説明

高親和性核酸フラグメント群の塩基配列決定方法および核酸アプタマーのスクリーニング方法

【課題】所望の核酸アプタマーを効率よくスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】標的分子と、複数種の候補核酸フラグメントを含む第一の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記候補核酸フラグメントとを接触させてこれらの複合体を形成させ、前記複合体を形成していない候補核酸フラグメントを除去し、その後、前記複合体から候補核酸フラグメントを解離させて、前記標的分子に対し高い親和性を有する候補核酸フラグメントが富化された第二の核酸混合物を分画し、前記第二の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメントを増幅し、増幅された候補核酸フラグメントを含む第三の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメント群の塩基配列を決定し、その結果に基づき、候補核酸フラグメントを再設計して新たな核酸混合物を調製し、これを用いて再度、親和性の高い候補核酸フラグメントのスクリーニングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高親和性核酸フラグメント群の塩基配列決定方法およびこれを利用した核酸アプタマーのスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の遺伝子機能解析により、構造遺伝子のみならず、非構造遺伝子領域に潜む配列が生体内における遺伝子機構において重要な役割を担っていることが次々に明らかにされてきている。特に、リボザイム、siRNAなどRNAに関する新たな研究成果にはめざましいものがある。バイオテクノロジーの分野においては、特異的な結合物質の検出は、新規な測定方法、医薬、薬物送達、創薬ターゲットの探索などの開発に大きく貢献する。そのため、上記のように核酸に関する新たな知見と相まって、特異的に所定の物質に結合するDNAやRNA、すなわち核酸アプタマーの探索が進められている。(核酸アプタマーに関する初期の研究段階では、核酸リガンドという用語も用いられており、これらはほぼ同様の意味で用いられる場合がある。)
【0003】
核酸アプタマーの探索方法としては、SELEX(Systematic Evolution of ligands by exponential enrichment)が知られている(例えば、特許文献1および2など)。この方法によると、標的とする生理活性部位を有する生体高分子材料に対し、ランダムな配列をもつ多数のオリゴヌクレオチドの混合物であるオリゴヌクレオチドライブラリを、標的とする物質に接触させる。そして、標的とする物質に対し親和性の高いオリゴヌクレオチドを選び出し、選び出されたオリゴヌクレオチドを増幅生産して、標的とする生理活性部位に対し特異的に結合するかどうかを確認する。
【0004】
【特許文献1】米国特許公報第5270163号
【特許文献2】特開平8−252100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、所望の核酸アプタマーを、より効率よくスクリーニングする新たな方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
SELEX法は、新規な核酸アプタマーを得る方法として定着しつつあるが、候補となる核酸フラグメント群全体の母集団(以下、「候補核酸フラグメントのライブラリー」という場合がある)中に、そもそも目的とする核酸フラグメントが含まれていない状況となることを避けるために、候補核酸フラグメントのライブラリーは巨大なものとせざるを得ないのが実情である。例えば、30塩基のランダム配列を含む候補核酸フラグメントは、計算上、430種(すなわち、1.15×1018種)の配列が可能である。ランダム配列部が大きくなればなるほど、幾何級数的に候補の数は増大することになる。このような膨大なライブラリーから、目的とする1つまたは数種の核酸アプタマーを見いだすためには、効率よくスクリーニングを行うことが求められる。
【0007】
本発明者らは、膨大なサイズを有するライブラリーを用いる場合、実は個々の候補核酸フラグメントが的確に選別を受けずにSELEX法が実施されている可能性に気づいた。一つには、膨大な数の異なる候補核酸フラグメントが限られた反応系内において均等に標的分子と接触し得る機会を得ているか疑問視された。また、核酸フラグメントを増幅させる工程を含む場合、その増幅には、しばしばPCR(Polymerase Chain Reaction)が用いられるが、PCRで良好に核酸フラグメントを増幅するためには、PCR装置に供することができる試料の量は少量とすることが要求される。現状においては、PCR装置に一度期に供することができる試料の容量はおよそ10〜100μl程度、試料中の核酸フラグメント濃度はおよそ10fM〜100pM程度にすることが好ましいとされている場合がある。このような容量と濃度に限定されることにより、標的分子に対して親和性が高い核酸フラグメントを含むライブラリーの中から実際に試験に供する試料を調製する過程で、真に目的とする核酸フラグメントが漏れてしまうおそれがある。すなわち、せっかく巨大なライブラリーを用意しても、実はその一部しか有効利用されていない可能性があると考えられた。さらに、仮に全ての種類を網羅するライブラリーをそのまま用いようとする場合、すべての候補核酸フラグメントについて機会均等に選別するには、塩基数が小さい核酸フラグメントのライブラリーに限定せざるを得ないことになる。
【0008】
本発明者らは、より効率の良い核酸アプタマーのスクリーニングを行うために、目的とする核酸アプタマーが含まれる確率が高い濃縮されたライブラリーを調製するという着想を得た。本発明は、標的分子に対し親和性の高い複数種の核酸フラグメント群の塩基配列決定方法およびこれを利用した核酸アプタマーのスクリーニング方法を提供するものである。
【0009】
〔1〕標的分子に対し親和性の高い複数種の核酸フラグメント群の塩基配列決定方法であって、
(a)前記標的分子と、複数種の候補核酸フラグメントを含む第一の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記候補核酸フラグメントとを接触させて、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体を形成させ、
(b)前記(a)の後、前記複合体を形成していない候補核酸フラグメントを除去し、
(c)前記(b)の除去後、前記複合体から候補核酸フラグメントを解離させて、前記標的分子に対し高い親和性を有する候補核酸フラグメントが富化された第二の核酸混合物を分画し、
(d)前記第二の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメントを増幅し、
(e)前記(d)で増幅された候補核酸フラグメントを含む第三の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメント群の塩基配列を決定する、
ことを含む塩基配列決定方法。
〔2〕前記(a)において、前記標的分子が標的捕捉分子に捕捉されており、当該捕捉された標的分子を前記候補核酸フラグメントと接触せしめて複合体を形成させる、上記〔1〕に記載の塩基配列決定方法。
〔3〕前記候補核酸フラグメントが、デオキシリボ核酸、あるいはリボ核酸である、上記〔1〕または〔2〕に記載の塩基配列決定方法。
〔4〕前記第三の核酸混合物を、更新された第一の核酸混合物として、前記(a)から(d)を繰り返す、上記〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の塩基配列決定方法。
〔5〕前記(a)から(d)を、5回以上、20回以下繰り返す、上記〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の塩基配列決定方法。
【0010】
〔6〕標的分子に対し親和性の高い核酸アプタマーのスクリーニング方法であって、
(a)前記標的分子と、複数種の候補核酸フラグメントを含む第一の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記候補核酸フラグメントとを接触させて、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体を形成させ、
(b)前記(a)の後、前記複合体を形成していない候補核酸フラグメントを除去し、
(c)前記(b)の除去後、前記複合体から候補核酸フラグメントを解離させて、前記標的分子に対し高い親和性を有する候補核酸フラグメントが富化された第二の核酸混合物を分画し、
(d)前記第二の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメントを増幅し、
(e)前記(d)で増幅された候補核酸フラグメントを含む第三の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメント群の塩基配列を決定し、
(f)前記(e)で得られる候補核酸フラグメント群の塩基配列情報を解析し、前記候補核酸フラグメント群において保存性の高い部位と保存性の低い部位とを特定し、
(g)前記保存性の高い部位に対応する定常配列部と、前記保存性の低い部位に対応するランダム配列部とを備える候補核酸フラグメントを設計し、前記定常配列部およびランダム配列部を有する複数種の候補核酸フラグメントを含む第四の核酸混合物を調製し、
(h)前記標的分子と、前記第四の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記第四の核酸混合物中の候補核酸フラグメントとを接触させて、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体を形成させ、
(i)前記(h)の後、前記複合体を形成していない候補核酸フラグメントを除去し、
(j)前記(i)の除去後、前記複合体から候補核酸フラグメントを解離させて、前記標的分子に対し親和性の高い候補核酸フラグメントが富化された第五の核酸混合物を分画し、
(k)前記第五の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメントを増幅し、
(l)増幅された候補核酸フラグメントの塩基配列を決定する、
ことを含む、核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔7〕前記(a)において、前記標的分子が標的捕捉分子に捕捉されており、当該捕捉された標的分子に前記候補核酸フラグメントを接触せしめて複合体を形成させる、上記〔6〕に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔8〕前記候補核酸フラグメントが、デオキシリボ核酸、あるいはリボ核酸である、上記〔6〕または〔7〕に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔9〕前記第三の核酸混合物を、更新された第一の核酸混合物として、前記(a)から(d)を繰り返す、上記〔6〕から〔8〕のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔10〕前記(a)から(d)を、5回以上、20回以下繰り返す、上記〔9〕に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔11〕前記第五の核酸混合物を、更新された第四の核酸混合物として、前記(h)から(j)を繰り返す、上記〔6〕から〔10〕のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔12〕前記(h)から(j)を、2回以上、15回以下繰り返す、上記〔11〕に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔13〕前記(f)において、1種の塩基が他の3種の塩基よりも1.5倍量以上検出される部位を、前記保存性の高い部位と認定し、その他の部位を保存性の低い部位と認定する、上記〔6〕から〔12〕のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔14〕前記(f)において、前記保存性の低い部位の塩基の数が、15以下となるまで、前記(a)から(d)を繰り返す、上記〔6〕から〔13〕のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔15〕前記(d)および/または(k)において、PCRにより候補核酸フラグメントを増幅する、上記〔6〕から〔14〕のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔16〕前記PCRに供される核酸混合物中の候補核酸フラグメントの濃度が、10fM以上、100pM以下である、上記〔15〕に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
〔17〕前記(k)の後、候補核酸フラグメントをクローニングし、単一種の候補核酸フラグメントを回収する、上記〔6〕から〔16〕のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、効率よく高親和性の核酸フラグメント群の塩基配列を特定することができる。得られた高親和性核酸フラグメント群の塩基配列情報を利用して、核酸アプタマーを効率よくスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明における生物化学的なあるいは遺伝子工学的な手法を実施するにあたっては、例えば、Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, 第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, New York (2001)、新遺伝子工学ハンドブック改訂第4版、村松ら編、羊土社(2003年)、タンパク質実験の進め方(岡田雅人、宮崎香編、羊土社、第1版、1998年)、タンパク質実験ノート(岡田雅人、宮崎香編、羊土社、第2版、1999年)などのような種々の実験マニュアルの記載が参照される。本明細書においては、特に断らない限り、配列番号は配列表中の配列番号を示す。
【0013】
本発明は、標的分子に対する親和性の高い核酸フラグメント群の塩基配列を決定する方法、およびこれを利用して所望の核酸アプタマーをスクリーニングする方法を提供するものである。本明細書において用いられる用語は、基本的に、化学分野、生命科学分野、遺伝子工学分野などにおける標準的な意味に従って用いられるが、以下、本発明をより明確に説明するために、本発明を説明するための用語の一部について説明する。
【0014】
本明細書において、核酸アプタマーとは、核酸分子であって、所定の標的分子に対する親和性が高く、特異的に結合し得る分子のことをいう。このような性質を有する核酸分子を核酸アプタマーといい、特に断らない限り、塩基配列、分子の大きさ、分子の立体構造などによって限定されるものではない。
【0015】
本明細書において、標的分子とは、核酸アプタマーを利用した検出方法などにおいて、検出の標的となる分子のことをいう。標的分子の化学種は特に制限されず、低分子化合物、高分子化合物、および生体由来物質など様々な化学種が含まれる。標的分子としてより具体的には、例えば、糖類、脂質類、オリゴペプチド、タンパク質、および核酸などが挙げられる。また標的分子の対象となり得る機能種としては、例えば、抗原、抗体、リガンド、受容体、相互作用タンパク質などが挙げられる。
【0016】
本明細書において、二つの物質について親和性が高いとは、二つの物質が選択的に一体となり複合体を形成しやすい性質を表す。
【0017】
本明細書において、候補核酸フラグメントとは、目的とする核酸アプタマーの候補である核酸のフラグメント(核酸断片)のことをいう。特に断らない限り、用語としてフラグメントの大きさに特に制限はないが、その大きさの目安としては、塩基配列で2〜10000bp程度である。また、本明細書において、核酸には、DNA、RNA、DNA−RNAキメラ核酸などが含まれる。また、核酸は、一本鎖、二本鎖であり得る。
【0018】
本明細書において、核酸フラグメントを増幅するとは、同じ塩基配列および/またはこれと相補的な配列を有する核酸フラグメントを複製することを意味する。
【0019】
本明細書において、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体とは、標的分子と候補核酸フラグメントとが結びついて形成される複合体のことをいう。以下、本明細書においては、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体を、標的分子−候補核酸フラグメント複合体と表記する場合がある。当該複合体は、標的分子および標的捕捉分子が一体を形成していればよく、その結合様式に限定されるものではない。すなわち、標的分子と候補核酸フラグメントとの結合は、共有結合、イオン結合、水素結合、電気的な吸着などの化学的結合の他、形状依存的な係合などの物理的な結合も含まれる。また、標的分子と候補核酸フラグメントとが接触する反応系において、化学平衡の見地から、分子同士が結合と解離を繰り返していてもよく、標的分子−候補核酸フラグメント複合体が形成されるという場合、化学平衡的および生物化学的の見地から、当該複合体が有意に生じ得る状態を含む。
【0020】
本明細書において、標的捕捉分子とは、標的分子と特異的に結合し得る分子のことをいう。標的捕捉分子の化学種は制限されず、低分子化合物、高分子化合物、および生体由来物質など様々な化学種が含まれる。また、標的分子をどのような作用機序により捕捉するかも限定されない。また、ここでいう特異的に結合とは、特定の分子と分子とが高い選択性または親和性をもって結合することを意味する。また、標的捕捉分子と標的分子との特異的結合は、その結合様式には限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、電気的な吸着などの化学的な結合、および形状依存的な係合などの物理的な結合などが含まれる。標的捕捉分子としては、例えば、抗原、抗体、リガンド、受容体、相互作用タンパク質などが挙げられる。
【0021】
本明細書において、標的分子と標的捕捉分子との複合体とは、標的分子と標的捕捉分子とが結びついて形成される複合体のことをいう。以下、本明細書においては、標的分子−標的捕捉分子複合体と表記する場合がある。当該複合体は、標的分子および標的捕捉分子が一体を形成していればよく、その結合様式に限定されるものではない。すなわち、標的分子と標的捕捉分子との結合は、共有結合、イオン結合、水素結合、電気的な吸着などの化学的結合の他、形状依存的な係合などの物理的な結合も含まれる。また、標的分子と標的捕捉分子とが接触する反応系において、化学平衡の見地から、分子同士が結合と解離を繰り返していてもよく、標的分子−標的捕捉分子複合体が形成されるという場合、化学平衡的および生物化学的の見地から、当該複合体が有意に生じ得る状態を含む。
【0022】
本明細書において、候補核酸フラグメントと標的分子と標的捕捉分子との複合体とは、標的捕捉分子に捕捉された標的分子と標的捕捉分子と、候補核酸フラグメントが結びついて形成される複合体のことをいう。以下、本明細書においては、候補核酸フラグメント−標的分子−標的捕捉分子複合体と表記する場合がある。なお、この表記は、候補核酸フラグメントと標的分子と標的捕捉分子との結合の順序等を限定するものではなく、単にこれら3因子の複合体であることを表す。また、当該複合体は、これら3つの因子が一体を形成していればよく、その結合様式に限定されるものではない。すなわち、これら3因子の結合は、共有結合、イオン結合、水素結合、電気的な吸着などの化学的結合の他、形状依存的な係合などの物理的な結合も含まれる。また、標的分子と標的捕捉分子とが接触する反応系において、化学平衡の見地から、分子同士が結合と解離を繰り返していてもよく、候補核酸フラグメント−標的分子−標的捕捉分子複合体が形成されるという場合、化学平衡的および生物化学的の見地から、当該複合体が有意に生じ得る状態を含む。
【0023】
本明細書において、反応系とは、化学種が化学的な反応を生じる系全体のことをいう。本件発明に関連しては、例えば、標的分子と標的捕捉分子とから標的分子−標的捕捉分子複合体が形成される反応系、標的分子−標的捕捉分子複合体と候補核酸フラグメントとの複合体が形成される反応系、これらの複合体からその構成分子が分離する反応系、核酸が増幅される反応系などが挙げられる。
【0024】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明のスクリーニング方法は、本発明の高親和性核酸フラグメント群の塩基配列を決定する方法を主要部として共有し、通常、高親和性核酸フラグメント群の塩基配列決定操作に引き続き、その結果を利用してさらに候補核酸フラグメントを絞り込む工程群へと進行する。そこで、先に本発明の高親和性核酸フラグメントの塩基配列決定方法の実施形態について詳説し、続いて本発明の核酸アプタマーのスクリーニング方法の実施形態について説明する。
【0025】
1.本発明の塩基配列決定方法
本発明の第1の実施形態について、図1から図6を参照しつつ説明する。第1の実施形態においては、次の(1a)から(1e)の工程を含む。
(1a)前記標的分子と、複数種の候補核酸フラグメントを含む第一の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記候補核酸フラグメントとを接触させて、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体を形成させる、接触工程。
(1b)前記(1a)の後、前記複合体を形成していない候補核酸フラグメントを除去する、洗浄工程。
(1c)前記(1b)の除去後、前記複合体から候補核酸フラグメントを解離させて、前記標的分子に対し高い親和性を有する候補核酸フラグメントが富化された第二の核酸混合物を分画する工程。
(1d)前記第二の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメントを増幅する工程。
(1e)前記(1d)で増幅された候補核酸フラグメントを含む第三の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメント群の塩基配列を決定する工程。
【0026】
第1の実施形態では、複数の候補核酸フラグメントについて親和性の高い核酸フラグメントが富化された核酸混合物を調製し、複数の候補核酸フラグメントが含まれた状態のまま、塩基配列を分析する。このように複数種の候補核酸フラグメントの混合物のままの試料について塩基配列分析を行うことにより、所定の標的分子に対し親和性が高い核酸フラグメントに共通する配列を探索し得る。また、ポリクローナル抗体で免疫染色をすることができるのと同様に、第1の実施形態により得られる複数種の核酸フラグメントの集合物は、親和性を利用した目的物質の検出などの試験に用い得る。
【0027】
(1a)の接触工程では、前記標的分子と、複数種の候補核酸フラグメントを含む第一の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記候補核酸フラグメントとを接触させて、標的分子−候補核酸フラグメント複合体を形成させる。(1a)の接触工程により、複数種の候補核酸フラグメントのうちのいくつかが標的分子と結合し複合体に結合することが期待される。
【0028】
候補核酸フラグメントと標的分子との結合様式は、所定の条件下で候補核酸フラグメントと、標的分子または標的分子を含む複合体とが安定的に一体をなすように結びつく様式を広く含む。候補核酸フラグメントは後の工程に洗浄と分画が予定されるので、洗浄工程において候補核酸フラグメントが遊離せず、分画工程においては遊離して、分画容易な結合様式であることが好適である。核酸フラグメントは、温度条件やpH条件などにより容易に形状、性状が変化し得るので、これらの諸条件を調製することにより、好適な結合条件を設定し得る。
【0029】
候補核酸フラグメントは、標的分子に対して親和性の高い分子の候補である。標的分子に対して親和性の高い分子とは、標的分子に対して吸着しやすい分子、好ましくは特異的に結合する分子である。相互に接触しやすく、容易に結合し、結合した後容易には解離しにくい分子同士ほど親和性が高い傾向を示す可能性が高い。
【0030】
候補核酸フラグメントの核酸の種類、大きさ、およびその配列設計などは、結合標的となる標的分子(標的捕捉分子を用いる場合は、標的分子−標的捕捉分子複合体)の種類や、得ようとする核酸アプタマーの目的、例えば、医薬、薬物送達材料、および測定方法における標的検出分子など、に応じて適宜設計してよい。
【0031】
核酸としては、DNA(デオキシリボ核酸)、RNA(リボ核酸)およびDNA−RNAキメラ核酸などが挙げられる。例えば、医薬や薬物送達目的であって、体内での分解性を重視する核酸アプタマーを探索する場合には、化学的に分解しやすいRNAを好ましい対象とし得る。他方、測定方法における標的検出分子としては、測定実験系における安定性が要求される場合があるので、化学的により安定した分子であるDNAを好ましい対象とし得る。また、候補核酸フラグメントは一本鎖であっても、二本鎖であってもよい。新規な核酸アプタマーを発見し得る確率としては、一本鎖のほうが高いものと推測される。
【0032】
(1a)の接触工程では、複数種の候補核酸フラグメントを含む第一の核酸混合物が用いられる。候補核酸フラグメントの種類は、主として、塩基配列の違いとして区別される。候補核酸フラグメントの種類の多さは適宜設計してよい。新規な核酸アプタマーの検出方法としては、ランダムな配列を有する多数種の核酸フラグメントを調製することが好適である。塩基の種類は、DNAの場合、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の4種であるから、例えば20塩基のランダム配列を有する核酸フラグメントの種類としては、計算上、420種の候補核酸フラグメントを調製し得る。母集団としての種類が多いほど、計算上、新規な核酸アプタマーが見つかる可能性は高まると推測される。他方、実地に実験操作を行う観点から、効率よく新規な核酸アプタマーを見いだすために、母集団をある程度絞り込んでもよい。例えば、標的分子、標的捕捉分子およびこれらの複合体についての知見などに基づき、予め設計された定常配列とランダム配列とを有する候補核酸フラグメントを設計してもよい。このように何らかの配列情報に基づいて、ある程度候補核酸フラグメントの配列の種類を絞り込み得る。また、第1の実施形態で得られる結果から定常配列部を設計することもできる。この形態については、下記第2の実施形態中において、さらに別途詳説する。
【0033】
また、第1の実施形態において、後に核酸フラグメントを増幅する工程が設けられている。増幅工程では、PCR(Polymerase Chain Reaction)を好適に用い得る。そのため、候補核酸フラグメントの好ましい一形態としては、PCRによる増幅を容易に行うように設計された核酸フラグメントが挙げられる。より具体的には、例えば、第一プライマー対応部、ランダム配列部、および第二プライマー対応部を備える核酸フラグメントが挙げられる。第一プライマー対応部および第二プライマー対応部がそれぞれPCRにおけるプライマーが相補的に結合し得る領域となる。プライマー対応部の配列は、PCRの条件設定に応じて適宜設計し得る。両プライマー対応部にランダム配列部が狭持されており、PCRによって増幅され得る。ランダム配列部は、上記のように、候補核酸フラグメントの多様性をもたらす領域である。ランダム配列部は、例えば、ランダム配列となるように既知の核酸合成法に従って調製し得る。また、ランダム配列の他の調製方法としては、所定の生物に存在するゲノムDNAを多数の酵素群などを用いて断片化し、核酸フラグメントの混合物としてもよい。プライマー対応部とランダム配列とは、リガーゼ、ポリメラーゼ等によりライゲーションを行い結合させ得る。また、プライマー対応部とランダム配列部位とを備える1本差の核酸を各塩基単位で付加して合成してもよい。
【0034】
上記の所見に基づき、図2に、候補核酸フラグメントの配列設計の一例を示す。図2に示すフラグメントでは、1対のプライマー対応部P1およびP2と、プライマー対応部P1およびP2に狭持されたランダム配列部RS1を備えている。ランダム配列部RS1は、標的分子に対する親和性を検定する実質的な部位に相当し、4種類の塩基のランダムな配列を有する。プライマー対応部P1およびP2は、PCR時に相補的なプライマーと結合する部位である。プライマー対応部の大きさはPCRの条件に応じ適宜設定され得る。他方、ランダム配列部RS1の大きさは、予測される所望の核酸アプタマーを想定して調整してよく、例えば10塩基以上、220塩基以下であり、好ましくは、20塩基以上、100塩基以下である。上記のような範囲の大きさの核酸フラグメントに、多数種の核酸アプタマーが潜在的に存在し得るものと推定される。また、上記のような下限以上とすることで、標的分子(または標的分子−標的捕捉分子複合体)との結合と解離を安定的に繰り返しやすい分子を得やすい。また上記のような上限以下とすることにより、取り扱いが容易である。(1a)の接触工程で用いられる第一の核酸混合物として、ランダム配列部RS1の塩基配列が異なる多数種の核酸フラグメントの混合物が調製される。
【0035】
(1a)接触工程(予備的なものを含む)において用いられる反応溶液としては、候補核酸フラグメント、標的分子、および標的捕捉分子などの主要な因子の性状に実質的な障害を与えず、反応溶液中で自由運動的に分子同士がランダムに接触し得る場を提供するものが好適に用いられる。反応溶液の具体的組成は、候補核酸フラグメント、標的分子、標的捕捉分子の種類に応じて適宜設計してよい。核酸、オリゴペプチド、タンパク質などの生体材料を扱う観点からは、例えば、所定のpHに調製された緩衝水溶液などを好適に用い得る。
【0036】
(1b)の洗浄工程では、B/F(Bound/Free)分離を行う。具体的には、上記(1a)の接触工程後、標的分子(または標的分子−標的捕捉分子複合体)と複合体を形成していない候補核酸フラグメントを、洗浄溶液で洗浄して、反応系内から除去する。(1b)の洗浄工程により、初期の候補核酸フラグメントの混合物の中から、最終的な目的の核酸フラグメント以外の多くの候補核酸フラグメントを除外することができる。
【0037】
(1b)の洗浄工程で用いる洗浄溶液としては、標的分子−候補核酸フラグメント複合体(または候補核酸フラグメント−標的分子−標的捕捉分子複合体)を分解せず、余剰な候補核酸フラグメントを反応系から洗い流し得る溶液を用い得る。洗浄溶液としては、一般にB/F分離に用い得る洗浄溶液を用いてよい。洗浄溶液は、好ましくは水溶液であり、洗浄溶液として好ましくは、標的分子を含む、pHの調整された緩衝溶液などが挙げられる。緩衝溶液としては、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、Tris緩衝液などが挙げられる。さらに、洗浄溶液に含まれ得る他の成分としては、例えば、NaCl、MgClなどの塩、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(製品名:Tween 20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミタート(製品名:Tween 40)、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエステル(製品名:Triton X)、ポリアルキレングリコール(製品名:Pluronic)、ポリビニルアルコールなどの界面活性剤などが挙げられる。
【0038】
洗浄溶液の組成の一例としては、例えば以下のように調製し得る。
100mM NaCl
5mM MgCL2
pH7.5 20mM Tris緩衝液
20mM HEPES緩衝液
0.1% 非イオン系界面活性剤
【0039】
(1c)における分画工程では、標的分子−候補核酸フラグメント複合体から、候補核酸フラグメントを回収する。標的分子−候補核酸フラグメント複合体から、候補核酸フラグメントを分離させて、これを分画することにより、候補核酸フラグメントを回収し得る。候補核酸フラグメントの分離は、例えば、温度の変更、塩濃度の変更、pHの変更、フェノール処理などを行うことにより行うことができる。また、候補核酸フラグメントの分画は、候補核酸フラグメントの大きさ、形状、分子量、電気的性状などに基づいて、溶離溶液を調製し、この溶離溶液を反応系に通液させて、所定の大きさまたは分子量が抽出されるフラクション中に、目的とする候補核酸フラグメントを回収し得る。分画して得られた溶液を、第二の核酸混合物とする。
【0040】
(1d)の増幅工程では、(1c)で得られた第二の核酸混合物に含まれている候補核酸フラグメントを増幅する。増幅する方法は、核酸フラグメントの複製物を作製し得る方法であれば、特に限定なく採用し得る。核酸フラグメントの増幅方法として好ましくは、例えばPCRなどを採用し得る。PCRは、市販のPCR装置、PCRのためのキットなどを用いて実施し得る。PCRの条件は、市販の装置およびキットなどに添付のマニュアルなどを参考とし、既知の方法に従って容易に設定可能である。
【0041】
図1の破線で示されるように、(1d)の増幅工程の後、(1a)の接触工程へと戻り、(1a)〜(1d)の工程を繰り返してもよい。(1a)〜(1d)の工程を繰り返すことにより、候補核酸フラグメントの種類を暫時絞り込み得る。繰り返し回数は、任意であるが、複数回であることが好ましく、より具体的には、例えば1〜40回、好ましくは3〜30回、より好ましくは5〜20回である。このような回数の繰り返しにより、候補核酸フラグメントの種類を、好ましくは30種以下、より好ましくは20種以下、より好ましくは10種以下、さらに好ましくはおよそ5種程度にまで絞り込むことが期待される。
【0042】
(1e)の塩基配列決定工程では、(1d)の増幅工程で得られた第三の核酸混合液に含まれる候補核酸フラグメント群の塩基配列を特定する。核酸の塩基配列は、既知の方法または市販の配列分析装置等を用いて容易に決定し得る。
【0043】
B/F分離を利用した物質の分離方法では、多くの場合、候補核酸フラグメントが1種のみに限定されるよりも、未だ数種のフラグメントの混合物である可能性が高い。第1の実施形態では、第三の核酸混合物をそのままシーケンシングしてしまう。第三の核酸混合物は、複数種の候補核酸フラグメントの混合物である可能性が高いため、この塩基配列決定工程(1e)では、塩基配列は1通りに定まるとは限らない。
【0044】
図3に核酸アプタマーの構造モデルの一例を示す。図3に示すように、核酸アプタマーは、その一部に定常領域20a、20bと変異領域30とを有するものと推測される。定常領域は、いくつかの核酸アプタマー間において、同一又は極めて類似した塩基配列を備える領域である。すなわち、定常領域となる領域は、核酸アプタマー群における共通配列(コンセンサス配列)で形成されている可能性がある。他方、変異領域30は、核酸アプタマーの種類ごとに様々なバリエーションをもたらす。変異領域30の相異により、核酸アプタマーは、特定の標的分子に対する親和性を有する分子となり得るものと推察される。
【0045】
したがって、ある程度親和性の高い複数種の候補核酸フラグメントの混合物をそのままシーケンシングすると、標的分子の種類等にもよるが、例えば、図4に示す例のようなダイアグラムを得ることが期待される。図4に示すシーケンシング結果例では、領域S−20aおよびS−20bでは、ほぼ単一種の塩基が特定されている。これに対し領域S−30は複数の塩基が混在して検出され、特定の塩基を決定するに至っていない。図4中、Nは、アデニン:A、チミン:T(またはU:ウラシル)、グアニン:G、またはシトシン:Cのいずれかであることを示す。このように複数種の候補核酸フラグメントの混合物のままの試料について塩基配列分析を行うことにより、所定の標的分子に対し親和性が高い核酸フラグメントに共通する配列を決定し得る。
【0046】
第1の実施形態として示す塩基配列決定方法により、ひとたび所望の核酸アプタマーの塩基配列が特定された後は、所望の核酸アプタマーは容易に増産することができる。得られた核酸アプタマーの増産は、例えば、核酸合成装置を用いても良いし、PCR装置を用いても良い。あるいは、得られた核酸アプタマーを、他の核酸に組換体として組み込み、これを微生物などの細胞に導入し、その細胞を増殖させて増やしてもよい。
【0047】
次に、第1の実施形態の他の形態、変形例1−1を、図5を参照しつつ説明する。なお、上記第1の実施形態と同じ事項については説明は省略し、変形例1−1において異なる部分を説明する。変形例1−1では、(1a)の前に任意の予備工程として、標的分子−標的捕捉分子複合体を形成させる予備的接触工程(1pc)が設けられている。この場合、(1a)の接触工程では、候補核酸フラグメントが標的分子−標的捕捉分子複合体と接触し、候補核酸フラグメント−標的分子−標的捕捉分子複合体を形成することが期待される。標的分子と標的捕捉分子としては、例えば、特異性に結合する抗原と抗体、特異的に相互作用する複数のタンパク質などを用い得る。また、標的分子−標的捕捉分子複合体は、1分子の標的分子と1分子の標的捕捉分子で形成される場合の他、複数の標的捕捉分子が含まれる場合、および複数の標的分子が含まれる場合を含み得る。
【0048】
予備的接触工程を設ける場合、標的捕捉分子は標的分子と複合体を形成し得るものが用いられる。標的捕捉分子と標的分子との特異的な結合能が高い組み合わせほど、標的分子を含む溶液中の標的分子の精製度の厳格さをそれに応じて緩和しても、所望の標的分子−標的捕捉分子複合体を形成し得るため、この点においての操作性が容易となり得る。また、標的捕捉分子と標的分子との特異的な結合能が高い組み合わせほど、第1の実施形態により見いだされる高親和性核酸フラグメント群との組み合わせによって、標的分子の検出、定量などの実験系を構築する際に、その実験系の測定精度をより高いものとし得る。
【0049】
さらに、図6に第1の実施形態の他の形態、変形例1−2を示す。なお、上記第1の実施形態と同じ事項については説明は省略し、変形例1−2において異なる部分を説明する。
【0050】
変形例1−2では、(1a)の前に任意の予備工程として、核酸候補フラグメントの混合物にネガティブスクリーニングを施す工程(1ns)が設けられている。ネガティブスクリーニング工程(1ns)は、核酸混合物の中に含まれる候補核酸フラグメントのうち、所望の核酸アプタマーとはなり得ない核酸フラグメント(ネガティブ分子)を予め減らす操作を行う。ネガティブスクリーニング工程(1ns)としては、例えば、以下のような第一から第三のネガティブスクリーニングが挙げられる。
【0051】
第一のネガティブスクリーニングでは、固相と当該固相に保持された標的捕捉分子に、複数種の候補核酸フラグメントを含む核酸混合物を接触させ、固相および/または標的捕捉分子に吸着しなかった候補核酸フラグメントの混合物を採取する。採取された混合物は、固相および/または標的捕捉分子に吸着しやすい分子が減少した核酸フラグメントの混合物である。標的捕捉分子の固相への保持様式としては、例えば、共有結合、イオン結合、水素結合、および電気的な吸着などの化学的な結合による保持、並びに形状依存的な係合などの物理的な保持などが挙げられる。
【0052】
第一のネガティブスクリーニングのより具体的形態としては、例えば、抗体などの標的捕捉分子を保持したガラスビーズを反応容器中に充填し、候補核酸フラグメントを含む核酸混合物を反応容器内をゆっくりと通液させることにより、固相や標的捕捉分子単体に結合してしまう候補核酸フラグメントを減らした核酸混合物を調製し得る。ネガティブスクリーニング工程により得られた核酸混合物を用いて、(1a)の接触工程を行うことにより、所望の核酸アプタマーが標的捕捉分子と接触する確率を高めることができ、新規な核酸アプタマーを得る可能性を高めることができる。第一のネガティブスクリーニングを、繰り返すことにより、より精製した核酸混合物を調製し得る。
【0053】
第二のネガティブスクリーニングでは、固相と固相に保持された標的分子に、複数種の候補核酸フラグメントを含む核酸混合物を接触させ、固相および/または標的分子に吸着しなかった候補核酸フラグメントの混合物を採取する。その他は、第一のネガティブスクリーニングと同様に実施し得る。
【0054】
また、第三のネガティブスクリーニングでは、固相と固相に保持された標的分子の類似分子に、複数種の候補核酸フラグメントを含む核酸混合物を接触させ、固相および/または標的分子の類似分子に吸着しなかった候補核酸フラグメントの混合物を採取する。標的分子の類似分子は、その類似性から候補核酸フラグメントがこれに吸着してしまい、真に目的とする核酸アプタマーが存在しない場合であったとしても、疑似陽性を呈してしまう原因となり得る。標的分子の類似分子を除くことにより、所望の核酸アプタマーを効率よくスクリーニングし得る。類似分子とは、候補核酸フラグメントが親和性を示し得るような化学的、物理的または構造的な特性を有する分子を含む。その他は、第一のネガティブスクリーニングと同様に実施し得る。
【0055】
さらに、上記第一から第三のネガティブスクリーニングの2種または3種を組み合わせて実施してもよい。また、変形例1−2と上記変形例1−1を組み合わせてもよい。変形例1−1と組み合わせる場合には、例えば、ネガティブスクリーニングによる核酸混合の調製と、標的分子と標的捕捉分子の接触工程(1pc)とを別系統で実施しておき、調製された核酸混合物を、標的分子−標的捕捉分子複合体に接触せしめればよい。
【0056】
2.本発明の核酸アプタマーのスクリーニング方法
本発明の核酸アプタマーのスクリーニング方法に係る実施形態(第2の実施形態)について、図7−1から図11を参照しつつ説明する。
【0057】
第2の実施形態の工程図を図7−1および7−2に示す。第2の実施形態では、(2a)工程から(2l)工程までを含む。
標的分子に対し親和性の高い核酸アプタマーのスクリーニング方法であって、
(2a)前記標的分子と、複数種の候補核酸フラグメントを含む第一の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記候補核酸フラグメントとを接触させて、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体を形成させる接触工程。
(2b)前記(2a)の後、前記複合体を形成していない候補核酸フラグメントを除去する、洗浄工程。
(2c)前記(2b)の除去後、前記複合体から候補核酸フラグメントを解離させて、前記標的分子に対し高い親和性を有する候補核酸フラグメントが富化された第二の核酸混合物を分画する工程。
(2d)前記第二の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメントを増幅する工程。
(2e)前記(2d)で増幅された候補核酸フラグメントを含む第三の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメント群の塩基配列を決定する工程。
(2f)前記(2e)で得られる候補核酸フラグメント群の塩基配列情報を解析し、前記候補核酸フラグメント群において保存性の高い部位と保存性の低い部位とを特定する、塩基配列情報解析工程。
(2g)前記保存性の高い部位に対応する部位を一定の配列とする定常配列部と、前記保存性の低い部位に対応するランダム配列部とを備える候補核酸フラグメントを設計し、前記定常配列部およびランダム配列部を有する複数種の候補核酸フラグメントを含む第四の核酸混合物を調製する工程。
(2h)前記標的分子と、前記第四の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記第四の核酸混合物中の候補核酸フラグメントとを接触させて、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体を形成させる、接触工程。
(2i)前記(2h)の後、前記複合体を形成していない候補核酸フラグメントを除去する、洗浄工程。
(2j)前記(2i)の除去後、前記複合体から候補核酸フラグメントを解離させて、前記標的分子に対し親和性の高い候補核酸フラグメントが富化された第五の核酸混合物を分画する工程。
(2k)前記第五の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメントを増幅する工程。
(2l)増幅された候補核酸フラグメントの塩基配列を決定する工程。
【0058】
図7−1および7−2においても破線は任意の繰り返し操作を示す。(2a)工程から(2e)工程までは、上記第1の実施形態における(1a)工程から(1e)工程と同じである。また、第2の実施形態においては、第1の実施形態の変形例1−1および1−2も同様に採用し得る。
【0059】
第2の実施形態では、塩基配列情報解析工程(2f)を含む。塩基配列情報解析工程(2f)では、塩基配列決定工程(2e)において得られた塩基配列データを解析する。図4を参照しつつ既に説明したとおり、塩基配列決定工程(2e)において得られる塩基配列データでは、特定の一塩基に決定できる領域と、複数の塩基種が混在して現れる領域が生じる可能性がある。塩基配列情報解析工程(2f)では、これらの領域を判別する。すなわち、核酸混合物中に含まれる候補核酸フラグメント群の塩基配列情報を解析し、前記候補核酸フラグメント群において保存性の高い部位と保存性の低い部位とを特定する。保存性の高い領域の認定方法としては、例えば、1種の塩基が他の3種の塩基よりも、好ましくは1.5倍量以上、より好ましくは2.0倍量以上検出される部位、さらに好ましくは実質的に単一種の塩基のみ検出される部位を、保存性の高い部位と認定し、その他の部位を保存性の低い部位と認定する形態などが挙げられる。
【0060】
次に、核酸混合物調製工程(2g)では、塩基配列情報解析工程(2f)の結果に基づき、候補核酸フラグメントの塩基配列を再設計し、新たに第四の核酸混合物を調製する。新たに設計する候補核酸フラグメントは、塩基列解析工程(2f)にて特定された保存性の高い部位に相当する定常配列と、保存性の低い部位に相当するランダム配列部位とを備える。定常配列は、塩基配列決定工程(2l)およびその解析工程(2f)で特定された塩基配列またはその相補的な配列を採用し得る。他方、ランダム配列部位は4種の塩基がランダムに配列された領域として構築される。
【0061】
図8に、より具体的に、塩基配列情報解析工程(2f−1)および核酸混合物調製工程(2g−1)を示す。塩基配列情報解析工程(2f−1)では、塩基出現率の閾値を定めて保存性の高い領域S−20aおよびS−20bが特定する。他方、所定の塩基出現率の閾値以下の領域は、4種の塩基のいずれか(N)として特定する。結果して、図8(2f−1)中に示す配列(配列番号1)が特定される。次に、この結果に基づき、新たな候補核酸フラグメントの混合物を作製する。塩基配列情報解析工程(2f−1)での解析に基づき、当初、デフォルトの候補核酸フラグメントにおいて21塩基のランダム配列で設計されていた部位を、9塩基のランダム領域にまで絞り込んだ新たな候補核酸フラグメントが設計された。この再設計された配列は、配列番号1の塩基配列を有する。さらに、再設計された配列の両端にプライマーP1およびP2を設ける(図8、(2g−1))。このようにして、プライマーP1、定常領域SN−20a、ランダム領域SN−30、定常領域SN−20b、プライマーP2からなる新たな候補核酸フラグメントが調製される。この新たに設計された候補核酸フラグメントの混合物、すなわち第四の核酸混合物を新たなライブラリーとして作製する。
【0062】
第四の核酸混合物において含まれる候補核酸フラグメントの種類は、理論上、当初の421種から4種に減っている。しかも、このような種類の絞り込みは、上記(2a)から(2e)工程のスクリーニングに基づくものであり、種類は減じられる一方で標的分子に対する親和性が高いことが期待される核酸フラグメントが、第一の核酸混合物よりも、高い確率的で含まれ得る。したがって、単に母集団を縮小したわけではなく、候補としての可能性がより高い核酸フラグメントが富化された集合であることから、実験操作上試料の供給量または使用量に制限があり、わずかな量の試料しか利用できない場合でも、所望の核酸アプタマーを見いだし得る確率を向上させ得る。
【0063】
上記のようにして作製される第四の核酸混合物は、接触工程(2h)に供される。第一核酸混合物の代わりに第四の核酸混合物を用いる点を除き、接触工程(2h)は接触工程(2a)と同様に実施し得る。また、洗浄工程(2i)は、接触工程(2h)で得られる反応溶液を用いること以外は、洗浄工程(2b)と同様に実施し得る。さらに、分画工程(2j)は、洗浄工程(2i)で得られる反応溶液を用いること以外は、分画工程(2c)と同様に実施し得る。分画工程(2j)で得られた核酸混合物は、区別の便宜上、第五の核酸混合物という。増幅工程(2k)は、増幅工程(2d)と同様に実施し得る。塩基配列決定工程(2l)は、第五の核酸混合物を用いること以外は、塩基配列決定工程(2e)と同様に実施し得る。また、図7−2中破線にて示すように、(2h)から(2k)の工程は繰り返してもよい。繰り返しの回数は、任意であるかが、好ましくは2〜30回、より好ましくは5〜20回である。
【0064】
現状においては、PCR装置に一度期に供することができる試料の容量はおよそ5〜200μl程度、試料中の核酸フラグメント濃度はおよそ10fM〜100pM程度にすることが好ましいとされている場合がある。このような容量と濃度に限定されることにより、標的に対して親和性が高い核酸フラグメントを含むライブラリーの中から実際に試験に供する試料を調製する過程で、真に目的とする核酸フラグメントが漏れてしまうおそれがある。しかし、第2の実施形態のように、標的分子に対する核酸アプタマーに共有される可能性が高い配列を特定し、候補核酸フラグメントを再設計することによって、サイズを小型化しながらも所望の核酸フラグメントが含まれる蓋然性が高いライブラリーを構築することができる。さらに小型化したライブラリーを用いることにより、上記のようにスクリーニングの途中工程において、実質的に供し得る試料の量を少なくせざるを得ない状況があったとしても、各候補核酸フラグメントについてより均等な機会を与えてスクリーニングを施し得る。したがって、本発明の第2の実施形態は、実際に試験に供することができる試料が少量に制限されるような場合に好適なスクリーニング方法を提供し得る。
【0065】
図9に、第2の実施形態の他の形態、変形例2−1を示す。変形例2−1では、増幅工程(2k)の後にクローニング工程(2s)を設ける。
【0066】
上記(2a)から(2k)の工程を経て得られた核酸混合物中に含まれる核酸フラグメントは、標的分子に対する親和性がかなり高い、または特異的に結合し得る核酸フラグメントであることが期待される。しかし、標的分子の種類等によっては、未だに数種の候補核酸フラグメントが含まれる可能性もある。そこで、最終的に1種の配列を特定したい場合には、(2f)から(2k)の工程を完了した段階でクローニングを行うことにより、効率よく、1種の配列を単離することができる。クローニング工程(2s)を経て単一の核酸フラグメントを単離し、次の塩基配列決定工程(2l)において、単一の塩基配列を特定される。
【0067】
クローニングの手法は、核酸断片の一般的な様々なクローニング手法を採用し得る。例えば、候補核酸フラグメントの両端を所定の制限酵素で消化し、所定のベクターにライゲーションし、これを大腸菌などの宿主に導入し、単一のコロニー又はプラークなどを採取する。また、所望の配列等の一部又は全部が想定される場合には、コロニー/プラークハイブリダイゼーションなどの手法により、特定の配列を有する候補核酸フラグメントを単離し得る。また、単離をより正確に行うためにサブクローニングを行ってもよい。
なお、変形例2−1は、クローニング工程(2s)を増幅工程(2k)の後、塩基配列決定工程(2l)の前に行う点以外は、上記にて説明した第2の実施形態と同様に実施し得る。
【0068】
図10に、第2の実施形態の他の形態、変形例2−2を示す。変形例2−2では、塩基配列情報解析工程(2f)の結果次第で、増幅工程(2d)で得られた第三の核酸混合物を使って、再び接触工程(2a)に戻る。一旦塩基配列情報解析工程(2f)の結果次第では、定常領域を特定できない、また定常領域の長さがあまりに短いといった場合も予想される。そのような場合は、候補核酸フラグメントを設計し直す前に、再び接触工程(2a)へ戻って、さらに標的分子に対し親和性の高い候補核酸フラグメントの富化する操作を行うことも、一つの好適な実施形態となり得る。
【0069】
どのような状況で接触工程(2a)へ戻るかは、任意である。一つの指標としては、例えば、保存性の低い部位の塩基の数が、好ましくは15個以下、より好ましくは9個以下であれば、そのまま核酸混合物調製工程(2g)へ進み、これに該当しない場合は、接触工程(2a)に戻すという判断基準を設定し得る。このように塩基配列情報解析工程(2f)の結果に応じて接触工程(2a)に戻るかどうか判断することにより、より小さなランダム領域を有する候補核酸フラグメントを設計し、第五の核酸混合物中の候補核酸フラグメントの配列種を減らすことができる。
なお、変形例2−2は、塩基配列決定工程(2f)から接触工程(2a)に戻るサイクルを有する以外は、上記第2の実施形態にて説明したのと同様に実施し得る。
【0070】
図11に、第2の実施形態の他の形態、変形例2−3を示す。変形例2−3は、塩基配列情報決定工程(2l)の結果次第で、増幅工程(2k)で得られた第五の核酸混合物を使って、再び塩基配列情報解析工程(2f)に戻る。ここで再度、候補核酸フラグメントを設計し直し、新たな候補核酸フラグメントを設計し、これを含む第四の核酸混合物を調製し直す。塩基配列決定工程により得られる結果、塩基を一種に特定できない部位が多い場合などに好適である。
なお、塩基配列決定工程(2l)から塩基配列情報解析工程(2f)に戻るサイクルを有する以外は、上記第2の実施形態にて説明したのと同様に実施し得る。
また、変形例2−1、2−2、および2−3は、それぞれ組み合わせて実施してもよい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明について実施例を示しより詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0072】
<試薬>
本実施例においては、下記試薬類が用いられた。下記試薬はいずれも市販されている製品またはその付属品である。
TSH R1(抗TSH結合磁性粒子、オリンパス株式会社製)
TSH Kit Calibrator(TSH抗原、オリンパス株式会社製)
KOD−plus−(東洋紡績製)
MES緩衝液(同仁化学製、pH6.9〜7.1)
Assay Wash Solution(オリンパス株式会社製)
【0073】
<DNAランダムライブラリー>
多数の候補核酸フラグメントの混合物として、下記のDNAランダムライブラリーを調製した。本DNAランダムライブラリーを構成する各候補核酸フラグメントの配列設計図を図12に示す。核酸フラグメントCF1(配列番号2)は、プライマーP11(配列番号3)、プライマーP21(配列番号4)と、これらのプライマーに狭持されたランダム領域RR1とを備える。ランダム領域RR1の各塩基Nは、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)およびシトシン(C)の4塩基からランダムに選択される。ランダム領域RR1は、30塩基を有するので、理論上、1.15×1018種類の配列が調製されることになる。すなわち、候補核酸フラグメントの混合物として、理論値1.15×1018の種の配列を含むDNAランダムライブラリーを作製した。以下、このようにして作製されたDNAランダムライブラリーのことを、デフォルトのライブラリーという場合がある。
【0074】
<操作工程>
下記の工程(1)から(10)の手順に従って、ランダムライブラリーから標的分子に対し親和性の高い核酸フラグメントを濃縮した。
工程(1):10μM デフォルトのランダムライブラリー10μLに純水10μLを加え、95℃で10分間加熱し、溶液(1)を得た。
工程(2):TSH R1 50μLに、10%Assay wash solutionを100μL加えて混合し、磁性粒子をネオジウム磁石で集磁しながら、上清を捨てた。この洗浄操作を5回行った。洗浄して得られた磁性粒子を含む溶液に、MES緩衝液を80μL加えて混合し、さらに上記溶液(1)を20μL加えて37℃で30分間反応させ、溶液(2)を得た。
工程(3)工程(2)とは別に、TSH R1 50μLに、10%Assay wash solutionを100μL加えて混合し、磁性粒子をネオジウム磁石で集磁しながら、上清を捨てた。この洗浄を5回行った。洗浄して得られた磁性粒子を含む溶液に、溶液(2)の上清100μLを加え、37℃で30分間反応させた。磁性粒子をネオジウム磁石で集磁しながら、上清を回収し、この上清を溶液(3)として得た。
工程(2)および工程(3)により、溶液(3)は溶液(1)よりも、磁性粒子や抗THSそのものに吸着してしまう核酸フラグメントの濃度が大幅に低減されている。
【0075】
工程(4):さらに上記工程(2)および工程(3)とは別に、TSH R1 50μLにTSH Kit Calibrator 100μLを加えて37℃で10分間反応させて、溶液(4)を得た。
工程(5):溶液(4)に含まれる磁性粒子をネオジウム磁石で集磁しながら、溶液(4)から上清を捨てた。上清を捨てた後、10% Assay wash solution 100μLで5回洗浄し、溶液(5)を得た。
工程(4)および工程(5)により、磁性粒子上に形成されたTSH抗原−抗TSH複合体を含む溶液(5)が得られた。
【0076】
工程(6):溶液(5)に溶液(3)100μLを加えて攪拌し、37℃で10分間反応をさせ、溶液(6)を得た。
工程(7):溶液(6)に含まれる磁性粒子をネオジウム磁石で集磁しながら、溶液(6)から上清を捨てた。磁性粒子を含む溶液に10%Assay wash solution 100μLを加えて上清を捨てる洗浄を5回繰り返して、溶液(7)を得た。
工程(6)および工程(7)により、TSH抗原−抗TSH複合体に核酸フラグメントを接触させ、同複合体に対し親和性の低い核酸フラグメントを除去した。
工程(8):溶液(7)に純水10μLを加え、95℃で10分間加熱した。加熱後、磁性粒子をネオジウム磁石で集磁しながら、上清10μLを回収し、溶液(8)を得た。工程(8)により、TSH抗原−抗TSH複合体に親和性の高い核酸フラグメントを回収した。
【0077】
工程(9):溶液(8)を純水で10倍希釈し、表1の温度条件および表2の組成でPCRを行い、溶液(8)に含まれる核酸フラグメントを増幅し、溶液(9)を得た。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
工程(10):溶液(9)のPCR産物の1本鎖を増やすため、プライマー1のみ入れて表1の温度条件および表3の組成でPCRを行い、溶液(10)を得た。
【0081】
【表3】

【0082】
工程(11):工程(1)〜(10)を9回繰り返した。なお、繰り返し段階においては、2回目以降の工程(1)におけるランダムライブラリーとしては、溶液(10)を、次回の新たな溶液(1)として用いた。
【0083】
工程(12):9回繰り返し後に得られたPCR反応溶液を、アプタマーを単離することなく混合物の状態のまま用いて、シークエンシングを行った。
【0084】
<配列の解析および再設計>
ランダム領域RR1のシーケンシングの結果を図13に示す。ランダム領域RR1中の一部において塩基配列を、SA1の配列として読み取ることができた(配列番号5)。特定の一塩基を読み取り可能であった領域は、シーケンシングに供された複数の核酸フラグメントに共通する塩基配列を示すものと考えられる。したがって、このダイヤグラムから共通配列を抽出し、コンセンサス配列CRと短くしたランダム領域RR2を含む新たな候補核酸フラグメントCF2(配列番号6)が設計された。
【0085】
図14に、新たな候補核酸フラグメントCF2とデフォルトの候補核酸フラグメントCF1との配列の比較を示す。図14に示すように、候補核酸フラグメントCF1は30塩基配列で構成されるランダム領域RR1を備える。これに対して、候補核酸フラグメントCF2は、ランダム領域RR1に対応する部位がランダム領域RR2およびコンセンサス配列CRにて構成される。ランダム領域RR2は17塩基配列で構成されている。
【0086】
<考察>
上記の操作において用いたランダムライブラリーの中で、当初ランダム(ATGC4塩基の混合配列)とした部分は、30塩基である(図12、RR1)。理論上のライブラリー中の核酸フラグメントの種類を計算すると、1.15×1018種類(モル換算:1.92×10−6mol(1.22μmol))となる。一方、実際にPCRに供することができたランダムライブラリーの量は、10μMを10μLであったことから、6×1013種類(モル換算:1×10−10mol(0.1nmol))となり、1種類1分子と仮定した場合、先の計算値より1万倍以下の量の試料しか利用されておらず、実際にスクリーニングに供される核酸フラグメントの種類がライブラリー中のごく一部に限られてしまうことがわかる。
【0087】
しかし、上記本実施例に示すような操作を行うことにより、TSH抗原に対するアプタマーの共通配列13塩基を明らかにすることができた。これは、この部分がTSH抗原に対するアプタマーとして安定的な部分で、残り17塩基が多様性に富んだ部分であることを示唆する。シーケンスで明らかになった13塩基を固定し、残り17塩基をランダム配列として、再度アプタマーを設計すると、理論上、ランダムライブラリー中の核酸フラグメントの種類は、1.72×1010種類(モル換算:2.89×10−14mol(0.29pmol))となる。これは、実際の実験で使用し得る核酸フラグメントの量(種類)の上限を十分に下回っている。すなわち、本実施例で得られたランダムライブラリーは、統計確率的見地からして、母集団のサイズが小さいにもかかわらず、所望のアプタマーが含まれる蓋然性が高いものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上のように、本発明は核酸アプタマーのスクリーニングに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】第1の実施形態の工程図である。
【図2】候補核酸フラグメント(デフォルト)の設計例を示す図である。
【図3】アプタマーのモデルの一例を示す図である。
【図4】複数の核酸フラグメントをシーケンシングした際に予想される分析結果の一例を示す図である。
【図5】第1の実施形態の変形例1−1の工程図である。
【図6】第1の実施形態の変形例1−2の工程図である。
【図7−1】第2の実施形態の工程の一部を示す図である。
【図7−2】第2の実施形態の工程の一部を示す図である。
【図8】塩基配列分析の結果と設計される候補核酸フラグメントの対応を示す図である。
【図9】第2の実施形態の変形例2−1の工程の一部を示す図である。
【図10】第2の実施形態の変形例2−2の工程の一部を示す図である。
【図11】第2の実施形態の変形例2−3の工程の一部を示す図である。
【図12】実施例で用いられたデフォルトの候補核酸フラグメントの配列図である。
【図13】塩基配列の分析結果を示す図である。
【図14】デフォルトの候補核酸フラグメントと、再設計された候補核酸フラグメントの構成を対比する図である。
【符号の説明】
【0090】
1 アプタマー
20a、20b アプタマーの定常領域
30 アプタマーのランダム領域
S−20a、S−20b 定常領域の塩基配列
S−30 ランダム領域の塩基配列
P1、P2、P11、P21 プライマー領域
SN−20a、SN−20b 設計された定常領域
SN−30 設計されたランダム領域
CF1 設計された候補核酸フラグメント(デフォルト)
CF2 再設計された候補核酸フラグメント
RR1 デフォルトの候補核酸フラグメント中のランダム領域
RR2 再設計された候補核酸フラグメント中のランダム領域
SA1 塩基配列の分析結果
CR 定常領域(コンセンサス配列)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子に対し親和性の高い複数種の核酸フラグメント群の塩基配列決定方法であって、
(a)前記標的分子と、複数種の候補核酸フラグメントを含む第一の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記候補核酸フラグメントとを接触させて、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体を形成させ、
(b)前記(a)の後、前記複合体を形成していない候補核酸フラグメントを除去し、
(c)前記(b)の除去後、前記複合体から候補核酸フラグメントを解離させて、前記標的分子に対し高い親和性を有する候補核酸フラグメントが富化された第二の核酸混合物を分画し、
(d)前記第二の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメントを増幅し、
(e)前記(d)で増幅された候補核酸フラグメントを含む第三の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメント群の塩基配列を決定する、
ことを含む塩基配列決定方法。
【請求項2】
前記(a)において、前記標的分子が標的捕捉分子に捕捉されており、当該捕捉された標的分子を前記候補核酸フラグメントと接触せしめて複合体を形成させる、請求項1に記載の塩基配列決定方法。
【請求項3】
前記候補核酸フラグメントが、デオキシリボ核酸、あるいはリボ核酸である、請求項1または2に記載の塩基配列決定方法。
【請求項4】
前記第三の核酸混合物を、更新された第一の核酸混合物として、前記(a)から(d)を繰り返す、請求項1から3のいずれか一項に記載の塩基配列決定方法。
【請求項5】
前記(a)から(d)を、5回以上、20回以下繰り返す、請求項1から4のいずれか一項に記載の塩基配列決定方法。
【請求項6】
標的分子に対し親和性の高い核酸アプタマーのスクリーニング方法であって、
(a)前記標的分子と、複数種の候補核酸フラグメントを含む第一の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記候補核酸フラグメントとを接触させて、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体を形成させ、
(b)前記(a)の後、前記複合体を形成していない候補核酸フラグメントを除去し、
(c)前記(b)の除去後、前記複合体から候補核酸フラグメントを解離させて、前記標的分子に対し高い親和性を有する候補核酸フラグメントが富化された第二の核酸混合物を分画し、
(d)前記第二の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメントを増幅し、
(e)前記(d)で増幅された候補核酸フラグメントを含む第三の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメント群の塩基配列を決定し、
(f)前記(e)で得られる候補核酸フラグメント群の塩基配列情報を解析し、前記候補核酸フラグメント群において保存性の高い部位と保存性の低い部位とを特定し、
(g)前記保存性の高い部位に対応する定常配列部と、前記保存性の低い部位に対応するランダム配列部とを備える候補核酸フラグメントを設計し、前記定常配列部およびランダム配列部を有する複数種の候補核酸フラグメントを含む第四の核酸混合物を調製し、
(h)前記標的分子と、前記第四の核酸混合物とを混合し、前記標的分子と前記第四の核酸混合物中の候補核酸フラグメントとを接触させて、標的分子と候補核酸フラグメントとの複合体を形成させ、
(i)前記(h)の後、前記複合体を形成していない候補核酸フラグメントを除去し、
(j)前記(i)の除去後、前記複合体から候補核酸フラグメントを解離させて、前記標的分子に対し親和性の高い候補核酸フラグメントが富化された第五の核酸混合物を分画し、
(k)前記第五の核酸混合物に含まれる候補核酸フラグメントを増幅し、
(l)増幅された候補核酸フラグメントの塩基配列を決定する、
ことを含む、核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項7】
前記(a)において、前記標的分子が標的捕捉分子に捕捉されており、当該捕捉された標的分子に前記候補核酸フラグメントを接触せしめて複合体を形成させる、請求項6に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項8】
前記候補核酸フラグメントが、デオキシリボ核酸、あるいはリボ核酸である、請求項6または7に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項9】
前記第三の核酸混合物を、更新された第一の核酸混合物として、前記(a)から(d)を繰り返す、請求項6から8のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項10】
前記(a)から(d)を、5回以上、20回以下繰り返す、請求項9に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項11】
前記第五の核酸混合物を、更新された第四の核酸混合物として、前記(h)から(j)を繰り返す、請求項6から10のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項12】
前記(h)から(j)を、2回以上、15回以下繰り返す、請求項11に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項13】
前記(f)において、1種の塩基が他の3種の塩基よりも1.5倍量以上検出される部位を、前記保存性の高い部位と認定し、その他の部位を保存性の低い部位と認定する、請求項6から12のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項14】
前記(f)において、前記保存性の低い部位の塩基の数が、15以下となるまで、前記(a)から(d)を繰り返す、請求項6から13のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項15】
前記(d)および/または(k)において、PCRにより候補核酸フラグメントを増幅する、請求項6から14のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項16】
前記PCRに供される核酸混合物中の候補核酸フラグメントの濃度が、10fM以上、100pM以下である、請求項15に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。
【請求項17】
前記(k)の後、候補核酸フラグメントをクローニングし、単一種の候補核酸フラグメントを回収する、請求項6から16のいずれか一項に記載の核酸アプタマーのスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−189310(P2009−189310A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34055(P2008−34055)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】