説明

高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法

【課題】
本発明は、例えば、腸疾患薬等の種々の医薬品の製造用中間体に有用な高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを簡便に得ることができる製造方法を提供することにある。
【解決手段】
例えば、4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸と塩素化剤とを反応させることにより得られる粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドから、ヘプタン、シクロヘキサン等のアルカンを用いて析出させることにより高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸疾患薬等の種々の医薬品の製造用中間体に有用な高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の医薬品等の製造用中間体として有用である4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法としては、例えば、4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸と塩化チオニルを反応させた後、ジクロロメタンで抽出する方法(特許文献1)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/089069号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法によると、各種の不純物が充分には除去されず、医薬品に求められる高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを得ることは困難である。特に、前記不純物の中でも4,4−tert−ブチルジフェニルスルホン、3−(4−tert−ブチルベンゼンスルホニル)−ベンゼンスルホニルクロライド等のジフェニルスルホン類は、一般に分離除去が容易ではないため、最終の医薬品等に不純物として残存してしまうおそれがある。またこれらのジフェニルスルホン類は、引き続き行われる医薬品等の製造工程において副反応を引き起こす場合があり、その結果、これらの多種にわたる副反応生成物が医薬品等に不純物として残存してしまうおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを簡便に得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示すとおりの、高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法に関する。
【0007】
項1:粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドから、アルカンを用いて析出させる高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法。
【0008】
項2:アルカンが、ヘプタンまたはシクロヘキサンである項1に記載の高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法。
【0009】
項3:4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸と塩素化剤とを反応させた後、アルカンを用いて析出させる高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、種々の医薬品の製造用中間体として有用である高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法に関する。
【0012】
本発明にかかる高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドは、粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドから、アルカンを用いて析出させることにより得ることができる。
【0013】
本発明おいて、粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドは、例えば、4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸と塩素化剤とを反応させて得られる反応液に含まれる。
【0014】
前記4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸は、公知の方法、例えばChemische Berichte,vol.23,(1890),p.2413記載の方法等によれば、比較的容易に製造することができる。具体的には、tert−ブチルベンゼンと濃硫酸またはクロロ硫酸とを反応させる製造方法等によって得ることができる。
【0015】
粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを得るために用いられる前記4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸は、tert−ブチルベンゼンと濃硫酸またはクロロ硫酸とを反応して得られる反応液から常法により単離したものを用いてもよいが、単離せず、当該反応液をそのまま前記塩素化剤との反応に用いてもよい。
【0016】
このようにして得られる4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸と反応させる塩素化剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、塩化チオニル、オキシ塩化リン、五塩化リン等が挙げられる。これらの中でも、経済的観点から、塩化チオニルが好ましい。
【0017】
前記塩素化剤の使用割合は、4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸1モルに対して、1〜10モルであることが好ましく、2〜4モルであることがより好ましい。塩素化剤の使用割合が、1モル未満である場合、収率が低下するおそれがあり、10モルを超える場合、添加量に見合う効果がなく経済的でない。
【0018】
前記反応に用いられる反応溶媒としては、アミド系溶媒が好ましく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチル−N−フェニルホルムアミド等を挙げることができる。これらの中でも、入手容易性及び経済的な観点等から、N,N−ジメチルホルムアミドであることが好ましい。
【0019】
前記反応溶媒の使用量は、4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸100重量部に対して、10〜2000重量部であることが好ましい。反応溶媒の使用量が、10重量部未満である場合、反応液の粘度が高く攪拌が不十分になるおそれがあり、2000重量部を超える場合、反応時間が長くなり添加量に見合う効果がなく経済的ではない。
【0020】
4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸と塩素化剤とを反応させる方法は、特に限定されないが、例えば、4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸に塩素化剤を添加し、保温しながら攪拌する方法等が挙げられる。
【0021】
4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸と塩素化剤とを反応させる反応温度は、特に限定されないが、通常20〜100℃である。また、反応時間は、反応温度により異なるが、通常1〜10時間である。
【0022】
本発明において、高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドは、かくして得られた粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドから、アルカンを用いて析出させることにより得ることができる。アルカンを用いて高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライド析出させる具体的方法としては、特に限定されないが、例えば、前記反応終了後の反応液をアルカンに添加し昇温後、分液した油層を冷却する方法、前記反応終了後の反応液から常法により単離したものをアルカンに加えて昇温し、溶解させた後、冷却する方法等が挙げられる。
【0023】
アルカンとしては、例えば、シクロペンタン、ペンタン、シクロヘプタン、ヘプタン、及びシクロヘキサン等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易さの観点から、ヘプタン、シクロヘキサンが好ましく、特に工業的生産においては静電気の蓄積が少ない等の利点から、ヘプタンがより好ましい。
【0024】
前記アルカンの使用量は、特に限定されるものではないが、塩素化剤との反応に用いた4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸100重量部に対して、50〜2000重量部であることが好ましく、50〜400重量部であることがより好ましい。
【0025】
なお、収率を上げる観点から、前記アルカンに代え、アルカンにさらに水を加えた混合液を用いてもよい。水の使用量としては、特に限定されるものではないが、塩素化剤との反応に用いた4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸100重量部に対して、5000重量部以下であることが好ましく、100〜1000重量部であることがより好ましい。
【0026】
また、析出させる際の冷却温度は、通常−20〜20℃であることが好ましく、−10〜10℃であることがより好ましい。冷却温度が−20℃未満の場合、それに見合う効果がなく、経済的でない。一方、20℃を超える場合、回収率が低下するおそれがある。冷却に要する時間は、通常、2〜10時間である。
【0027】
かくして得られた結晶を、濾過等により単離し、乾燥することにより、高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを得ることができる。
【0028】
なお、粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドが、前記tert−ブチルベンゼンと濃硫酸またはクロロ硫酸とを反応させる方法等により得られた4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸を単離せず、反応液のまま塩素化剤と反応させて得られた、不純物を比較的多く含む粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドであっても、同様に高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを簡便に得ることができる。
【0029】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これら実施例になんら限定されるものではない。
【0030】
実施例1
撹拌機、温度計、滴下ロート及び冷却管を備えた1000mL容の四つ口フラスコに、4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸214.3g(1.0モル)とN,N−ジメチルホルムアミド73gを仕込み、70℃に維持しながら塩化チオニル333.1g(2.8モル)を2時間かけて滴下し、同温度にて2時間攪拌することにより、粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを含む反応液を得た。この反応液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により分析した結果、面積百分率により、目的物の4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドが86.3%、副生物のジフェニルスルホン類が4.1%であった。
【0031】
前記反応液の全量を、ヘプタン400gと水700gの混合液に滴下し、滴下後40℃まで昇温した。その後、分液して得られた油層を2時間かけて0℃に冷却した。同温度を維持しながら、1時間攪拌した後、析出した結晶をろ過、乾燥して4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライド142.0gを得た。得られた高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドは、HPLCの面積百分率99.8%であり、副生物のジフェニルスルホン類は検出されなかった。また、高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの収率は4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸に対して61%であった。
【0032】
実施例2
撹拌機、温度計、滴下ロート及び冷却管を備えた1000mL容の四つ口フラスコに、tert−ブチルベンゼン134.2g(1.0モル)を仕込み、80℃に維持しながら98重量%硫酸150.1g(1.5モル)を2時間かけて滴下し、さらに同温度で8時間攪拌した。反応終了後、N,N−ジメチルホルムアミド73g滴下し、70℃に維持しながら塩化チオニル333.1g(2.8モル)を2時間かけて滴下し、同温度にて2時間攪拌することにより、粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを含む反応液を得た。この反応液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により分析した結果、面積百分率により、目的物の4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドが83.6%、副生物のジフェニルスルホン類が6.3%であった。
【0033】
前記反応液の全量を、ヘプタン400gと水700gの混合液に滴下し、滴下後40℃まで昇温した。その後、分液して得られた油層を2時間かけて0℃に冷却した。同温度を維持しながら、1時間攪拌した後、析出した結晶をろ過、乾燥して4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライド128.0gを得た。得られた高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドは、HPLCの面積百分率99.8%であり、副生物のジフェニルスルホン類は検出されなかった。また、高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの収率はtert−ブチルベンゼンに対して55%であった。
【0034】
実施例3
撹拌機、温度計、滴下ロート及び冷却管を備えた1000mL容の四つ口フラスコに、4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸214.3g(1.0モル)とN,N−ジメチルホルムアミド73gを仕込み、70℃に維持しながら塩化チオニル333.1g(2.8モル)を2時間かけて滴下し、同温度にて2時間攪拌することにより、粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドを含む反応液を得た。この反応液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により分析した結果、面積百分率により、目的物の4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドが86.3%、副生物のジフェニルスルホン類が4.1%であった。
前記反応液に水1000gとジクロロメタン500gを添加し、分液した油層より溶媒を蒸留除去して得られた粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライド210.0gを得た。HPLCの面積百分率88.9%であり、副生物のジフェニルスルホン類が4.2%であった。
【0035】
撹拌機、温度計、及び冷却管を備えた1000mL容の四つ口フラスコに、得られた粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの全量、ヘプタン400gを仕込み、40℃まで昇温した。その後、2時間かけて0℃に冷却した。同温度を維持しながら、1時間攪拌した後、析出した結晶をろ過、乾燥して4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライド128.0gを得た。得られた高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドは、HPLCの面積百分率99.8%であり、副生物のジフェニルスルホン類は検出されなかった。また、高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの収率はtert−ブチルベンゼンに対して55%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドから、アルカンを用いて析出させる高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法。
【請求項2】
アルカンが、ヘプタンまたはシクロヘキサンである請求項1に記載の高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法。
【請求項3】
4−tert−ブチルベンゼンスルホン酸と塩素化剤とを反応させた後、アルカンを用いて析出させる高純度4−tert−ブチルベンゼンスルホニルクロライドの製造方法。