい素焼結体について気孔率、熱伝導率(25℃)、室温での三点曲げ強度の平均値を測定した。さらに、各焼結体をX線回折法によって粒界相に占める結晶相の割合(面積比)を測定し、下記表5に示す結果を得た。
【0083】
【表5】

【0084】
表5に示す結果から明らかなように実施例59〜61に係る窒化けい素セラミックス焼結体においては、比較例12と比較して緻密化焼結完了直後における焼結体の冷却速度を従来より低く設定しているため、粒界相に結晶相を含み、結晶相の占める割合が高い程、高熱伝導率を有する放熱性の高い高強度焼結体が得られた。
【0085】
一方、比較例12のように焼結体の冷却速度を大きく設定し、急激に冷却した場合は粒界相において結晶相が占める割合が20%以下と少なく熱伝導率が低下した。また、比較例13のように前記不純物陽イオン元素を合計量の0.6重量%と多く含有した窒化けい素粉末を用いた場合は焼結体の冷却速度を実施例59と同一にしても粒界相の大部分が非結晶質で形成され熱伝導率が低下した。
【0086】
さらに比較例14のように平均粒径が1.2μmと粗い窒化けい素粉末を用いた場合は、焼結において緻密化が不充分で強度、熱伝導率とも低下した。
【0087】
[実施例62〜152および比較例15〜25]
実施例62〜152として実施例59において使用した窒化けい素粉末とY粉末とHfO粉末とMgO粉末の他に、表6〜表9に示す各種希土類酸化物粉末およびCaO,SrO粉末とTiなどの化合物粉末とを表6〜表9に示す組成比となるように調合して原料混合体をそれぞれ調製した。
【0088】
次に得られた各原料混合体を実施例59と同一条件で成形脱脂処理した後、表6〜表9に示す条件で焼結処理してそれぞれ実施例62〜152に係る窒化けい素セラミックス焼結体を製造した。
【0089】
一方比較例15〜25として表9に示すようにHfOを過少量に添加したもの(比較例15)、MgOを添加しないもの(比較例16)、過少量に添加したもの(比較例17)、HfOを過量に添加したもの(比較例18)、MgOを過量に添加したもの(比較例19)、Yを過少量に添加したもの(比較例20)、Erを過量に添加したもの(比較例21)、Erを過少量に添加したもの(比較例22)、CaOを過量に添加したもの(比較例23)、SrOを過量に添加したもの(比較例24)、TiOを過量に添加したもの(比較例25)の原料混合体をそれぞれ調製した。
【0090】
次に得られた各原料混合体を実施例59と同一条件で成形脱脂処理した後、表9に示す条件で焼結処理してそれぞれ比較例15〜25に係る窒化けい素セラミックス焼結体を製造した。
【0091】
こうして製造した実施例62〜152および比較例15〜25に係る各窒化けい素セラミックス焼結体について実施例59と同一条件で気孔率、熱伝導率(25℃)、室温での三点曲げ強度の平均値、X線回折法による粒界相に占める結晶相の割合を測定し、下記表6〜表9に示す結果を得た。
【0092】
【表6】

【表7】

【0093】
【表8】

【0094】
【表9】

【0095】
表6〜表9に示す結果から明らかなように、各種希土類酸化物,HfO,MgO,必要に応じてCaO,SrO,Tiなどの化合物を所定量含有し、焼結後の冷却速度を所定の低速度に設定した実施例62〜152に係る焼結体は、いずれも高熱伝導率で高強度値を有している。特にMgOを添加しない比較例16,17との比較からも明らかなように、MgOを所定量含有した各実施例では、焼結体の表面性状が優れているため、焼結したままの状態においても高い曲げ強度が得られている。
【0096】
一方、比較例15〜25に示すように、各種希土類酸化物,HfO,MgO,CaO,SrO,Tiなどの化合物が過少量、あるいは過量添加された場合は、緻密化が不充分であったり、粒界相が過量あるいは粒界相に占める結晶相の割合が低過ぎるために、曲げ強度が低下したり、または熱伝導率が劣ることが確認された。
【0097】
実施例153〜159および比較例26〜28実施例153〜159として実施例59において使用した窒化けい素粉末とY粉末とHfO粉末とMgO粉末の他に、表10に示すEr粉末およびCaO,SrO粉末とTiなどの化合物粉末とを表10に示す組成比となるように調合して原料混合体をそれぞれ調製した。
【0098】
次に得られた各原料混合体を実施例59と同様にプレス成形して長さ50mm×幅50mm×厚さ0.6mmの薄板タイプの成形体を調製し、この成形体を同一条件で脱脂処理した後、表10に示す条件で焼結処理してそれぞれ実施例153〜159に係る窒化けい素セラミックス焼結体を製造した。
【0099】
一方比較例26〜28として表10に示すようにMgOを添加しないもの(比較例26)、過少量に添加したもの(比較例27)、MgOを過量に添加したもの(比較例28)の原料混合体をそれぞれ調製した。
【0100】
次に得られた各原料混合体を実施例153と同一条件で成形脱脂処理した後、表10に示す条件で焼結処理してそれぞれ比較例26〜28に係る窒化けい素セラミックス焼結体を製造した。
【0101】
こうして製造した実施例153〜159および比較例26〜28に係る各窒化けい素セラミックス焼結体について実施例59と同一条件で気孔率、熱伝導率(25℃)、室温での三点曲げ強度の平均値、X線回折法による粒界相に占める結晶相の割合を測定し、下記表10に示す結果を得た。
【0102】
【表10】

【0103】
表10に示す結果から明らかなように、各種希土類酸化物,HfO,MgO,必要に応じてCaO,SrO,Tiなどの化合物を所定量含有し、焼結後の冷却速度を所定の低速度に設定した実施例153〜159に係る焼結体は、いずれも高熱伝導率で高強度値を有している。特にMgOを所定量含有している各実施例では、焼結上がり面が良好であるため、改めて研削加工を施すことなく、高い曲げ強度が得られる。
【0104】
一方、比較例26〜28に示すように、MgOが過少量、あるいは過量添加された場合は、緻密化が不充分であったり、粒界相が過量あるいは粒界相に占める結晶相の割合が低過ぎるために、曲げ強度が低下したり、または熱伝導率が劣ることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を1.7重量%以下、不純物陽イオン元素としてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下、α相型窒化けい素を90重量%以上含有し、平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%,Mgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1700〜1900℃で焼結し、上記焼結温度から、1500℃までの冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより、粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合を20%以上とすることを特徴とする高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項2】
窒化けい素粉末に、CaおよびSrの少なくとも一方を、酸化物に換算して1.5重量%以下添加することを特徴とする請求項1記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項3】
得られた窒化けい素焼結体は、気孔率が容量比で2.5%以下、熱伝導率が70W/m・K以上、三点曲げ強度が室温で700MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項4】
粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合を50%以上とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項5】
得られた窒化けい素焼結体の熱伝導率が80W/m・K以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項6】
窒化けい素粉末に、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して1.5重量%以下添加することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項7】
得られた窒化けい素焼結体の表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)基準で0.4μm以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項8】
焼結後における焼結体の冷却速度を毎時25℃〜100℃に設定することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項9】
酸素を1.7重量%以下、不純物陽イオン元素としてのAl,Li,Na,K,Fe,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下、α相型窒化けい素を90重量%以上含有し、平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%,Hfを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%,Mgを酸化物に換算して0.3〜3.0重量%添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1600〜1900℃で焼結し、上記焼結温度から、1500℃までの冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより、粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合を20%以上とすることを特徴とする高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項10】
窒化けい素粉末に、CaおよびSrの少なくとも一方を、酸化物に換算して1.5重量%以下添加することを特徴とする請求項9記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項11】
得られた窒化けい素焼結体は、気孔率が容量比で2.5%以下、熱伝導率が70W/m・K以上、三点曲げ強度が室温で700MPa以上であることを特徴とする請求項9または10に記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項12】
粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が50%以上とすることを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項13】
得られた窒化けい素焼結体の熱伝導率が80W/m・K以上であることを特徴とする請求項9ないし12のいずれかに記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項14】
窒化けい素粉末に、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して1.5重量%以下添加することを特徴とする請求項9ないし13のいずれかに記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項15】
得られた焼結体の表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)基準で0.4μm以下であることを特徴とする請求項9ないし14のいずれかに記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。
【請求項16】
焼結後における焼結体の冷却速度を毎時25℃〜100℃にしたことを特徴とする請求項9ないし15のいずれかに記載の高熱伝導性窒化けい素焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2009−179557(P2009−179557A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120314(P2009−120314)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【分割の表示】特願平11−116899の分割
【原出願日】平成11年4月23日(1999.4.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】