説明

高耐水性且つ大粒子のSAPO−34及びその合成方法並びにその用途

【課題】
水に対する特殊な取扱を必要としない耐水性を有し、なおかつ合成後の固液分離操作が容易となる大粒子径のSAPO−34を提供する。
【解決手段】
少なくともリン酸、アルコキシドを含まないアルミニウム源、シリカ源、テトラエチルアンモニウムイオン及び水を含み、なおかつP/Alモル比が1.1より小さい組成物を、180℃を超える温度、静置下で結晶化することにより、飽和水和耐久処理時におけるアンモニア昇温脱離法により測定される酸量が0.7mmol/g以上であり、且つ平均結晶径が1.0μm以上のSAPO−34を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒、吸着剤、イオン交換体などとして利用される高耐水性且つ大粒子のSAPO−34に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SAPO−34は、構造コードCHAで表されるシリコアルミノホスフェート系ゼオライトの一種である。
【0003】
SAPO−34は、メタノール、エタノール、ジメチルエーテルなどの低級の有機酸素化合物からエチレン、プロピレン等の低級オレフィンとする触媒、自動車排ガス中の窒素酸化物を浄化する触媒、軽質炭化水素の吸着分離剤などとして有用なゼオライトである。
【0004】
SAPO−34は、様々な有機系の構造指向剤を用いて合成されている。例えば、特許文献1ではテトラエチルアンモニウムイオンを構造指向剤としたSAPO−34が、特許文献2ではモルホリンを構造指向剤としたSAPO−34が報告されている。
【0005】
SAPO−34は、粒子径などの物性、および耐水性、耐熱性、耐熱水性などの耐久性、製造コストが用いる構造指向剤によって大きく異なることが知られている。
【0006】
例えば、テトラエチルアンモニウムイオンを構造指向剤として用いて合成したSAPO−34は、粒子径が小さいため合成後の固液分離が困難である(特許文献3)。そのためSAPO−34は遠心分離という効率の低い方法で分離操作が行われることが報告されている(特許文献4)。
【0007】
一方、構造指向剤としてモルホリンを用いることにより、粒子径が比較的大きいSAPO−34が得られることが報告されている(特許文献2)。しかし、その様な方法で得られたSAPO−34は耐水性が低く、構造指向剤の除去後の水和室温での保存において、2年で細孔のほとんどが消失することが報告されている(例えば非特許文献1)。また活性化されたSAPO−34では、水分含有環境下(20℃、相対湿度80%)において、僅か1日で触媒活性の損失が確認され、3日間の貯蔵後の触媒活性は0%となることが報告されている(特許文献5)。
【0008】
この様に、耐水性が低い従来のSAPO−34は、吸着した水分を除去(特許文献6)、水分との接触を極力避ける(特許文献7)、アンモニウム型として保存(非特許文献2)等、水による劣化に対して特殊な取扱が必要であった。
【0009】
さらにSAPO−34を触媒、吸着剤、イオン交換体として機能する際に最も重要な物性である酸点の量(酸量)は、表面積、細孔容積、X線回折強度等と比べてさらに耐久性が低いことが知られている。例えば、テトラエチルアンモニウムイオンを用いて合成したSAPO−34は、耐熱水性処理(900℃、相対湿度80%、16時間)において、表面積は90〜94%、細孔容積は81〜93%保持されるのに対して、酸量は40〜57%まで低下することが報告されている(特許文献8)。
【0010】
この様に、SAPO−34は触媒、吸着剤、イオン交換体としての用途が期待されているが、耐水性、耐熱水性に優れ、なおかつ固液分離性に優れた粒子径の大きいSAPO−34は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許1756359号(例33など)
【特許文献2】特許1811353号(実施例1など)
【特許文献3】特許4212287号([0003]欄)
【特許文献4】米国特許5095163(例1)
【特許文献5】特表2003−501406([0011]欄、実施例1,2など)
【特許文献6】特表2007−503375([課題][請求項1]など)
【特許文献7】世界特許2005000468号(要旨、請求項など)
【特許文献8】世界特許2008118434A1号(請求項、表1など)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.,99,8270−8276(1995)(要旨、表1、図12など)
【非特許文献2】Chemical Communication,44−45(2003)(要旨、図3など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、高い耐水性(室温及び熱水)を有し、なおかつ合成後の分離が容易な大きな粒子径の大きいSAPO−34を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、SAPO−34について鋭意検討を重ねた結果、少なくともリン酸、アルコキシドを含まないアルミニウム源、シリカ源、テトラエチルアンモニウムイオン及び水を含み、なおかつP/Alモル比が1.1より小さい組成物を、180℃を超える温度、静置下で結晶化することにより得られるSAPO−34は耐水性が高く、当該SAPO−34は飽和水和耐久処理時(例えば25℃、相対湿度80%、90日間処理後)のアンモニア昇温脱離法により測定される酸量が0.8mmol/g以上であり、且つ平均結晶径が1.0μm以上の大粒径であることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
以下、本発明のSAPO−34について説明する。
【0016】
本発明のSAPO−34は、アンモニア昇温脱離法により測定される酸量が飽和水和耐久処理時(例えば25℃、相対湿度80%、90日間処理後)において0.8mmol/g以上であり、特に1.0mmol/g以上が好ましく、更に1.2mmol/g以上が好ましい。酸量が0.8mmol/gより小さいと、触媒、吸着剤、イオン交換体としての特性が不十分であり、水に対する特殊な取扱いが必要となる。また、1年間の飽和水和耐久処理後の酸量が0.8mmol/g以上あることが好ましく、2年間の水蒸気処理後の酸量が0.8mmol/g以上あることが更に好ましい。
【0017】
本発明における飽和水和耐久処理時とは、脱気後のSAPO−34を25℃、相対湿度80%の雰囲気下で90日間保存処理後の状態をいう。25℃、相対湿度80%の雰囲気下は、硝子皿等に広げた脱気後のSAPO−34を恒温恒湿器、或いは塩化アンモニウムの飽和水溶液を浸したデシケータ内で処理する等の方法で実施できる。
【0018】
本発明のSAPO−34は、アンモニア昇温脱離法により測定される酸量が、熱水耐久処理時(例えば水蒸気を10体積%含有湿潤空気100mL/min流通、900℃、1時間)において0.7mmol/g以上であり、特に0.9mmol/g以上、さらに1.3mmol/g以上であることが好ましい。
【0019】
本発明における熱水耐久処理時とは、例えば試料を加圧成形後、粉砕して12〜20メッシュに整粒し、整粒した試料1ccを常圧固定床流通式反応管に充填し、水蒸気を10体積%含有した湿潤空気を100mL/minで流通させながら900℃まで昇温し、1時間保持した後の状態として実施できる。
【0020】
本発明のアンモニア昇温脱離法による酸量とは、100℃以下で吸着させたアンモニアを100℃から700℃への昇温で脱離したアンモニアの量から算出される酸量のことである。具体的には、0.1g程度の試料を500℃、不活性ガス(ヘリウム)中で吸着成分を除去し、不活性ガス(ヘリウム)90%、アンモニア10%の混合気体を25℃でアンモニアを飽和吸着させ、次に700℃まで昇温し、昇温の過程で脱離したアンモニア量(但し、25〜100℃の温度範囲で脱離するものを除く)を熱伝導度検出器にて定量することによって測定する。
【0021】
本発明のSAPO−34は平均結晶径が1.0μm以上、より好ましくは2.0μm以上、更に3.0μm以上より大きいことが好ましい。平均結晶径が1.0μm未満であると、合成後の固液分離し難く、耐水性に劣るものとなる。
【0022】
本発明における平均結晶径は、SEM写真において任意に選択した10個以上の結晶粒子を測った結晶径を加重平均することによって得られる平均結晶径をいう。
【0023】
本発明のSAPO−34のSi/Alのモル比は特に限定されないが、例えば0.2〜1.1が例示でき、0.4〜0.8が好ましい。その理由は、0.4より小さい又は0.8を超えると飽和水和耐久処理前から既に酸量が小さいからである。
【0024】
本発明のSAPO−34の交換イオンは特に限定されないが、触媒、吸着剤、イオン交換体としての用途においてはプロトンが好ましい。アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオンなどの他のイオンは耐久性向上効果があるが、プロトンと共存しても良い。但し、これらの共存イオンは酸量を低下させるので、交換量はプロトンよりも少なくすることが好ましい。
【0025】
次に本発明のSAPO−34の製造方法について説明する。
【0026】
本発明のSAPO−34の製造方法は、上記の物性を満足するSAPO−34が得られるものであれば特に限定されるものではないが、例えば少なくともリン酸、アルコキシドを含まないアルミニウム源、シリカ源、テトラエチルアンモニウムイオン及び水を含み、なおかつP/Alモル比が1.1より小さい組成物を、180℃を超える温度、静置下で結晶化することによって特に高品質のSAPO−34を製造することができる。
【0027】
リン酸としては、一般的な工業用リン酸を使用することができ、通常は75〜89%濃度のリン酸を使用することができる。
【0028】
アルミニウム源としては、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、アルミニウムイソプロポキシドが例示できる。特に、擬ベーマイト、水酸化アルミニウムが好ましい。アルミニウムイソプロポキシドなどのアルコキシドを含むアルミニウム源は、高価で、且つ合成系に対するイソプロピルアルコールなどのアルコール成分が結晶化時の圧力および反応に影響を与えるため好ましくない。
【0029】
シリカ源は特に限定はなく、例えばシリカゾル、沈降法シリカ、ゲル法シリカ、テトラエトキシシランなどが例示できる。シリカゾル、沈降法シリカが好ましい。テトラエトキシシランは、高価で、且つ合成系に対するエタノール成分が反応に影響を与えるため好ましくない。
【0030】
構造指向剤としてはテトラエチルアンモニウムイオンを用いる。その理由は、テトラエチルアンモニウムイオンを使用すると耐水性の高いSAPO−34が合成できるからである。テトラエチルアンモニウムイオンを含む原料としては、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミドなどが例示できる。
【0031】
さらに反応組成物の反応性、ハンドリングのために水を添加する。
【0032】
また、pHを調整するなどのために、ジプロピルアミンなどの構造指向剤としての影響がない各種アミンの添加が例示できる。
【0033】
本発明の方法で反応に用いる上記の組成物は、P/Alモル比は1.1未満であり、0.6から1.1未満が例示でき、さらに0.7以上0.9以下が好ましい。何故ならば、1.1以上、または0.6未満ではSAPO−34が生成し難く、0.6以上0.7未満ではアモルファスアルミナが副生し易い。また、1.0より小さい、更にP/Alモル比が0.7以上0.9以下であることにより結晶径が大きなSAPO−34が得られる。
【0034】
本発明の方法で反応に用いる上記の組成物の仕込のSi/Alモル比は特に限定はないが特に0.3から1.0、構造指向剤であるテトラエチルアンモニウムイオン/Al比は0.1から2.0、HO/Al比としては10から100が好ましい。
【0035】
本発明の方法では、上記の組成物を180℃を超える温度で結晶化する。
結晶化温度が高すぎると結晶化時の圧力が大きくなり特殊な反応釜が必要となるため、結晶化温度は220℃以下が好ましい。また、結晶化温度に昇温するまでの間は、温度の均一性を図るため攪拌又は回転しても良いが、結晶化温度に達した後は、粒子径を大きくするために攪拌又は回転を停止し静置下とすることが必要である。
【0036】
結晶化時間(結晶化温度に達してから静置する時間)は4〜240時間が好ましい。
【0037】
結晶化終了後、濾過等で固液分離を行い、純水で洗浄し、80〜200℃の任意の温度で乾燥して、構造指向剤を含んだSAPO−34が得られる。固液分離操作は、フィルタープレス、ベルトフィルター等のデッドエンド式の濾過が好ましい。
【0038】
得られたSAPO−34は構造指向剤を含んでいるため、構造指向剤(テトラエチルアンモニウムイオン)を取り除いて用いる。取り除く方法としては、窒素若しくは空気中での熱処理、又は塩酸若しくは硫酸などの酸との接触による処理が例示できる。特に、窒素若しくは空気中での熱処理が好ましい。熱処理の温度としては、500℃以上1200℃以下が好ましい。
【0039】
得られたSAPO−34は、そのままの状態、もしくはイオン交換及び/または金属担持により適宜修飾し、触媒、吸着剤、イオン交換体として利用することができる。
【0040】
本発明のSAPO−34は、特にディーゼル車等の内燃機関の排ガス浄化の際のアンモニア吸着剤としての利用が有用である。例えば、排ガス中の窒素酸化物を吸着してアンモニアに転化する部分と、触媒内で転化されたアンモニアを吸着して排気ガス中の窒素酸化物を窒素に浄化する部分を有する複合触媒の中で、高い耐水性、耐熱性、耐熱水性を持つアンモニア吸着剤として利用できる。
【発明の効果】
【0041】
触媒、吸着剤、イオン交換体などとして利用される高耐水性且つ大粒子のSAPO−34を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1で得られたSAPO−34のSEM写真
【図2】実施例2で得られたSAPO−34のSEM写真
【図3】実施例3で得られたSAPO−34のSEM写真
【図4】実施例3で得られたSAPO−34のSEM写真
【図5】実施例4で得られたSAPO−34のSEM写真
【図6】実施例4で得られたSAPO−34のSEM写真
【図7】比較例2で得られたSAPO−34のSEM写真
【図8】実施例1〜4のXRD図
【実施例】
【0043】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定される
ものではない。尚、実施例、比較例における各測定方法は、以下の通りである。各測定における試料は、何れも構造指向剤を熱処理して除去したSAPO−34である。
(平均結晶径)
試料をSEM観察・撮影し、SEM写真から任意の10個以上の結晶粒子を選択し、その径を平均して平均結晶径とした。
(平均粒子径)
試料に純水を加えて固形分1%のスラリーとし、超音波分散を2分間施した後にレーザー回折散乱法により粒子径分布測定(体積平均)を行い、平均粒子径(50%粒子径)を得た。
(アンモニア吸着量)
精秤した0.1g程度の試料を500℃、不活性ガス(ヘリウム)中で吸着成分を除去し、不活性ガス(ヘリウム)90%、アンモニア10%の混合気体を25℃でアンモニアを飽和吸着させ、次に700℃まで昇温し、昇温の過程で脱離したアンモニア量(但し、25〜100℃の温度範囲で脱離するものを除く)をTCD検出器にて定量し、別途測定した試料の固形分濃度で補正した試料量で割ったものを、酸量=アンモニア吸着量(単位:mmol/g)とした。
(飽和水和耐久処理)
試料を硝子皿に薄くした状態にし、塩化アンモニウムの飽和水溶液(相対湿度80%に相当)を浸したデシケータに硝子皿ごと入れた。それから、真空ポンプを用いて、水蒸気圧のみの圧力になるまでデシケータを脱気し、その後、デシケータを密閉した。そのままの状態で、25℃で90日間保持した。
(熱水耐久処理)
試料を加圧成形後、粉砕して12〜20メッシュに整粒した。整粒した試料1ccを常圧固定床流通式反応管に充填し、水蒸気を10体積%含有した湿潤空気を100mL/minで流通させながら900℃まで昇温し、1時間保持した。
【0044】
実施例1
擬ベーマイト(Al=74%)、85%リン酸、シリカ(シリカゾル)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)、純水を以下の仕込組成比の混合スラリー100gを調製した。
Al:1.0P:0.5SiO:2.0TEAOH:50H
混合スラリーをオートクレーブ中、室温から200℃まで攪拌下で約40分かけて昇温し、更に攪拌を止めて静置下で120時間保持し結晶化させた。結晶化後のスラリーは、濾過速度が遅いものの5C濾紙でデッドエンド式の効率の高い固液分離ができた。引き続き、5C濾紙で純水洗浄を行い、その後110℃で乾燥した。更に空気流通下、600℃で焼成することにより、構造指向剤のTEAOHを除去した。
【0045】
粉末X線回折によりSAPO−34に対応するX線ピークのみが観測され、Si/Al=0.44、P/Al=0.89であった。また、平均結晶径は1.1μmであった(図1参照)。
【0046】
酸量は、SAPO−34(以下、フレッシュ品)で1.48mmol/g、飽和水和耐久処理時(25℃,相対湿度80%,90日間)で1.43mmol/g、熱水耐久処理時(900℃,相対湿度10%,1時間)で1.31mmol/gであった。
【0047】
得られたSAPO−34は、飽和水和耐久処理時及び熱水耐久処理時のアンモニア吸着量、即ち酸量が大きいものであった。
【0048】
実施例2
擬ベーマイト(Al=74%)、85%リン酸、シリカ(シリカゾル)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)、純水を以下の仕込組成比の混合スラリー100gを調製した。
Al:1.0P:0.5SiO:1.0TEAOH:50H
混合スラリーをオートクレーブ中、室温から200℃まで攪拌下で約40分かけて昇温し、更に攪拌を止めて静置下で120時間保持し結晶化させた。結晶化後のスラリーは、濾過速度が若干遅いものの5C濾紙でデッドエンド式の効率の高い固液分離ができた。引き続き、5C濾紙で純水洗浄を行い、その後110℃で乾燥した。更に空気流通下、600℃で焼成することにより、構造指向剤のTEAOHを除去した。
【0049】
粉末X線回折においてSAPO−34に対応するX線ピークのみが観測され、組成分析ではSi/Al=1.03、P/Al=1.29であった。また、平均結晶径は1.2μmであった{図2参照(図1と同倍率)}。
【0050】
酸量は、フレッシュ品で0.88mmol/g、飽和水和耐久処理時(25℃,相対湿度80%,90日間)で0.85mmol/g、熱水耐久処理時(900℃,相対湿度10%,1時間)で0.73mmol/gであった。
【0051】
得られたSAPO−34は、飽和水和耐久処理時及び熱水耐久処理時のアンモニア吸着量、即ち酸量が大きいものであった。
【0052】
実施例3
擬ベーマイト(Al=74%)、85%リン酸、シリカ(シリカゾル)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)、純水を以下の仕込組成比の混合スラリー100gを調製した。
Al:0.88P:0.5SiO:2.0TEAOH:50H
混合スラリーをオートクレーブ中、室温から200℃まで攪拌下で約40分かけて昇温し、更に攪拌を止めて静置下で84時間保持し結晶化させた。結晶化後のスラリーは、5C濾紙でデッドエンド式の効率の高い固液分離ができた。濾過速度は速かった。引き続き、5C濾紙で純水洗浄を行い、その後110℃で乾燥した。更に空気流通下、600℃で焼成することにより、構造指向剤のTEAOHを除去した。
【0053】
粉末X線回折においてSAPO−34に対応するX線ピークのみが観測され、組成分析においてSi/Al=0.43、P/Al=0.79であった。また、平均結晶径は2.5μmであった{図3(図1の1/10倍率)及び図4(図1と同倍率)参照}。
【0054】
酸量は、フレッシュ品で1.22mmol/g、飽和水和耐久処理時(25℃,相対湿度80%,90日間)で1.20mmol/g、熱水耐久処理時(900℃,相対湿度10%,1時間)で0.95mmol/gであった。
【0055】
得られたSAPO−34は、飽和水和耐久処理時及び熱水耐久処理時のアンモニア吸着量、即ち酸量が大きいものであった。
【0056】
実施例4
擬ベーマイト(Al=74%)、85%リン酸、シリカ(シリカゾル)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)、純水を以下の仕込組成比の混合スラリー100gを調製した。
Al:0.75P:0.5SiO:2.0TEAOH:50H
混合スラリーをオートクレーブ中、室温から200℃まで攪拌下で約40分かけて昇温し、更に攪拌を止めて84時間保持し静置下で結晶化させた。結晶化後のスラリーは、5C濾紙でデッドエンド式の効率の高い固液分離ができた。濾過速度は速かった。引き続き、5C濾紙で純水洗浄を行い、その後110℃で乾燥した。更に空気流通下、600℃で焼成することにより、構造指向剤のTEAOHを除去した。
【0057】
粉末X線回折においてSAPO−34に対応するX線ピークのみが観測され、組成分析ではSi/Al=0.29、P/Al=0.47であった。また平均結晶径は3.8μmであった{図5(図1の1/10倍率)及び図6(図1と同倍率)参照}。
【0058】
酸量は、フレッシュ品で0.82mmol/g、飽和水和耐久処理時(25℃,相対湿度80%,90日間)で0.80mmol/gであった。
【0059】
本実施例のSAPO−34は、水蒸気処理後のアンモニア吸着量=酸量が大きいため、高い耐水性を持つアンモニア吸着剤として利用できる。
【0060】
比較例1
擬ベーマイト(Al=74%)、85%リン酸、シリカ(シリカゾル)、モルホリン、純水を以下の仕込組成比の混合スラリー100gを調製した。
Al:0.80P:0.6SiO:2.0モルホリン:50H
混合スラリーをオートクレーブ中、室温から200℃まで攪拌下で約40分かけて昇温し、更に攪拌を止めて静置下で26時間保持し結晶化させた。結晶化後のスラリーは、5C濾紙でデッドエンド式の効率の高い固液分離ができた。濾過速度は速かった。引き続き、5C濾紙で純水洗浄を行い、その後110℃で乾燥した。更に空気流通下、600℃で焼成することにより、構造指向剤のモルホリンを除去した。
【0061】
粉末X線回折ではSAPO−34に対応するX線ピークのみが観測され、組成分析ではSi/Al=0.46、P/Al=0.71であった平均結晶径は5.6μmであった。
【0062】
酸量は、フレッシュ品で1.38mmol/gと大きかったが、飽和水和耐久処理時(25℃,相対湿度80%,90日間)で0.19mmol/gと低いものであった。
【0063】
得られたSAPO−34は、平均結晶径は大きいが、飽和水和耐久処理時のアンモニア吸着量、即ち酸量が著しく小さいものであった。
【0064】
比較例2
擬ベーマイト(Al=74%)、85%リン酸、シリカ(シリカゾル)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)、純水を以下の仕込組成比の混合スラリー100gを調製した。
Al:1.00P:0.9SiO:2.0TEAOH:50H
混合スラリーをオートクレーブ中、攪拌下で約35分かけて室温から180℃まで昇温し、攪拌をし続けたままで120時間保持し結晶化させた。結晶化後のスラリーは、5C濾紙のデッドエンド式固液分離を試みたが、SAPO−34が濾紙を通過したため、分離できなかった。また、孔径0.025μmのニトロセルロース系フィルターを用いてデッドエンド式固液分離では分離できなかったため、遠心沈降器を用いて固液分離を行った。引き続き、純水添加と遠心沈降を繰り返すことにより純水洗浄を行い、その後110℃で乾燥した。更に空気流通下、600℃で焼成することにより、構造指向剤のTEAOHを除去した。
【0065】
粉末X線回折においてSAPO−34に対応するX線ピークのみが観測され、組成分析ではSi/Al=0.58、P/Al=0.73であった。また平均結晶径は0.28μmと小さいものであった{図7(図1と同倍率)参照}。
【0066】
酸量は、フレッシュ品で1.28mmol/g、飽和水和耐久処理時(25℃,相対湿度80%,90日間)で1.22mmol/gであり、熱水耐久処理時(900℃,相対湿度10%,1時間)では0.68mmol/gと急激に低下するものであった。
【0067】
実施例及び比較例で得られたSAPO−34の固液分離可能方法、組成分析、平均結晶径、平均結晶径、酸量(=アンモニア吸着量)を以下の表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
比較例1のSAPO−34は、平均結晶径は大きいが、低温での水和(飽和水和耐久処理時)によって既に酸量(=アンモニア吸着量)が大きく低下し、比較例2のSAPO−34は、室温における水和の影響は比較的小さいが、高温(熱水耐久処理時)における水の影響により、酸量(=アンモニア吸着量)が大きく低下するものであった。一方、実施例1〜4で得られたSAPO−34は、平均結晶径が大きいためにハンドリング性(ろ過性等)に優れ、なおかつ室温及び高温における水の影響による酸量(=アンモニア吸着量)の低下がないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のSAPO−34は、水(水蒸気)の存在する雰囲気で使用される触媒、吸着剤、イオン交換体などとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア昇温脱離法により測定される酸量が飽和水和耐久処理時において0.8mmol/g以上であり、且つ平均結晶径が1.0μm以上のSAPO−34。
【請求項2】
アンモニア昇温脱離法により測定される酸量が、熱水耐久処理時において0.7mmol/g以上である請求項1に記載のSAPO−34。
【請求項3】
少なくともリン酸、アルコキシドを含まないアルミニウム源、シリカ源、テトラエチルアンモニウムイオン及び水を含み、なおかつP/Alモル比が1.1未満の組成物を、180℃を超える温度、静置下で結晶化することを特徴とする請求項1又は2に記載のSAPO−34の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のSAPO−34を含有することを特徴とするアンモニア吸着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−280516(P2010−280516A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133104(P2009−133104)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】