説明

高純度シリコンを製造する方法及びリアクタ

本発明は、溶融Zn金属によるSiCl4の還元により高純度シリコンを製造する方法及び装置に関する。この方法は、ZnCl2を溶解する溶融塩と接触させながら還元が起こることを特徴とする。その後、還元中に生成されるZnCl2は、気化することなく溶融塩に溶解する。この利点は、還元中のガスの発生が最低限に抑えられ、SiCl4及びZnのより高い利用、それゆえ、より高いSi収率がもたらされることである。別の利点は、溶融塩によって、空気に敏感な材料、Zn、SiCl4及びSiが還元中に酸化するのを効率的に妨げることである。ZnCl2を含有する得られる溶融塩は、Zn金属を再生するZnCl2の電解に用いることができる。電解中に発生する塩素は、SiCl4を生成するのに用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体状態の亜鉛金属による四塩化ケイ素(SiCl4)の還元により、ソーラーグレード(高純度)シリコン金属を製造する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度シリコン金属は、多くの用途を有し、電子産業のための半導体材料、及び光から電気を発生させるための光電池の用途が最も重要である。現在、高純度シリコンは、高純度ガス状シリコン化合物の熱分解によって商業的に製造されている。最も一般的なプロセスではSiHCl3又はSiH4のいずれかが使用されている。これらのガスは、高温の高純度Si基板上でシリコン金属及びガス状副産物へと熱分解する。
【0003】
現在知られているプロセス、具体的に熱分解工程は、極めてエネルギー大量消費型のものであり、工業生産プラントは大型で高価なものとなる。それゆえ、これらの問題に対処し、且つ同時に十分な純度のSi金属を供給することができる任意の新規なプロセスが大いに望まれている。
【0004】
高純度Zn金属による高純度SiCl4の還元によって、高純度Si金属が得られることは長い間知られている。1949年には、D.W. Lyon, C.M. Olson及びE.D. Lewis(DuPont所属)が、Zn及びSiCl4からの高純度シリコンの調製を記載している非特許文献1に発表した。彼らは、ガス状Znをガス状SiCl4と950℃で反応させ、高純度Siを得た。より最近には、Batelle Columbus Laboratoriesの研究者等は、かなりの大規模で同様の試験を実施した。ガス状SiCl4及びガス状Znを流動床リアクタに供給し、そこでSi顆粒を形成した(例えば、非特許文献2を参照)。溶融Zn中におけるSiCl4の還元も、種々の特許に記載されている。特許文献1は、シリコン金属の薄膜を製造するプロセスを記載している。ガス状Si含有種を、液体Zn含有合金を含むチャンバに導入する。ガス状Si種を合金の表面上で還元し、そこにSi薄膜として堆積させる。特許文献2「クローズドサイクルにおける高純度シリコンの製造(Manufacture of high-purity silicon in closed cycle)」は、高純度シリコンを製造するプロセスを記載している。液体又はガス状SiCl4を溶融Znで還元し、多結晶Si及びZnCl2を得る。蒸留によってZnCl2をSiから分離し、Zn及びCl2を生成する電解セルに供給する。Znは、分離リアクタにおけるSiCl4の還元に用いられるのに対し、塩素はHで処理されて、冶金グレードのSiを塩素化するのに使用されるHClをもたらす。このため、Zn及びClは両方ともプロセス中で再生される。得られたSiは、太陽電池における使用に好適な品質を有するものであった。同様のプロセスが特許文献3に記載されている。この文献と特許文献2との違いは、ZnによるSiCl4の還元により得られるSiが、SiCl4の還元に用いたものと同様の容器内で溶融されるため、Zn及びZnCl2から精製されることである。特許文献2に記載されているようなクローズドサイクルは要求されていない。
【0005】
ZnによるSiCl4の還元によって高純度シリコンを製造する上記された既知の方法全てにおいて、ZnCl2がリアクタから気体として出る。Zn金属の蒸気圧も操作温度において著しいため、いくらかのZnがZnCl2に続く。さらに、反応
SiCl4+2Zn=Si+2ZnCl2
は、ZnCl2の沸点を超える温度では完全に右側に移行しないため、還元によるオフガスもSiCl4をいくらか含有している。オフガスの冷却中、SiCl4はZnと反応して、Si及びZnCl2を得る。それゆえ、リアクタ内の一般的な平衡条件ではZn及びSi金属を共に含有するZnCl2凝縮物が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,225,367号
【特許文献2】特願平9−246853号
【特許文献3】国際公開第2006/100114号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Electrochem.Soc. (1949, 96, p.359)
【非特許文献2】D.A. Seifert and M. Browning, AIChE Symposium Series (1982), 78(216), p.104-115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術から既知の解法を鑑みて、本発明は、上記に示される還元反応が右側に完全に移行するような、液体状態の亜鉛金属による四塩化ケイ素(SiCl4)の還元により高純度シリコン金属を製造する方法及び装置の新規で極めて優れた改良を示す。本発明による方法は有効であり、また本発明による装置の構築及び動作は単純且つ安価なものである。
【0009】
本発明による方法は、添付の独立請求項1に規定される主要点により特徴付けられる。さらに、本発明による装置は、添付の独立請求項11に規定される主要点により特徴付けられる。請求項2〜10及び12〜19は、本発明の有利な実施形態を規定する。
【0010】
以下で、実施例を用いて、また添付の図1を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるリアクタの概略側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照すると、ZnによるSiCl4の還元用のリアクタ5が示されており、このリアクタは、リアクタの底部におけるZnプール1以外に、液体Znプールの上のSiの液体層と、Siの上の好適な塩3の層とを含有する。このリアクタでは、リアクタ5の底部にある液体Znプール1に通じる管、すなわちランス4等を介してSiCl4を泡として流入させることにより、SiCl4の還元が起こる。SiCl4は、気体、又は供給中に気化する液体として供給され得る。Zn金属は、液体又は固体としてリアクタに添加され、また、リアクタ内の既存の温度に起因して溶融する。管4は、SiCl4とZnとの良好な反応を確実なものとする任意の形状を有し得る。1つ又は複数の管、回転式ガス分散器(spinning gas dispersers)、又は多岐管の設計は、リアクタ5の底部にある液体Zn1へのSiCl4の有効な分配を確実なものとする対策の可能な例を示す。ZnとSiCl4との反応から得られるSiは、プロセス中、溶融塩3とZnとの間の層2として回収される。概して、Si層は、SiとZnとの混合物から成り、一定の間隔又は連続的にポンプ輸送することによって除去するか又はグラビング(grabbing)によって機械的に除去することができる。SiCl4とZnとの反応による他の生成物であるZnCl2は、溶融塩3中に溶解し、これにより操作(還元プロセス)中に溶融塩を富化する。このようにZnCl2で富化された溶融塩は、ポンプ輸送するか、グラビングするか、又は好適なチャネル若しくは管を介した流れによって除去することができる。除去された塩の代わりに、ZnCl2をほとんど又は全く含有しない溶融塩を、ポンプ輸送するか、注入するか、又は好適なチャネル若しくは管を介した流れによってリアクタに添加してもよい。
【0013】
上述のように、本発明は、還元反応が反応:SiCl4+2Zn=Si+2ZnCl2の右側に完全に移行するという、これまでに知られている方法の極めて優れた改良を示す。これは、形成されるZnCl2を溶解することができる溶融塩と接触させながら還元を実施することによって達成される。溶融塩は、還元反応を起こす溶融Znよりも低い密度を有するため、液体Znの上に浮かぶ。還元中に放出されるZnCl2は、金属の上へと浮かぶか、又は沸騰し、そこで溶融塩に溶解する。ZnCl2の温度が標準融点よりも低い場合には浮かぶのに対し、沸点よりも高い場合には泡として上昇する(沸騰する)。いずれの場合とも、ZnCl2は溶融塩に溶解する。それゆえ、ZnCl2は、従来技術で知られるように気化することなく液体状態で残存する。ZnCl2は標準沸点を超える温度でさえ液体として残存する。溶融塩は、生成されたSiと周囲環境との間にバリアを作る役割も果たすため、酸化を防止する。溶融塩は、好ましくは、典型的にはアルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物、又はそれらの混合物から成る塩化物系である。還元は、ZnCl2の標準沸点より高温でも低温でも実施することができる。しかしながら、この温度は、好ましくは、Znの標準融点〜標準沸点であるものとする。この溶融塩は、ZnCl2の溶融塩電解に使用されるものと同じものであってもよい。リアクタ内で生成されるSiは、連続的に又は一定の間隔で除去され得る。生成されたZnCl2を含有する溶融塩は、連続的に又は一定の間隔で除去されることができる。リアクタから除去される溶融塩を交換する必要がある。これは、連続的に又は一定の間隔のいずれでも行うことができる。
【0014】
リアクタ5の設計及び構成に関して、複数の材料選択が可能である。本発明の目的は高純度シリコンを製造することであるため、Siの汚染をあまり起こさない材料を使用する必要がある。リアクタは、好適なれんが積み、例えば、アルミナベース、シリカベース、炭素材料、窒化ケイ素ベース、炭化ケイ素ベース、窒化アルミニウムベース、又はこれらの組合せによって裏打ちすることができる。溶融塩又は金属と直接接触する材料は、シリコンベース、すなわち、シリカ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、又はこれらの組合せであることが好ましい。炭素を使用してもよい。
【0015】
図1には示されていないが、熱(エネルギー)をリアクタに供給することも可能でなければならない。それゆえ、加熱は、リアクタを好適な炉内に置くことによって達成することができる。電流を溶融塩に通すことによる抵抗加熱のような、溶融Znの誘導加熱も可能である。
【0016】
反応SiCl4(g)+Zn(l)=2ZnCl2(l)+Si(s)はわずかに発熱を伴う(800℃で−130kJ/mol)。このため、還元中に溶融塩の温度が上昇する。リアクタをバッチ方式で操作する場合、温度の上昇は、反応するSiCl4の量に対する溶融塩の量によって制御することができる。ZnCl2で富化された溶融塩をより冷たい溶融塩に交換するか、又は凍結した塩を添加することによって、温度を再び下げることが可能である。例えば好適な冷媒を運ぶコイル(図1に図示せず)による内部冷却も可能である。リアクタを連続方式で操作する場合には、十分に冷たい溶融塩を添加するか、又は十分な割合の凍結した塩を添加することによって温度を維持することができる。
【0017】
溶融塩は概して、LiCl、NaCl及びKClのような塩化物を含有するが、CaCl2のようなアルカリ土類金属塩化物、及び他のアルカリ金属塩化物も使用することができる。フッ化物塩も添加することができる。還元温度は、Znの融点(420℃)〜Znの標準沸点(907℃)の範囲をとり得る。
【0018】
Zn金属は、溶融塩中のZnCl2を電解することによって、好ましくは溶融塩の直接電解によって再生され得る(いずれも図示せず)。この際、リアクタからの溶融塩を、電解セル(複数可)への供給材料として用いる。電解セル(複数可)からの電解質は、リアクタ中の溶融塩と交換するのに用いることができる。この場合、ZnCl2で富化された溶融塩を電解セルに供給し、そこで、ZnCl2をZn金属及び塩素ガスへと電解することによって、リアクタに戻す溶融塩中のZnCl2の濃度を下げる。また、このZnをリアクタに添加してもよく、塩素を他の目的に、例えば、SiCl4の生成に使用することもできる。装置は、溶融塩が、好適な管又はチャネル(図示せず)においてリアクタと電解セルとの間に流れ得るように設計され得る。必要であれば、溶融塩を、リアクタから電解セルへ、また電解セルからリアクタへの輸送中に冷却又は加熱することができる(いずれも図示せず)。ZnCl2の溶融塩電解によってZnを再生する場合には、本発明は、従来技術に比べて更なる利点を有する。純ZnCl2は、極めて吸湿性であり、溶融状態で高蒸気圧及び高粘度を有する。他方、ZnCl2を含有する塩は、それほど吸湿性でなく、溶融状態で低蒸気圧及び低粘度を有する。このため、ZnCl2を含有する塩の取扱いは、純ZnCl2を取り扱うよりも容易である。
【0019】
リアクタの操作はかなり簡潔である。最初の始動前に、溶融塩及びZn金属を所望のレベルまでリアクタに添加することが必要である。その後、SiCl4を添加する。SiCl4の還元は、バッチ式又は連続的に実行され得る。過剰なZnCl2の気化が生じる可能性があるため、溶融塩中のZnCl2濃度を高くし過ぎないようにすることが重要である。バッチ方式の操作では、添加されるSiCl4の量を制限してから溶融塩を除去する必要がある。生成されるシリコン金属は一定の間隔で除去される。リアクタ内のSi及び溶融塩のレベルによって、Si除去の間の最大時間が決まる。Siと共にZn及び溶融塩がいくらか除去される。これら成分は、好ましくは、例えばSiの蒸留によって回収されるべきである。Zn成分及び溶融塩成分は両方ともSiよりも極めて揮発性である。回収した溶融塩及びZnは、リアクタに戻すことができる。時々、このような材料の減少又は増大を受けて、Zn及び溶融塩を添加するか又はリアクタから取り出すことが必要とされ得る。常に、添加材料が、生成されるSiの汚染を起こさないような十分な純度を有することを確実にすべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクタ(5)における液体状態の亜鉛金属(Zn)による四塩化ケイ素(SiCl4)の還元により、高純度シリコン(Si)金属をバッチ式又は連続的に製造する方法であって、
Si及びZnに加えて、溶融塩及び該溶融塩に溶解されたZnCl2を含有する前記リアクタ(5)において、該ZnによるSiCl4の還元が起こることを特徴とする高純度シリコン(Si)金属をバッチ式又は連続的に製造する方法。
【請求項2】
SiCl4を、連続的又は半連続的に気体として又は液体として供給することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
SiCl4を、1つ又は複数のランスを介して前記液体Znに供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
SiCl4を、回転式ガス分散器を介して前記液体Znに供給することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
SiCl4を、複数の脱気孔を有する多岐管を介して前記液体Znに供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記生成されたSiをポンプ輸送によって除去することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記生成されたSiをグラビングによって機械的に除去することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
操作温度がZnの融点と標準沸点との間であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記溶融塩が、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属又はそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記還元反応によって生成される前記ZnCl2を含有する前記溶融塩を、溶融塩電解セルへの供給材料として用い、前記Zn金属を再生することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
リアクタにおける亜鉛金属による四塩化ケイ素(SiCl4)の還元により、高純度シリコン(Si)金属をバッチ式又は連続的に製造する装置であって、
Si及びZnに加えて、溶融塩及び該溶融塩に溶解されたZnCl2を含有する前記リアクタにおいて、該ZnによるSiCl4の還元が起こることを特徴とする高純度シリコン(Si)金属をバッチ式又は連続的に製造する装置。
【請求項12】
前記リアクタ及び/又は電解槽のライニングの材料が、50%を超えるSiO2を含有することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記リアクタ及び/又は電解槽のライニングの材料が、5%を超える窒化ケイ素を含有することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記リアクタ及び/又は電解槽のライニングの材料が、5%を超える炭化ケイ素を含有することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項15】
前記リアクタ及び/又は電解槽のライニングの材料が、5%を超えるグラファイト材料を含有することを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項16】
前記SiCl4用の供給装置がグラファイト材料から成ることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項17】
前記SiCl4用の供給装置がシリカベース材料から成ることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項18】
前記SiCl4用の供給装置が窒化ケイ素ベース材料から成ることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項19】
前記SiCl4用の供給装置が炭化ケイ素ベース材料から成ることを特徴とする請求項11に記載の装置。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2010−523454(P2010−523454A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502048(P2010−502048)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際出願番号】PCT/NO2008/000097
【国際公開番号】WO2008/120994
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(591237869)ノルスク・ヒドロ・アーエスアー (24)
【氏名又は名称原語表記】NORSK HYDRO ASA
【住所又は居所原語表記】0240 OSLO,NORWAY
【Fターム(参考)】