説明

高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネート

【課題】高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを製造する。
【解決手段】以下の工程を含む方法で製造する:(A)少なくとも一種の油溶性アルキルトルエンスルホン酸および少なくとも一種のマグネシウム供給源を、(i)少なくとも一種の炭化水素溶媒および(ii)少なくとも一種の低分子量アルコールを含む混合物の存在下で反応させる工程;(B)工程(A)の反応生成物を少なくとも一種の促進剤および水と接触させる工程;(C)工程(B)の生成物を過塩基化酸と接触させる工程;そして(D)工程(C)の反応生成物を、上記炭化水素溶媒、上記低分子量アルコール、および水の留出温度よりも高い温度まで加熱し、上記炭化水素溶媒、上記低分子量アルコール、および水を留出させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを製造するため改良された方法に関する。本発明はまた、当該方法により製造された生成物にも関する。本発明はまた、改良された方法により製造された上記の高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを含む潤滑油組成物および潤滑油添加剤濃縮物にも関する。
【0002】
(発明の背景)
一般に、過塩基性マグネシウム・スルホネートは、対応する過塩基性カルシウム・スルホネートよりも製造が困難である。過塩基性マグネシウム・スルホネートを製造するための方法では、特別な反応条件、並びに低分子アルコール、様々な促進剤、および水のような追加物質を炭酸塩化すべき混合物に導入することが要求される場合が多い。それに加えて、高過塩基性マグネシウム・スルホネートを製造するための方法では、結果として、過塩基化処理の過程で生成する炭酸塩化後の沈降物(PCS)として知られる硬質沈降物および/またはゼリー状物質が、望ましくない高レベルで生じる。潤滑油組成物において添加剤として使用する過塩基性物質は、澄んだ液体であって沈降物を含まないことが望まれている。
【背景技術】
【0003】
高過塩基性マグネシウム・スルホネートを製造するいくつかの方法が、この技術分野で知られている。非特許文献1は、アルキルトルエンもしくはキシレンスルホン酸と過剰のマグネシウム化合物とを含む反応混合物を、一般に炭化水素溶媒と共に、通常は促進剤の存在下で、炭酸塩化することにより製造される過塩基性マグネシウム・スルホネートを開示している。上記アルキル基は、好ましくは10乃至30の炭素原子、最も好ましくは18乃至24の炭素原子を含む。
【0004】
特許文献1は、少なくとも一種の酸性物質を、少なくとも一種の油溶性有機酸もしくはその好適な誘導体および少なくとも一種の本質的に反応性のマグネシウム化合物と、水もしくは少なくとも一種のアルコールと水との組合せの存在下で接触させることを含む方法により製造される有機酸の塩基性マグネシウム塩を開示している。
【0005】
特許文献2は、炭酸塩化工程における水およびアルコールの導入と共に、過塩基性マグネシウム・スルホネートを生成するための処理において、比較的低い反応性の酸化マグネシウムの使用を開示している。これにより、炭酸塩化後の沈降物(PCS)が低い値の状態で高塩基価生成物が提供され、これを急速濾過することにより精製することができる。
【0006】
特許文献3は、高過塩基性高分子量マグネシウム・スルホネートを、炭酸塩化後の沈降物が少ない量となるように製造する方法での、低分子量スルホン酸もしくは少なくとも部分的に水溶性であるそのマグネシウム塩の使用を開示している。
【0007】
特許文献4は、特定の第一および第二促進剤の組合せを使用することにより、沈降物が少量となるように、高過塩基性マグネシウム・スルホネートを生成させるための一工程からなる方法を開示している。
【0008】
特許文献5は、(a)エンジン油もしくは潤滑油および(b)過塩基性マグネシウム・スルホネートを含み、スルホネート生成後に加えられる耐水性添加剤が実質的に存在しない油組成物を開示している。耐水性は、成分(b)の生成において存在しているコハク酸無水物促進剤の反応生成物によってもたらされる。
【0009】
特許文献6は、炭酸塩化のための反応混合物が有効量の無灰分散剤を含む過塩基性マグネシウム・スルホネートを製造するための方法を開示している。上記過塩基性マグネシウム・スルホネートでは、相互作用、沈降、および曇りが軽減されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第3629109号明細書(Gergel外)
【特許文献2】米国特許第5534168号明細書(Cleverly外)
【特許文献3】国際公開第97/014774号(Moulin外)
【特許文献4】米国特許第4617135号明細書(Muir)
【特許文献5】米国特許第4647387号明細書(Muir)
【特許文献6】欧州特許出願公開第0323088号明細書(Cleverly外)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】リサーチ・ディスクロージャー誌第31826号(1990年10月)、www.researchdisclosure.comにおいて入手可能
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを製造するための改良された方法の発見に関する。本発明はまた、該方法により製造された生成物にも関する。本発明はまた、改良された方法により製造された上記の高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを含む潤滑油組成物および潤滑油添加剤濃縮物にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、最も広い態様において、本発明は、下記の工程を含む高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを製造するための方法に関する。
(a)少なくとも一種の油溶性アルキルトルエンスルホン酸および少なくとも一種のマグネシウム供給源を、(i)少なくとも一種の炭化水素溶媒および(ii)少なくとも一種の低分子量アルコールを含む混合物の存在下で反応させる工程;
(b)工程(a)の反応生成物を少なくとも一種の促進剤および水と接触させる工程;
(c)工程(b)の生成物を過塩基化酸と接触させる工程;そして
(d)工程(c)の反応生成物を、上記炭化水素溶媒、上記低分子量アルコール、および水の留出温度よりも高い温度まで加熱し、上記炭化水素溶媒、上記低分子量アルコール、および水を留出させる工程。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、本発明の方法により製造される高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートに関する。
【0015】
本発明のさらに別の態様は、潤滑粘度の油および相対的に少量の本発明の方法により製造される高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを含む潤滑油組成物に関する。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、約90質量%乃至約10質量%の有機液状希釈剤および約10質量%乃至約90質量%の本発明の方法により製造される高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを含む潤滑油濃縮物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は様々な修正や変形を許容するが、ここでは、その特定の態様について詳細に説明する。しかしながら、以下の特定に態様についての説明は、開示される特定の形態に本発明を限定することを意図するのではなく、むしろ逆に、添付される特許請求の範囲が定義する本発明の真意と範囲に含まれている限り、全ての修正、同等物、および選択肢を包含するものであることを意図するものである。
【0018】
「全塩基価」もしくは「TBN」との用語は、試料1g中のミリグラム単位のKOHと当量になる塩基の量を意味する。すなわち、より大きなTBN数は、より多くのアルカリ性生成物およびそれにより保有するアルカリ度が大きいことを反映している。本発明の目的のため、TBNはASTM試験番号D2896により測定される。
【0019】
「過塩基性」との用語は、スルホン酸と反応させてスルホネートを得るために必要とされるよりも過剰な量の金属を含むスルホネートを意味する。
【0020】
「高過塩基性」との用語は、約300以上のTBNを有するスルホネートを意味する。
【0021】
数値範囲および/または値のそれぞれおよび全ては、「約」との用語の直後もしくはその後の近くに示されているかどうかとは無関係に、あらゆる測定において起こる実験誤差の範囲を表す変動を包含していると理解すべきである。
【0022】
「炭酸塩化後の沈降物」もしくは「PCS」との用語は、炭酸塩化工程が完了後、反応混合物における沈降物の割合を意味する。PCSは、反応混合物の容積に基づいて、容積%として表示される。
【0023】
本明細書で使用する「潤滑粘度の油」との用語は、潤滑粘度の鉱物油もしくは合成油であってもよい基油を意味し、好ましくは内燃機関のクランクケースにおいて有用な基油を意味する。クランクケース潤滑油は、通常は−17.8℃では約1300センチストークスで、98.9℃で22.7センチストークスまでの粘度を有する。潤滑油は、合成もしくは天然の供給源から誘導されてもよい。本発明において基油として使用するための鉱物油は、潤滑油組成物において普通に使用されているパラフィン系、ナフテン系、その他の油を含む。合成油は、炭化水素合成油、合成エステル、およびフィッシャー−トロプシュ誘導基油を含む。有用な合成炭化水素油は、適度の粘度を有するアルファ−オレフィン液体重合体を含む。1−デセン3量体のようなC乃至C12アルファ−オレフィンの水素化液体オリゴマーは、特に有用である。同様に、ジドデシルベンゼンのような適度の粘度のアルキルベンゼンも使用できる。有用な合成エステルは、モノカルボン酸とポリカルボン酸との双方、並びにモノヒドロキシアルカノールおよびポリオールのエステルを含む。代表的な例は、ジドデシル・アジペート、ペンタエリスリトール・テトラカプロエート、ジ−2−エチルヘキシル・アジペート、ジラウリル・セバケートその他である。モノ−およびジ−カルボン酸とモノ−およびジ−ヒドロキシアルカノールとの混合物から製造される複合エステルも使用できる。炭化水素油と合成油とを配合したものも使用できる。例えば、10質量%乃至25質量%の水素化1−デセン3量体を、75質量%乃至90質量%の37.8℃で683センチストークスの鉱物油と配合したものは優れた油基材である。
【0024】
(高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを製造するため方法)
本発明は、高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを製造するために改良された方法に関する。
【0025】
高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを製造するための上記方法は、下記の工程を含む:
(a)少なくとも一種の油溶性アルキルトルエンスルホン酸および少なくとも一種のマグネシウム供給源を、(i)少なくとも一種の炭化水素溶媒および(ii)少なくとも一種の低分子量アルコールを含む混合物の存在下で反応させる工程;
(b)工程(a)の反応生成物を少なくとも一種の促進剤および水と接触させる工程;
(c)工程(b)の生成物を過塩基化酸と接触させる工程;そして
(d)工程(c)の反応生成物を、上記炭化水素溶媒、上記低分子量アルコール、および水の留出温度よりも高い温度まで加熱し、上記炭化水素溶媒、上記低分子量アルコール、および水を留出させる工程。
【0026】
(アルキルトルエンスルホン酸)
本発明において、油溶性アルキルトルエンスルホン酸は、高過塩基性のマグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを製造するための方法で使用される。アルキルトルエンスルホン酸は、例えば硫酸、三酸化硫黄、クロロスルホン酸、もしくはスルファミン酸のような様々な公知のスルホン化剤を用いて、直鎖アルキルトルエンもしくは分岐鎖アルキルトルエンのようなアルキルトルエンのスルホン化により誘導することができる。アルキルトルエン前駆体を、ケミソン社(ワシントン州、シアトル)もしくはバレストラ社(イタリア、ミラノ)により製造されているSO/空気の下降フィルムと混合するSO/空気薄膜スルホン化法のような他の従来からの方法も適用できる。
【0027】
アルキルトルエンは、ルイス酸の存在下で、トルエンを直鎖オレフィンでアルキル化することにより誘導できる。上記直鎖オレフィンは、少なくとも16の炭素原子を含む。好ましくは、上記オレフィンは、約18乃至約28の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンである。さらに好ましくは、上記オレフィンは、約20乃至約24の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンである。アルキル化芳香族は、それに関する方法がこの技術分野で良く知られており、米国特許出願公開第2005/0202954号、同第2005/0203323号、および同第2005/0203322号の各明細書に記載の方法を含むが、それらに限定されない非常に多くの方法によって誘導することができる。
【0028】
これに加えて、分岐鎖アルキルトルエンは、トルエンを分岐鎖オレフィンでアルキル化することにより製造することができる。上記分岐鎖オレフィンは、少なくとも16の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンの異性化により製造することができる。上記直鎖アルファオレフィンは、アルキル化工程前、工程中、もしくは工程後に、異性化することができるが、好ましくはアルキル化工程前に異性化される。オレフィンを異性化する方法は、この技術分野で知られている。好ましくは、上記分岐鎖オレフィンは、約18乃至約28の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンの異性化により誘導される。さらに好ましくは、上記分岐鎖オレフィンは、約20乃至約24の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンの異性化により誘導される。上記分岐鎖オレフィンは、少なくとも9の炭素原子、好ましくは約9乃至40の炭素原子、さらに好ましくは約9乃至24の炭素原子、最も好ましくは約10乃至18の炭素原子を含むプロピレンもしくはブテンのオリゴマーから誘導することもできる。
【0029】
好ましくは、アルキルトルエンスルホン酸は、主にモノアルキルトルエンからなる混合物をスルホン化することによって得られる。上記モノアルキルトルエンは、約20乃至約24の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンの混合物によりトルエンをアルキル化することによって得られる。
【0030】
(マグネシウム供給源)
少なくとも一種のマグネシウム供給源も、炭化水素溶媒および低分子量アルコールを含む混合物の存在下にて、前述した油溶性アルキルトルエンスルホン酸と反応させる。好ましくは、本発明の反応において使用する少なくとも一種のマグネシウム供給源は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、もしくはマグネシウム・アルコキシドであり、上記アルコキシドは1乃至6の炭素原子を有するアルコールから誘導される。好ましくは、少なくとも一種のマグネシウム供給源が酸化マグネシウムである。
【0031】
(炭化水素溶媒)
本発明の方法において使用する炭化水素溶媒は、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、およびそれらの混合物からなる群より選ぶことができる。好ましくは、上記炭化水素溶媒は芳香族溶媒であって、キシレン、ベンゼン、およびトルエンからなる溶媒の群より選ばれる。最も好ましい芳香族溶媒はキシレンである。
【0032】
(低分子量アルコール)
低分子量アルコールは、反応が起きた後に容易に留出除去できるように、充分に低い沸点を有する必要がある。上記低分子量アルコールは、約1乃至約13の炭素原子と約200以下の分子量とを有することが好ましい。ある態様では、上記低分子量アルコールは低分子量の一価アルコールである。さらに好ましい態様では、本発明の方法において使用できる低分子量の一価アルコールは、C乃至C13アルコール並びにグリコールのモノエーテルおよびモノエステルからなる群より選ぶことができる。好ましくは、上記低分子量アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソオクタノール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、イソブチルアルコール、ベンジルアルコール、ベータ−フェニル−エチルアルコール、2−エチルヘキサノール、ドデカノール、トリデカノール、2−メチルシクロヘキサノール、エチレングリコールのモノメチルエーテル、エチレングリコールのモノブチルエーテル、sec−ペンチルアルコール、及びtert−ブチルアルコールからなる群より選ばれる一価アルコールである。最も好ましい低分子量の一価アルコールはメタノールである。
【0033】
(促進剤)
促進剤は、炭酸塩化の促進のため、濾過性の向上のため、もしくは増粘剤として使用される。促進剤は、有機モノカルボン酸、炭化水素置換コハク酸無水物もしくはその誘導体、またはそれらの混合物であってもよい。好適な有機モノカルボン酸は、1乃至24の炭素原子を有する。上記有機モノカルボン酸は、脂肪族もしくは芳香族、飽和もしくは不飽和のいずれでもよい。好ましい有機モノカルボン酸は、ギ酸、酢酸、ステアリン酸、安息香酸、サリチル酸、およびそれらの混合物を含む。上記炭化水素置換コハク酸無水物もしくはその誘導体は、アルキルおよびアルケニルコハク酸無水物を含み、上記コハク酸無水物もしくは誘導体のアルキルもしくはアルケニル基は、約8乃至約70の炭素原子を含む。好ましい炭化水素置換コハク酸無水物は、ドデセニルコハク酸無水物(DDSA)、オクタデセニルコハク酸無水物(ODSA)、および1000MWのポリイソブテンから誘導されるポリイソブテニルコハク酸無水物(PIBSA)を含む。好適なコハク酸無水物誘導体は、酸、エステル、半エステル、二重エステル、および他の加水分解可能な誘導体を含む。ある態様では、上記促進剤は、酢酸とステアリン酸との混合物である。別の態様では、上記促進剤は、酢酸とDDSAとの混合物である。別の態様では、上記促進剤は、酢酸と1000MWのPIBSAとの混合物である。
【0034】
(過塩基化酸)
本明細書で使用する用語「過塩基化酸(overbasing acid)」は、スルホン酸に対する化学量論的な量よりも多い量の金属を含む油溶性金属スルホネートを供給することが可能な酸を意味する。最も一般的な過塩基化酸は二酸化炭素であり;他の過塩基化酸は、二酸化硫黄および三酸化硫黄を含む。上記の酸そのものが過塩基化処理の一部を構成してもよく、あるいはエチレン・カーボネートのような過塩基化酸の供給源を、過塩基化酸を導入するために使用することができる。最も好ましい酸は二酸化炭素であって、過塩基化酸を用いる処理は以後「炭酸塩化」と呼ばれることがある。文脈において明確に別に要求しない限り、本明細書が炭酸塩化に言及する場合、他の過塩基化酸による処理を含むと理解すべきである。
【0035】
(処理および希釈のための油)
上記マグネシウム・スルホネートが粘ちょうである場合には、不活性な液状媒体を用いて粘度を低下させることができる。不活性な液状媒体には、生成物を分散させ、成分の混合を容易にする機能もある。好ましい不活性な液状媒体は潤滑粘度の基油である。
【0036】
消泡剤および他の処理助剤も加えることができる。
【0037】
本発明の代表的な方法では、予め最初に炭化水素溶媒を低分子量アルコールおよびマグネシウム供給源と混合する。上記マグネシウム供給源は、上記の予備混合段階で一度に加えるか、あるいは予備混合段階と、引き続き実施される炭酸塩化工程とにおいて複数回に分けて加えることができる。一般に、予備混合段階は周囲の温度に近い温度、すなわち約15乃至40℃において実施される。次に、スルホン酸を激しく攪拌しながら加える。一般に、スルホン酸は、温度が約20℃乃至約40℃の範囲になっている時間において、その時間をかけて添加する。混合物を約40℃でおおよそ5乃至20分保ち、スルホン酸が上記マグネシウム供給源によって充分に中和され、中性のマグネシウム・スルホネートが生成されることを確認する。
【0038】
炭酸塩化に先行して、少なくとも促進剤および水を、中和されたスルホネートを含む混合物に、約40℃の温度を保ち、激しく攪拌しながら加える。
【0039】
炭酸塩化は一定の温度、一般に約40℃で実施する。炭酸塩化は、大気圧よりも低い圧力下、大気圧下、もしくは大気圧よりも高い圧力下のいずれでも実施でき、好ましくは、炭酸塩化は大気圧下にて実施する。
【0040】
炭酸塩化が完了したら、反応混合物を約125℃乃至約140℃の温度まで加熱する。そして通常、100N油のような希釈剤油を混合物に加え、引き続き固形物を遠心分離や濾過のような通常の方法で除去する。最後に、上記炭化水素溶媒、低分子量アルコール、および水を留出により除去する。
【0041】
本発明は、本明細書に記載の方法から得られる生成物にも関する。得られる過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートは、約300以上、好ましくは約350以上、最も好ましくは約400以上のTBNを有する。得られるマグネシウム・アルキルトルエンスルホネートのマグネシウム含有量は、約8.0質量%乃至約11.0質量%、好ましくは約9.0質量%乃至約10.0質量%、さらに好ましくは約9.2質量%乃至約9.8質量%である。
【0042】
本発明は、相対的に多量の潤滑粘度の油と相対的に少量の本発明の方法により製造される高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートとを含む潤滑油組成物にも関する。一般に、潤滑油組成物は、本発明の方法により製造される高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを、約0.01質量%乃至約10質量%、好ましくは約0.1質量%乃至約5質量%、さらに好ましくは約0.3質量%乃至約2質量%の範囲で含む。潤滑油組成物は通常、他の添加剤を含む。上記他の添加剤には、清浄剤(過塩基性および非過塩基性)、分散剤、極圧剤、耐摩耗剤、錆止め剤、消泡剤、腐食防止剤、流動点降下剤、酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛、および様々なその他の良く知られている添加剤が含まれる。
【0043】
ある態様では、潤滑油組成物は下記の成分を含むことができる:
(a)相対的に多量の潤滑粘度の油;
(b)0.01質量%乃至10.0質量%の少なくとも一種の本発明の方法により製造される高過塩基性のマグネシウム・アルキルトルエンスルホネート;
(c)1.0質量%乃至10.0質量%の少なくとも一種のホウ素化もしくは非ホウ素化コハク酸イミド無灰清浄剤;
(d)カルシウムとして0.05質量%乃至0.5質量%の少なくとも一種のカルシウム・スルホネート、フェネート、もしくはサリチレート清浄剤;
(e)リンとして0.02質量%乃至0.2質量%の少なくとも一種の二級アルキル・ジチオリン酸亜鉛もしくは一級アルキル・ジチオリン酸亜鉛と二級アルキル・ジチオリン酸亜鉛との混合物;
(f)0.0質量%乃至5.0質量%の少なくとも一種のジフェニルアミン酸化防止剤;
(g)モリブデンとして0.0質量%乃至0.5質量%の少なくとも一種のモリブデンコハク酸イミド酸化防止剤;
(h)0.0質量%乃至5.0質量%の少なくとも一種の部分カルボン酸エステルもしくはホウ酸エステル摩擦緩和剤;
(i)0.0質量%乃至0.05質量%の少なくとも一種の補助耐摩耗/極圧剤(例、ジチオカルバミン酸モリブデン);
(j)0.0質量%乃至0.1質量%の少なくとも一種の消泡剤;および
(k)0.0質量%乃至5.0質量%の少なくとも一種のオレフィン共重合体粘度指数向上剤。
【0044】
本発明は、潤滑油添加剤濃縮物にも関する。上記潤滑油添加剤濃縮物は、90質量%乃至10質量%の有機液状希釈剤と10質量%乃至90質量%の本発明の方法により製造される高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートとを含む。一般に、100℃において約4乃至約8.5センチストークス(cSt)、好ましくは100℃において約4乃至約6cStの粘度を有する中性油が希釈剤として用いられるが、合成油並びに添加剤および最終的な潤滑油と相溶性がある他の有機液体も使用できる。
【0045】
以下の実施例により本発明をさらに説明する。以下の実施例は、特に有利な方法の態様を示すものであり、これらの実施例は、本発明を説明するものであるが、本発明の限定を意図するものではない。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
四つ口のガラス製容器に、75gのメタノール、970gのキシレン、および135gの酸化マグネシウムを攪拌しながら加えた。次に、275gの、分子量が475で米国特許第7479568号明細書の例Aに記載の手順に従って製造したアルキルトルエンスルホン酸を、反応混合物中の温度を約40℃に保ちながら、15分間かけて容器に加え、さらに、95gの水、50gの酢酸(AA)促進剤、および20gのドデセニルコハク酸無水物(DDSA)促進剤を加えた。
【0047】
15分後に、22gの二酸化炭素を、40℃の温度で40分間かけて容器に導入することにより炭酸塩化を開始した。炭酸塩化は、57gの二酸化炭素を66分間、22gの二酸化炭素を27分間、そして12gの二酸化炭素を37分間かけて、容器に導入することにより継続して実施した。炭酸塩化後の沈降物(PCS)は、0.15容積%であった。
【0048】
容器内の混合物は、2時間かけて段階的に40℃から132℃までの温度にした。次に、230gのエクソン100N油を混合物に加えた。混合物をべックマン遠心機で遠心分離し、15分間、完全真空下で165℃まで加熱して、キシレン、メタノール、および水を除いた。
【0049】
[実施例2]
四つ口のガラス製容器に、75gのメタノール、970gのキシレン、および275gの分子量が475で米国特許第7479568号明細書の例Aに記載の手順に従って製造したアルキルトルエンスルホン酸を加えた。混合物の温度を約40℃に保った。次に、135gの酸化マグネシウムを、反応混合物中の温度を約40℃に保ちながら、15分間かけて容器に加えた。さらに10分後、60gの水、35gの酢酸促進剤、および15gのステアリン酸(SA)促進剤を容器に加えた。
【0050】
5分後、22gの二酸化炭素を、40℃の温度で40分間かけて容器に導入することにより炭酸塩化を開始した。炭酸塩化は、57gの二酸化炭素を66分間、22gの二酸化炭素を27分間、さらに12gの二酸化炭素を37分間かけて容器に導入することにより継続して実施した。PCSは1.6容積%であった。
【0051】
容器内の混合物は、90分間かけて段階的に40℃から132℃までの温度にした。次に、230gのエクソン100N油を混合物に加えた。混合物をべックマン遠心機で遠心分離し、10分間、完全真空下で200℃まで加熱して、キシレン、メタノール、および水を除いた。
【0052】
[実施例3]
23%の分岐鎖を伴う異性化C20乃至C24オレフィンでトルエンをアルキル化にすることより製造されるアルキルトルエンから、アルキルトルエンスルホン酸を誘導した以外は、実施例2に記載した手順に従って実施例3を実施した。
【0053】
実施例1〜3において製造した過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートについて、二種類の市販の高過塩基性マグネシウム・アルキルベンゼンスルホネートと共に、その物理的および化学的性質をまとめて表1に記載する。
【0054】
【表1】

【0055】
(腐食に対する保護機能の評価)
[実施例4]
基準となる潤滑油組成物を製造し、高温腐食ベンチテスト(HTCBT)にて、本発明の方法により製造された高過塩基性のマグネシウム・アルキルトルエンスルホネートをいくつかの利用可能な市販品の高過塩基性アルキルベンゼンスルホネートと対比して、腐食に関する性能を評価した。基準となる組成物は、下記の添加剤を用いて製造した:
(a)1質量%のホウ素化コハク酸イミド;
(b)6.5質量%のエチレン・カーボネートで後処理したコハク酸イミド;
(c)2.1質量%の高分子量ポリコハク酸イミド;
(d)1.75mM/kgの低過塩基性カルシウム・スルホネート;
(e)23mM/kgの高過塩基性カルシウム・フェネート;
(f)10mM/kgのホウ素化カルシウム・スルホネート;
(g)16mM/kgのジアルキルジチオリン酸亜鉛;
(h)0.3質量%のアルキル化ジフェニルアミン;
(i)0.6質量%のヒンダードフェノール系エステル;
(j)0.25質量%のモリブデン錯体;
(k)5ppmの消泡剤;
(l)0.3質量%の流動点硬化剤;
(m)2.0質量%の分散剤VII;
(n)2.85質量%のVI向上剤;および
(o)残部のII種基油の混合物。
【0056】
[実施例5]
実施例4の基準処方を、34.5mM/kgの実施例1で製造した高過塩基性のマグネシウム・アルキルトルエンスルホネートでトップ処理することにより潤滑油組成物を製造した。
【0057】
[実施例6]
実施例4の基準処方を、34.5mM/kgの実施例2で製造した高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートでトップ処理することにより潤滑油組成物を製造した。
【0058】
[実施例7]
実施例4の基準処方を、34.5mM/kgの実施例3で製造した高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートでトップ処理することにより潤滑油組成物を製造した。
【0059】
[比較例C]
実施例4の基準処方を、34.5mM/kgの表1に比較用のスルホネートAとして示した高過塩基性のマグネシウム・アルキルベンゼンスルホネート(ケムチュラ社のHybaseTMM−401)でトップ処理することにより潤滑油組成物を製造した。
【0060】
[比較例D]
実施例4の基準処方を、34.5mM/kgの表1に比較用のスルホネートBとして示した高過塩基性マグネシウム・アルキルベンゼンスルホネート(ルーブリゾール社のLZ6465A)でトップ処理することにより潤滑油組成物を製造した。
【0061】
これらの潤滑油の腐食防止性を、腐食に対してエンジンを保護する能力に関する標準ASTM試験番号D6549(HTCBT)の試験において測定し、比較した。特に、鉛、銅、スズ、およびリン青銅を含む4種類の金属試験片を、規定量の試験油に浸漬して実施した。高温下、一定の時間、油に空気を通した。試験の終了時に、試験片と負荷を加えた油を調べ、腐食を検出した。負荷を加えた油での鉛、銅、およびスズの濃度を、以下の表2に記載する。
【0062】
【表2】

【0063】
表2の結果は、本発明の高過塩基性のマグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを含む潤滑油組成物は、比較用の高過塩基性マグネシウム・アルキルベンゼンスルホネートを含む潤滑油組成物よりも良好な抗腐食性能を有していることを示している。また、鉛の腐食に関して、高過塩基性アルキルベンゼンスルホネートを含む潤滑油組成物の少なくとも一例がASTM試験番号D6549で不合格となっている。
【0064】
本発明の真意および範囲から逸脱しない限り、本発明の修正および変更が可能あるが、その制限は書き添えられている請求項の範囲が示す通りにのみ課せられると理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを製造するための方法であって、下記の工程を含む方法:
(a)少なくとも一種の油溶性アルキルトルエンスルホン酸および少なくとも一種のマグネシウム供給源を、(i)少なくとも一種の炭化水素溶媒および(ii)少なくとも一種の低分子量アルコールを含む混合物の存在下で反応させる工程;
(b)工程(a)の反応生成物を少なくとも一種の促進剤および水と接触させる工程;
(c)工程(b)の生成物を過塩基化酸と接触させる工程;そして
(d)工程(c)の反応生成物を、上記炭化水素溶媒、上記低分子量アルコール、および水の留出温度よりも高い温度まで加熱し、上記炭化水素溶媒、上記低分子量アルコール、および水を留出させる工程。
【請求項2】
上記過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートが少なくとも300mgKOH/gの全塩基価を有する請求項1に従う方法。
【請求項3】
上記過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートが少なくとも350mgKOH/gの全塩基価を有する請求項2に従う方法。
【請求項4】
上記油溶性アルキルトルエンスルホン酸が直鎖アルキルトルエンスルホン酸である請求項1に従う方法。
【請求項5】
上記直鎖アルキルトルエンスルホン酸の直鎖アルキル基が少なくとも16の炭素原子を含む請求項4に従う方法。
【請求項6】
上記直鎖アルキルトルエンスルホン酸の直鎖アルキル基が18乃至28の炭素原子を含む請求項5に従う方法。
【請求項7】
上記直鎖アルキルトルエンスルホン酸の直鎖アルキル基が20乃至24の炭素原子を含む請求項6に従う方法。
【請求項8】
上記油溶性アルキルトルエンスルホン酸が分岐鎖アルキルトルエンスルホン酸である請求項1に従う方法。
【請求項9】
上記分岐鎖アルキルトルエンスルホン酸の分岐鎖アルキル基が少なくとも16の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンの異性化により誘導されたものである請求項8に従う方法。
【請求項10】
上記分岐鎖アルキルトルエンスルホン酸の分岐鎖アルキル基が18乃至28の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンの異性化により誘導されたものである請求項9に従う方法。
【請求項11】
上記分岐鎖アルキルトルエンスルホン酸の分岐鎖アルキル基が20乃至24の炭素原子を有する直鎖アルファオレフィンの異性化により誘導されたものである請求項10に従う方法。
【請求項12】
上記マグネシウム供給源が酸化マグネシウムである請求項1に従う方法。
【請求項13】
上記炭化水素溶媒がキシレンである請求項1に従う方法。
【請求項14】
上記方法において、上記低分子量アルコールが一価のアルコールである請求項1に従う方法。
【請求項15】
上記低分子量の一価のアルコールがメタノールである請求項14に従う方法。
【請求項16】
上記促進剤が、酢酸、ステアリン酸、ドデシルコハク酸無水物、ポリイソブテニルコハク酸無水物、及びそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項1に従う方法。
【請求項17】
上記過塩基化酸が二酸化炭素である請求項1に従う方法。
【請求項18】
請求項1の方法により製造された高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネート。
【請求項19】
相対的に多量の潤滑粘度の油および相対的に少量の請求項1の方法により製造された高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを含む潤滑油組成物。
【請求項20】
90質量%乃至10質量%の有機液状希釈剤および10質量%乃至90質量%の請求項1の方法により製造された高過塩基性マグネシウム・アルキルトルエンスルホネートを含む潤滑油添加剤濃縮物。

【公表番号】特表2013−512992(P2013−512992A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542103(P2012−542103)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/057995
【国際公開番号】WO2011/068732
【国際公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】