説明

高発光特性を有する半導体ナノ粒子

【課題】 化学的耐久性に優れ高発光特性を持つ半導体ナノ粒子を提供する。
【解決手段】 有機溶媒中に分散した高発光特性を持った半導体ナノ粒子を、極性部、疎水部3、親水部4、機能部5から選択される2部以上の組み合わせ(ここで、疎水部は必須成分であり、親水部と機能性部は兼ねていてもよい)から構成される界面活性剤、両親媒性分子、脂質により被覆を行うことにより、粒子の化学的耐久性付与を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高発光特性を有する半導体ナノ粒子とその合成方法に関する。また、この半導体ナノ粒子からなる蛍光試薬及び光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
粒径が10nm以下の半導体ナノ粒子は、バルク半導体結晶と分子との遷移領域に位置することから、前記いずれとも異なった物理化学特性を示す。このような領域では、バルク半導体で見られたエネルギーバンドの縮退が解け軌道が離散化し、粒径によって禁制帯のエネルギー幅が変化するという量子サイズ効果が発現する。この量子サイズ効果の発現により、粒径の増加あるいは減少することに伴って半導体ナノ粒子における禁制帯のエネルギー幅が、減少あるいは増大することになる。この禁制帯のエネルギー幅の変化は、粒子の蛍光特性に影響を与える。粒径が小さく禁制帯のエネルギー幅の大きいものは、より短波長側の蛍光波長を持ち、粒径が大きく禁制帯のエネルギー幅の小さいものは、より長波長側の蛍光波長を持つ。すなわち、粒径を制御することにより、任意の蛍光色を創り出す事が可能である。これらのような特性だけでなく、半導体ナノ粒子は励起光等に対する耐久性も高く、さらに励起可能な領域が蛍光波長より短波長側に広く分布しており、単一励起光源による複数蛍光色同時励起も可能であることから、蛍光材料として非常に注目されている。特に積極的に利用されている分野として、バイオ関連分野(非特許文献1等)や光デバイス分野(非特許文献2等)が挙げられ、今後の更なる応用用途が期待されている。
【0003】
半導体ナノ粒子を蛍光材料として利用するためには、蛍光スペクトル上において半値全幅(FWHM:Full Width Half Maximum)の狭い鋭い波形の蛍光特性を持つことが望ましい。そのためには、半導体ナノ粒子の禁制帯幅に由来するバンドギャップ蛍光特性を発揮させることが必要である。しかしながら、調製されたバルク粒子は、たとえ粒径が単分散化されえていたとしても、そのままではバンドギャップ蛍光特性を十分に発揮しない。この原因として、主に半導体ナノ粒子の表面サイトに存在するエネルギーレベルの存在が挙げられており、該エネルギーレベルが粒子内部の禁制帯内に存在することから、バンドギャップ蛍光特性が阻害されているものと考えられてきた。以上のような理由から、前記エネルギーレベルを不活性化し、バンドギャップ蛍光を引き出すことが、大きな課題となってきた。
【0004】
この課題を解決するに至った方法として、コア・シェル型と呼ばれる構造を有する(CdSe)ZnSナノ粒子が挙げられる。前記方法は、半導体ナノ粒子(CdSe)を、該粒子よりも大きい禁制帯幅を有する第二半導体材料(ZnS)により被覆し、該粒子の禁制帯内のエネルギーレベルを除去することにより、バンドギャップ蛍光特性を発揮させ、高発光特性を得ようとするものである(特許文献1、非特許文献3)。そのほかに、非特許文献4に記載の、CdSeナノ粒子に対しCdSをコーティングしたもの、非特許文献5に記載の、CdSナノ粒子に対しZnSをコーティングしたものが挙げられる。しかしいずれについても、毒性の高い試薬を用いて高温での反応を必要とするか、あるいは商業的に十分な蛍光特性が得られない等の問題点を抱えていた。
【0005】
一方で発明者らは、水溶液中における粒径の単分散化と粒子表面の改質を行うことによりバンドギャップ蛍光を発揮させる方法について研究を進めてきた。水溶液中においてバンドギャップ蛍光特性を発揮させる方法としては、非特許文献6記載の方法が知られているが、該方法を基盤としたいずれの方法においても十分な蛍光特性を得ることができなかった。そこで、発明者らが鋭意研究を行なった結果、サイズ選択光エッチング法により合成された半導体ナノ粒子を、精製過程の後、水酸化ナトリウム中あるいはアミン・アンモニウム化合物類により粒子表面の改質を行ない、該表面に電子供与性基を配列させることで粒子表面のエネルギーレベルを不活性化し、バンドギャップ蛍光特性を発揮させ、商業的に十分な蛍光特性を得る方法を見出した(特許文献2、特許文献3等)。本方法により、水溶液中において安全かつ簡便な方法により高発光特性を持った半導体ナノ粒子の合成を可能とした。さらに、これらを有機物質により被覆することにより、有機溶媒中において光耐久性の高い半導体ナノ粒子を得ることにも成功した(特許文献4等)。また、化合物の種類により、表面機能化も可能であることも示唆している。しかしながら、水溶液中におけるpH等に対する化学的耐久性の面においてはまだ課題が残っており、より一層の技術向上が望まれていた。
【0006】
上記課題を解決する方法として、種々化合物により被覆する方法が思索できる。例えば、TOPOにより被覆する方法としては、非特許文献7記載の方法が知られているが、特許文献1において、商業的に利用できないことが指摘されている。
【0007】
両親媒性高分子で被覆する例としては、非特許文献8記載の方法が知られているが、チオール化合物により修飾されたコア・シェル型の構造を持つ半導体ナノ粒子を用いており、また、該両親媒性分子による被覆の本来の目的が、蛍光特性を維持することにないことなど、本発明中のナノ粒子と類似しない。
【0008】
リン脂質により被覆する例としては、非特許文献9に記載の方法が知られているが、コア・シェル型の構造を持つ半導体ナノ粒子を用いており、また、該リン脂質による被覆の本来の目的が蛍光特性を維持することにないことなど、本発明中のナノ粒子と類似しない。
【0009】
界面活性剤を用いて被覆する方法として、特許文献5記載の方法が知られているが、コア・シェル型の構造を持つナノ粒子を用いており、また、該界面活性剤による被覆の本来の目的が、水溶化を目的とするものであり蛍光特性を維持することにないことなど、本発明中のナノ粒子と類似しない。
【0010】
ポリエチレングリコールにより被覆する方法として、非特許文献10記載の方法が知られているが、修飾物質としてチオール化合物を用いており、本発明と類似しない。
【0011】
以上の例示以外に様々な報告および出願が存在するが、コア・シェル型の構造を有しているなどの点で本発明と類似していないか、あるいは、商業的に利用できる十分利用可能な発光特性を持っているものではなかった。
【0012】
尚、本発明に最も好適に用いられる粒径制御方法として、非特許文献11等に記載のサイズ選択光エッチング法が挙げられる。ここで、サイズ選択光エッチング法について述べる。半導体ナノ粒子の物理化学特性は、量子サイズ効果により粒径に依存して現れる。したがって、この状態では物性が平均化されてしまい、半導体ナノ粒子の特性を十分に発揮することができない。このため、調製直後の広い粒径分布を有する半導体ナノ粒子から、化学的手法を用いて粒径分離を精密に行ない、特定の粒子サイズの半導体ナノ粒子のみを分離・抽出することで単分散化する必要がある。以上の作業を行なう方法のひとつとして、サイズ選択光エッチング法が挙げられる。サイズ選択光エッチング法は、半導体ナノ粒子が量子サイズ効果により粒径減少に伴ってエネルギーギャップが増大すること、及び金属カルコゲナイド半導体が溶存酸素下で光照射により酸化溶解することを利用しており、広い粒径分布を有する半導体ナノ粒子に、その吸収端の波長よりも短い波長の単色光を照射することで、粒径の大きな半導体ナノ粒子のみを選択的に光励起し溶解させ、より小さな半導体ナノ粒子へと粒径をそろえていく方法である。本方法によれば、波長476.5nmの光を照射した場合、半導体ナノ粒子の粒径分布は、平均粒径3.2nm、標準偏差0.19nmとなり、標準偏差が平均粒径の約6%と非常に狭い粒径分布を示す。すなわち、極めて単分散な半導体ナノ粒子溶液を得ることができる。
【0013】
【特許文献1】特表2001−523758号公報
【特許文献2】特開2004−51863号公報
【特許文献3】特願2003−63131
【特許文献4】特願2003−413856
【特許文献5】特表2002−525394号公報
【非特許文献1】Nature Biotech.21:41(2003)
【非特許文献2】Nature.420:800(2002)
【非特許文献3】J.Phys.Chem.B.101:9463(1997)
【非特許文献4】J.Phys.Chem.100:8927(1996)
【非特許文献5】J.Phys.Chem.92:6320(1988)
【非特許文献6】J.Am.Chem.Soc.109:5649(1987)
【非特許文献7】J.Am.Chem.Soc.115:8706(1993)
【非特許文献8】J.Am.Chem.Soc.125:320(2003)
【非特許文献9】Science.43:2154(2002)
【非特許文献10】Chem.Lett.33 840(2004)
【非特許文献11】J.Phys.Chem.B.105:6838(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
発明者らは高発光特性を持った半導体ナノ粒子について研究を行ってきており、その結果、特許文献2〜3に記載の、酸化膜に相当する層を付与すること、あるいは、電子供与性基を表面に配列させることによる、高発光特性を持った半導体ナノ粒子およびその合成方法について見出した。ところが、前記半導体ナノ粒子は、pH等の化学的影響を受けやすいことが課題となっていた。そこで発明者らは、前記課題を解決しようとするものとして、特許文献4に記載のアミン・アンモニウム化合物により表面を被覆することで耐久性を付与した、有機溶媒中に完全に分散する半導体ナノ粒子およびその合成方法を見出した。しかしながら、前記半導体ナノ粒子をバイオ関連分野等の用途に広く利用するためには、水溶液中においてpH等に対する化学的耐久性を付与することも必要となってくる。本発明が解決しようとする課題は、特許文献2〜4に記載の半導体ナノ粒子において、水溶液中における化学的耐久性の問題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、第1に本発明は、発光特性に優れた半導体ナノ粒子の発明であり、半導体ナノ粒子核の外側に電子供与性基が配列しており、更にその外側に、内側より極性部、疎水部、極性部、親水性部、生体高分子との結合性を有する機能性部の順でこれら各部の2部以上の組み合わせ(ここで、疎水部は必須成分であり、親水部と機能性部は兼ねていてもよい)を有する両親媒性化合物等の有機化合物が配列している。本発明の半導体ナノ粒子は高発光特性を有し、且つ化学的安定性に優れている。
【0016】
前記界面活性剤、両親媒性化合物又は脂質の極性部、疎水部、極性部、親水部、生体高分子との結合性を有する機能性部の各部間は所望によりリンカー部を介して結合していても良い。ここで、リンカー部は疎水部又は親水部と同一であっても良い。
【0017】
図1に、本発明の高発光性半導体ナノ粒子の概念図を示す。図1に示すように、本発明の半導体ナノ粒子は、半導体ナノ粒子コア1表面に電子供与性基を含む層2を備えることを特徴とし、さらに該層の外側に極性部、疎水部、極性部、親水部、生体高分子との結合性をもった機能部5、あるいは上記いずれかの組み合わせから構成される層を備えている。本発明では、前記の半導体ナノ粒子の化学的耐久性の付与策として、上記特許文献2〜3に記載の電子供与性基を含む層2で被覆された半導体ナノ粒子1の表面に疎水部3を介して親水部4で被覆することにより、外的要因が粒子表面に与える影響を抑制し、化学的耐久性を付与した。具体的には、上記特許文献4に記載の方法により調製された有機溶媒中に完全に分散する半導体ナノ粒子表面に、界面活性剤、両親媒性分子又は脂質等で被覆することにより行なった。
【0018】
ここで用いる界面活性剤、両親媒性化合物又は脂質は、主に図2及び3のように大略構成されるものが考えられる。図2及び3において、疎水部3は疎水性基11で構成され、親水部4は親水性基14で構成され、生体高分子との結合性を有する機能性部5はカルボキシル基やアミド基13で構成される。又、極性部6及び7は極性基12及び15で構成される。
【0019】
図2のように、末端に疎水部3を有する場合は、該疎水部3を介して半導体ナノ粒子の電子供与性基を含む層と配列し、図3のように、末端にアミノ基等の極性基15を有する場合は、該極性基15を介して半導体ナノ粒子の電子供与性基を含む層と配列する。
【0020】
電子供与性基としては、−OR、−OCHR、−OCOCHR、−NHR、−N(CHR)、−NHCOCHR、−CHR、−CR、−P(CHR)[ここで、Rは水素、置換または無置換の炭化水素基から選ばれる]の少なくとも1種以上が好ましく例示される。特に、電子供与性基として、水酸基が好ましい。また、これらの電子供与性基を含む層については、単層の場合だけではなく、複層となることもある。
【0021】
前記極性部、疎水部、極性部、親水性部、機能性部、リンカー部に重合または縮合反応を伴い互いに結合される部位が含まれたものである場合には、有機化合物同士を互いに結合することで半導体ナノ粒子の耐久性がより向上するのでより好ましい。
【0022】
本発明において半導体ナノ粒子の材質としては特に制限されない。具体的には、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdMnS、CdSe、CdMnSe、CdTe、CdMnTe、HgS、HgSe、HgTe、InP、InAs、InSb、InN、GaN、GaP、GaAs、GaSb、TiO、WO、PbS、PbSe、MgTe、AlAs、AlP、AlSb、AlS、Ge、Siから選択される1種以上が好ましく例示される。
【0023】
本発明の耐久性に優れた半導体ナノ粒子は粒径が単分散であることが好ましく、その粒径は、直径において10%rms未満の偏差を示すものであることがより好ましい。
【0024】
又、本発明の耐久性に優れた半導体ナノ粒子は発光特性、特に蛍光特性に優れており、励起光を照射されたときに半値全幅(FWHM)で40nm以下の狭いスペクトル範囲で光を放出する。
【0025】
第2に本発明は、高蛍光特性を有し化学的安定性に優れた上記半導体ナノ粒子の製造方法の発明であり、半導体ナノ粒子に1種以上の電子供与性基を与える表面処理材料を加え、半導体ナノ粒子表面に電子供与性基を配列させる工程と、極性部、疎水部、極性部、親水部、生体高分子との結合性を有する機能性部の順でこれら各部の2部以上の組み合わせ(ここで、疎水部は必須成分であり、親水部と機能性部は兼ねていてもよい)を有する界面活性剤、両親媒性化合物又は脂質を配列させる工程とを含む。
【0026】
本発明では、半導体ナノ粒子表面に電子供与性基を配列させる工程をアルカリ性環境下とすることが好ましい。特に、半導体ナノ粒子をアルカリ性環境下に活性水素含有化合物と反応させることが好ましい。より具体的には、アルカリ性環境下が、CdSを用いた場合、pH9〜11であることが好ましい。
【0027】
第3に、本発明は高蛍光特性を有し、化学的安定性に優れた上記半導体ナノ粒子からなる蛍光試薬である。
【0028】
第4に、本発明は高蛍光特性を有し、化学的安定性に優れた上記半導体ナノ粒子からなる光デバイスである。
【0029】
第5に、本発明は高蛍光特性を有し、化学的安定性に優れた上記半導体ナノ粒子を含む無機材料、有機材料、または無機有機複合材料である。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、特定の有機物により被覆された半導体ナノ粒子は高発光特性を発揮することができる。これらは、前記半導体ナノ粒子に特定の有機物による被覆を行なうことで化学的耐久性を付与することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明を実施する最良の形態について以下に述べる。半導体ナノ粒子の調製は、特願2003−154977に記載の方法に基づくBufferを用いた方法により、行った。
半導体ナノ粒子は、その体積に対する表面積の割合が極めて大きく、非常に凝集しやすい状態にある。したがって半導体ナノ粒子を安定に存在させるためには、粒子同士の衝突・融合を防ぐための施策が必要になる。これまでに様々な方法が考案されており、大別すると、固体マトリクス及び高分子マトリクス中への取り込みによる半導体ナノ粒子同士の物理的隔離と、粒子表面の金属イオンサイトをこれと高い作形成能を有する低分子有機物で化学修飾することによる粒子表面の不活性化になる。本方法では、後者の考えに基づき、ヘキサメタリン酸を安定化剤として用いる。
【0032】
[半導体ナノ粒子の調製方法]
サイズ選択光エッチング法を用いる場合
まず、30℃の超純水1000ml入った容器に、ヘキサメタリン酸ナトリウム61.8mg(0.1mmol)と過塩素酸カドミウム84.4mg(0.2mmol)を加え、さらにリン酸水素二ナトリウム141.960mg(1mmol)を加え、この溶液を、窒素バブリングしながら密閉した容器中で30分間攪拌した。その後、前記容器を激しく振りながら、S2-とCd2+が等量となるように、硫化水素ガス4.96cm-3(1atm,25℃)を加えた後、室温で数時間攪拌を行った。このとき、溶液の色は、光学的に透明な無色から光学的に透明な黄色へ変化する。さらに、溶液を窒素バブリングすることにより、該溶液中の未反応の硫化水素を取り除いた後、酸素バブリングを10分間行ない、メチルビオロゲン25.7mg(0.1mmol)を加えた。ここで、前記溶液に対し、レーザー等を用いた単色光、あるいは、フィルターを介した水銀ランプ光を照射し、サイズ選択光エッチング法による粒径制御を行なった。その後、前記溶液を窒素バブリングしながら30分間攪拌し、3-メルカプトプロピオン酸50μlを加え、遮光下で一晩攪拌を行った。
【0033】
サイズ選択光エッチング法を用いない場合
まず、30℃の超純水1000ml入った容器に、ヘキサメタリン酸ナトリウム61.8mg(0.1mmol)と過塩素酸カドミウム84.4mg(0.2mmol)を加え、さらにリン酸水素二ナトリウム28.392mg(0.2mmol)とリン酸二水素ナトリウム95.984mg(0.8mmol)を加え、この溶液を、窒素バブリングしながら密閉した容器中で30分間攪拌した。その後、前記容器を激しく振りながら、S2-とCd2+が等量となるように、硫化水素ガス4.96cm-3(1atm,25℃)を加えた後、室温で数時間攪拌を行った。さらに、溶液を窒素バブリングすることにより、該溶液中の未反応の硫化水素を取り除いた後、3-メルカプトプロピオン酸50μlを加え、遮光下で一晩攪拌を行った。
【0034】
[粒子の表面改質]
粒子の表面改質は、上記特許文献2〜3に記載の方法に基づいて行った。上記いずれかのように調製された溶液1000mlを限外ろ過し、数mlまで濃縮することで、水溶液中のメチルビオロゲン、ヘキサメタリン酸、未反応チオール化合物、光エッチングの際に溶解したイオン等を取り除き、純粋なチオール化合物による表面修飾半導体ナノ粒子溶液とした。その後、さらに純水を加えて限外ろ過し、これを数回繰り返すことで精製を行った。その後、最終的に数mlに濃縮された溶液を用いて、表面改質処理を行った。
【0035】
前記のようにして得た精製済みチオール修飾ナノ粒子水溶液に、0.1M NaOH-HCl ph 11 aq.あるいは0.1M NH3 aq.を用いて吸光度が0.5となるように希釈し、蛍光灯照射化にて数日放置することにより表面処理を行い、高発光特性を持った半導体ナノ粒子溶液を得た。得られた溶液は光学的に透明な黄色であり、優れた発光特性を持っている。この時の光学スペクトルを図4に示す。
【0036】
[粒子の被覆]
粒子の表面被覆は上記特許文献4に基づいて行った。前記のように表面改質を行った半導体ナノ粒子水溶液に、ヘキサンあるいはトルエン等の有機溶媒と該溶媒に対し1mg/mlとなるように塩化トリドデシルメチルアンモニウムを加えた混合溶液を、該水溶液の10分の1量加えたものか、2mg/mlとなるように臭化トリオクタデシルメチルアンモニウムを加えた混合溶液を、該水溶液の10分の1量加え、該水溶液と同量のメタノールを加えたものを、しばらく激しく攪拌を行った。その結果、光学的に透明な黄色い部分は、水相から有機相へ移行することが確認できた。その後、遠心分離を行った上で、水相と有機相を分離した。回収した前記有機相は、移行前の前記水溶液と同様の吸光度となるまでヘキサンやトルエン等を加えて希釈した。なお、有機相へ移行した半導体ナノ粒子は、なお高発光特性を維持する。本発明では、トリオクタデシルメチルアンモニウムを用いた場合について積極的に例示し、このときの光学スペクトルを図4に示す。
【0037】
上記のようにして得られた有機溶媒中に完全に分散したナノ粒子を、両親媒性化合物により被覆の積層を行った。この時用いる両親媒性化合物として、陽イオン界面活性剤としては、ドデシルトリメチルアンモニウム(図2(a)と図3(a)の例)、陰イオン界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(図2(a)の例)、両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸(図2(b)の例)、非イオン性界面活性剤については、テトラエチレングリコールドデシルエーテル(図2(e)の例)について例示する。
【0038】
まず、ドデシルトリメチルアンモニウムを用いた場合について例示する。前記有機溶媒中に完全に分散したナノ粒子溶液10mlを共栓付試験管やナスフラスコ等の容器にいれ、エバポレーションを行ない容器内壁にて膜状とする。その後、クロロホルム中に塩化ドデシルトリメチルアンモニウムを5mMとなるように溶かした溶液を2ml加えて粒子を再溶解させ、エバポレーションを行ない再度容器内壁にて膜状とする。さらに90℃に加温して残留しているクロロホルムを除去し、メタノールを2ml加えて再度粒子を溶解させた。その後、超純水を10ml加え90℃に加温することでメタノールを除去した。最終的に遠心分離を行ない、沈殿を除去することにより、光学的に透明な黄色の溶液を得ることができた。
【0039】
次に、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリルジメチルアミノ酢酸、テトラエチレングリコールドデシルエーテルを用いた場合について例示する。有機溶媒中に完全に分散したナノ粒子溶液10mlを共栓付試験管やナスフラスコ等の容器にいれ、エバポレーションを行ない容器内壁にて膜状とする。その後、前記界面活性剤を1mMの濃度で含む水溶液を加え、室温にて攪拌した。この時、超音波洗浄器等を用いてもよく、加温することについても問題ない。
【0040】
上記いずれについても、攪拌及び超音波処理後は、水溶液中に溶解したナノ粒子が得られる。この時のpH値は、用いる界面活性剤の種類により異なる。その後、塩酸を用いてpH値を中性領域にした。本実施例では、その耐久性を示すため、アンモニア水溶液により表面改質をしたナノ粒子に塩酸を加えて中性にしたものとの比較を行った。そのときの光学スペクトルを図5から図8に示す。ドデシルトリメチルアンモニウムを用いたものを図5に示す(実施例1)、ドデシル硫酸ナトリウムを用いたものを図6に示す(実施例2)、ラウリルジメチルアミノ酢酸を用いたものを図7に示す(実施例3)、テトラエチレングリコールドデシルエーテルを用いたものを図8に示す(実施例4)。ここで、本方法により合成された半導体ナノ粒子は、表面改質のみを行った半導体ナノ粒子と比較し、中性領域においても蛍光特性を十分に発揮していることがわかる。また、本方法はサイズ選択光エッチング法などの粒径制御方法と組み合わせることにより、種々蛍光色の高発光特性を持った半導体ナノ粒子の合成を可能とする。
【0041】
なお、用いる界面活性剤の種類によっては、例えば、上記と同様のプロトコルにて界面活性剤の構成を混合とすることも可能である。ここではラウリルジメチルアミノ酢酸とオレイン酸を1:9の割合で混合した場合について例示し、そのときの光学スペクトルを図9に示す(実施例5)。
【0042】
ところで、本発明では界面活性剤について積極的に例示したが、その他の界面活性剤を含む両親媒性分子、脂質等の種々有機化合物についても、同様の効果を実現することが可能である。また、用いる物質の種類によって、その内部および表面の構造を任意に設計することが可能となる。さらに、極性部、疎水部、親水部、機能性部、リンカー部のいずれについても、重合または縮合反応を伴う部位が含まれることによっても構成される。すなわち、重合または縮合反応を伴い、被覆部分を構成する化合物をそれぞれ互いに結合させることにより、より強固な形態とすることも可能である。また、各種モノマーを重合させたポリマーを用いた場合についても、本発明と同様の効果を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、高発光特性を有し、化学的安定性に優れた半導体ナノ粒子を簡便に合成することが可能となる。本発明の半導体ナノ粒子は、その高蛍光特性を利用して、蛍光試薬や光デバイス等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明により調製されたナノ粒子の好適な構造の模式図。
【図2】本発明により用いられる界面活性剤及び両親媒性分子の模式図。
【図3】本発明により用いられる他の界面活性剤及び両親媒性分子の模式図。
【図4】電子供与性基を配列させた高発光特性を持った半導体ナノ粒子の有機溶媒中への抽出前後の光学スペクトル。
【図5】ドデシルトリメチルアンモニウムを用いた場合の中性領域における耐久性を比較する光学スペクトル。
【図6】ドデシル硫酸ナトリウムを用いた場合の中性領域における耐久性を比較する光学スペクトル。
【図7】ラウリルジメチルアミノ酢酸を用いた場合の中性領域における耐久性を比較する光学スペクトル。
【図8】テトラエチレングリコールドデシルエーテルを用いた場合の中性領域における耐久性を比較する光学スペクトル。
【図9】ラウリルジメチルアミノ酢酸とオレイン酸の混合物を用いた場合の中性領域における耐久性を比較する光学スペクトル。
【符号の説明】
【0045】
1…半導体ナノ粒子コア、2…電子供与性基を含む層、3…疎水部、4…親水部、5…機能性部、6…極性部、7…極性部、11…疎水性基、12…極性基、13…機能性基、14…親水基、15…極性基。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ナノ粒子核の外側に電子供与性基が配列しており、更にその外側に、内側より極性部、疎水部、極性部、親水部、生体高分子との結合性を有する機能性部の順でこれら各部から選択される2部以上の組み合わせ(ここで、疎水部は必須成分であり、親水部と機能性部は兼ねていてもよい)を有する構造を持つことを特徴とする高発光特性半導体ナノ粒子。
【請求項2】
前記極性部、疎水部、極性部、親水性部、生体高分子との結合性を有する機能性部の各部間は所望によりリンカー部を介して結合していることを特徴とする請求項1に記載の高発光特性半導体ナノ粒子。
【請求項3】
前記電子供与性基が、−OR、−OCHR、−OCOCHR、−NHR、−N(CHR)、−NHCOCHR、−CHR、−CR、−P(CHR)[ここで、Rは水素、置換または無置換の炭化水素基から選ばれる]の少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項4】
前記電子供与性基が、水酸基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項5】
前記電子供与性基を含む層が、1層以上であることを特徴とする請求項1〜4に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項6】
前記極性部、疎水部、極性部、親水性部、機能性部、リンカー部に重合または縮合反応を伴い互いに結合される部位が含まれたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の半導体ナノ粒子。
【請求項7】
前記半導体ナノ粒子の材質が、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdMnS、CdSe、CdMnSe、CdTe、CdMnTe、HgS、HgSe、HgTe、InP、InAs、InSb、InN、GaN、GaP、GaAs、GaSb、TiO、WO、PbS、PbSe、MgTe、AlAs、AlP、AlSb、AlS、Ge、Siから選択される1種以上、又はこれら半導体材質がコア部とシェル部の複層構造を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の半導体ナノ粒子。
【請求項8】
前記半導体ナノ粒子の粒径が、直径において10%rms未満の偏差を示す単分散であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の半導体ナノ粒子。
【請求項9】
前記半導体ナノ粒子が、励起光を照射されたときに半値全幅(FWHM)で40nm以下の狭いスペクトル範囲で光を放出することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の半導体ナノ粒子。
【請求項10】
半導体ナノ粒子に1種以上の電子供与性基を与える表面処理材料を加え、半導体ナノ粒子表面に電子供与性基を配列させる工程と、極性部、疎水部、極性部、親水性部、生体高分子との結合性を有する機能性部の順でこれら各部から選択される2部以上の組み合わせ(ここで、疎水部は必須成分であり、親水部と機能性部は兼ねていてもよい)を有する両親媒性化合物等の有機化合物を一層以上配列させる工程とを含むことを特徴とする半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の半導体ナノ粒子からなる蛍光試薬。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の半導体ナノ粒子からなる光デバイス。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の半導体ナノ粒子を含む無機材料、有機材料、または有機無機複合材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−137875(P2006−137875A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329380(P2004−329380)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】