説明

高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の製造方法

【解決手段】高級脂肪酸亜鉛を含み、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属が総量で0.01質量%以上0.12質量%以下である原料の加熱溶融物を冷却固化させることによって得られた高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体。
【効果】本発明の高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体は、従来の高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体より高い耐久性と高度な平滑性を有する高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体であり、静電複写機などの事務機の滑剤、研磨剤、クリーニング助剤、現像助剤などとして好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電複写機等の事務機やその他の精密機器等に滑剤、研磨剤、クリーニング助剤、現像助剤などとして用いられる高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、静電複写機等の事務機に、滑剤、研磨剤、クリーニング助剤、現像助剤などとして高級脂肪酸金属塩が用いられている。この高級脂肪酸金属塩は、最終的には粉状で使用されるが、供給方式として、予め高級脂肪酸金属塩をブロック化して、これをブラシ等で削り取り、必要箇所に供給する方式が実用化されている。
【0003】
上記の応用分野に関連する公知技術として、特開昭57−97572号公報(特許文献1)「電子写真複写機におけるクリーニング方法」があり、助剤組成物としては、特開昭57−73774号公報(特許文献2)「電子写真複写機用クリーニング助剤」がある。また、高級脂肪酸塩の製造方法としては、特許第2796486号公報(特許文献3)記載の溶融固化法、特許第3192371号公報(特許文献4)「金属石鹸ブロック成形用の圧入成形装置及び金属石鹸ブロック成形方法」、特許第3192391号公報(特許文献5)「金属石鹸ブロック成形用の圧入成形ライン及び金属石鹸ブロック成形方法」がある。
【0004】
しかしながら、いずれも原料物質の脂肪酸金属塩の性状については言及されておらず、得られた高級脂肪酸金属塩ブロック成形体にヒビ、欠け、突起、空隙等が認められ、成形体としての性能が十分得られない場合があった。特に、空隙が発生すると、使用中の削れにバラツキが発生し、品質が安定しない等の問題が発生する場合があった。そのため、ヒビ、欠け、突起、空隙等がなく、品質の安定した高級脂肪酸金属塩ブロック成形体の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−97572号公報
【特許文献2】特開昭57−73774号公報
【特許文献3】特許第2796486号公報
【特許文献4】特許第3192371号公報
【特許文献5】特許第3192391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、静電複写機などの事務機に良好に使用できる高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体であり、高い耐久性と高度な平滑性を有する高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来の高級脂肪酸金属塩において、前記した問題が起きる理由は、原料の高級脂肪酸金属塩の純度に着目しなかったことにあると考え、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、
(1)高級脂肪酸亜鉛、又は
(2)高級脂肪酸亜鉛:100質量部、及び周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属から選ばれる金属と、低級脂肪酸、高級脂肪酸及び無機炭酸から選ばれる酸との金属塩の少なくとも1種:金属が0質量部を超えて0.10質量部以下となる量を含有してなる組成物
であって、(1)の高級脂肪酸亜鉛又は(2)の組成物中、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属を総量で0.12質量%以下の濃度(即ち、0質量%を超えて0.12質量%以下)で含有するものを原料とし、これを加熱溶融し、金型に加熱溶融した原料を流し込むなどの方法により冷却固化させて成形体を得るという溶融固化法を用いて得た高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体が、高い耐久性と高度な平滑性を有する上述した従来の問題点を解決したものとなることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体及びその製造方法を提供する。
〔1〕 (A)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.01質量%以上0.12質量%以下である炭素数が8〜20の高級脂肪酸亜鉛の加熱溶融物を冷却固化させることによって得られたことを特徴とする高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体。
〔2〕 (A)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.12質量%以下である炭素数8〜20の高級脂肪酸亜鉛:100質量部、
(B)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属から選ばれる金属と、炭素数が7以下の低級脂肪酸、炭素数が8〜20の高級脂肪酸、及び無機炭酸から選ばれる酸との塩の少なくとも1種:金属が0質量部を超えて0.10質量部以下となる量
を含有してなり、かつ(A)成分及び(B)成分中の、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.01質量%以上0.12質量%以下である組成物の加熱溶融物を冷却固化させることによって得られたことを特徴とする高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体。
〔3〕 (A)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.01質量%以上0.12質量%以下である炭素数が8〜20の高級脂肪酸亜鉛を加熱溶融し、これを該高級脂肪酸亜鉛の融点以上に予熱された型内に溶融状態で注入し、これを冷却固化することを特徴とする高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の製造方法。
〔4〕 (A)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.12質量%以下である炭素数8〜20の高級脂肪酸亜鉛:100質量部、
(B)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属から選ばれる金属と、炭素数が7以下の低級脂肪酸、炭素数が8〜20の高級脂肪酸、及び無機炭酸から選ばれる酸との塩の少なくとも1種:金属が0質量部を超えて0.10質量部以下となる量
を含有してなり、かつ(A)成分及び(B)成分中の、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.01質量%以上0.12質量%以下である組成物を加熱溶融し、これを該組成物の融点以上に予熱された型内に溶融状態で注入し、これを冷却固化することを特徴とする高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体は、従来の高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体より高い耐久性と高度な平滑性を有する高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体であり、静電複写機などの事務機の滑剤、研磨剤、クリーニング助剤、現像助剤などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の態様の高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体は、(A)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0質量%を超えて0.12質量%以下である高級脂肪酸亜鉛の加熱溶融物を冷却固化させることによって得られたものである。また、本発明の第2の態様の高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体は、(A)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0質量%を超えて0.12質量%以下である高級脂肪酸亜鉛:100質量部、(B)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属から選ばれる金属と、低級脂肪酸、高級脂肪酸及び無機炭酸から選ばれる酸との金属塩の少なくとも1種:金属が0質量部を超えて0.10質量部以下となる量を含有してなり、かつ(A)成分及び(B)成分中の、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0質量%を超えて0.12質量%以下である組成物の加熱溶融物を冷却固化させることによって得られたものである。いずれの高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の場合も周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属を総量で0.12質量%以下の濃度(即ち、0質量%を超えて0.12質量%以下)で含有する。なお、本発明の高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の嵩比重は、通常1.090〜1.110である。
【0011】
本発明において、高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体は、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属から選ばれる1種以上、好ましくはナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウムから選ばれる1種以上の金属の総量が0.12質量%以下、特に0.10質量%以下であり、好ましくは0.0025質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、特に好ましくは0.01質量%以上である高級脂肪酸亜鉛を原料として使用する。第1の態様の場合は、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0質量%を超えるものを用いる。一方、第2の態様の場合は、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属を含まないもの(即ち、0質量%)であってもよい。
【0012】
そして、(A)成分の高級脂肪酸亜鉛、又は(A)成分の高級脂肪酸亜鉛と(B)成分の周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属から選ばれる金属、好ましくはナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウムから選ばれる1種以上の金属と、低級脂肪酸、高級脂肪酸及び無機炭酸から選ばれる酸との金属塩の少なくとも1種とを各々所定量含む組成物を加熱溶融し、金型に加熱溶融した原料を流し込むなどの方法により、例えば金型の一端から他端へ順次冷却することにより、冷却固化させて成形体を得る溶融固化法用いて得ることができる。
【0013】
原料中の周期律表第I族(第1A族)アルカリ金属及び周期律表第II族(第2A族)アルカリ土類金属の含有量を所定量とする理由は、原料中にアルカリ金属及びアルカリ土類金属が特定量を超えて含まれると、得られた高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の耐摩耗性が低下するだけでなく、ヒビ、割れ、突起等が発生しやすくなるためである。即ち、原料中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属が特定量を超えて含まれると、製品使用中の安定化が問題となるため、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量をその総量で0.12質量%以下、好ましくは0.10質量%以下とする必要がある。
【0014】
また、使用中の削れのバラツキをなくし、安定した品質の高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体を得るためには、原料にアルカリ金属又はアルカリ土類金属が含まれていることが必要であるが、原料中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量は、0.0025質量%以上、特に0.005質量%以上、とりわけ0.01質量%以上であることが好ましい。少なすぎると、成形体にヒビ、欠け、突起等が発生する場合がある。
【0015】
なお、原料中の高級脂肪酸亜鉛としては特に限定されないが、高級脂肪酸亜鉛を構成する高級脂肪酸の炭素数は8〜20、更には12〜18が好ましく、ミリスチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛等が好適に用いられる。また、高級脂肪酸亜鉛としては、粒状又は顆粒状にしたものを使用することができる。
【0016】
また、第2の態様では、(A)成分の高級脂肪酸亜鉛と、(B)周期律表第I族(第1A族)アルカリ金属及び周期律表第II族(第2A族)アルカリ土類金属から選ばれる金属と、低級脂肪酸、高級脂肪酸及び無機炭酸から選ばれる酸との金属塩の少なくとも1種とを含有し、(A)成分100質量部に対し、(B)成分を、金属が0質量部を超えて、好ましくは0.001質量部以上で、0.10質量部以下となる量で配合した組成物を用いる。この場合も、組成物全体において、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の濃度が、これら金属の総量で0.12質量%以下、特に0.10質量%以下であることが好ましく、また、0.0025質量%以上、特に0.005質量%以上、とりわけ0.01質量%以上であることが好ましい。
【0017】
(B)成分の金属塩は、その構成金属がアルカリ金属又はアルカリ土類金属であるが、(A)成分の高級脂肪酸亜鉛に含まれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属とは作用が異なり、(B)成分の金属塩を併用することにより、得られる高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の衝撃性を、より良好なものとすることができる。この金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0018】
低級脂肪酸の金属塩としては、特に限定されないが、炭素数が7以下、特に1〜3の脂肪酸の金属塩が好ましく、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムが好適に用いられる。また、高級脂肪酸の金属塩としては、特に限定されないが、炭素数が8〜30、特に10〜20、とりわけ12〜18が好ましく、好適にはステアリン酸ナトリウムが用いられる。更に、無機炭酸塩としては特に限定されないが、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが好適に用いられる。
【0019】
原料である高級脂肪酸亜鉛の調製法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。なお、ここでは例としてステアリン酸亜鉛について述べるがこの限りではない。まず、ステアリン酸(高級脂肪酸)を多量の水中で攪拌しながら、水酸化ナトリウム(水酸化物)1〜2当量を加えてステアリン酸ナトリウムとする。その後、更に、塩化亜鉛(塩化物)を少しずつ合計で1.5〜3当量添加し、ステアリン酸ナトリウムのナトリウムを亜鉛に置換し、ステアリン酸亜鉛を沈殿生成させる。その後、水洗を施す。水洗は、好ましくは10〜30℃程度の温度で、原料/水=1/5〜1/20割合で、10〜60分洗浄することがよい。その他の高級脂肪酸を用いる場合も同様に、高級脂肪酸の種類を変更して適宜製造することができる。
【0020】
次に、高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の製造方法を示す。本発明で使用する型は、使用時に高温になること、熱伝導性や強度が要求されることなどから、金属製の型(以後、単に金型と記す)を用いるとよい。金型の材質は加工性および熱伝導性が良く、取り扱いやすく、高級脂肪酸亜鉛に対して不活性で表面付着の少ないものが好ましく、Al製などのものを用いることが好ましい。
【0021】
高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の形状は、種々あり、それぞれの形状に合った空洞(キャビティ)を備える金型を用いる。例えば、直方体のブロック成形体の製造に金型を用いる場合、金型に製品に対応した寸法の直方体の空洞(キャビティ)を所望個数設けると共に、金型及び/又は金型を載置する台(熱伝導性のよい金属製のものが好ましい)に、ヒーター等の加熱機構及び/又は冷却機構(好ましくは水冷機構)を、必要に応じて成形時に金型に温度勾配をつけられるように設けることができる。金型は、2つ以上に分離する割型が好ましい。
【0022】
製造手順は、例えば以下のとおりとすることができる。まず、金型全体を予め高級脂肪酸亜鉛又は組成物の溶融温度以上に加熱しておき、120〜200℃にて溶融した高級脂肪酸亜鉛又は組成物を金型のキャビティに注ぎ込んで30分〜5時間程度加熱(120〜200℃)を続けた後、金型本体下部又は金型を積置する台に設けられた冷却機構(水冷等)により冷却を行い、これと並行して加熱を金型の下側より順に停止し、高級脂肪酸亜鉛の固化物を下部から徐々に積み上げながら形成する。例えば、まず、下部のヒーター電圧を徐々に下げて温度をゆっくりと低下させ、金型本体下部の温度の低下開始から一定時間後に中央部のヒーター、その後、更に上部のヒーターによる加熱を順次停止する方法を適用することができる。この場合、金型全体の温度が40℃以下になった後、金型を開いて成形体を取り出すことができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0024】
[実施例1]
ステアリン酸4.5gを30Lの水中で攪拌しながら、水酸化ナトリウムを1.2当量加えてステアリン酸ナトリウムとし、その後、更に、塩化亜鉛を少しずつ合計で1.5当量添加し、ステアリン酸亜鉛を得た。その後、水洗を水温20℃、ステアリン酸亜鉛/水=1/10の割合で、30分行った。得られたステアリン酸亜鉛(ステアリン酸亜鉛Aとする)のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の濃度を測定したところ、ナトリウムが0.05質量%であった。
【0025】
高級脂肪酸亜鉛中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の濃度は、試料として高級脂肪酸亜鉛1gを蒸留水10mlと濃塩酸3mlを加えて70〜80℃で加温溶解し、その後、放冷・ろ過して、ろ液中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属をICP発光分光光度計(IRIS Intrepid II XSP)にて定量することにより測定した。
【0026】
次に、厚手のアルミニウム板の片面に幅8mm、深さ8mm、長さ400mmの溝が10本設けられた金型10枚と、ヒーターを取り付けたアルミニウム製平板11枚とを両端が平板となるように交互に重ね合わせ、これらをボルトで締めて一体化して固定し、上記溝の長さ方向か上下方向となるように、水冷機構を備える金型載置台に載置した。
【0027】
この金型を160〜200℃に予め予熱し、別途溶融槽で180℃、3時間加熱溶融したステアリン酸亜鉛Aを流し込み、180℃で30分間保持した後、ヒーターへの通電を下部から上部へと順次切り、金型載置台の水冷機構に冷水を循環させた。全体の金型温度が40℃以下になるまで4時間冷却した後、金型を開いてステアリン酸亜鉛のブロック成形体を得た。
【0028】
得られたステアリン酸亜鉛ブロック成形体100本について確認したところ、ヒビが1%、欠けが1%発生したが、突起の発生はなかった。また、耐摩耗性を、以下の方法で評価したが、耐摩耗性も良好で、実用に十分耐え得るものであった。表1に結果を示す。
【0029】
<耐摩耗性>
新東科学社製ヘイドン14DRを使用して測定した。成形体より高さ8mm、幅8mm、長さ10mmのブロックを切り出し、酸化アルミニウム製のやすり(3M社製、品番AL202(50μm))を使用して、荷重100mN(100mm間を5往復、速度17mm/秒)にて8mm×8mm断面を摩耗させた。そのときの摩耗減量を100分率にて表した。このステアリン酸亜鉛ブロック成形体としては0.1〜0.3%が最適範囲である。
【0030】
[実施例2]
水洗を水温20℃、ステアリン酸亜鉛/水=1/15の割合で、30分行った以外は、実施例1と同様の方法でステアリン酸亜鉛を得た。得られたステアリン酸亜鉛(ステアリン酸亜鉛Bとする)のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の濃度を測定したところ、ナトリウムが0.01質量%であった。また、ステアリン酸亜鉛Bを用いて、実施例1と同様の方法でステアリン酸亜鉛ブロック成形体を得、これを評価した。表1に結果を示す。
【0031】
[実施例3]
水洗を水温20℃、ステアリン酸亜鉛/水=1/10の割合で、15分行った以外は、実施例1と同様の方法でステアリン酸亜鉛を得た。得られたステアリン酸亜鉛(ステアリン酸亜鉛Cとする)のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の濃度を測定したところ、ナトリウムが0.10質量%、マグネシウムが0.02質量%であった。また、ステアリン酸亜鉛Bを用いて、実施例1と同様の方法でステアリン酸亜鉛ブロック成形体を得、これを評価した。表1に結果を示す。
【0032】
[実施例4]
実施例2のステアリン酸亜鉛B100質量部にプロピオン酸ナトリウム0.06質量部(ナトリウムとして0.014質量部)混合し、組成物(Na合計0.024質量%)とした。この組成物を用いて、実施例1と同様の方法でステアリン酸亜鉛ブロック成形体を得、これを評価した。表1に結果を示す。
【0033】
[実施例5]
実施例2のステアリン酸亜鉛B100質量部にステアリン酸ナトリウム0.02質量部(ナトリウムとして0.002質量部)混合し、組成物(Na合計0.012質量%)とした。この組成物を用いて、実施例1と同様の方法でステアリン酸亜鉛ブロック成形体を得、これを評価した。表1に結果を示す。
【0034】
[実施例6]
実施例2のステアリン酸亜鉛B100質量部に炭酸水素ナトリウム0.06質量部(ナトリウムとして0.016質量部)混合し、組成物(Na合計0.026質量%)とした。この組成物を用いて、実施例1と同様の方法でステアリン酸亜鉛ブロック成形体を得、これを評価した。表1に結果を示す。
【0035】
[実施例7]
ステアリン酸をパルミチン酸に変更した以外は、実施例1と同様の方法でパルミチン酸亜鉛を得た。その後、実施例1と同様の条件で水洗を実施した。得られたパルミチン酸亜鉛のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の濃度を測定したところ、ナトリウムが0.07質量%であった。また、パルミチン酸亜鉛を用いて、実施例1と同様の方法でパルミチン酸亜鉛ブロック成形体を得、これを評価した。表1に結果を示す。
【0036】
[比較例1]
水洗を水温20℃、ステアリン酸亜鉛/水=1/4の割合で、10分行った以外は、実施例1と同様の方法でステアリン酸亜鉛を得た。得られたステアリン酸亜鉛(ステアリン酸亜鉛Dとする)のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の濃度を測定したところ、ナトリウムが0.13質量%であった。また、ステアリン酸亜鉛Dを用いて、実施例1と同様の方法でステアリン酸亜鉛ブロック成形体を得、これを評価した。表1に結果を示す。
【0037】
【表1】

【0038】
<ヒビ、欠け、突起合格基準>
ヒビ、突起:発生していないこと
欠け :長さ400mmの製品に対して、長さ5mm未満かつ高さ2mm未満であること
<収率>
ヒビ、欠け、突起発生品を除いた成形体の率を百分率で表示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.01質量%以上0.12質量%以下である炭素数が8〜20の高級脂肪酸亜鉛の加熱溶融物を冷却固化させることによって得られたことを特徴とする高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体。
【請求項2】
(A)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.12質量%以下である炭素数8〜20の高級脂肪酸亜鉛:100質量部、
(B)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属から選ばれる金属と、炭素数が7以下の低級脂肪酸、炭素数が8〜20の高級脂肪酸、及び無機炭酸から選ばれる酸との塩の少なくとも1種:金属が0質量部を超えて0.10質量部以下となる量
を含有してなり、かつ(A)成分及び(B)成分中の、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.01質量%以上0.12質量%以下である組成物の加熱溶融物を冷却固化させることによって得られたことを特徴とする高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体。
【請求項3】
(A)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.01質量%以上0.12質量%以下である炭素数が8〜20の高級脂肪酸亜鉛を加熱溶融し、これを該高級脂肪酸亜鉛の融点以上に予熱された型内に溶融状態で注入し、これを冷却固化することを特徴とする高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の製造方法。
【請求項4】
(A)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.12質量%以下である炭素数8〜20の高級脂肪酸亜鉛:100質量部、
(B)周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属から選ばれる金属と、炭素数が7以下の低級脂肪酸、炭素数が8〜20の高級脂肪酸、及び無機炭酸から選ばれる酸との塩の少なくとも1種:金属が0質量部を超えて0.10質量部以下となる量
を含有してなり、かつ(A)成分及び(B)成分中の、周期律表第I族アルカリ金属及び周期律表第II族アルカリ土類金属の総量が0.01質量%以上0.12質量%以下である組成物を加熱溶融し、これを該組成物の融点以上に予熱された型内に溶融状態で注入し、これを冷却固化することを特徴とする高級脂肪酸亜鉛ブロック成形体の製造方法。

【公開番号】特開2010−70552(P2010−70552A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211315(P2009−211315)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願2007−22632(P2007−22632)の分割
【原出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(594014328)株式会社シンコーモールド (5)
【Fターム(参考)】