説明

高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品

【課題】従来にない、著しく絶縁破壊強度の高い高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品を提供する。
【解決手段】樹脂成分として少なくともポリフェニレンエーテル系樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂成形品であって、IEC60243に準拠して、下記試験条件で測定された絶縁破壊強度が85kV/mm以上であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。
<試験条件>
電極:φ25mm円柱/φ25mm円柱
試料厚み:0.5mm
試験方法:短時間法
試験温度:23℃

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品に関する。詳しくは、絶縁破壊強度が著しく高く、イグニッションコイル等の高い絶縁性が要求される用途に有用な高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、耐熱性、電気特性、耐酸性、耐アルカリ性等に優れ、しかも低比重、低吸水性である等の優れた特性を有する樹脂であるが、溶融粘度が高いために成形加工性に劣り、耐衝撃性も劣るという欠点を有している。そこで、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、通常、その成形加工性や耐衝撃性の改良を目的として、各種の樹脂を配合した樹脂組成物として用いられており、配合樹脂として、スチレン系樹脂を用いたものが提供されている。
【0003】
このようなポリフェニレンエーテル系樹脂/スチレン系樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂のもつ電気特性、高耐熱性の特性を生かして、イグニッションコイル等の電気部品のコイルボビンの芯材等の成形材料として利用されている。
本出願人は、このようなイグニッションコイル用ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物として、先に(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂40〜90重量%と(B)スチレン系樹脂60〜10重量%の合計100重量部に対し、(C)強化充填材5〜50重量部、及び(D)フッ素樹脂0.1〜2重量部配合してなるイグニッションコイル部品用強化ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に係る発明を特許出願した(特許文献1)。
【0004】
電気部品、特にイグニッションコイル部品にあっては、高耐熱性、高機械的強度であることの他、絶縁破壊特性に優れることが必要とされ、特に絶縁破壊強度については、より一層の改善が望まれている。
しかしながら、特許文献1のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物等をはじめ、従来提供されているポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の絶縁破壊強度(IEC60243に準拠)は、高くても40kV/mmであり、更なる絶縁破壊強度の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−24889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、絶縁破壊強度が著しく高い高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、機械的強度や耐熱性の向上、更には着色を目的として、通常、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に配合されるガラス繊維や酸化チタン等の無機成分の配合量を少量とすることにより、或いはこれらの無機成分を全く配合しないことにより、従来にない著しく絶縁破壊強度の高いポリフェニレンエーテル系樹脂成形品を実現することができることを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであって、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 樹脂成分として少なくともポリフェニレンエーテル系樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂成形品であって、IEC60243に準拠して、下記試験条件で測定された絶縁破壊強度が85kV/mm以上であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。
<試験条件>
電極:φ25mm円柱/φ25mm円柱
試料厚み:0.5mm
試験方法:短時間法
試験温度:23℃
【0010】
[2] [1]において、前記樹脂成分以外の成分として、ガラス繊維、マイカ、タルク、及びワラストナイトよりなる群から選ばれる1種以上の無機充填材を含み、前記樹脂組成物中の該無機充填材の含有量が30重量%以下であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。
【0011】
[3] [1]又は[2]において、前記樹脂成分以外の成分として無機顔料を含み、前記樹脂組成物中の該無機顔料の含有量が2.5重量%以下であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。
【0012】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記樹脂成分としてポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系樹脂とを含み、樹脂成分中のポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が40〜90重量%でスチレン系樹脂の含有量が60〜10重量%であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。
【0013】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、イグニッションコイル用部品であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品は、絶縁破壊強度(IEC60243に準拠)が85kV/mmと著しく高く、高電圧下における絶縁性に優れる。本発明の高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品に用いる樹脂組成物は、樹脂組成物の配合成分及び、その配合量の調整により、このような著しく高い絶縁破壊強度を実現するものであり、絶縁破壊強度の向上のための特別な配合材料や特別な手段、特殊な設備を必要とせず、工業的に極めて有利である。
【0015】
このような本発明の高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品は、高電圧下における高い絶縁性が要求されるイグニッションコイル部品等の電気部品として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
[ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物]
本発明の樹脂成形品に用いるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物(以下、「本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物」と称す場合がある。)は、樹脂成分として少なくともポリフェニレンエーテル系樹脂、好ましくはポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系樹脂を含み、当該樹脂組成物からなる樹脂成形品の絶縁破壊強度(IEC60243に準拠)が85kV/mm以上であることを特徴とする。
【0018】
{ポリフェニレンエーテル系樹脂}
本発明に用いられるポリフェニレンエーテル系樹脂は、下記一般式(1)で示されるフェニレンエーテルユニットを主鎖に持つ重合体であって、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、2つのRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、2つのRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。ただし、2つのRが共に水素原子になることはない。)
【0021】
ホモポリマーとしては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル等の2,6−ジアルキルフェニレンエーテルの重合体が挙げられ、コポリマーとしては、各種2,6−ジアルキルフェノール/2,3,6−トリアルキルフェノール共重合体が挙げられる。
本発明に使用されるポリフェニレンエーテル系樹脂としては、特に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、2,6−ジメチルフェノール/2,3,6−トリメチルフェノール共重合体が好ましい。
【0022】
また、本発明で使用されるポリフェニレンエーテル系樹脂は、クロロホルム中、温度30℃で測定した固有粘度が0.2〜0.8dl/gであるものが好ましく、0.2〜0.7dl/gのものがより好ましく、0.25〜0.6dl/gのものが特に好ましい。固有粘度を0.2dl/g以上とすることにより、樹脂組成物の機械的強度の低下を防ぐことができ、0.8dl/g以下とすることにより、樹脂流動性が良好となり、成形加工が容易となる。なお、固有粘度の異なる2種以上のポリフェニレンエーテル系樹脂を混合して、この固有粘度の範囲としてもよい。
【0023】
本発明に使用されるポリフェニレンエーテル系樹脂の製造法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って、例えば、2,6−ジメチルフェノール等のモノマーをアミン銅触媒の存在下、酸化重合することにより製造することができ、その際、反応条件を選択することにより、固有粘度を所望の範囲に制御することができる。固有粘度の制御は、重合温度、重合時間、触媒量等の条件を選択することにより達成できる。
【0024】
本発明において、ポリフェニレンエーテル系樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0025】
{スチレン系樹脂}
本発明に用いられるスチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の重合体、スチレン系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体及びスチレン系グラフト共重合体等が挙げられる。
【0026】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。
スチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられ、これらの中でも、シアン化ビニル単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0027】
スチレン系単量体の重合体としては、例えば、ポリスチレン樹脂等が、スチレン系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体としては、例えば、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS樹脂)、水添スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SEBS)、水添スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SEPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体(AES樹脂)、スチレン・IPN型ゴム共重合体等が挙げられる。さらにシンジオタクティクポリスチレン等のように立体規則性を有するものであってもよい。
これらの中でも、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)が好ましい。
【0028】
このようなスチレン系樹脂の製造方法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法あるいは塊状重合法等の公知の方法が挙げられる。
【0029】
本発明において、スチレン系樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0030】
{樹脂成分}
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の樹脂成分は、好ましくはポリフェニレンエーテル系樹脂40〜90重量%、より好ましくは45〜80重量%、特に好ましくは50〜80重量%と、好ましくはスチレン系樹脂60〜10重量%、より好ましくは55〜20重量%、特に好ましくは50〜20重量%とを含むものである。樹脂成分中のポリフェニレンエーテル系樹脂を40重量%以上とすることにより、荷重撓み温度や機械的強度を優れたものとすることができ、ポリフェニレンエーテル系樹脂を90重量%以下とすることにより、樹脂組成物の流動性を良好に保ち成形加工が容易となるため、成形時の樹脂滞留劣化を起こすことなく、得られる成形品の性能を優れたものとすることができる。
【0031】
なお、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びスチレン系樹脂以外のその他の樹脂を配合することができる。その他の樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらのその他の樹脂の配合量は、樹脂成分中の50重量%以下であることが好ましく、45重量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明においては、樹脂組成物溶融混練時に目やにが発生する可能性がある場合は、その目やにを低減する目的で、上記のポリフェニレンエーテル系樹脂及びスチレン系樹脂以外のその他の樹脂の中でも、フッ素系樹脂を配合することが効果的である。
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン等のフッ素化ポリオレフィン等が挙げられ、好ましくはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体である。
【0033】
フッ素樹脂は、温度350℃おける溶融粘度が、1.0×10〜1.0×1015Pa・sのものが好ましく、1.0×10〜1.0×1014Pa・sのものがより好ましく、1.0×1010〜1.0×1012Pa・sのものが特に好ましい。溶融粘度を1.0×10Pa・s以上とすることにより、目やに防止効果を十分発揮することができ、1.0×1015Pa・s以下とすることにより、樹脂組成物の流動性を良好に保つことができる。
【0034】
フッ素樹脂の含有量は、樹脂成分中の0.1〜2重量%であることが好ましく、0.1〜1.5重量部であることがより好ましい。フッ素樹脂の含有量を0.1重量%以上とすることにより、目やに防止能を十分に発揮することができ、2重量%以下とすることにより、樹脂組成物製造時の押出安定性を良好に保ち、機械的強度の著しい低下を抑止することができる。
【0035】
{樹脂成分含有量}
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上述の樹脂成分の含有量が70重量%以上、特に75重量%以上であることが好ましい。樹脂組成物中の他の配合成分の種類によっても異なるが、樹脂組成物中の樹脂成分含有量が70重量%未満では、高い絶縁破壊強度を実現し得ない場合がある。
【0036】
即ち、本発明は、従来、機械的強度の向上のため必須成分として配合されていたガラス繊維や酸化チタン等の無機成分を、あえて配合せずに或いはその配合量を従来の一般的な配合量よりも少ないものとして、組成物中の樹脂成分含有量を70重量%以上、特に75重量%以上と、従来にない多量配合とすることにより、絶縁破壊強度が格段に向上することを見出すことにより達成されたものであり、絶縁破壊強度85kV/mm以上の本発明の高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品を実現するための一手段として、組成物中の樹脂成分含有量を70重量%以上、特に75重量%以上とすることは重要である。
【0037】
{樹脂成分以外の配合成分}
<好ましくない配合成分>
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物にあっては、通常、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に配合される成分であっても、得られる成形品の絶縁破壊強度85kV/mm以上を満たすためには、配合量を制限すべき、好ましくない配合成分が存在し、例えば、次のような配合成分については、その含有量を低く抑えるか或いは非含有とすることが好ましい。
【0038】
(無機充填材)
通常、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、その機械的強度及び寸法安定性の向上のために、ガラス繊維、マイカ、タルク、ワラストナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ミルドファイバー、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、窒化硼素、チタン酸カリウィスカー等の無機充填材が配合されるが、本発明において、絶縁破壊強度85kV/mm以上を実現するためには、これらの無機充填材の樹脂組成物中の含有量(2種以上含む場合にはその合計の含有量)は、30重量%以下、特に20重量%以下とすることが好ましく、本発明の樹脂組成物はこれらの無機充填材のうち、特にガラス繊維、マイカ、タルク、ワラストナイトについてはその合計で20重量%以下とするか、含まないことが好ましい。無機充填材の含有量が樹脂組成物中の30重量%を超える場合は、所望の絶縁破壊強度が得られない場合がある。
【0039】
(無機顔料)
ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、着色のために、酸化チタン等の酸化物、硫化亜鉛等の硫化物、硫酸バリウム等の硫酸塩、カーボンブラック等の無機顔料が配合される場合があるが、本発明において、絶縁破壊強度85kV/mm以上を実現するためには、これらの無機顔料の樹脂組成物中の含有量(2種以上含む場合にはその合計の含有量)は、2.5重量%以下、特に2.2重量%以下とすることが好ましく、本発明の樹脂組成物はこれらの無機顔料のうち、特に酸化チタン、硫化亜鉛、カーボンブラックについては合計で2.5重量%以下とすることが好ましい。
【0040】
<好ましい配合成分>
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物にあっては、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に通常配合される成分のうち、上記以外の成分、特に有機成分については、通常の配合量で使用することが可能であり、特に以下の成分については、本発明の目的を損なわない範囲で組成物中に含有させることができる。
【0041】
(熱安定剤)
本発明においては、樹脂組成物の製造及び成形工程における溶融混練時や高温雰囲気で使用時の熱安定性を向上させる目的で、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物等の熱安定剤を配合することが好ましい。
【0042】
熱安定剤としてのヒンダードフェノール系化合物の具体例としては、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリトール−テトラキス〔3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)等が挙げられる。これらの中で、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3’,5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカンが好ましい。
【0043】
熱安定剤としてのリン系化合物としては、例えば、ホスホナイト化合物、ホスファイト化合物を用いることが好ましい。
【0044】
ホスホナイト化合物としては、例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリメチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3−ジメチル−5−エチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチル−5−エチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられ、中でも、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
【0045】
ホスファイト化合物としては、例えば、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチル−フェニル)ブタン、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)等が挙げられ、中でも、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト等が好ましい。
【0046】
これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0047】
熱安定剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対し、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.05〜3重量部、さらに好ましくは0.05〜2重量部であって、樹脂組成物中の含有量として2重量%以下、特に1.5重量%以下とすることが好ましい。熱安定剤の配合量を上記下限以上とすることにより、熱安定剤としての効果を十分に発揮させることができ、上記上限以下とすることにより機械的強度の低下や成形時のモールドデボジット発生を抑止することができる。また、組成物中の熱安定剤の配合量を上記下限以上とすることにより、絶縁破壊強度85kV/mm以上の達成が容易となる。
【0048】
なお、熱安定剤としては、従来、酸化亜鉛が用いられる場合もあるが、本発明において、絶縁破壊強度85kV/mm以上の実現のために、酸化亜鉛は樹脂組成物中の含有量として0.3重量%以下とすることが好ましく、特に酸化亜鉛は非含有とすることが好ましい。
【0049】
(その他の有機系添加剤)
本発明の樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、上記成分のほか必要に応じて公知の有機系樹脂添加剤等を配合することもできる。このような添加剤としては、例えば、染料、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、触媒失活剤、滑剤、帯電防止剤、色調改良剤、発泡剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、耐衝撃改良剤等の有機系添加剤が挙げられる。これら他の有機系添加剤は、1種又は2種以上配合することができる。これらのその他の有機系添加剤は、その合計で樹脂組成物中に20重量%以下とすることが、絶縁破壊強度を高める上で好ましい。
【0050】
{製造方法}
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の製造方法は、特定の方法に限定されるものではないが、好ましくは溶融混練によるものであり、熱可塑性樹脂について一般に実用化されている混練方法が適用できる。例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン系樹脂、熱安定剤、及び必要に応じて用いられるその他の成分等を、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で混練することができる。各成分は混練機に一括でフィードしても、順次フィードしてもよく、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合したものを用いてもよい。
【0051】
混練温度と混練時間は、望まれる樹脂組成物や混練機の種類等の条件により、任意に選ぶことができるが、通常、混練温度は200〜350℃、好ましくは220〜320℃、混練時間は20分以下が好ましい。この温度が高過ぎると、ポリフェニレンエーテル系樹脂やスチレン系樹脂の熱劣化が問題となり、成形品の物性の低下や外観不良を生じることがある。また、200℃以上の温度で混練することにより、樹脂組成物を十分に混練することができ、無機充填材や無機顔料等の無機成分を配合する場合は、これらの成分の分散不良による物性の低下や着色むらを抑制することができる。
【0052】
{成形方法}
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、すなわち射出成形、射出圧縮成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形、プレス成形等の各種成形法によって成形することができる。特に好ましい成形方法は、流動性の観点から、射出成形法である。射出成形にあたっては、樹脂温度を、例えば、270〜320℃にコントロールするのが好ましい。
【0053】
[高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品]
本発明の高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品は、上記に詳説した樹脂組成物からなる成形品であって、その絶縁破壊強度(IEC60243に準拠)が85kV/mm以上であることを特徴とする。
【0054】
{絶縁破壊強度}
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる樹脂成形品の絶縁破壊強度は、IEC60243に準拠して、下記試験条件で測定された絶縁破壊強度である。
【0055】
<試験条件>
電極:φ25mm円柱/φ25mm円柱
試料厚み:0.5mm
試験方法:短時間法
試験温度:23℃
【0056】
試験には、例えば、ヤマヨ試験器(有)製 絶縁破壊試験装置「YST−243−100RHO」を使用することができる。この絶縁破壊強度は好ましくは90kV/mm以上であり、高い程好ましいが、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物としての絶縁性の限界として、通常、絶縁破壊強度の上限は110kV/mmである。
【0057】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂成形品は、著しく高い絶縁破壊強度を有し、耐熱性にも優れているため、例えば、イグニッションコイル部品等の高い絶縁性が要求される電気部品用材料として有用である。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
以下の実施例及び比較例の各樹脂組成物の調製に用いた原材料は次の通りである。
【0060】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE):ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「商品名:PX100L」、クロロホルム中で測定した30℃の固有粘度0.47dl/g
【0061】
スチレン系樹脂1:ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、PSジャパン社製「商品名:HT478」、分子量Mw200,000、MFR3.0g/10分
【0062】
スチレン系樹脂2:ポリスチレン(GPPS)、PSジャパン社製「商品名:HF77」、分子量Mw222,000、MFR8.0g/10分
【0063】
ガラス繊維:旭ファイバーグラス社製「商品名:CS03JA404」
【0064】
マイカ:山口雲母工業所社製「商品名:A−21B」
【0065】
熱安定剤1:リン系酸化防止剤(テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト)クラリアントジャパン社製「商品名:サンドスタブP−EPQ」
熱安定剤2:ヒンダードフェノール系老化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)住友化学社製「商品名:スミライザーBHT」
【0066】
カーボンブラック:レジノカラー工業社製「商品名:BLACK−SBF M8800」
酸化チタン:Millennium Inorganic Chemicals社製「商品名:TiONA RCL−69」
硫化亜鉛:SACHTLEBEN社製「商品名:サクトリスHD」
【0067】
[実施例1〜9及び比較例1〜11]
表1及び2に示す割合で原材料を秤量し、ガラス繊維(ガラス繊維を用いた場合)を除く原材料をタンブラーミキサーにて均一に混合した後、得られた原材料混合物にさらにガラス繊維(ガラス繊維を用いた場合)を加え、タンブラーにて均一に混合した。得られた原材料混合物は、二軸押出機(池貝社製「PCM30」、スクリュー径30mm、L/D=42)を用いて、シリンダー設定温度280℃、スクリュー回転数400rpmの条件にて溶融混練しペレット化した。混練に際し、上記混合した原材料は、ホッパーに一括して投入した。
【0068】
得られた樹脂組成物のペレットを120℃で4時間乾燥後、住友重機械工業社製SG125型射出成形機により、金型設定温度90℃、シリンダー設定温度300℃、射出圧力98MPa、成形サイクル40秒で下記評価用試験片を成形し、以下の(1),(2)の試験を実施した。
評価結果を表1及び2に示す。
【0069】
[評価方法]
(1)絶縁破壊強度:IEC60243に準じて以下の試験条件で行った。
<試験条件>
電極:φ25mm円柱/φ25mm円柱
試料厚み:0.5mm
試験方法:短時間法
試験温度:23℃
【0070】
(2)荷重撓み温度:負荷1.80MPaで、ISO75に準じて行った。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分として少なくともポリフェニレンエーテル系樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂成形品であって、IEC60243に準拠して、下記試験条件で測定された絶縁破壊強度が85kV/mm以上であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。
<試験条件>
電極:φ25mm円柱/φ25mm円柱
試料厚み:0.5mm
試験方法:短時間法
試験温度:23℃
【請求項2】
請求項1において、前記樹脂成分以外の成分として、ガラス繊維、マイカ、タルク、及びワラストナイトよりなる群から選ばれる1種以上の無機充填材を含み、前記樹脂組成物中の該無機充填材の含有量が30重量%以下であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記樹脂成分以外の成分として無機顔料を含み、前記樹脂組成物中の該無機顔料の含有量が2.5重量%以下であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記樹脂成分としてポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系樹脂とを含み、樹脂成分中のポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が40〜90重量%でスチレン系樹脂の含有量が60〜10重量%であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、イグニッションコイル用部品であることを特徴とする高絶縁性ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品。

【公開番号】特開2010−270277(P2010−270277A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125453(P2009−125453)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】