説明

高純度金属コバルトの製造方法と高純度金属コバルト

【課題】 スーパーアロイ用として十分な金属コバルト、具体的には水素品位は2ppm以下、酸素品位は40ppm以下、窒素品位2ppm以下の金属コバルトの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】 電気炉内に電気コバルトを積載し、電気コバルトを金属コバルト製カバーで囲った状態で電気コバルトのまわりにカーボン共存させ、酸素濃度100ppm以下の窒素ガスを5l/min以上、20l/min以下の割合で流しつつ、800〜1200℃で10〜15時間保持して焼きなますものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高純度コバルトの製造方法に関し、具体的には、水素、酸素および窒素品位の低い高純度コバルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用及び船舶用ガスタービンエンジンの高温部分において運転される単結晶部品の製造において使用するのに必要な特性の優れた組み合の合金として特許文献1に以下の組成のものが開示されている。
【0003】
即ち、重量パーセントで以下の元素を含むものに関する:約14.2〜約15.5%のクロム、約2.0〜約4.0%のコバルト、約0.30〜約0.45%のモリブデン、約4.0〜約5.0%のタングステン、約4.5〜約5.8%のタンタル、約0.05〜約0.25%のニオブ(columbium)、約3.2〜約3.6%のアルミニウム、約4.0〜約4.4%のチタニウム、約0.01〜約0.06%のハフニウム、及び残余量のニッケル及び付随的な不純物。
【0004】
このスーパーアロイは、当該特許文献1によれば、高温腐食に対する抵抗性、酸化に対する抵抗性、及びクリープ破断強さ高めようとしたものである。
【0005】
こうしたスーパーアロイ用として用いられる金属コバルトは高純度であることが求められるのは当然、ガス成分においても極めて低い品位であることが求められている。具体的な基準値は公開されていないものの、水素品位は2ppm以下、酸素品位は40ppm以下、窒素品位2ppm以下が必要と業界ではされている。
【0006】
高純度コバルトの製造方法については、特許文献2 特開平7−3486号公報、特許文献3 特開平11−193483号公報には、電解槽1、2、3を用いてコバルトの段階的に精製してターゲット材等に用いられるニッケル及び鉄等の不純物を最小限しか含まない5Nレベル以上の高純度コバルトの製造技術が開示されており、特許文献4 特開平8−127890号公報、特許文献5 特開平8−253888号公報、特許文献6 特開平9−227967公報、特許文献7 特開2002−105633号公報には高純度コバルトを得るために陰イオン交換樹脂を用いる製造技術が開示されており、特許文献8 特開平11−350179号公報には、陰極にアルミニウム板を用い、前記アルミニウム板に析出させて採取したコバルトを水酸化ナトリウム溶液で洗浄し、さらに酸で処理した後、水で洗浄するする高純度コバルトの製造方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、前記方法は何れも電解精製法により金属コバルトを得るものであり、こうして得られた金属コバルトには、よく知られているように水素が10ppm以上、酸素が100ppm以上、窒素が5ppm以上固溶している。
【特許文献1】特開平9−125177号公報
【特許文献2】特開平7−3486号公報
【特許文献3】特開平11−193483号公報
【特許文献4】特開平8−127890号公報
【特許文献5】特開平8−253888号公報
【特許文献6】特開平9−227967公報
【特許文献7】特開2002−105633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、その目的はスーパーアロイ用として十分な金属コバルト、具体的には水素品位は2ppm以下、酸素品位は40ppm以下、窒素品位2ppm以下の金属コバルトの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する本発明は、電気コバルトを適正な酸素濃度に保持した窒素ガス気流中で、800〜1200℃で10〜15時間保持して焼きなますものである。
好ましくは、前記発明に加えて窒素ガス流量を5l/min以上、20l/min以下とするものである。
また、本発明の別の態様は、前記発明に加えて電気コバルトを金属コバルト製カバーで囲った状態で焼きなますものである。
また。本発明の別の態様は、前記発明に加えて電気コバルトをカーボン共存下で焼きなますものである。
そして、本発明の別の態様は、前記の方法で製造されたことを特徴とする水素品位2ppm以下、酸素品位40ppm以下、窒素品位2ppm以下の高純度金属コバルトである。
【発明の効果】
【0010】
水素や酸素を多く含む電気コバルトを本発明の方法に従って処理すれば、得られる金属コバルトの表面を酸化させることなく、水素品位を2ppm以下、酸素品位を40ppm以下、窒素品位を2ppm以下とすることができる。本発明の方法は基本的にァニールのみに依るため、大きな特別の設備も必要とされず、簡便で安価であり、工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
電解生成で得られた金属、特にニッケルやコバルトでは水素品位や酸素品位が高く、焼きなますことにより水素品位や酸素品位を低減できることは知られているものの、具体的な条件とその条件により得られる結果は、過去示されてはいない。本発明者は、多くの検討の結果、スーパーアロイ用として最適な金属コバルトが得られる条件を見出したものである。
【0012】
本発明において酸素濃度100ppm以下の窒素ガス雰囲気を用いるのは、本条件の範囲内では、窒素は不活性であり金属コバルト表面を酸化しないためである。なお用いる窒素としては、工業用窒素あるいは窒素発生装置より得られた窒素を活性炭処理して酸素濃度を100ppm以下まで低減する。高純度窒素を用いれば、より酸素の低減が可能になり、好ましいがコストが上昇するという欠点はある。水素雰囲気を用いれば、金属コバルト中の窒素と酸素は低減できるものの、水素は大幅に増加させることになる。また、酸素雰囲気中で行えば、金属コバルト中の水素と窒素は低減できるものの、酸素が増大するばかりか、金属コバルト表面が酸化されてしまい。製品とならなくなる。
【0013】
800〜1200℃で10〜15時間保持という条件は、これより低い温度や短い時間では低減効果は不十分であり、これより高い温度や長い時間では、更なる低減効果が期待できないばかりか金属コバルトの表面が酸化される虞が増加するからである。
【0014】
好ましくは、電気コバルトを金属コバルト製のカバーで覆うが、こうすることによりより良い効果として、電気コバルト表面と窒素ガスが直接接触しないことで窒素ガス中の微量酸素による金属コバルト表面の酸化を抑制できることが期待できる。
【0015】
カーボンを共存させて熱処理をすると金属コバルトより放出された酸素および窒素ガス中の微量酸素が炭酸ガスとして安定化され、金属コバルトに戻らないため、より効率的に金属コバルト中の酸素を低減できる。
【0016】
以下実施例を用いて本発明を説明する。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
雰囲気調整可能な電気炉内に電気コバルト板を、電気コバルト製のカバーで覆って載置し、粒状活性炭を電気コバルト板の周囲に適当にばらまいた。次に酸素濃度100ppm以下の窒素ガスを用いてパージし、同窒素ガスを10l/minの割合で電気炉内に流しつつ1000℃で12時間保持した。
冷却後、電気コバルトの表面を観察したが、以上は見られなかった。しかし、表面のX線回折結果では、酸化コバルトの微弱なピークが得られた。また、水素品位と酸素品位と窒素品位を調べたところ、それぞれ2,31,1ppmであり、処理前の10,100,5ppmから大幅に低下していることがわかった。また、得られた金属コバルトはスーパーアロイ用として十分な品位のものであることがわかった。
【0018】
(実施例2〜5)
保持する温度を800℃(実施例2)、900℃(実施例3)、1100℃(実施例4)、1200℃(実施例5)とした以外は実施例1と同様にして電気コバルトを焼き鈍した。
冷却後、電気コバルトの表面を観察したが、異常は見られなかった。しかし、表面のX線回折結果では、実施例4,5では酸化コバルトの微弱なピークが得られたが実施例2,3では見られなかった。また、水素品位と酸素品位と窒素品位を調べたところ、それぞれ以下の表1のようになっており、処理前の10,100,5ppmから大幅に低下していることがわかった。また、得られた金属コバルトはスーパーアロイ用として十分な品位のものであることがわかった。
【0019】
【表1】

【0020】
(実施例6〜8)
保持する時間を10(実施例6)、13(実施例7)、15(実施例8)各時間とした以外は実施例1と同様にして電気コバルトを焼き鈍した。
冷却後、電気コバルトの表面を観察したが、異常は見られなかった。しかし、表面のX線回折結果では、何れの場合も酸化コバルトの微弱なピークが得られた。また、水素品位と酸素品位と窒素品位を調べたところ、それぞれ以下の表2のようになっており、処理前の10,100,5ppmから大幅に低下していることがわかった。また、得られた金属コバルトはスーパーアロイ用として十分な品位のものであることがわかった。
【0021】
【表2】

【0022】
(実施例9)
粒状活性炭をばらまかなかった以外は実施例1と同様にして電気コバルトを焼き鈍した。
冷却後、電気コバルトの表面を観察したが、異常は見られなかった。しかし、表面のX線回折結果では、酸化コバルトの微弱なピークが得られた。また、水素品位と酸素品位と窒素品位を調べたところ、それぞれ2,33,1ppmであり、処理前の10,100,5ppmから大幅に低下しているものの、実施例1より僅かに酸素品位が増加していることがわかった。得られた金属コバルトはスーパーアロイ用として十分な品位のものであることがわかった。
【0023】
(実施例10)
電気コバルト製のカバーで覆わない以外は実施例1と同様にして電気コバルトを焼き鈍した。
冷却後、電気コバルトの表面を観察したが、異常は見られなかった。しかし、表面のX線回折結果では、実施例1よりも強い酸化コバルトのピークが観察された。また、水素品位と酸素品位と窒素品位を調べたところ、それぞれ2,35,1ppmであり、処理前の10,100,5ppmから大幅に低下しているものの、実施例1より僅かに酸素品位が増加していることがわかった。得られた金属コバルトはスーパーアロイ用として十分な品位のものであることがわかった。
【0024】
(実施例11)
保持する温度を1200℃とした以外は実施例11と同様にして電気コバルトを焼き鈍した。
冷却後、電気コバルトの表面を観察したが、かすかに酸化されているように見られた。表面のX線回折結果でもは、実施例1よりも強い酸化コバルトのピークが観察された。また、水素品位と酸素品位と窒素品位を調べたところ、それぞれ2,39,1ppmであり、処理前の10,100,5ppmから低下しているものの、実施例1より酸素品位が増加し、スーパーアロイ用の限界値近くまで上昇していることがわかった。
として十分な品位のものであることがわかった。
【0025】
(実施例12〜15)
電気炉内に流入させる窒素の流入量を0(実施例12),5(実施例13),15(実施例14),20(実施例15)各l/minとした以外は実施例1と同様にして電気コバルトを焼き鈍した。
冷却後、電気コバルトの表面を観察したが、異常は見られなかった。しかし、表面のX線回折結果では、何れも酸化コバルトの微弱なピークが得られた。また、水素品位と酸素品位と窒素品位を調べたところ、それぞれ以下の表3のようになっており、実施例13〜15では、処理前の10,100,5ppmから大幅に低下していることがわかった。また、得られた金属コバルトはスーパーアロイ用として十分な品位のものであることがわかった。なお、実施例12は比較例に相当する。また、窒素流量を10l/minより多くしてもさほど効果の上昇は望めないことがわかった。
【0026】
【表3】

【0027】
(実施例16、17)
保持する温度を500℃(実施例16)、1300℃(実施例17)とした以外は実施例1と同様にして電気コバルトを焼き鈍した。
冷却後、電気コバルトの表面を観察したが、表面に異常は見られなかった。しかし、表面のX線回折結果では、実施例16では酸化コバルトの微弱なピークが、実施例17では酸化コバルトの弱いピークが見られた。なお、実施例17のものでは、僅かではあるが、歪みが発生していた。また、水素品位と酸素品位と窒素品位を調べたところ、それぞれ以下の表4のようになっており、実施例17は実施例1と同様であり、更なる高温での焼き鈍しの必要性は少ないことを示している。また、実施例16ではほとんど焼き鈍しの効果が期待できないことがわかる。また、実施例17で得られた金属コバルトはスーパーアロイ用として十分な品位のものであることがわかった。
【0028】
(実施例18、19)
保持時間を8時間(実施例18)、17時間(実施例19)とした以外は実施例1と同様にして電気コバルトを焼き鈍した。
冷却後、電気コバルトの表面を観察したが、表面に異常は見られなかった。しかし、表面のX線回折結果では、酸化コバルトの微弱なピークが見られた。また、水素品位と酸素品位と窒素品位を調べたところ、それぞれ以下の表4のようになっており、実施例19は実施例1と同様であり、更なる長時間での焼き鈍しの必要性は少ないことを示している。また、実施例19で得られた金属コバルトはスーパーアロイ用として十分な品位のものであることがわかった。
【0029】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気コバルトを酸素濃度100ppm以下の窒素ガス気流中で、800〜1200℃で10〜15時間保持して焼きなますことを特徴とする高純度金属コバルトの製造方法。
【請求項2】
窒素ガス流量を5l/min以上、20l/min以下とすることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
電気コバルトを金属コバルト製カバーで囲った状態で焼きなます請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
電気コバルトをカーボン共存下で焼きなます請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4記載の方法で製造されたことを特徴とする水素品位2ppm以下、酸素品位40ppm以下、窒素品位2ppm以下の高純度金属コバルト。