説明

高速印写を行うためのマルチノズル型インク噴射ヘッドを有する液体噴射記録装置

【課題】高画質、高品質印写を得る。
【解決手段】気体流によって飛翔経路を変えずに飛翔し、回収手段によって回収されずに、飛翔するインク滴を印写滴として被記録体に付着させるとともに、印写滴が液体噴射記録ヘッドユニットから飛び出す部分を、複数個のインク噴射ノズルが配列された方向に伸びたスリット状の開口領域とした液体噴射記録ヘッドユニットであって、開口領域の空気に流れを作り、その空気の流れの速度ベクトルを開口領域内部に向かわせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速印写を行うためのマルチノズル型インク噴射ヘッドを有する液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷が、デジタル制御の電子印刷の分野における優れた製品として認められるようになってきたのは、例えば、その非衝撃性、低騒音性、およびシステムの簡単さのような種々の利点のためである。このため、インクジェット記録装置は、家庭用、オフィス用、およびその他の領域で商業的な成功をおさめてきた。
【0003】
従来、カラーインクジェット印刷は、ドロップオンデマンド型および連続流型という2つの技術が開発されてきた。両技術とも、提供されるインクの各色について独立したインク供給がなされ、インクは、プリントヘッドに形成された経路を通じて供給される。各経路には、ノズルが備えられており、ここから、インク滴が選択的に押し出されて、被記録体上に付着させられる。各技術は、印刷に用いられる各色のインクについて別々のインク供給システムを必要とする。
【0004】
通常、減法混色の三原色、すなわち、シアン、イエロー、マゼンタが用いられるのは、これらの色が数百万もの知覚される色の組み合わせを作り出すことが可能であるからである。
【0005】
ドロップオンデマンド型のインクジェット印刷においては、ピエゾ素子のような加圧アクチュエータ、あるいは熱による気泡の瞬時の膨張力を用いて、インク滴を発生させ、被記録体上に衝突させる(特許文献1、2、3、4)。後者は特にサーマルインクジェット方式(バブルジェット(登録商標)方式)と呼ばれる。
【0006】
ピエゾアクチュエータあるいはヒータを選択的に作動させることにより、インク滴の形成および放出が生じて、このインク滴が、プリントヘッドと被記録体の間の空間を通過して被記録体に達する。印刷される画像の形成は、被記録体とプリントヘッドを相対的に動かしつつ、個々のインク滴の形成を制御することによって実現される。
【0007】
連続流型のインクジェット印刷においては、インク滴の連続的なストリームを作り出すために、加圧されたインク供給源が用いられる。従来の連続流型のインクジェット記録装置においては、静電帯電装置(electrostatic charging devices)が利用される(特許文献5)。
【0008】
この静電帯電装置は、フィラメント状のインク柱が個々のインク滴に分かれる点の近くに設けられ、インク滴は、帯電させられた上で、電位差が大きい偏向電極によって適切な位置に誘導される。印刷が行われない場合には、インク滴は、インク捕捉機構(ガター)の中に偏向させられて、再利用または廃棄される。印刷が行われる場合には、インク滴を、偏向させないで、そのまま被記録体に達するようにする。あるいは、偏向させられたインク滴が被記録体に達するようにする一方で、偏向させられていないインク滴がインク捕捉機構に集められるようにする場合もある。
このような連続流型のインクジェット記録装置は、ドロップオンデマンド型の装置と比べて高速であるだけでなく高品質の画像形成が可能であるが、これに採用される静電偏向機構は、製造コストが高く、動作中の故障が比較的に多いという欠点もある。
【0009】
これに対して最近、新しい連続流型のインクジェット記録装置システムが提案されている(特許文献6)。このシステムは、ノズル孔から噴出するインク柱に、ヒータによって弱い熱パルスを周期的に加えることにより、このインク柱を液滴に分離して、ノズルから間隔をあけた位置において、加えられた熱パルスと同期して複数の液滴を生じさせる。この液滴は、ノズル孔出口近傍のヒータから非対称的に加えられる熱パルスによって、偏向滴/非偏向(直進)滴に分けられる。
【0010】
その後偏向滴は、その先において、気体流によって飛翔方向を変えられ、回収手段に捕獲され、非偏向(直進)滴は被記録体に衝突し、印写が行われる。あるいは非偏向(直進)滴が、その先において、気体流によって飛翔方向を変えられ、回収手段に捕獲され、偏向滴が被記録体に衝突し、印写が行われる構成であってもよい。
これによれば、従来から知られている連続流型のインクジェット記録装置における静電帯電装置は不要となり、液滴形成における制御性の向上が期待できる。
【0011】
また静電帯電装置は不要となることから、ノズル配列密度を容易に最終印写密度である600dpi〜2400dpi相当と同じくすることができる。
【0012】
このような新しい連続流型のインクジェット記録装置システムの提案を契機とし、ノズルをこのような密度で記録媒体の被印写幅全域に配列し、噴射ヘッド部分は固定して記録媒体のみを搬送移動させるページプリンタ型の記録装置実現に向けた開発が加速しはめてきているとともに、更なる新規原理の連続流型のインクジェット記録装置の研究、またそれにともなう技術課題の解決に向けた開発も加速しはじめている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上述のごとき実情に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、新規原理による液体噴射記録装置に特有なミストによる地肌汚れという技術課題を解決し、高画質、高品質印写を得ることにある。
【0014】
また第2の目的は、このような新規原理による液体噴射記録装置の原理をより明確にすることにある。
【0015】
さらに第3の目的は、このような新規原理による液体噴射記録装置による装置立ち上がり時の不安定な状態によって形成される不要インク滴による劣悪画質形成を回避することにある。
【0016】
また第4の目的は、このような新規原理による液体噴射記録装置に特有な構成を提案することにある。
【0017】
さらに第5の目的は、このような新規原理による液体噴射記録装置に特有な他の構成を提案することにある。
【0018】
また第6の目的は、このような新規原理による液体噴射記録装置に特有なさらに他の構成を提案することにある。
【0019】
さらに第7の目的は、このような新規原理による液体噴射記録装置に特有なミストによる地肌汚れという技術課題を解決し、高画質、高品質印写を得るために必要とされる具体的な条件を提案することにある。
【0020】
また第8の目的は、このような新規原理による液体噴射記録装置に特有なミストによる地肌汚れという技術課題を解決し、高画質、高品質印写を得るために必要とされる他の具体的な条件を提案することにある。
【0021】
さらに第9の目的は、このような新規原理による液体噴射記録装置に特有なミストによる地肌汚れという技術課題を解決し、高画質、高品質印写を得るために必要とされる本発明の液体噴射記録装置に特有な印写記録手順を提案することにある。
【0022】
また第10の目的は、このような新規原理による液体噴射記録装置において、万が一にも不要なミストが液体噴射記録ヘッドと被記録体の間に漂うようなことがあったり、あるいは印写滴が被記録体に付着して印写が行われたりする場合にその付着、衝突の衝撃によって微小ミストが発生し、それらが被記録体表面に漂うようなことがあっても、それを除去できるような構成を提案することにある。
【0023】
さらに第11の目的は、このような新規原理による液体噴射記録装置において、万が一にも不要なミストが液体噴射記録ヘッドと被記録体の間に漂うようなことがあったり、あるいは印写滴が被記録体に付着して印写が行われたりする場合にその付着、衝突の衝撃によって微小ミストが発生し、それらが被記録体表面に漂うようなことがあっても、それを除去できるような構成の具体的な手段を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、前記目的を達成するために第1に、印写時には被記録体にインク摘を噴射付与する液体噴射記録ヘッドユニットと、前記被記録体を前記液体噴射記録ヘッドユニットから前記インク滴が飛び出す印写部分の前面に搬送する被記録体搬送手段とよりなる液体噴射記録装置において、前記液体噴射記録ヘッドユニットは、インクを加圧し、複数個のインク噴射ノズルからインク柱を連続して噴射するマルチノズル型インク噴射ヘッドと、前記インク柱の先端部を飛翔するインク滴に分離する分離手段と、該飛翔するインク滴に対して、飛翔方向に対してほぼ垂直方向から気体流を付与する気体流付与手段と、気体流を付与されて飛翔経路を変えたインク滴を非印写滴として回収する回収手段とを備え、前記気体流によって飛翔経路をそれほど変えずに飛翔し、前記回収手段によって回収されず、そのまま飛翔するインク滴を印写滴として前記被記録体に付着させるとともに、前記印写滴が前記液体噴射記録ヘッドユニットから飛び出す部分を、前記複数個のインク噴射ノズルが配列された方向に伸びたスリット状の開口領域とした液体噴射記録ヘッドユニットであって、前記開口領域の空気に流れを作り、その空気の流れの速度ベクトルを前記開口領域内部に向かわせるようにした。
【0025】
また第2に、上記第1に記載の液体噴射記録装置において、前記インク滴は、インク柱からインク滴に分離される時に、印写情報に応じて大小のインク滴に分けられ、小インク滴は飛翔経路を変えられて回収され、大インク滴はそれほど飛翔経路を変えられずに印写に使用されるようにした。
【0026】
さらに第3に、上記第2に記載の液体噴射記録装置において、前記大インク滴は、前記液体噴射記録ヘッドユニットによってインク滴に分離される際に安定して印写に使用することができるようになるまで、前記回収手段とは別の第2の回収手段によって回収されるようにした。
【0027】
また第4に、上記第3に記載の液体噴射記録装置において、前記第2の回収手段は、前記大インク滴の飛翔経路を遮蔽して該大インク滴を捕獲する捕獲手段を有するとともに、該捕獲手段は位置可変とするようにした。
【0028】
さらに第5に、上記第1〜第4のいずれかの液体噴射記録装置において、前記気体流付与手段は、気体流を流す気流開口を有するとともに、非印写時に該気流開口を、前記被記録体が搬送、印写されるエリア雰囲気から遮断するキャップ手段を有するようにした。
【0029】
また第6に、上記第5に記載の液体噴射記録装置において、前記キャップ手段は、前記捕獲手段を兼ねるようにした。
【0030】
さらに第7に、上記第1〜第6のいずれかの液体噴射記録装置において、前記流れは、前記非印写滴が前記回収する手段に衝突して発生するミストを前記開口領域の開口外部に出さず、開口内部にとどめておく程度の吸引力、あるいはそれ以上の吸引力で、前記開口内部へ吸引する流れであるようにした。
【0031】
また第8に、上記第1〜第6のいずれかの液体噴射記録装置において、前記流れは、前記飛翔するインク滴によって引きずられるインク滴周囲のインク滴飛翔方向の空気流を逆流させる程度の吸引力で、前記開口内部へ吸引する流れであるようにした。
さらに第9に、上記第1〜第8のいずれかの液体噴射記録装置において、前記液体噴射記録ヘッドユニットによって前記開口領域に前記流れを作った後に、前記被記録体を前記印写部分の前面に搬送し、印写を開始するようにした。
【0032】
また第10に、上記第1〜第9のいずれかの液体噴射記録装置において、前記液体噴射記録ヘッドユニットと前記被記録体の間の空気に流れを作り、その速度ベクトルを前記被記録体の搬送方向に向かわせるようにした。
【0033】
さらに第11に、上記第10に記載の液体噴射記録装置において、前記液体噴射記録ヘッドユニットと前記被記録体の間の空気の流れの速度ベクトルを前記被記録体の搬送方向に向かわせる吸引もしくは送風手段を有するようにした。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、高画質、高品質印写を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る液体噴射記録装置の模式図ならびに概略ブロック図である。
【図2】特許文献6に記載されている液体噴射記録ヘッドユニットによる印写原理を説明するための断面図である。
【図3】インク液滴形成を行うための熱パルス駆動例ならびに偏向インク液滴形成のための熱パルス駆動例を示す図である。
【図4】本発明に好適に適用されるインクジェット原理におけるインク滴のガター近傍の飛翔挙動を説明するための図である。
【図5】本発明に係る液体噴射記録ヘッドユニットの気体噴射ノズル開口近傍の様子を説明する図である。
【図6】本発明に係る液体噴射記録ヘッドユニットの気体噴射ノズル開口を非印写時に被記録体の周辺雰囲気から遮蔽する例を示す図である。
【図7】上記遮蔽に使用する気体噴射ノズルキャップ手段の斜視図である。
【図8】本発明に係る液体噴射記録ヘッドユニットのインク噴射ノズル開口を非印写時にキャップし、目詰まり防止を行うことを説明する図である。
【図9】上記共通の手段の機密性を高めた構成を示す図である。
【図10】上記手段に加えてさらに気体噴射ノズル開口を被記録体の周辺雰囲気からより完全に遮蔽するための構成を示す図である。
【図11】本発明に係る液体噴射記録ヘッドユニットのインク液滴の噴射方向曲がり不良を検出する他の例を説明する図である。
【図12】本発明に係る液体噴射記録ヘッドユニットのインク液滴の噴射方向曲がり不良を説明する図である。
【図13】本発明に係る液体噴射記録ヘッドユニットに、さらにインク回収装置として、第2ガターを設けた例を説明する図である。
【図14】本発明に係る液体噴射記録ヘッドユニットの第2ガターの位置可変を説明する図である。
【図15】図4のガターおよび被記録体付近を拡大し、浮遊ミストが漂っている様子を説明する図である。
【図16】図2のスリット状の細長い開口を説明する図である。
【図17】スリット状の細長い開口領域に形成した空気流の速度ベクトルの方向が開口内部に向っていることを説明する図である。
【図18】空気流の速度ベクトルの方向をより詳細に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。
図1は、本発明における液体噴射記録装置構成の一例を模式的に示している。
図中、10は液体噴射記録ヘッドユニット、250は印写後被記録体搬送ローラ、252は印写前被記録体搬送ローラ、300は被記録体、400はコントローラ、410はインプットされるデータ、412はプリントヘッドドライブ回路、414は被記録体搬送制御回路、416はインク回収/再利用ユニット、418はインク供給ユニット、及び420は気体流加圧ユニットを示している。
【0037】
本実施形態では、液体噴射記録ヘッドユニット10は被記録体300の被記録幅をカバーする印写能力を有するように被記録幅方向に多数のノズルを有するものとし、液体噴射記録ヘッドユニット10は固定し、被記録体300をVpで示した矢印方向に搬送移動させることによって高速の印写を行うようにしたものである。
【0038】
連続流型のインクジェット記録手段はドロップオンデマンド型のそれに比べ、インク滴形成頻度が高く、高速印写、高速スループット、大量印刷に適した方式であるため、この例のように、液体噴射記録ヘッドユニット10は固定し、被記録体300を搬送移動させる構成とすることがその本来の能力を最大限引き出すためには適した構成である。
【0039】
さらにより好ましくは、インク滴形成頻度の高さを最大限利用するために、被記録体300は、カットされた被記録体(カット紙等)を1枚ずつ搬送移動させるより、ロール状で供給され搬送時に帯状に搬送される被記録体(ロール紙等)のような連続体として高速搬送することが望ましい。
【0040】
このような構成、つまり液体噴射記録ヘッドユニット10を固定し、記録媒体を搬送させて印写するといった構成をとる場合、印写密度600dpi〜2400dpi相当を考慮してノズル配列密度も600dpi〜2400dpi相当とした場合、A4サイズ換算で、少なく見積もっても1分間に50枚程度、多く見積もった場合最大1分間に3000枚程度印写することが可能である。
【0041】
例えば液体噴射記録ヘッドユニット10として、ドロップオンデマンド型(サーマルインクジェット方式含む)を採用した場合、1分間に50枚〜200枚程度、上記説明のような連続流型を採用した場合、1桁桁が大きい300枚〜3000枚程度まで可能である。
【0042】
なお、ここでいう枚数は、A4サイズ換算ということであり、実際にA4サイズのカット紙状態の枚数がA4サイズで最大3000枚得られるということではなく、カット前の帯状記録媒体でそれだけの印写能力を有するという意味であり、実際にカット紙状態になった場合、カット手段で切断するプロセスがあるため、1分間あたり得られる印写枚数はそれより少なくなる。
【0043】
つまり、このように搬送される連続体の被記録体300は、印写領域通過時は、帯状で高速搬送されるが、その後どこかでカットされ、1枚ずつの印刷物とされる。あるいは、被記録体300をあらかじめカット紙状態で用意し、1枚ずつ搬送し、印写する場合も、連続体の被記録体(帯状記録媒体)で印写する場合よりも、1分間あたり得られる印写枚数は少なくなる。
【0044】
なお本発明は、必ずしもこの構成に限定されるものではなく、液体噴射記録ヘッドユニットを被記録体の前をキャリッジ走査して印写を行ういわゆるシリアルプリンタ型の構成としてもよいのは言うまでもない。
【0045】
あるいは、凸版式印刷法、平版式印刷法、凹版印刷法、孔版印刷法等の比較的大面積(大判サイズ)の印刷に適した他の印刷手段と本発明の連続流型のインクジェット記録手段を組み合わせて、印刷部分(領域)を分担するようにしてもよい。
例えば、全体の共通部分の印刷を、凸版式印刷法、平版式印刷法、凹版印刷法、孔版印刷法等の旧来の印刷手段で印刷すると同時に、1枚ずつ印刷情報が異なるような部分(例えば宛名など)をコンピュータ情報にもとづいて、本発明の連続流型のインクジェット記録手段によって行うといった具合である。
【0046】
その場合、装置構成上、記録媒体の搬送手段は共通にするのが好ましい。そして共通の搬送手段としているため、本発明の連続流型のインクジェット記録手段によって印写を行う、つまりインク滴噴射を行うタイミングは、旧来の印刷手段で印刷する場合の搬送スピードにタイミングが合うように、記録媒体の搬送を検出するようなセンサーを配し、その情報にもとづいて、コンピュータ制御されて、インク滴噴射を行う、つまり印写が行われるようにする。
【0047】
図2は、特許文献6に記載されている連続流型インクジェット記録手段の原理を説明するために液体噴射記録ヘッドユニットの断面図を示したものである。
図中、10は液体噴射記録ヘッドユニット、11はプリントヘッドバックプレート、12はプリントヘッド液室マニホールド、14はノズルプレート、24はプリントヘッド支持体、42はインク流入口、50はノズル開口、60は加圧インク、84はガターに回収されるインク滴、87は回収インク、90は加圧気体流、91は気体供給マニホールド、92は気体供給路、93は気体噴射ノズルプレート、94は気体噴射ノズル開口、95は加圧気体流入口、96は気体流、97は気体供給マニホールドカバー、98は気体流供給ユニット、126はインク柱から分離させられ飛翔するインク滴、200はインク回収手段、202はインク回収路、204は多孔質部材、206はガター、208はインク回収吸引部、210は吸引された空気流、212はインク及び気体流吸引スロット、220はインク吸引マニホールド、及び300は被記録体を示している。
この図は断面図であるため、実際の構成においては、ノズル開口50がこの図の奥行き方向(紙面に対して垂直方向)に複数個配列されている。
【0048】
この例では、インク流入口42からプリントヘッド液室マニホールド12内に導入された加圧インク60は、ノズル開口50より噴出し、後述する手段によりインク滴に分裂し、Vdの速度で飛翔する。このインク滴は、そのまま直進すると前方にある被記録体300に衝突し、印写画像となる。なお、被記録体300はVpの速度で図の矢印方向に搬送されるが、この向きは逆であってもよい。
【0049】
一方、直進しないで後述する手段によって、図の垂直方向(ノズル開口50が複数個配列されている方向)に偏向させられたインク滴は、気体噴射ノズル開口94からVgの速度で噴出される気体流96により、図の下方にさらに方向を変えるように作用を受け、インク及び気体流吸引スロット212、あるいはその先のガター206に捕獲、回収され、それが溜まったものが図の回収インク87である。
【0050】
ここで、印写に使用されない偏向させられたインク滴は、気体噴射ノズル開口94からVgの速度で噴出される気体流96によりさらに方向を変えて、インク及び気体流吸引スロット212、あるいはその先のガター206の方向に向かうが、この例ではインク回収吸引部208において、吸引された空気流210を流す(吸引する)ことによって、より確実にインク回収を行うようにしている。
【0051】
なおここで説明した直進インク滴による印写、直進しないインク滴の回収という例は、本発明が好適に適用される新規な連続流型インクジェットの1原理であり、この印写/回収の原理は、上記1原理に限定されるものではなく、後述するようにいくつかの例がある。
【0052】
次に連続流型インクジェットにおけるインク液滴噴射のための条件の例を示す。
本発明においては、加圧インク60は、0.2MPa〜1MPaの圧力でノズル開口50より噴出し、飛翔時のインク液滴の速度は、Vd=15m/s〜30m/sとされる。この圧力ならびに速度は、後述する熱パルスを加える周波数および1滴のインク液滴の直径Dにも関連し、一般にλd/D=4〜6となるように定めることによって良好な均一インク液滴が得られる。
【0053】
本発明に好適に適用されるノズル開口50およびその周辺には、ノズルの出口側から見てノズル開口を中心にして、左右に独立して駆動できるヒータを薄膜形成手段によって形成している。
【0054】
またこのノズル開口50の周辺に左右に独立して駆動できるヒータを配したノズル開口50は、一定の間隔で複数個配列され、その間隔は最終的な印写密度に関連し、例えば、42.3μm〜10.6μm(印写密度600dpi〜2400dpi相当に対応)とされる。また、それに対応したノズル開口サイズDdは、φ23μm〜φ5μmとされる。なおこの部分の奥行き(ノズル部厚さ)は、20μm〜3μmとされる。またそれらの寸法に許容される精度(公差)は±0.2μm程度であり、ノズル開口の壁面に要求される表面粗さも、0.1μm以下とされる。
【0055】
このようなノズル開口50が複数個配列されたいわゆるマルチノズルプレートは、インク流入部となる共通のスロットから個別のノズル先端部分までSi基板等を利用し、異方性エッチング、等方性エッチング、湿式エッチング、ドライエッチング等の半導体プロセス技術を組み合わせて製作することができる。
【0056】
また、ノズル開口50の出口部分の周辺に形成される上記ヒータやそれに接続されるアドレス電極も、蒸着、スパッタリング等の薄膜形成技術ならびにフォトリソ、エッチング技術を組み合わせて、窒化Ta、硼化Hf等の発熱材料による薄膜構造のヒータ/Al等の電極パターンとして形成できる。なお、最終的に形成されたノズル開口のインクの通り道や、ヒータ/電極表面は、インクに腐食されないようにするため、Si酸化物やSi窒化物の薄膜によって保護される。
【0057】
本発明が好適に適用される連続流型インクジェットにおいては、噴射ヘッドの微細ノズルから加圧インクが噴射された場合、通常何も作用させなければ、いわゆる自然粒子化と呼ばれる状態でインク柱の先端がインク滴に分離される。この場合、インク滴分離(インク滴形成)は不安定な状態であり、形成されるインク滴はその質量や飛翔時の速度が不均一であり、この状態ではインクジェット印写に使用できない。
【0058】
これに対して、噴射ヘッドの微細ノズルからインク柱が噴出する時に前述のヒータによってインク柱表面に熱刺激を与えた場合、表面に定在波が形成され、インク柱の先端で分離されるインク滴は、質量ならびに飛翔時の速度が均一なインク滴とすることができる。なおこの場合、熱刺激は左右のヒータから均等に与えることによって行われる。この熱刺激(付与する熱エネルギー)を左右で変えると飛翔インク滴の飛翔方向の対称性がくずれ、左右どちらかに偏向して飛翔することになる。
【0059】
図3は、ノズル開口50近傍のノズル左側ヒータおよびノズル右側ヒータへの駆動電圧パルスを加える方法を模式的に示したものである。図中POWERと示しているものは、便宜的に駆動電圧と理解されたい。
【0060】
図3(a)は、左右のヒータそれぞれに同じ駆動パルスを与えたものであり、左右でインク柱の対称性はくずれることなく、熱刺激によって均一粒子化の状態を作り出す。すなわち、自然粒子化のような不安定な状態ではなく、インク柱表面に定在波ができ、均一インク滴が形成される。そしてそのインク柱ならびにインク滴は、左右の対称性がくずれず直進する。
【0061】
この時の駆動パルスは、100kHz〜300kHz程度の頻度で加えられ、1パルスあたりの加熱エネルギーは0.1μJ〜10μJとされ、この熱駆動パルスの頻度に対応してインク液滴が形成される。つまり1ノズルあたり、1秒間に1×105〜3×105個のインク液滴が形成できる。
【0062】
図3(b)は、ノズル右側ヒータに通常のエネルギーパルスPsより高いエネルギーパルスPdを加えている。これによりインク柱ならびにインク滴は、左右の対称性がくずれ、ノズル左側ヒータ側に偏向させられる。
【0063】
図3(c)は、ノズル左側ヒータに通常のエネルギーパルスPsより高いエネルギーパルスPdを加えている。これによりインク柱ならびにインク滴は、左右の対称性がくずれ、ノズル右側ヒータ側に偏向させられる。本発明においては上記のように、選択的に直進インク滴、偏向インク滴を形成できるが、次にこの直進インク滴および偏向インク滴を、印写滴および非印写滴とする手段について説明する。
【0064】
前述のようにノズル開口から噴射されたインク柱は、熱刺激を左右で同じにしたり、左右でバランスを変えたりすることによって、そのインク柱の先に形成されるインク滴が直進インク滴となったり、偏向インク滴となったりする。
【0065】
今ここで、偏向インク滴の飛行中に図2に示す気体流96に当たるようなインク噴射ノズル開口50と気体噴射ノズル開口94の位置関係とすると、偏向インク滴は左右の偏向とは別に、直角方向(図2のVg方向,つまり気体流の方向)に曲げられ、図2に示したインク及び気体流吸引スロット212、あるいはその先のガター206の方向に向かい、非印写滴、すなわち回収インクとなる。この場合、インク噴射ノズル開口50は一定の配列密度で1列に配列形成されたマルチノズルタイプのインクジェットヘッドを構成している。そして気体噴射ノズル開口94も、インク噴射ノズル開口50に対応して同じ配列密度で1列に配列形成されている。
【0066】
一方、直進インク滴は、気体流96から外れたところを直進するので、気体流96の作用を受けることなくそのまま直進し、図2に示したガター206の上方を、ガター部材に接触しないように飛翔し、被記録体300に衝突し、印写滴として使用され、印写が行われる。
【0067】
次に他の例を説明する。
上記例は、インク噴射ノズル開口50に対して気体噴射ノズル開口94を1対1に対応して設けていたが、ここで説明する例は、気体噴射ノズル開口94は、インク噴射ノズル開口50に対して1個おきに配置している。
前述のように本発明においては、左右のヒータにより、インク柱の対称性をどちらにもくずし、そして偏向させることができるため、この例のように例えば、熱刺激によって偏向させ、さらに気体流96によってガター206の方向へ偏向、回収させるインク滴を左右に偏向させるようにすれば、気体噴射ノズル開口94は、インク噴射ノズル開口50に対して1個おきに配置しても問題はない。
【0068】
つまりインク噴射ノズル開口50より噴射したインク滴は、直進インク滴を印写滴とし、左側あるいは右側へ偏向させられ、さらに気体流96によって偏向、回収させるインク滴を非印写滴とするような構成とすれば、2本のインク滴列に共通に対応する1つの気体流96によってガター206へ落として回収でき、気体噴射ノズル開口94は、インク噴射ノズル開口50に対して1個おきに配置できる。
【0069】
次にさらに別の例を説明する。
ここでは、インク噴射ノズル開口50に対して気体噴射ノズル開口94を1対1に対応して設けるとともに、直進するインク滴列の真上に対応する位置に、気体噴射ノズル開口94を配置し、直進してきたインク滴に気体流96が当たるようにインク噴射ノズル開口50と気体噴射ノズル開口94の位置関係を設定している。
【0070】
直進してきたインク滴は、気体流96によってガター方向に偏向させられ、回収されるとともに、熱刺激によって偏向させられるインク滴が気体流96の作用を受けることなく飛翔し、ガター206を飛び越えて被記録体300に衝突し、印写滴として使用され、印写が行われる。
【0071】
さらに他の例を説明する。以上の3例はいずれも、図3におけるヒータ駆動波形のパルス幅を一定にして、熱刺激を受けて粒子化された均一インク滴を形成して、その均一インク滴を印写滴として使用したり、ガター206へ回収したりする例である。
【0072】
これらの例とは違って、例えば図3のヒータ駆動波形のパルス幅あるいはそのパルス間隔を印写情報に応じて変えることにより、インク柱からインク液滴に切断されるインクの質量を変える、すなわちインク液滴の大きさ(質量)が異なるようにした複数のインク液滴を形成し、この大小、大きさの異なるインク液滴にインク液滴の飛翔方向に対してほぼ垂直方向から気体流を当てることによってインク液滴を偏向させ、印写を行うことも可能である。
【0073】
すなわち、質量の小さいインク液滴は、気体流の影響を受けて大きく偏向し、質量の大きいインク液滴は、気体流の影響を受けにくく、あまり大きく偏向することなくほぼ直進状態を保つことができる。よって、小さいインク液滴は偏向させてガターへ回収するとともに、大きいインク液滴を被記録体300に衝突させて記録を行うことができる。この場合は、ヒータ駆動による熱刺激は左右で対称性を崩す必要はない。
【0074】
図4によって説明する。
図4は、図2におけるガター206近傍におけるインク滴の飛翔挙動をより詳細に説明するために拡大して示した図である。図中、96は気体流、127は質量の大きい印写滴(大滴)、128は質量の小さい非印写滴(小滴)、206はガター、300は被記録体を示している。
【0075】
本発明の液体噴射記録ヘッドによって形成されるインク滴は、画像印写情報に応じて質量の大きい印写滴(大滴)127と質量の小さい非印写滴(小滴)128に分けられて、図中矢印で示したインク滴飛翔方向にVdの速度で飛翔する。
【0076】
ここで、インク滴飛翔方向に対してほぼ垂直方向から気体流96が付与される。すなわち気体流96は、この図において紙面に垂直(奥行き)方向、つまりマルチノズル列配列方向にエアカーテン状に形成され、飛翔するインク滴(127、128)にVgの速度で付与される。このエアカーテン状の気体流96は、この図において紙面に垂直(奥行き)方向、すなわちマルチノズル列配列方向に対応して伸びたスリット状の細長開口から噴出し、インク滴(127、128)に付与される。
【0077】
この気体流96によって、質量の小さい非印写滴(小滴)128は大きく影響を受けてその飛翔方向は大きく偏向し、ガター206に捕獲される。質量の大きい印写滴(大滴)127が受ける影響は小さく、わずかに偏向はするものの、ガター206の上方を越えて飛翔し、被記録体300に付着し、印写が行われる。図中示した一点鎖線は、気体流96が付与されなかった場合の飛翔経路(軌跡)を示しており、質量の大きい印写滴(大滴)127は、この軌跡からわずかに外れて飛翔する。
【0078】
以上、連続流型マルチノズルインクジェット記録手段の印写の原理を4つの例を挙げて説明したが、次に本発明にさらに特徴的な構成について説明する。
本発明では上記いずれの原理であっても、印写滴/非印写滴(回収インク滴)を決定付ける重要な要素は、インクを加圧することにより成長するインク柱に熱刺激を与えて、インク滴化する、あるいはインク柱の対称性をくずすヒータによる加熱と、半ば強制的にガター206方向にインク滴を落とすように作用させる気体流96である。
【0079】
とりわけ気体流96は、高精度に流れるようにし、印写に使用するインク滴の飛翔を妨げることなく、かつ非印写滴を確実にガター回収方向に向わせる必要がある。
【0080】
よって本発明で使用される気体噴射ノズル開口94は、インクを噴射するノズル開口50と同等なサイズで、かつ同等な精度で加工されたノズル形状とされる。よってこのような気体噴射ノズル開口94も、前述のようなインク噴射ノズルのノズル開口50をアレイ化したいわゆるマルチノズルプレートと製作と同様の技術によってSi基板等で製作することができる。
【0081】
そしてその大きさも前述の印写密度600dpi〜2400dpi相当を考慮した場合、開口サイズDgは、φ25μm〜φ8μmとされる。なおこの部分の奥行き(ノズル部厚さ)は、30μm〜3μmとされる。このような気体噴射ノズル開口94は、インク噴射ノズルのノズル開口50を複数個アレイ化して配列されているのと同様に、ノズル開口50のアレイ列と平行となる方向に複数個配列された構成をとる。
【0082】
なお、大小のインク滴を形成し、共通の細長形状のスリット状の開口から気体流を流す場合も、独立した気体噴射ノズル開口94ほどの精度は必要ではないが、安定したエアカーテン状の気体流を流すためには、例えば開口スリット寸法(スリット開口の短手寸法)として、50μm〜100μm±1μm程度の寸法精度が要求される。また開口部壁面の滑らかさなども、独立した気体噴射ノズル開口94と同等のものが望まれ、表面粗さも、0.1μm以下とされる。また、異物などがあって(付着していたりして)はならないのはいうまでもない。
【0083】
さらに重要なことは、高精度な形状を形成した後、安定して非印写滴に確実に当たるように気体を流すようにすることである。あるいは共通の細長形状のスリット状の開口の場合、流速変動のないエアカーテン状の気体流を流すようにすることである。前述のように本発明の連続流型のインクジェット記録装置は、インク滴形成頻度が高く、高速印写、高速スループット、大量印刷に適した方式であるため、紙等に代表される被記録体が高速に搬送され、紙のセルロース、コート材である炭酸カルシウム等の微粒子紛等の紙紛が絶えず舞っている状況において使用される。また、これら紙等の被記録体から発生するセルロース、微粒子紛等の紙紛の他に、空気中には繊維状の異物や、粒子状の異物等が浮遊していて、本発明のような微細気体噴射ノズル開口94の周辺に付着しては、気体流の良好な噴射を乱す原因になる。あるいは共通のスリット状の開口の場合、エアカーテン状の気体流に部分的に流速変動を生じさせる原因になる。
【0084】
またこの領域は、微小なインク滴が常時飛翔している領域であり、インク中の水分が周囲の環境湿度を高めていることもあり、これらの異物がより凝集して大きくなりやすく、また気体噴射ノズル開口94、あるいは共通のスリット状の開口の周辺に付着し易い状況を作り出している。
【0085】
図5は、図2に示した気体噴射ノズル開口の近傍断面を拡大表示したものである。図中、94は気体噴射ノズル開口、あるいは共通のスリット状の開口、100はセルロース、101は微粒子紛、102は繊維状の異物、103は粒子状の異物を模式的に示している。なおこれらは単独で浮遊していたり、互いに凝集して浮遊していたり、あるいは気体噴射ノズル開口94の周辺に付着していたりする。
【0086】
このように気体噴射ノズル開口94の周辺に異物が付着して気体流の良好な噴射を乱した場合、気体流が的確にインク液滴に当たらず、非印写滴(回収インク)とすることができない場合、その不要なインク滴が被記録体300に衝突、付着して、画質低下を引き起こす。あるいは共通のスリット状の開口の場合、異物付着によりエアカーテン状の気体流に局所的な流速変動が生じ、小インク滴の確実な回収の妨げになったりし、ひいては回収できなかった小インク滴が被記録体300に衝突、付着して、画質低下を引き起こす。
【0087】
あるいは気体流の流れる方向が乱れ、その気体流は印写滴が良好に飛翔するのを妨げるように作用し、画質低下を引き起こすこともある。
さらには気体噴射ノズル開口94の開口そのものを完全閉塞にいたらしめ、気体流を噴射することすらできない状態を引き起こすこともある。そのような場合当然ではあるが、劣悪な画質になる。
【0088】
このような気体噴射ノズル開口94は、常時そこから気体流が噴出していれば、このような異物が付着して、閉塞にいたらしめることは少ないと考えられるが、印写作業を停止して、気体流の噴出も停止している場合には、気体噴射ノズル開口94の開口部に異物が容易に付着する。
【0089】
本発明はこのような状況を克服すべく、非印写時に気体噴射ノズル開口94を被記録体が搬送、印写されるエリア周辺雰囲気から遮蔽、遮断するようにしている。なお、独立した気体噴射ノズル開口94ではなく、前述のように共通のスリット状の開口の場合であっても、程度の差はあれ、異物付着の問題は発生するので、以下に説明する気体噴射ノズルキャップ手段110は同様に適用され、またその効果も大である。
【0090】
図6は、その一例である。
気体噴射ノズル開口94はこの図において紙面に垂直方向(図の奥行き方向)に複数個配列されており、それら複数個の気体噴射ノズル開口94は、複数個の気体噴射ノズル開口94に対向する部分が図の奥行き方向に共通のスリット状の溝状凹部116になっている共通の気体噴射ノズルキャップ手段110によって、セルロース、微粒子紛等の紙紛や、繊維状あるいは粒子状の異物等が浮遊している被記録体の周辺雰囲気から遮蔽、遮断するようにしている。この場合、耐薬品性の強いフッ素ゴム等よりなるO−リング状の気密維持弾性部材111を介して複数個の気体噴射ノズル開口94を被記録体が搬送、印写されるエリア周辺雰囲気から周辺雰囲気から遮蔽、遮断するようにすると、気密性を高める意味でより効果的である。
【0091】
図7は、この気体噴射ノズルキャップ手段110を複数個の気体噴射ノズル開口94に対向する部分(溝状凹部116)の側からみた斜視図である(O−リングおよびO−リング溝は省略)。
【0092】
溝状凹部116は、その長さ方向(図の両矢印方向)が、複数個の気体噴射ノズル開口94の配列方向と平行になるように形成され、また、複数個の気体噴射ノズル開口94を覆うように設置される場合に、複数個の気体噴射ノズル開口94の列とこの気体噴射ノズルキャップ手段110のセンターライン(図の一点鎖線)がほぼ一致するように固定される。そして溝状凹部116の幅Swは気体噴射ノズル開口94の大きさDg、あるいは共通のスリット状の開口の短手寸法より大きくされ(例えば150μm〜2mm)、また深さSdは100μm以上とされ、気体噴射ノズル開口94の出口部分に、気体噴射ノズルキャップ手段110の部材が接触して破損しないようにしている。
【0093】
このような構成とすることにより、複数個の気体噴射ノズル開口94が多数になり、その配列部分の長さが長くなっても、その領域を確実に被記録体の周辺雰囲気から遮蔽、遮断できるようになっている。
【0094】
図8は、さらに別の例であり、この例では共通の気体噴射ノズルキャップ手段110の他に、この図の奥行き方向に複数個配列されているインク噴射ノズルのノズル開口50を、非印写時に共通のインク噴射ノズルキャップ手段112によってキャップし、ノズル開口50のインクの乾燥による目詰まり防止、あるいは外部からの異物付着による目詰まり防止を行っている。この場合も耐薬品性の強いフッ素ゴム等よりなるO−リング状の気密維持弾性部材113を介したキャップ構造としている。
【0095】
この共通のインク噴射ノズルキャップ手段112も、気体噴射ノズルキャップ手段110と同様な複数個のインク噴射ノズル開口50に対向する部分に図の奥行き方向に共通のスリット状の溝状凹部形状となっており、複数個のインク噴射ノズル配列方向と平行に形成されたスリット状の溝状凹部形状である。またこの共通のインク噴射ノズルキャップ手段112のスリット状の溝状凹部は、気体噴射ノズルキャップ手段110のスリット状の溝状凹部116とも平行な構成となっている。
【0096】
図9は、さらに別の例であり、この例では複数個配列された気体噴射ノズル開口94、あるいは共通のスリット状の開口と、同様に複数個配列されたインク噴射ノズルのノズル開口50とを同時に、気体噴射ノズル/インク噴射ノズル共通キャップ手段114によって、セルロース、微粒子紛等の紙紛や、繊維状あるいは粒子状の異物等が浮遊している被記録体が搬送、印写されるエリア周辺雰囲気から遮蔽、遮断するようにしたものである。
【0097】
気体噴射ノズル/インク噴射ノズル共通キャップ手段114は、連続流型液体噴射プリントヘッド10の前面(被記録体300がくる部分)に1つの共通な図の奥行き方向にスリット状の溝状凹部117をなすような構造をしている。そしてその溝状凹部117の長さ方向(図の奥行き方向)は、複数個の気体噴射ノズル開口94の配列方向と平行、あるいは共通のスリット状の開口の長手寸法方向と平行になるような構成とされる。また同時に、複数個のインク噴射ノズル開口50の配列方向とも平行である。
【0098】
そして気体噴射ノズル/インク噴射ノズル共通キャップ手段114は、耐薬品性の強いフッ素ゴム等よりなる気密維持弾性部材115を介して設けられる。
【0099】
図10は、さらに別の例であり、この例は図9の構成に加えて、気体噴射ノズルキャップ手段110ならびにインク噴射ノズルキャップ手段112をさらに設けて、より完全にインク噴射ノズルのノズル開口50の目詰まりを防止し、また気体噴射ノズル開口94の被記録体の周辺雰囲気からの遮蔽、遮断をより完全にしたものである。
【0100】
以上、気体噴射ノズル開口94の近傍、あるいは共通のスリット状の開口の近傍を、被記録体の周辺雰囲気から遮蔽するようにして、気体流96が高精度に流れるようにするための構成をいくつか説明したが、次に本発明のより特徴的な点について説明する。
【0101】
前述のように本発明では、微細な気体噴射ノズル開口94から気体流96を流して、その気体流96を正確にインク液滴に当たるようにしてインク液滴をガター206へ落として回収する必要がある。あるいは画像情報に応じて大小インク液滴を形成し、共通のスリット状の開口からエアカーテン状の気体流を流して、大インク液滴を印写に使用し、小インク液滴をガター206に回収する場合、確実に小インク液滴をガター206へ戻すようにする必要がある。
【0102】
その際、1つの重要なポイントが、前述のような気体噴射ノズル開口94、あるいは共通のスリット状の開口の近傍を、被記録体が搬送、印写されるエリア周辺雰囲気から遮蔽、遮断するようにして、気体噴射ノズル開口94、あるいは共通のスリット状の開口の出口付近の清浄状態を維持し、気体流96の噴射方向を曲げたりしないようにしたり、あるいはエアカーテン状の気体流に局所的な流速変動が生じないようにすることであった。
【0103】
もう1つの重要なポイントは、ここに流れる気体流96、あるいはエアカーテン状の気体流そのものの清浄度である。
前述のように、気体噴射ノズル開口94の大きさ、開口サイズDgは、φ25μm〜φ8μmとされ、あるいは共通のスリット状の開口の場合、スリット開口の短手寸法は、50μm〜100μm程度とされるため、気体流96そのものにわずかでもゴミ、異物等が混入していると、気体噴射ノズル開口94、あるいは共通のスリット状の開口を閉塞させたりする。完全閉塞に到らないまでも、気体噴射ノズル開口94、あるいは共通のスリット状の開口の出口付近の一部にそのようなゴミ、異物等が付着したりすることにより、気体流96が狙いどおりの方向に流れなくて、インク液滴に当てることができず、インク液滴をガター206へ落とすことができなくなってしまったり、小インク液滴をエアカーテン状の気体流でガター206へ落とすことができなくなってしまう。
【0104】
本発明ではこの点に鑑み、LSI(Large-Scale Integrated circuit)製造分野で清浄化空気が流されるように、ここを流れる気体流96、あるいはエアカーテン状の気体流もそれと同程度の清浄度となるようにして流すようにしている。具体的には、HEPA(High Efficiency Particulate Air Filter)と呼ばれるフィルターを通過し(ろ過された)、ゴミ等の異物を取り除いた清浄化気体を流すようにしている。そしてその清浄度の目安をあげると、本発明では、クラス100(1立方フィートあたり、直径0.3μm以上の塵埃が100個以下)相当の清浄化環境を保つのに必要な清浄化気体を流すようにしている。
【0105】
こうすることにより、気体噴射ノズル開口94、あるいは共通のスリット状の開口の出口付近を清浄に保ち、さらに気体噴射ノズル開口94、あるいは共通のスリット状の開口の内部から流れる気体流96も清浄であり、気体噴射ノズル開口94、あるいは共通のスリット状の開口が閉塞したり、気体流96が狙いどおりの方向に流れなくなったりする、あるいはエアカーテン状の気体流に局所的な流速変動が生じるという不具合を解消することができる。
【0106】
なお、本発明で流される気体流96としては、フィルターにより清浄化された空気の他にたとえば、フィルターにより清浄化された窒素ガスなども好適に使用される。
【0107】
次に、本発明の他の特徴について説明する。
一般に、空気は粘性流体であり、その流れには層流と乱流とがある。いま、円管内の流れを考えた場合、管内の各層の流体粒子が管軸に平行して流れるような流れを層流といい、また、各層の流体粒子が互いに入り乱れて不規則に混合しながら進んでいく流れを乱流という。よって、乱流の流れの中に、他の流体(例えば本発明でいうインク液滴等)が存在すると、不規則な流れに巻き込まれて、その流体が飛散状態となる。
【0108】
本発明の例で言うならば、気体流96を噴射する条件を良好に選ばないと、不要な飛散インクが飛び交い、それが被記録体300に付着したりして画質劣化を引き起こすことになる。
【0109】
より定量的には、流体の動粘性係数をγ、平均流速をu、管の内径をdとした場合に、次式(1)の、
R=ud/γ ・・・(1)
によって表される無次元数(これをレイノルズ(Reynolds)数という)が、ある一定の値以下の場合を層流といい、それ以上の場合を乱流という。また、乱流から層流、層流から乱流へと遷移する時のレイノルズ数を臨界レイノルズ(Rc)といい、多くの学者の研究により、
Rc=2310
とされている(普通、臨界レイノルズ数という場合、下限臨界レイノルズ数を指すので、ここでも、Rcの値は下限臨界レイノルズ数である)。
【0110】
具体的に層流を流すにはどうすればよいかというと、例えば、管の内径dが0.015mmとすると、空気の動粘性係数γは1気圧、20℃の時、約149.2×10-72/sであるから上式(1)を変形し、これらの数値を代入すると、下記式(2)
u=Rc×γ/d
=2310×149.2×10-7(m2/s)/0.015(mm)
≒2.3(m/s) ・・・(2)
となり、空気流速が約2.3m/s以下となるように流せば下限臨界レイノルズ数以下とすることができ、管の内部は、層流とすることができる。
【0111】
言い換えるならば、例えば本発明の独立した気体噴射ノズル開口94に気体流を流す際に、気体噴射ノズル開口94の大きさ、開口サイズDgを例えばφ15μmとした場合に、気体噴射ノズル開口94の厚さ方向部分(奥行き部分、通常30μm〜5μm程度)を通過する際、約2.3m/s以下の速度となるように加圧気体流入口95で圧力調整を行った清浄化気体流を流せば、気体噴射ノズル開口94を通過する気体流は、下限臨界レイノルズ数以下となり、層流とすることができ、不要な渦を発生したり、流れを乱したりすることはない。
【0112】
つまりこのように少なくとも気体噴射ノズル開口94を通過する時に下限臨界レイノルズ数以下となるような気体噴射ノズルの大きさおよび気体流速の組み合わせとして、気体流を流せば不要な渦を発生したり、流れを乱したりすることはない。なおこのような条件設定は、実際の装置で行うのは困難をともなうので、別途流れ可視化装置を準備し、気体噴射ノズル開口94相当部材を準備しその出口付近の流れをタバコの煙(粒子サイズ1μm以下)やドライアイスなどをトレーサとして使用して観察し、層流状態を確認すればよい。
【0113】
なお、共通のスリット状の開口の場合においても同様の考え方が採用され、エアカーテン状の気体流に不要な渦を発生したり、流れを乱したりすることがないような条件が選ばれる。この場合も、その条件が得られているか否かの判断は、上記トレーサを用いれば分かる。
【0114】
次に本発明のさらに他の特徴について説明する。本発明は連続流型マルチノズルインクジェット記録装置であるが、特許文献5のような静電帯電装置(electrostatic charging devices)を用いる連続流型のインクジェット記録装置ではない。したがって、ノズルの前に、各ノズルに対応した静電帯電装置(electrostatic charging devices)は不要であるため、従来の静電帯電装置(electrostatic charging devices)を用いる連続流型のインクジェット記録装置のノズル配列が印写密度50dpi相当程度しか配列できないのに対して、本発明においては桁が一つ多い、印写密度600dpi〜2400dpi相当のノズル配列が可能であり、そのノズル配列のままの印写密度の画質を得ることができる。しかしながらこのようにノズルの高密度配列を行うとそれにともなう特有の課題も発生する。
【0115】
今例えば、n本のノズルを1列に配列した場合を考える。ここでnは3以上の自然数である。その場合、1番目のノズルから噴射されるジェット(インク液滴ストリーム)とn番目のノズルから噴射されるジェットは、2番目以降、n−1番目のジェットとは、周囲の環境が違う。すなわち、1番目とn番目のノズルから噴射されるジェットは、それぞれ一方の側には隣にジェットが存在するのに対して、もう片側には隣のジェットは存在せず、単に空気があるのみである。
【0116】
これに対して、2番目以降、n−1番目のノズルから噴射されるジェットは、全てのジェットが両側に隣のジェットが存在するという環境である。つまり、1番目〜n番目の全てのノズルからジェットを噴射した場合、2番目以降、n−1番目のノズルから噴射されるジェットは、それぞれ両隣のジェットが噴射することによって生じる微小ではあるがジェットが噴射する際に受ける空気抵抗の減少があるということである。
【0117】
一方、1番目とn番目のノズルから噴射されるジェットは、それぞれ一方の側には単に空気があるのみであり、その空気抵抗を受けるために、2番目以降、n−1番目のノズルから噴射されるジェットよりもジェット噴射速度が遅れがちになる。これはちょうど水泳競技で、コースの両端の選手がそれ以外の選手に比べて水の抵抗を受けやすく、泳ぎにくく不利になるのと似た現象である。
【0118】
本発明では、この点に鑑み、例えばn本のノズルを1列に配列した場合に、2番目以降、n−1番目のノズルから噴射されるジェットを実際の印写に使用し、1番目とn番目のノズルから噴射されるジェットは、ダミージェットとして噴射させ、印写に使用しないで、ガター206へ回収させるようにしている。つまりこの1番目とn番目のノズルから噴射されるジェットは、それぞれ2番目およびn−1番目のノズルから噴射されるジェットが空気抵抗による作用を受けないようにするためだけに噴射するものである。
【0119】
つまり、印写に使用するインク噴射ノズル領域の両端部のそれぞれ1個をダミーノズルとするわけであるが、より好ましくは、1番目および2番目のノズル、およびn−1番目およびn番目のノズルから噴射されるジェットをダミーとし、3番目以降、n−2番目のノズルから噴射されるジェットを実際の印写に使用するのがよい。両端部それぞれ1個以上のダミーインク噴射ノズルを有するというのがポイントである。
【0120】
なおこのダミージェットも、印写に使用するジェットと同様にインク液滴形成、偏向等の作用を受け、また空気流によってガター206へ回収させるので、印写に使用するノズルと同様の加熱手段、あるいは対応する気体噴射ノズルも同様に有した構成となる。
【0121】
また、大小のインク滴を形成し、共通のスリット状の開口から気体流を流す場合においては、ダミージェットは全てガター206へ回収させる必要があるので、ダミージェットで形成されるインク滴は全て小インク滴とされ、エアカーテン状の気体流によって偏向され、確実にガター206へ回収される。
【0122】
本発明はこのように、ダミージェットによるアシストによって印写に使用するジェットが均一な速度で噴射できるようにするものであるが、これは、本発明が印写密度600dpi〜2400dpi相当のノズル配列が可能であり、その高密度にノズル配列を行うがためにこのようなダミーを設けることが有用になるのであって、従来の静電帯電装置(electrostatic charging devices)を用いる連続流型のインクジェット記録装置のノズル配列が印写密度50dpi相当程度しか配列できない方式の場合は、1本1本のジェットの間隔が充分に離れているため、それぞれのジェットは充分に空気抵抗を同じように受ける構成になっている。
【0123】
よって、ノズル配列が印写密度50dpi相当程度しか配列できない従来の静電帯電装置(electrostatic charging devices)を用いる連続流型のインクジェット記録装置の場合は、本発明のようにダミージェットを設けても効果はない。
【0124】
また本発明においても、仮に本発明の方式で、ノズル配列が印写密度50dpi相当程度に配列して形成した場合においては、従来の静電帯電装置(electrostatic charging devices)を用いる連続流型のインクジェット記録装置と同様にダミージェットを設けても効果はなく、本発明の高密度配列が可能であるという本発明特有の構成を最大限活用して、印写密度600dpi〜2400dpi相当のノズル配列を行った場合にのみ、このダミージェットの効果が得られる。
【0125】
なお、これにあわせて本発明では、そのインク回収手段であるガター206は、両端部の1個以上のインク噴射ノズルから噴射されるインク柱のインクを捕獲するための余裕を持った大きさとしている。つまり、ノズル配列方向のガター206の長さを、余裕を持った大きさとしている。また、気体噴射ノズルとインク噴射ノズルの共通のキャップ手段においても、両端部の1個以上のインク噴射ノズルおよびそれに対応した気体噴射ノズルをカバーする余裕を持った大きさ、つまり、ノズル配列方向の長さにおいて余裕を持った長さ構造にしている。
【0126】
次に本発明のさらに他の特徴について説明する。
本発明における連続流型マルチノズルインクジェット記録装置において、印写に使用するインク液滴は被記録体300に付着し、印写に使用しないインク液滴は、ガター206によって回収される。
【0127】
その際、回収されたインクは、微小なインク液滴として空気中を飛翔する間に、水系インクの場合は水分が、溶剤系インクの場合は溶剤成分が蒸発する。そのため、回収されたインクは一般に高粘度となっている。通常、この高粘度化した回収インクは廃棄されるが、本発明においては、図1に示されるインク回収/再利用ユニット416によって、インク供給ユニット418に戻され、再利用される。
【0128】
その際高粘度化した回収インクは、そのままでは微粒子化の条件がもとの新品のインクと異なるため、同じようにインク液滴を形成することができない。
【0129】
よって本発明においては、インク回収/再利用ユニット416においては、高粘度化した回収インクを低粘度化(新品インクと同じ粘度にすること)させるための、水あるいは溶媒を加えるようにしている。またその際、粘度検出手段を併用して最適粘度とすることは言うまでもない。また回収インクは高粘度化するのみならず、図5に示したセルロース100、微粒子紛101、繊維状の異物102、粒子状の異物103等も含んだものである。
【0130】
したがって、インクを再利用する場合は、インク回収/再利用ユニット416において、これらの異物等もフィルターろ過する機能も含むものである。
【0131】
次に本発明のさらに他の特徴について説明する。
本発明における連続流型マルチノズルインクジェット記録手段は、複数のノズルからインク噴射を行うとともに、各インク液滴は高精度に制御され、600dpi〜2400dpiといった高画質印写を行うものである。そのため各インク噴射ノズルより噴射されるインク柱及びその先のインク液滴ストリームは、所望の位置でインク柱に切断されるとともに、そのインク柱あるいはインク液滴ストリームは、本来あるべき位置から曲がった位置にあってはならない。
【0132】
本発明においてはそれを監視、チェックするために、例えば図11に示すように発光手段118ならびに受光手段119を配し、インク柱およびインク液滴に光を照射し、またその反射光を検出して、インク柱およびインク液滴の噴射方向曲がり不良を検出するようにしている。図中一点鎖線は、発光/受光の光学系の光軸を示している。なお発光手段118ならびに受光手段119はこのような配置ではなく、インク柱およびインク液滴を間に挟んで対向配置して、透過光の検出を行うようにしてインク柱およびインク液滴の噴射方向曲がり不良を検出するようにしてもよい。
【0133】
発光手段118としては、例えばLED(Light Emitted Diode)、LD(Laser Diode)等の発光素子が用いられ、受光手段119としては、例えばフォトダイオード、CCD(Charge Coupled Diode)イメージセンサ、CMOS(Compartmentally Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等が適宜用いられる。図3に示したヒータ駆動電圧パルスのタイミングにあわせてこの発光手段118ストロボ発光させ、受光手段119によってインク柱あるいはインク液滴の陰影、あるいは映像を検出することができる。ヒータ駆動電圧パルスのタイミングにあわせて発光手段118ストロボ発光させて同期をとって観察することにより、ヒータ駆動電圧パルスによって形成されるインク柱表面の定在波(表面波)および個々のインク液滴を静止した状態で観察することができる。
【0134】
また、このような発光手段118ならびに受光手段119ではなく、CCDカメラのような撮像素子によるインク柱あるいはインク液滴監視システムとし、イメージを観察するようにしてもよい。
【0135】
さらにこのような発光手段118ならびに受光手段119、あるいはCCDカメラのような撮像素子は、複数設けてノズル配列方向全てのインク柱をチェックするようにしたり、あるいはこれらの手段をノズル配列方向に移動させて全てのインク柱をチェックしたりするようにしてもよい。
【0136】
図12は、インク柱切断及びインク液滴形成の様子を示したものであり、この例では良好な状態でインク噴射が行われ、インク液滴形成が行われている状態として、直進インク120の場合を示している。
噴射方向不良インク121は、何らかの影響で、噴射方向が曲がった(本来あるべき位置からずれて噴射、飛翔している)例を示している。一般にこのような噴射方向不良インク121は、ノズル開口50への異物付着等によって引き起こされることが多い。これはノズル開口50が閉塞されるわけではないが、広義の目詰まりといってもよい。
【0137】
他の検出される不良としては、インク柱の切断長さ不良がある。これは上記のインク柱およびインク液滴の噴射方向曲がり不良にも関連するが、ノズル開口50への異物付着等によって、仮に噴射方向曲がりが引き起こされず、直進しているように見えても,このような異物が存在すると本来の良好なインク柱切断および液滴分離が行われない。観察される状況としては、ノズル開口50の出口からインク柱が切断されるまでの距離が本来あるべき位置になく、短い位置になる。
【0138】
また、ノズル内部に気泡等が存在して、自然粒子化の状態のように不安定な状態になり、インク柱が切断される位置が安定せず、ストロボ同期がとれず、静止状態で観察されない場合もある。このような場合も、インク柱の切断長さ不良の1種である。
【0139】
このような噴射方向曲がり不良やインク柱切断長さ不良の場合に、印写動作を行おうとすると、インク液滴は被記録体300状の狙った位置に着弾させることができず、いわゆる非常に画質の悪い画像となる。よって、このような状態(噴射方向曲がり不良やインク柱の切断長さ不良)にあっては、印写動作を停止し、被記録体やインクの無駄使いを避けるべきである。また、前述のように噴射方向曲がり不良を広義の目詰まりと述べたが、ノズル開口50が異物や乾燥したインクでふさがってしまう狭義の目詰まり(本当の目詰まり)の場合も、当然ではあるが印写動作は停止しなければならない。
【0140】
このように、噴射方向曲がり不良やノズル開口50が異物や乾燥したインクでふさがってしまう目詰まり(狭義/広義の目詰まり)が生じた場合、本発明においては印写動作を停止するとともに、次にその不良を解消するプロセスに移る。
【0141】
前述のように図8において、複数のインク噴射ノズルに共通なインク噴射ノズルキャップ手段112を示したが、本発明ではさらに改良を加え、このインク噴射ノズルキャップ手段を単にキャップするだけではなく、インク噴射ノズル部全域をカバーし、インク吸引を行う信頼性回復維持機構としている。これによりキャップすると同時に、ノズル開口50の出口側から、例えば一部乾燥して固化したインクを吸出し、目詰まり回復を行うことができる。
【0142】
このように本発明においては、前述のような噴射方向曲がり不良を検出した場合、印写動作を行うのではなく、それは停止して、その噴射方向曲がり不良検出情報に応じてこの信頼性回復維持機構を起動して、噴射方向曲がり不良を解消してから印写動作を行うようにしている。こうすることにより、噴射方向曲がり不良に起因する画質劣化を防止でき、被記録体やインクの無駄使いも省くことができる。
【0143】
次に本発明の連続流型のインクジェット記録手段に使用されるインクについて簡単に補足する。
本発明に使用されるインクは、従来知られている各種インクジェット用インクをそのまま使用することができる。
【0144】
インクは通常、液媒体と印写像を形成する記録剤及び所望の特性を得るために添加される添加剤より構成され、液媒体及び添加剤の種類及び組成比を適宜選択しながら、その粘度が0.5cP〜30cP(20℃)、表面張力が1×10-2〜6×10-2N/m(10〜60dyn/cm(20℃))となるようなものとすれば、本発明のインク液滴形成の条件がほぼ満たされる。
【0145】
本発明の連続流型のインクジェット記録手段は、従来の静電帯電装置(electrostatic charging devices)を用いる連続流型のインクジェット記録手段とはそのインク液滴形成の原理、あるいは偏向飛翔させる原理が異なるため、水溶性であったり、インクの導電性が必要であったりという制約はない。つまり、前述の粘度、あるいは表面張力を満たすものであれば、水性、非水性、溶解性、導電性、絶縁性のいずれのインクも好適に使用できる。
【0146】
また紫外線硬化反応開始剤を入れた、いわゆるUV(Ultra Violet)インク(紫外線硬化型インク)として知られるインクも好適に使用できる。このインクの場合、発光波長ピークが350〜420nmであり、かつ、前記被記録媒体表面での最高照度が10〜1,000mW/cm2となる紫外線を発生する発光ダイオード(LED)あるいはレーザーダイオード(LD)等の紫外線(UV)照射光源を使用して、インクを瞬時に硬化させることができる。また、紫外LED及び紫外LDを使用することもできる。
【0147】
さらに他の活性エネルギー源としては、水銀ランプやメタルハライドランプ、ガス・固体レーザー等を用いてもよい。このように、紫外線(UV)照射により、インクを瞬時に硬化させることができるので、本発明のように従来にはない高速スループット能力を有し、インク乾燥、あるいは硬化すばやく行う必要がある本発明のような装置にとっては、好ましいインクである。また、記録剤も所望の記録濃度が得られるように、インク中において、0.2〜10wt%の範囲内とすれば、染料、顔料いずれも使用することができる。
【0148】
次に本発明のさらに他の特徴について説明する。
前述のように本発明の印写の原理は4方式説明したが、本発明の液体噴射記録装置に最も好適に適用される方式は、大小のインク滴を形成し、印写/非印写に使い分ける方式である。
【0149】
ところで原理的には前述のとおりであるが、実際に適用する場合においては高品質な画像を得るために、この原理以外に実施面における課題を解決する必要がある。
以下に3つの課題およびその解決手段について説明する。なお前述のように、大小のインク滴を形成し、印写/非印写に使い分ける方式が最も本発明の液体噴射記録装置に好適に適用されるので以下の説明はこの方式に基づいて行うが、この方式以外の前述の3方式にも本発明の特徴が適用でき、相応の効果が得られることはいうまでもない。
【0150】
第1の課題は、大小のインク滴が安定して形成されるまでの液体噴射記録ヘッドユニット立ち上がりに関する課題である。
本発明においては、2種類の流体、すなわちインクおよび気体流を使用している。これらの流体は装置のスイッチオンですぐに所望のインク噴流になる、あるいは気体流になるというものではなく、一定の安定した圧力で、インクが噴出する、あるいは気体流が形成されるまで時間がかかる。
【0151】
インク柱に熱刺激を与えるヒータ駆動のような電気的信号は瞬時に与えることができるが、流体が一定の圧力で安定して流れるまでには時間がかかる。
すなわち、インクにしろ、気体流にしろ、定常圧力で流れるまでに、これはその流体系全体の大きさ、圧力の大きさ等にも依存し、一概にどれだけの時間が必要であると断言することはできないが、少なくとも本発明のようなページプリンタに適用されるような液体噴射記録ヘッドユニットの流体系においては、安定したインク噴射ならびに大小のインク滴形成ができるようになるまでに、スイッチオン後、最低でも0.1s程度は時間がかかる。場合によっては、インクが所望の温度に達し、所望の粘度に達するまで、必要とされる安定した液滴形成条件が得られないため、10s程度かかる場合もある。
【0152】
この安定した液体噴射記録ヘッドユニットの立ち上がりが得られるまで、インク滴は飛翔しつづける、またその飛翔方向も安定状態に達するまでは直進するとは限らず、通常の飛翔経路を外れて飛翔し、周囲を汚すこともあり、問題となる。
【0153】
本発明はこの点に鑑み、なされたものである。
図13は、図4において、さらにインク回収装置として、第2ガター207を設けた例を示している。
【0154】
この例では、ガター206とは別に、安定した液体噴射記録ヘッドユニットの立ち上がりが得られるまでの不要インク滴を捕獲、回収するために第2ガター207を設けている。
【0155】
この第2ガター207は、安定状態において大インク滴が飛翔する飛翔経路(一点鎖線で示す)をも遮蔽して、確実に不要インク滴を捕獲、回収するようにしている。
【0156】
なお、液体噴射記録ヘッドユニットの立ち上がりが安定した後は、通常の印写作業が行えるように、この第2ガター207は、下方に下げられるようにその位置は可変としている(図14)。またこの第2ガター207は、ガター206をその位置を上下に可変とする構造とすることにより、ガター206が兼用し、1個のガター206でその機能をまかなってもよい。
【0157】
さらには、前述の気体噴射ノズル/インク噴射ノズル共通キャップ手段114(図9、図10参照)に移動構造を設けることによって位置可変とし、このような印写に使用しない不要インク滴を捕獲、回収するガター機構と兼用としてもよい。
【0158】
第2の実施面における課題は、微小浮遊ミストによる画像品質の低下である。
本発明では前述のように、非印写滴(小滴128)はガター206によって回収される。ガター206方向へ飛翔し回収される小滴128は、15〜30m/sといった大変高速で飛翔しガターに衝突する。そのため、衝突時に分裂、ミスト化し、それがその近傍に浮遊し、さらには、被記録体の方に漂ってきて、被記録体表面に付着し、いわゆる地肌汚れと称する画像品質の低下をまねくという不具合を引き起こす。
【0159】
図15にその地肌汚れのイメージを示す。
図15は、図4のガター206、被記録体300付近を拡大したものである。図中129は浮遊ミストを示している。この浮遊ミスト129は、ガター206方向へ飛翔し回収される小滴128がガター206に衝突する際に小滴128が分裂して発生するもので、この近傍に浮遊し、気体流96によって下方に回収されるものもあるが、被記録体300に付着して、いわゆる地肌汚れとして画像品質の低下をまねく原因になるものもある。
【0160】
本発明ではこの点に鑑み、この浮遊ミスト129による地肌汚れを皆無とし、高品質な画像を得ようとするものである。
本発明はそのために図15に示した浮遊ミスト129が、被記録体300の被記録面の方に行かないようにしている。具体的には、図2のガター206の先部分、すなわち被記録体300に近く、被記録体300側から液体噴射記録ヘッド方向を見た場合にノズル配列方向(被記録体300の幅方向つまり被記録体300の搬送方向と直交する方向)に細長い開口状になっている領域から、浮遊するミスト129が被記録体300の方に行かないようにしている。
【0161】
すなわち図16に示したA領域、ここは紙面に垂直(奥行き)方向、すなわちマルチノズル列配列方向に対応して伸びたスリット状の細長い開口となっており、ここからガター206に回収されない質量の大きい印写滴(大滴)127が飛び出して被記録体300に付着するのであるが、浮遊するミスト129はこのスリット状の細長い開口の外に出て被記録体300の方に行かないようにしている。
【0162】
図17に浮遊するミスト対策について具体的に示す。
図中、130はこの領域に形成した空気流の速度ベクトルを示している。つまり本発明では、この細長い開口状になっている(紙面に垂直で奥行き方向に細長い開口状になっている)領域Aの部分において、この近傍の空気がただ単に漂っている状況ではなく、強制的に特定の方向に流れを作るようにし、その速度ベクトル130の向きが、開口内部(液体噴射記録ヘッド方向つまり液滴の噴射飛翔方向と逆の方向)に向かうようにしている。
【0163】
図18は、上記A領域をさらに拡大して近傍の空気流の速度ベクトルをより詳細に示したものである。仮に浮遊ミストが開口の外に出ていたとしても、速度ベクトル130が、開口内部に向かうように空気流を形成するので、その流れに乗って浮遊ミストも開口内部に流れ、被記録体への付着、すなわち地肌汚れが生じないようになっている。
なおこのような空気流の速度ベクトルが開口内部に向かっているか否かは、タバコの煙(粒子サイズ1μm以下)やドライアイスなどをトレーサとして使用して観察することによって確認できる。
【0164】
このように本発明では、小滴128(非印写摘)がガター206に衝突した際に発生、浮遊するミスト129をこの細長い開口状になっているスリットの開口領域Aの外部に出さず、開口領域Aの内部にとどめておく程度の吸引力、あるいはそれ以上の吸引力で、内部へ吸引する流れを意図的に作るようにしている。
【0165】
またこのような吸引力は別の表現をするならば、噴射飛翔するインク滴(127、128)がそのインク滴近傍の空気を巻き込んでインク滴周囲にインク滴飛翔方向の空気の流れを作るが、その空気の流れを逆流させる程度の吸引力で、内部へ吸引する流れを意図的に作るようにしている。
【0166】
このような流れは、たとえば図2のインク及び気体流吸引スロット212やインク回収路202に連なるインク回収吸引部208に設けられたファンあるいは真空吸引ポンプ等(図示せず)によって作り出すことができる。あるいは別途排気流路を設け、それに、ファンあるいは真空吸引ポンプ等を配置して、このような流れを作り出してもよい。
【0167】
以上の説明より、本発明においては、小滴128(非印写摘)がガター206に衝突した際に発生、浮遊するミスト129を開口外部に出さないように内部へ吸引する流れを意図的に作るようにしたものであるが、次に第3の実施面における課題として、実際の液体噴射記録装置においてこの技術をどのように適用するかその手順について説明する。
【0168】
本発明のように流体を扱う系の場合、その応答、反応は電気信号と違い、かなりタイムラグが発生してから動作が行われる。
【0169】
浮遊するミスト129を開口外部に出さないように内部へ吸引する流れを意図的に作るようにした本発明の系においてもそれは例外ではなく、安定して吸引できるようになるまで例えば、1sから10s程度の時間を要し、この安定状態に達するまでは、浮遊ミスト129は開口部分に漂っていることもあり、その部分に被記録体が存在した場合、地肌汚れを引き起こす原因となる。
【0170】
本発明ではこの点に鑑み、前述のような液体噴射記録ヘッドユニットによって開口領域に流れを作って浮遊ミスト129が開口外部に出ないようにする場合、必ず、開口外部に出ないようになった後、すなわちこのような吸引動作が安定して着実に吸引動作を行うようになってから、被記録体を印写部分の前面に搬送し、印写を開始するようにしている。こうすることにより,浮遊ミスト129は確実に吸引され、開口の外側に漂って被記録体の地肌汚れを引き起こすといったことは皆無となる。
【0171】
なおこの浮遊ミストの課題は、インク滴のガター206への衝突、分裂によるものなので、小滴128(非印写摘)の衝突による場合よりも、印写滴/非印写滴とも同じ大きさであって、小滴128よりも質量が大きい前述の他の3方式の場合により重要な課題であって、それらの方式の場合の方がその効果も大であることを付け加えておく。
【0172】
次に本発明のさらに他の特徴について説明する。
以上の説明より、本発明ではこのような浮遊ミストによる地肌汚れという課題は解決されるが、本発明においてはさらなる安全策を講じている。すなわち、浮遊ミストは基本的には、前述のような開口領域から外へ漏れ出すということはないが、本発明の原理による印写においては、インク滴が被記録体に付着する際、15〜30m/sといった大変高速で飛翔し、被記録体に衝突するため、衝突時にインク滴の主要部分は被記録体上に画素という形で画像形成に使用されるが、一部、分裂、ミスト化し、それが被記録体表面に付着して、地肌汚れを引き起こす場合がある。
【0173】
また、前述の浮遊ミストも開口領域から外へ漏れ出すということは、通常であればないが、不慮の事故等によって、開口領域から外へ漏れ出すということが全くないということは断言できない。
【0174】
そこで本発明においてはこれらのことに鑑み、液体噴射記録ヘッドユニット10と被記録体300の間の空気に流れを作り、その速度ベクトルを被記録体300の搬送方向に向かわせるようにしている。
例えば図2において、被記録体300はVpの速度で図の矢印方向に搬送されることを説明したが、この搬送方向と同じ方向に空気の流れを作り、仮に液体噴射記録ヘッドユニット10と被記録体300の間にミストが存在したとしても、印写部分に漂うことなく、速やかにこの空気の流れによって、移動、拡散せしめ、特定の部分に地肌汚れが生じるというようなことのないようにしている。なお、この被記録体300の搬送方向の向きは図2の矢印の向きとは逆であってもよく、本発明のポイントは、搬送方向の向きと空気の流れの向きを同じにして、ミストを印写部分から効率よく、移動、拡散せしめることである。
【0175】
本発明の場合、単に移動、拡散せしめるだけで、回収は行っていないので、より微視的にみると、ミストの一部は被記録体300のどこかに付着することになるが、その量は大変少なく、地肌汚れ不良としてはほとんど認識されないレベルである。
このような空気の流れの速度ベクトルを被記録体300の搬送方向に向かわせる手段としては、図示しないが、ファン等の送風手段およびこの領域に空気流を形成できるようなダクトを設けて、送風あるいは吸引を行うようにすればよい。
【0176】
<効 果>
本発明によれば、印写時には固定して被記録体にインク摘を噴射付与する液体噴射記録ヘッドユニットと、前記被記録体を前記液体噴射記録ヘッドユニットから前記インク滴が飛び出す印写部分の前面に搬送する被記録体搬送手段とよりなる液体噴射記録装置において、前記液体噴射記録ヘッドユニットは、インクを加圧し、複数個のインク噴射ノズルからインク柱を連続して噴射するマルチノズル型インク噴射ヘッドと、前記インク柱の先端部を飛翔するインク滴に分離する手段と、該飛翔するインク滴に対して、飛翔方向に対してほぼ垂直方向から気体流を付与する気体流付与手段と、気体流を付与されて飛翔経路を変えたインク滴を非印写滴として回収する手段とよりなり、前記気体流によってそれほど飛翔経路を変えずに飛翔し、前記回収する手段によって回収されず、そのまま飛翔するインク滴を印写滴として前記被記録体に付着させるとともに、前記印写滴が前記液体噴射記録ヘッドユニットから飛び出す部分を、前記複数個のインク噴射ノズルが配列された方向に対応して伸びたスリット状の開口領域とした液体噴射記録ヘッドユニットであって、前記開口領域の空気に流れを作り、その空気の流れの速度ベクトルを前記開口領域内部に向かわせるようにしたので、本発明のような新規原理による液体噴射記録装置に特有なミストが被記録体表面に向かわず、したがってミストによる地肌汚れがなく、高画質、高品質印写を得ることができるようになった。
【0177】
本発明によれば、このような液体噴射記録装置において、前記インク滴は、インク柱からインク滴に分離される時に、印写情報に応じて大小のインク滴に分けられ、小インク滴は飛翔経路を大きく変えられて回収され、大インク滴はそれほど飛翔経路を変えられずに印写に使用されるようにしたので、上記第1の効果と同様に、ミストが被記録体表面に向かわず、したがってミストによる地肌汚れがなく、高画質、高品質印写を得ることができるようになった。
【0178】
本発明によれば、このような液体噴射記録装置において、前記前記大インク滴は、前記液体噴射記録ヘッドユニットによってインク滴に分離される際に安定して印写に使用することができるようになるまで、前記回収する手段とは別の第2の回収手段によって回収されるようにしたので、不安定な状態で形成されたインク滴によって劣悪な画質の印写が行われ被記録体を無駄に消費することが皆無となった。本発明の液体噴射記録装置は、そのスループット(印写能力)が従来のインクジェット記録装置に比べて圧倒的に高い(単位時間あたりに印写できる枚数が多い)ため、不安定な状態でミス印写が行われる場合の被記録体の無駄な消費も膨大であり、このような構成にすることの効果は計り知れない。
【0179】
本発明によれば、このような液体噴射記録装置において、前記第2の回収手段は、前記大インク滴の飛翔経路を遮蔽して該大インク滴を捕獲する捕獲手段を有するとともに、該捕獲手段は位置可変とするようにしたので、安定状態になった時点で捕獲手段の位置を変えて印写開始を行うことができるようになった。
【0180】
本発明によれば、このような液体噴射記録装置において、前記気体流付与手段は、気体流を流す気流開口を有するとともに、非印写時に該気流開口を、前記被記録体が搬送、印写されるエリア雰囲気から遮断するキャップ手段を有するようにしたので、このような液体噴射記録装置に特有な気体流を流す気流開口に、印写されるエリア雰囲気に浮遊している紙粉、紙表面に塗布されている微粒子紛、ごみ等が付着するのを防止でき、気体流を良好に流すうえでの阻害要因を排除することが可能となり、新規な液体噴射原理を採用した本発明の液体噴射記録装置の動作安定性を確保できるようになるとともに、従来にはない超高速印写、高速かつ大量スループットが安定して実現できるようになった。
【0181】
本発明によれば、このような液体噴射記録装置において、前記キャップ手段は、前記捕獲手段を兼ねるようにしたので、上記効果に加えて、構成を単純にすることができた。
【0182】
本発明によれば、このような液体噴射記録装置において、前記流れは、前記非印写摘をガターに衝突させた際に発生するミストを前記開口スリットの開口外部に出さず、開口内部にとどめておく程度の吸引力、あるいはそれ以上の吸引力で、内部へ吸引する流れとしたので、ミストが被記録体表面に向かわず、したがってミストによる地肌汚れがなく、高画質、高品質印写を得ることができるようになった。
【0183】
本発明によれば、このような液体噴射記録装置において、前記流れは、液滴によって引きずられる液滴周囲の液滴飛翔方向の空気流を逆流させる程度の吸引力で、内部へ吸引する流れとしたので、ミストが被記録体表面に向かわず、したがってミストによる地肌汚れがなく、高画質、高品質印写を得ることができるようになった。
【0184】
本発明によれば、このような液体噴射記録装置において、前記液体噴射記録ヘッドによって前記開口スリット部に前記流れを作った後に、前記被記録体を前記液体噴射記録ヘッドの印写部分に搬送し、印写を開始するようにしたので、本発明に特有なミストは、前記開口スリット部の空気の流れに乗って開口スリット内部へ移動し、その後被記録体への印写が始まるので、被記録体表面付近にはミストは存在せず、従ってミストによる地肌汚れのない、高画質、高品質印写が得られるようになった。
【0185】
本発明によれば、このような液体噴射記録装置において、前記液体噴射記録ヘッドと前記被記録体の間の空気に流れを作り、その空気の流れの速度ベクトルを前記被記録体の搬送方向に向かわせるようにしたので、予測せぬ事態によって万が一にも不要なミストが前記開口スリット部の外に出てきたとしても、すみやかに被記録体の搬送方向に向かわせることができるので、いつまでもその部分にとどまって地肌汚れを引き起こすということがなく、高画質、高品質印写が得られるようになった。また、印写時に印写滴が被記録体に付着、衝突することによって発生する微小ミストに関しても、それらを速やかに除去できるようなり、地肌汚れのない、高画質、高品質印写が得られるようになった。
【0186】
本発明によれば、このような液体噴射記録装置において、前記速度ベクトルを前記被記録体の搬送方向に向かわせる吸引もしくは送風手段を有するようにしたので、上記第5の効果と同様に、予測せぬ事態によって万が一にも不要なミストが前記開口スリット部の外に出てきたとしても、すみやかに被記録体の搬送方向に向かわせることができるので、いつまでもその部分にとどまって地肌汚れを引き起こすということがなく、高画質、高品質印写が得られるようになった。また、印写時に印写滴が被記録体に付着、衝突することによって発生する微小ミストに関しても、それらを速やかに除去できるようなり、地肌汚れのない、高画質、高品質印写が得られるようになった。
【0187】
なお、上述した実施の形態は、本発明の好適な実施の形態の一例を示すものであり、本発明はそれに限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、種々変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0188】
10 液体噴射記録ヘッドユニット
11 プリントヘッドバックプレート
12 プリントヘッド液室マニホールド
14 ノズルプレート
24 プリントヘッド支持体
42 インク流入口
50 インク噴射ノズル開口
60 加圧インク
87 回収インク
90 加圧気体流
91 気体供給マニホールド
92 気体供給路
93 気体噴射ノズルプレート
94 気体噴射ノズル開口
95 加圧気体流入口
96 気体流
97 気体供給マニホールドカバー
98 気体流供給ユニット
100 セルロース
101 微粒子紛
102 繊維状の異物
103 粒子状の異物
110 気体噴射ノズルキャップ手段
111 気密維持弾性部材
112 インク噴射ノズルキャップ手段
113 気密維持弾性部材
114 気体噴射ノズル/インク噴射ノズル共通キャップ手段
115 気密維持弾性部材
116 溝状凹部
117 溝状凹部
118 発光手段
119 受光手段
120 直進インク
121 噴射方向不良インク
126 インク柱から分離させられ飛翔するインク滴
127 大インク滴
128 小インク滴
129 浮遊ミスト
130 空気流の速度ベクトル
200 インク回収手段
202 インク回収路
204 多孔質部材
206 ガター
207 第2ガター
208 インク回収吸引部
210 吸引された空気流
212 インク及び気体流吸引スロット
220 インク吸引マニホールド
250 印写後被記録体搬送ローラ
252 印写前被記録体搬送ローラ
300 被記録体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0189】
【特許文献1】米国特許第3683212号明細書
【特許文献2】米国特許第3747120号明細書
【特許文献3】米国特許第3946398号明細書
【特許文献4】米国特許第4723129号明細書
【特許文献5】米国特許第3373437号明細書
【特許文献6】米国特許第7413293号明細書

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印写時に被記録体にインク摘を噴射する液体噴射記録ヘッドユニットと、前記被記録体を前記液体噴射記録ヘッドユニットから前記インク滴が飛び出す印写部分の前面に搬送する被記録体搬送手段と、を備えた液体噴射記録装置において、
前記液体噴射記録ヘッドユニットは、インクを加圧し、複数個のインク噴射ノズルからインク柱を連続して柱状に噴射するマルチノズル型インク噴射ヘッドと、
前記インク柱の先端部を飛翔するインク滴に分離する分離手段と、
該飛翔するインク滴に対して、飛翔方向に対してほぼ垂直方向から気体流を付与する気体流付与手段と、
気体流を付与されて飛翔経路を変えたインク滴を非印写滴として回収する回収手段と、を備え、
前記気体流によって飛翔経路をそれほど変えずに飛翔し、前記回収手段によって回収されずに、飛翔するインク滴を印写滴として前記被記録体に付着させるとともに、前記印写滴が前記液体噴射記録ヘッドユニットから飛び出す部分を、前記複数個のインク噴射ノズルが配列された方向に伸びたスリット状の開口領域とした液体噴射記録ヘッドユニットであって、
前記開口領域の空気に流れを作り、その空気の流れの速度ベクトルを前記開口領域内部に向かわせることを特徴とする液体噴射記録装置。
【請求項2】
前記インク滴は、インク柱からインク滴に分離される時に、印写情報に応じて大小のインク滴に分けられ、小インク滴は飛翔経路を変えられて回収され、大インク滴はそれほど飛翔経路を変えられずに印写に使用されることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射記録装置。
【請求項3】
前記大インク滴は、前記液体噴射記録ヘッドユニットによってインク滴に分離される際に安定して印写に使用することができるようになるまで、前記回収する手段とは別の第2の回収手段によって回収されることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射記録装置。
【請求項4】
前記第2の回収手段は、前記大インク滴の飛翔経路を遮蔽して該大インク滴を捕獲する捕獲手段を有するとともに、該捕獲手段は位置可変とすることを特徴とする請求項3に記載の液体噴射記録装置。
【請求項5】
前記気体流付与手段は、気体流を流す気流開口を有するとともに、非印写時に該気流開口を、前記被記録体が搬送、印写されるエリア雰囲気から遮断するキャップ手段を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体噴射記録装置。
【請求項6】
前記キャップ手段は、前記捕獲手段を兼ねることを特徴とする請求項5に記載の液体噴射記録装置。
【請求項7】
前記流れは、前記非印写滴が前記回収する手段に衝突して発生するミストを前記開口領域の開口外部に出さず、開口内部にとどめておく程度の吸引力、あるいはそれ以上の吸引力で、前記開口内部へ吸引する流れであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体噴射記録装置。
【請求項8】
前記流れは、前記飛翔するインク滴によって引きずられるインク滴周囲のインク滴飛翔方向の空気流を逆流させる程度の吸引力で、前記開口内部へ吸引する流れであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体噴射記録装置。
【請求項9】
前記液体噴射記録ヘッドユニットによって前記開口領域に前記流れを作った後に、前記被記録体を前記印写部分の前面に搬送し、印写を開始することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の液体噴射記録装置。
【請求項10】
前記液体噴射記録ヘッドユニットと前記被記録体の間の空気に流れを作り、その速度ベクトルを前記被記録体の搬送方向に向かわせることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の液体噴射記録装置。
【請求項11】
前記液体噴射記録ヘッドユニットと前記被記録体の間の空気の流れの速度ベクトルを前記被記録体の搬送方向に向かわせる吸引もしくは送風手段を有することを特徴とする請求項10に記載の液体噴射記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−240599(P2011−240599A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114594(P2010−114594)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】