説明

高設栽培装置及び高設栽培方法

【課題】高温期における培地17の上部及び中間部の温度を低下させて、植物Vの根の生育環境を向上させること。
【解決手段】
栽培ベッド3の上側に断熱パネル19が培地17を覆うように設けられ、断熱パネル19と培地17との間に培地17に灌水液を点滴供給する点滴チューブ31が設けられ、培地17の中間部における点滴チューブ31の直下の領域に冷却液を流通可能な冷却チューブ33が埋設されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱野菜(例えば、ホウレン草)又は果菜(例えば、イチゴ,メロン,ブルーベリー,トマト等)等の植物を地面から離れた高所で栽培する高設栽培に用いられる高設栽培装置、及び高設栽培方法(高設栽培の方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、軟弱野菜又は果菜等の栽培の分野においては、栽培作業の負担の大幅な軽減を図る等の理由により、植物を地面から離れた高所で栽培する高設栽培が広く行われている。
【0003】
一方、高設栽培にあっては、培地が日射熱(日射)や外気温の影響を受け易く、高温期(特に、夏期)においては、培地の温度(培地温)が外気温以上に上昇し、植物の根の生育環境の悪化を招いていた。そういう状況を改善するために、特許文献1に示すような高設栽培装置が開発されており、この先行技術に係る高設栽培装置の構成等について簡単に説明すると、次のようになる。
【0004】
即ち、先行技術に係る高設栽培装置は、栽培架台をベースとして具備しており、この栽培架台の上部には、栽培ベッドが配設されている。また、栽培ベッドは、栽培架台の上部に凹状に架設された培地シート、及び培地シートの凹部に充填された培地を備えている。
【0005】
栽培架台の上部における栽培ベッドの一側側には、水を収容する吸水桶が設けられている。そして、培地シートの下側には、水分を吸収可能な吸水シートが包み込むように設けられており、この吸水シートは、不織布からなるものであって、吸水シートの一縁部は、吸水桶内の水内に浸漬されている。
【0006】
従って、吸水桶から吸水シートに吸水された水分が蒸発することにより、気化潜熱によって培地を冷却しつつ、植物を高所で栽培することができる。これにより、高温期における培地の温度を低下させて、植物の根の生育環境の悪化を抑えることができる。
【0007】
なお、本発明に関連する先行技術として、特許文献1に示すのもの他に、特許文献2に示すものがある。
【特許文献1】特開2000−262161号公報
【特許文献2】特開2006−271314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、先行技術に係る高設栽培装置にあっては、吸水シートが培地シートの下側に包み込むように配設されているため、吸水シート中の水分の気化潜熱によって培地の下部を十分に冷却できるものの、植物の根が多く存在する、培地の上部及び中間部を十分に冷却することができない。そのため、高温期における培地の上部及び中間部の温度を低下させて、植物の根の生育環境を向上させることは困難であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成の高設栽培法装置及び高設栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の特徴(請求項1に記載の発明の特徴)は、植物を地面から離れた高所で栽培する高設栽培に用いられる高設栽培装置において、栽培架台の上部に配設され、前記栽培架台の上部に凹状に架設された培地シート、及び前記培地シートの凹部に充填された培地を備えた栽培ベッドと、前記栽培ベッドの上側に前記培地を覆うように設けられ、前記植物の苗を定植するための複数の定植穴が形成された断熱部材と、前記断熱部材と前記培地との間に設けられ、前記複数の定植穴に隣接してあって、前記培地に灌水液を点滴供給する点滴チューブと、前記培地の中間部における前記点滴チューブの直下の領域に埋設され、冷却液を流通可能な冷却チューブと、を具備したことを要旨とする。
【0011】
なお、灌水液には、養液が含まれる。
【0012】
第1の特徴によると、前記断熱部材により前記培地を覆った状態で、前記点滴チューブによって前記培地に灌水液を点滴供給する共に、前記冷却チューブに冷却液を流通させる。これにより、前記培地を冷却しつつ、前記植物を前記高所で栽培することことができる。
【0013】
ここで、前記冷却チューブが前記培地の中間部における前記点滴チューブの直下の領域に埋設されているため、熱伝導性の高い水分を多く含みかつ前記植物の根が集中する、前記培地の上部及び中間部における前記点滴チューブ周辺を十分に冷却することができる。また、前記断熱部材が前記栽培ベッドに前記培地を覆うように設けられ、前記点滴チューブが前記断熱部材と前記培地との間に設けられているため、前記断熱部材によって日射熱を遮熱しつつ、前記培地及び前記点滴チューブ内の灌水液の保温性を高めることができる。
【0014】
本発明の第2の特徴(請求項2に記載の発明の特徴)は、第1の特徴に加えて、前記断熱部材は断熱パネルであることを要旨とする。
【0015】
本発明の第3の特徴(請求項3に記載の発明の特徴)は、第2の特徴に加えて、前記断熱パネルに裏面に収納溝が形成され、前記点滴チューブが前記断熱パネルの前記収納溝に収納されていることを要旨とする。
【0016】
本発明の第4の特徴(請求項4に記載の発明の特徴)は、第2の特徴又は第3の特徴に加えて、前記断熱パネルの各定植穴の上側部分は、逆錐体形状を呈していることを要旨とする。
【0017】
本発明の第5の特徴(請求項5に記載の発明の特徴)は、第1の特徴に加えて、前記断熱部材はマルチシートであることを要旨とする。
【0018】
本発明の第6の特徴(請求項6に記載の発明の特徴)は、植物を地面から離れた高所で栽培する高設栽培方法において、前記植物の苗を定植するための複数の定植穴が形成された断熱部材を用い、前記断熱部材により栽培ベッドの培地を覆った状態で、前記断熱部材と前記培地との間に配設されかつ複数の前記定植穴に隣接した点滴チューブによって前記培地に灌水液を点滴供給すると共に、前記培地の中間部における前記点滴チューブの直下の領域に埋設された冷却チューブに冷却液を流通させることにより、前記培地を冷却しつつ、前記植物を前記高所で栽培することを要旨とする。
【0019】
第6の特徴によると、前記冷却チューブが前記培地の中間部における前記点滴チューブの直下の領域に埋設されているため、熱伝導性の高い水分を多く含みかつ前記植物の根が集中する、前記培地の上部及び中間部における前記点滴チューブ周辺を十分に冷却することができる。また、前記断熱部材が前記栽培ベッドに前記培地を覆うように設けられ、前記点滴チューブが前記断熱部材と前記培地との間に設けられているため、前記断熱部材によって日射熱を遮熱しつつ、前記培地及び前記点滴チューブ内の灌水液の保温性を高めることができる。
【0020】
第7の特徴(請求項7に記載の発明の特徴)は、第6の特徴の他に、前記断熱部材は断熱パネルであって、全ての前記定植穴のうち、定植に使用しない前記定植穴をキャップによって塞いでおくことを要旨とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1から請求項6のうちのいずれかの請求項に記載の発明によれば、前記培地の上部及び中間部における前記点滴チューブ周辺を十分に冷却することができ、かつ、前記断熱部材によって日射熱を遮熱しつつ、前記培地及び前記点滴チューブ内の灌水液の保温性を高めることができるため、高温期における前記培地の上部及び中間部の温度を低下させて、前記植物の前記根の生育環境を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態について図1から図5を参照して説明する。
【0023】
ここで、図1は、本発明の実施形態に係る高設栽培装置の正断面図、図2は、断熱パネルの平面図、図3(a)は、収納溝に点滴チューブを収納した状態の断熱パネルの正面図、図3(b)は、図3(a)の一部を拡大した図、図4(a)は、収納溝に点滴チューブを収納した状態の断熱パネルの断面図、図4(b)は、図4(a)の一部を拡大した図、図5は、定植に使用しない定植穴をキャップによって塞いだ状態を示す断面図である。なお、図面中、「L」は、左方向、「R」は、右方向、「FF」は、前方向、「FR」は、後方向を指してある。
【0024】
図1から図4に示すように、本発明の実施形態に係る高設栽培装置1は、ほうれん草等の軟弱野菜(植物の一例)Vを地面Gから離れた高所で栽培する高設栽培に用いられる装置であって、本発明の実施形態に係る高設栽培装置1の具体的な構成は、次のようになる。
【0025】
即ち、本発明の実施形態に係る高設栽培装置1は、前後方向へ延びた栽培架台3をベースとして具備している。また、栽培架台3は、地面Gに立設された複数の支柱5、複数の支柱5に連結するように設けられかつ左右方向又は前後方向へ延びた複数(1つのみ図示)の連結棒7、複数(1つのみ図示)の左寄りの支柱5及び複数(1つのみ図示)の右寄りの支柱5にそれぞれ架設されかつ前後方向へ延びた一対のシート保持棒9、及び適宜の複数の連結棒7にそれぞれ架設されかつ前後方向へ延びた複数のベッド支持棒11を備えている。
【0026】
栽培架台3の上部には、前後方向(換言すれば、栽培架台3の長さ方向)へ延びた栽培ベッド13が配設されており、栽培ベッド13は、複数のベッド支持棒11によって下方向から支持されている。また、栽培ベッド13は、一対のシート保持棒9(栽培架台3の上部)に凹状に架設された透水性の培地シート15、及び培地シート15の凹部に充填された培地17(本発明の実施形態にあっては、厚みが約20cm)を備えている。ここで、培地17は、ピートモスとバーミュキュライとパーライとの混合物に、界面活性剤を添加してなるものである。
【0027】
栽培ベッド13の上側には、発泡スチロール製の複数の断熱パネル19(断熱部材の一例、本発明の実施形態にあっては、幅約120cm×長さ約60cm×厚み約20mm)が培地17を覆うように設けられており、複数の断熱パネル19は、一対のシート保持棒9により挟持されるようになっている。また、各断熱パネル19には、軟弱野菜Vの苗を定植するための複数の定植穴が左右方向(換言すれば、栽培ベッド13の幅方向)及び前後方向(換言すれば、栽培ベッド13の長さ方向)に沿って等間隔に形成されており、各断熱パネル19の各定植穴21の上側部分は、逆四角錐体形状(逆錐体形状の一例)を呈している。更に、各断熱パネル19の裏面には、前後方向へ延びた複数の収納溝23が左右方向に等間隔(本発明の実施形態にあっては、約20cm間隔)に形成されており、各断熱パネル19の各収納溝23の両縁には、一対の突起25が形成されている。更に、各断熱パネル19の前端部には、左右方向へ延びた係合片27が形成されており、各断熱パネル19の後端部には、隣接する断熱パネル19の係合片27に係合可能かつ左右方向へ延びた係合凹部29が形成されている。
【0028】
複数の栽培ベッド13と培地17との間には、培地17に養液を間欠的に点滴供給する複数の点滴チューブ31が左右方向に等間隔に設けられており、各点滴チューブ31は、前後方向へ延びている。また、各点滴チューブ31は、複数の断熱パネル19における対応する収納溝23に収納されてあって、複数の断熱パネル19における対応する一対の突起25に係止されている。更に、各点滴チューブ31には、複数の点滴穴(図示省略)が等間隔(本発明の実施形態にあっては、約10cm間隔)に形成されており、複数の点滴チューブ31は、共通の養液供給源(図示省略)にそれぞれ接続されている。ここで、本発明の実施形態にあっては、養液として、井戸水又はチラーで冷却された5〜18℃の水に肥料を混入したものを用いており、複数の点滴チューブ31による養液の点滴供給は、日中に数回だけ行われるようになっている。
【0029】
培地17の中間部における各点滴チューブ31の直下の領域には、冷却液を循環流通可能な冷却チューブ33が埋設されており、各冷却チューブ33は、前後方向へ延びている。また、複数の冷却チューブ33は、共通の冷却液循環供給源(図示省略)にそれぞれ接続されている。ここで、本発明の実施形態にあっては、冷却液は、井戸水又はチラーで冷却された5〜18℃の水を用いており、複数の冷却チューブ33による冷却液の循環流通は、日中・夜間を問わず常時行われている。
【0030】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について、本発明の実施形態に係る高設栽培方法(高設栽培の方法)と併せて説明する。
【0031】
全ての定植穴21のうち、定植に使用しない定植穴21をキャップ35によって塞いでおく(図5参照)。そして、複数の断熱パネル19により培地17を覆った状態で、複数の点滴チューブ31によって培地17に灌水液を間欠的に点滴供給する共に、複数の冷却チューブ33に冷却液を循環流通させる。これにより、培地17を冷却しつつ、軟弱野菜Vを高所で栽培することことができる。
【0032】
ここで、各冷却チューブ33が培地17の中間部における点滴チューブ31の直下の領域に埋設されているため、熱伝導性の高い水分を多く含みかつ軟弱野菜Vの根が集中する、培地17の上部及び中間部における複数の点滴チューブ31周辺を十分に冷却することができる。また、複数の断熱パネル19が栽培ベッド13に培地17を覆うように設けられ、複数の点滴チューブ31が複数の断熱パネル19と培地17との間に設けられているため、複数の断熱パネル19によって日射熱を遮熱しつつ、培地17及び複数の点滴チューブ31内の灌水液の保温性を高めることができる。特に、複数の点滴チューブ31が複数の断熱パネル19の対応する収納溝23に収納されているため、複数の断熱パネル19を培地17に密着させて、培地17及び複数の点滴チューブ31内の養液の保温性をより高めることができる。
【0033】
なお、各断熱パネル19の各定植穴21の上側部分が逆四角錐体形状を呈しているため、軟弱野菜Vの苗の定植後における灌水による活着促進用養液(活着促進用灌水液の一例)が各断熱パネル19の各定植穴21に流れ込み易くなっている。
【0034】
従って、本発明の実施形態によれば、培地17の上部及び中間部における複数の点滴チューブ31周辺を十分に冷却することができ、かつ、断熱パネル19によって日射熱を遮熱しつつ、培地17及び複数の点滴チューブ31内の養液の保温性をより高めることができるため、高温期における培地17の上部及び中間部の温度を低下させて、軟弱野菜Vの根の生育環境を向上させることができる。
【0035】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、高設栽培装置1を軟弱野菜Vの高設栽培に用いる代わりに、イチゴ,メロン,ブルーベリー,トマト等の果菜の高設栽培に用いたり、断熱パネル19の代わりに、ポリオレフィン製等のマルチシートを高設栽培装置1の構成要素にしたりする等、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る高設栽培装置の正断面図である。
【図2】断熱パネルの平面図である。
【図3】図3(a)は、収納溝に点滴チューブを収納した状態の断熱パネルの正面図、図3(b)は、図3(a)の一部を拡大した図である。
【図4】図4(a)は、収納溝に点滴チューブを収納した状態の断熱パネルの断面図、図4(b)は、図4(a)の一部を拡大した図である。
【図5】定植に使用しない定植穴をキャップによって塞いだ状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 高設栽培装置
3 栽培架台
13 栽培ベッド
15 培地シート
17 培地
19 断熱パネル
21 定植穴
23 収納溝
31 点滴チューブ
33 冷却チューブ
35 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を地面から離れた高所で栽培する高設栽培に用いられる高設栽培装置において、
栽培架台の上部に配設され、前記栽培架台の上部に凹状に架設された培地シート、及び培地シートの凹部に充填された培地を備えた栽培ベッドと、
前記栽培ベッドの上側に前記培地を覆うように設けられ、前記植物の苗を定植するための複数の定植穴が形成された断熱部材と、
前記断熱部材と前記培地との間に設けられ、前記複数の定植穴に隣接してあって、前記培地に灌水液を点滴供給する点滴チューブと、
前記培地の中間部における前記点滴チューブの直下の領域に埋設され、冷却液を流通可能な冷却チューブと、を具備したことを特徴とする高設栽培装置。
【請求項2】
前記断熱部材は断熱パネルであることを特徴とする請求項1に記載の高設栽培装置。
【請求項3】
前記断熱パネルに裏面に収納溝が形成され、
前記点滴チューブが前記断熱部材の前記収納溝に収納されていることを特徴とする請求項2に記載の高設栽培装置。
【請求項4】
前記断熱パネルの各定植穴の上側部分は、逆錐体形状を呈していることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の高設栽培装置。
【請求項5】
前記断熱部材はマルチシートであることを特徴とする請求項1に記載の高設栽培装置。
【請求項6】
植物を地面から離れた高所で栽培する高設栽培方法において、
前記植物の苗を定植するための複数の定植穴が形成された断熱部材を用い、前記断熱部材により栽培ベッドの培地を覆った状態で、前記断熱部材と前記培地との間に配設されかつ複数の前記定植穴に隣接した点滴チューブによって前記培地に灌水液を点滴供給すると共に、前記培地の中間部における前記点滴チューブの直下の領域に埋設された冷却チューブに冷却液を流通させることにより、前記培地を冷却しつつ、前記植物を前記高所で栽培することを特徴とする高設栽培方法。
【請求項7】
前記断熱部材は断熱パネルであって、全ての前記定植穴のうち、定植に使用しない前記定植穴をキャップによって塞いでおくことを特徴とする請求項6に記載の高設栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−112307(P2009−112307A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267851(P2008−267851)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(508333136)有限会社グリーンサラダ (1)
【Fターム(参考)】