説明

高選択的ノルエピネフリン再取込みインヒビターおよびその使用方法

【課題】 ノルエピネフリンの再取込みを阻害することが利益である生理学上または精神学上の疾患、障害または状態に罹患したヒトの治療し、あるいは、ヒトがそれらに罹患することを予防する方法および組成物を開示する。
【解決手段】 該組成物は少なくとも約5000のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の医薬上の選択性を有する化合物を含む。そのようは化合物の例は、レボキセチン、より好ましくはレボキセチンの光学的に純粋な(S,S)鏡像異性体を含む。一般に、該方法は、治療上有効量のそのような組成物の投与を含む。該組成物からの医薬の調製、生理学的または精神学的の疾患、障害または状態に罹患したヒトを治療するか、あるいはそれらにヒトが罹患することを予防するための医薬の製造における該組成物の使用も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルエピネフリンの再取込みの阻害が利益を与える様々な状態に罹っている個人を治療する方法に関する。特に、本発明は(S,S)レボキセチンのごとき化合物を個人に投与することを特徴とする治療方法であって、ここに、該化合物は、セロトニン再取込み部位と比較して、ノルエピネフリン再取込み部位に対して高い薬理学的選択性を有する。本発明は該化合物を含有する組成物、および該化合物を含有する医薬の調製にも関する。
【背景技術】
【0002】
多くのタイプのうつ病、精神的、行動的、および神経学的障害はある種のモノアミン神経伝達物質を用いて信号を伝える脳回路における混乱に起因する。モノアミン神経伝達物質は、例えば、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、セロトニン(5−HT)、およびドーパミンを含む。通常レベルより低いノルエピネフリンは、生活におけるエネルギー、モチベーションおよび興味の欠如を含む種々の症状に関連する。かくして、通常レベルのノルエピネフリンは報酬(reward)への衝動および受け入れ能力を維持するのに必須である。
【0003】
これらの神経伝達物質は、小さなギャップ(すなわち、シナプス間隙)を渡ってニューロン末端から移動し、もう一つのニューロン表面上の受容体分子に結合する。この結合はシナプス後ニューロンにおける反応または変化を開始するか、あるいは活性化する細胞内変化を誘発する。不活性化が、主に、シナプス前ニューロンへ戻す神経伝達物質の輸送(すなわち、再取込み)により生じる。ノルアドレナリン伝達の異常は、神経学的障害は、生活におけるエネルギー、モチベーション、および興味の欠如を含む様々な症状の原因となる様々なタイプのうつ病、精神的、行動的および神経学的障害をもたらす。概要は、[R J. Baldessarini, "Drugs and the Treatmnt of Psychiatric Desorders: Depression and Mania" in Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, McGraw-Hill, NY, NY, pp.432-439 (1996)]を参照せよ。
【0004】
レボキセチン(すなわち、2−[(2−エトキシフェノキシ)(フェニル)メチル]モルホリン)は、例えば、ノルエピネフリンの再取込みを防止することによって、生理学的に活性なノルエピネフリンの濃度を上昇させる。レボキセチンはノルエピネフリン再取込み阻害剤であり、うつ病の短期(すなわち、8週間未満)および長期治療に有効であることが示されている。実際に、レボキセチンは、成人および老人患者の両方において共通して処方される抗うつ剤であるフルオレキセチン、イミプラミンおよびデシプラミンと同じ有効性を有する。[S.A. Montgomery, Reboxetine: Additional Benefits to the Depressed Patient, Psychopharmocol (Oxf) 11:4 Suppl., S9-15 (Abstract) (1997)]を参照せよ。
【0005】
抗うつ剤薬物は、時々、「世代」に分けられる。第1世代は、(イソカルボキサジドおよびフェニルヒドラジンのごとき)モノアミンオキシダーゼ阻害剤および(イミプラミンのごとき)三環式剤を含んでいた。抗うつ剤薬物の第2世代は、ミアンセリンおよびトラゾドンのごとき化合物を含んでいた。第3世代は選択的再取込み阻害剤と呼ばれる薬物を含んでいる(例えば、フルオキセチン、セルトラリン、パロキセチンおよびレボキセチン)。これらの薬物はうつ病に関わっていると思われる3つの主要なモノアミン系(すなわち、5−HT(セロトニン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)およびドーパミン)のうちたった一つへの比較的選択的な作用により特徴付けられた。[APP Textbook of Psychopharmacology (A.F. Scharzberg and C.B. Nemeroff), American Psychiatric Press, 2d. ed., (1998); Lexicon of Psychiatry, Nuerology and the Neurosciences (F.J. Ayd, Jr.) Williams and Wilkins (1995)]。レボキセチンの抗うつ効力はマウスにおけるレスペリン誘発眼瞼痙攣および低体温症、β−アドレナリン受容体のダウンレギュレーション、およびノルアドレナリン−結合アデニル化シクラーゼの不感化を防止するその能力により証拠付けられる。[M.Brunello and G. Racagni, "Rationale for the Development of Noradrenaline Reuptake Inhibitors," Human Psychopharmacology, vol. 13, S-13-519, Supp. 13-519 (1998)]。Brian E. Leonardの調査によれば、デシプラミン、マプロチリン、およびロフェプラミンが、証明された効力を持つ比較的選択的なノルエピネフリン再取込み阻害剤である。これらの物質は脳内ノルアドレナリンを増加させ、それによって、うつを回復させるように機能する。ミアンセリンおよびミルタゼピンも、シナプス前α2−アドレノセプターをブロックすることによりノルアドレナリンの利用性を増大させることによって、抗うつ様効果を示す。なおさらに、オキサプロチリン、フェゾールアミン、およびトモキセチンは、神経伝達受容体相互作用を欠如し、かくして、典型的な三環式抗うつ剤の特徴である多くの副作用を引き起こさない効力のある選択的ノルエピネフリン再取込み阻害剤である。[Brian E. Leonard, "The Role of Noradrenaline in Depression: A Review, "Journal of Psychopharmocology, vol. 11. no.4 (Suppl.), pp. S39-S47 (1997)]を参照せよ。
【0006】
レボキセチンも選択的ノルエピネフリン再取込み阻害剤であり、それも、典型的な三環式抗うつ剤の投与に関連する副作用をより少ししか生じない。レボキセチンの抗うつ効力はマウスにおけるレスペリン誘発眼瞼痙攣および低体温症、β−アドレナリン作動性受容体のダウンレギュレーション、およびノルアドレナリン−結合アデニル化シクラーゼの不感化を防止するその能力により証拠付けられる。[M.Brunello and G. Racagni, "Rationale for the Development of Noradrenaline Reuptake Inhibitors," Human Psychopharmacology, vol. 13, (Supp.) 13-519 (1998)]。
【0007】
レボキセチンは、全般的に、[Melloni et al., 米国特許第4,229,449、5,068,433および5,391,735号、および英国特許第2,167,407号]に記載され、それらの開示は出典明示して本明細書の一部とみなされる。化学的に、レボキセチンは2つのキラル中心を有し、そのため、ジアステレオマーの2つの鏡像異性体対として存在し、異性体(I)ないし(IV)として以下に示される:
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
【化4】

【0012】
多くの有機化合物が光学活性形態で存在する。すなわち、それらは面偏光の面を旋回させる能力を有する。光学活性化合物を説明するのに、接頭辞RおよびSを用いてそのキラル中心に対する分子の絶対配置を示す。接頭辞DおよびL、または(+)もしくは(−)は該化合物による面偏光の旋回の符号を意味し、Lまたは(−)で該化合物が左旋性であることを意味する。対照的に、接頭辞Dまたは(+)が付された化合物は右旋性である。絶対的な立体化学についての命名と鏡像異性体の旋回についての命名との間にはなんら相関はない。かくして、D−乳酸は(−)−乳酸と同一であり、L−乳酸は(+)−乳酸と同一である。所与の化学構造について、鏡像異性体の対の各々は、互いに重ならない鏡像であることを除き、同一である。特定の立体異性体は鏡像異性体ということができ、そのような異性体の混合物は、しばしば、鏡像異性もしくはラセミ混合物とよばれる。
【0013】
立体化学純度は、医薬の分野では重要であり、そこでは、最も頻繁に処方される薬物の多くがキラリティーを示す。例えば、β−アドレナリン遮断剤のL−鏡像異性体であるプロプラノロールは、そのD−鏡像異性体よりも100倍効力があることが知られている。さらに、光学純度は医薬薬物分野においては重要である。なぜならば、ある種の異性体は、遊離なまたは不活性な効果よりもむしろ有害な効果を与えるからである。例えば、サリドマイドのD−鏡像異性体は、妊娠中のつわりの制御のために処方された場合、安全で有効な鎮静剤であるが、一方、その対応するL−鏡像異性体は強力な催奇形物質であると信じられている。
【0014】
一つの分子に2つのキラル中心が存在する場合、4つの可能な立体異性体:(R,R)、(S,S)、(R,S)、および(S,R)がある。これらのうち、(R,R)および(S,S)が、鏡像異性体の対の例であり(お互いが鏡像)、それらは、典型的に、いずれの他の鏡像異性体対とちょうど同じように、化学性質および融点を共有する。しかしながら、(R,R)および(S,S)の鏡像は、(R,S)および(S,R)には重ならない。この関係をジアステレオ異性体といい、(S,S)分子は(R,S)分子のジアステレオ異性体であり、一方、(R,R)分子は(S,R)のジアステレオ異性体である。
【0015】
現在、レボキセチンは、1:1比の鏡像異性体(R,R)および(S,S)のラセミ混合物としてのみ商業的に入手可能であり、一般名称「レボキセチン」への本明細書の言及は、この鏡像異性体もしくはラセミ混合物をいう。レボキセチンは、EDRONAXTM、PROLIFTTM、VESTRATMおよびNOREBOXTMの商品名で市販されている。前記したように、レボキセチンはヒトうつ病の治療に有用であることが示されている。経口投与したレボキセチンは容易に吸収され、1日に1回または2回の投与が必要とされる。好ましい成人日用量は約8ないし約10ミリグラム(mg)の範囲にある。小児に対するレボキセチンの有効日用量はより少なく、典型的には、約4ないし5mgの範囲である。しかしながら、各患者についての最適な日用量は、患者のサイズ、該患者が服用している他の医薬、特定の障害の同一性および重篤度および該患者の他の環境の全てを考慮して、担当医が決定すべきである。
【0016】
しかしながら、レボキセチンの投与は、薬物−薬物相互作用に関連する所望しない副作用および、例えば、眩暈、不眠症、めまい、血圧変動、発汗、胃腸障害、男性の性的不全、ある種の抗コリン様効果(例えば、頻脈および尿停留)のごとき他の所望しない副作用をもたらす。そのような副作用は、部分的に、レボキセチンがノルエピネフリンを阻害するのに充分高い選択性を欠如することから、生じる。換言すれば、レボキセチンは、セロトニンおよびドーパミンのように、該所望しない副作用に寄与するのに充分な程度にまで他のモノアミンの再取込みをブロックする。
【0017】
他の抗うつ剤はノルエピネフリンの再取込みを阻害する高い薬理学的選択性を有していることが報告されている。例えば、オキサプロチリンは、約4166のセロトニン再取込みに対するノルエピネフリン再取込みについての薬理学的選択性を有し、それはKi値に基づく。デシプラミンの対応する薬理学的選択性は約377およびマプロチリンのそれは約446である。[Elliott Richelson and Michael Pfenning, "Blockade by Antidepressants and Related Compounds of Biogenic Amine Uptake in Rat Brain Synaptosomes:
Most Antidepressants Selectivity Block Norepinephrine Uptake," European Journal of Pharmacology, vol. 14, pp. 277-286 (1984)]を参照せよ。オキサプロチリン、デシプラミン、およびマプロチリンの比較的高い選択性にもかかわらず、これらおよび他の知られた物質は、他の神経伝達物質の受容体を、それらも不都合な副作用に寄与する程度にまで、望ましくなく遮断する。
【0018】
したがって、当該分野において、ノルエピネフリンの再取込みの阻害が利益を与えつつ、従来のノルエピネフリン再取込み阻害剤に関連する不都合な副作用を低減するか、または除外する様々な状態に罹患している個人の治療法の必要がある。セロトニンおよびドーパミンのように、他の神経伝達物質よりもノルエピネフリンの再取込みを選択的に阻害する方法の必要もある。特に、当該分野において、高度に選択的(1の再取込み部位にて)、特異的(他の受容体では活性がない)、および強力なノルエピネフリン再取込み阻害剤の必要がある。さらに、高度に選択的、かつ、強力なノルエピネフリン再取込みインヒビターを含有する医薬組成物の必要もある。なおさらに、そのような医薬組成物を含有する医薬および、そのような医薬の製造におけるそのような組成物の使用の必要がある。
【0019】
発明の概要
概略的に、本発明は、ノルエピネフリンの再取込みの阻害が利益を与え、より詳しくは、ノルエピネフリンの選択的、特異的、および強力な阻害が利益を与える様々なヒト状態を治療するかまたは予防するための組成物および方法に向けられる。より特別には、本発明は、レボキセチンまたはその光学的に純粋な(S,S)立体異性体をヒトに投与することを特徴とするそのような状態の有用な治療または予防に向けられる。
したがって、本発明の一つの具体例は、ノルエピネフリンの再取込みを選択的に阻害する方法に向けられ、該方法は、治療上有効量の組成物を個人に投与する工程を含み、該組成物は、少なくとも約5000、好ましくは少なくとも約10,000、および、より好ましくは少なくとも約12,000のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性を有する化合物を含む。
【0020】
本発明のもう一つの具体例は、ノルエピネフリンの再取込みの阻害が利益を与える、状態に罹患したヒトを治療するか、または該状態を予防する方法に向けられ、該方法は、少なくとも約5000、好ましくは少なくとも約10,000、および、より好ましくは少なくとも約12,000のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性を有する化合物を含む治療上有効量の組成物を投与する工程を含む。
【0021】
本発明のもう一つの具体例は、少なくとも約5000、好ましくは少なくとも約10,000、および、より好ましくは少なくとも約12,000のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性を有する化合物を含む組成物から医薬を調製して、(アルコール、ニコチン、および他の精神作用物質によるものを含む)中毒障害および引きこもり症候群、(抑うつ気分、不安、不安と抑うつ気分との混合、行為の混乱、行為と気分との混合した混乱)を含む適応障害、(アルツハイマー病を含む)加齢に関連する学習および精神障害、神経性食欲不振、感情鈍麻、全般的な医学的状態による注意欠陥(もしくは他の認識)障害、注意欠陥多動障害(ADHD)、双極性障害、神経性過食症、慢性疲労症候群、慢性もしくは急性ストレス、慢性疼痛、行為障害、気分循環性障害、(青年期うつ病および年少者うつ病を含む)うつ病、気分変調障害、(身体化障害、転換性障害、疼痛障害、心気症、身体醜形障害、分類不能の身体性表現性障害、および特定不能の身体性表現性障害NOSを含む)線維筋痛症および他の身体性表現性障害、全身性不安障害(GAD)、失禁(すなわち、緊張性失禁、真性緊張性失禁、および混合失禁)、吸入障害、中毒障害(すなわち、アルコール中毒)、そう病、偏頭痛、肥満(すなわち、肥満もしくは太りすぎの患者の体重を低減する)、強迫性障害および関連する広範囲な障害、反抗挑戦性障害、恐慌性障害、末梢性神経障害、心的外傷後ストレス障害、月経前不快症候群(すなわち、月経前症候群および後期黄体期不快障害)、(精神分裂病、情動分裂型および精神分裂病型障害を含む)精神病性障害、季節性情動障害、(ナルコレプシーおよび夜尿症のごとき)睡眠障害、(社会不安障害を含む)社会恐怖、特異的発育障害、選択的セロトニン再取込み阻害(SSRI)「プープアウト(poop out)」症候群(すなわち、SSRI療法に対する満足反応を満足反応の初期後に維持することができない患者における)、およびTIC障害(例えば、トレッツ病)よりなる群から選択される少なくとも1の神経系障害を治療または予防することに向けられる。
【0022】
本発明のもう一つの具体例は、上記神経系障害の少なくとも1を治療するか、または予防するための医薬の製造における、少なくとも約5000、好ましくは少なくとも約10,000、および、より好ましくは少なくとも約12,000のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性を有する化合物を含む組成物の使用に向けられる。
【0023】
少なくとも約5000のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性を有する化合物の例は、実質的にその(R,R)立体異性体を含まない光学的に純粋な(S,S)レボキセチンである。光学的に純粋な(S,S)レボキセチンで治療された個人は(R,R)および(S,S)レボキセチンのラセミ混合物の投与に関連するある種の不都合な副作用を経験しない。したがって、本発明は、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンをヒトに投与してノルエピネフリン再取込みを選択的に阻害し、それによって、レボキセチンのラセミ混合物の投与により生じる不都合な副作用を制御し、低減し、または除外することを特徴とする。
【0024】
より詳しくは、本発明のもう一つの具体例は、ノルエピネフリンの再取込みの阻害が利益を与えるヒト状態を治療または予防する方法に向けられる。該方法は、治療量、典型的には約0.5ないし約10mg/日の光学的に純粋な(S,S)レボキセチンまたは医薬上許容されるその塩を投与する工程を含む。光学的に純粋な(S,S)レボキセチンは実質的に(R,R)レボキセチンを含まない。
【0025】
光学的に純粋な(S,S)レボキセチンは(R,R)および(S,S)レボキセチンのラセミ混合物を用いた以前の治療または予防よりも有利である。特に、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンを含有する組成物を用いる治療は、ノルエピネフリンの再取込みを阻害することにおいて、(R,R)および(S,S)立体異性体のラセミ混合物を含有する組成物よりも約5ないし8.5倍も有効であることが分っている。それゆえ、再取込みブロックは、一層少ない用量で達成し得る。したがって、本発明は、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンの使用により、該ラセミ混合物(すなわち、商業的に入手可能なレボキセチン)の慣例の日用量において、約50%ないし約80%の実質的な減少を可能にする。さらに、該光学的に純粋な(S,S)レボキセチンを用いる治療は、ノルエピネフリンの再取込みを阻害することに関する(S,S)レボキセチンの高度な選択性および効力のため、該治療に関連する所望しない不都合な副作用をより少なくすることができる。
【0026】
本発明のもう一つの具体例は、治療上有効量のレボキセチンを個人に投与するステップを含み、神経系障害を治療するか、または予防する方法に向けられ、ここに、該障害は、適応障害、加齢に関連する学習および精神障害、神経性食欲不振、感情鈍麻、全般的な医学的状態による注意欠陥、双極性障害、神経性過食症、慢性疲労症候群、慢性もしくは急性ストレス、慢性疼痛、気分循環性障害、気分変調障害、線維筋痛症および他の身体性表現性障害、失禁、そう病、偏頭痛、肥満、末梢性神経障害、心的外傷後ストレス障害、月経前不快症候群、精神病性障害、季節性情動障害、睡眠障害、特異的発育障害、SSRI「プープアウト」症候群、およびTIC障害のうちの少なくとも一つである。本発明の他の具体例は、レボキセチンを含む組成物からの医薬の調製および前記神経障害のうち少なくとも一つを治療するか、または予防するための医薬の製造におけるレボキセチンの使用に向けられる。
【0027】
本発明のさらなる利益および特徴は、実施例および付属の特許請求の範囲と共に以下の詳細な説明の査読から、当業者にとって明らかとなるであろう。しかしながら、本発明は様々な形態の具体例が可能であるが、以下に記載されるものは、本発明の特別に好ましい具体例であり、本発明の開示は例示する意図であって、本発明を本明細書に記載された特別な具体例に限定する意図はないことに注意すべきである。
【0028】
好ましい具体例の詳細な説明
レボキセチンは中枢神経系に活性な既知化合物であり、抗うつ剤として用いられてきている。今まで、レボキセチンの使用はうつ病、反抗挑戦性障害、注意欠陥/多動障害、および行為傷害の治療に限られていた。これら提案された治療は、国際公開WO99/15163、WO95/15176、およびWO99/15177に開示されている。これらの治療方法は、(S,S)および(R,R)レボキセチン立体異性体のラセミ混合物の投与に限定されていた。
【0029】
レボキセチンは、多くの抗うつ剤のようには作用しない。三環式抗うつ剤、および選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)さえとも異なり、レボキセチンは8−OH−DPAT低体温試験において無能であり、レボキセチンはSSRIではないことを示す[Brian E. Leonard, "Noradrenaline in basic models of depression." European-Neuropsychopharmacol, 7 Suppl. 1 pp. S11-6 and S71-3 (April 1997)]。レボキセチンは、単に最低限のセロトニン再取込み阻害活性しか持たず、ドーパミン再取込み阻害活性を持たない選択的ノルエピネフリン再取込み阻害剤である。レボキセチンは様々な動物モデルにおいては抗コリン結合活性を示さず、モノアミンオキシダーゼ(MAO)阻害活性を実質的に欠如している。ラセミレボキセチンは、約80のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性を示す。該Ki値は以下により詳細に説明する。
【0030】
本発明のもう一つの具体例は、ノルエピネフリンを選択的に阻害する方法を含み、該方法は治療上有効量の組成物を個人に投与するステップを含み、該組成物は少なくとも約5000、好ましくは少なくとも約10,000、および、より好ましくは少なくとも約12,000のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性を有する化合物を含む。
【0031】
本発明のもう一つの具体例は、少なくとも約5000、好ましくは少なくとも約10,000、および、より好ましくは少なくとも約12,000のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性を有する化合物を含む組成物に向けられる。本発明の組成物はノルエピネフリン再取込みの阻害が有益である(以下により詳細に記載する)疾患、障害、および状態の治療または予防に有用であるそのような化合物の例は、レボキセチンの光学的に純粋な(S,S)立体異性体または医薬上有効なその塩である。
【0032】
該ノルエピネフリン再取込み部位に結合する化合物の選択性の度合を決定するために、セロトニン再取込み部位についての該化合物の阻害定数(すなわち、Ki値)をノルエピネフリン再取込み部位についての該化合物のKi値で除した。ノルエピネフリン再取込み部位についてのより低い値のKiは、ノルエピネフリン受容体に対するより強い結合親和性を示す。より高いセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)比は、該ノルエピネフリン受容体への結合についてのより高い選択性を示す。したがって、本発明は、上記したごとく、少なくとも約5000、好ましくは少なくとも約10,000、および、より好ましくは少なくとも約12,000のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性を有する化合物を含む組成物に向けられる。さらに、25,000、50,000、75,000および100,000またはそれ以上までのごとき、12,000をはるかに超えた選択性値も有益である。
【0033】
本発明の組成物は、本発明に準じて用いられるとき、該ノルエピネフリン再取込み部位に関して選択的であるが、所望しない副作用に関連する受容体、例えば、セロトニン作動性およびドーパミン作動性受容体の顕著なブロックは生じない。換言すれば、ノルエピネフリンの再取込みを阻害することが可能な本発明の組成物の服用は、他の神経伝達物質受容体のブロックを誘発することにおいて、本質的に無能である。阻害定数(Ki値)は、典型的にナノモラー(nM)の単位で報告され、[Y.C. Cheng and W.H. Prusoff, "Relationship Between the Inhibitory Constant (Ki) and the Concentration of Inhibitor Which Causes 50% Inhibition (IC50) of an Enzymatic Reaction, " Biochemical Pharmacology, vol. 22, pp. 3099-3108 (1973)]に記載された方法に準じてIC50値から算出した。
【0034】
本発明のもう一つの具体例は、レボキセチンの光学的に純粋な(S,S)立体異性体を用いて、ノルエピネフリンの再取込みの阻害が有益な状態を治療または予防する有効な方法に向けられる。(S,S)レボキセチンはノルエピネフリンの有効な選択的阻害剤であり、したがって、ラセミレボキセチンと比較して、用量レベルを実質的に低減させ得る。さらに、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンで治療した個人は(R,R)および(S,S)レボキセチンのラセミ混合物の投与に関連するある種の不都合な作用を経験しない。したがって、本発明のもう一つの具体例は、治療量の光学的に純粋な(S,S)レボキセチンをヒトに投与してノルエピネフリンの再取込みを阻害し、ラセミレボキセチンの投与に関連する不都合な作用を制御し、低減し、あるいは排除することを含む。
【0035】
本発明のさらにもう一つの具体例は、ノルエピネフリンの再取り込みの阻害が利益を与えるヒト状態を治療するか、または予防する方法に向けられる。該方法は、総用量が約0.1mg/日ないし約10mg/日、より好ましくは0.5ないし約10mg/日の光学的に純粋な(S,S)レボキセチンまたは医薬上許容されるその塩を個人に投与し、好ましくは経口投与するステップを含む。
【0036】
本明細書で用いるとき、「レボキセチン」なる語は、レボキセチンの(R,R)および(S,S)鏡像異性体のラセミ混合物をいう。対照的に、「(S,S)レボキセチン」なる語は、(S,S)立体異性体のみをいう。同様に、「(R,R)レボキセチン」なる語は、(R,R)立体異性体のみをいう。本明細書で用いるとき、「光学的に純粋な(S,S)レボキセチン」および「実質的にその(R,R)立体異性体を含まない」なる句は、当該組成物が(R,R)レボキセチンに対してより高い比率の(S,S)レボキセチンを含有することを意味する。好ましい具体例において、該句は、当該組成物は少なくとも90重量パーセント(重量%)の(S,S)レボキセチンおよび10重量%以下の(R,R)レボキセチンであることを意味する。より好ましい具体例において、該句は、当該組成物は少なくとも97重量%の(S,S)レボキセチンおよび3重量%以下の(R,R)レボキセチンを含有することを意味する。一層さらに好ましい具体例において、該句は、当該組成物は少なくとも99重量%の(S,S)レボキセチンおよび1重量%以下の(R,R)レボキセチンを含有することを意味する。最も好ましい具体例において、該句は、本明細書で用いるとき、「光学的に純粋な(S,S)レボキセチン」および「実質的にその(R,R)立体異性体を含まない」なる句は、当該組成物が99重量%を超える(S,S)レボキセチンを含有することを意味する。上記したパーセンテージは、当該組成物に存在するレボキセチンの総量に基づく。「実質的に(R,R)レボキセチンを含まない」、「実質的に光学的に純粋な(S,S)レボキセチン」、「レボキセチンの光学的に純粋な(S,S)立体異性体」、および「光学的に活性な(S,S)レボキセチン」も上記の量に包含される。
【0037】
「医薬上許容される塩」または「医薬上許容されるその塩」なる句は、有機および無機の酸および塩基を含む医薬上許容される酸または塩基から調製された塩をいう。本発明に用いる有効成分(すなわち、(S,S)レボキセチン)は塩基性であるので、塩は医薬上許容される酸から調製することができる。適当な医薬上許容される酸は、酢酸、ベンゼンスルホン酸(ベンシル酸)、安息香酸、p−ブロモフェニルスルホン酸、カンフルスルホン酸、炭酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩化水素酸、ヨウ化水素酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸(メシル酸)、ムチン酸、硝酸、シュウ酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸等を含む。そのような医薬上許容される(S,S)レボキセチンの塩の例は、かくして、限定されないが、酢酸塩、安息香酸塩、β−ヒドロキシブチル酸塩、硫酸水素塩、亜硫酸水素塩、臭化物、ブチン−1,4−ジオアート、カルポアート(carpoate)、塩化物、クロロ安息香酸塩、クエン酸塩、リン酸二水素塩、ジニトロ安息香酸塩、フマル酸塩、グリコール酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキシン−1,6−ジオアート、ヒドロキシ安息香酸塩、ヨウ化物、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタリン酸塩、メタンスルホン酸塩、メトキシ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、リン酸水素塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−安息香酸塩、シュウ酸塩、フェニル酪酸塩、フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、フタル酸塩、フィロ酢酸塩(phylacetate)、プロパンスルホン酸塩、プロピオル酸塩、プロピオン酸塩、ピロリン酸塩、ピロ硫酸塩、セバシン酸塩、スベリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、スルホン酸塩、酒石酸塩、キシレンスルホン酸塩等を含む。(S,S)レボキセチンの好ましい医薬上許容される塩はメタンスルホン酸塩(すなわち、メシル酸塩)であり、それはメタンスルホン酸を用いて調製される。
【0038】
レボキセチンに関する「副作用」、「不都合な作用」および「不都合な副作用」なる句は、限定されないが、眩暈、不眠症、めまい、血圧変動、胃腸障害、男性の性的不全、錐体外路副作用、ある種の抗コリン様効果(例えば、頻脈、かすみ目)、および薬物−薬物相互作用に関連する所望しない副作用を含む。
【0039】
本明細書で用いるとき、「治療する(treat)」、「治療(treatment)」、および「治療している(treating)」なる語は:(a)疾患、障害または状態を、該疾患、障害および/または状態に罹り易いが、まだそれに罹っていると診断されていないヒトにおいて発生することを予防し;(b)該疾患、障害または状態を阻害し、すなわち、その展開を停止させ;および(c)該疾患、障害、または状態を軽減させ、すなわち、該疾患、障害および/または状態の後退を引き起こすことをいう。換言すれば、「治療する」、「治療」、および「治療している」なる語は、予防的処置(prophylaxis)、言い換えれば「予防(prevent)」、「予防(prevention)」、および「予防している(preventing)」なる語、ならびに既成状態の治療にまで拡張する。したがって、「予防する」、「予防」および「予防している」なる語の使用は、該医薬組成物を、例えば、偏頭痛のごとき上記の状態に過去に罹ったことがあるが、該組成物を投与する時点では罹っていないヒトへ投与することである。簡略化のため、以下で用いる「状態」なる語は、状態、疾患および障害を包含する。
【0040】
本発明の方法および組成物は、ノルエピネフリンの再取込みの阻害が利益を与えるヒト状態を治療するのに有用である、該方法は、充分量の本発明の組成物を投与して、および、好ましくは経口投与して、総用量が約0.1ないし約10mg/日の該選択的化合物を個人に供給するステップを含む。
より詳しくは、本発明の組成物の投与は、限定されないが、(アルコール、ニコチン、および他の精神作用物質によるものを含む)中毒障害および引きこもり症候群、(抑うつ気分、不安、不安と抑うつ気分との混合、行為の混乱、行為と気分との混合した混乱)を含む)適応障害、(アルツハイマー病を含む)加齢に関連する学習および精神障害、神経性食欲不振、感情鈍麻、全般的な医学的状態による注意欠陥(もしくは他の認識)障害、注意欠陥多動障害(ADHD)、双極性障害、神経性過食症、慢性疲労症候群、慢性もしくは急性ストレス、慢性疼痛、行為障害、気分循環性障害、(青年期うつ病および年少者うつ病を含む)うつ病、気分変調障害、(身体化障害、転換性障害、疼痛障害、心気症、身体醜形障害、分類不能の身体性表現性障害、および特定不能の身体性表現性障害NOSを含む)線維筋痛症および他の身体性表現性障害、全身性不安障害(GAD)、失禁(すなわち、緊張性失禁、真性緊張性失禁、および混合失禁)、吸入障害、中毒障害(すなわち、アルコール中毒)、そう病、偏頭痛、肥満(すなわち、肥満もしくは太りすぎの患者の体重を低減する)、強迫性障害および関連する広範囲な障害、反抗挑戦性障害、恐慌性障害、末梢性神経障害、心的外傷後ストレス障害、月経前不快症候群(すなわち、月経前症候群および後期黄体期不快障害)、(精神分裂病、情動分裂型および精神分裂病型障害を含む)精神病性障害、季節性情動障害、(ナルコレプシーおよび夜尿症のごとき)睡眠障害、(社会不安障害を含む)社会恐怖、特異的発育障害、選択的セロトニン再取込み阻害(SSRI)「プープアウト(poop out)」症候群(すなわち、SSRI療法に対する満足反応を満足反応の初期後に維持することができない患者における)、およびTIC障害(例えば、トレッツ病)を含むさまざまなヒト状態を治療するのに有用である。
【0041】
本発明の組成物の投与は、中毒障害および引きこもり症候群、適応障害、感情鈍麻、注意欠陥多動障害、医学的状態による注意欠陥障害、神経性過食症、慢性疲労症候群、慢性もしくは急性ストレス、うつ病、気分変調障害、全身性不安障害(GAD)、ニコチン中毒、恐慌性障害、心的外傷後ストレス障害、月経前不快症候群、情動分裂型障害、およびSSRI「プープアウト」症候群の治療に非常に有効である。さらに、(S,S)レボキセチンの投与は、中毒障害および引きこもり症候群、感情鈍麻、注意欠陥多動障害、医学的状態による注意欠陥障害、慢性疲労症候群、慢性もしくは急性ストレス、うつ病、ニコチン中毒、肥満、心的外傷後ストレス障害、およびSSRI「プープアウト」症候群の治療または予防に特に有効である。
【0042】
本明細書の「ニコチン中毒」の治療への言及は、禁煙の治療も含む。上記のヒト状態の多くは、一般に、the American Psychiatric Associationによって、["Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders," 4th ed, rev. (Washington D.C. 1994)]と題されたそれらの刊行物に記載され、その開示は出典明示して本明細書の一部とみなされる。中毒および吸入、およびニコチン中毒に関する障害を含む中毒障害の概略的な記載は、["The American Psychiatric Press Textbook of Psychiatry," 3d. ed. (1999)]のごとき、多くの標準的参考文献に見出すことができ、その開示は出典明示して本明細書の一部とみなされる。
【0043】
本発明の組成物を用いて偏頭痛も治療し得る。さらに、本発明の組成物は、偏頭痛患者または偏頭痛に罹患しているヒトにおいて頭痛を治療し得、それは、存在する頭痛の症状の治療、頭痛の発症、強度、および持続時間を予防するための治療、それらの医薬の必要用量(および副作用)を低減させるための頓挫性医薬の有効性を容易にする補助薬として、または(頓挫性医薬を含む)他の医薬と共投与して用いて、偏頭痛の発症、または持続時間を予防するかまたは低減させるための予防処置的使用を含む。
【0044】
本発明の組成物の好ましい具体例は、(S,S)レボキセチンを含む。商業的に入手可能なレボキセチンは2−[(2−エトキシフェノキシ)(フェニル)メチル]モルホリンの(R,R)および(S,S)鏡像異性体のラセミ混合物であることは知られている。該(S,S)立体異性体は、ノルエピネフリンの再取込みを阻害することに関して、最も活性で、最も選択的な立体異性体であることが今や発見された。さらに、個人に投与したとき、本明細書に記載の用量において、光学的に純粋な物質として(すなわち、その(R,R)ジアステレオマーの実質的な不存在下において)、該個人は商業的に入手可能なレボキセチンの投与に関連する多くの不都合な副作用を体験しない。さらに、該(S,S)および(R,R)鏡像異性体は、該セロトニン神経伝達物質と比較して、該ノルエピネフリン神経伝達物質について逆の選択性を有し、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンはノルエピネフリンの再取込みを阻害することにおいて、該(R,R)鏡像異性体または該(S,S)および(R,R)鏡像異性体のラセミ混合物のいずれよりも顕著により有効であることがさらに発見された。
【0045】
詳しくは、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンを含有する組成物は、ノルエピネフリンの再取込みを阻害することにおいて、該(R,R)および(S,S)立体異性体のラセミ混合物を含有する組成物と比較して、約5ないし約8.5倍より有効である。したがって、該ラセミ混合物(すなわち、商業的に入手可能なレボキセチン)の典型的な日用量は、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンを用いるとき、約50%ないし約80%減少させ得る。用量の減少は効力の低下をもたらさないが、種々の不都合な副作用の低減または排除が観察された。
【0046】
特に、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンは、セロトニン再取込みと比較して、ノルエピネフリン再取込みを選択的に阻害するので、セロトニン再取込みに関連する不都合な副作用は低減または排除される。そのような不都合な副作用は、限定されないが、胃腸障害、不安、性的不全、および薬物−薬物相互作用に関連する所望しない副作用を含む。
【0047】
レボキセチンのラセミ混合物の合成は、[Melloni et al., 米国特許第4,229,449号]に開示されている。レボキセチンの個々の立体異性体は、当業者に一般に知られている常法を用いて、鏡像異性体のラセミ混合物を分割することによって得ることが可能である。そのような方法は、限定されないが、例えば、GB2,17,407に記載された単純な結晶化およびクロマトグラフィー技術による分割を含む。
【0048】
高選択的ノルエピネフリン再取込み阻害剤を全く調剤せずに直接投与することは可能であるが、好ましくは、組成物は該選択的ノルエピネフリン再取込み阻害剤を含む調合医薬の形態で投与する。本発明の組成物は、錠剤、カプセル剤、丸剤、粉剤、または顆粒剤のごとき経口単位用量で投与し得る。本発明の組成物は、医薬分野で知られている形態を用いて、非経口(例えば、皮下、静脈内、または筋肉内)でも導入し得る。本発明の組成物は、さらに、坐剤または坐薬のごとき形態で、経直腸または経膣投与し得る。本発明の組成物は、有効成分を含有する「パッチ」を用いるごとく、局所的または経皮投与もし得る。経皮デリバリーパッチを用いて、制御された量で本発明の組成物の連続的、拍動的または要求次第での注入を与え得る。経皮デリバリーパッチの構築および使用は医薬分野でよく知られており、例えば、米国特許第3,742,951、3,742,951、3,797,494、3,996,934、4,031,894、および5,023,252号に記載されている。
【0049】
該選択的ノルエピネフリン再取込み阻害剤を含有する本発明の組成物すなわち医薬組成物を脳に、直接的かもしくは間接的かのいずれかで導入することが所望されまたは必要であろう。直接技術は、通常、血管脳関門をバイパスするために適当な薬物デリバリーカテーテルを心室系に入れることに関係する。生物学的8因子を体の特定の解剖学的領域に輸送するために用いられる一つのそのようなデリバリーシステムは、米国特許第5,011,472号に記載され、その開示は出典明示して本明細書の一部とみなされる。
【0050】
一般に、本発明の組成物を投与する好ましい経路は、1回または2回の日投与での経口である。本発明の組成物で患者を治療するための投薬計画および量は、例えば、該患者のタイプ、年齢、体重、性別、および医学的状態、該状態の重篤度、該投与経路および用いる特定の化合物、ラセミ化合物もしくは純粋鏡像異性体のいずれか、を含む様々な因子に応じて選択される。通常の技術を持つ内科医または精神科医は、該状態の進行を防ぐまたは止めるための有効な(すなわち治療的な)量の化合物を容易に決定し、処方し得る。そのような処置において、該内科医または精神科医は、始めは比較的低い用量を用い、その後、最大反応が得られるまで用量を増加させる得るであろう。
【0051】
経口投与に適した医薬組成物は、カシェ剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、またはエアロスプレイのごとき簡便な形態のいずれかであり得、それぞれ、粉剤もしくは顆粒剤として、または水性液体、非水性液体、水中油型乳剤、または油中水型液体乳剤中の溶液もしくは懸濁液のいずれかとして、所望量の有効成分を含有する。そのような組成物は、担体との密接な会合のいずれかに該有効成分を運ぶステップを含むいずれの方法によっても調製し得、それは1以上の必要なまたは所望される成分を構築する。一般に、該組成物は、該有効成分を液状担体または微細に粉砕された固体担体または両方と均一もしくは密接に混合し、次いで、必要であれば、該製品を所望の形態に成型することによって調製し得る。
【0052】
例えば、錠剤は、所望により、1以上の補助成分を用いて、圧縮または成型技術により調製し得る。圧縮錠剤は、適当な機械で該有効成分を粉体もしくは顆粒のごとき自由流動形態に圧縮することにより調製し得る。したがって、所望により、該圧縮、自由流動形態は結合剤、希釈剤、滑沢剤、崩壊剤、発泡剤、色素、甘味剤、湿潤剤および、典型的に医薬組成物に存在する非毒性かつ薬理学上不活性な物質と混合し得る。成型錠剤は、適当な機械で、不活性な液体希釈剤で湿潤させた粉状化合物を成型することによって作製し得る。
当該医薬製剤に使用する適当な結合剤は、例えば、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース、アラビアゴム、トラガカント、およびポリビニルピロリドンを含む。該医薬製剤に使用する適当な希釈剤は、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、およびセルロースを含む。該医薬製剤に使用する適当な滑沢剤は、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸のマグネシウムもしくはカルシウム塩、およびまたはポリチレングリコールを含む。該医薬製剤に使用する適当な崩壊剤は、例えば、デンプン、アルギン酸、およびアルギン酸塩を含む。該医薬製剤に使用する適当な湿潤剤は、例えば、レシチン、ポリソルビン酸塩、およびラルリル硫酸を含む。一般に、当業者に知られているいずれの発泡剤、色素、および/または甘味剤も医薬組成物の調剤に用い得る。
【0053】
望ましくは、該組成物の日用量(例えば、錠剤、カシェ剤またはカプセル剤)は約0.1ないし約10mgの光学的に純粋な(S,S)レボキセチンを含有し、実質的にその(R,R)立体異性体を含まない。より好ましくは、該組成物の各用量は、約0.5ないし約8mgの有効成分、光学的純粋な(S,S)レボキセチンを含有し、実質的にその(R,R)立体異性体を含まない。しかしながら、一層より好ましくは、各用量は、約0.5ないし約5mgの光学純粋な(S,S)レボキセチンのごとき有効成分を含有し、実質的にその(R,R)立体異性体を含まない。この用量形態は、1回もしくは2回の経口用量で、投与すべき約0.5ないし約2.5mgの完全日用量を可能にする。これは、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5mgの光学的に純粋な(S,S)レボキセチンを含有する錠剤を許容するであろう。
【0054】
もうひとつの具体例において、該組成物(例えば、錠剤、カシェ剤、またはカプセル剤)の好ましい日用量は、約0.1ないし約0.9mgの光学的に純粋な(S,S)レボキセチンを含有し、実質的にその(R,R)立体異性体を含まない。より好ましくは、該組成物の各用量は、約0.5ないし0.8mgの該有効成分である光学純粋(S,S)レボキセンを含有し、実質的にその(R,R)立体異性体を含まない。しかしながら、一層より好ましくは、各用量は、約0.5ないし約0.75mgの有効成分である光学純粋な(S,S)レボキセチンを含有し、実質的にその(R,R)立体異性体を含まない。この用量形態は、1回の経口用量で、投与すべき約0.5ないし約0.9mgの完全日用量を可能にする。
【0055】
うつ病、ニコチン中毒、行為障害、反抗挑戦性障害、および/または注意欠陥多動障害に罹患している患者は、これらまたは他の共罹患状態にもかかわらず、本発明の組成物、および、特に、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンを含有するものの投与から利益を得る。一般に、これらの障害の診断基準は、the American Psychiatric Associationにより供され、それらの["Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders," 4th ed. rev. (Washington D.C. 1994)]、および国際公開WO99/15177、WO99/15176、およびWO99/15163に公開され、それらの開示は出典明示して本明細書の一部とみなされる。
【0056】
さらに、中毒障害および引きこもり症候群、適応障害、感情鈍麻、注意欠陥多動障害、医学的状態による注意欠陥障害、神経性過食症、慢性疲労症候群、慢性もしくは急性ストレス、うつ病、気分変調障害、全身性不安症候群(GAD)、ニコチン中毒、恐慌性障害、心的外傷後ストレス障害、月経前不快症候群、情動分裂型障害、およびSSRI「プープアウト」症候群に罹患した患者は、本発明の組成物、特に、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンを含有するものの投与から利益を得る。
【0057】
これらの障害は、子供、青年および成人において同様のパターンを示す。それ故、本発明の方法は、子供、青年および成人患者の治療に有効である。本発明の目的として、子供は、思春期の年齢未満の人とみなされ、青年は思春期から約18歳までの間の人であるとみなされ、成人は、一般に、少なくとも約18歳の人である。前記したごとく、各患者にとっての最適日用量は、各患者のサイズ、該患者が摂取している他の医薬、該障害の同一性および重篤度、および該患者のその他全ての環境を考慮して治療医により決定されるべきである。
【0058】
上記したごとく、レボキセチンは抗うつ剤として作用する。しかしながら、レボキセチンは、多くの抗うつ剤のようには作用しない。三環式抗うつ剤、および選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)さえとも異なり、レボキセチンは8−OH−DPAT試験において有効ではなく、レボキセチンは選択的セロトニン再取込み阻害剤ではないことを示している。レボキセチンはSSRIではないが、新規な選択的ノルアドレナリン再取込み阻害剤(NRI)である[B. Leonard, "Noradrenaline in basic models of depression." European-Neuropsychopharmacol, 7 Suppl. 1 pp. S11-6 and S71-3 (Apr. 1997)]。ほとんどの前の世代の薬物と異なり、レボキセチンは、単に最低限のセロトニン再取込み阻害活性しか持たず、ドーパミン再取込み阻害活性を持たない高選択的ノルエピネフリン再取込み阻害剤である。レボキセチンは様々な動物モデルにおいては抗コリン作動性結合活性を示さず、モノアミンオキシダーゼ(MAO)阻害活性を欠如する。
【0059】
レボキセチンは、高効力、薬理学上特異的、および速効性剤でもある。調査は、レボキセチンは強力な抗レセルピン活性を有し、ムスカリン作動性、コリン作動性、ヒスタミン作動性、α−アドレナリン作動性受容体にていかなる認知可能な遮断作用も示すことなく、ノルアドレナリンの再取込みに対する典型的な三環式抗うつ剤の阻害特性とβ−アドレナリン作動性受容体機能を不感受性にする能力とを合わせることを示した。しかも、レボキセチンは三環式抗うつ剤よりも少ない迷走神経抑制活性しか示さず、心臓毒性の証拠はなにも示さない。
【0060】
したがって、本発明のもう一つの具体例において、ラセミレボキセチンを用いて多数の精神的および神経学的障害を治療するか、または予防し得る。詳しくは、レボキセチンは、既知薬物による治療よりもより強い効力およびより少ない副作用で、様々な精神症状または障害の治療、または治療もしくは予防を促進させるのに特別に有用であることが分った。さらに、レボキセチンを用いて、他の精神症状または状態を治療するか、または治療もしくは予防を促進させることができる。
【0061】
治療上有効量のラセミレボキセチン(またはその誘導体もしくは医薬上許容される塩)の投与により治療または予防することができる精神的または神経学的障害は、限定されないが、(抑うつ気分、不安、不安と抑うつ気分との混合、行為の混乱、行為と気分との混合した混乱)を含む適応障害、(アルツハイマー病を含む)加齢に関連する学習および精神障害、神経性食欲不振、感情鈍麻、全般的な医学的状態による注意欠陥(もしくは他の認識)障害、注意欠陥多動障害(ADHD)、双極性障害、神経性過食症、慢性疲労症候群、慢性もしくは急性ストレス、慢性疼痛、気分循環性障害、気分変調障害、(身体化障害、転換性障害、疼痛障害、心気症、身体醜形障害、分類不能の身体性表現性障害、および特定不能の身体性表現性障害NOSを含む)線維筋痛症および他の身体性表現性障害、失禁(すなわち、緊張性失禁、真性緊張性失禁、および混合失禁)、そう病、偏頭痛、肥満(すなわち、肥満もしくは太りすぎの患者の体重を低減する)、末梢性神経障害、心的外傷後ストレス障害、月経前不快症候群(すなわち、月経前症候群および後期黄体期不快障害)、(精神分裂病、情動分裂型および精神分裂病型障害を含む)精神病性障害、季節性情動障害、(ナルコレプシーおよび夜尿症のごとき)睡眠障害、特異的発育障害、選択的セロトニン再取込み阻害(SSRI)「プープアウト(poop out)」症候群およびTIC障害(例えば、トレッツ病)を含む。
【0062】
(S,S)レボキセチンと同様に、ラセミレボキセチンを用いて偏頭痛に罹患したヒトを治療、特に、頻度、持続時間、強度、およびまたは偏頭痛に起因する合併症を低減させることもし得る。さらに、ラセミレボキセチンを用いて偏頭痛を予防し得る。
ラセミレボキセチンを用いて、失禁(すなわち、緊張性失禁、真性緊張性失禁、および混合失禁)を治療し得る。緊張性尿失禁は、咳やくしゃみのごとき腹圧を上昇させるいずれかの活動を行う際の不随意な尿排出を描写する症状である。緊張性失禁は臨床徴候でもあり、それは当該患者がせき込むか緊張したときに、尿路(開口)からの尿排出の流れの介護者による観察である。真性緊張性失禁は、尿動態(Urodynamic) 試験により診断される不完全な尿路括約筋の発生病理診断である。混合失禁は切迫失禁と組み合わさった緊張性失禁である、後者はオベラティブ膀胱(Overative Bladder)の症状複合の一部である。停留は、流出障害物(例えば、高尿路圧)、弱い排尿筋(膀胱筋)収縮性、または排尿筋収縮と尿路弛緩との間の協同の欠如によるものであろう。
【0063】
リボキセチンのラセミ形態は非常に耐性があり、広い安全範囲を有する。ラセミレボキセチンは、患者あたり一日あたり約2ないし約20ミリグラム、好ましくは約4ないし約10mg/日、および、より好ましくは約6ないし約10mg/日の範囲の量にて、個人に投与し得る。製剤および個人の障害に依存して、総日用量は一日2回までの少量で投与し得る。典型的に、レボキセチンは、例えば、錠剤の形態で、経口投与するが、非経口、経皮、経直腸、または経膣で投与し得る。
レセミレボキセチンを投与する好ましい方法は、一日に1回もしくは2回の経口服用である。それは、約2、4、6、8、10または12mg/日またはそれらの分割の用量にても服用し得る。例えば、適当な服用は、午前に約4mg、および午後または夕方に約2または約4mgであり得る。何人かの患者において、理想的な服用は、午前に約3ないし約5mg、および午後に約3ないし約5mgであろう。熟練した内科医または精神科医は正確なレベルの服用を決定し得る。理想的な服用は臨床的試行の評価および特別な患者の必要性により規定的に決定する。
【0064】
本発明によれば、ラセミレボキセチンも遊離塩基または医薬上許容されるその塩として投与し得る。「医薬上許容される塩」または「医薬上許容されるその塩」なる句は、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンの塩に関して上記した医薬上許容される酸または塩基から調製された塩をいう。レボキセチンの好ましい医薬上の塩はメタンスルホン酸塩(すなわち、メシル酸塩)であり、それはメタンスルホン酸を用いて調製する。
上記障害の治療または予防は、その疾患または障害の症状に低減をもたらすやり方および形態におけるレボキセチンの投与に関わる。典型的に、子供、青年および成人により示される症状は互いに似ている。それ故、上記したごとく、本発明の方法は子供、青年および成人患者の治療に有効である。
【実施例】
【0065】
この実施例は、本発明による組成物の優れた薬理学的選択性および効力を論証する。より詳しくは、この実施例は(S,S)レボキセチンの優れた薬理学的選択性および効力を、その(R,R)立体異性体およびラセミレボキセチンと比較して論証する。
【0066】
約250ないし約300グラムのスプラーギュ−ドーリーラットの首を切り、即座に大脳皮質を取り出した。大脳皮質は、回転乳棒を用いて、各々0.32モラー(M)のスクロースを含有する9体積の培地に均質化した。得られたホモジネートを約1000×gにて約10分間、約4℃にて遠心した。上清を収集し、約20,000×gにて約20分間、約4℃の温度にて、さらに遠心した。遠心ステップから得られたタンパク質ペレットをクレブス−Hepesバッファーに再懸濁させて、約2mg/mlのタンパク質濃度のバッファーにした。該バッファーは約7.0のpHに維持し:20mM Hepes;4.16mM NaHCO3;0.44mM KH2PO4;0.63mM NaH2PO4;127mM NaCl;5.36mM KCl;1.26mM CaCl2;および0.98mM MgCl2を含有させた。
【0067】
タンパク質/バッファー懸濁液を166本のアッセイチューブに入れて約30μg(10-6グラム)ないし約150μgのタンパク質が166本のアッセイチューブ(すなわち、トランスポータアッセイあたり80のアッセイ)に添加されるようにした。セロトニンおよびノルエピネフリン再取込み部位への結合は以下のように決定した。3H−ノルエピネフリンのシナプトソームの再取込みは以下のように決定した。約1.4ナノモラーの[3H]シタロプラムおよび約1.9nMの[3H]ニソキセチンを用いて、それぞれ、セロトニンおよびノルエピネフリン再取込み部位を標識した。非特異的結合は、(セロトニンに対して)100ミクロモラー(μM)のフルオキセチンおよび(ノルエピネフリンに対して)10μMのデシプラミンにより規定した。約500ミクロリッター(μl)の全アッセイ体積のインキュベーションを(セロトニンに対して)約60分間および(ノルエピネフリンに対して)120分間行った。両方のインキュベーションを約25℃にて行い、3×5mlの氷冷200mM トリス−HCl、pH7.0中でGFBフィルター(約4時間の約0.5PEIへの予備浸漬)を通過させる48ウェル細胞ハーベスターでの急速濾過によって終了させた。パンチアウトフィルターを7mlバイアルに入れ、液体シンチレーション計数により放射能アッセイした。
【0068】
レボキセチン(すなわち、(R,R)および(S,S)レボキセチンのラセミ混合物)、(R,R)レボキセチンおよび(S,S)レボキセチンのノルエピネフリンおよびセロトニン再取込み部位へ結合する能力は、2つの放射性リガンド、[3H]シタロプラムおよび[3H]ニソキセチンを用いた結合アッセイにおいて評価した。該2つの再取込み部位にて特異的結合の50%を阻害するのに必要な試験化合物の濃度(IC50値)を非線形最小自乗回帰解析により決定した。IC50値のKi値への変換は下に示すCheng-Prassoff式を用いて行った。
【0069】
【数1】

【0070】
[式中、[L]はnMを用いる放射性リガンドの濃度、およびKdはnMでのLの結合親和性である。][Y.C. Cheng and W.H. Prusoff, "Relationship Between the Inhibitory Constant (Ki) and the Concentration of Inhibitor Which Causes 50% Inhibition (IC50) of an Enzymatic Reaction," Biochemical Pharmacology, vol. 22, pp. 3099-3108 (1973)]を参照せよ。
Cheng-Prassoff式に準じて算出されたKi値を以下の表に示す:
【0071】
【表1】

【0072】
データは(S,S)レボキセチンは、ノルエピネフリンの再取込みを阻害することにおいて、レボキセチンラセミ体よりも約5ないし8倍より効力があることを示す。さらに、ラセミレボキセチンは、セロトニン再取込み阻害に対してノルエピネフリン再取込み阻害に偏って81倍の選択性を有する。予期せぬことに、ノルエピネフリンおよびセロトニンの再取り込みを阻害することに関して、該(S,S)および(R,R)レボキセチン立体異性体の鏡像異性的選択性は全く異なる。該(S,S)鏡像異性体はセロトニンの再取り込みを阻害することにおいて非常に劣り(すなわち、高いKi)、したがって、該ノルエピネフリンの再取り込み部位について驚くべき程高い選択性を有する。特に、セロトニン対ノルエピネフリンの選択性は、(ラセミ体に対する)81から光学的に純粋な(S,S)レボキセチンに対する12,770まで増大する。したがって、治療用量の(S,S)レボキセチンの投与は、効果的にノルエピネフリンの再取込みを阻害するが、セロトニン再取込みは本質的に影響されない。同様に、ノルエピネフリン再取込み部位と他の受容体との作用の間での分離にさらなる増加がある。結果として、セロトニン再取込みの阻害および他の受容体にてのブロックに関連する不都合な副作用は明らかにされていない。
【0073】
驚くべきことに、この効果は(R,R)レボキセチンでは観察されないが、それどころか全くである。(R,R)レボキセチンは、ノルエピネフリン再取込みに関して、(S,S)レボキセチンよりも弱い阻害剤である。すなわち、(R,R)レボキセチンに対する親和性(Ki)は7nMであり、一方、(S,S)レボキセチンのKiは0.23nMである。さらに、(R,R)レボキセチンは、セロトニン再取込みを阻害することにおいて、(S,S)レボキセチンよりも非常に効果的である。すなわち、(R,R)レボキセチンのKiは104nMであり、一方、(S,S)レボキセチンのKiは2973nMである。したがって、(R,R)レボキセチンはノルエピネフリン再取込み阻害対セロトニン再取込み阻害について低い選択性を有する。
【0074】
ラセミレボキセチンおよび(R,R)レボキセチンの両方を超える(S,S)鏡像異性体の驚くべき程高い効力は、治療医にノルエピネフリン再取り込み阻害剤、すなわち(S,S)レボキセチンの有効用量を処方する能力を与え、それは、該ノルエピネフリン部位にて同一の再取込み阻害を達成するためのレボキセチン(ラセミ化合物)の現行の日用量の約10%ないし約20%である。さらに、光学的に純粋な(S,S)レボキセチンの驚くべき程高い阻害選択性は本質的にノルエピネフリン再取込みに対する阻害を制限し、それによって、セロトニン再取込み部位にての阻害および他の受容体にてのブロックに関連する不都合な副作用を低減する
【0075】
上記の説明は単に理解を明確にするためのものであり、それらから、不必要な限定はないものと理解すべきであり、本発明の範疇にある修飾は当業者に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(アルコール、ニコチン、および他の精神作用物質によるものを含む)中毒障害および引きこもり症候群、(抑うつ気分、不安、不安と抑うつ気分との混合、行為の混乱、行為と気分との混合した混乱を含む)適応障害、(アルツハイマー病を含む)加齢に関連する学習および精神障害、神経性食欲不振、感情鈍麻、全般的な医学的状態による注意欠陥(もしくは他の認識)障害、注意欠陥多動障害(ADHD)、双極性障害、神経性過食症、慢性もしくは急性ストレス、行為障害、気分循環性障害、(青年期うつ病および年少者うつ病を含む)うつ病、気分変調障害、全身性不安障害(GAD)、吸入障害、中毒障害(すなわち、アルコール中毒)、そう病、肥満(すなわち、肥満もしくは太りすぎの患者の体重を低減する)、強迫性障害および関連する広範囲な障害、反抗挑戦性障害、恐慌性障害、心的外傷後ストレス障害、月経前不快症候群(すなわち、月経前症候群および後期黄体期不快障害)、(精神分裂病、情動分裂型および精神分裂病型障害を含む)精神病性障害、季節性情動障害、(ナルコレプシーおよび夜尿症のごとき)睡眠障害、(社会不安障害を含む)社会恐怖、特異的発育障害、選択的セロトニン再取込み阻害(SSRI)「プープアウト(poop out)」症候群(すなわち、SSRI療法に対する満足反応を満足反応の初期後に維持することができない患者における)、およびTIC障害(例えば、トレッツ病)よりなる群から選択される少なくとも1の神経系障害の治療または予防に用いられる、ノルエピネフリンの再取り込みを選択的に阻害する医薬組成物であって、該組成物は少なくとも5000のセロトニン(Ki)/ノルエピネフリン(Ki)の薬理学的選択性を有する化合物を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
組成物を経口、局所的、非経口、経皮、経直腸、または経膣投与することを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
組成物が経口投与用であって、さらに、結合剤、希釈剤、滑沢剤、崩壊剤、発泡剤、色素、甘味剤、湿潤剤、およびそれらの混合物よりなる群から選択される医薬上許容される担体を含むことを特徴とする請求項2記載の組成物。
【請求項4】
経口投与がカシェ剤、カプセル剤、錠剤またはエアロゾルスプレイによることを特徴とする請求項3記載の組成物。
【請求項5】
組成物が皮下、静脈内、または筋肉内非経口投与用に用いられることを特徴とする請求項2記載の組成物。

【公開番号】特開2006−143749(P2006−143749A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45459(P2006−45459)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【分割の表示】特願2001−507467(P2001−507467)の分割
【原出願日】平成12年6月22日(2000.6.22)
【出願人】(504396379)ファルマシア・アンド・アップジョン・カンパニー・エルエルシー (130)
【Fターム(参考)】