説明

高速度撮影装置

【課題】撮影速度を変更しても被検体の像の視野を変化させずに撮影することにある。
【解決手段】対象物1を透過するX線透過像を可視光の透過像に変換するX線II5と、撮影速度を設定する撮影速度設定部7と、可視光透過像を、設定撮影速度で撮影する高速度カメラ6とを備え、高速度カメラ6は、可視光透過像を結像させる焦点距離可変の光学系11aと、光学系11aの焦点距離のもとに光検出面12aに結像される可視光透過像を、格子状に並んだ画素毎に電気信号に変換する撮像素子12と、撮影速度が高くなる毎に撮像素子12の収集範囲が減じる画素の出力を収集しデジタル透過像に変換するデータ収集部13と、デジタル透過像を記憶するメモリ14とを有し、撮影速度に応じて、X線II5出力面の一定範囲の透過像が減じた撮像素子12の収集範囲に結像するように光学系11aの焦点距離を制御する焦点距離制御部8とを設けた高速度撮影装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影対象物となる被検体を高速で連続撮影して動画像として記憶する高速度撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速度撮影は、毎秒100フレーム程度以上の速度で連続撮影し記憶するもので、この記憶された画像を毎秒30フレームの速度で再生表示することでスローモーション表示により撮影対象物の状態を観察できる。
【0003】
従来の高速度撮影においては、カメラで撮影された画像をフィルムに記録し、あるいは磁気テープに記憶する方法をとっていたが、近年、デジタル技術の進歩に伴い、デジタル画像に変換して記憶する方法をとっている。
【0004】
図6はデジタル画像に変換して記憶する高速度撮影装置の概略構成図である。
【0005】
この高速度撮影装置は、撮影対象物の像を連続撮影してデジタル画像に変換し記憶する高速度カメラ110と、この高速度カメラ110にケーブルを介して接続され、高速度カメラ110に記憶されたデジタル画像を記憶及び再生する記憶・再生部120とで構成される。
【0006】
高速度カメラ110は、光学系111、撮像素子112、データ収集部113および高速の半導体メモリ114等よりなり、視野FOV(Field Of View)内に入る撮影対象物の像は光学系111により撮像素子112の光検出面112a上に結像される。この結像された像は撮像素子112により電気信号に変換され、この電気信号はデータ収集部113でデジタルデータ(デジタル画像)に変換されて半導体メモリ114に記憶される。
【0007】
撮像素子112は、光検出面112a上に例えば1300×1000程度のマトリックス(格子)状に並べた素子群からなり、光検出面112aの上の像を各素子(画素)ごとに光強度に応じた電気信号に変換して撮影する。
【0008】
記憶・再生部120は、CPUで構成されるデータ処理部121、メモリ122及び表示部123等を有し、高速度カメラ110の半導体メモリ114からデジタル画像を取り込んでメモリ122に永続的に記憶し、適宜必要なときに表示部123に再生表示する(特許文献1)。
【特許文献1】特開平08−079680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年の高速度撮影装置は、撮影速度が毎秒100フレーム程度から毎秒10万フレーム程度まで段階的に設定して撮影できる性能を有している。ただし、撮影速度が毎秒2000フレーム程度を越えると、撮影が間に合わなくなり、マトリックス状に配置された全画素数(全素子数)にわたって撮影できなくなる。そのため、撮影速度にほぼ反比例してマトリックス状に配置された画素数を減らして撮影している。ここで、画素数を減らす際、光検出面112a上で周辺画素から切り捨ててデータを収集するので、撮影範囲が小さくなる。
【0010】
図7は前述した高速度撮影装置の視野の変化を説明する図である。
通常、撮影速度が低い場合(例えば毎秒2000フレーム以下の場合)、図7(a)に示すように光検出面112a全体をカバーする画素数の素子を用いて撮影するので、取り込む画像の視野FOVが大きくなる。
【0011】
これに対し、撮影速度が高い場合(例えば毎秒2000フレームを超える場合)、図7(b)に示すように光検出面112aの中央部に対応する画素数の素子を用いて撮影するので、被検体(図示せず)画像の視野FOVが狭くなる。そして、撮影速度が高くなるに従って、益々その視野FOVが狭くなってしまう。
【0012】
その結果、従来の高速度撮影装置は、撮影速度を切換えるごとに被検体の画像の視野FOVが変化してしまうので、その都度、被検体サイズが一定となるように、高速度カメラ110と被検体との距離を変えなければならない。つまり、撮影中に撮影作業が中断し、被検体を移し変えて高速度カメラ110との距離を調整しなければならず、撮影作業が煩雑となる問題がある。
【0013】
本発明は以上のような問題を解決するためになされたもので、適宜に撮影速度を変更しても撮影対象物の像の視野を変化させずに連続撮影できる高速度撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、請求項1に対応する発明は、対象物にX線を照射するX線を照射するX線発生器と、このX線発生器から照射されて前記対象物を透過してくるX線の透過像をX線検出面で検出し可視光の透過像に変換して出力面に出力するX線可視光変換手段と、所定の複数の撮影速度の中から任意の撮影速度を設定する撮影速度設定手段と、前記X線可視光変換手段が出力する可視光の透過像を、前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度のもとに毎秒100フレーム以上の撮影速度で連続撮影する撮影速度可変の高速度カメラとを備えた高速度撮影装置であって、前記高速度カメラは、前記X線可視光変換手段から出力される可視光の透過像を結像させるための焦点距離可変の光学系と、この光学系によって定まる焦点距離のもとに光検出面に結像される可視光の透過像を、当該光検出面に格子状に並んだ画素ごとにそれぞれ電気信号に変換する撮像素子と、前記設定された撮影速度が高くなるにつれて前記撮像素子の収集の範囲が減じられる画素の出力を前記撮影速度で収集しAD変換してデジタルの透過像に変換するデータ収集部と、このデジタルの透過像を記憶するメモリとを有し、
前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度に応じて、前記X線可視光変換手段の出力面の一定の範囲の透過像が前記減じられた前記撮像素子の収集の範囲に結像するように前記光学系の焦点距離を制御する焦点距離制御手段を有する高速度撮影装置である。
【0015】
以上のような手段を講じることにより、撮影速度を変更したとき、焦点距離制御手段が前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度に応じて、前記X線可視光変換手段の出力面の一定の範囲の透過像が前記減じられた前記撮像素子の収集の範囲に結像するように前記光学系の焦点距離を制御するので、撮影速度を変更しても被検体の像の視野を変化させずに高速度で連続撮影できる。
【0016】
請求項2に対応する発明は、請求項1に対応する発明の構成に新たに、前記撮影速度設定手段で撮影速度に応じて、前記X線可視光変換手段の出力面から出力される透過像が前記撮像素子の光検出面に結像するように前記X線可視光変換手段と前記光学系との間隔を変更するピント制御手段を設けた高速度撮影装置である。
【0017】
このような手段を講じることにより、ピント制御手段が撮影速度に応じてX線可視光変換手段と光学系との間隔を変更するので、焦点距離を変更しても誤差なくX線可視光変換手段の出力面にピントを合わせることができる。
【0018】
請求項3に対応する発明は、所定の複数の撮影速度の中から任意の撮影速度を設定する撮影速度設定手段と、前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度のもとに対象物の像を毎秒100フレーム以上の撮影速度で連続撮影する撮影速度可変の高速度カメラとを備えた高速度撮影装置であって、前記高速度カメラは、前記対象物の像を結像させるための焦点距離可変の光学系と、この光学系によって定まる焦点距離のもとに光検出面に結像される可視光の透過像を、当該光検出面に格子状に並んだ画素ごとにそれぞれ電気信号に変換する撮像素子と、前記設定された撮影速度が高くなるにつれて前記撮像素子の収集の範囲が減じられる画素の出力を前記撮影速度で収集しAD変換してデジタルの透過像に変換するデータ収集部と、このデジタルの透過像を記憶するメモリとを有し、
前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度に応じて、前記減じられた前記撮像素子の収集の範囲に対応する視野の大きさが一定となるように前記光学系の焦点距離を制御する焦点距離制御手段を有する高速度撮影装置である。
【0019】
このような手段を講ずることにより、撮影速度を変更したとき、焦点距離制御手段が、対象物の像の一定の範囲が前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度に応じて減じられた前記撮像素子の収集の範囲に結像するように前記光学系の焦点距離を制御するので、撮影速度を変更しても被検体の像の視野を変化させずに高速度で連続撮影できる。
【0020】
請求項4に対応する発明は、請求項1ないし請求項3の何れか一項に対応する発明の構成の焦点距離制御手段としては、前記各撮影速度あるいは前記各収集の範囲を示すパラメータと前記光学系の焦点距離を示すパラメータとを対応付けたテーブルを持つメモリを有し、
前記撮影速度あるいは前記収集の範囲を示すパラメータに応じた前記光学系の焦点距離を示すパラメータを取り出し、当該光学系の焦点距離の制御に用いる高速度撮影装置である。
【0021】
このような手段とすることにより、各撮影速度あるいは各収集の範囲を示すパラメータに応じて、焦点距離制御手段がメモリテーブルから光学系の焦点距離を示すパラメータを取り出し、光学系の焦点距離の制御に用いるので、請求項1,3と同様な作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、撮影速度を変更しても撮影対象物の像の視野を変化させずに高速度で連続撮影できる高速度撮影装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明に係る高速度撮影装置の第1の実施形態を示す構成図である。
高速度撮影装置は、撮影対象物1にX線ビーム2を照射するX線発生器3、X線制御器4、撮影対象物1からのX線透過像を可視光の透過像に変換するX線II5(請求項に記載されるX線可視光変換手段に相当する)、高速度カメラ6、撮影速度設定部7、焦点距離制御部8及び記憶・再生部9等よりなり、撮影対象物1の透過像を撮影する。
【0024】
対象物1としては、高速度で作動する機械等、例えばカメラのシャッター機構等が挙げられる。
【0025】
X線発生器3は、X線管及び高電圧発生部より成り、例えばX線制御器4のパネルから操作設定される管電圧、管電流のもとに所要の強度を持ったX線ビーム2を対象物1に向けて照射する。
【0026】
X線II5は、X線発生器3と対向する位置に配置され、X線発生器3のX線焦点Fから照射されるX線の一部のX線ビーム2を検出する。このX線II5はX線検出面5aで検出されるX線の強度分布であるX線透過像を可視光の透過像に変換し出力面5bに出力する。このX線II5としては残光の少ないものが使用される。
【0027】
高速度カメラ6は、X線II5の出力面5bに出力される可視光の透過像を100フレーム毎秒以上の撮影速度で連続撮影するものであって、撮影速度設定部7で設定される撮影速度に従って撮影速度(フレームレート)を段階的に変えることができる。
【0028】
高速度カメラ6は、ズームレンズ11、CMOSイメージセンサなどの撮像素子12、データ収集部13及びメモリ14等より成り、X線II5の出力面5b上の可視光の透過像をズームレンズ11で撮像素子12の光検出面12aに結像する機能を有する。
【0029】
ズームレンズ11は、単レンズ群よりなる焦点距離可変の光学系11aと、この光学系11aを囲むように設けられた筐体11bと、この筐体11bの外側に配置されるズームリング11cと、ピントリング11dとが設けられている。
【0030】
ピントリング11dは、例えば手動による回転操作により、光軸Lに沿って光学系11aを繰り出してX線II5の出力面5b上の像を撮像素子12の光検出面12aに結像させる働きをする(以下、出力面5bにピントを合わせると称する)。
【0031】
一方、ズームリング11cは、外周部側にギヤ機構部が設けられ、減速ギヤ付きモータ15の出力回転軸に直結されたギヤ16を介して回転動作を受けると、光学系11aの単レンズ群の配置を変えることにより、焦点距離を変更する。このとき、結像の状態を変化させずに焦点距離のみを変更できる。通常のズームレンズはそのような光学設計がなされている。すなわち、ズームリング11cを回転すると、出力面5bにピントがあった状態を保ったまま焦点距離が変化するので、撮影する範囲を変更できる。
【0032】
また、ズームリング11cには、外周部側のギヤ機構部にギヤ17を介してポテンシオメータ18が回転するように設けられ、当該ポテンシオメータ18の回転に伴って出力される電気信号(電圧)からズームリング11cの回転角を検出し、ひいては当該回転角に対応した焦点距離を測定可能である。
【0033】
撮像素子12は、光検出面12aに結像される透過像を、光検出面12aにマトリックス(格子)状に並べられた各画素(各素子)でそれぞれ電気信号に変換し出力する。
【0034】
撮影速度設定部7は、速度設定用スイッチが設けられ、例えば図2に示す撮影速度、画素の収集範囲(横×縦)及び焦点距離の関係を示す一例図の中から所望とする任意の撮影速度を対応する速度設定用スイッチで選択し設定したとき、その撮影速度を表す電気信号をデータ収集部13及び焦点距離制御部8に送出する。
【0035】
データ収集部13は、撮像素子12の各画素の出力を、撮影速度設定部7で設定された撮影速度で収集しAD変換してデジタルデータ(デジタル画像)に変換した後、メモリ14に記憶するが、撮影速度が高くなるに従って広さを減じる撮像素子12の収集範囲の画素の出力を収集する。
【0036】
図2は撮影速度、画素の収集範囲及び焦点距離の関係を説明する図である。
データ収集部13は、前述したように撮影速度が毎秒2000フレーム程度を超えると、収集が間に合わなくなり、マトリックス状に配置された全画素数にわたって撮影ができなくなる。そこで、図2に示すように撮影速度が毎秒2000フレーム程度を超えたとき、その撮影速度にほぼ反比例させて画素の収集範囲の面積を減らして収集する。画素の収集範囲を減らす場合、光検出面12a上において周辺画素から切り捨てて中央部に近づけるように収集範囲を狭めて収集する。
【0037】
焦点距離制御部8は、撮影速度設定部7で設定された撮影速度に応じてズームレンズ11の焦点距離を制御する機能を有するものであって、メモリ8a、制御部8b、A/D変換部8c及びD/A変換部8dで構成され、例えばデジタル回路を含んだ電気回路で実現でき、また、ソフトウエアで動作するPC(パーソナルコンピュータ)を用いても実現できる。
【0038】
メモリ8aには、例えば図2に従い、各撮影速度と当該各撮影速度に対応する焦点距離(デジタルデータ)との関係を記述したテーブルが設けられている。
【0039】
制御部8bは、メモリ8aから撮影速度設定部7で設定された撮影速度に応じた焦点距離を取り出し、この取り出した焦点距離とポテンシオメータ18からA/D変換部8cを通して送られてくるフィードバック信号であるズームレンズ11の焦点距離とを比較し、その偏差を零とするための制御信号をD/A変換部8dを介して出力し、モータ15を回転駆動することにより、ズームレンズ11の焦点距離を撮影速度に対応した焦点距離に設定するように制御する。
【0040】
なお、メモリ8aのテーブルは、撮影速度と焦点距離との関係を表したテーブルである必要は無く、例えば撮影速度あるいは収集範囲を示すパラメータ(例えば図2に記述される設定番号)と焦点距離を示すパラメータ(例えばポテンシオメータ18の出力値など)との関係を表したテーブルであってもよい。
【0041】
焦点距離は、予め較正してメモリ8aに記憶させておく。較正方法としては、例えばX線II5の出力面5b位置にテストチャートを置き、このテストチャートが画像上で同じ大きさで撮影されるように焦点距離を調整し、この焦点距離(ポテンシオメータ出力)を記憶させる方法(ティーチング法)などが用いられる。なお、較正を行う前にピント合わせを行ってピントリング11dを固定しておく。
【0042】
記憶・再生部9は、通常のパーソナルコンピュータと同等の処理を行うものが使用され、構成的には、CPUで構成されるデータ処理部9a、高速度カメラ6のメモリ14からデジタルの透過像を取り込むインタフェース(図示せず)、このインタフェースを介して取り込んだ透過像を記憶する主メモリ及びディスクなどのメモリ9b、キーボード9c、ポインティングデバイス(トラックボール,マウス等)9d及び表示部9e等を備えている。
【0043】
記憶・再生部9は、高速度カメラ6と接続され、メモリ14に記憶されるデジタルの透過像をインタフェースを介して読み取り、メモリ9bに永続的に記憶し、適宜な時期にキーボード9c、ポインティングデバイス9dから所望の指示を受け、データ処理部9a及び表示部9eにてデータ解析やスローモーションによる再生表示を行う。
【0044】
さらに、高速度撮影装置には、図示されていないが、X線発生器3、X線II5及び高速度カメラ6を覆うX線遮蔽部分等が設けられている。
【0045】
次に、以上のような高速度撮影装置の作用について説明する。
操作者は、撮影に先立ち、撮影の対象物1を設定すると共に、撮影速度設定部7から撮影速度を設定する。また、幾何的な配置としては、X線II5の出力面5bと撮像素子12の光検出面12aは光学系11aの光軸Lに対して直角、かつ、光軸Lを中心として配置するものとする。
【0046】
図3は撮影速度を変えたときの幾何図であって、同図(a)は撮影速度が低い場合(毎秒2000フレーム以下)、同図(b)は撮影速度が高い場合(毎秒3000フレーム以上)における焦点距離fiと収集範囲hiの関係を表わしている。また、図3の点線は光路21(厳密には光路を示す作図線)で、HとH´は光学系11aの物空間主点と像空間主点とを示し、簡単化のためにHとH´は一致させている。hi(収集範囲)は設定番号i(図2参照)の収集範囲の光検出面12a上の幅である。
【0047】
すなわち、光検出面12a上の収集範囲hiは、撮影速度が低い場合、3(a)に示すように撮像素子12の光検出面12aにマトリックス状に配置される縦横全幅の全画素数が収集の範囲となるが、撮影速度が高い場合には光軸Lを中心とする狭い幅に配置される画素数が収集の範囲となる。今、X線II5の出力面5bと撮像素子12の光検出面12aまでの撮影距離をL0、光学系11aの焦点距離をfi、X線II5の出力面5bの撮影範囲をd0とすると、
fi=L0・d0・hi/(d0+hi)2 ……(1)
が成り立つ。
【0048】
このことは、式(1)が成り立つように光学系11aの焦点距離fiを制御すれば、hiが変化してもX線II5の出力面5b上の光軸Lを中心とする一定の幅d0(撮影範囲)のX線可視光の透過像を、図3(b)に示す光検出面12a上の狭い収集範囲hiに結像させることができる。式(1)は図3の光路21の作図から導出できる。
【0049】
ただし、式(1)はHとH´が一致する場合に適用できるものであって、HとH´が一致しない場合にはL0をH−H´距離で補正して用いる必要がある。何れにせよ、焦点距離制御部8のメモリ8aに予め較正された焦点距離が記憶されているので、こまめに式(1)の計算、つまり焦点距離fiとhiとの関係を計算する必要が無い。
【0050】
以下、高速度撮影装置の動作について詳細に説明する。
操作者が撮影速度設定部7にて図2に示す撮影速度群の中から所望とする任意の撮影速度を設定すると、その撮影速度を表す電気信号がデータ収集部13及び焦点距離制御部8に送られる。ここで、焦点距離制御部8は、撮影速度設定部7で設定された撮影速度に基づき、メモリ8aに記憶されている撮影速度に対応する焦点距離を読み出し、この読み出した焦点距離とポテンシオメータ18から送られてくるズームレンズ11の焦点距離とを比較し、その偏差を零とするような制御信号をモータ15に与え、当該モータ15の回転駆動によりズームレンズ11(光学系11a)の焦点距離を撮影速度に対応した焦点距離に設定する。
【0051】
次に、操作者は、X線制御器4を開始操作してX線発生器3からX線ビーム2を照射させた状態にする。この照射状態において、対象物1に運動あるいは変化などを行わせつつ高速度カメラ6で設定した撮影速度で対象物1の像を連続撮影する。すなわち、対象物1である例えばカメラのシャッター機構を動作させると同時にトリガ信号を高速度カメラに送って撮影させる。このトリガ信号はカメラのシャッター機構に連動させて自動的にトリガ信号を発生させるか、あるいは手動にて高速度カメラ6の撮影開始を操作し、撮像素子12の光検出面12a上に結像される可視光の透過像を連続撮影し、データ収集部13を介してデジタル画像に変換し、メモリ14に一時記憶する。
【0052】
高速度カメラ6のメモリ14に一時記憶された透過像は、取込み指令のもとに記憶・再生部9が取込み、メモリ9bに永続的に記憶する。以後、記憶・再生部9は、再生指示を受けたとき、データ処理部9aがメモリ9bから例えば毎秒30フレーム程度の速度で透過像を読み出し、表示部9eに表示すれば、スローモーションにより再生表示することができ、対象物1であるカメラのシャッター機構の動作状態を観察することができる。
【0053】
従って、以上のような実施の形態によれば、操作者が撮影速度設定部7から所望とする任意の撮影速度に選択設定したとしても、焦点距離制御部8の制御部8bがメモリ8aのテーブルから撮影速度に応じた焦点距離fi、つまりX線II5の出力面5b上の光軸Lを中心とする一定の幅d0(撮影範囲)のX線可視光の透過像を撮影速度に応じて減じた撮像素子12の収集の範囲内に結像するように光学系11aの焦点距離fiを制御する。その結果、撮影速度を適宜切換え選択しても、画像の視野が変化せずに対象物1の像を高速度で連続撮影することができる。
【0054】
すなわち、上記実施の形態によれば、撮影速度を適宜切換え選択しても、焦点距離制御部8が自動的に画像の視野が変化しないように焦点距離を制御するので、X線発生器3、X線II5、高速度カメラ6等を覆うX線遮蔽の中の狭い空間へアクセスすること無く、容易に一定視野の画像を撮影することができる。
【0055】
(第1の実施の形態の変形例)
(1) 第1の実施の形態では、X線可視光変換手段としてX線II5を用いたが、これに限られることはない。例えばマイクロチャンネルプレート等を用いてもよい。
【0056】
(2) 第1の実施の形態では、画素の収集範囲を正方形としたが、長方形であってもよい。
【0057】
(3) 第1の実施の形態では、撮影速度設定部7、焦点距離制御部8及び記憶・再生部9がそれぞれ独立した構成体として説明したが、記憶・再生部9に例えば撮影速度設定部7及び焦点距離制御部8を組み込んで同様の処理機能を実行させる構成であっても構わない。
【0058】
(4) 第1の実施の形態では、焦点距離を変更させた際にピント合わせを行っていない。通常のズームレンズにおいては、焦点距離を変更させた際にピントを合わせた面の位置は変化しないが、上記実施の形態では近接撮影のために焦点深度が浅いことから、厳密には若干の変化が問題となる場合がある。
【0059】
そこで、焦点距離と一緒にピント合わせについても制御するのが好ましい。ピント合わせの制御手段としては、ピントリング11dについても、ズームリング11cと同様にモータとポテンシオメータを取り付け、さらにモータを制御するために新たに焦点距離制御部8と同様の構成を持つピント合わせ制御部を設ける必要がある。
【0060】
さらに、ピント合わせ制御部にはメモリを設けるが、このメモリのテーブルには、撮影速度とX線II5−光学系11aの間隔とを対応付けて記憶し、撮影速度設定部7で設定される撮影速度に応じて前記間隔を変更するようにモータを回転駆動することで制御する。このメモリのテーブルは、焦点距離制御部8の場合と同様にティーチング法で記憶させることができる。
【0061】
これにより、焦点距離を変更しても誤差なく出力面5bにピントを合わせることができる。
【0062】
(5) 第1の実施の形態の変形例(4)では、光学系11aを光軸Lに沿って繰り出してX線II5−光学系11a間の間隔を変更しているが、ズームレンズ11を繰り出し、あるいはズームレンズ11と撮像素子12とを繰り出し、あるいは高速度カメラ6全体を繰り出し、あるいはX線II5を繰り出すことにより、X線II5−光学系11a間の間隔を変更してもよい。これにより、変形例(4)と同様、焦点距離を変更しても誤差なく出力面5bにピントを合わせることができる。
【0063】
(6) 第1の実施の形態で、メモリ8aに焦点距離fiを記憶する代わりに、低撮影速度での焦点距離をf0として、fiとf0との比ri(=fi/f0)を記憶させてもよい。この場合、焦点距離fiを制御する際、記憶しているriからfi=ri・f0なる演算を行ってfiを求めて制御に用いればよい。また、焦点距離を制御する際、fi=ri・f0なる式のうち、riに掛け算するf0を変えることで撮影範囲d0を任意に調整することができる。例えば、fOを0.8倍することでd0を概略1/0.8倍に調整できる。
【0064】
(7) 第1の実施の形態で、メモリ8aに焦点距離fiを記憶する代わりに、fiを較正時の撮影距離L0で除算した比si(=fi/L0)を記憶させてもよい。
【0065】
この場合、撮影距離をL0´に変更しても同じテーブルを用いて焦点距離を制御することができる。すなわち、fi´=si・L0´なる計算式から求めたfi´を制御に用いればよい。
【0066】
(8) 第1の実施の形態の変形例(7)としては、異なる撮影範囲d0ごとに比siの複数のテーブルを作成し、異なるd0のとき一番近いd0のテーブルを選ぶか、あるいは補間計算によりsiを選び、前述したfi´=si・L0´なる計算式から求めたfi´を制御に用いれば、同じテーブルで任意の撮影距離L0と撮影範囲d0に対して焦点距離の制御を行うことができる。
【0067】
(9) 第1の実施の形態では、撮影距離L0が大きい場合(正確には、倍率d0/hi>10(数値10は誤差から許容できる定数)程度の場合には、テーブルの焦点距離fiに補正を加えることで較正時のL0、d0とは異なる撮影距離L0´と撮影範囲d0´に対応できる。ここで、補正式は、fi´=fi・L0´/L0・d0/d0´となる。
【0068】
これにより、同じテーブルで任意の撮影距離L0と撮影範囲d0に対して焦点距離の制御を行うことができる。
【0069】
(10) 第1の実施の形態では、焦点距離fiの代わりに収集範囲hiを記憶してもよい。この場合、式(1)でfiを計算し制御に用いればよい。これにより、任意の撮影距離L0と任意の撮影範囲d0に対し、同じテーブルを用いて焦点距離の制御を行うことができる。
【0070】
(第2の実施の形態)
図4は本発明に係る高速度撮影装置の第2の実施の形態を示す構成図である。
この実施の形態における高速度撮影装置は、第1の実施の形態を示す図1の構成からX線発生器3、X線制御器4及びX線II5を除いた構成である。従って、その他の構成については、図1と同じであるので、同一または等価な部分には図1と同様の符号を付し、その詳しい説明を省略する。
【0071】
第1の実施の形態においては対象物1のX線透過像を高速度で連続撮影するのに対し、第2の実施の形態は対象物1の外観像を高速度で連続撮影する点のみが異なる。
【0072】
すなわち、第2の実施の形態は、X線II5の出力面5bに代えて、対象物1にピントを合わせるようにズームレンズ11のピントリング11dを回転させる。正確に言えば、対象物1の位置に、光軸Lと直交するピント面31を仮想設定し、ピントリング11dを回転操作し、当該ピント面31上の像が撮像素子12の光検出面12aに結像されるようにする。
【0073】
従って、この状態においては、視野FOV内の対象物1の画像がピント面31にピントが合った状態で撮影できる。
【0074】
焦点距離制御部8は、第1の実施の形態で説明したようにメモリ8aに撮影速度と焦点距離とを対応付けしたテーブルを設け、撮影速度設定部7から設定される撮影速度に基づいて、テーブルから当該撮影速度に対応付けられた焦点距離を取り出し、モータ15の回転駆動することでズームレンズ11の光学系11aが取り出した焦点距離となるように制御する。
【0075】
なお、焦点距離の較正は、第1の実施の形態で説明した場合と同様に撮影速度を変えながら、対象物1の画像が画像上で同じ大きさで撮影されるように焦点距離を調整し、このとき得られた焦点距離を撮影速度に対応付けてメモリ8aのテーブルに記憶する。
【0076】
以上のように構成された高速度撮影装置の作用について説明する。
この第2の実施の形態は、対象物1のX線透過像の撮影ではなく、対象物1の外観像を撮影するものである。
まず、操作者は、対象物1の撮影に先立ち、対象物1を設定すると共に、撮影速度設定部7から撮影速度を設定する。
【0077】
図5は第2の実施の形態における撮影速度を変えたときの幾何図であって、同図(a)は撮影速度が低い場合(毎秒2000フレーム以下)、同図(b)は撮影速度が高い場合(毎秒3000フレーム以上)における焦点距離fiと収集範囲hiの関係を表わしている。
【0078】
また、幾何的な配置としては、対象物1のピント面31及び撮像素子12の光検出面12aが光学系11aの光軸Lに直角、かつ、光軸Lを中心となるように配置するとともに、ピント面31上の対象物1の像が光検出面12a上の収集範囲hiに結像されるようにする。
【0079】
図5を参照して撮影速度を変えたときの焦点距離の制御を説明することになるが、要は第1の実施の形態における図3で説明した「X線II5の出力面5b」を「ピント面31」で置き換えれば同じ作用となるので、作用の詳細説明は省略する。
【0080】
この高速度撮影装置においては、前述するように撮影速度設定部7から撮影速度が設定されたとき、常にピント面31上の一定の撮影範囲d0が収集範囲hiに結像するように当該撮影速度に応じた焦点距離fiとなるように制御する。すなわち、撮影速度に応じて、撮像素子12の減じた収集の範囲に対応する視野FOVのピント面31における大きさが一定となるようにモータ15を回転することで焦点距離を設定する。
【0081】
以上のようにして撮影速度と焦点距離が設定されると、以後、第1の実施の形態と同様に連続撮影が行われる。
【0082】
従って、以上のような第2の実施の形態によれば、所望の任意の撮影速度に選択設定したとしても、撮影速度に応じて減じた撮像素子12の収集の範囲に対応する視野FOVの大きさ(ピント面31における大きさ)が一定になるように、焦点距離制御部8の制御部8bがメモリ8aのテーブルから撮影速度に応じた焦点距離を取り出し、光学系11aの焦点距離を設定する。その結果、撮影速度を選択的に設定しても、画像の視野が変化せずに対象物1の像を高速度で連続撮影することができる。
【0083】
(第2の実施の形態の変形例)
第2の実施の形態の変形例としては、第1の実施の形態の変形例(2)〜(10)がそのまま適用できる。
特に、第2の実施の形態では、撮影距離L0と撮影範囲d0を変更する場合が多いが、第1の実施の形態の変形例(6)〜(10)を適用すれば、較正をやり直す必要がなくなるので有効なものとなる。
【0084】
その他、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係る高速度撮影装置の第1の実施の形態を示す構成図。
【図2】撮影速度、画素の収集範囲及び焦点距離の関係を説明する図。
【図3】撮影速度を変えたときの幾何図。
【図4】本発明に係る高速度撮影装置の第2の実施の形態を示す構成図。
【図5】撮影速度を変えたときの幾何図。
【図6】従来の高速度撮影装置の概略構成を示す図。
【図7】従来の高速度撮影装置の視野の変化を示す図。
【符号の説明】
【0086】
1…撮影対象物、3…X線発生器、4…X線制御器、5…X線II、5a…X線検出面、5b…出力面、6…高速度カメラ、7…撮影速度設定部、8…焦点距離制御部、8a…メモリ、8b…制御部、9…記憶・再生部、11…ズームレンズ、11a…光学系、11c…ズームリング、11d…ピントリング、12…撮像素子、12a…光検出面、13…データ収集部、14…メモリ、15…モータ、18…ポテンシオメータ、21…光路、31…ピント面、F…X線焦点、L…光軸、L0…撮影距離、d0…撮影範囲、hi…収集範囲、fi…焦点距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にX線を照射するX線を照射するX線発生器と、このX線発生器から照射されて前記対象物を透過してくるX線の透過像をX線検出面で検出し可視光の透過像に変換して出力面に出力するX線可視光変換手段と、所定の複数の撮影速度の中から任意の撮影速度を設定する撮影速度設定手段と、前記X線可視光変換手段が出力する可視光の透過像を、前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度のもとに毎秒100フレーム以上の撮影速度で連続撮影する撮影速度可変の高速度カメラとを備えた高速度撮影装置において、
前記高速度カメラは、前記X線可視光変換手段から出力される可視光の透過像を結像させるための焦点距離可変の光学系と、この光学系によって定まる焦点距離のもとに光検出面に結像される可視光の透過像を、当該光検出面に格子状に並んだ画素ごとにそれぞれ電気信号に変換する撮像素子と、前記設定された撮影速度が高くなるにつれて前記撮像素子の収集の範囲が減じられる画素の出力を前記撮影速度で収集しAD変換してデジタルの透過像に変換するデータ収集部と、このデジタルの透過像を記憶するメモリとを有し、
前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度に応じて、前記X線可視光変換手段の出力面の一定の範囲の透過像が前記減じられた前記撮像素子の収集の範囲に結像するように前記光学系の焦点距離を制御する焦点距離制御手段を
有することを特徴とする高速度撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高速度撮影装置において、
前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度に応じて、前記X線可視光変換手段の出力面から出力される透過像が前記撮像素子の光検出面に結像するように前記X線可視光変換手段と前記光学系との間隔を変更するピント制御手段をさらに設けたことを特徴とする高速度撮影装置。
【請求項3】
所定の複数の撮影速度の中から任意の撮影速度を設定する撮影速度設定手段と、前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度のもとに対象物の像を毎秒100フレーム以上の撮影速度で連続撮影する撮影速度可変の高速度カメラとを備えた高速度撮影装置において、
前記高速度カメラは、前記対象物の像を結像させるための焦点距離可変の光学系と、この光学系によって定まる焦点距離のもとに光検出面に結像される可視光の透過像を、当該光検出面に格子状に並んだ画素ごとにそれぞれ電気信号に変換する撮像素子と、前記設定された撮影速度が高くなるにつれて前記撮像素子の収集の範囲が減じられる画素の出力を前記撮影速度で収集しAD変換してデジタルの透過像に変換するデータ収集部と、このデジタルの透過像を記憶するメモリとを有し、
前記撮影速度設定手段で設定された撮影速度に応じて、前記減じられた前記撮像素子の収集の範囲に対応する視野の大きさが一定となるように前記光学系の焦点距離を制御する焦点距離制御手段を
有することを特徴とする高速度撮影装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の高速度撮影装置において、
前記焦点距離制御手段は、前記各撮影速度あるいは前記各収集の範囲を示すパラメータと前記光学系の焦点距離を示すパラメータとを対応付けたテーブルを持つメモリを有し、
前記撮影速度あるいは前記収集の範囲を示すパラメータに応じた前記光学系の焦点距離を示すパラメータを取り出し、当該光学系の焦点距離の制御に用いることを特徴とする高速度撮影装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate